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特開2018-27529水処理用ポリ塩化ビニル製多孔質濾過膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-27529(P2018-27529A)
(43)【公開日】2018年2月22日
(54)【発明の名称】水処理用ポリ塩化ビニル製多孔質濾過膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/30 20060101AFI20180126BHJP
   B01D 71/40 20060101ALI20180126BHJP
   B01D 65/08 20060101ALI20180126BHJP
   C08J 9/28 20060101ALI20180126BHJP
【FI】
   B01D71/30
   B01D71/40
   B01D65/08
   C08J9/28 101
   C08J9/28CEV
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-161520(P2016-161520)
(22)【出願日】2016年8月19日
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
【住所又は居所】兵庫県神戸市灘区六甲台町1−1
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
【住所又は居所】東京都渋谷区恵比寿四丁目20番3号
(74)【代理人】
【識別番号】100081514
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 一
(74)【代理人】
【識別番号】100082692
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵合 正博
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀人
【住所又は居所】兵庫県神戸市灘区六甲台町1番1号 国立大学法人神戸大学内
(72)【発明者】
【氏名】方 立峰
【住所又は居所】兵庫県神戸市灘区六甲台町1番1号 国立大学法人神戸大学内
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
【住所又は居所】神奈川県川崎市川崎区千鳥町3−3 日油株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】中島 光康
【住所又は居所】神奈川県川崎市川崎区千鳥町3−3 日油株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】中島 史雄
【住所又は居所】神奈川県川崎市川崎区千鳥町3−3 日油株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】坂元 伸行
【住所又は居所】神奈川県川崎市川崎区千鳥町3−3 日油株式会社内
【テーマコード(参考)】
4D006
4F074
【Fターム(参考)】
4D006GA02
4D006MA01
4D006MA03
4D006MA15
4D006MB02
4D006MB11
4D006MB18
4D006MC27X
4D006MC37X
4D006MC73X
4D006MC78X
4D006MC81
4D006MC83
4D006MC88
4D006NA05
4D006NA10
4D006NA64
4D006PB02
4D006PB24
4D006PB52
4F074AA36
4F074AB01
4F074AD13
4F074CB03
4F074CB16
4F074CB43
4F074CC27Z
4F074CC28Z
4F074CC29Y
4F074DA13
4F074DA43
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ファウリングを効果的に抑制して透水率に優れるとともに、ファウリングが生じた時の薬品等による洗浄後の透水率の回復にも優れる、水処理用ポリ塩化ビニル製多孔質濾過膜を高効率で製造する方法を提供する。
