(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-25251(P2018-25251A)
(43)【公開日】2018年2月15日
(54)【発明の名称】ガスホルダ用シール材
(51)【国際特許分類】
F16J 3/04 20060101AFI20180119BHJP
F17B 1/26 20060101ALI20180119BHJP
【FI】
F16J3/04 B
F17B1/26
F16J3/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-157907(P2016-157907)
(22)【出願日】2016年8月10日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】藍原 寿明
(72)【発明者】
【氏名】松野 利幸
【テーマコード(参考)】
3J045
【Fターム(参考)】
3J045AA04
3J045AA08
3J045AA14
3J045BA01
3J045BA02
3J045BA03
3J045CB30
3J045DA05
3J045DA10
3J045EA02
(57)【要約】
【課題】利点の多い合成樹脂皮膜が施されたゴムシートの大型のものを作製できるようにして、材料の主成分として、膨張・収縮の変形性に優れるゴムを用いながらも、耐薬品性や耐油性に優れるものとして、より耐久性に優れるガスホルダ用シール材を提供する。
【解決手段】ガスホルダHとしてのタンク20とタンク20内に昇降可能に配備される可動蓋21との間に配備されて、可動蓋21の外周面21Aに支持される内周部24A、及び可動蓋21外周とタンク20内周に跨って形成される折返し部24Bを経てタンク20の内周面20Aに支持される外周部24Cを有するガスホルダ用シール材は、ゴム層2とこれに重ねられた合成樹脂層3とでなる単位ゴムシート1の複数が、単位ゴムシート1それぞれの端部どうしを接合してなる接続部Aにより一体化されてなる合成樹脂皮膜ゴムシートSを用いて、所定の折返しシール形状とされることで構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスホルダとしてのタンクと前記タンク内に昇降可能に配備される可動蓋との間に配備されて、前記可動蓋の外周面に支持される内周部、及び前記可動蓋外周とタンク内周に跨って形成される折返し部を経て前記タンクの内周面に支持される外周部を有するガスホルダ用シール材であって、
ゴム層と前記ゴム層に重ねられた合成樹脂層とでなる単位ゴムシートと、前記単位ゴムシートの端部どうしを接合一体化してなる接続部とを有する合成樹脂皮膜ゴムシートにより、所定の折返しシール形状に形成されているガスホルダ用シール材。
【請求項2】
前記接続部は、
一方の前記単位ゴムシートの端部を前記ゴム層が内側となる方向に折り畳んだ形状とされている折り返し部と、
他方の前記単位ゴムシートの端部を、これの合成樹脂層が前記折り返し部の合成樹脂層に沿うようにクランク状に折り曲げた形状とされているカバー部と、
前記折り返し部と前記カバー部とがそれぞれの合成樹脂層どうしが当接する状態に重ね合わされている重ね部に外接される覆いゴムシートとを備えるとともに、
前記重ね部と前記覆いゴムシートとの接着によりなる一体化部、及び、前記折り返し部の合成樹脂層と前記カバー部の合成樹脂層との貼着によりなる貼着部が構成されている請求項1に記載のガスホルダ用シール材。
【請求項3】
前記ゴム層がゴム引布により形成されている請求項2に記載のガスホルダ用シール材。
【請求項4】
前記折り返し部は、接着ゴムを挟んで折り畳んだ状態に構成されている請求項2又は3に記載のガスホルダ用シール材。
【請求項5】
前記一方及び他方の各合成樹脂皮膜ゴムシートの端部における前記合成樹脂層どうしに跨る合成樹脂フィルムが設けられ、一方の合成樹脂層及び他方の合成樹脂層のそれぞれと前記合成樹脂フィルムとの貼着によりなる第2貼着部が構成されている請求項1〜4の何れか一項に記載のガスホルダ用シール材。
【請求項6】
