【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成28年5月24日、中日本高速道路株式会社13階会議室(名古屋市中区錦2−18−19 三井住友銀行名古屋ビル)において、中日本高速道路株式会社の社員にプレゼンテーションにより公開
【解決手段】本発明の一側面に係る落下防止構造体は、構造物の躯体に設置される第1の支持部材と、前記第1の支持部材と離間して、前記躯体に設置される第2の支持部材と、前記躯体に取り付けられた取付物を支持可能な状態で、前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材の少なくとも一方に取り付けられる第1のワイヤと、前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材を連結するように、前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材に取り付けられる第2のワイヤと、を備える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図8及び
図9を用いて、トンネルの覆工側壁(躯体)に取り付けられた取付物101のフェイルセーフを目的とする、従来のアンカーを用いた落下防止方法を説明する。
図8は、従来の落下防止方法を示す斜視図である。
図9は、従来の落下防止方法に利用する吊金具102を示す部分拡大図である。
図8及び
図9に示されるとおり、取付物101が、4つの足部を介して壁100に取り付けられているとする。
【0005】
従来、この取付物101にワイヤ106を設置するために、
図9に例示されるような専用の吊金具102が利用されている。吊金具102は、一方の面側から突出した平板状の突出部1021を有しており、この突出部1021には、貫通孔が設けられている。この貫通孔を利用して、吊金具102にはシャックル105が取り付けられる。
【0006】
そして、このシャックル105には、取付物101に巻き回されたワイヤ106の一方のループ状の端部が掛けられる。これにより、吊金具102にワイヤ106が取り付けられ、吊金具102と取付物101とがワイヤ106により連結される。つまり、支持状態に不具合が生じた際には、吊金具102に取り付けたワイヤ106により取付物101を支持し、取付物101が床の方まで(図示の例の場合は、供用中の道路まで)落下しないようにすることができる。
【0007】
しかしながら、上記のような吊金具102は、壁面110から吊金具102自体が落下することがないように躯体に非常に強固に固定するため、上下に配置された2つのアンカー103によって壁面110に設置される。すなわち、2つのアンカー103を互いに離間させて壁100に打設し、吊金具102のベースプレートに設けられた挿入孔に各アンカー103を挿通させる。そして、各アンカー103の露出部分にダブルナット104を螺合させる。これにより、吊金具102は、壁面110に設置される。
【0008】
そのため、
図8に例示されるように、例えば、2つの吊金具102を設置するには、4つのアンカー103と4組のダブルナット104(8つのナット)とを用いることになり、部品点数が多くなってしまう。加えて、部品点数が多くなってしまうことから、フェイルセーフのための施工に手間がかかってしまい、また、施工後の管理の手間もかかってしまう。更に、2つのアンカー103を所定の距離だけ離して打設するため、吊金具102のベースプレートが大きくなってしまい、これによって、取付物101の落下を防止するための構造体が大型化してしまう。すなわち、従来の落下防止方法では、取付物の落下を防止するための構成が複雑であることから、上記のような様々な問題点が発生し得た。
【0009】
本発明は、一側面では、このような点を考慮してなされたものであり、その目的は、簡易な構成でありながら取付物の落下をより一層確実に防止可能にする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。
【0011】
