【解決手段】ドプラレーダ検出装置Rは、レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルを算出するスペクトル算出部と、レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルの高周波数方向への広がり程度に基づいて、複数の蚕Wで構成される蚕座S上の蚕群に関するレーダ送受信アンテナの位置に対する速度分布の高速度方向への広がり程度を評価する速度分布評価部と、を備える。
前記速度分布評価部は、前記レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルの高周波数方向への広がり程度に基づいて、複数の蚕で構成される蚕座上の蚕群に関する前記レーダ送受信アンテナの位置に対する速度分布の高速度方向への広がり程度を評価する
ことを特徴とする、請求項1に記載のドプラレーダ検出装置。
前記速度分布評価部は、前記レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルに関する、所定の高周波数におけるスペクトル強度と所定の低周波数におけるスペクトル強度との比率に基づいて、前記蚕座上の蚕群の上蔟時期を判定する
ことを特徴とする、請求項3に記載のドプラレーダ検出装置。
前記速度分布評価部は、前記レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルに関する、所定の高周波数におけるスペクトル強度と所定の低周波数におけるスペクトル強度との比率の時間微分に基づいて、前記蚕座上の蚕群の上蔟時期を判定する
ことを特徴とする、請求項3又は4に記載のドプラレーダ検出装置。
レーダ受信信号の増幅前において、前記レーダ受信信号から前記レーダ送受信信号間のドプラ偏移が0である周波数成分を有する信号を除去するにあたり、前記レーダ受信信号からの減算信号について、前記レーダ送受信信号間のドプラ偏移が0である周波数成分を有する信号の振幅及び位相を調整するドプラ無偏移成分除去部、をさらに備えることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載のドプラレーダ検出装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、蚕の飼育を日常としない研究機関等においては、上蔟時期を適切に判定することにより、飼育の失敗の確率を低減することが求められている。そして、蚕の飼育を日常とする養蚕業者においても、上蔟時期を適切に判定することにより、繭質の向上及び安定化を図ることが求められている。しかし、従来において、上蔟時期を適切に判定することは、熟練者(養蚕業者)の勘と経験を必要とする困難なことである。
【0005】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、多数が互いにランダムな方向に動き回る、人間や動物や車両等の群れについて、動きの活発さを機械的にかつ定量的に評価することを目的とする。具体的には、本開示は、蚕の飼育の各段階(例えば、上蔟時期)を適切に判定するにあたり、熟練者(養蚕業者)の勘と経験によらない機械的な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、人間や動物や車両等の動き回る速度をレーダで検出することにより、人間や動物や車両等の動きの活発さを機械的に判定することとした。ここで、個々の人間や動物や車両等については、多数が互いにランダムな方向に動き回ることが災いして、動き回る速度の個々の値をレーダで検出することは困難である。しかし、人間や動物や車両等の群れについては、多数が互いにランダムな方向に動き回ることを生かして、動き回る速度の全体分布をレーダで検出することは可能である。
【0007】
具体的には、本開示は、レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルを算出するスペクトル算出部と、前記レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルの高周波数方向への広がり程度に基づいて、複数の物標で構成される物標群に関するレーダ送受信アンテナの位置に対する速度分布の高速度方向への広がり程度を評価する速度分布評価部と、を備えることを特徴とするドプラレーダ検出装置である。