【解決手段】共重合体(P)1〜5質量%、及びポリ塩化ビニル10〜20質量%を含有する製膜原液を調製する製膜原液調製工程(a)と、製膜原液をノズルまたはスリットを通して膜状に吐出させる吐出工程(b)と、吐出される膜状の製膜原液を凝固液に浸漬させ、多孔質膜を形成させる製膜工程(c)と、を有し、共重合体(P)は、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンモノマー10〜40モル%と、ポリプロピレングリコールモノメタクリレートモノマー60〜90モル%との、重量平均分子量が10,000〜1,000,000の共重合体である、水処理用ポリ塩化ビニル製多孔質濾過膜の製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合体(P)1〜5質量%、およびポリ塩化ビニル10〜20質量%を含有する製膜原液を調製する製膜原液調製工程(a)と、
前記製膜原液をノズルまたはスリットを通して膜状に吐出させる吐出工程(b)と、
吐出される前記膜状の製膜原液を凝固液に浸漬させ、多孔質膜を形成させる製膜工程(c)と、を有し、
前記共重合体(P)は、下記式(1)のモノマー10〜40モル%と、下記式(2)のモノマー60〜90モル%との、重量平均分子量が10,000〜1,000,000の共重合体である、水処理用ポリ塩化ビニル製多孔質濾過膜の製造方法。
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキレン基を示し、R、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
【化2】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、RおよびRはそれぞれ独立に炭素数2〜4のアルキレン基を示し、R10は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。nおよびmはいずれも0〜15であり、かつn+mの値は7〜15である。)


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐ファウリング性と耐薬品性を併せ持つ水処理用ポリ塩化ビニル製多孔質濾過膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、限外濾過、精密濾過、逆浸透などの水処理用多孔質濾過膜は、例えば、飲料水製造、上下水道処理、あるいは廃液処理など、多くの産業分野で利用されている。このような水処理用多孔質濾過膜の中で、限外濾過膜や精密濾過膜は水質の浄化などに多用されている。しかし水処理用多孔質濾過膜は疎水性が高く、ファウリングし易いことが問題となっている。ファウリングとは、原水に含まれるファウラントと呼ばれる原因物質、例えば、難溶性成分や、蛋白質、多糖類などの高分子の溶質、コロイド、微小固形物、微生物などが膜に沈着して透過流速を低下させる現象であり、膜性能低下の主要原因として知られている。
このような蛋白質や微生物を原因とするファウリングに対し、比較的効果の高い多孔質濾過膜の製造方法として、例えば、蛋白質や微生物などのファウラントを吸着抑制できる素材を、多孔質濾過膜に保持または吸着する方法が提案されている。
【0003】
例えば特許文献1には、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを重合した共重合体の溶液を多孔質濾過膜表面にコーティングし、ファウラントの吸着を抑制する方法が提案されている。
特許文献2には2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを重合した共重合体の溶液を凝固浴に入れ、製膜時に膜に共重合体を取り込む方法が提案されている。
また、特許文献3には、特定の2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを重合した共重合体の溶液をポリスルホンと混合することで製膜する製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−055870号公報
【特許文献2】特開2016−077922号公報
【特許文献3】国際公開第2002/009857号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、水処理用多孔質濾過膜に後処理として2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを重合した共重合体をコーティングするため、当該共重合体の保持が十分ではなく、経日による耐ファウリング性が低下するおそれがある。特許文献2では、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを重合した共重合体を凝固浴中に含有させるため、水処理用多孔質濾過膜中に保持されない共重合体が多く存在し、当該共重合体の使用効率が低く、製造コストが高いという問題がある。また、特許文献3では、水処理時におけるファウリング抑制効果は確認されておらず、水処理用多孔質濾過膜の製造方法としての検討はなされていない。また、水処理用途では次亜塩素酸ナトリウムなどの薬品で洗浄することも想定されるが、特許文献3の技術では、それら薬品に対する耐性(耐薬品性)について考慮されていない。
