特開2018-29538(P2018-29538A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-29538(P2018-29538A)
(43)【公開日】2018年3月1日
(54)【発明の名称】消臭剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20180202BHJP
   A61K 8/97 20170101ALI20180202BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20180202BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20180202BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20180202BHJP
   A23G 4/00 20060101ALI20180202BHJP
   A23L 33/125 20160101ALI20180202BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20180202BHJP
   A23G 3/50 20060101ALI20180202BHJP
【FI】
   A23L33/105
   A61K8/97
   A61Q13/00 101
   A61Q11/00
   A61K8/35
   A23G3/30
   A23L33/125
   A23L5/00 F
   A23G3/00 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-164660(P2016-164660)
(22)【出願日】2016年8月25日
(71)【出願人】
【識別番号】307013857
【氏名又は名称】株式会社ロッテ
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100102808
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 憲通
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】磯村 遼
(72)【発明者】
【氏名】小柳津 正典
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
4B035
4B041
4C083
【Fターム(参考)】
4B014GB13
4B014GG09
4B014GK12
4B014GL03
4B014GL11
4B014GP19
4B014GP27
4B014GQ05
4B018LB01
4B018LE01
4B018MD07
4B018MD36
4B018MD61
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF08
4B018MF14
4B035LC06
4B035LC16
4B035LE05
4B035LG17
4B035LG20
4B035LG31
4B035LK02
4B035LK19
4B035LP21
4B035LP22
4B035LP24
4B035LP36
4B041LD01
4B041LD03
4B041LK21
4C083AA121
4C083AA122
4C083AC211
4C083AC212
4C083AD251
4C083AD252
4C083AD352
4C083CC41
4C083DD12
4C083DD15
4C083EE34
(57)【要約】
【課題】チモキノンの口腔内への溶出およびチモキノンの経時的安定性が向上された消臭剤を提供する。また、チモキノンを含む消臭用の食品を提供する。
【解決手段】チモキノンのシクロデキストリン包接体を含む消臭剤、およびチモキノンのシクロデキストリン包接体を含む消臭用の食品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チモキノンを含む植物抽出物のシクロデキストリン包接体。
【請求項2】
前記チモキノンを含む植物抽出物がブラッククミン種子精油であることを特徴とする、請求項1に記載のシクロデキストリン包接体。
【請求項3】
チモキノンのシクロデキストリン包接体を含む消臭剤。
【請求項4】
前記チモキノンのシクロデキストリン包接体がチモキノンのγ−シクロデキストリン包接体であることを特徴とする、請求項3に記載の消臭剤。
【請求項5】
前記チモキノンが植物抽出物に含まれるチモキノンであることを特徴とする、請求項3または4に記載の消臭剤。
【請求項6】
前記植物抽出物がブラッククミン種子精油であることを特徴とする、請求項5に記載の消臭剤。
【請求項7】