すなわち、本発明の一側面に係る落下防止構造体は、構造物の躯体に設置される第1の支持部材と、前記第1の支持部材と離間して、前記躯体に設置される第2の支持部材と、前記躯体に取り付けられた取付物を支持可能な状態で、前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材の少なくとも一方に取り付けられる第1のワイヤと、前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材を連結するように、前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材に取り付けられる第2のワイヤと、を備える。
【0012】
当該構成によれば、第1の支持部材及び第2の支持部材の少なくとも一方に取り付けた第1のワイヤによって、構造物に取り付けた取付物の支持状態に不具合が生じた際等に、当該取付物を支持することができ、これによって、取付物の落下を防止することができる。また、取付物を支持する際に、第1の支持部材及び第2の支持部材のうち一方の支持部材に負荷がかかっても、第1の支持部材及び第2の支持部材を第2のワイヤで連結しているため、他方の支持部材により一方の支持部材の落下を防止することができる。したがって、当該構成によれば、フェイルセーフが二段階で機能するため、取付物の落下をより一層確実に防止することができる。
【0013】
また、上記のメカニズムにより取付物の落下をより一層確実に防止することができるため、少なくとも2つの支持部材はそれぞれ、躯体に強固に固定可能に構成された従来の吊金具102でなくてもよく、ワイヤを取り付け可能な簡易なアンカー等でよい。したがって、従来の吊金具102を用いなくてもよいため、取付物の落下を防止するための構成を簡易にすることができる。また、吊金具102を用いることなく躯体に設置される支持部材で直接ワイヤを支持するため、吊金具の落下を懸念しなくてもよく、吊金具設置に用いるダブルナット締結作業、施工管理、及び安全点検の手間を省力化することができる。
【0014】
以上により、上記本発明の一側面に係る落下防止構造体によれば、少なくとも2つの支持部材を用いた簡易な構成で取付物の落下を充分に防止することができる。なお、構造物は、例えば、トンネル、高架橋、建築構造物等である。躯体は、例えば、覆工コンクリートの側壁、アーチ、桁、梁、橋脚、柱、高欄、天井、壁等である。取付物は、例えば、防音壁、遮音壁、化粧板、照明器具、灯具、電気設備用ケーブル、標識、交通表示板、案内看板、換気装置、監視カメラ、その他道路等の構造物に付属する設備、建築構造物に取り付けられる看板、配管、電気設備等である。例えば、構造物が高速道路である場合には、取付物は、トンネル照明設備、可変式速度規制標識設備、VI設備、CCTVカメラ設備、避難誘導灯標識設備、トンネル内風向風速計、空中線、トンネル坑口拡声スピーカー、トンネル不感対策設備等の高速道路の構造物に付帯する設備であってもよい。この場合、上記落下防止構造体によれば、高速道路においてこのような設備が落下することによる第三者被害を防止することができる。
【0015】
また、上記一側面に係る落下防止構造体の別の形態として、前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材はそれぞれ、前記躯体に打設可能に構成されたアンカーであってもよい。当該形態によれば、各ワイヤを取り付けるのに少なくとも2つのアンカーを打設すれば済むため、2つの吊金具を設置するのに4つのアンカーを打設していた従来に比べて、取付物の落下を防止するための構成を簡易に、することができる。また、第1及び第2の支持部材としてのアンカーは、取付物を躯体に既に取り付けた後であっても、その躯体に対して打設し、内装板等を貫通させて取り付けることができる。そのため、各支持部材の施工の自由度が高く、落下防止構造体の適用対象を広げることができる。
【0016】
また、上記一側面に係る落下防止構造体の別の形態として、前記各アンカーは、前記躯体に打設したときに前記躯体から露出する頭部を備えてよく、前記頭部には、前記第1のワイヤを取り付けるための第1の貫通孔と、前記第1の貫通孔に離間し、前記第2のワイヤを取り付けるための第2の貫通孔と、が設けられていてもよい。当該形態によれば、アンカーを打設した後に、第1及び第2のワイヤをそれぞれ第1及び第2の貫通孔に取り付けることができる。そのため、取付物の落下を防止するための施工を容易にすることができる。
