【実施例】
【0040】
[実施例1]
実施例1では、本発明の酸化亜鉛粒子を合成し、ガスセンサを製造した。
【0041】
詳細には、亜鉛塩として無水酢亜鉛(2.202g、0.012mol)と第3級アミンとしてヘキサメチレンテトラミン(HMT)(1.682g、0.012mol)とを、ポリオールとしてエチレングリコール(EG)(35ml)と水(5ml)との混合溶媒に溶解させた(
図2のステップS210)。混合溶液において、亜鉛塩と第3級アミンとのモル比は、1:1であった。エチレングリコールと水との体積比は、87.5:12.5であった。混合溶液は、無色透明であった。この混合溶液をテフロン(登録商標)製加圧分解容器に入れ、90℃で加熱し、3時間撹拌した(
図2のステップS220)。撹拌には、マグネチックスターラを用いた。撹拌により、混合溶液は懸濁し、析出物の生成を確認した。析出物を濾過し、エタノールで数回洗浄後、室温で乾燥させた。
【0042】
得られた析出物を粉末X線回折により同定した。得られたXRDパターンのすべての回折ピークは、JCPDSカード番号:36−1451に良好に一致し、それ以外の不純物を示す回折ピークはなかった。このことから、得られた生成物は、酸化亜鉛であることを同定した。
【0043】
次に、得られた酸化亜鉛粒子を超高分解能電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM、日立製作所製、S−5000)により観察した。結果を
図4に示す。SEM観察から酸化亜鉛粒子の形状および大きさを測定した。得られた酸化亜鉛粒子について窒素ガス吸着法によりBETの式を用いて比表面積を求めた。これらの結果を表2に示す。
【0044】
次に、得られた酸化亜鉛粒子を用いてガスセンサを製造した。エチレングリコールに分散させ(濃度100g/L)、これを金の櫛形電極(100μmピッチ)を配線したガラス基板上に塗布し、感応層を形成した。櫛形電極と反対側のガラス基板上にヒータとして白金をスパッタリングにより形成した。これを400℃で加熱し、エチレングリコールなどを除去し、ガスセンサ300(
図3)を得た。得られたガスセンサを用いて、加熱温度150℃〜400℃まで50℃刻みで変化させた場合のエタノール含有空気(エタノール量:50ppm)に対するセンサ感度を調べた。結果を
図9および表3に示す。
【0045】
[実施例2]
実施例2は、エチレングリコール(34.8ml)と水(5.2ml)との混合溶媒が異なる以外は、実施例1と同様にして、本発明の酸化亜鉛粒子を合成し、ガスセンサを製造した。ここでも得られた生成物は、粉末X線回折により酸化亜鉛であることが同定された。得られた酸化亜鉛粒子をFE−SEMにより観察し、形状および大きさを測定した。実施例1と同様に、得られた酸化亜鉛粒子の比表面積を求めた。結果を表2に示す。実施例1と同様に、ガスセンサのセンサ感度を調べた。結果を表3に示す。
【0046】
[実施例3]
実施例3は、エチレングリコール(38ml)と水(2ml)との混合溶媒、加熱温度(120℃)および加熱時間(4時間)が異なる以外は、実施例1と同様にして、本発明の酸化亜鉛粒子を合成し、ガスセンサを製造した。ここでも得られた生成物は、粉末X線回折により酸化亜鉛であることが同定された。得られた酸化亜鉛粒子をFE−SEMにより観察し、形状および大きさを測定した。実施例1と同様に、得られた酸化亜鉛粒子の比表面積を求めた。結果を
図5および表2に示す。
図5および透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子株式会社製、JEM−2100F)による制限視野電子回折(CBED)像を用いて、酸化亜鉛粒子の結晶面を求めた。結果を
図8に示す。実施例1と同様に、ガスセンサのセンサ感度を調べた。結果を表3に示す。
【0047】
[比較例4]