前記消臭剤に対する前記チモキノンの割合が3重量%〜9重量%であることを特徴とする、請求項3〜6のいずれか1項に記載の消臭剤。
【請求項8】
チモキノンのシクロデキストリン包接体を含む食品。
【請求項9】
チモキノンのシクロデキストリン包接体を含む消臭用の食品。
【請求項10】
前記チモキノンのシクロデキストリン包接体がチモキノンのγ−シクロデキストリン包接体であることを特徴とする、請求項9に記載の食品。
【請求項11】
前記チモキノンが植物抽出物に含まれるチモキノンであることを特徴とする、請求項9または10に記載の食品。
【請求項12】
前記植物抽出物がブラッククミン種子精油であることを特徴とする、請求項11に記載の食品。
【請求項13】
前記食品がタブレットであることを特徴とする、請求項9〜12のいずれか1項に記載の食品。
【請求項14】
前記チモキノンのシクロデキストリン包接体が糖衣中に含まれることを特徴とする、請求項9〜12のいずれか1項に記載の食品。
【請求項15】
前記食品がガムであることを特徴とする、請求項14に記載の食品。
【請求項16】
シクロデキストリンの水溶液とチモキノンとを混合させ不溶物を析出する工程と、
該不溶物をろ過し、ろ過物を得る工程と、
該ろ過物を乾燥する工程と、を含む、チモキノンのシクロデキストリン包接体の製造方法。
【請求項17】
前記チモキノンのシクロデキストリン包接体がチモキノンのγ−シクロデキストリンであることを特徴とする、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
前記チモキノンがブラッククミン種子精油中のチモキノンであることを特徴とする、請求項16または17に記載の製造方法。
【請求項19】
前記シクロデキストリンと前記チモキノンの重量比が20:1〜2:1であることを特徴とする、請求項16〜18のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項20】
チモキノンのシクロデキストリン包接体を含む口腔組成物。
【請求項21】
チモキノンのシクロデキストリン包接体を含む消臭用の口腔組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チモキノンのシクロデキストリン包接体を含む消臭剤およびチモキノンのシクロデキストリン包接体を含む消臭用の食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衛生に対する意識の高まりにより、口臭を低減または除去するための方法が望まれている。口臭は、食べかす等に含まれるたんぱく質が、口腔中の嫌気性細菌により分解され、メチルメルカプタンをはじめとする揮発性硫黄化合物を生じることにより発生する。
【0003】
そのため、口臭を低減させる方法としては、唾液による殺菌効果により、口腔中の嫌気性細菌を殺菌し揮発性硫黄化合物の産生量を低減する方法や、揮発性硫黄化合物を酸化することにより不揮発性とすることで口臭を低減する方法などが知られている。
【0004】
特に、揮発性硫黄化合物を酸化する方法は即効性が高いため、広く報告されている。たとえば、特許文献1〜5には、植物抽出物を有効成分とする口臭消臭剤が記載されている。また、特許文献6には、5,6−ジヒドロキシフラボンおよび5,6−ジヒドロキシフラバノン並びにそれらの誘導体を有効成分として含有する口臭消臭剤が記載されている。さらに、特許文献7〜14にはフェノール性化合物とそれを酸化する酵素とを含有する口臭消臭剤が記載されている。
【0005】
しかし、植物抽出物や5,6−ジヒドロキシフラボンおよび5,6−ジヒドロキシフラバノン並びにそれらの誘導体は、揮発性硫黄化合物を酸化する能力が低いために、それらを有効成分とする口臭消臭剤は、十分な効果が得られないという課題を有している。また、フェノール性化合物とそれを酸化する酵素とを含有する口臭消臭剤に関しては、酸性条件において、揮発性硫黄化合物を酸化する能力が著しく低下してしまうために、酸味を呈する食品などに用いた場合に、十分な効果を得ることができないという課題を有している。なお、特許文献15では、バラ科キイチゴ属(ルブス)植物の抽出物とラッカーゼと酸とを含む消臭組成物が記載されているが、この消臭組成物は酸性条件では消臭効果を有するものの、中性条件では消臭効果が弱くなるという課題をなお有している。
【0006】
これらの課題に関して、特許文献16には、ブラッククミン種子に含有されるチモキノンを有効成分とする、酸性〜弱塩基性の幅広いpH領域で高い消臭効果を示す口臭消臭剤が記載されている。しかし、本発明者らは、チモキノンをガムなどの食品に含有させた場合、摂食時にチモキノンが口腔中にほとんど溶出されず、またチモキノンの揮発性のために、食品中のチモキノンが経時的に減少してしまい、口臭消臭効果が十分に発揮されないという課題を見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭57−203445号公報