【0017】
また、本発明の一側面に係る取付物の落下防止の施工方法は、構造物の躯体に、第1の支持部材及び第2の支持部材を離間して設置するステップと、第1のワイヤを、前記躯体に取り付けられた取付物を支持可能な状態にした上で、前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材の少なくとも一方に取り付けるステップと、前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材を連結するように、前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材に第2のワイヤを取り付けるステップと、を備える。上記のとおり、当該構成によれば、少なくとも2つの支持部材を用いた簡易な構成で取付物の落下をより一層確実に防止することができる。
【0018】
また、本発明の一側面に係るアンカーは、棒状に形成され、前記躯体に打設される、上記施工方法における前記第1の支持部材及び前記第2の支持部材として利用されるアンカーであって、軸方向の一方の端部側に設けられ、前記躯体に打設したときに前記躯体内に固定される固定部と、前記軸方向の他方の端部側に設けられ、前記躯体に打設したときに前記躯体から露出する頭部と、を備え、前記頭部には、前記躯体に取り付けられた取付物を支持する前記第1のワイヤを取り付けるための第1の貫通孔と、前記第1の貫通孔から離間し、他のアンカーに連結された前記第2のワイヤを取り付けるための第2の貫通孔と、が設けられている。上記のとおり、当該形態のアンカーを用いれば、取付物の落下をより一層確実に防止するための構成を簡易にし、かつ、施工を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、簡易な構成で取付物の落下をより一層確実に防止可能にする技術を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。なお、以下の説明では、説明の便宜のため、図面内の向きを基準として説明を行う。
【0022】
§1 構成例
まず、
図1を用いて、本実施形態に係る落下防止構造体1の一例を説明する。
図1に例示されるように、本実施形態では、構造物の躯体はトンネルの覆工コンクリートであり、その壁8に取付物7が取り付けられている。構造物は、例えば、トンネル、高架橋、建築構造物等である。取付物7は、例えば、防音壁、遮音壁、化粧板、照明器具、灯具、電気設備用ケーブル、標識、交通表示板、案内看板、換気装置、監視カメラ、その他道路等の構造物に付属する設備、建築構造物に取り付けられる看板、配管、電気設備等である。本実施形態では、取付物7は、本体部71と本体部71の四角にそれぞれ設けられた4つの足部72とを備えており、各足部72が壁8に取付ボルト等で固定されることで、コンクリートの壁8に取り付けられている。
【0023】
本実施形態に係る落下防止構造体1は、このような取付物7が支持不良に陥った際に、取付物7が供用中の道路等まで落下しないようにするため、次のような構成を有している。すなわち、本実施形態に係る落下防止構造体1は、構造物の壁8に互いに離間して設置される一対のアンカー(2A、2B)と、取付物7を支持可能な状態で、各アンカー(2A、2B)にそれぞれ取り付けられる2本の第1のワイヤ5と、両アンカー(2A、2B)を連結するように、両アンカー(2A、2B)に取り付けられる第2のワイヤ6と、を備えている。
【0024】
なお、以下では、説明の便宜のため、一対のアンカーをそれぞれ、第1のアンカー2A及び第2のアンカー2Bと称する。また、両アンカー(2A、2B)は同じ構成を有している。そのため、両者を区別しない場合には、第1のアンカー2A及び第2のアンカー2Bを共にアンカー2と称する。第1のアンカー2Aは、本発明の「第1の支持部材」に相当し、第2のアンカー2Bは、本発明の「第2の支持部材」に相当する。
【0025】
各アンカー(2A、2B)は、壁8に打設したときに壁8から露出する頭部32を備えており、この頭部32には、第1のワイヤ5を取り付けるための第1の貫通孔34と、第2のワイヤを取り付けるための第2の貫通孔35と、が設けられている。各アンカー(2A、2B)の具体的な構成については、後述で詳細に説明する。