【0008】
この構成によれば、多数が互いにランダムな方向に動き回る、人間や動物や車両等の群れについて、動きの活発さを機械的にかつ定量的に評価することができる。
【0009】
上記目的を達成するために、蚕の飼育の各段階と蚕の這い回る速度が対応関係を有することに着目して、蚕の這い回る速度をレーダで検出することにより、蚕の飼育の各段階を機械的に判定することとした。ここで、蚕座上の個々の蚕については、多数が互いにランダムな方向に這い回ることが災いして、這い回る速度の個々の値をレーダで検出することは困難である。しかし、蚕座上の蚕の群れについては、多数が互いにランダムな方向に這い回ることを生かして、這い回る速度の全体分布をレーダで検出することは可能である。
【0010】
具体的には、本開示は、前記速度分布評価部は、前記レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルの高周波数方向への広がり程度に基づいて、複数の蚕で構成される蚕座上の蚕群に関する前記レーダ送受信アンテナの位置に対する速度分布の高速度方向への広がり程度を評価することを特徴とするドプラレーダ検出装置である。
【0011】
この構成によれば、蚕の飼育の各段階を適切に判定するにあたり、熟練者(養蚕業者)の勘と経験によらない機械的な方法を提供することができる。
【0012】
また、本開示は、前記速度分布評価部は、前記レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルの高周波数方向への広がり程度に基づいて、前記蚕座上の蚕群の上蔟時期を判定することを特徴とするドプラレーダ検出装置である。
【0013】
この構成によれば、蚕がさかんに這い回る上蔟時期を適切に判定するにあたり、熟練者(養蚕業者)の勘と経験によらない機械的な方法を提供することができる。
【0014】
また、本開示は、前記速度分布評価部は、前記レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルに関する、所定の高周波数におけるスペクトル強度と所定の低周波数におけるスペクトル強度との比率に基づいて、前記蚕座上の蚕群の上蔟時期を判定することを特徴とするドプラレーダ検出装置である。
【0015】
この構成によれば、ドプラスペクトルの高周波端を調べるという、単純であるが不確実な処理を行なうまでもなく、そして、ドプラスペクトルの全体形状を調べるという、確実であるが複雑な処理を行なうまでもなく、程よい確実さと単純さで上蔟時期を適切に判定することができる。なお、所定の高周波数におけるスペクトル強度と所定の低周波数におけるスペクトル強度との比率は、蚕座上の蚕数に依存しないと考えられる。
【0016】
また、本開示は、前記速度分布評価部は、前記レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルに関する、所定の高周波数におけるスペクトル強度と所定の低周波数におけるスペクトル強度との比率の時間微分に基づいて、前記蚕座上の蚕群の上蔟時期を判定することを特徴とするドプラレーダ検出装置である。
【0017】
この構成によれば、ドプラスペクトルの高周波端を調べるという、単純であるが不確実な処理を行なうまでもなく、そして、ドプラスペクトルの全体形状を調べるという、確実であるが複雑な処理を行なうまでもなく、程よい確実さと単純さで上蔟時期を適切に判定することができる。なお、所定の高周波数におけるスペクトル強度と所定の低周波数におけるスペクトル強度との比率の時間微分は、蚕座上の蚕数に依存しないと考えられる。
【0018】
また、本開示は、レーダ受信信号の増幅前において、前記レーダ受信信号から前記レーダ送受信信号間のドプラ偏移が0である周波数成分を有する信号を除去するにあたり、前記レーダ受信信号からの減算信号について、前記レーダ送受信信号間のドプラ偏移が0である周波数成分を有する信号の振幅及び位相を調整するドプラ無偏移成分除去部、をさらに備えることを特徴とするドプラレーダ検出装置である。
【0019】
この構成によれば、動かない蚕座からの反射信号を除去することにより、這い回る蚕からの反射信号を抽出することができる。そして、受信機の飽和レベルに到達しない限りにおいて、這い回る蚕からの反射信号を増幅することができる。