【特許文献2】特開昭57−204278号公報
【特許文献3】特開昭62−152463号公報
【特許文献4】特開平5−269187号公報
【特許文献5】特開2003−335647号公報
【特許文献6】特開昭61−268259号公報
【特許文献7】特開平9−38183号公報
【特許文献8】特開平10−212221号公報
【特許文献9】特開2001−95910号公報
【特許文献10】特開2003−9784号公報
【特許文献11】特開2003−175095号公報
【特許文献12】特開2004−148046号公報
【特許文献13】特開2008−110944号公報
【特許文献14】特開2008−131866号公報
【特許文献15】特開2009−190990号公報
【特許文献16】特開2011−168554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、チモキノンの口腔内への溶出およびチモキノンの経時的安定性が向上された消臭剤ならびに口腔組成物および食品を提供することを目的とする。また本発明は、チモキノンを含む消臭用の口腔組成物および食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねたところ、チモキノンのシクロデキストリン包接体を用いることにより、食品から口腔中へのチモキノンの溶出量およびチモキノンの経時的安定性を大きく改善することができることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、チモキノンのシクロデキストリン包接体、より詳細にはブラッククミン種子精油由来のチモキノンのシクロデキストリン包接体に関する。また、本発明の別の態様としては、チモキノンのシクロデキストリン包接体を含む消臭剤に関し、より詳細にはチモキノンのγ−シクロデキストリン包接体からなる消臭剤に関する。さらに、本発明の別の態様としては、チモキノンのシクロデキストリン包接体を含む食品、特にチモキノンのシクロデキストリン包接体を含む消臭用の食品に関する。またさらに、本発明の別の態様としては、チモキノンのシクロデキストリン包接体を含む口腔組成物、特にチモキノンのシクロデキストリン包接体を含む消臭用の口腔組成物に関する。さらに、本発明の別の態様としては、チモキノンのシクロデキストリン包接体の製造方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、チモキノンのシクロデキストリン包接体を含む消臭剤に関する。シクロデキストリン(CD)は、複数のD−グルコースがα−1,4結合により環状に結合した構造を有する分子であり、シクロデキストリンを構成するD−グルコースの数により様々な種類のシクロデキストリンが存在する。本発明の消臭剤に用いられるシクロデキストリンは、7個のD−グルコースからなるβ−シクロデキストリンまたは8個のD−グルコースからなるγ−シクロデキストリンが好ましく、消臭剤中のチモキノンの経時的安定性の観点からγ−シクロデキストリンがより好ましい。
【0012】
チモキノン(TQ)は、式(1)で示される化学構造の芳香族性のテルペンである。チモキノンは、キノン構造を有するため、その酸化作用により揮発性硫黄化合物を酸化し、消臭効果を発揮する。
【化1】
【0013】
チモキノンは、ブラッククミン(Nigella sativa L.)、オレガノ(Origanum vulgare L.)、タイム(Thymus L.)、ウィンターセーボリー(Satureja montana L.)などの植物に含まれていることが知られており、特にブラッククミン種子に多く含まれていることが知られている。これらの植物から、水蒸気蒸留、乾留、分別蒸留などの蒸留法、溶剤や超臨界二酸化炭素などを用いた抽出法、搾油などの圧搾法により抽出された精油中にチモキノンが含まれる。たとえば、ブラッククミン種子から抽出されたブラッククミン種子精油中には、チモキノンが約50重量%含まれている。したがって、本発明に係るチモキノンのシクロデキストリン包接体は、好ましくはチモキノンを含む植物抽出物のシクロデキストリン包接体であり、特に好ましくはブラッククミン種子精油のシクロデキストリン包接体である。
【0014】
また、チモキノンとしては、単離または合成したチモキノンを用いてもよい。ただし、チモキノンは室温で固体であるため、精油や食用油などに溶解して用いてもよい。このような精油や食用油としては、室温で液体でありチモキノンを溶解するものであれば、いかなるものを用いても良い。
【0015】
本発明の消臭剤はたとえば以下に示す製造方法で製造することができる。
