【課題】ゴルフボールの最外層のカバー材として、これまで使用されたことのなかった特定の構造を有するポリヒドロキシウレタン樹脂を利用することで、耐擦過傷性及び耐汚染性などの耐久性に優れ、且つ、成形品が打感に直結する適度な表面硬度を有するものになる、ゴルフボールのカバー材として有用なポリウレタン樹脂組成物の開発。
【解決手段】圧縮成形法や射出成型法による加工に利用されるゴルフボールのカバー材用の樹脂組成物であって、熱可塑性ポリウレタン樹脂を主成分とし、一般式(1)の繰り返し単位を構造中に有するポリヒドロキシウレタン樹脂を、樹脂組成物中に1〜30質量%の範囲で含有してなるポリウレタン樹脂組成物。
前記ポリヒドロキシウレタン樹脂中に含まれるウレタン結合の一部又は全部が、エポキシ基と二酸化炭素との反応物である五員環環状カーボネート基と、アミノ基との付加反応物であり、該付加反応物中における前記二酸化炭素に由来する−O−CO−構造の、ポリヒドロキシウレタン樹脂中に占める割合が1〜30質量%である請求項1に記載のポリウレタン樹脂組成物。
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂が、ショアA硬度60〜90である熱可塑性エーテル系ポリウレタン樹脂又はカーボネート系ポリウレタン樹脂を含有する請求項1〜4の何れか1項に記載のポリウレタン樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、発明を実施するための最良の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
(ポリヒドロキシウレタン樹脂)
本発明の樹脂組成物は、ポリウレタン樹脂系のゴルフボールのカバー材用であって、前記した一般式(1)の繰り返し単位を構造中に有するポリヒドロキシウレタン樹脂を必須成分とし、該ポリヒドロキシウレタン樹脂を樹脂組成物中に1〜30質量%の範囲で含有してなることを特徴とする。本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂は、前記した一般式(1)で示される化学構造を繰り返し単位とし、該樹脂は、例えば、1分子中に少なくとも2つの五員環環状カーボネート基を有する化合物(以下、単に「環状カーボネート」と呼ぶ場合がある)と、1分子中に少なくとも2つのアミノ基を有する化合物とをモノマー単位として、これらの重付加反応物として得ることができる。そして、高分子鎖を形成する環状カーボネートと、アミノ基との重付加反応では、下記に示すように、環状カーボネートの開裂が2種類あるため、2種類の構造の生成物が得られることが知られている。
【0017】
従って、上記したモデル反応の多官能モノマーの重付加反応によって得られるポリヒドロキシウレタン樹脂は、下記一般式(1)中のZ部の構造として、下記一般式(2)〜(5)の何れかがランダムに混在して含まれる構造になる。なお、一般式(4)及び(5)に示されるように、X部の構造の脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基には、脂肪族炭化水素基が結合した基も含まれる。
【0018】
[一般式(1)中、Xは、直接結合であるか、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基又は炭素数4〜40の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜40の芳香族炭化水素基の何れかの基であり、これらの基は、その構造中に、エーテル結合、アミノ結合、スルホニル結合、エステル結合及びウレタン結合から選ばれる何れかの結合、或いは、水酸基又はハロゲン原子又は繰り返し単位1〜30の炭素数2〜6からなるポリアルキレングリコール鎖の何れかを有していてもよい。Yは、炭素数1〜15の脂肪族炭化水素基、炭素数4〜15の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜15芳香族炭化水素基の何れかの基であり、これらの基は、その構造中に、エーテル結合又はスルホニル結合の何れかの結合、或いは、水酸基又はハロゲン原子の何れかを有していてもよい。Zは、それぞれ独立に、下記一般式(2)〜(5)から選ばれる少なくとも何れかの構造を示し、繰り返し単位内及び繰り返し単位間のいずれにおいても、これらの一般式(2)〜(5)から選ばれる2種以上の構造が混在してもよい。]
【0019】
[一般式(2)〜(5)中、Rは、水素原子又はメチル基を示し、これらの何れの式を選択した場合も、右側の結合手は酸素原子と結合し、且つ、左側の結合手はXと結合し、Xが直接結合の場合は、他方のZの左側の結合手と結合する。]
【0020】
このように本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂は、主鎖に、ウレタン結合と水酸基を有した化学構造を持つことに特徴がある。これに対し、従来から工業的に利用されているポリウレタン樹脂の製法では、ウレタン結合をイソシアネート化合物とポリオール化合物とから得ており、主鎖に水酸基を有する構造体を得ることは不可能である。このため、上記構造を有するポリヒドロキシウレタン樹脂は、従来のポリウレタン樹脂とは明確に区別される新規な構造を持った樹脂であるといえる。
【0021】