前記覆いゴムシートは、覆い内側の接着ゴム層と、覆い外側のゴム引布とが重ねられて一体化された2層構造のものに構成されている請求項2〜5の何れか一項に記載のガスホルダ用シール材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガスホルダ用シール材に係り、詳しくは、ガスホルダとしてのタンクとタンク内に昇降可能に配備される可動蓋との間に配備されて、可動蓋の外周面に支持される内周部及び可動蓋外周の折返し部を経てタンクの内周面に支持される外周部を有するガスホルダ用シール材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスホルダは、ドーナツ状の平面視形状を有し、かつ、折返し部を持つローリングダイヤフラム形状のシール膜(シール材)を使用して低圧でガス(高炉、転炉、或いは下水処理場から出るガスなど)をタンク内に貯留するものである。
水、グリース、潤滑油などの液体を用いないガスホルダを、乾式ガスホルダと呼ぶ。乾式のガスホルダは、他の種類のガスホルダでは貯留不可な水溶性のガスや、汚染ガスを貯留する場合、又はガス圧を一定に保持する必要がある場合などに利点がある。基本的にメンテナンスフリーであり、維持管理費を抑制できる点も好ましい。
【0003】
従来、ガスホルダは、円筒状に形成されたタンクの側壁の内周面とピストンの周縁部との間に可撓性のシール膜(シール材)を取付けてピストンを浮沈可能に構成し、シール膜とピストンとにより区画形成された内部空間にガスを貯蔵する構造となっている。乾式ガスホルダには屋根が装備されている。このようなガスホルダは、例えば、特許文献1に示されたものが知られている。
【0004】
ガスホルダは、一般的に直径が10〜60m程度で、高さが10〜50m程度の大なるタンクからなる構造物であり、シール膜は、幅が2〜10m程度で、周長が20〜200m程度の巨大な環状の可撓性膜体に構成される。
また、シール膜には、温度変化などによる大きさの変化や、上下移動に伴う変形など、膨張・伸縮に柔軟に対応できることが求められるとともに、水溶性のガス、汚染ガス、毒性のあるガスなどにも侵されない耐薬品性や耐油性、耐水性も求められる。
【0005】
特許文献1によるガスホルダにおいては、プラストマー(プラスチックのように可塑性をもつ高分子化合物)によりシール膜を形成している。プラストマーの採用により、芳香族化合物を含むガスに好適、との記載はあるが、ローリング変形に対する柔軟性の点では一考の余地がある。
【0006】
また、特許文献2において開示された合わせガラス製造用加熱・加圧バッグのように、耐薬品性に優れるPTFEやETFEなどのフッ素樹脂皮膜付のゴムシートを用いることが考えられる。フッ素樹脂皮膜付のゴムシートによりシール膜を構成すれば、膨張・収縮に対する必要十分な柔軟性を有しながら、耐薬品性や耐油性、耐水性も備えており、これからのシール材料としてうってつけである。
【0007】
その場合、フッ素樹脂などの合成樹脂層を有するゴムシートにより、ガスホルダ用シール材などの大型の構造物として用いるには、複数或いは多数のゴムシートを接合一体化して大きな一枚もののゴムシートを形成する必要がある。
しかしながら、合成樹脂層を持つゴムシートを流体漏れのない封止状態(密封状態)で、かつ、強度十分に接合することは難しく、実現に至っていないのが実状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−103591号公報
【特許文献2】特開2005−219947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、利点の多い合成樹脂皮膜が施されたゴムシートの大型のものを作製できるようにして、材料の主成分として、膨張・収縮の変形性に優れるゴムを用いながらも、耐薬品性や耐油性に優れるものとして、より耐久性に優れるガスホルダ用シール材を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、ガスホルダHとしてのタンク20と前記タンク20内に昇降可能に配備される可動蓋21との間に配備されて、前記可動蓋21の外周面21Aに支持される内周部24A、及び前記可動蓋21外周とタンク20内周に跨って形成される折返し部24Bを経て前記タンク20の内周面20Aに支持される外周部24Cを有するガスホルダ用シール材において、
ゴム層2と前記ゴム層2に重ねられた合成樹脂層3とでなる単位ゴムシート1と、前記単位ゴムシート1の端部どうしを接合一体化してなる接続部Aとを有する合成樹脂皮膜ゴムシートSにより、所定の折返しシール形状に形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のガスホルダ用シール材において、