シクロデキストリン水溶液にチモキノンを混合し、撹拌することにより、チモキノンのシクロデキストリン包接体が不溶物として析出する。このとき、チモキノンをそのまま加えてもよく、またチモキノンを含む精油または溶液として加えてもよい。この包接体をろ過し、ろ過物を乾燥し、本発明の消臭剤を得ることができる。
【0016】
シクロデキストリン水溶液中のシクロデキストリン含有量は、1重量%〜20重量%が好ましく、より好ましくは10重量%である。シクロデキストリンとチモキノンとの混合比は、重量比で20:1〜1:1が好ましく、18:1〜2:1がより好ましく、もっとも好ましくは8:1〜3:1である。
また、チモキノンを含む精油または溶液を用いる場合、シクロデキストリン水溶液とチモキノンを含む精油または溶液との混合比は、重量比で100:1〜20:1が好ましい。
【0017】
これらの範囲のシクロデキストリン水溶液とチモキノンを含む精油または溶液を用いることで、消臭剤中のチモキノンの含有量が、3重量%〜9重量%の消臭剤を得ることができる。
【0018】
シクロデキストリン水溶液およびチモキノンを含む精油または溶液のそれぞれには、さらに香料、甘味料、防腐剤、抗酸化剤などを加え、本発明の消臭剤を製造することもできる。
【0019】
また、本発明の消臭剤は、乳糖、デンプン、デキストリン、沈降シリカなどの賦形剤を用いて錠剤としてもよく、またはマイクロカプセル化してもよい。
【0020】
本発明に係るチモキノンのシクロデキストリン包接体は、消臭剤として直接用いてもよい。本発明に係るチモキノンのシクロデキストリン包接体を口臭消臭剤として用いる場合には、口中に留まることにより、より高い効果を発揮することから、食品または口腔組成物中に配合された形で用いられることが好ましい。このような食品または口腔組成物としては、たとえば、タブレット(錠菓、錠剤)、ガム、飴などをあげることができる。
【0021】
本発明に係るタブレットは、チモキノンのシクロデキストリン包接体、糖質、結着剤、および滑沢剤などを混合したものを打錠機で成型したものである。糖質としては砂糖、ブドウ糖、フラクトオリゴ糖などを用いることができ、またソルビトールといった糖アルコール類などを用いることができる。結着剤としてはアラビアガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどを用いることができる。滑沢剤としては二酸化ケイ素、シュガーエステル、ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油などを用いることができる。タブレット中のチモキノンのシクロデキストリン包接体の含有量は0.2重量%〜2重量%が好ましく、糖質の含有量は90重量%〜98重量%が好ましく、結着剤の含有量は0.5重量%〜2重量%が好ましく、滑沢剤の含有量は1重量%以下が好ましい。また、タブレット中には、これらの他にも、香料、着色料、酸味料などが含まれていてもよい。
【0022】
本発明に係るガムは、チモキノンのシクロデキストリン包接体、ガムベース、および糖質を混練および圧延し、成型を行ったものである。ガムベースとしては、通常チューインガムに用いられるガムベースを用いることができ、チクル、ポリ酢酸ビニル、ポリイソブチレンなどを用いることができる。これらガムベースは、1種類でまたは2種類以上を組み合わせて用いてもよい。糖質としては、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、砂糖、ブドウ糖などを用いることができる。ガム中のチモキノンのシクロデキストリン包接体の含有量は0.2重量%〜2重量%が好ましく、ガムベースの含有量は30重量%〜40重量%が好ましく、糖質の含有量は50重量%〜70重量%が好ましい。また、ガム中には、これらの他にもアスパルテームなどの高甘味度甘味料、香料、着色料、酸味料などが含まれていてもよい。
【0023】
本発明に係る飴は、ハードキャンディーおよびソフトキャンディーのいずれでも良い。ハードキャンディーは、砂糖と水あめを煮詰めたものにチモキノンのシクロデキストリン包接体を配合し、冷却および成型したものである。ソフトキャンディーは前記ハードキャンディーの材料にゼラチンなどのチューイング性を付与するための材料を添加したものである。ハードキャンディーおよびソフトキャンディーともに、チモキノンのシクロデキストリン包接体の含有量は0.2重量%〜2重量%が好ましい。また、飴中には、これらのほかにも、香料、着色料、酸味料などが含まれていてもよい。
【0024】