主鎖における水酸基の存在は、本発明において特に重要なポイントであり、この水酸基を架橋点として利用することで、この架橋点に由来した架橋構造をその構造中に有する成形品(架橋体)は、耐擦過傷性や耐汚染性が向上し、また、基材との密着性の向上にも寄与する。このため、本発明の樹脂組成物は、上記した本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂と、硬化剤(架橋剤)とを併用したものであることが好ましい。この点については後述する。
【0022】
上記特有の構造を有する本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂は、最終的な成形品の強度と加工性の点から、重量平均分子量が10000〜100000であることが好ましい。また、本発明は、機能性に優れるゴルフボールのカバー材を見出すことを目的としていることから、本発明の樹脂組成物は、カバー材に適用した場合に、ゴルフボールの打感及びスピン性能及び飛距離性能をバランスするものであることが要望される。このため、本発明のポリウレタン樹脂組成物は、射出成型法などによる成形品としてゴルフボールを得た場合に、その表面硬度が、適度な範囲にあることが好ましい。本発明者らの検討によれば、本発明を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂は、その硬度が、ショアA硬度(未硬化)で60〜98であることが好ましい。なお、本発明のポリウレタン樹脂組成物は、該組成物をゴルフボールのカバー材に用い、射出成型法などによる加工によってゴルフボールを得た場合、成形品のショアA硬度が70〜80となるように構成することが好ましい。
【0023】
また、前述のごとく、本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂の構造中の水酸基を架橋反応に利用するために、該樹脂中の水酸基量を表す水酸基価(JIS K1557)は、100〜200mgKOH/gの範囲にあることが好ましい。より好ましい水酸基価範囲は、150〜200mgKOH/gである。これら水酸基価は、原材料となる環状カーボネート及びアミン化合物の分子量により決定される。後述する使用可能な化合物の中から適切な組み合わせを選定することによって、調整することができる。
【0024】
本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂は、環状カーボネート化合物とアミン化合物とから得られるが、ここで使用する環状カーボネート化合物は、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応によって得られたものであることが好ましい。具体的には、下記のようにして得られる環状カーボネート化合物を用い、本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂を合成することが好ましい。例えば、原材料であるエポキシ化合物を、触媒の存在下、0℃〜160℃の温度にて、大気圧〜1MPa程度に加圧した二酸化炭素雰囲気下で4〜24時間反応させる。この結果、二酸化炭素を、エステル部位に固定化した環状カーボネート化合物を得ることができる。
【0025】
上記のようにして二酸化炭素を原料として合成された環状カーボネート化合物を使用することによって、得られたポリヒドロキシウレタン樹脂は、その構造中に二酸化炭素が固定化された−O−CO−結合を有したものとなる。二酸化炭素由来の−O−CO−結合(二酸化炭素の固定化量)のポリウレタン樹脂中における含有量は、二酸化炭素の有効利用の立場からはできるだけ高くなる方がよい。例えば、上記した環状カーボネート化合物を用いることで、本発明で用いるポリヒドロキシウレタン樹脂の構造中に1〜30質量%の範囲で、二酸化炭素を含有させることができる。すなわち、上記のポリヒドロキシウレタン樹脂は、その質量のうちの1〜30質量%を原料の二酸化炭素由来の−O−CO−結合が占める樹脂であることを意味する。
【0026】
先に述べたエポキシ化合物と二酸化炭素との反応に使用される触媒としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムなどのハロゲン化塩類や、4級アンモニウム塩が好ましいものとして挙げられる。その使用量は、原料のエポキシ化合物100質量部当たり1〜50質量部が好ましく、より好ましくは1〜20質量部である。また、これら触媒となる塩類の溶解性を向上させるために、トリフェニルホスフィンなどを同時に使用してもよい。
【0027】
エポキシ化合物と二酸化炭素との反応は、有機溶剤(反応溶媒)の存在下で行うこともできる。この際に用いる有機溶剤としては、前述の触媒を溶解するものであれば使用可能である。具体的には、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤が、好ましい有機溶剤として挙げられる。
【0028】
本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂の製造に使用可能な環状カーボネート化合物の構造には特に制限がなく、一分子中に2つ以上の環状カーボネート構造を有するものであれば使用可能である。例えば、ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つものや、脂肪族系や脂環式系のいずれの環状カーボネートも使用可能である。以下に使用可能な化合物を例示する。
【0029】
ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つものとして以下の化合物が例示される。なお、式中のRは、H又はCH
3である。
【0031】
