特開2018-3154(P2018-3154A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2018-3154銅合金、銅合金鋳塊及び銅合金溶体化材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-3154(P2018-3154A)
(43)【公開日】2018年1月11日
(54)【発明の名称】銅合金、銅合金鋳塊及び銅合金溶体化材
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/06 20060101AFI20171208BHJP
   C22C 9/02 20060101ALI20171208BHJP
   C22C 9/04 20060101ALI20171208BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20171208BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20171208BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20171208BHJP
   B60M 1/30 20060101ALI20171208BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20171208BHJP
【FI】
   C22C9/06
   C22C9/02
   C22C9/04
   C22C9/00
   C22F1/08 C
   C22F1/08 Q
   H01B1/02 A
   B60M1/30 301
   B60M1/30 304
   C22F1/00 602
   C22F1/00 604
   C22F1/00 625
   C22F1/00 630A
   C22F1/00 630D
   C22F1/00 630G
   C22F1/00 630K
   C22F1/00 640A
   C22F1/00 661A
   C22F1/00 681
   C22F1/00 683
   C22F1/00 684A
   C22F1/00 685Z
   C22F1/00 691B
   C22F1/00 691C
   C22F1/00 692A
   C22F1/00 694B
   C22F1/00 694A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2017-115427(P2017-115427)
(22)【出願日】2017年6月12日
(31)【優先権主張番号】特願2016-124661(P2016-124661)
(32)【優先日】2016年6月23日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000176822
【氏名又は名称】三菱伸銅株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】榎並 悠介
(72)【発明者】
【氏名】坂本 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】中本 斉
(72)【発明者】
【氏名】大石 恵一郎
(72)【発明者】
【氏名】菅原 淳
(72)【発明者】
【氏名】山下 主税
(72)【発明者】
【氏名】小原 拓也
【テーマコード(参考)】
5G301
【Fターム(参考)】
5G301AA01
5G301AA07
5G301AA08
5G301AA09
5G301AA12
5G301AA14
5G301AA20
5G301AA23
5G301AA24
5G301AB02
5G301AB04
5G301AD02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】Co,P及びSnを含有する銅合金において、溶体化処理を行った場合でも、結晶粒径の粗大化を抑制でき、伸線性及び高温伸びに優れ、且つ、強度及び導電率に優れた銅合金、銅合金鋳塊、銅合金溶体化材を提供する。
【解決手段】Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらに、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、(1)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100),(2)式:X+Y+Z≦1000、を満足することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらに、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、
(1)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)
(2)式:X+Y+Z≦1000
上記(1)式及び(2)式を満足することを特徴とする銅合金。
【請求項2】
さらに、
(3)式:1≦(2X/5)+(2Y/50)
(4)式:Y<400
上記(3)式及び(4)式を満足することを特徴とする請求項1に記載の銅合金。
【請求項3】
Bを5massppm以上1000massppm以下の範囲内で含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の銅合金。
【請求項4】
さらに、Ni;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種又は2種を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の銅合金。
【請求項5】
さらに、Zn;0.002mass%以上0.5mass%以下、Mg;0.002mass%以上0.25mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下のいずれか1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の銅合金。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された銅合金の組成を有する銅合金鋳塊であって、
加工率50%の冷間圧延を施し、950℃で1時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が400μm以下であることを特徴とする銅合金鋳塊。
【請求項7】
950℃で1時間の熱処理を行った後の導電率が45%IACS以下であることを特徴とする請求項6に記載の銅合金鋳塊。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された銅合金の組成を有する銅合金溶体化材であって、