【0026】
各アンカー(2A、2B)の第1の貫通孔34には、第1のワイヤ5を掛けるためのシャックル341が取り付けられている。シャックル341には、公知のシャックルが利用可能であり、例えば、SB−8型のシャックルを利用することができる。各第1のワイヤ5は、取付物7に巻き回された上で、このシャックル341に掛けられる。
【0027】
具体的には、各第1のワイヤ5は、一方の端部側では、ワイヤ接続金具54によりループ部52が形成されており、このループ部52で抜け止めをした上で、取付物7の本体部71に巻き回されている。また、各第1のワイヤ5は、他方の端部でも、ワイヤ接続金具53によりループ部51が形成されており、このループ部51をシャックル341に掛けることで、シャックル341を介して各アンカー(2A、2B)の第1の貫通孔34に取り付けてられている。これにより、各第1のワイヤ5は、各アンカー(2A、2B)と取付物7とを連結している。
【0028】
なお、各第1のワイヤ5は、両ループ部(51、52)の間の部分55をやや弛ませて、取付物7の本体部71に巻き回されている。これにより、取付物7が各足部72により正常に支持されている際には、各第1のワイヤ5及び各アンカー(2A、2B)に負荷がかからないようになっている。すなわち、足部72のいずれかが壁8から外れる等の支持不良が生じた際にのみ、取付物7の重力により各第1のワイヤ5に張力が作用し、各アンカー(2A、2B)により取付物7を落下しないように支持することができるように構成されている。
【0029】
一方、両アンカー(2A、2B)の第2の貫通孔35には、第2のワイヤ6が、両アンカー(2A、2B)を連結するように取り付けられている。具体的には、第2のワイヤ6の両端側でそれぞれ、ワイヤ接続金具(63、64)によりループ部(61、62)が形成されている。そして、各ループ部(61、62)は、各アンカー(2A、2B)の第2の貫通孔35に抜けないように掛けられている。これによって、第2のワイヤ6は、両アンカー(2A、2B)の第2の貫通孔35に取り付けられ、両アンカー(2A、2B)を連結している。
【0030】
このとき、第2のワイヤ6の長さは、両アンカー(2A、2B)を連結可能なように適宜決定されてよい。例えば、第2のワイヤ6は、大きく弛まないように両アンカー(2A、2B)の間の距離に対応させつつ、両アンカー(2A、2B)に張力が作用しない程度に若干緩ませるようにしてもよい。これにより、両アンカー(2A、2B)に常時負荷がかかるのを避けることができ、かつ、取付物7と両アンカー(2A、2B)のいずれか一方とが落下した場合に、取付物7の落下距離を短くすることができる。
【0031】
以上のように、本実施形態によれば、各アンカー(2A、2B)に取り付けた各第1のワイヤ5によって、壁8に取り付けた取付物7に支持不良が生じた際に、当該取付物7が床の方まで落下しないように支持することができる。また、各第1のワイヤ5を介して各アンカー(2A、2B)により取付物7を支持する際に、各アンカー(2A、2B)に負荷が作用し、第1及び第2のアンカー(2A、2B)の一方に壁8から外れる等の不具合が生じたとする。そのような場合であっても、両アンカー(2A、2B)は第2のワイヤ6によって連結されているため、壁8から外れていない方のアンカーで、取付物7が落下しないように支持し続けることができる。
【0032】
すなわち、本実施形態では、各アンカー(2A、2B)に取り付けた各第1のワイヤ5によって、壁8に取り付けた取付物7の落下を直接的に防止することができる。また、両アンカー(2A、2B)を連結した第2のワイヤ6によって、取付物7の落下を間接的に防止することができる。よって、本実施形態では、フェイルセーフが二段階で機能するため、取付物7の落下を充分に防止することができる。
【0033】
なお、各第1のワイヤ5、第2のワイヤ6、及びワイヤ接続金具(53、54、63、64)には、公知のワイヤ及びワイヤ接続金具を用いることができる。例えば、各ワイヤ(5、6)には、ステンレス製等のワイヤを用いることができる。また、各ワイヤ接続金具(53、54、63、64)には、ステンレス製のスリーブ、ワイヤジョイント金具(例えば、グリップル社製のグリップル)等を用いることができる。