脂肪族系や脂環式系の環状カーボネートとして以下の化合物が例示される。なお、式中のRは、H又はCH
3である。
【0033】
前記に例示した各種環状カーボネート化合物を組み合わせることで、ポリヒドロキシウレタン樹脂の硬度を調整することが可能である。特に、硬度を低下させる目的においてはポリプロピレングリコール骨格やポリテトラメチレングリコール骨格などの繰り返し単位を有する脂肪族系カーボネート化合物が有用である。しかし、特殊な構造の環状カーボネートを使用することは工業的にコスト増となる点で課題を有しており、そのような化合物の代用として、以下の一般式(7)で表される環状カーボネート化合物を使用することが好ましい。
【0034】
[一般式(7)中、Aはポリイソシアネート由来の化学構造であり、Bは、ポリオール由来の化学構造である。mは1〜6の何れかの数である。]
【0035】
上記した一般式(7)で表される環状カーボネート化合物は、(a)ポリオール、(b)ポリイソシアネート、及び、(c)グリセリンカーボネート或いはグリシドールを原料として製造することが可能である。
【0036】
上記(a)成分であるポリオールは特に限定されず、ポリウレタン樹脂の製造に一般的に使用されるものである。例えば、カプロラクトン系やアジペート系のポリエステ系ポリオール、ポリプロピレングリコール系やポリエチレンオキサイド系、ポリテトラメチレングリコール系などのポリエーテル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオールなどが挙げられ、いずれも使用可能である。
【0037】
上記(b)成分であるポリイソシアネートについても、特に限定されない。好ましい化合物を例示すると、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0038】
上記(c)成分としては、グリセリンカーボネートが使用される。代わりに、グリシドールを使用し得られたエポキシ末端の化合物から二酸化炭素を使用し、環状カーボネート化合物を得てもよい。
【0039】
一般式(7)で表される環状カーボネート化合物の製造方法は、上記した(a)成分、(b)成分及び(c)成分を混合することにより得られる。その反応順は、特に限定されない。中でも、まず、(a)成分と(b)成分を反応させ、イソシアネート基が一定量減少した段階で、(c)成分を添加する反応方法が好ましい。反応順をこのようにすれば、分子量が低く反応しやすい(c)成分による反応熱を抑えることができるため、工業的には好ましい。
【0040】
それぞれの成分の配合比率は、最終的なカーボネート基の濃度を制御するために重要である。例えば、(a)成分と(b)成分の反応モル比率(OH基:NCO基のモル比率)は、1:2〜1:1.2の範囲であることが好ましく、より好ましい範囲は、1:2〜1:1.5の範囲である。また、(c)成分の配合比率は、過剰なイソシアネート基のモル比に対して当量が基本であり、当量から10%前後の範囲であれば使用可能である。
【0041】
前記した一般式(7)で表される化合物の合成は、無溶剤でも有機溶剤(反応溶媒)下でも行うことが可能であり、通常のポリウレタン樹脂の合成で使用される溶剤であれば特に制限なく使用することが可能である。好ましい溶剤を例示すると、例えば、トルエン、キシレン、ベンゼン、ヘキサン、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミドN−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。使用した溶剤は、そのままとし、環状カーボネート化合物の溶液として次工程に使用してもよいし、また、必要に応じて減圧留去して、無溶剤状態の環状カーボネート化合物とし、これを次工程に使用してもよい。
【0042】
また、上記反応は、触媒を使用することで促進することが可能である。その際、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミン(DABCO)、ピリジン、ヒドロキシピリジンなどの塩基性触媒や、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウリレートなどのルイス酸触媒などが使用できる。これらの触媒の好ましい使用量は、反応物の総量(100質量部)に対して、0.001〜0.1質量部程度である。
【0043】
反応温度は、前記した有機溶剤、触媒の種類により最適な温度が変化する。好ましくは、20℃〜140℃の範囲内であり、より好ましくは、60℃〜120℃で反応が進行するように触媒量を調整するとよい。
【0044】
本発明を構成し、本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂は、上記に列挙したような環状カーボネート化合物と、多官能アミン化合物との反応によって容易に製造できる。また、製造の際に使用する多官能アミン化合物としては、従来公知の化合物のいずれのものも使用できる。好ましいものとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノへキサン、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,6−シクロヘキサンジアミン、ピペラジン、2,5−ジアミノピリジンなどの環状脂肪族ポリアミンや、キシリレンジアミンなどの芳香環を持つ脂肪族ポリアミンや、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミンなどが挙げられる。
【0045】