導電率が45%IACS以下であることを特徴とする銅合金溶体化材。
【請求項9】
Co;0.12mass%以上0.40mass%以下、P;0.04mass%以上0.16mass%以下、Sn;0.01mass%以上0.50mass%以下、を含み、さらに、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、
(1)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)
(2)式:X+Y+Z≦1000
上記(1)式及び(2)式を満足することを特徴とする銅合金トロリ線。
【請求項10】
さらに、
(3)式:1≦(2X/5)+(2Y/50)
(4)式:Y<400
上記(3)式及び(4)式を満足することを特徴とする請求項9に記載の銅合金トロリ線。
【請求項11】
Bを5massppm以上1000massppm以下の範囲内で含有することを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の銅合金トロリ線。
【請求項12】
請求項9から請求項11のいずれか一項に記載の銅合金トロリ線の製造方法であって、
銅荒引線を連続的に製出する連続鋳造圧延工程と、得られた銅荒引線に対して溶体化処理を行う溶体化処理工程と、溶体化処理工程後の溶体化材に対して冷間加工を行って銅線材を製出する1次冷間加工工程と、前記銅線材に対して時効熱処理を実施する時効熱処理工程と、時効熱処理工程後の時効熱処理材に対して冷間加工を行う2次冷間加工工程と、を有し、
前記溶体化処理工程では、保持温度が900℃以上1000℃以下の範囲内、前記保持温度での保持時間が30分以上600分以下の範囲内とされ、
前記時効熱処理工程では、熱処理温度が300℃以上600℃以下の範囲内、前記熱処理温度での保持時間が60分以上1500分以下の範囲内とされていることを特徴とする銅合金トロリ線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車や機器の配線、トロリ線、ロボット用ワイヤ及び航空機用ワイヤ等に使用されるCo,P及びSnを含有する析出強化型の銅合金、銅合金鋳塊、銅合金溶体化材、及び、銅合金トロリ線、銅合金トロリ線の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1、2に示すように、自動車配線用及び機器配線用の電線として、銅線を複数本撚り合わせてなる電線導体に、絶縁被膜を被覆したものが提供されている。また、配線等を効率的に行うために、これらの電線を複数本束ねたワイヤーハーネスが提供されている。
近年、環境保護の観点から、自動車から排出される二酸化炭素量を低減するために、自動車車体の軽量化が強く求められている。一方、自動車のエレクトロニクス化が進み、さらに、ハイブリッド車や電気自動車の開発も進んでおり、自動車に用いられる電気系統の部品数は加速的に増加している。これにより、これらの部品をつなぐワイヤーハーネスの使用量が、今後、さらに増加する見込みであり、このワイヤーハーネスの軽量化が求められている。
ここで、ワイヤーハーネスを軽量化する手段として、電線及び銅線の細径化が図られている。また、電線導体及び銅線の細径化によって、ワイヤーハーネスの軽量化とともに小型化も図られることになり、配線スペースを有効活用できるといったメリットもある。
【0003】
また、電気鉄道車両等に使用されるトロリ線においては、パンタグラフ等の集電装置と摺接され、電気鉄道車両等に対して給電される構成とされている。パンダグラフからの離線が少ないなど、良好な集電性能を得るためには、トロリ線の波動伝播速度が走行速度を十分に上回ることが必要である。トロリ線の波動伝播速度は負荷される張力の平方根に比例するため、波動伝播速度を向上させるためには、高強度のトロリ線が必要となる。また、トロリ線には、優れた導電率、耐摩耗性、疲労特性が要求される。
【0004】
近年、電気鉄道車両の走行速度の高速化が図られているが、新幹線等の高速鉄道においては、電気鉄道車両の走行速度が、トロリ線等の架線に発生した波の伝播速度よりも速くなると、パンタグラフ等の集電装置とトロリ線との接触が不安定となって、安定して給電を行うことができなくなるおそれがある。
ここで、トロリ線の架線張力を高くすることによって、トロリ線における波の伝播速度を高速化することが可能となるため、従来よりもさらに高強度のトロリ線が求められている。
【0005】
上述のような要求特性を満足する高い強度と高い導電率とを備えた銅合金からなる銅合金線として、例えば特許文献1−3に示すように、Co、P及びSnを含有する銅合金線が提案されている。これらの銅合金線は、Co及びPの化合物を銅の母相中に析出させることによって、導電率を確保したまま、強度の向上を図ることが可能となる。
また、例えば特許文献4には、高速走行用に開発されたPHCトロリ線が提案されている。このPHCトロリ線は、Cr,Zr,Sn含有銅合金で構成されており、強度及び導電性に優れている。
【0006】
ところで、上述の特許文献1−3に記載されたCo、P及びSnを含有する銅合金線、及び、特許文献4に記載された銅合金トロリ線を製造する場合には、ビレットと呼ばれる断面積の大きな鋳塊を製出し、このビレットを再加熱して熱間押出し、その後、さらに伸線加工等を行う方法が実施されている。しかしながら、断面積の大きな鋳塊を製出した後に熱間押出を行って銅合金を製造する場合、鋳塊のサイズによって得られる銅合金の長さが制限されることになり、長尺の銅合金線(銅合金トロリ線)を得ることができなかった。また、生産効率が悪いといった問題があった。
【0007】
そこで、例えばベルトホイール式の連続鋳造機等を用いた連続鋳造圧延法によって銅合金線を製造する方法が提案されている。この場合、鋳造と圧延とを連続で実施するために、生産効率が高く、長尺の銅合金線を得ることが可能となる。
また、上方連続鋳造機、横型連続鋳造機及びホットトップ連続鋳造機により連続鋳造線材を製造し、この連続鋳造線材を再加熱せずに直接冷間加工することによって銅合金線を製造する方法も提案されている。
【0008】
しかしながら、ベルトホイール式の連続鋳造機等を用いた連続鋳造圧延法によって製造された銅合金線、及び、連続鋳造線材を再加熱せずに直接冷間加工することによって製造された銅合金線は、ビレットを熱間押出する熱間押出工程を含む製造方法によって製造された銅合金線に比べて、強度が低くなる傾向にあった。このため、強度を確保するためには、熱間押出工程を含む製造方法によって製造する必要があり、高強度の銅合金線を効率良く生産することができなかった。
【0009】