【0006】
そこで、本発明は、ファウリングを効果的に抑制して透水率に優れるとともに、ファウリングが生じた時の薬品等による洗浄後の透水率の回復にも優れる、水処理用ポリ塩化ビニル製多孔質濾過膜を高効率で製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の問題点を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、水処理用ポリ塩化ビニル製多孔質濾過膜の製造に当たり、該濾過膜の原料として、特定のホスホリルコリン基およびポリオキシアルキレン基を有する共重合体、並びにポリ塩化ビニルを用い、当該原料を含有する製膜原液を使用して特定の方法によって多孔質濾過膜を製造する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、共重合体(P)1〜5質量%、及びポリ塩化ビニル10〜20質量%を含有する製膜原液を調製する製膜原液調製工程(a)と、前記製膜原液をノズルまたはスリットを通して膜状に吐出させる吐出工程(b)と、吐出される前記膜状の製膜原液を凝固液に浸漬させ、多孔質膜を形成させる製膜工程(c)と、を有し、前記共重合体(P)は、下記式(1)のモノマー10〜40モル%と、下記式(2)のモノマー60〜90モル%との、重量平均分子量が10,000〜1,000,000の共重合体である、水処理用ポリ塩化ビニル製多孔質濾過膜の製造方法が提供される。
【化1】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキレン基を示し、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
【化2】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に炭素数2〜4のアルキレン基を示し、R10は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。n及びmはいずれも0〜15であり、かつn+mの値は7〜15である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、ポリ塩化ビニル製の多孔質膜に上記共重合体(P)が、該多孔質膜から容易に脱離できないように保持された水処理用ポリ塩化ビニル製多孔質濾過膜を製造することができる。すなわち、繰返しの洗浄や過激な薬品洗浄によっても共重合体(P)がポリ塩化ビニル製多孔質膜から溶出することがなく、ファウリング抑制効果が長期間維持できる水処理用ポリ塩化ビニル製多孔質濾過膜(以後、単に、本発明の濾過膜と称することがある)を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を詳細に説明する。
本発明の製造方法により製造できる本発明の濾過膜は、ポリ塩化ビニル製多孔質膜に共重合体(P)が強固に保持された水処理用ポリ塩化ビニル製多孔質濾過膜である。
【0011】
本発明の濾過膜の製造方法は、共重合体(P)とポリ塩化ビニルを溶解させた均一透明な一相となる製膜原液を調製し、これを凝固液に浸漬して製膜させることにより、ポリ塩化ビニル製多孔質膜に共重合体(P)が強固に保持された、透水性に優れる多孔質濾過膜を製造できる点に特徴がある。ここで、強固に保持とは、濾過膜の使用時および濾過膜の洗浄時において、共重合体(P)がポリ塩化ビニル製多孔質膜から脱離しないことを意味する。
【0012】
本発明の製造方法に使用する共重合体(P)は、下記式(1)のモノマー10〜40モル%と、下記式(2)のモノマー60〜90モル%とを共重合させた、重量平均分子量が10,000〜1,000,000の共重合体である。
【化3】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキレン基を示し、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
【化4】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に炭素数2〜4のアルキレン基を示し、R10は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。n及びmはいずれも0〜15であり、かつn+mの値は7〜15である。)