上記した成分から得られる本発明を構成し、本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂の製造方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、下記のような方法によって容易に得ることができる。すなわち、反応溶媒の存在下或いは反応溶媒の非存在下で、前記したような環状カーボネート化合物とアミン化合物とを混合し、40〜200℃の温度で4〜24時間反応させることで得ることができる。
【0046】
製造に使用可能な反応溶媒としては、使用する原料及び得られたポリヒドロキシウレタン樹脂に対して不活性な有機溶剤であれば、いずれも使用可能である。好ましいものを例示すると、例えば、メチルエチルケトン、メチル−n−プロピルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド、パークロルエチレン、トリクロルエチレン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。
【0047】
本発明を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂の製造は、上記したように、特に触媒を使用せずに行うことができる。しかし、反応を促進させるために、下記に挙げるような触媒の存在下で行うことも可能である。例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)トリエチレンジアミン(DABCO)、ピリジンなどの塩基性触媒、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウリレートなどのルイス酸触媒などが使用できる。これらの触媒の好ましい使用量は、使用するカーボネート化合物とアミン化合物の総量(100質量部)に対して、0.01〜10質量部である。
【0048】
(硬化剤)
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、上記のようにして得られたポリヒドロキシウレタン樹脂を必須成分として含有してなるが、ゴルフボールのカバー材用であることから、必須成分である上記したポリヒドロキシウレタン樹脂に、更に、硬化剤を併用した形態とすることがより好ましい。以下、本発明で使用し得る硬化剤にについて、説明する。
【0049】
本発明で規定する硬化剤とは、本発明で規定するポリヒドロキシウレタン樹脂の主鎖中に含まれる水酸基と反応する成分を指す。硬化剤は、本発明を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂の水酸基に対して、0.5当量から1.2当量程度の範囲で使用することが好ましい。特に好ましくは、0.9当量から1.1当量の範囲で使用するとよい。硬化剤を1.0当量よりも少ない量で使用し、未反応の水酸基を残すメリットとしては、更にもう一層上にクリア層などで被膜を形成する場合の密着成分として機能することが挙げられる。逆に、イソシアネート等の硬化剤を1.0当量よりも多くして過剰に使用すると、本発明のポリウレタン樹脂組成物において、上記したポリヒドロキシウレタン樹脂と併用する、後述する主成分である熱可塑性ポリウレタン樹脂との反応による相溶性の向上に寄与できる。
【0050】
本発明において使用する特に好ましい硬化剤は、ポリイソシアネート類である。具体的には、例えば、トルエンイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフタレンジイソシアネート(NDI)、キシリレンレンジイソシアネート、などの芳香族イソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、水添化MDI、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネートなどの脂肪族イソシアネートが挙げられ、いずれも使用可能である。
【0051】
また、作業性に優れる3官能以上のイソシアネート基を有するイソシアヌレート型、ビウレット型、アダクト型、などの多官能イソシアネートも使用可能であり、成形品の必要物性、コストに合わせて選択可能である。
【0052】
本発明のポリウレタン樹脂組成物においては、前記に挙げたようなポリイソシアネートと同様に、ブロックイソシアネートも好適な架橋剤として使用可能である。本発明に使用可能なブロックイソシアネートは特に限定されないが、例えば、前記に挙げたポリイソシアネート類をブロック剤でブロックした化合物は、いずれも使用可能である。この際に使用するブロック剤としては、オキシム類、ラクタム類、フェノール類、活性メチレン類、ピラゾール類、メルカプタン類及びイミダゾール類などが挙げられる。これらブロックイソシアネートの解離温度は、イソシアネートの化学構造とブロック剤の化学構造の組み合わせにより制御することができる。圧縮成形法や射出成型法による加工を考慮した作業性の観点からは、解離温度は80℃〜160℃であることが好ましい。
【0053】
(熱可塑性ポリウレタン樹脂)