ここで、本発明者らが検討した結果、連続鋳造圧延法で製造された銅合金線は、熱間押出工程を含む製造方法によって製造された銅合金線に比べて、Co,Pの偏析が大きいことが判明した。そこで、特許文献5には、CoとPの比率を規定することにより、Co、Pの偏析を抑制し、引張強度及び導電性を向上させる技術が提案されている。また、特許文献6には、強度、耐熱性、導電率、伸びに優れた銅合金トロリ線を、連続鋳造圧延法で製造することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−212164号公報
【特許文献2】再公表WO2009/107586号公報
【特許文献3】再公表WO2009/119222号公報
【特許文献4】特開平08−157985号公報
【特許文献5】特許第5773015号公報
【特許文献6】特許第6027807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、特許文献5においては、主成分であるCo及びPの比率を規定することで、Co、Pの偏析を抑制しているが、これらの偏析を抑制するためには、連続鋳造圧延法又は連続鋳造法によって製造された連続鋳造線材に対して、溶体化処理を行うことも効果的である。また、ビレット等の銅合金鋳塊においても、Co、Pの偏析を抑制するために、十分な溶体化処理を行うことが好ましい。
ただし、上述のCo、P及びSnを含有する銅合金からなる連続鋳造線材や銅合金鋳塊に対して溶体化処理を行った場合、結晶粒径が粗大化し、その後の加工性が大きく低下するといった問題があった。また、高温時に脆化して伸びが低下し、割れが生じやすいといった問題があった。
【0012】
また、電気鉄道車両等に使用されるトロリ線においては、電気鉄道車両のさらなる高速化が図られており、従来にも増して、優れた摩耗特性及び疲労特性が求められている。ここで、特許文献6に開示された銅合金トロリ線においては、上述のように溶体化処理時に結晶粒径が粗大化し、摩耗特性及び疲労特性が十分に向上しないといった問題があった。
【0013】
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであって、Co,P及びSnを含有する銅合金において、溶体化処理を行った場合でも、結晶粒径の粗大化を抑制でき、加工性及び高温伸びに優れ、且つ、強度及び導電率に優れた銅合金、銅合金鋳塊、銅合金溶体化材、及び、摩耗特性及び疲労特性に優れた銅合金トロリ線、銅合金トロリ線の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題を解決するために、本発明の銅合金は、Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらに、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、
(1)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)
(2)式:X+Y+Z≦1000
上記(1)式及び(2)式を満足することを特徴としている。
【0015】
上述の構成の銅合金においては、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、上述の(1)式を満足しているので、高温に加熱保持した場合でも、これらの元素の作用により、結晶粒径が粗大化されることが抑制されることになり、加工性及び高温伸びに優れている。また、十分な溶体化処理を行うことが可能となり、その後の時効熱処理によって析出物を微細、且つ、均一に分散させることができ、強度及び導電率を向上させることができる。
一方、B,Cr,Zrの含有量が上述の(2)式を満足しているので、B,Cr,Zrといった元素によって鋳造性が低下したり鋳造割れが発生したりすることを抑制できる。
【0016】
ここで、本発明の銅合金においては、さらに、
(3)式:1≦(2X/5)+(2Y/50)
(4)式:Y<400
上記(3)式及び(4)式を満足することが好ましい。
この場合、上述の(3)式を満足しているので、高温に加熱保持した場合でも、結晶粒径の粗大化をさらに抑制することができる。また、上述の(4)式を満足しているので、鋳造性が低下したり鋳造割れが発生したりすることをさらに抑制することができる。
【0017】
また、本発明の銅合金においては、Bを5massppm以上1000massppm以下の範囲内で含有していてもよい。
B,Cr,ZrのうちBのみを意図的に添加した場合であっても、Bを5massppm以上1000massppm以下の範囲内として、上述の(1)式及び(2)式、さらに(3)式及び(4)式を満足させることで、鋳造性が低下したり、鋳造割れが発生したりすることなく、高温に加熱保持した際の結晶粒の粗大化を抑制することができる。
【0018】
また、本発明の銅合金においては、さらに、Ni;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種又は2種を含んでいてもよい。
この場合、Ni及びFeを上述の範囲で含んでいるので、導電率を大きく低下させることなく、Co及びPを含有する析出物の微細化を図ることができ、さらに強度を向上させることができる。
【0019】
また、本発明の銅合金においては、さらに、Zn;0.002mass%以上0.50mass%以下、Mg;0.002mass%以上0.25mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下のいずれか1種又は2種以上を含んでいてもよい。
この場合、Zn,Mg及びAgを上述の範囲で含んでいるので、鋳造性を大きく低下させることなく、銅合金中のSを固定することができ、Sが銅の母相中に固溶することを抑制でき、導電率を向上させることができる。
【0020】
本発明の銅合金鋳塊は、上述の銅合金の組成を有する銅合金鋳塊であって、加工率50%の冷間圧延を施し、950℃で1時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が400μm以下であることを特徴としている。
この構成の銅合金鋳塊においては、加工率50%の冷間圧延を施し、950℃で1時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が400μm以下とされていることから、高温保持時における結晶粒の粗大化が抑制されており、十分な溶体化処理を行うことによって強度及び導電率に優れた銅合金部材を得ることができる。
【0021】
また、本発明の銅合金鋳塊においては、950℃で1時間の熱処理を行った後の導電率が45%IACS以下であることが好ましい。
この場合、950℃で1時間の熱処理を行うことで、導電率が45%IACS以下にまで低下しており、十分に溶体化がなされている。
【0022】
本発明の銅合金溶体化材は、上述の銅合金の組成を有する銅合金溶体化材であって、導電率が45%IACS以下であることを特徴としている。