前記接続部Aは、
一方の前記単位ゴムシート1の端部を前記ゴム層2が内側となる方向に折り畳んだ形状とされている折り返し部1Aと、
他方の前記単位ゴムシート1の端部を、これの合成樹脂層3が前記折り返し部1Aの合成樹脂層3に沿うようにクランク状に折り曲げた形状とされているカバー部1Bと、
前記折り返し部1Aと前記カバー部1Bとがそれぞれの合成樹脂層3,3どうしが当接する状態に重ね合わされている重ね部aに外接される覆いゴムシート4と、を備えるとともに、
前記重ね部aと前記覆いゴムシート4との接着によりなる一体化部1C、及び、前記折り返し部1Aの合成樹脂層3と前記カバー部1Bの合成樹脂層3との貼着によりなる貼着部Y1が構成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載のガスホルダ用シール材において、前記ゴム層2がゴム引布8により形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項2又は3に記載のガスホルダ用シール材において、
前記折り返し部1Aは、接着ゴム6を挟んで折り畳んだ状態に構成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載のガスホルダ用シール材において、
前記一方及び他方の各単位ゴムシート1,1の端部における前記合成樹脂層3,3どうしに跨る合成樹脂フィルム5が設けられ、一方の合成樹脂層3及び他方の合成樹脂層3のそれぞれと前記合成樹脂フィルム5との貼着によりなる第2貼着部Y2が構成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項6に係る発明は、請求項2〜5の何れか一項に記載のガスホルダ用シール材において、
前記覆いゴムシート4は、覆い内側の接着ゴム層7と、覆い外側のゴム引布8とが重ねられて一体化された積層構造のものに構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、合成樹脂皮膜付のゴム材でなるガスホルダ用シール材は、複数又は多数の単位ゴムシートを接合一体化して、大きな合成樹脂皮膜ゴムシートが作製可能になったことにより実現できたものである。
フッ素樹脂などの合成樹脂皮膜が付いているがために接合の難しい単位ゴムシートどうしの接合一体化が可能となったので、大型のゴムシート製品に好適となる大きな合成樹脂皮膜ゴムシートの作製が可能になった。従って、合成樹脂皮膜ゴムシートを用いて所定の折返しシール形状に形成されてなるガスホルダ用シール材を得ることができる。
その結果、利点の多い合成樹脂皮膜が施されたゴムシートの大型のものを作製できるようにして、材料の主成分として、膨張・収縮の変形性に優れるゴムを用いながらも、耐薬品性や耐油性に優れるようにできたので、より耐久性に優れるガスホルダ用シール材を提供することができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、シール材が有する接続部は、一方の単位ゴムシートに形成される折り返し部と、他方の単位ゴムシートに形成されるカバー部と、覆いゴムシートとを、それら三者が重ね合わせられた状態での接着により構成されている。故に、単位ゴムシートの端部におけるゴム層どうしが強固に、かつ、隙間の無い状態で接合一体化できるとともに、合成樹脂層どうしも貼着により隙間無く一体化することができる。
その結果、合成樹脂皮膜が施されての利点が多い単位ゴムシートの複数を接合して大きな合成樹脂皮膜ゴムシートを作るために、単位ゴムシートの端部どうしを密封状態で良好に接合された接続部を有するガスホルダ用シール材の提供が可能となる利点がある。
【0018】
請求項3の発明によれば、ゴム層が、布にゴムを貼り合わせたシートであるゴム引布により形成されているので、より強度や耐久性に優れる合成樹脂皮膜ゴムシート(単位ゴムシート)でなるガスホルダ用シール材とすることができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、折り返し部を、折り返される形状によって対向配置されているゴム層どうしの間に接着に適した接着ゴムを設けてあるから、接着ゴムを用いない場合に比べて、接着強度を無理なく増せる利点がある。