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、先述した特定の構造を有するポリヒドロキシウレタンを必須成分とし、且つ、樹脂組成物中に1〜30質量%の範囲で含有してなることを特徴とし、好適には上記したような硬化剤(架橋剤成分)を含有してなる。本発明のポリウレタン樹脂組成物は、その主成分として熱可塑性ポリウレタン樹脂を含有してなる。使用する熱可塑性ポリウレタン樹脂は特に限定されず、例えば、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系、シリコーン変性系など、公知のポリウレタン樹脂がいずれも使用できる。これら熱可塑性ポリウレタンは、下記に挙げたような市販品を使用することが可能である。例えば、レザミン(商品名、大日精化工業社製)、ミラクトラン(商品名、日本ミラクトラン社製)、エラストラン(商品名、BASFジャパン)、パンデックス(商品名、DICコベストロポリマー社製)などが挙げられる。多種多様な熱可塑性ポリウレタン樹脂の中でも、本発明のポリウレタン樹脂組成物は、ゴルフボールのカバー材用であることから、耐加水分解性に優れるエーテル系かカーボネート系であって、そのショアA硬度が60〜90、より好ましくは70〜80であり、反発弾性が50%〜70%であるものが好ましい。
【0054】
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、下記のような方法で得ることができる。上記に挙げたような熱可塑性ポリウレタン樹脂を主成分として用い、これに、本発明で規定する特有の構造を有するポリヒドロキシウレタン樹脂を、樹脂組成物中に1〜30質量%の範囲内で添加し、必要に応じて架橋剤成分である硬化剤を加え、これらの成分を溶融状態に混練することで容易に得られる。混練には、一軸、及び2軸押し出し機、バンバリーミキサー、ニーダーやその他高分子ブレンド用の一般的な混練装置が使用可能である。主成分である熱可塑性ポリウレタン樹脂は、樹脂組成物中に70〜90質量%となる範囲で使用されることが好ましい。本発明で規定する特有の構造を有するポリヒドロキシウレタン樹脂の樹脂組成物中における比率が、本発明で規定した範囲よりも高くなると、混練操作中にゲル化が起こりやすくなる。逆に、ポリヒドロキシウレタン樹脂の樹脂組成物中における比率が低い場合は、本発明の効果である耐擦過傷性等の性能が十分に得られなくなる。
【0055】
混練の条件は、本発明のポリウレタン樹脂組成物を構成する必須の成分である、熱可塑性ポリウレタン樹脂の種類と、ポリヒドロキシウレタン樹脂の種類、必要に応じて使用する硬化剤(架橋剤)の種類によって異なるが、概ね180℃〜210℃で5分〜30分程度である。なお、硬化剤を使用する場合、本発明のポリウレタン樹脂組成物を構成する必須の成分であるポリヒドロキシウレタン樹脂と、硬化剤(架橋剤)は完全に反応させる必要はなく、均一化した時点で終了することが好ましい。未反応の硬化剤(架橋剤)は、次工程である、圧縮成形法や射出成型法による成形工程の熱により完全に硬化させることができる。本発明者らの検討によれば、上記したように、未反応の硬化剤(架橋剤)を、成形工程で硬化させる構成とした方が、より好ましい架橋形態の硬化体(成形品)を得ることができる。
【0056】
本発明のポリウレタン樹脂組成物を使用して、ゴルフボールのカバー材を成形する方法としては、圧縮成形法や射出成型法が適用可能である。より好ましい方法としては、射出成型法である。本発明の樹脂組成物は、カバー層用の樹脂であるが、シングルピースボールのようにコア層を含んで使用することも可能である。
【0057】
本発明のポリウレタン樹脂組成物は、必要に応じて、下記に挙げるような添加剤を加えてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤(ヒンダードフェノール系、ホスファイト系、チオエーテル系など)や、光安定剤(ヒンダードアミン系など)や、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系など)や、ガス変色安定剤(ヒドラジン系など)や、加水分解防止剤(カルボジイミドなど)や、金属不活性剤などが挙げられる。これらの添加剤は2種類以上を併用してもよい。同様に、意匠性を付与する目的で金属フィラーや艶消し材、各種顔料を、添加して含有させてもよい。
【実施例】
【0058】
次に、具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。しかし、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における「部」及び「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0059】
<製造例1>[環状カーボネート含有化合物(I)の合成]
エポキシ当量187のビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「エポトートYD−128」、新日鉄住金化学社製)100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬社製)20部と、N−メチル−2−ピロリドン150部とを、撹拌装置及び大気解放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間の反応を行った。その後、反応液に300部の水を加え、生成物を析出させ、濾別した。得られた白色粉末をトルエンにて再結晶を行い、白色の粉末52部(収率42%)を得た。
【0060】
得られた白色の粉末を、赤外分光法(IR)(日本分光社製の装置、商品名「FT/IR−350」を使用、他の例も同様)にて分析したところ、910cm
-1付近の原材料のエポキシ由来のピークは消失しており、1800cm