本発明の食品は糖衣を有していてもよい。この場合、チモキノンのシクロデキストリン包接体は糖衣のみに含まれていてもよく、非糖衣部のみに含まれていてもよく、また糖衣および非糖衣部の両方に含まれていてもよい。ただし、チモキノンのシクロデキストリン包接体をガムベースに配合したときには、チモキノンの親油性により、チモキノンがガムベースに吸着されるため、口腔中へのチモキノンの溶出量が、チモキノン自体をガムベースに配合した場合の溶出量よりは高いものの、糖衣部に配合した場合と比べると、低下する。そのため、食品が糖衣を有するガムである場合には、ガムベースにチモキノンのシクロデキストリン包接体を配合した場合に比べ、糖衣中にチモキノンのシクロデキストリン包接体を配合した方が、チモキノンの溶出量が高くなる。
【0025】
糖衣のコーティング方法としては、ハードコーティングとソフトコーティングのいずれを用いてもよい。ハードコーティングを用いた場合、チモキノンのシクロデキストリン包接体を含有するシロップをセンター部にかけることにより、糖衣でコーティングされた食品を得ることができる。また、ソフトコーティングを用いた場合、シロップをかけた後に、シロップが乾く前に粉末糖をかける作業を数回行うことで、糖衣でコーティングされた食品を得ることができる。この場合、チモキノンのシクロデキストリン包接体は、シロップおよび粉末糖の少なくともいずれか一方に含有されていればよい。また、ソフトコーティングで作成した糖衣の上にハードコーティングで作成した糖衣を有していてもよい。さらに、シロップおよび粉末糖には、香料、着色料、酸味料などが含まれていてもよい。
糖衣中のチモキノンのシクロデキストリン包接体の含有量は0.5重量%〜5重量%が好ましく、食品全体に対する糖衣の割合は20重量%〜40重量%が好ましい。
【0026】
上記食品に含まれてもよい香料、着色料、および酸味料としては、その食品に通常に用いられるものを用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本実施例に記載する単位は特に言及しない限り、「%」は「重量%」を意味するものとする。
【0028】
(1)γ−シクロデキストリンとチモキノンを含有する精油との包接体
γ−シクロデキストリンと50%のチモキノンを含むブラッククミン種子精油とを表1に示す割合で蒸留水10mlに懸濁し、室温で一晩撹拌した。その後、懸濁液を吸引ろ過し、ろ過物を蒸留水およびエタノールで洗浄し、60℃で3時間乾燥した。得られた包接体の収量、並びに包接体中のチモキノンの含有率および加えたチモキノンに対する包接体中のチモキノンの収率を表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
γ包接体1〜4に含まれるチモキノンの含有量は以下に示すように、高速液体クロマトグラフィーを用いて調べた。
γ包接体1〜4のそれぞれ30mgを50mlのメスフラスコに秤量した。そこへ、5mlのジメチルスルホキシドを加え、超音波処理により完全に溶解した後に、蒸留水を用いて定容した。これら溶液を、0.45μmのフィルターでろ過することで、分析サンプルとした。高速液体クロマトグラフィーの分析条件を以下に示す。
【0031】
<分析条件>
装置:Agilent 1100 HPLC VWD System(Agilent Technologies社製)
カラム:PEGASIL ODS 4.6×250mm(センシュー科学社製)
移動層:水−アセトニトリル(60:40〜0:100)
流速:1ml/分
検出:254nmにおける紫外線吸収を利用
【0032】
なお、サンプル中のチモキノンの定量は、2−イソプロピル−5−メチル−1,4−ベンゾキノン(チモキノン:東京化成工業株式会社製)を分析サンプルと同様に処理したもので作成した検量線を用いて行った。
【0033】
(2)消臭試験
上記で製造したγ包接体2を用い、消臭試験を行った。γ包接体2を、チモキノンの終濃度が4.0μg/mlおよび20μg/mlとなるように0.2Mリン酸緩衝液(pH7.5)に溶解し、試験液を作成した。1mlの試験液を、バイアル瓶中の25ppmのメチルメルカプタンナトリウム水溶液500μlに添加した。テフロン(登録商標)コートされたゴム栓で封をした後に、37℃で5分間振とうすることで、チモキノンとメチルメルカプタンナトリウムとの反応を行った。
反応後のバイアル瓶のヘッドスペースガス50μlに含まれるメチルメルカプタン量(MS)とリン酸緩衝液(pH7.5)1mlに25ppmのメチルメルカプタンナトリウム水溶液500μlを添加した後のバイアル瓶のヘッドスペースガス50μlに含まれるメチルメルカプタン量(MB)から、次式によりメチルメルカプタン消臭率を算出し、結果を表2に示した。
メチルメルカプタン消臭率(%)=(MB−MS)/MB×100
【0034】
また、コントロールとして、終濃度が4.0μg/mlおよび20μg/mlとなるようにチモキノンのリン酸緩衝液(pH7.5)溶液を調製し、試験液と同様にそのメチルメルカプタン消臭率を算出し、結果を表2に示した。
【0035】
【表2】
【0036】