【0034】
ここで、取付物7の支持不良が生じた際には、第1のワイヤ5は取付物7の落下防止に直接作用するが、第2のワイヤ6は、第1及び第2のアンカー(2A、2B)のいずれかが外れない限りは、取付物7の落下防止として作用しない。そのため、第2のワイヤ6は、第1のワイヤ5よりも径が細くてもよい。これにより、各アンカー(2A、2B)の第2の貫通孔35の径が小さくてもよくなるため、頭部32における断面欠損を抑えることができる。また、細い径の第2のワイヤ6を用いることで、作業性を向上させることができ、かつ、コストを抑えることができる。
【0035】
[アンカー]
次に、
図2、
図3A〜
図3E、及び
図4を用いて、本実施形態に係る落下防止構造体1の第1及び第2の支持部材として利用されるアンカー2の一例を説明する。
図2は、本実施形態に係るアンカー2の打設状態を例示する。
図3A〜
図3Eは、本実施形態に係るアンカー2の一例を示す正面図、右側面図、左側面図、平面図、及び左上斜視図である。
図4は、本実施形態に係るアンカー2の分解した状態を例示する。
【0036】
なお、以下では、説明の便宜のため、アンカーにおいて削孔に挿入される側を「先端側」、その反対側を「後端側」と称することがある。また、削孔の延びる方向及びそれに対応するアンカーの延びる方向を軸方向と称することがある。また、この軸方向を中心に、径方向又は周方向という文言により方向を示すこともある。
【0037】
各図に示されるように、本実施形態に係るアンカー2は、全体的に棒状に形成されており、壁8に打設可能に構成されている。具体的に、アンカー2は、棒状の固定部材3と、当該固定部材3に挿通されるスリーブ4と、を備えている。固定部材3は、円柱状に形成された本体部31を備えており、当該本体部31の軸方向の一端部には、アンカー2を壁8に打設したときに壁8から露出する頭部32が配置されている。
【0038】
頭部32は、やや丸みを帯びた矩形状の平板状に形成されている。この頭部32には、第1のワイヤ5を取り付けるための第1の貫通孔34と、第2のワイヤ6を取り付けるための第2の貫通孔35と、が設けられている。第1の貫通孔34は、第1のワイヤ5を掛けるシャックル341のボルトが挿通可能な大きさに形成されており、後端側に配置されている。一方、第2の貫通孔35は、第2のワイヤ6が挿通可能な程度の大きさで、第1の貫通孔34よりやや小さめに形成されており、第1の貫通孔34よりも内側(先端側)に配置されている。
【0039】
第1及び第2の貫通孔(34、35)の大きさは、第1及び第2のワイヤ(5、6)を取り付け可能であれば、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。ただし、第1の貫通孔34に取り付ける第1のワイヤ5は取付物7を直接的に支持するため、本実施形態のようにシャックル341を利用する、太いワイヤを利用する等して、第2のワイヤ6よりも第1のワイヤ5をより負荷に強く構成するのが好ましい。これに対応するため、第1の貫通孔34の方が第2の貫通孔35よりも大きく形成されるのが好ましい。
【0040】
この頭部32の寸法は、実施の形態に応じて適宜設定可能である。本実施形態では、頭部32の厚み方向(
図3Dの上下方向)の長さは、スリーブ4の内径よりも短くなっている。反対に、頭部32の幅方向(
図3Aの上下方向)の長さは、本体部31の外径及びスリーブ4の内径よりも長くなっており、スリーブ4の外径とほぼ等しくなっている。これによって、頭部32が抜け止めとなって、スリーブ4が、固定部材3から後端側に離脱しないようになっている。
【0041】
また、本体部31の軸方向の他端部には、先端に行くに従って径が大きくなる円錐状のテーパ部33が形成されている。テーパ部33の最大径は、スリーブ4の内径よりも長くなっている。これによって、テーパ部33が抜け止めとなって、スリーブ4が、固定部材3から先端側に離脱しないようになっている。
【0042】
一方、スリーブ4は、初期状態において、固定部材3の本体部31に挿通されている。そして、スリーブ4は、使用時には、本体部31に沿ってテーパ部33側に移動し、テーパ部33によって拡径するように構成されている。そのため、スリーブ4の内径は、本体部31の外径よりもやや大きく、テーパ部33の最大径よりも小さくなっている。