-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル由来のピークが確認された。また、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(日本分光社製の装置、商品名「LC−2000」を使用)による分析(カラム:FinePakSIL C18−T5、移動相:アセトニトリル+水)の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は98%であった。また、示差走査熱量測定(DSC測定)の結果、融点は178℃であり、融点の範囲は±5℃であった。以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された、下記式で表される構造の化合物と確認された。これを環状化合物(I)と呼ぶ。この環状化合物(I)の化学構造中に占める二酸化炭素由来の成分の割合は、20.5%であった(計算値)。
【0061】
【0062】
<製造例2>[環状カーボネート含有化合物(II)の合成]
エポキシ当量435のエポキシ樹脂(商品名「エポゴーセーPT」、四日市合成社製)100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬社製)8.6部と、N−メチル−2−ピロリドン150部とを、撹拌装置及び大気解放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間の反応を行った。その後、反応終了後、酢酸エチル400部及び水800部を加え1時間撹拌した。その後、酢酸エチル相を回収し、エバポレーターにて溶剤除去を行いオイル状の化合物90.4部(収率82.1%)を得た。
【0063】
得られた化合物をIRにて分析したところ、910cm
-1付近の原材料エポキシ由来のピークは消失しており、一方、1800cm
-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル基に由来するピークが確認された。また、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を移動相としたゲル滲透クロマトグラフィー(GPC)の測定の結果、得られた物質の重量平均分子量は970(ポリエチレンオキサイド換算)であった。以上のことから、この物質は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により5員環環状カーボネート基が導入された、下記式で表される構造の化合物と確認された。これを環状化合物(II)と呼ぶ。この環状化合物(II)の化学構造中に占める二酸化炭素由来の成分の割合は、9.2%であった(計算値)。
【0064】
【0065】
<製造例3>[ポリオールカーボネート含有化合物(III)の合成]
撹拌機、温度計、及び還流冷却器を備えた反応容器に、数平均分子量1000のポリエーテルポリオール(商品名「PPG−1000」、三洋化成工業社製)100部及びイソホロンジイソシアネート(IPDI)44.4部を入れた。そして、固形分30%になるようにN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を入れて均一に溶解させた後、60℃で7時間反応させた。NCO%が1.7%となったことを確認した後、グリセリンカーボネート23.6部を加え、更に5時間反応させた。IRにて2260cm
-1付近のNCOピークが消失していることを確認し、下記式で表される、本発明で規定する一般式(6)に該当する構造を有する化合物と確認された。これを環状化合物(III)と呼ぶ。
【0066】
【0067】
<製造例4>[ポリヒドロキシウレタン樹脂Aの合成]
トルク計付き撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、製造例1で得た環状化合物(I)を100部、ヘキサメチレンジアミン(旭化成ケミカルズ社製)を25.9部、加えた。更に、反応溶媒として、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)125.9部を加え、100℃の温度で撹拌しながら、24時間反応を行い、固形分50%のポリヒドロキシウレタン樹脂の溶液を得た。得られた樹脂の溶液をIRにて分析したところ、1800cm
-1にあったカーボネートのカルボニル由来のピークは消失し、1760cm
-1付近に新しくウレタン結合のカルボニル由来のピークが生成していることを確認した。
【0068】
上記で得られた樹脂の、DMFを移動相としたGPC測定による重量平均分子量は、34000(ポリスチレン換算)であり、また、固形分換算の水酸基価は、198.9mgKOH/gであった。この得られた樹脂溶液を、5倍量のメタノール中に徐々に注ぎ込み析出させた後、沈殿物として濾別した。そして、得られた濾過物を80℃のオーブンで乾燥させることで、ポリヒドロキシウレタン樹脂Aを得た。
【0069】
JIS−K7311に準拠して、上記で得られた樹脂Aから、140℃の熱プレスにより試験片を作製し、強度物性を測定した。具体的には、引張試験装置(型名「オートグラフ AGS−100A」、島津製作所社製)を使用し、25℃の温度条件下、上記で作製した試験片を用いて、引張速度100mm/minで測定した。その結果、ポリヒドロキシウレタン樹脂Aの破断強度は60MPa、破断伸度は6%であった。
【0070】
上記で得られたポリヒドロキシウレタン樹脂AのショアA硬度の測定は、以下のようにして行った。まず、140℃にて射出成型を行い、厚さ6mmの試験片を作製した。得られた試験片を用いて測定したショアA硬度(JIS K 6301に準拠)は、98であった。得られた樹脂の組成と特性を表1に示した。