上記結果より、本発明のチモキノンのシクロデキストリン包接体が、チモキノンと同様に揮発性硫黄化合物に対する酸化作用を有することが分かる。
【0037】
なお、メチルメルカプタン量は、炎光光度検出器(FPD)を用いたガスクロマトグラフ(Agilent 6890N、Agilent Technologies社製)より得られたピーク高さから算出した。ガスクロマトグラフの分析条件を以下に示す。
【0038】
<分析条件>
装置:Agilent 6890N(Agilent Technologies社製)
カラム:HP−5 10m×0.53μm×2.65μm(Agilent Technologies社製)
注入量:50μl
注入法:スプリット1:8
注入口温度:200℃
オーブン:50℃
キャリアガス:He
流速:10ml/min
検出器:炎光光度検出器(FPD)
【0039】
(3)消臭用タブレット
β包接体を2%含有するタブレットβおよびγ包接体を2%含有するタブレットγを以下の方法で作成した。
β−シクロデキストリン12gまたはγ−シクロデキストリン12gと50%のチモキノンを含むブラッククミン種子精油3gとを蒸留水100mlに懸濁し、室温で一晩撹拌した。その後、懸濁液を吸引ろ過し、ろ過物を蒸留水およびエタノールで洗浄し、60℃で3時間乾燥することで、β包接体11.4gおよびγ包接体12.4gを得た。
続いて、ソルビトール顆粒、二酸化ケイ素、およびシュガーエステルの混合物に、ミント香料を加え、香料を原料に吸着させた。その後、原料全体の2%のβ包接体またはγ包接体を混合し、打錠することで、タブレットβおよびタブレットγをそれぞれ得た。タブレット1粒は150mgであり、それぞれのタブレット中にチモキノンは0.119mg(タブレットβ)および0.073mg(タブレットγ)含まれている。
【0040】
タブレットβおよびタブレットγを常温および高温多湿の加速条件で4週間放置したところ、タブレットβではチモキノンの含有量が常温で約1割、加速条件で約2割減少した。これに対しタブレットγでは、いずれの条件においてもチモキノンの含有量は減少しなかった。なお、チモキノンを直接タブレットに含有させた場合、常温において4週間放置することで、チモキノン含有量が約65%減少したことから、本発明に係るチモキノンのシクロデキストリン包接体の経時安定性がチモキノン単体の経時安定性に対して著しく高いことが分かる。
【0041】
上記で製造したタブレットβおよびタブレットγを用い、消臭試験を行った。タブレットβおよびタブレットγを砕き、それぞれ18.75mg、37.50mg、75.00mg、150.00mgとなるように精密に量りとり、0.2Mリン酸緩衝液(pH7.5)を5ml加えてタブレットを溶解し試験液とした。試験液に25ppmのメチルメルカプタンナトリウム水溶液500μlを添加し、テフロン(登録商標)コートされたゴム栓で封をした後に、37℃で5分間振とうすることで、チモキノンとメチルメルカプタンナトリウムとの反応を行った。反応後のバイアル瓶のヘッドスペースガスより、メチルメルカプタン量を測定した。また、チモキノンのシクロデキストリン包接体を含まないタブレットに0.2Mリン酸緩衝液(pH7.5)を5ml加え、コントロールを作成した。このコントロールについて、バイアル瓶のヘッドスペースガスのメチルメルカプタン量を測定した。なお、メチルメルカプタン量の測定条件は、上記「(2)消臭試験」と同じ条件で行った。
【0042】
コントロールのメチルメルカプタン量に対する、試験液での反応により減少したメチルメルカプタン量の割合をメチルメルカプタン消臭率とし、表3に示す。
【0043】
【表3】
【0044】
上記結果より、チモキノンのシクロデキストリン包接体を含むタブレットが、消臭作用を有することが分かる。
【0045】
(4)消臭用ガム
ガム全体に対して0.5%のβ包接体を含有するベースガムβ、およびガム全体に対して0.5%のγ包接体を含有するベースガムγを以下の方法で作成した。β包接体およびγ包接体は、前記消臭用タブレットに使用したものとおなじ包接体を用いた。
ガムベース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、アスパルテーム、香料、およびβ包接体またはγ包接体を混練および圧延し、成型を行うことでベースガムβおよびベースガムγを得た。ベースガムβおよびベースガムγの1粒の重量は、それぞれ1.50gであった。
【0046】
ガム全体に対して0.3%のβ包接体を糖衣に含有する糖衣ガムβ、およびガム全体に対して0.3%のγ包接体を糖衣に含有する糖衣ガムγを以下の方法で作成した。