【0013】
すなわち、共重合体(P)は、下記式(3)の構造単位10〜40モル%、および下記式(4)の構造単位60〜90モル%からなる共重合体である。
【化5】
(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキレン基を示し、R、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
【化6】

(式中、Rは水素原子又はメチル基を示し、R及びRはそれぞれ独立に炭素数2〜4のアルキレン基を示し、R10は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。n及びmはいずれも0〜15であり、かつn+mの値は7〜15である。)
【0014】
式(3)の構造単位が10モル%未満で、式(4)の構造単位が90モル%を超える場合には、実用上十分なファウリング抑制効果を示さないおそれがある。一方、式(3)の構造単位が40モル%を超え、式(4)の構造単位が60モル%未満の場合には、共重合体中のポリオキシアルキレン基の割合が少なくなり、ポリ塩化ビニルとの親和性が低下し、製膜原液が均一透明溶液とならずに相分離を起こすおそれがある。その結果、基本的な濾過性能の点で満足のいく濾過膜を製膜できないおそれがある。
【0015】
共重合体(P)の原料である式(1)のモノマーとしては、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以後、MPCと略記する)、3−メタクリロイルオキシプロピルホスホリルコリン、4−メタクリロイルオキシブチルホスホリルコリン、2−メタクリロイルオキシエチル−2’−トリエチルアンモニオエチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチル−2’−トリブチルアンモニオエチルホスフェートが挙げられる。入手性の点からはMPCが特に好ましい。
【0016】
共重合体(P)のもう一つの原料である式(2)のモノマーの、−RO−、−RO−で表されるオキシアルキレン基としては、オキシエチレン基および/またはオキシプロピレン基が好ましい。ポリ塩化ビニルとの親和性が良好だからである。式(2)において、オキシアルキレン基の繰返し単位数n+mの値は、7〜15であり、好ましくは9〜13である。この範囲であれば、製膜原液を均一透明溶液として得るのに好適だからである。−RO−および−RO−のRとRの炭素数が異なる場合、−RO−および−RO−の各繰返し単位は、各オキシアルキレン基がブロックで結合していてもよく、ランダムに結合していてもよい。
式(2)のモノマーの具体例としては、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(以後、PPGMAと略記する)、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレート、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノアクリレート、ポリブチレングリコールモノメタクリレート、ポリブチレングリコールモノアクリレート、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)モノメタクリレート、ポリ(エチレングリコール−テトラメチレングリコール)モノアクリレート、ポリ(プロピレングリコール−テトラメチレングリコール)モノメタクリレート、ポリ(プロレングリコール−テトラメチレングリコール)モノアクリレートが挙げられる。入手性の点からはPPGMAが特に好ましい。
【0017】
共重合体(P)は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等いずれの構造であってもよく、これらの共重合体の混合物でもよい。
共重合体(P)の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による、標準ポリメチルメタクリレートを用いて換算した重量平均分子量(Mw)で、10,000〜1,000,000であり、好ましくは10,000〜500,000である。該分子量が10,000未満の場合には、共重合体(P)のポリ塩化ビニル製多孔質膜への保持力が不十分で、多孔質濾過膜を製膜した後、共重合体(P)が該濾過膜から脱離し易くなるおそれがある。その結果、十分なファウリング抑制効果を示さないおそれがある。一方、分子量が1,000,000を超える場合は、製膜原液用溶媒に難溶となるおそれがあり、製膜原液が均一透明溶液とならずに相分離を起こすおそれがある。その結果、基本的な濾過性能の点で満足のいく濾過膜を製膜できないおそれがある。