【0043】
具体的に、スリーブ4のテーパ部33側の端部には、軸方向に延びる複数のスリット41が、周方向に等間隔で形成されており、これにより、テーパ部33により拡径する拡径部42が構成されている。すなわち、これら複数のスリット41がテーパ部33によって周方向に広がることで、スリーブ4の拡径部42は拡径されるようになっている。なお、スリーブ4の拡径部42のスリット41に挟まれた部分の外周面には、凹凸43が形成されている。これにより、拡径したスリーブ4の拡径部42と削孔内壁面との摩擦力を増大させることができる。
【0044】
なお、固定部材3及びスリーブ4の材料は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、固定部材3及びスリーブ4の材料には、ステンレスなどの金属が用いられてもよい。なお、異種金属の接触による腐食を避けるため、固定部材3及びスリーブ4の材料は、シャックル341及び各ワイヤ(5、6)と同一であることが好ましい。
【0045】
<アンカーの製造方法>
次に、上記のように構成されたアンカー2の製造方法について説明する。
【0046】
まず、固定部材3を形成するための円柱状の棒状部材を準備する。棒状部材の一端部には、先端に行くに従って径が大きくなるテーパ部33を適宜形成しておく。次に、上記のスリーブ4を適宜加工して用意し、棒状部材の他端部側(テーパ部33とは反対側の端部側)から当該スリーブ4を挿通させる。そして、棒状部材の他端部、すなわち、スリーブ4から突出した部分を押し潰し、スリーブ4の内径よりも幅が大きい板状に成形する。最後に、第1及び第2の貫通孔(34、35)をこの板状の部分(頭部32)に形成すれば、上記の頭部32が形成される。こうして、上記のアンカー2が完成する。
【0047】
なお、上記のような製造方法では、頭部32は、棒状部材の他端部を押し潰すことにより形成されるため、内側(先端側)よりも後端側の方が広く形成しやすい。また、上記のとおり、第1の貫通孔34の方が第2の貫通孔35よりも大きく形成するのが好ましい。そのため、第1の貫通孔34を第2の貫通孔35よりも大きく形成する観点からは、第1の貫通孔34を後端側に配置し、第2の貫通孔35を内側(先端側)に配置するのが好ましい。なお、各貫通孔(34、35)を形成する方法は、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、型で打ち抜くことで第1の貫通孔34を形成し、ドリルで切削加工することで第2の貫通孔35を形成してもよい。
【0048】
§2 施工方法
次に、
図5A〜
図5Dを用いて、上記のように構成された落下防止構造体1の施工方法の一例を説明する。
図5A〜
図5Dは、本実施形態に係る落下防止構造体1の施工過程を例示する。
【0049】
まず、墨出しした後に、
図5Aに例示されるように、ドリル等によって、コンクリートの壁8の壁面81に、互いに離間した2つの削孔82を形成する。このとき、各削孔82の内径は、各アンカー(2A、2B)のテーパ部33の最大径及びスリーブ4の外径よりも僅かに大きくする。
【0050】
次に、
図5Bに例示されるように、各アンカー(2A、2B)を、テーパ部33側を向けて、各削孔82に挿入する。そして、頭部32を挿入可能な大きさを有し、スリーブ4の端部のみを打撃可能に形成された円筒状の打撃部材91を準備する。更に、この打撃部材91の先端部を、中空部に挿通した上で、スリーブ4の後端部に当接させる。この状態で、打撃部材91の後端部をハンマー92により打撃することで、スリーブ4を、テーパ部33側に移動させる。
【0051】
ハンマー92の打撃により、スリーブ4が移動するに従って、拡径部42がテーパ部33によって拡径し、削孔82の内壁面に密着する。こうして、スリーブ4の拡径部42が、削孔82の内壁面に十分に密着するまで、打撃部材91をハンマー92で打撃すると、
図5Cに例示されるように、各アンカー(2A、2B)が削孔82内に強固に固定される。これにより、各アンカー(2A、2B)の打設が完了する。すなわち、互いに離間した位置に各アンカー(2A、2B)が設置される。なお、この場合、