この構成の銅合金溶体化材においては、導電率が45%IACS以下とされており、十分に溶体化がなされている。よって、その後の時効熱処理によって析出物を微細、且つ、均一に分散させることができ、強度及び導電率に優れた銅合金部材を得ることができる。
【0023】
本発明の銅合金トロリ線は、Co;0.12mass%以上0.40mass%以下、P;0.04mass%以上0.16mass%以下、Sn;0.01mass%以上0.50mass%以下、を含み、さらに、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、
(1)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)
(2)式:X+Y+Z≦1000
上記(1)式及び(2)式を満足することを特徴としている。
【0024】
上述の構成の銅合金トロリ線においては、Co;0.12mass%以上0.40mass%以下、P;0.04mass%以上0.16mass%以下、Sn;0.01mass%以上0.50mass%以下、を含んでいるので、トロリ線として必要な強度及び導電率を有することができる。
また、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、上述の(1)式を満足しているので、高温に加熱保持した場合でも、これらの元素の作用により、結晶粒径が粗大化されることが抑制されることになり、摩耗特性及び疲労特性に優れている。また、十分な溶体化処理を行うことが可能となり、その後の時効熱処理によって析出物を微細、且つ、均一に分散させることができ、強度及び導電率を向上させることができる。
一方、B,Cr,Zrの含有量が上述の(2)式を満足しているので、B,Cr,Zrといった元素によって鋳造性が低下したり鋳造割れが発生したりすることを抑制できる。
【0025】
ここで、本発明の銅合金トロリ線においては、さらに、
(3)式:1≦(2X/5)+(2Y/50)
(4)式:Y<400
上記(3)式及び(4)式を満足することが好ましい。
この場合、上述の(3)式を満足しているので、高温に加熱保持した場合でも、結晶粒径の粗大化をさらに抑制することができ、摩耗特性及び疲労特性をさらに向上させることができる。また、上述の(4)式を満足しているので、鋳造性が低下したり鋳造割れが発生したりすることをさらに抑制することができる。
【0026】
また、本発明の銅合金トロリ線においては、Bを5massppm以上1000massppm以下の範囲内で含有していてもよい。
B,Cr,ZrのうちBのみを意図的に添加した場合であっても、Bを5massppm以上1000massppm以下の範囲内として、上述の(1)式及び(2)式、さらに(3)式及び(4)式を満足させることで、鋳造性が低下したり、鋳造割れが発生したりすることなく、高温に加熱保持した際の結晶粒の粗大化を抑制することができ、摩耗特性及び疲労特性を向上させることができる。
【0027】
本発明の銅合金トロリ線の製造方法は、上述の銅合金トロリ線の製造方法であって、銅荒引線を連続的に製出する連続鋳造圧延工程と、得られた銅荒引線に対して溶体化処理を行う溶体化処理工程と、溶体化処理工程後の溶体化材に対して冷間加工を行って銅線材を製出する1次冷間加工工程と、前記銅線材に対して時効熱処理を実施する時効熱処理工程と、時効熱処理工程後の時効熱処理材に対して冷間加工を行う2次冷間加工工程と、を有し、前記溶体化処理工程では、保持温度が900℃以上1000℃以下の範囲内、前記保持温度での保持時間が30分以上600分以下の範囲内とされ、前記時効熱処理工程では、熱処理温度が300℃以上600℃以下の範囲内、前記熱処理温度での保持時間が60分以上1500分以下の範囲内とされていることを特徴としている。
【0028】
この構成の銅合金トロリ線の製造方法によれば、銅荒引線を連続的に製出する連続鋳造圧延工程と、得られた銅荒引線に対して溶体化処理を行う溶体化処理工程と、を備えており、前記溶体化処理工程は、保持温度が900℃以上1000℃以下の範囲内、前記保持温度での保持時間が30分以上600分以下の範囲内とされているので、連続鋳造圧延法によって製造された銅荒引線におけるCo,Pの偏析を十分に解消することができる。
また、前記時効熱処理工程は、熱処理温度が300℃以上600℃以下の範囲内、前記熱処理温度での保持時間が60分以上1500分以下の範囲内とされているので、時効処理を確実に行うことができ、Co及びPの析出物を十分に析出させることができる。よって、強度及び導電性に優れた銅合金トロリ線を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、Co,P及びSnを含有する銅合金において、溶体化処理を行った場合でも、結晶粒径の粗大化を抑制でき、加工性及び高温伸びに優れ、且つ、強度及び導電率に優れた銅合金、銅合金鋳塊、銅合金溶体化材、及び、摩耗特性及び疲労特性に優れた銅合金トロリ線、銅合金トロリ線の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の第一の実施形態における銅合金部材の製造方法を示すフロー図である。
図2図1に示す製造方法において用いられる連続鋳造圧延設備の概略説明図である。
図3】本発明の第二の実施形態における銅合金部材の製造方法を示すフロー図である。
図4】本発明の第三の実施形態における銅合金トロリ線の製造方法を示すフロー図である。
図5】実施例において鋳造割れを評価する際に使用されるH字型金型の説明図である。
図6】実施例において疲労特性を評価する際に使用される試験装置の概略説明図である。
図7】実施例において摩耗特性を評価する際に使用される試験装置の概略説明図である。
図8】本発明例82、比較例71、従来例の疲労特性(疲労寿命)の評価結果を示すグラフである。
図9】本発明例82、従来例の摩耗特性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
【0032】
本発明の第一の実施形態である銅合金は、Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらに、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有しており、Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、以下の(1)式及び(2)式を満足している。
(1)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)
(2)式:X+Y+Z≦1000
【0033】
さらに、本実施形態では、B,Cr,Zrの含有量は、以下の(3)式及び(4)式を満足している。
(3)式:1≦(2X/5)+(2Y/50)
(4)式:Y<400
【0034】