【0020】
また、本開示は、レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルを算出するスペクトル算出ステップと、前記レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルの高周波数方向への広がり程度に基づいて、複数の物標で構成される物標群に関するレーダ送受信アンテナの位置に対する速度分布の高速度方向への広がり程度を評価する速度分布評価ステップと、を順にコンピュータに実行させるためのドプラレーダ検出プログラムである。
【0021】
また、本開示は、レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルを算出するスペクトル算出ステップと、前記レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルの高周波数方向への広がり程度に基づいて、複数の物標で構成される物標群に関するレーダ送受信アンテナの位置に対する速度分布の高速度方向への広がり程度を評価する速度分布評価ステップと、を順に備えることを特徴とするドプラレーダ検出方法である。
【0022】
この構成によれば、多数が互いにランダムな方向に動き回る、人間や動物や車両等の群れについて、動きの活発さを機械的にかつ定量的に評価することができる。
【発明の効果】
【0023】
このように、本開示によれば、多数が互いにランダムな方向に動き回る、人間や動物や車両等の群れについて、動きの活発さを機械的にかつ定量的に評価することができる。具体的には、本開示によれば、蚕の飼育の各段階(例えば、上蔟時期)を適切に判定するにあたり、熟練者(養蚕業者)の勘と経験によらない機械的な方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0026】
(養蚕用途のドプラレーダ検出装置の構成)
本開示の養蚕用途のドプラレーダ検出装置の構成を
図1に示す。養蚕用途のドプラレーダ検出装置Rは、VCO(Voltage−Controlled Oscillator)1、方向性結合器2、方向性結合器3、送信アンテナ4、受信アンテナ5、方向性結合器6、増幅器7、ミキサ8、減衰器9、ラインストレッチャ10、フィルタ11、A/Dコンバータ12、FFT(Fast Fourier Transformation)演算器13、積分器14、メモリ15及び比較判定器16から構成される。
【0027】
VCO1は、レーダ送信信号を生成するとともに、レーダ送受信信号間のドプラ偏移を検出するための、レーダ送信信号と同一の周波数を有するミキサ用信号を生成する。方向性結合器2は、レーダ送信信号を方向性結合器3に出力するとともに、ミキサ用信号をミキサ8に出力する。ここで、本実施形態では、連続波レーダ方式を適用している。しかし、変形例として、パルスレーダ方式を適用してもよい。いずれのレーダ方式を適用するかは、ドプラレーダ検出装置Rから蚕座Sまでの距離に応じて決定すればよい。
【0028】
方向性結合器3は、レーダ送信信号を送信アンテナ4に出力するとともに、後述のフィードスルーキャンセル信号を生成するための、レーダ送信信号と同一の周波数を有するキャンセル用信号を減衰器9及びラインストレッチャ10に出力する。送信アンテナ4は、レーダ送信信号を、複数の蚕Wで構成される蚕座S上の蚕群に照射する。
【0029】
受信アンテナ5は、レーダ反射信号を、複数の蚕Wで構成される蚕座S上の蚕群から受信する。方向性結合器6は、レーダ反射信号を受信アンテナ5から入力し、後述のフィードスルーキャンセル信号を減衰器9及びラインストレッチャ10から入力し、レーダ反射信号及び後述のフィードスルーキャンセル信号の合成信号を増幅器7に出力する。
【0030】
ここで、本実施形態では、レーダ照射/反射方向を蚕Wが這い回る蚕座Sの面内にほぼ平行にして、蚕Wが蚕座Sの面内を這い回る速度を検出している。しかし、変形例として、レーダ照射/反射方向を蚕Wが這い回る蚕座Sの面内にほぼ垂直にして、蚕Wが蚕座Sの面内から頭を持ち上げる速度を検出してもよい。そして、
図1において、送信アンテナ4及び受信アンテナ5をバイスタティックに配置している。しかし、