ガムベース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、アスパルテーム、および香料を混練し、圧延した後に成型を行い、センターガムを得た。このセンターガムに、約1%のβ包接体またはγ包接体、マルチトール、およびアラビアガムからなるシロップを掛け、乾燥させたのち、常法に従って香料および光沢剤を添加した。こうして、β包接体またはγ包接体を糖衣に含有する糖衣ガムβおよび糖衣ガムγを得た。糖衣ガムβおよび糖衣ガムγの1粒の重量は、それぞれ1.50gであった。なお、センターガムと糖衣との重量比は約7:3であった。
【0047】
ガム全体に対して0.1%のブラッククミンデキストリン製剤を含有するコントロールガム1を以下の方法で作成した。なお、ブラッククミンデキストリン製剤はチモキノンを7.4%含むブラッククミンとデキストリンの混合物である。
ガムベース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、アスパルテーム、香料およびブラッククミンデキストリン製剤を混練および圧延し、成型を行うことでコントロールガム1を得た。コントロールガム1の1粒の重量は1.50gであった。
【0048】
ガム全体に対して0.1%のブラッククミンデキストリン製剤を糖衣に含有するコントロールガム2を以下の方法で作成した。なお、ブラッククミンデキストリン製剤はコントロールガム1に用いたブラッククミンデキストリン製剤と同じものを用いた。
ガムベース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、アスパルテーム、および香料を混練し、圧延した後に成型を行い、センターガムを得た。このセンターガムに、0.34%のブラッククミンデキストリン製剤、マルチトール、およびアラビアガムからなるシロップを掛け、乾燥させたのち、常法に従って香料および光沢剤を添加した。こうしてコントロールガム2を得た。コントロールガム2の1粒の重量は1.50gであった。なお、センターガムと糖衣との重量比は70:30であった。
【0049】
(4−1)チモキノン溶出量の比較
ベースガムβおよびγ、糖衣ガムβおよびγ、並びにコントロールガム1および2をそれぞれ2粒ずつ5分咀嚼し、咀嚼後の各ガム中に残存するチモキノンの量に基づいて、各ガムからのチモキノンの溶出率を測定した。結果を表4に示す。
【0050】
なお、咀嚼後の各ガム中に残存するチモキノンの量は以下のように測定した。
咀嚼後の各ガムを溶解後、50mlのフラスコへ全量を移した。そこへ、5mlのジメチルスルホキシドを加え、超音波処理を行った後に、蒸留水を用いて定容した。これら各ガムの溶液を、0.45μmのフィルターでろ過することで、分析サンプルとした。この分析サンプルを、「(1)γ−シクロデキストリンとチモキノンを含有する精油との包接体」における、高速液体クロマトグラフィーの分析条件と同じ条件で、咀嚼後の各ガム中に残存するチモキノンの量を測定した。
【0051】
【表4】
【0052】
(4−2)消臭試験
ベースガムγ、糖衣ガムβおよびγ、並びに対照としてルブス植物の抽出液を有する自社製品ガム1(ロッテ社製)を用い、消臭試験を行った。それぞれのガムを細断し、0.75g(2分の1粒に相当する量)および1.50g(1粒に相当する量)を精密に量りとり、0.2Mリン酸緩衝液(pH7.5)を5mlずつ加えて試験液を作成した。試験液に25ppmのメチルメルカプタンナトリウム水溶液を500μl加え、テフロン(登録商標)コートされたゴム栓で封をした後に、37℃で20分間振とうすることで、チモキノンとメチルメルカプタンナトリウムとの反応を行った。反応後のバイアル瓶のヘッドスペースガス50μlに含まれるメチルメルカプタン量を、FPD検出器を用いたガスクロマトグラフより得られたピーク高さから算出した。また、ガムベースのみを細断し、0.75gおよび1.50gを精密に量りとり、0.2Mリン酸緩衝液(pH7.5)を5mlずつ加えて試験液を作成した。この試験液についても同様にメチルメルカプタン量を算出した。なお、メチルメルカプタン量の測定条件は、上記「(2)消臭試験」と同じ条件で行った。
【0053】
ガムベースのみを用い測定したメチルメルカプタン量に対する各ガムとの反応により減少したメチルメルカプタン量の割合をメチルメルカプタン消臭率とし、表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
上記結果より、チモキノンのシクロデキストリン包接体を含むガムが、消臭作用を有し、また従来のルブスを含有するガムよりも強い消臭作用を有することが分かる。
【0056】
ベースガムγ、糖衣ガムγ、並びに自社製品ガム1(ロッテ社製)をそれぞれ0.75g用い、pH5.5、pH6.5、およびpH7.5の0.2Mリン酸緩衝液を用いた他は上記試験と同様に消臭試験を行った。メチルメルカプタン消臭率を表6に示す。
【0057】
【表6】
【0058】
上記結果より、チモキノンのシクロデキストリン包接体を含むガムは、弱酸性条件においても消臭作用を有することが分かる。