なお、この銅合金においては、さらにNi;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種又は2種を含んでいてもよい。
また、さらにZn;0.002mass%以上0.50mass%以下、Mg;0.002mass%以上0.25mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下のいずれか1種又は2種以上を含んでいてもよい。
以下に、各元素の含有量を上述の範囲内に設定した理由について説明する。
【0035】
(Co)
Coは、Pとともに、銅の母相中に分散する析出物を形成する元素である。
ここで、Coの含有量が0.05mass%未満の場合には、析出物の個数が不足し、強度を充分に向上させることができないおそれがある。一方、Coの含有量が0.70mass%を超える場合には、強度の向上に寄与しない元素が多く存在し、導電率の低下等を招くおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Coの含有量を0.05mass%以上0.70mass%以下の範囲内に設定している。
なお、析出物の個数を確実に確保するためには、Coの含有量の下限を0.12mass%以上とすることが好ましく、0.25mass%以上とすることがさらに好ましい。一方、導電率の低下を確実に抑制するためには、Coの含有量の上限を0.40mass%以下とすることが好ましく、0.36mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0036】
(P)
Pは、Coとともに、銅の母相中に分散する析出物を形成する元素である。Pの含有量が0.02mass%未満の場合には、析出物の個数が不足し、強度を充分に向上させることができないおそれがある。一方、Pの含有量が0.20mass%を超える場合には、導電率の低下等を招くおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Pの含有量を0.02mass%以上0.20mass%以下の範囲内に設定している。
なお、析出物の個数を確実に確保するためには、Pの含有量の下限を0.04mass%以上とすることが好ましく、0.08mass%以上とすることがさらに好ましい。一方、導電率の低下を確実に抑制するためには、Pの含有量の上限を0.16mass%以下とすることが好ましく、0.14mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0037】
(Sn)
Snは、銅の母相中に固溶することによって強度を向上させる作用を有する元素である。また、CoとPとを主成分とする析出物の析出を促進させる効果や、耐熱性、耐食性を向上させる作用も有する。
ここで、Snの含有量が0.005mass%未満の場合には、上述した作用効果を奏功せしめることができないおそれがある。一方、Snの含有量が0.70mass%を超える場合には、導電率を確保できなくなるおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Snの含有量を0.005mass%以上0.70mass%以下の範囲内に設定している。
なお、上述した作用効果を確実に奏功せしめるためには、Snの含有量の下限を0.01mass%以上とすることが好ましく、0.02mass%以上とすることがさらに好ましい。一方、導電率の低下を確実に抑制するためには、Snの含有量の上限を0.50mass%以下とすることが好ましく、0.10mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0038】
(B,Cr,Zr)
これらB,Cr,Zrは、高温で保持した際の結晶粒の粗大化を抑制する作用を有する元素である。これらB,Cr,Zrの含有量については、Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、以下の(1)式及び(2)式で規定されている。
【0039】
B,Cr,Zrの含有量が、(1)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)を満足しない場合には、高温で保持した際に結晶粒の粗大化を十分に抑制することができず、強度が低く、高温で脆化するおそれがあり、また加工性が低下するおそれがある。
一方、B,Cr,Zrの含有量が、(2)式:X+Y+Z≦1000を満足しない場合には、鋳造性や導電率が低下したり、鋳造割れが発生したりするおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、B,Cr,Zrの含有量は、上述の(1)式及び(2)式を満足する必要がある。
なお、高温で保持した際に結晶粒の粗大化をさらに抑制するためには、B,Cr,Zrの含有量が、(3)式:1≦(2X/5)+(2Y/50)を満足することが好ましい。
さらに、鋳造性の低下や鋳造割れをさらに抑制するためには、B,Cr,Zrの含有量が、(4)式:Y<400を満足することが好ましい。
【0040】
(Ni及びFe)
Ni及びFeは、Co及びPの化合物からなる析出物を微細化する作用効果を有する元素である。
ここで、Niの含有量が0.01mass%未満の場合あるいはFeの含有量が0.005mass%未満の場合には、上述した作用効果を確実に奏功せしめることができないおそれがある。一方、Niの含有量が0.15mass%を超える場合あるいはFeの含有量が0.07mass%を超える場合には、導電率を確保できなくなるおそれがある。
以上のことから、Niを含有する場合には、Niの含有量を0.01mass%以上0.15mass%以下の範囲内に、Feを含有する場合には、Feの含有量を0.005mass%以上0.07mass%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0041】
(Zn,Mg,Ag)
Zn,Mg,Agといった元素は、Sと化合物を形成し、銅の母相中へのSの固溶を抑制することで導電率を向上させる作用を有する元素である。
ここで、Zn,Mg,Agといった元素の含有量がそれぞれ上述の下限値未満の場合には、銅の母相中へのSの固溶を抑制する作用効果を十分に奏功せしめることができないおそれがある。一方、Zn,Mg,Agといった元素の含有量がそれぞれ上述の上限値を超える場合には、導電率を確保できなくなるおそれがある。
以上のことから、Zn,Mg,Agといった元素を含有する場合には、それぞれ上述の範囲内とすることが好ましい。
【0042】
次に、上述の銅合金からなる銅合金部材の製造方法について説明する。図1に本発明の実施形態である銅合金部材の製造方法のフロー図を示す。
まず、上記の組成の銅合金からなる銅荒引線50を連続鋳造圧延法によって連続的に製出する(連続鋳造圧延工程S01)。この連続鋳造圧延工程S01においては、例えば図2に示す連続鋳造圧延設備が用いられる。
【0043】