【0020】
請求項5の発明によれば、接続部において対向状態にある一方の合成樹脂層と他方の合成樹脂層とに跨らせた合成樹脂フィルムとの貼着によりなる第2貼着部を設けてあるので、密封度が向上するとともに、耐引っ張り力が向上する利点も期待できる。
【0021】
請求項6の発明によれば、覆いゴムシートを、加硫接着に好適な接着ゴム層とゴム引布とでなる積層構造シートとしてあるので、折り返し部及びカバー部と覆いゴムシートとが強固に接着されており、強度や耐久性にも優れるものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】乾式ガスホルダの構造を示し、(a)は縦断面図、(b)はシール材の要部平面図
【
図2】(a)貯留ガスが多いときのガスホルダの縦断面図、(b)はガスが少ないときのガスホルダの縦断面図
【
図3】合成樹脂皮膜ゴムシートにおける接続部の構造を示す断面図
【
図4】接続部の製造方法を示し、(a)は折り曲げ工程の作用図、(b)は第1熱溶着工程の作用図
【
図5】接続部の製造方法を示し、(a)は第2折り曲げ工程の作用図、(b)は一体化工程の作用図
【
図6】接続部の製造方法を示し、(a)は全体接着用工程の作用図、(b)は第2熱溶着工程の作用図
【
図8】ガスホルダ用シール材の別構造を示すガスホルダの縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明によるガスホルダ用シール材及びその作り方の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、接着とは、接着剤を用いての接着、接着剤を用いて加熱及び/又は加圧する接着、或いは加硫接着を含むこととする。また、貼着とは、熱溶着、接着などの手段を含む一体化手段の総称である。
【0024】
図1(a),(b)に、汚染ガス、バイオガスなどのガスを貯蔵する乾式のガスホルダHが示されている。このガスホルダHは、側周壁17、底壁18、屋根19を有する有底有蓋円筒状のタンク20と、底壁であるピストン22と円筒状の側壁であるフェンダ23とを有してタンク20に収容される可動蓋21と、側周壁17とフェンダ23との間に配備される膜状のシール材24とを有して構成されている。タンク20と可動蓋21とシール材24とで形成される貯留室25には、汚染ガスなどのガス26が収容されている。
【0025】
シール材24は、
図1、
図2に示されるように、ガスホルダとしてのタンク20とタンク内に昇降可能に配備される可動蓋21との間に配備されて、可動蓋21の外周面21Aに支持される内周部24A、及び可動蓋21外周とタンク20内周に跨って形成される折返部24Bを経て、タンク20の内周面20Aに支持される外周部24Cを有するシール膜である。
【0026】
内周部24Aの下端部はフェンダ23に、かつ、外周部24Cの下端部は側周壁17に、それぞれボルトや貼着などの取付手段27により隙間の無い密封状態で支持されている。シール膜状のシール材24は、180度方向転換する折返部24Bを備えているので、タンク20内のガス量やガス圧の増減により昇降移動する可動蓋21に追従して変位する。
【0027】
即ち、ガス量(ガス圧)が大になった場合は、
図2(a)に示されるように、可動蓋21がタンク20内にて上昇移動するので、シール材24は、内周部24Aの上下長が短くなり、かつ、外周部24Cの上下長が長くなるようにローリング変位して追従する。
また、ガス量(ガス圧)が少になった場合は、
図2(b)に示されるように、可動蓋21がタンク20内にて下降移動するので、シール材24は、内周部24Aの上下長が長くなり、かつ、外周部24Cの上下長が短くなるようにローリング変位して追従する。
可動蓋21の昇降に追従してシール材24が変位しても、折返部24Bは、そのタンク20及び可動蓋21に対する高さが変化しながら、断面が半円形状のものとして形成され続ける。
【0028】
このシール膜状のシール材24は、ゴム層2とゴム層2に重ねられた合成樹脂層3とでなる単位ゴムシート1の複数が、単位ゴムシート1それぞれの端部どうしを接合してなる接続部Aにより一体化されている合成樹脂皮膜ゴムシートSを、ローリングダイヤフラム形状(所定の折返しシール形状)に形成して構成されている。ガスホルダHに装着された状態のシール材24は、下側(ガス側)に合成樹脂層3が配置され、上側にゴム層2が配置される状態に向きが設定されている。