図2のように、送信アンテナ4及び受信アンテナ5をモノスタティックに配置してもよい。
【0031】
増幅器7は、レーダ反射信号及び後述のフィードスルーキャンセル信号の合成信号を増幅する。ミキサ8は、合成信号の増幅信号とミキサ用信号を乗算して、合成信号の増幅信号とミキサ用信号の和周波信号と、合成信号の増幅信号とミキサ用信号の差周波信号と、を生成する。フィルタ11は、合成信号の増幅信号とミキサ用信号の和周波信号を除去して、合成信号の増幅信号とミキサ用信号の差周波信号を抽出する。A/Dコンバータ12は、合成信号の増幅信号とミキサ用信号の差周波信号に対して、A/D変換を実行する。
【0032】
ここで、合成信号の増幅信号は、レーダ送信信号と同一の周波数を有する信号を含まず、レーダ送信信号と異なる周波数を有する信号のみ含む。一方で、ミキサ用信号は、レーダ送信信号と同一の周波数を有する。よって、合成信号の増幅信号とミキサ用信号の差周波信号は、レーダ送受信信号間のドプラ偏移の情報を含む。
【0033】
FFT演算器13は、合成信号の増幅信号とミキサ用信号の差周波信号に対して、FFT演算を実行する。積分器14は、FFT演算結果に対して、平滑処理を実行する。FFT演算器13及び積分器14は、後述のスペクトル算出部18に対応し、レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルを算出することができる。
【0034】
メモリ15は、熟練者(養蚕業者)が上蔟時期と判定した複数の蚕Wで構成される蚕座S上の蚕群について、レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルをデータベース化して記憶している。比較判定器16は、FFT演算器13及び積分器14が算出したレーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルと、メモリ15が記憶しているレーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルと、を比較し、ドプラレーダ検出装置Rが検出対象としている複数の蚕Wで構成される蚕座S上の蚕群について、上蔟時期の到来の有無を判定する。メモリ15及び比較判定器16は、後述の速度分布評価部19に対応し、レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルの高周波数方向への広がり程度に基づいて、複数の蚕Wで構成される蚕座S上の蚕群の上蔟時期を判定することができる。
【0035】
(蚕座上の蚕群の上蔟時期の判定原理)
本開示の蚕座上の蚕群の上蔟時期の判定原理を
図2及び
図3に示す。複数の蚕Wで構成される蚕座S上の蚕群において、個々の蚕Wの這い回る速度vは、互いにほぼ同様であるが、個々の蚕Wの這い回る方向は、互いにランダムである。レーダ送信信号について、波長をλとし、周波数をf
cとし、伝搬速度をc(=f
cλ)とする。
【0036】
図2の(a)に示したように、レーダ照射方向と個々の蚕Wの動きの方向が垂直であるときには、その蚕Wからの反射信号において、レーダ送受信信号間のドプラ偏移は発生しない。
図2の(b)に示したように、レーダ照射方向と個々の蚕Wの動きの方向が平行であるときには、その蚕Wからの反射信号において、vベクトルとしては、最大のレーダ送受信信号間のドプラ偏移(ドプラ周波数f
d=2v/λ=2vf
c/c)が発生する。
図2の(c)に示したように、
図2の(a)と(b)との中間の状態にあるときには(vベクトルは、レーダ照射方向と平行なv
aベクトルと、レーダ照射方向と垂直なv
bベクトルと、に分解される。)、その蚕Wからの反射信号において、v
aベクトルの分だけ、レーダ送受信信号間のドプラ偏移(ドプラ周波数f
d=2v
a/λ=2v
af
c/c)が発生する。
【0037】
ここで、本実施形態では、レーダ送信信号として、マイクロ波を適用している。しかし、変形例として、レーダ送信信号として、ミリ波や超音波等を適用してもよい。いずれの波形を適用するかは、ドプラ周波数f
dの検出可能範囲に応じて決定すればよい。
【0038】
図3の(1)に示したように、
図2の(b)に示した状態にある個々の蚕Wからのレーダ反射信号からのドプラスペクトルへの寄与として、所定の高いドプラ周波数f
d2におけるスペクトル強度S(f