【0071】
<製造例5>[ポリヒドロキシウレタン樹脂Bの合成]
製造例1で得た環状化合物(I)を100部、製造例2で得た環状化合物(II)を50部、ヘキサメチレンジアミン(旭化成ケミカルズ社製)を32.0部、反応溶媒として、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)182.0部を用いて、製造例4と同様にして反応を行い、ポリヒドロキシウレタン樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液のIR測定の結果は製造例4と同様であり、GPC測定による重量平均分子量は、39000(ポリスチレン換算)であった。また、固形分換算の水酸基価は152.3mgKOH/gであった。
【0072】
次に、得られた樹脂溶液を用い、製造例4で行ったと同様に、樹脂を析出・乾燥して、ポリヒドロキシウレタン樹脂Bを得た。また、製造例4と同様にして測定した、ポリヒドロキシウレタン樹脂Bの特性試験値は、破断強度が18MPa、破断伸度が520%であり、また、ショアA硬度は60であった。得られた樹脂の組成と特性を表1に示した。
【0073】
<製造例6>[ポリヒドロキシウレタン樹脂Cの合成]
製造例1で得た環状化合物(I)を100部、製造例3で得た環状化合物(III)を30部、1,12−ドデカンジアミン(小倉合成工業社製)を48.3部、反応溶媒として、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)178.3部を用いて、製造例4と同様にして反応を行い、ポリヒドロキシウレタン樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液のIR測定の結果は製造例4と同様であり、GPC測定による重量平均分子量は、34000(ポリスチレン換算)であった。また、固形分換算の水酸基価は164.1mgKOH/gであった。
【0074】
次に、得られた樹脂溶液を用い、製造例4で行ったと同様に、樹脂を析出・乾燥して、ポリヒドロキシウレタン樹脂Cを得た。また、製造例4と同様にして測定した、ポリヒドロキシウレタン樹脂Cの特性試験値は、破断強度が31MPa、破断伸度が300%であり、また、ショアA硬度は78であった。得られた樹脂の組成と特性を表1に示した。
【0075】
【0076】
[実施例1]
バンバリーミキサー(商品名;ラボプラストミルB75型 東洋精機社製、その他の例でも使用)に、熱可塑性ポリウレタンエラストマーであるレザミンP2275(商品名、大日精化工業社製、ショアA硬度76、その他の例でも使用)を40部と、先に調製したポリヒドロキシウレタン樹脂Aを5部と、更に、架橋剤として、クロスネートEM30(大日精化工業社製のイソシアネート系架橋剤、その他の例でも使用)5部とを仕込み、190℃で5分の混合を行った。樹脂を取り出し、一度冷却下後に粉砕機にて粉砕し、樹脂フレークを得た。このようにして得られた樹脂フレークを使用して、190℃にて熱溶融して射出成型を行い、試験片とした。調製した試験片の大きさは、縦5cm、横5cm、厚み6mmであり、他の例でも同様の大きさの試験片を得た。
【0077】
[実施例2]
バンバリーミキサーに、レザミンP2275を40部と、先に調製したポリヒドロキシウレタン樹脂Bを5部と、更に、架橋剤として、クロスネートEM30を5部仕込み、190℃で5分の混合を行った。樹脂を取り出し、一度冷却下後に粉砕機にて粉砕し、樹脂フレークを得た。このようにして得られた樹脂フレークを使用して、190℃にて熱溶融して射出成型を行い、試験片とした。
【0078】
[実施例3]
バンバリーミキサーに、レザミンP2275を40部と、先に調製したポリヒドロキシウレタン樹脂Cを5部と、更に、架橋剤として、クロスネートEM30を5部仕込み、190℃で5分の混合を行った。樹脂を取り出し、一度冷却下後に粉砕機にて粉砕し、樹脂フレークを得た。このようにして得られた樹脂フレークを使用して、190℃にて熱溶融して射出成型を行い、試験片とした。
【0079】
[実施例4]
室温にて、先に調製したポリヒドロキシウレタン樹脂Bの100部を、メチルエチルケトン100部に溶解した。次いで、TPA−B80(旭化成社製、ブロックイソシアネート、固形分80%、NCO%12.5%、その他の例でも同様)90部を加え、撹拌した。撹拌後の溶液を、1000部のメタノール中に徐々に注ぎ込み、樹脂を析出させ、これを濾別した。50℃にて24hの乾燥を行うことで、ブロックイソシアネートが含有されたポリヒドロキシウレタン樹脂組成物を得た。
【0080】
上記で得たブロックイソシアネートが含有されたポリヒドロキシウレタン樹脂組成物を5部と、レザミンP−2275を45部用い、バンバリーミキサーで実施例1と同様に混合した後に、実施例1と同様の方法で射出成型を行って、試験片を得た。
【0081】
[実施例5]
室温にて、先に調製したポリヒドロキシウレタン樹脂Cの100部を、メチルエチルケトン100部に溶解した。次いで、ブロックイソシアネートであるTPA−B80を90部加え、撹拌した。撹拌後の溶液を、1000部のメタノール中に徐々に注ぎ込み、樹脂を析出させ、これを濾別した。50℃にて24hの乾燥を行うことで、ブロックイソシアネートが含有されたポリヒドロキシウレタン樹脂組成物を得た。
【0082】
上記で得たブロックイソシアネートが含有されたポリヒドロキシウレタン樹脂組成物を5部と、熱可塑性ポリウレタンエラストマーであるレザミンP−8175(商品名、大日精化工業社製、ショアA硬度75)(大日精化工業社製)を45部用い、バンバリーミキサーで実施例1と同様に混合した後に、実施例1と同様の方法で射出成型を行って、試験片を得た。