図2に示す連続鋳造圧延設備は、溶解炉Aと、保持炉Bと、鋳造樋Cと、ベルトホイール式連続鋳造機Dと、連続圧延装置Eと、コイラーFとを有している。
【0044】
溶解炉Aとして、本実施形態では、円筒形の炉本体を有するシャフト炉を用いている。
炉本体の下部には円周方向に複数のバーナ(図示なし)が上下方向に多段状に配備されている。そして、炉本体の上部から原料である電気銅が装入され、前記バーナの燃焼によって溶解され、銅溶湯が連続的に製出される。
【0045】
保持炉Bは、溶解炉Aでつくられた銅溶湯を、所定の温度で保持したままで一旦貯留し、一定量の銅溶湯を鋳造樋Cに送るためのものである。
【0046】
鋳造樋Cは、保持炉Bから送られた銅溶湯を、ベルトホイール式連続鋳造機Dの上方に配置されたタンディッシュ11にまで移送するものである。この鋳造樋Cは、例えばAr等の不活性ガス又は還元性ガスでシールされている。なお、この鋳造樋Cには、不活性ガスによって銅溶湯を攪拌して溶湯中の酸素等を除去する脱ガス手段(図示なし)が設けられている。
【0047】
タンディッシュ11は、ベルトホイール式連続鋳造機Dに銅溶湯を連続的に供給するために設けられた貯留槽である。このタンディッシュ11の銅溶湯の流れ方向終端側には、注湯ノズル12が配置されており、この注湯ノズル12を介してタンディッシュ11内の銅溶湯がベルトホイール式連続鋳造機Dへと供給される構成とされている。
【0048】
ここで、本実施形態では、鋳造樋C及びタンディッシュ11に合金元素添加手段(図示なし)が設けられており、銅溶湯中に、上述の元素(Co,P、Sn等)が添加される構成とされている。
【0049】
ベルトホイール式連続鋳造機Dは、外周面に溝が形成された鋳造輪13と、この鋳造輪13の外周面の一部に接触するように周回移動される無端ベルト14とを有している。このベルトホイール式連続鋳造機Dにおいては、前記溝と無端ベルト14との間に形成された空間に注湯ノズル12を介して銅溶湯が注入され、この銅溶湯を冷却・固化することで、棒状の銅合金鋳塊21を連続的に鋳造するものである。
【0050】
このベルトホイール式連続鋳造機Dの下流側には、連続圧延装置Eが連結されている。
この連続圧延装置Eは、ベルトホイール式連続鋳造機Dから製出された銅合金鋳塊21を連続的に圧延して、所定の外径の銅荒引線50を製出するものである。
この連続圧延装置Eから製出された銅荒引線50は、洗浄冷却装置15及び探傷器16を介してコイラーFに巻き取られる。
ここで、上述の連続鋳造圧延設備によって製出される銅荒引線50の外径は、例えば8mm以上40mm以下とされており、本実施形態では27mmとされている。
【0051】
次に、得られた銅荒引線50に対して、溶体化処理を行う(溶体化処理工程S02)。この溶体化処理工程S02においては、大気雰囲気下で、保持温度を900℃以上1000℃以下の範囲内、保持時間を30分以上600分以下の範囲内の条件で加熱する。
なお、この溶体化処理工程S02後の溶体化材においては、導電率が45%以下とされている。
【0052】
次に、溶体化処理工程S02後の溶体化材に対して冷間加工を実施する(冷間加工工程S03)。この冷間加工工程S03においては、加工率を10%以上99%以下の範囲内とすることが好ましい。なお、加工方法は、伸線、圧延等の各種手段を用いることができる。
【0053】
次に、冷間加工工程S03後の冷間加工材に対して時効熱処理を実施する(時効熱処理工程S04)。この時効熱処理工程S04によって、CoとPとを主成分とする化合物からなる析出物を析出させる。
ここで、時効熱処理工程S04では、熱処理温度が200℃以上700℃以下、保持時間が1時間以上30時間以下の条件で実施される。
【0054】
上述の工程により、本実施形態である銅合金からなる銅合金部材が製造されることになる。
なお、必要に応じて、時効熱処理工程S04後にさらに冷間加工及び熱処理を実施してもよい。
【0055】
以上のような構成とされた本実施形態である銅合金によれば、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、(1)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)を満足しているので、これらの元素によって、高温に加熱保持した場合でも結晶粒径が粗大化されることが抑制され、伸線性及び高温伸びに優れている。また、十分な溶体化処理を行うことが可能となり、強度及び導電率を向上させることができる。
一方、B,Cr,Zrの含有量が、(2)式:X+Y+Z≦1000を満足しているので、鋳造性の低下や鋳造割れ等の発生を抑制することができる。
【0056】
ここで、本実施形態である銅合金においては、(3)式:1≦(2X/5)+(2Y/50)を満足しているので、高温に加熱保持した場合でも結晶粒径が粗大化されることをさらに抑制することができる。
また、(4)式:Y<400を満足しているので、鋳造性の低下をさらに抑制することができる。
【0057】
また、本実施形態において、さらにNi;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種以上を含む場合には、Ni,Feによって、Co及びPの化合物を微細化することができ、さらなる強度の向上を図ることができる。
【0058】
また、本実施形態において、さらにZn;0.002mass%以上0.5mass%以下、Mg;0.002mass%以上0.25mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下のいずれか1種以上を含む場合には、例えば銅材料のリサイクル過程で混入するSを、Zn、Mg、Agによって無害化することができ、中間温度脆性を防止し、銅合金部材の強度及び延性を向上させることができる。
【0059】
また、本実施形態では、溶体化処理工程S02後の溶体化材において、導電率が45%以下とされているので、十分に溶体化がなされている。よって、その後の時効熱処理工程S04によって析出物を微細且つ均一に分散させることができ、強度及び導電率に優れた銅合金部材を得ることができる。
【0060】
(第二の実施形態)
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。
本発明の第二の実施形態である銅合金は、Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらにBを5massppm以上1000massppm以下の範囲内で含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有している。
すなわち、第一の実施形態において、B,Cr,ZrのうちBのみを添加しているのである。なお、Bを5massppm以上1000massppm以下の範囲内で含有するとともに、上述した(1)式、(2)式、(3)式、(4)式を満足するものとされている。