d2)が有限値として検出されたときには、複数の蚕Wで構成される蚕座S上の蚕群がさかんに這い回っており適熟しており上蔟時期を迎えている。
【0039】
図3の(2)に示したように、
図2の(b)に示した状態にある個々の蚕Wからのレーダ反射信号からのドプラスペクトルへの寄与として、所定の高いドプラ周波数f
d2におけるスペクトル強度S(f
d2)が有限値として検出されないときには、複数の蚕Wで構成される蚕座S上の蚕群があまり這い回っておらず適熟しておらず上蔟時期を迎えていない。
【0040】
ここで、ドプラスペクトルの高周波端を調べるのみであれば、上蔟時期の判定処理は、単純ではあるが、不確実になる可能性がある(蚕Wの個体数の不確定性があるため、高周波端の有無判定の閾値設定が困難となる。)。一方で、ドプラスペクトルの全体形状を調べるのであれば、上蔟時期の判定処理は、確実ではあるが、複雑になる可能性がある(蚕Wの個体数の不確定性があるため、ドプラスペクトルの照合処理が困難となる。)
【0041】
そこで、所定の高いドプラ周波数f
d2におけるスペクトル強度S(f
d2)と所定の低いドプラ周波数f
d1におけるスペクトル強度S(f
d1)との比率S(f
d2)/S(f
d1)を調べることが考えられる。
図3の(1)に示したような適熟時のドプラスペクトルにおいては、S(f
d2)/S(f
d1)>0となる。
図3の(2)に示したような適熟前のドプラスペクトルにおいては、S(f
d2)/S(f
d1)=0となる。
【0042】
ここで、スペクトル強度Sは、蚕座S上の蚕数に比例すると考えられるため、S(f
d2)/S(f
d1)は、蚕座S上の蚕数に依存しないと考えられる。つまり、
図3の(1)に示したような適熟時のドプラスペクトルにおいては、S(f
d2、多)/S(f
d1、多)=S(f
d2、少)/S(f
d1、少)>0となる。そして、
図3の(2)に示したような適熟前のドプラスペクトルにおいては、S(f
d2、多)/S(f
d1、多)=S(f
d2、少)/S(f
d1、少)=0となる。このように、S(f
d2)/S(f
d1)を調べるのみであるため、上蔟時期の判定処理は、程よく単純であり確実になる。
【0043】
ここで、本実施形態では、所定の2点の周波数におけるスペクトル強度Sの比率を調べて、上蔟時期の判定処理を単純にしている。しかし、変形例として、所定の3点以上の周波数におけるスペクトル強度Sの比率(例えば、所定の3点の周波数f
d1<f
d2<f
d3におけるスペクトル強度Sの比率S(f
d3)/S(f
d1)、S(f
d3)/S(f
d2)、S(f
d2)/S(f
d1))を調べて、上蔟時期の判定処理を確実にしてもよい。
【0044】
(蚕座上の蚕群の上蔟時期の判定方法)
本開示の蚕座上の蚕群の上蔟時期の判定方法を
図4から
図6までに示す。
図4では、蚕の飼育の各段階I〜VIにおけるドプラスペクトルを示す。
図5では、蚕の飼育の各段階I〜VIにおける、k=S(f
d2)/S(f
d1)を示す。
図6では、蚕の飼育の各段階I〜VIにおける、k’=dk/dt(dtは、時間微分を表わす。)を示す。
【0045】
図4のIに示したように、4眠時において、動かない蚕座S及び動かない蚕Wからの反射信号からのドプラスペクトルへの寄与として、S(f
d〜0)のみが有限値として検出され、S(f
d1)及びS(f
d2)が有限値として検出されない。
図4のII及びIIIに示したように、4眠時から5齢時にかけて、そして、徐々に活発化する5齢時において、這い回る蚕Wからの反射信号からのドプラスペクトルへの寄与として、S(f
d2)が徐々に大きく検出される。
図4のIVに示したように、最も活発化する適熟時において、さかんに這い回る蚕Wからの反射信号からのドプラスペクトルへの寄与として、S(f
d2)が最も大きく検出される。
図4のV及びVIに示したように、徐々に不活発化する適熟過ぎにおいて、そして、さらに不活発化する適熟過ぎにおいて、這い回る蚕Wからの反射信号からのドプラスペクトルへの寄与として、S(f
d2)が徐々に小さく検出される。
【0046】
図5では、比較判定器16は、メモリ15を用いて、レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルに関する、所定の高周波数f
d2におけるスペクトル強度S(f