【0018】
共重合体(P)の重合法としては、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等公知の方法を用いることができ、例えば、式(1)のモノマーと式(2)のモノマーとを溶媒中で重合開始剤の存在下、重合反応させる方法を採用することができる。
前記重合反応に用いる溶媒としてはこれらのモノマーが溶解すればよく、具体的には、水、メタノール、エタノール、プロパノール、t−ブタノール、ベンゼン、トルエン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、クロロホルム等が挙げられ、2種以上を混合してもよい。
前記重合反応に用いる開始剤としては、通常の開始剤ならばいずれを用いてもよく、例えば、ラジカル重合の場合は脂肪族アゾ化合物や有機過酸化物を用いることができる。
【0019】
製膜原液中の共重合体(P)の含有量は1〜5質量%である。共重合体(P)が1質量%未満では、所望のファウリング抑制効果が得られず、共重合体(P)が5質量%を超えると、製膜原液が均一透明溶液になり難く、基本的な濾過性能の点で満足のいく濾過膜を製膜できないおそれがある。
【0020】
本発明の製造方法に用いるポリ塩化ビニルとしては、水処理膜用に使用できるグレードであれば特に制限なく使用できる。
【0021】
製膜原液中のポリ塩化ビニルの含有量は10〜20質量%である。この範囲であれば、本発明の濾過膜の製膜に好適な製膜原液を得ることができるからである。
【0022】
共重合体(P)とポリ塩化ビニルとの含有割合としては、ポリ塩化ビニル100質量部に対して共重合体(P)1〜25質量部が好ましく、1〜20質量部がより好ましい。共重合体(P)の含有量が1質量部未満では、所望のファウリング抑制効果がえられず、25質量部超では、ポリ塩化ビニル量が相対的に減少するため、製膜後の多孔質濾過膜の力学強度が低下するおそれがある。
【0023】
共重合体(P)とポリ塩化ビニルが上記含有量範囲で製膜原液に均一に溶解していることにより、製膜時において、共重合体(P)はポリ塩化ビニル製多孔質膜中に取り込まれ、該多孔質膜から容易に脱離しないように強固に保持される。その結果、繰返しのアルカリを用いた薬品洗浄や過激な薬品洗浄によって共重合体(P)が、ポリ塩化ビニル製多孔質膜から濾液中や洗浄液中等に溶出することなく、高いファウリング抑制効果を維持することができる。
【0024】
共重合体(P)がポリ塩化ビニル製多孔質膜に強固に保持される理由としては、両者を均一透明に溶解した製膜原液を調製して製膜させることにより、共重合体(P)が単にポリ塩化ビニル製多孔質膜の表面に吸着するのではなく、共重合体(P)の一部があたかも共結晶のようにポリ塩化ビニル中に取り込まれた形で膜化するからと考えられる。
【0025】
本発明の製膜原液用の溶媒としては、該製膜原液を凝固液中に浸漬(吐出)したときの相分離性の点でジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、およびN−メチルピロリドン等が好ましい。
【0026】
製膜のための凝固液としては、膜素材である共重合体(P)およびポリ塩化ビニルを溶解しない非溶媒である水単独、あるいは水および膜素材を溶解する溶媒、例えば上記製膜原液用の溶媒の混合溶媒を使用する。
混合溶媒を使用する場合は、水と膜素材を溶解する溶媒の混合割合としては、水100質量部に対して膜素材を溶解する溶媒1〜10質量部が好ましい。本発明の濾過膜の製膜が良好に進行するからである。
また、製膜原液100質量部に対して、凝固液を1,000〜100,000質量部使用することが好ましい。本発明の濾過膜の製膜が良好に進行するからである。
【0027】
次に、本発明の濾過膜の製造方法の詳細について説明する。
なお、本発明の製造方法によって製造し得る濾過膜の形状としては、中空糸膜状と平膜状を挙げることができる。
【0028】
1.熱誘起相分離法による中空糸膜状の本発明の濾過膜の製造方法
本発明の熱誘起相分離法では、高温で、膜素材である共重合体(P)およびポリ塩化ビニルを上記溶媒に溶解させて製膜原液を調製後、低温の凝固液(水または上記混合溶媒)で冷却することにより、膜素材の濃厚相と希薄相に相分離させる。この濃厚相からポリ塩化ビニル製多孔質膜に共重合体(P)が保持された本発明の濾過膜が析出して製膜される。
共重合体(P)は製膜される多孔質濾過膜のファウリング抑制に寄与すると共に、多孔質濾過膜の孔径制御の役割も担う。
【0029】