比較例4は、非特許文献2と同様であるが、撹拌を行わない以外は、実施例1と同様にして、酸化亜鉛粒子を合成し、ガスセンサを製造した。ここでも得られた生成物は、粉末X線回折により酸化亜鉛であることが同定された。得られた酸化亜鉛粒子をFE−SEMにより観察し、形状および大きさを測定した。実施例1と同様に、得られた酸化亜鉛粒子の比表面積を求めた。結果を
図6および表2に示す。実施例1と同様に、ガスセンサのセンサ感度を調べた。結果を
図9および表3に示す。
【0048】
[比較例5]
比較例5は、加熱温度(120℃)、加熱時間(12時間)とし、撹拌を行わなかった以外は比較例4と同様であった。ここでも得られた生成物は、粉末X線回折により酸化亜鉛であることが同定された。得られた酸化亜鉛粒子をFE−SEMにより観察し、形状および大きさを測定した。実施例1と同様に、得られた酸化亜鉛粒子の比表面積を求めた。結果を
図6および表2に示す。実施例1と同様に、ガスセンサのセンサ感度を調べた。結果を表3に示す。
【0049】
[実施例6]
実施例6では、実施例1で合成した酸化亜鉛粒子を熱処理し、これを用いてガスセンサを製造した。熱処理条件は、空気中、400℃で2時間であった。熱処理後の酸化亜鉛粒子についてFE−SEMにより観察した。結果を
図7に示す。実施例1と同様にしてガスセンサを製造し、センサ感度を調べた。結果を表3に示す。
【0050】
簡単のため、以上の実施例/比較例1〜6の実験条件を表1に示し、結果を表術する。
【0051】
【表1】
【0052】
図4は、実施例1の酸化亜鉛粒子のSEM像を示す図である。
図5は、実施例3の酸化亜鉛粒子のSEM像を示す図である。
図6は、比較例4および比較例5の酸化亜鉛粒子のSEM像を示す図である。
図7は、実施例6の熱処理後の酸化亜鉛粒子のSEM像を示す図である。
【0053】
図4および
図5によれば、実施例1および実施例3の酸化亜鉛粒子は、六角錐の形状を有していた。分かり易さのために、
図5(B)に六角錐の形状を点線で示す。図示しないが、実施例2の酸化亜鉛粒子も六角錐の形状を有していることを確認した。一方、
図6(A)によれば、比較例4の酸化亜鉛粒子は、完全な球体であり、非特許文献2の結果に整合した。
図6(B)によれば、比較例5の酸化亜鉛粒子の形状は、球体と形状がはっきりしない錐体との混在でった。また、
図7から、熱処理後の酸化亜鉛粒子も、熱処理前の六角錐の形状を維持していることを確認した。
【0054】
【表2】
【0055】
表2に、実施例/比較例1〜5の酸化亜鉛粒子の形状評価についてまとめる。実施例1〜3については、SEM像から酸化亜鉛粒子100個に対して、大きさL(
図1)を測定した。比較例4については、SEM像から球体の酸化亜鉛粒子100個に対して、粒径(直径)を測定した。比較例5については、酸化亜鉛粒子の形状が複数混在しているため、大きさの測定を実施しなかった。熱処理後の実施例6の酸化亜鉛粒子の形状等は、実施例1のそれと実質的に変化は見られなかった。
【0056】
表2の粒子の大きさに着目すると、実施例1〜3の酸化亜鉛粒子は、5nm以上200nm以下、詳細には、10nm以上100nm以下の範囲の稜L(
図1)の長さを有する六角錐の形状を有することが分かった。比較例4の酸化亜鉛粒子は、直径3μmの球体であり、本発明の酸化亜鉛粒子と比較して、大きさも形状も全く異なることが分かった。さらに、表2の粒子の比表面積に着目すると、実施例1〜3の酸化亜鉛粒子からなる粉末状の集合体の場合、5m
2/g以上120m
2/g以下の範囲の比表面積を有し、比較例4および5の酸化亜鉛粒子と比較して、極めて分散性に優れることが分かった。
【0057】
図8は、実施例3の酸化亜鉛粒子の結晶面を特定する方法を示す模式図である。
【0058】
図8(A)は、
図5(A)と同一である。ここでは、2つの六角錐の形状を有する酸化亜鉛粒子710と720とに着目した。酸化亜鉛粒子710および720の底面(