接続部Aは、
図1(b)に示されるように、ガスホルダH(タンク20)としての径方向に(放射線状に)延びる状態で、周方向に適宜の間隔をおいて多数形成されている。
【0029】
図3に示すように、合成樹脂皮膜付のゴムシートである単位ゴムシート1は、ゴム層2とゴム層2の片面にコーティングなどの手段により重ねられた合成樹脂層3とでなる2層構造のゴムシートに構成されている。詳しくは、ゴム層2はゴム引布8でなり、その材質としては、NBR、H−NBR、CR、EPDMなどが挙げられ、後述する接着ゴム6も同じである。合成樹脂層3はPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やETFE〔テトラフルオロエチレンとエチレン共重合体(4フッ化エチレン・エチレン共重合樹脂)〕などのフッ素樹脂、或いはPVdF、EVA、ポリアミドでなる厚さの薄い層である。
【0030】
ゴム引布8とは、布にゴムを貼り合わせたシートで、布とゴムの特性を併せ持った公知の複合材料である。布にゴムを含浸させてなるものでもよい。織布または不織布等の繊維の片面または両面にカレンダーロールで圧延したゴムを貼り合わせて製造する複合シートや、ゴムを繊維でサンドイッチする複合シートなどがある。
【0031】
合成樹脂皮膜ゴムシートSにおける接続構造は、前述の単位ゴムシート1の端部どうしを接合一体化してなる接続部Aを有して構成されている。接続部Aは、互いに接着により一体化されている折り返し部1Aとカバー部1Bと覆いゴムシート4とでなる一体化部1Cと、折り返し部1Aの合成樹脂層3とカバー部1Bの合成樹脂層3とを熱溶着(貼着の一例)により一体化してなる第1熱溶着部(貼着部の一例)Y1と、折り返し部1A及びカバー部1Bそれぞれの合成樹脂層3,3に熱溶着(貼着の一例)により一体化された合成樹脂フィルム5と(それぞれの合成樹脂層3,3と合成樹脂フィルム5とを熱溶着してなる第2熱溶着部Y2と)、を備えて構成されている。合成樹脂フィルム5の材質は、合成樹脂層3と同じものであるが、それ以外でも良い。
【0032】
折り返し部1Aは、
図3及び
図5(a)に示されるように、一方の単位ゴムシート1の端部をゴム層2が内側となる方向に、シート状の接着ゴム6を挟み込んで180度折り曲げて折り畳んだ形状のものに構成されている。折り返し部1Aは、シート面に対して垂直姿勢となる部分である屈曲部11と、シート面に平行となる部分である返し部12とを有している。接着ゴム6は、接着に適した接着用のゴムである。
【0033】
カバー部1Bは、
図3及び
図5(a)に示されるように、他方の単位ゴムシート1の端部を、その合成樹脂層3が、カバー部1B以外の箇所における合成樹脂層3より凹んだ(退入した)状態となるようにクランク状(Z形状、又は段付状)に折り曲げた形状のものに構成されている。カバー部1Bは、シート面に垂直姿勢となる部分である立設部13と、シート面に平行となる部分である庇部14とを有している。カバー部1Bの合成樹脂層3と折り返し部1Aの合成樹脂層3とが直接に、かつ、隙間無く重なる状態に、カバー部1B及び折り返し部1Aが形状設定されている。
【0034】
覆いゴムシート4は、
図3及び
図5(b)に示されるように、覆い内側の接着ゴム層7と、覆い外側のゴム引布8とが重ねられて一体化された2層構造(積層構造の一例)のゴムシートであって、折り返し部1Aとカバー部1Bとが重ね合わされてなる重ね部aに隙間無く外接するように、鍋伏状の形状及び大きさに設定されて構成されている。重ね部aに外接された状態の覆いゴムシート4は、カバー部1B及び折り返し部1Aの端面を覆い、かつ、一方及び他方の各単位ゴムシート1,1の根元部9,10それぞれのゴム層2に跨って設けられている。
【0035】
覆いゴムシート4は、一方の単位ゴムシート1のゴム層2に重なる一方の裾野部4a、他方の単位ゴムシート1のゴム層2に重なる他方の裾野部4b、カバー部1B及び折り返し部1Aそれぞれの先端面15,16に外接する一方の縦壁部4c、カバー部1Bの立設部13に外接する他方の縦壁部4d、及びカバー部1Bの庇部14に外接する頂壁部4eを有している。
【0036】
接続部Aにおいては、
図3、