凝固液としては、下記に示す内部凝固液と外部凝固液とを使用し、内部凝固液、外部凝固液いずれも、水または上記混合溶媒を使用するが、両者は同一であってもよいし、一方が水、他方が混合溶媒であってもよく、また、混合溶媒中の溶媒の種類やその比率が異なるものであってもよい。
【0030】
次に、具体的な製造工程について説明する。
(1)製膜原液調製工程(a):共重合体(P)1〜5質量%、およびポリ塩化ビニル10〜20質量%を溶媒に添加し、50〜200℃に加温して溶解させ製膜原液を得る。
(2)吐出工程(b):製膜原液を2重紡糸ノズルより中空糸膜状に吐出させる。具体的には、2重紡糸ノズルへの製膜原液の供給と同時に、2重紡糸ノズルの芯部に内部凝固液を供給して吐出させる。中空糸膜の場合は、このように内部凝固液を使用するので、吐出された製膜原液の一部は本発明の濾過膜に製膜された状態となっているが、便宜上、「吐出された中空糸膜状の製膜原液」と称することとする。
(3)製膜工程(c):吐出される中空糸膜状の製膜原液を直ちに外部凝固液に浸漬させ冷却する。これによって、中空糸膜状の本発明の濾過膜の製膜を完全なものとする。外部凝固液の温度は0〜50℃である。
以上の製造工程を採ることにより、共重合体(P)がポリ塩化ビニル製多孔質膜に強固に保持された中空糸膜状の本発明の濾過膜が形成される。
なお、外部凝固液が水または水を含む混合溶媒であることによって、共重合体(P)の側鎖部分であるホスホリルコリン基はポリ塩化ビニル中に取り込まれず、ポリ塩化ビニル多孔質膜の表面に、濾液等と接触可能なように存在することができる(下記平膜状の場合も同様)。
【0031】
なお、製膜工程(c)の後に、30〜95℃の温水または熱水を用いて溶媒等を除去する洗浄工程、溶媒を抽出によって除去する抽出工程、および40〜70℃の乾燥工程を行ってもよい。また、すぐに使用しないときはグリセリンやエタノールを含む保存液で保存すればよい。
【0032】
2.熱誘起相分離法による平膜状の本発明の濾過膜の製造方法
平膜状の濾過膜の製造に当たっては、上記1.の中空糸膜状の濾過膜の製造と同じ製膜原液用溶媒、および凝固液を使用することができる。ただし、凝固液としては、中空糸膜状の外部凝固液に対応する1種類のみを使用する。
【0033】
次に、具体的な製造工程について説明する。
(1)製膜原液調製工程(a):共重合体(P)1〜5質量%、およびポリ塩化ビニル10〜20質量%を溶媒に添加し、50〜200℃に加温して溶解させ製膜原液を得る。
(2)吐出工程(b):製膜原液をスリットより平膜状に吐出させる。
(3)製膜工程(c):吐出される平膜状の製膜原液を直ちに凝固液に浸漬させ冷却して平膜状の本発明の濾過膜を製膜させる。凝固液の温度は0〜50℃である。
以上の製造工程を採ることにより、共重合体(P)がポリ塩化ビニル製多孔質膜に強固に保持された平膜状の本発明の濾過膜が形成される。
【0034】
なお、製膜工程(c)の後に、30〜95℃の温水または熱水を用いて溶媒等を除去する洗浄工程、溶媒を抽出によって除去する抽出工程、および40〜70℃の乾燥工程を行ってもよい。また、すぐに使用しないときはグリセリンやエタノールを含む保存液で保存すればよい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例および比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
以下に本発明に係る共重合体(P)である共重合体(P1)〜(P4)、および本発明の範囲外の共重合体(Q1)〜(Q3)の合成例を示す。
【0036】
合成例1:共重合体(P1)
MPC6.0gと、下記式(5)に示すPPGMA(n=13)24.0gとをジメチルアセトアミドと2−プロパノールの1:1混合溶媒120gに溶解し、4つ口フラスコに入れ、30分間窒素を吹き込んだ。続いて、重合開始剤としてパーブチル−ND(登録商標)(日油(株)製)0.55gを添加し、60℃で3時間、さらに70℃で2時間重合した。重合終了後、エバポレーションにより2−プロパノールを留去し濃度調整して50質量%の共重合体(P1)を含むジメチルアセトアミド溶液を得た。
合成した共重合体(P1)の重量平均分子量測定方法を以下に示す。
【化7】
【0037】
<分子量測定>
得られた共重合体(P1)溶液を2w/v%になるよう溶離液である0.5質量%の臭化リチウムを含むメタノール/クロロホルム(4/6;容量比)で希釈した。この溶液を試験溶液とし、検出器に示唆屈折率計を用いてポリメチルメタクリレート標準による換算値としてGPCによる重量平均分子量(Mw)を測定・算出した。
<GPC分析の測定条件>