図5Cに例示されるように、固定部材3の本体部31及びテーパ部33並びにスリーブ4が、本発明の「躯体に打設したときに躯体内に固定される固定部」に相当する。
【0052】
次に、各第1のワイヤ5を、取付物7を支持可能な状態にした上で、各アンカー(2A、2B)の第1の貫通孔34に取り付ける。本実施形態では、第1の貫通孔34にシャックル341を取り付ける。そして、各第1のワイヤ5の部分55を取付物7の左右で巻き回し、一端部に形成したループ部52で抜け止めした後に、他端部に形成したループ部51をシャックル341に掛ける。これにより、各第1のワイヤ5を、取付物7を支持可能な状態にした上で、各アンカー(2A、2B)の第1の貫通孔34に取り付けることができる。
【0053】
次に、両アンカー(2A、2B)を連結するように、両アンカー(2A、2B)の第2の貫通孔35に第2のワイヤ6を取り付ける。本実施形態では、第2のワイヤ6の両端部側でそれぞれループ部(61、62)を形成し、各ループ部(61、62)を各アンカー(2A、2B)の第2の貫通孔35に掛ける。これにより、両アンカー(2A、2B)を連結するように、両アンカー(2A、2B)の第2の貫通孔35に第2のワイヤ6を取り付けることができる。こうして、落下防止構造体1の施工が完成する。
【0054】
なお、上記施工方法について、実施の形態に応じて、適宜、工程の省略、置換、及び追加が可能である。例えば、上記施工方法では、第1のワイヤ5を取り付けた後に、第2のワイヤ6を取り付けている。しかしながら、落下防止構造体1の施工方法は、このような例に限定されなくてもよく、第2のワイヤ6を先に取り付けた後に、第1のワイヤ5を取り付けてもよい。
【0055】
[特徴]
以上のように、本実施形態によれば、第1のワイヤ5及び第2のワイヤ6によるフェイルセーフが二段階で機能するため、取付物7の落下を充分に防止することができる。そのため、各ワイヤ(5、6)を取り付ける支持部材として、従来の吊金具ではなく、各アンカー(2A、2B)のような簡易な構成を採用することができる。したがって、本実施形態によれば、2つのアンカー(2A、2B)を用いた簡易な構成で取付物7の落下をより一層確実に防止することができる。
【0056】
また、従来の吊金具及びダブルナットが不要になるため、部品点数を少なくすることができ、施工の手間及び施工後の管理にかかる手間を削減することができる。具体的に、ダブルナットにおけるナット締め、ナットの増し締め、マーキング、ナットの緩み点検等の作業が不要になる。加えて、上記実施形態では、取り付けるアンカーの数が従来の半分で済む。そのため、アンカーの取付の作業量が半分になる。これらにより、本実施形態では、施工及び管理にかかる手間を大幅に削減することができる。
【0057】
また、従来の吊金具が不要になるため、各アンカー(2A、2B)は任意の位置に打設可能である。そのため、従来に比べて施工の自由度が高くなる。加えて、吊金具により規定されていた形状から解放されるため、落下防止構造体1は従来に比べて小型化することができる。また、躯体アンカーに直接ワイヤを支持させる構成であることによって、吊金具を用いてワイヤを支持する従来方式のように吊金具自体及びナットの落下の懸念がない。
【0058】
§3 変形例
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良や変形を行うことができることは言うまでもない。例えば、上記落下防止構造体1の各構成要素に関して、実施の形態に応じて、適宜、構成要素の省略、置換及び追加が行われてもよい。また、上記落下防止構造体1の各構成要素の形状及び大きさも、実施の形態に応じて適宜決定されてもよい。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、適宜説明を省略した。
【0059】
<3.1>
例えば、上記実施形態では、第1及び第2の支持部材として、アンカー2を利用している。しかしながら、各支持部材は、アンカー2に限定されなくてもよく、構造物の躯体に設置した上でワイヤを取り付け可能であれば、実施の形態に応じて、適宜選択されてよい。第1及び第2の支持部材として、例えば、予め躯体に埋設されたインサートにねじ込まれた支持部材、又は落下防止対象取付物とは異なる物を固定するための支持部材が利用されてもよい。