図6(b)に示されるように、折り返し部1Aの合成樹脂層3とカバー部1Bの合成樹脂層3とが熱溶着(貼着の一例)により一体化されてなる第2熱溶着部(第2貼着部の一例)Y2が形成されている。詳しくは、折り返し部1A及びカバー部1Bそれぞれの根元部9,10の合成樹脂層3に跨って重ねられる合成樹脂フィルム5を設け、各合成樹脂層3と合成樹脂フィルム5とを熱溶着することで第2熱溶着部Y2が構成されている。
折り返し部1Aの根元部9は、屈曲部11及び返し部12以外の部分(シート面と平行な部分)であり、カバー部1Bの根元部10は、立設部13及び庇部14以外の部分(シート面と平行な部分)である。
【0037】
つまり、接続部Aにおいては、一方及び他方の単位ゴムシート1の合成樹脂層3どうしが熱溶着されるとともに、各根元部9,10の合成樹脂層3,3と合成樹脂フィルム5とが熱溶着されての密封状態で接合一体化されている。そして、一方の単位ゴムシート1における一方の裾野部4aに対応する部分及び折り返し部1Aそれぞれのゴム層2、及び他方の単位ゴムシート1における他方の裾野部4bに対応する部分及びカバー部1Bそれぞれのゴム層2が、覆いゴムシート4と加硫接着により強固に一体化されている。
【0038】
このように、単位ゴムシート1を複数又は多数枚接合一体化させて、
図7に示されるように、略平板状で実質的に一枚ものの大きな合成樹脂皮膜ゴムシートSを得ること(作製すること)ができる。従って、この大きな合成樹脂皮膜ゴムシートSにより、シール膜状のシール材24はもとより、タンクに収容される流体貯留袋などの大型ゴム製品を、優れた絶縁性、耐薬品性を持ちながらも、接続部Aからの漏れのおそれ無く膨張・収縮性に富む優れものとして作製することが可能となる。
【0039】
次に、単位ゴムシート1,1の端部どうしを接合する接続部Aにより一体化されてなる合成樹脂皮膜ゴムシートSの製造方法について説明する。なお、シート面とは、単位ゴムシート1の上又は下の面のことであり、
図3〜6においては、紙面の左右方向に広がる面である。
【0040】
まず、単位ゴムシート1(ゴム層2は加硫済)の一対を用意し、
図4(a)に示されるように、それぞれの単位ゴムシート1の端部を、ゴム層2が内側となる方向に90度折り曲げて折り曲げ部1Mを形成する折り曲げ工程を行う。そして、
図4(b)に示されるように、それぞれの折り曲げ部1M,1Mどうしを重ね、互いの合成樹脂層3,3どうしを熱溶着し、一体化した一体端部1Tを形成させる第1熱溶着工程(第1貼着工程)を行う。
【0041】
次に、
図5(a)に示されるように、一体端部1Tを、その途中部位において何れか一方の方向に90度折り曲げ、「ユ」字状(クランク状)の重ね部aを形成する第2折り曲げ工程を行う。この第2折り曲げ工程により、折り返し部1A及びカバー部1Bが形成される。また、折り返し部1Aとその根元部9との間にシート状の接着ゴム6(未加硫)を入れ込んで設ける付加工程を行う。
第2折り曲げ工程+付加工程に代えて、第2折り曲げ工程を行うための動作の前に、折り曲げ内側となる側の根元部9に接着ゴム6を配備しておき、その状態で一体端部1Tを90度折り曲げて重ね部aを形成する、という挟み折り曲げ工程とすることも可能である。
【0042】
なお、付加工程又は挟み折り曲げ工程の際に、一体端部1Tの折り曲げ内側面及び折り曲げ側の根元部9のゴム層2の表面(或いは、折り曲げ後における折り返し部1Aの内側となるゴム層の表面)、又は接着ゴム6の表裏面に接着剤を塗布しておき、接着ゴム6と接するゴム層2と接着ゴム6とを接着させる内側接着工程を伴ってもよい。
【0043】
次に、
図5(b)に示されるように、接着ゴム6が設けられている重ね部aに、未加硫の接着ゴム層7を有する鍋伏形状の覆いゴムシート4を被せて重ねる一体化工程を行う。覆いゴムシート4は、シート面に対して凸となる重ね部aに外接して嵌合されるように、鍋伏形状に設定されている。
なお、一体化工程の際に、接着剤の塗布により、重ね部a及び両根元部9,10それぞれのゴム層2と、覆いゴムシート4の接着ゴム層7とのそれぞれを接着させる外側接着工程を伴ってもよい。
【0044】
一体化工程の次は、
図6(a)に示されるように、一体化部1Cを加熱・加圧型に入れるなどして、上下に(シート面に対する上下に)加圧するとともに加熱(例:160℃で20〜30分)し、重ね部a及び両根元部9,10と覆いゴムシート4とを強固に加硫接着させるための全体接着用工程を行う。全体接着用工程により、覆いゴムシート4の接着ゴム層7と接着ゴム6とが加硫される際に、折り返し部1A、カバー部1B、及び各根元部9,10のゴム層2の表面部位も若干軟化し、接着ゴム層7や接着ゴム6と強度十分に加硫接着(プレス架橋接着)されて強固に一体化される。