カラム;PL gel Mixed Cの2本を直列に配列(PolymerLaboratories Ltd.製)、溶離溶媒;0.5重量%の臭化リチウムを含むクロロホルム/エタノール(6/4;容量比)溶液、標準物質;ポリメチルメタクリレート(Polymer Laboratories Ltd.製)、検出;示差屈折計RI−8020(東ソー株式会社製)、流速;0.5mL/分、試料溶液使用量;100μL、カラム温度;40℃。
【0038】
合成例2〜7:共重合体(P2)〜(P4)、および共重合体(Q1)〜(Q3)
表1に示すモノマー組成で、表1に示すMwとなるように、重合液濃度、重合開始剤濃度や重合反応温度などを変更した以外は合成例1と同様にして各共重合体(P)及び共重合体(Q)を合成した。Mwは合成例1と同様に測定・算出した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
(実施例1)熱誘起相分離法による平膜状の本発明の濾過膜の製造
(1)製膜原液調製工程(a):ポリ塩化ビニル(積水化学工業製)30質量部を、ジメチルアセトアミド(DMAc)20質量部に加えて130℃で6時間攪拌溶解した。次に、共重合体(P1)10質量部を、DMAc140質量部に室温下で溶解した。調製したポリ塩化ビニル/DMAc溶液50質量部と、共重合体(P1)/DMAc溶液150質量部とを60℃で混合し製膜原液を得た。得られた製膜原液は均一透明溶液であった。製膜原液中の共重合体(P1)およびポリ塩化ビニルの濃度は表2に示した通りであった。
(2)吐出工程(b):120℃に保温した製膜原液をスリットより平膜状に吐出させた。
(3)製膜工程(c):吐出された平膜状の製膜原液を、純水の凝固液に浸漬させて製膜させ、巻き取った。この時、凝固液の温度は20℃とした。
(4)洗浄工程:製膜が完了した平膜を90℃の熱水で洗浄し、過剰の共重合体(P1)および溶媒を除去した。
(5)乾燥工程:洗浄後の平膜を40℃で5時間乾燥させた。
以上の様にして、平膜状の本発明の濾過膜を製造した。以後、該濾過膜を実施例1の濾過膜1と称し、他の実施例についても同様に称する。得られた実施例1の濾過膜1を用いて以下の試験を行った。
【0041】
実施例1の濾過膜1について、まず、純水を用いて透水量(LMH/Bar)を測定した(初期透水量)。続いて、モデルファウラントとして1,000ppmの牛血清アルブミン溶液を用い、該溶液を60分間透水した。その後、純水を用いて0.01MPaで透水方向を逆にした逆洗浄を2分間行った。逆洗浄後、再び純水を用いて透水量(LMH/Bar)を測定し(逆洗浄後透水量)、透水回復率(%)を評価した。透水回復率(%)とは下記式(6)で表される値である。透水量の単位「LMH/Bar」は、1気圧下、1時間当たり、濾過膜1m当たりの純水の濾過膜通過量(L)を表す。
結果を表2に示す。
透水回復率(%)=(逆洗浄後透水量/初期透水量)×100 (6)
【0042】
(実施例2〜5)
表1の合成例1〜4で合成された共重合体(P1)〜(P4)を使用し、各共重合体およびポリ塩化ビニルの濃度が表2に示す濃度となるように製膜原液を調製した以外は、実施例1と同様にして実施例2〜5の濾過膜2〜5を得た。濾過膜2〜5について、実施例1と同様に透水量および透水回復率を測定した。結果を表2に示す。
【0043】
(比較例1、2)
表1の合成例1で合成された共重合体(P1)を使用し、各共重合体およびポリ塩化ビニルの濃度が表3に示す濃度となるように製膜原液を調製した以外は、実施例1と同様にして各比較例の濾過膜を得た。比較例1、2の濾過膜を各々濾過膜6、7とする。該濾過膜6、7について、実施例1と同様に透水量および透水回復率を測定した。結果を表3に示す。
【0044】
(比較例3〜5)
表1の合成例5〜7で合成された共重合体(Q1)〜(Q3)を使用し、各共重合体およびポリ塩化ビニルの濃度が表3に示す濃度となるように製膜原液を調製した以外は、実施例1と同様にして各比較例の濾過膜を得た。比較例3〜5の濾過膜を各々濾過膜8〜10とする。該濾過膜8〜10について、実施例1と同様に透水量および透水回復率を測定した。結果を表3に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
表2から明らかなように、実施例1〜5は、本発明の製造方法で製造した本発明の濾過膜を使用しているので、初期透水量、および透水回復率の点において、表3に示す比較例1、3、5に比較して顕著に優れていた。製膜原液が相分離した比較例2および4は濾過膜を製造できなかった。なお、比較例5は相分離したが濾過膜の製造は可能であった。
以上の通り、本発明に係る製造方法は、耐ファウリング性に顕著に優れる水処理用ポリ塩化ビニル製多孔質濾過膜を製造できることが判った。