【0061】
なお、第一の実施形態と同様に、さらにNi;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種又は2種を含んでいてもよい。
また、さらにZn;0.002mass%以上0.50mass%以下、Mg;0.002mass%以上0.25mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下のいずれか1種又は2種以上を含んでいてもよい。
【0062】
ここで、Bは、上述のように、高温で保持した際の結晶粒の粗大化を抑制する作用を有する元素である。
Bの含有量を5massppm以上とすることで、上述の結晶粒の粗大化を抑制する作用効果を奏することができる。一方、Bの含有量を1000massppm以下とすることで、鋳造性、加工性の低下を抑制することができる。
以上のことから、本実施形態では、Bの含有量を5massppm以上1000massppm以下の範囲内に設定している。
なお、上述した作用効果を確実に奏功せしめるためには、Bの含有量の下限を10massppmとすることが好ましく、15massppm以上とすることがさらに好ましい。一方、鋳造性、加工性の低下を確実に抑制するためには、Bの含有量の上限を200massppm以下とすることが好ましく、100massppm以下とすることがさらに好ましい。
【0063】
次に、上述の銅合金からなる銅合金部材の製造方法について説明する。図3に本発明の実施形態である銅合金部材の製造方法のフロー図を示す。
まず、上述の組成となるように各種原料を秤量し、真空溶解炉を用いて原料を溶解し、成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入し、上述の組成の銅合金からなる銅合金鋳塊を製出する(溶解鋳造工程S11)。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。
【0064】
なお、この銅合金鋳塊においては、加工率50%の冷間圧延を施し、950℃で1時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が400μm以下とされている。
また、この銅合金鋳塊においては、950℃で1時間の熱処理を行った後の導電率が45%IACS以下とされている。
【0065】
次に、得られた銅合金鋳塊に対して、溶体化処理を行う(溶体化処理工程S12)。この溶体化処理工程S12においては、大気雰囲気下で、保持温度を900℃以上1000℃以下の範囲内、保持時間を30分以上600分以下の範囲内の条件で加熱する。
なお、この溶体化処理工程S12後の溶体化材においては、導電率が45%以下とされている。
【0066】
次に、溶体化処理工程S12後に熱間加工を行う(熱間加工工程S13)。この熱間加工工程S13においては、熱間加工温度は、700℃以上1000℃以下の範囲内、加工率は10%以上99%以下の範囲内とすることが好ましい。また、加工後には、水冷等によって急冷を行う。
【0067】
次に、熱間加工工程S13の後の熱間加工材に対して冷間加工を実施する(冷間加工工程S14)。この冷間加工工程S14においては、加工率を10%以上99%以下の範囲内とすることが好ましい。なお、加工方法は、伸線、圧延等の各種手段を用いることができる。
【0068】
次に、冷間加工工程S14後の冷間加工材に対して時効熱処理を実施する(時効熱処理工程S15)。この時効熱処理工程S15によって、CoとPとを主成分とする化合物からなる析出物を析出させる。
ここで、時効熱処理工程S15では、熱処理温度が200℃以上700℃以下、保持時間が1時間以上30時間以下の条件で実施される。
【0069】
上述の工程により、本実施形態である銅合金からなる銅合金部材が製造されることになる。
なお、必要に応じて、時効熱処理工程S15後にさらに冷間加工及び熱処理を実施してもよい。
【0070】
以上のような構成とされた本実施形態である銅合金によれば、Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらにBを5massppm以上1000massppm以下の範囲内で含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有しているので、Bによって、高温に加熱保持した場合でも結晶粒径が粗大化されることが抑制され、加工性及び高温伸びに優れている。また、十分な溶体化処理を行うことが可能となり、強度及び導電率を向上させることができる。さらに、Bの含有量が1000massppm以下とされているので、鋳造性の低下や鋳造割れ等の発生を抑制することができる。
【0071】
また、本実施形態の銅合金鋳塊においては、加工率50%の冷間圧延を施し、950℃で1時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が400μm以下とされているので、高温保持時における結晶粒の粗大化が抑制されており、溶体化処理工程S13において高温条件で実施して溶体化を十分に行っても、結晶粒の粗大化による加工性の低下や高温脆化等を抑制することができる。
さらに、本実施形態の銅合金鋳塊においては、950℃で1時間の熱処理を行った後の導電率が45%IACS以下とされているので、十分に溶体化処理を行うことが可能である。
よって、溶体化処理を高温条件で行うことで、その後の時効熱処理工程S15で、CoとPとを主成分とする化合物からなる析出物を微細、かつ、均一に分散させることが可能となり、強度及び導電率に優れた銅合金部材を得ることができる。
【0072】
(第三の実施形態)
次に、本発明の第三の実施形態について説明する。
本発明の第三の実施形態である銅合金トロリ線は、Co;0.12mass%以上0.40mass%以下、P;0.04mass%以上0.16mass%以下、Sn;0.01mass%以上0.50mass%以下、を含み、さらに、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有しており、Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、以下の(1)式及び(2)式を満足している。
(1)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)
(2)式:X+Y+Z≦1000
【0073】
さらに、本実施形態では、B,Cr,Zrの含有量は、以下の(3)式及び(4)式を満足している。
(3)式:1≦(2X/5)+(2Y/50)
(4)式:Y<400
【0074】
なお、本実施形態においては、Bを5massppm以上1000massppm以下の範囲内で含有するとともに、上述した(1)式、(2)式、(3)式、(4)式を満足するものとされていてもよい。