【0045】
最後に、
図6(b)に示されるように、一体化部1Cにおける両根元部9,10それぞれの合成樹脂層3に跨る状態に、合成樹脂フィルム5を各合成樹脂層3,3に熱溶着させて第2熱溶着部Y2を作る第2熱溶着工程(第2貼着工程)を行う。第2熱溶着工程により、合成樹脂フィルム5が一体化部1Cに熱溶着され、接続部Aの製造が終了する。上述の方法により作製された接続部Aにおいて、重ね部aの折り曲げ内側の単位ゴムシート1の端部が折り返し部1Aであり、かつ、折り曲げ外側の単位ゴムシート1の端部がカバー部1Bである。
そして、所定数の接続部Aが作製されての複数の単位ゴムシート1の接合一体化により、
図7に示される大きな合成樹脂皮膜ゴムシートSが作製される。
【0046】
以上述べたように、本発明によるシール材31は、単位ゴムシート1の端部どうしを接合一体化して、大きな合成樹脂皮膜ゴムシートSが作製可能になったことにより実現できたものである。
つまり、単位ゴムシート1,1どうしの接続部Aは、一方に形成される折り返し部1Aと、他方に形成されるカバー部1Bと、覆いゴムシート4とを嵌合状態で重ね合わせた状態で、加熱や加圧を伴っての接着(加硫接着、接着剤による接着)により一体化されてなる。隣合せて配置される各単位ゴムシート1,1のゴム層2,2どうしが強固にかつ隙間の無い状態で接合(接続)一体化できるとともに、合成樹脂層3,3どうしも熱溶着により隙間の無い状態で一体化することができる。
【0047】
従って、フッ素樹脂などの合成樹脂皮膜が付いて接合の難しい単位ゴムシート1,1どうしの接合一体化が可能となり、ガスホルダ用シール材24など、大型のゴムシート製品に好適となる大きな合成樹脂皮膜ゴムシートS(
図7を参照)の作製が可能になった。
その結果、利点の多い合成樹脂皮膜が施されたゴムシートの大型のものを作製できるようにして、材料の主成分として、膨張・収縮の変形性に優れるゴムを用いながらも、耐薬品性や耐油性に優れるものとして、より耐久性に優れるガスホルダ用シール材24を提供することができる。
【0048】
ゴム層2を公知のゴム引布8とすればより強度や耐久性に優れる合成樹脂皮膜ゴムシートS(単位ゴムシート1)が実現できる。また、覆いゴムシート4を、加硫接着に好適な接着ゴム層7とゴム引布8とでなる2層構造シートとして、接着性に優れ、かつ、強度や耐久性にも優れるものとすることができる。
折り返し部1Aに、折り返されることで対向配置されるゴム層2,2どうしの間に接着ゴム6を介装させる構成とすれば、接着ゴム6を用いない場合に比べて、接着による一体化強度を無理なく増せる利点がある。
【0049】
接続部Aにおいては、一方の合成樹脂層3と他方の合成樹脂層3とに跨って面接触する合成樹脂フィルム5を用いて熱溶着して第2熱溶着部Y2を設けてある。従って、合成樹脂フィルム5を用いない手段に比べて、密封度が向上するとともに、単位ゴムシート1,1どうしが離れる方向の力、即ち、引っ張り力にも耐える強度が向上する利点もある。
【0050】
折り返し部1Aは、接着ゴム6を用いず、上下のゴム層2,2どうしを直接接着(加硫接着、接着剤による接着)させる構成でも良い。また、ゴム層2は、ゴムのみからなるもの、強化繊維を含むゴムなど、ゴム引布以外のものでも良い。
【0051】
〔実施形態2〕
シール材24は、
図1などに示す円環状のもの以外に、
図8に示されるように、平面視で円形のものでも良い。この場合、シール材24は、内周部24A、折返部24B、外周部24Cに加えて、ピストン22の下側を覆って内周部24Aの下端縁に連続する底面部24Dを有しており、孔の無い合成樹脂皮膜ゴムシートSにより作製される。実施形態2においては、接続部Aは、周方向に延びる状態で帯状に形成されているが、径方向に延びる状態のもの〔
図1(b)参照〕でも良い。
【符号の説明】
【0052】
1 単位ゴムシート
1A 折り返し部
1B カバー部
1C 一体化部
2 ゴム層
3 合成樹脂層
4 覆いゴムシート
5 合成樹脂フィルム
6 接着ゴム
7 接着ゴム層
8 ゴム引布
20 タンク
20A 内周面
21 可動蓋
24A 内周部
24B 折返し部
24C 外周部
A 接続部
H ガスホルダ
S 合成樹脂皮膜ゴムシート
Y1 貼着部
Y2 第2貼着部
a 重ね部