【0060】
また、例えば、上記実施形態では、第1のアンカー2A及び第2のアンカー2Bは共に同じ構成を有している。しかしながら、第1のアンカー2A及び第2のアンカー2Bの構成は互いに相違していてもよい。例えば、第1のアンカー2A及び第2のアンカー2Bのうちのいずれか一方のアンカーで第1のワイヤ5を支持しなくてもよい場合には、そのアンカーには、第1の貫通孔34又は第2の貫通孔35のいずれかが設けられていなくてもよい。
【0061】
また、例えば、上記実施形態では、各アンカー(2A、2B)の第1の貫通孔34には、シャックル341を介して、第1のワイヤ5が取り付けられている。しかしながら、このような例に限定されなくてもよく、第1の貫通孔34には、第1のワイヤ5が直接取り付けられてもよい。
【0062】
<3.2>
また、例えば、上記実施形態では、取付物7は、構造物の壁8に取り付けられている。しかしながら、取付物7の取付先は、構造物の躯体であれば、壁8に限られなくてもよく、天井等であってもよい。構造物の躯体は、例えば覆工コンクリートの側壁、アーチ、桁、梁、橋脚、柱、高欄、天井、壁等である。
【0063】
<3.3>
また、例えば、上記実施形態では、第1及び第2のアンカー(2A、2B)の両方に第1のワイヤ5が取り付けられている。しかしながら、第1のワイヤ5の設置形態は、このような例に限定されなくてもよく、第1及び第2のアンカー(2A、2B)の少なくとも一方に第1のワイヤ5が取り付けられているのであれば、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、
図6及び
図7に示すように、第1のアンカーにより取付物を支持してもよい。
【0064】
図6は、第1の変形例に係る落下防止構造体1Aを例示する。第1の変形例では、取付物7Aは、壁8に固定するベース部73と、ベース部73から水平方向に延びる延在部74と、延在部74の一端部から下方に延びる支柱部75と、支柱部75に連結される本体部76と、を備えている。
【0065】
このような取付物7Aを支持するため、第1のワイヤ5は、支柱部75に巻き付けて、ループ部で抜け止めした上で、上記実施形態と同様の方法で第1のアンカー2Aに取り付けられる。一方、第2のアンカー2Bには、第1のワイヤ5は取り付けられず、第2のアンカー2Bは、第1のアンカー2Aから上方に離間した位置に配置される。第2のワイヤ6は、両アンカー(2A、2B)の第2の貫通孔35を挿通させた後、ワイヤ接続金具65で輪っか状に固定することで、両アンカー(2A、2B)を連結するように取り付けられる。すなわち、この第1の変形例では、第2のアンカー2Bは、第2のワイヤ6で第1のアンカー2Aに連結するのに専ら利用される。
【0066】
また、
図7は、第2の変形例に係る落下防止構造体1Bを例示する。第2の変形例では、第1の変形例とほぼ同様に、取付物7Bが支持される。すなわち、取付物7Bは、壁8に固定するベース部77と、ベース部77から水平方向に延びる支柱部78と、支柱部78に連結される本体部79と、を備えている。このような取付物7Bを支持するため、第1のワイヤ5は、支柱部78に巻き付けて、ループ部で抜け止めした上で、上記実施形態と同様の方法で第1のアンカー2Aに取り付けられる。一方、第2のアンカー2Bには、第1のワイヤ5は取り付けられず、第2のアンカー2Bは、第1のアンカー2Aから上方に離間した位置に配置される。第2のワイヤ6は、両アンカー(2A、2B)の第2の貫通孔35を挿通させた後、ワイヤ接続金具65で輪っか状に固定することで、両アンカー(2A、2B)を連結するように取り付けられる。
【0067】
なお、上記変形例では、第1のアンカー2Aに第1のワイヤ5を取り付けており、第2のアンカー2Bに第1のワイヤ5を取り付けていない。しかしながら、第1のワイヤ5の設置形態はこのような例に限定されなくてもよく、第2のアンカー2Bに第1のワイヤ5を取り付け、第1のアンカー2Aに第1のワイヤ5を取り付けないようにしてもよい。すなわち、第1のワイヤ5は、第1及び第2のアンカー(2A、2B)の少なくとも一方に取り付けられていればよい。また、1本の第1のワイヤ5を両アンカー(2A、2B)に取り付けてもよい。