d2)と所定の低周波数f
d1におけるスペクトル強度S(f
d1)との比率k=S(f
d2)/S(f
d1)に基づいて、複数の蚕Wで構成される蚕座S上の蚕群の上蔟時期を判定する。
【0047】
k=S(f
d2)/S(f
d1)は、段階Iから段階IVにかけて、徐々に増加し、段階IVから段階VIにかけて、徐々に減少する。そこで、メモリ15は、熟練者(養蚕業者)が上蔟時期と判定した適熟時におけるk=S(f
d2)/S(f
d1)の値を記憶している。そして、比較判定器16は、算出されたk=S(f
d2)/S(f
d1)の値が、記憶されたk=S(f
d2)/S(f
d1)の値に到達しているときには、又は、記憶されたk=S(f
d2)/S(f
d1)の値を超過しているときには、上蔟時期が到来していると判定する。一方で、比較判定器16は、算出されたk=S(f
d2)/S(f
d1)の値が、記憶されたk=S(f
d2)/S(f
d1)の値に到達していないときには、又は、記憶されたk=S(f
d2)/S(f
d1)の値を超過していないときには、上蔟時期が到来していないと判定する。
【0048】
図6では、比較判定器16は、メモリ15を用いて、レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルに関する、所定の高周波数f
d2におけるスペクトル強度S(f
d2)と所定の低周波数f
d1におけるスペクトル強度S(f
d1)との比率の時間微分k’=dk/dtに基づいて、複数の蚕Wで構成される蚕座S上の蚕群の上蔟時期を判定する。
【0049】
k’=dk/dtは、段階Iから段階IVにかけて、正の値をとり、段階IVから段階VIにかけて、負の値をとる。そこで、メモリ15は、熟練者(養蚕業者)が上蔟時期と判定した適熟時におけるk’=dk/dtの値〜0を記憶している。そして、比較判定器16は、算出されたk’=dk/dtの値が、正の値から記憶されたk’=dk/dtの値〜0に到達しているときには、上蔟時期が到来していると判定する。一方で、比較判定器16は、算出されたk’=dk/dtの値が、正の値から記憶されたk’=dk/dtの値〜0に到達していないときには、上蔟時期が到来していないと判定する。
【0050】
ここで、本実施形態では、
図5及び
図6に示した上蔟時期の判定方法を独立して適用している。しかし、変形例として、
図5及び
図6に示した上蔟時期の判定方法を合わせて適用してもよい。つまり、以下に示す(条件1)及び(条件2)の両方が満たされるときに、上蔟時期が到来していると判定する:(条件1)算出されたk=S(f
d2)/S(f
d1)の値が、記憶されたk=S(f
d2)/S(f
d1)の値に到達している、又は、記憶されたk=S(f
d2)/S(f
d1)の値を超過している。(条件2)算出されたk’=dk/dtの値が、正の値から記憶されたk’=dk/dtの値〜0に到達している。
【0051】
(蚕座からの反射信号のフィードスルーキャンセル原理)
本開示の蚕座からの反射信号のフィードスルーキャンセル原理を
図7及び
図8に示す。
図7では、蚕座Sからの反射信号のフィードスルーキャンセルを実行しない場合を示す。
図8では、蚕座Sからの反射信号のフィードスルーキャンセルを実行する場合を示す。
【0052】
ここで、本実施形態では、蚕座Sからの反射信号のフィードスルーキャンセルを実行するのは、ミキサ8の前段であって、ミキサ8の後段ではない。しかし、
図7及び
図8では、説明のし易さの観点から、ミキサ8の後段の信号レベルについて説明する。
【0053】
図7に示したように、動かない蚕座Sからの反射信号は、レーダ送受信信号間のドプラ偏移を含まず、振幅が大きい直流信号である。一方で、這い回る蚕Wからの反射信号は、レーダ送受信信号間のドプラ偏移を含み、振幅が小さい交流信号である。ただし、実際に観測される反射信号は、動かない蚕座Sからの反射信号と這い回る蚕Wからの反射信号の合成信号である。ここで、実際に観測される反射信号の全体的なレベルは、受信機の飽和レベルよりかなり高いと考えられる。よって、FFT演算器13に入力される反射信号は、受信機の飽和レベルに振幅がクリップされた直流信号となり、レーダ送受信信号間のドプラ偏移を含まない。つまり、這い回る蚕Wの動きは全く見えないことになる。
【0054】