【0083】
[比較例1]
ショアA硬度が76のレザミンP−2275のみを使用して、190℃にて熱溶融して射出成型を行い、本比較例の試験片を得た。
【0084】
[比較例2]
亜鉛イオンタイプのアイオノマー樹脂であるハイミラン1706(商品名、三井デュポンケミカル社製、JIS K 7215D準拠のデュロメータD硬さ=71)25部と、ナトリウムイオンタイプのアイオノマー樹脂であるハイミラン1605(商品名、三井デュポンケミカル社製、JIS K 7215D準拠のデュロメータD硬さ=70)25部とを、実施例1で使用したと同様のバンバリーミキサーで、140℃にて混合した。そして、実施例1同様にして樹脂フレークを得た。得られた樹脂フレークを用い、140℃にて熱溶融して射出成型を行い、試験片を得た。
【0085】
[比較例3]
いずれも実施例1で使用した材料である、レザミンP2275を45部と、イソシアネート系架橋剤であるクロスネートEM30を5部使用し、実施例1と同様の方法で射出成型を行って、試験片を得た。
【0086】
[比較例4]
実施例1で使用した材料であるレザミンP2275を25部、先に製造例4で調製したポリヒドロキシウレタン樹脂Aを12.5部、イソシアネート系架橋剤であるクロスネートEM30を12.5部使用し、実施例1と同様に混合を行った。しかし、混合開始から2分でゲル化し、それ以上の評価はできなかった。
【0087】
[評価]
上記で得られた各試験片に対して以下に示す試験を行い、下記の基準で評価し、得られた結果を表1にまとめて示した。
【0088】
[促進汚染性試験]
各試験片を、下記の物質を混合して得た汚染物質中に、60℃で1時間放置した。放置後、取り出した各試験片の表面状態を、下記の3種の場合にそれぞれ観察して評価した。具体的には、(a)乾燥布で拭いた場合(乾拭き)における表面状態、(b)濡らした布で拭いた場合(水拭き)における表面状態、におけるそれぞれの場合の汚染度を目視で観察し、下記の基準で評価した。評価結果を表2にまとめて示した。
【0089】
(汚染物質;下記の物質をボールミルで粉砕混合して作製)
・腐葉土 38.0部
・セメント 17.0部
・カオリン 17.0部
・シリカゲル 17.0部
・カーボンブラック 1.75部
・酸化第二鉄 0.50部
・鉱物油 8.75部
【0090】
(評価基準)
○:(a)の乾拭き後、(b)の水拭き後、の何れの場合も試験片の表面に汚染は認められない。
△:(a)の乾拭き後、(b)の水拭き後、の少なくとも何れかの場合に、試験片の表面に極めて僅かであるが汚染が認められる。
×:(a)の乾拭き後、(b)の水拭き後、の少なくとも何れかの場合に、試験片の全面がひどく汚染されている。
【0091】
[耐擦過傷性試験]
各試験片に対して、テーバー摩耗機を用いて、摩耗輪H22、荷重500gの条件で200回の試験をした。試験後、目視にて摩耗状態を観察し、下記の基準で評価し、結果を表2にまとめて示した。
○:外観変化がない場合
△:若干の摩耗がある場合
×:非常に摩耗した場合
【0092】
[硬度試験]
硬度計(アスカーゴム硬度計JA型・JIS K 6301に準拠)、(テクロック社 デュロメータ GS−702G・JIS K 7215Dに準拠)を用いて、ショアA硬度を測定した。測定結果を表2にまとめて示した。
【0093】
[反発弾性]
リュプケ式試験装置を用い、JIS K7311に準拠して、23℃における反発弾性率を測定した。結果を表2にまとめて示した。
【0094】
【0095】
【0096】
表2−1から明らかなように、熱可塑性ポリウレタン樹脂と、特定の構造を有するポリヒドロキシウレタンと、硬化剤(架橋剤)から形成される硬化物である実施例の各試験片は、適度な柔軟性を有していると同時に、耐汚染性、耐擦過傷性に優れていた。また、試験片で上記の物性が実現できたことに加え、各試験片の製造の際に、熱溶融による成形性も良好であることが確認されたことから、本発明のポリウレタン樹脂組成物を利用して射出成型等の方法でゴルフボールのカバー層を形成することができることがわかった。このことは、主成分である熱可塑性ポリウレタン樹脂に、特定の構造を有するポリヒドロキシウレタン樹脂と硬化剤(架橋剤)とを添加したことで、該ポリヒドロキシウレタン樹脂と硬化剤(架橋剤)との反応によりIPN型(相互侵入高分子網目)の樹脂構造を、より良好な状態で得ることができたことにより得られた効果であると考えられる。
【0097】
上記構成を有する本発明のポリウレタン樹脂組成物によりカバー層を形成させたゴルフボールは、適度な柔軟性により、ボールの打感がソフトなスピン性能に優れたものとなり、且つ、耐汚染性、耐擦過傷性といった耐久性に優れたボールとなる。これら耐久性能の向上には、ポリヒドロキシウレタン樹脂の主鎖中にある水酸基を、硬化剤(架橋剤)であるポリイソシアネートとの反応点に使用する特有の架橋構造を有することで発揮される。すなわち、比較例1のように、熱可塑性ポリウレタン樹脂を架橋させない場合は耐擦過傷性が劣り、比較例3のように、架橋剤を用いたとしても、水酸基の無い熱可塑性ポリウレタン樹脂を単独で使用した場合は、架橋反応が樹脂全体に起こることから、耐汚染性、耐擦過傷性が発揮されたものにならない。また、比較例2にあるような、従来からカバー層に使用されるアイオノマー樹脂でカバー層を形成させた場合よりも、本発明のポリウレタン樹脂組成物によりカバー層を形成させたゴルフボールは、柔軟性及び反発弾性に優れ、且つ、耐擦過傷性にも優れるものになる。