図1の110)のTEMのCBED像から(0001)面が特定された。
【0059】
次いで、側面(
図1の120)の結晶面を特定の結晶面に仮定して、仮定した結晶面から得られる形状が、酸化亜鉛粒子710および720の形状と合っているかを検討した。ここでは、側面の結晶面を{1−10−1}面と仮定した。
【0060】
図8(B)は、側面の結晶面を{1−10−1}面と仮定した場合の、六角錐の断面を模式的に示す。この場合、六角錐の断面は二等辺三角形となり、底辺の長さは、酸化亜鉛のa軸の2倍(6.5Å)に相当し、高さは、酸化亜鉛のc軸(5.207Å)に相当し、頂角は64度であり、等角は58度となった。
【0061】
図8(C)は、酸化亜鉛粒子710を模式的に示し、側面の各角度を算出したところ、頂角が61.4度であり、等角が59.3度の二等辺三角形であった。同様に、
図8(D)は、酸化亜鉛粒子720を模式的に示し、側面の各角度を算出したところ、頂角が58.4度であり、等角が60.8度の二等辺三角形であった。
【0062】
図8(B)と、
図8(C)および
図8(D)とを比較すると、いずれも二等辺三角形であり、その角度は、計算や測定上の誤差を考慮しても、良好な一致を示した。このことから、
図8(B)の仮定(すなわち、側面の結晶面が{1−10−1}面である)は正しいことが分かった。したがって、本発明の酸化亜鉛粒子710および720は、底面が(0001)面であり、側面が{1−10−1}面である六角錐の形状を有することが確認された。図示しないが、実施例1および実施例2の酸化亜鉛粒子、ならびに、実施例6の熱処理後の酸化亜鉛粒子も、実施例3の酸化亜鉛粒子と同様に六角錐の形状を有しており、実施例3と同様にして、実施例3の酸化亜鉛粒子と同じ面方位あることを確認した。
【0063】
図9は、実施例1および比較例4のガスセンサのセンサ感度(R
air/R
gas)の温度依存性を示す図である。
【0064】
センサ感度は、エタノール含有気体(エタノール量:50ppm)中で加熱温度150℃〜400℃まで50℃刻みで変化させた場合のガスセンサの抵抗率(R
gas)に対する、大気中で加熱温度150℃〜400℃まで50℃刻みで変化させた場合のガスセンサの抵抗率(R
air)の比とする。
図9によれば、実施例1のガスセンサのセンサ感度は、比較例4のそれよりも、すべての温度で高いセンサ感度を示したが、300℃以上380℃以下の温度範囲でさらに高いセンサ感度を示し、なかでも350℃でもっとも高いセンサ感度を示した。
【0065】
【表3】
【0066】
表3には、実施例/比較例1〜6のガスセンサの350℃におけるセンサ感度(大気時の抵抗率/エタノール50ppm含有ガス時の抵抗率)を示す。実施例1〜3のガスセンサは、比較例4および5のガスセンサに比べて、顕著に高いセンサ感度を有することが分かった。また、実施例1および2のガスセンサのセンサ感度が、実施例3のそれよりもさらに優れていることから、六角錐の稜の長さが15nm以上35nm以下の範囲を満たし、かつ、45m
2/g以上65m
2/g以下の範囲の比表面積を有する酸化亜鉛粒子をガスセンサに用いることが、好ましいことが示された。
【0067】
なお、実施例1〜3のガスセンサのセンサ感度は、非特許文献1の
図6(b)に示される酸化亜鉛を使ったガスセンサのセンサ感度(エタノール量:50ppmで約100)と比較しても、10倍以上の高感度であり、本発明の酸化亜鉛粒子を用いてガスセンサは、極めて低濃度(例えば、1ppm程度)の有害ガスであっても検知することができることが示唆される。
【0068】
さらに注目すべきは、熱処理後の酸化亜鉛粒子を用いた実施例6のガスセンサのセンサ感度は、熱処理前の酸化亜鉛粒子を用いた実施例1のそれに比べて、劇的に向上した。このことから、大気中、300℃以上600℃以下の温度範囲での熱処理は、センサ感度の向上に有効であることが示された。