図8に示したように、フィードスルーキャンセル信号は、動かない蚕座Sからの反射信号と比べて、振幅は同一であり位相は逆相である信号である。よって、フィードスルーキャンセル後には、動かない蚕座Sからの反射信号は除去されるが、這い回る蚕Wからの反射信号のみは抽出される。ここで、這い回る蚕Wからの反射信号の全体的なレベルは、受信機の飽和レベルよりかなり低いと考えられる。よって、増幅後であっても、這い回る蚕Wからの反射信号の全体的なレベルは、受信機の飽和レベルよりまだ低いと考えられる。そして、FFT演算器13に入力される反射信号は、レーダ送受信信号間のドプラ偏移を含む。つまり、這い回る蚕Wの動きは確実に見えることになる。
【0055】
具体的には、減衰器9及びラインストレッチャ10は、増幅器7でのレーダ受信信号の増幅前において、レーダ受信信号から動かない蚕座Sからの反射信号を除去する。ここで、減衰器9は、減衰度を手動で又は自動で調整することにより、レーダ受信信号からの減算信号について、レーダ送信信号と同一の周波数を有する前述のキャンセル用信号の振幅を調整する。そして、ラインストレッチャ10は、ライン長を手動で又は自動で調整することにより、レーダ受信信号からの減算信号について、レーダ送信信号と同一の周波数を有する前述のキャンセル用信号の位相を調整する。なお、減衰器9及びラインストレッチャ10は、後述のドプラ無偏移成分除去部17に対応する。
【0056】
本開示のフィードスルーキャンセル前後のドプラスペクトルを
図9に示す。フィードスルーキャンセル前のドプラスペクトルでは、レーダ送受信信号間のドプラ偏移が〜0である周波数成分が残留している。フィードスルーキャンセル後のドプラスペクトルでは、レーダ送受信信号間のドプラ偏移が〜0である周波数成分が除去されている。ここで、k=S(f
d2)/S(f
d1)及びk’=dk/dtがフィードスルーキャンセルの影響をほぼ受けないためには、f
d1、f
d2>>0であることが望ましい。
【0057】
(一般用途のドプラレーダ検出装置の構成)
本開示の一般用途のドプラレーダ検出装置の構成を
図10に示す。一般用途のドプラレーダ検出装置Rは、VCO1、方向性結合器2、送信アンテナ4、受信アンテナ5、ドプラ無偏移成分除去部17、増幅器7、ミキサ8、スペクトル算出部18及び速度分布評価部19から構成される。VCO1、方向性結合器2、送信アンテナ4、受信アンテナ5、増幅器7及びミキサ8は、
図1及び
図10において同様である。
【0058】
ドプラ無偏移成分除去部17は、増幅器7でのレーダ受信信号の増幅前において、レーダ受信信号からレーダ送受信信号間のドプラ偏移が0である周波数成分を有する信号を除去するにあたり、レーダ受信信号からの減算信号について、レーダ送受信信号間のドプラ偏移が0である周波数成分を有する信号の振幅及び位相を調整する。スペクトル算出部18は、レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルを算出する。
【0059】
速度分布評価部19は、レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルの高周波数方向への広がり程度に基づいて、複数の蚕Wで構成される蚕座S上の蚕群に関するレーダ送受信アンテナの位置に対する速度分布の高速度方向への広がり程度を評価する。これにより、蚕座Sの温度、蚕座Sの湿度、蚕座Sの光量、蚕座Sの準備、蚕Wへの採桑及び蚕Wへの給桑等の環境コントロールのために、蚕Wの飼育の各段階を適切に判定するにあたり、熟練者(養蚕業者)の勘と経験によらない機械的な方法を提供することができる。
【0060】
速度分布評価部19は、レーダ送受信信号間のドプラ偏移のスペクトルの高周波数方向への広がり程度に基づいて、複数の物標Tで構成される物標群Gに関するレーダ送受信アンテナの位置に対する速度分布の高速度方向への広がり程度を評価する。これにより、多数が互いにランダムな方向に動き回る、蚕W以外の人間や動物や車両等の群れについても、動きの活発さを機械的にかつ定量的に評価することができる。
【0061】
図1及び
図10に示したドプラレーダ検出装置Rは、前述のスペクトル算出ステップ及び速度分布評価ステップを順にコンピュータに実行させるためのドプラレーダ検出プログラムを、コンピュータにインストールすることにより実現可能である。