【0075】
ここで、本実施形態においては、トロリ線としての特性(強度及び導電率)を確保するために、Coの含有量を0.12mass%以上0.40mass%以下の範囲内、Pの含有量を0.04mass%以上0.16mass%以下の範囲内、Snの含有量を0.01mass%以上0.50mass%以下の範囲内に設定している。
なお、本実施形態である銅合金トロリ線においては、引張強度が532MPa以上、かつ、導電率が76%IACS以上であることが好ましい。
【0076】
そして、本実施形態においては、結晶粒径の粗大化を抑制し、摩耗特性及び疲労特性を向上させるために、第一の実施形態と同様に、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、上述した(1)式、(2)式、(3)式、(4)式を満足するものとしている。
また、結晶粒径の粗大化を抑制し、摩耗特性及び疲労特性を向上させるために、第一の実施形態と同様に、Bを5massppm以上1000massppm以下の範囲内で含有してもよい。
【0077】
次に、上述の銅合金からなる銅合金トロリ線の製造方法について説明する。図4に本発明の実施形態である銅合金トロリ線の製造方法のフロー図を示す。
まず、上記の組成の銅合金からなる銅荒引線を連続鋳造圧延法によって連続的に製出する(連続鋳造圧延工程S21)。この連続鋳造圧延工程S21においては、第一の実施形態と同様に、例えば図2に示す連続鋳造圧延設備が用いられる。
ここで、上述の連続鋳造圧延設備によって製出される銅荒引線の外径は、例えば8mm以上40mm以下とされており、本実施形態では27mmとされている。
【0078】
次に、得られた銅荒引線に対して、溶体化処理を行う(溶体化処理工程S22)。この溶体化処理工程S22においては、大気雰囲気下で、保持温度を900℃以上1000℃以下の範囲内、保持時間を30分以上600分以下の範囲内の条件で加熱する。
なお、この溶体化処理工程S22後の溶体化材においては、導電率が45%以下とされている。
【0079】
次に、溶体化処理工程S22後の溶体化材に対して冷間加工して銅線材を得る(1次冷間加工工程S23)。この1次冷間加工工程S23においては、加工率を5%以上90%以下の範囲内とすることが好ましい。なお、加工方法は、冷間伸線、皮剥ぎ、溝付き伸線、圧延等の各種手段を用いることができる。
【0080】
次に、1次冷間加工工程S23後の銅線材に対して時効熱処理を実施する(時効熱処理工程S24)。この時効熱処理工程S24によって、CoとPとを主成分とする化合物からなる析出物を析出させる。
ここで、時効熱処理工程S24では、熱処理温度が300℃以上600℃以下、保持時間が60分以上1500分以下の条件で実施される。
この時効熱処理工程S24によって得られる時効熱処理材においては、導電率が76IACS%以上であることが好ましい。
【0081】
次に、時効熱処理工程S24後の時効熱処理材に対して、さらに冷間加工を実施する(2次冷間加工工程S25)。この2次冷間加工工程S25においては、加工率を5%以上 90%以下の範囲内とすることが好ましい。なお、加工方法は、冷間伸線、溝付き伸線、圧延等の各種手段を用いることができる。
【0082】
上述の工程により、本実施形態である銅合金からなる銅合金トロリ線が製造されることになる。
なお、必要に応じて、2次冷間加工工程S25の後に、さらに熱処理及び冷間加工を実施してもよい。
【0083】
以上のような構成とされた本実施形態である銅合金トロリ線によれば、Co;0.12mass%以上0.40mass%以下、P;0.04mass%以上0.16mass%以下、Sn;0.01mass%以上0.50mass%以下、を含み、さらに、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有しているので、トロリ線として要求される強度及び導電率を満足することができる。
また、B,Cr,Zrによって、高温に加熱保持した場合でも結晶粒径の粗大化を抑制でき、摩耗特性及び疲労特性を向上させることができる。また、十分な溶体化処理を行うことが可能となり、強度及び導電率をさらに向上させることができる。
【0084】
さらに、本実施形態の銅合金トロリ線の製造方法においては、銅荒引線を連続的に製出する連続鋳造圧延工程S21と、得られた銅荒引線に対して溶体化処理を行う溶体化処理工程S22と、を備えており、溶体化処理工程S22においては、保持温度が900℃以上1000℃以下の範囲内、保持温度での保持時間が30分以上600分以下の範囲内とされているので、連続鋳造圧延法によって製造された銅荒引線におけるCo,Pの偏析を十分に解消することができる。
また、時効熱処理工程S24においては、熱処理温度が300℃以上600℃以下の範囲内、熱処理温度での保持時間が60分以上1500分以下の範囲内とされているので、時効処理を確実に行うことができ、Co及びPを析出させることができる。よって、強度及び導電性に優れた銅合金トロリ線を製造することが可能となる。
【0085】
以上、本発明の実施形態である銅合金、銅合金鋳塊、銅合金溶体化材、銅合金トロリ線について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、第一の実施形態及び第三の実施形態では、銅合金部材(銅合金トロリ線)の製造方法の一例として、図2に示すベルトホイール式連続鋳造機を用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、ツインベルト式の連続鋳造圧延機等を用いてもよい。また、上方連続鋳造機、横型連続鋳造機及びホットトップ連続鋳造機により連続鋳造線材を製造してもよい。
また、第二の実施形態のように、銅合金鋳塊を製造し、この銅合金鋳塊に溶体化処理を行ってもよい。
【実施例】
【0086】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
【0087】
<実施例1>
表1−3に示す組成となるように各種原料を秤量し、真空溶解炉を用いて溶解した。原料溶落後10分保持し、溶湯温度1200℃にて不活性ガス雰囲気で鋳型に注湯して鋳塊寸法50×80×150mm(約5kg)の銅合金鋳塊を得た。
次に、銅合金鋳塊に対して、大気炉を用いて表4−6に示す条件で溶体化処理を行った。
溶体化処理後の溶体化材に対して、熱間圧延機を用いて加工率80%で圧延し、その後水冷した。
得られた熱間圧延材を加工率80%で冷間加工を行った後、大気炉を用いて500℃で1時間保持の条件で時効熱処理を実施した。
【0088】
(平均結晶粒径)
上述のようにして得られた銅合金鋳塊に対して、加工率50%の冷間加工を施し、大気炉を用いて950℃で1時間保持した後水冷した。得られた試験片に対してエメリー紙及びバフにて研磨を行い、エッチング液でエッチング後、光学顕微鏡で適切な倍率で観察し、JIS H0321に規定された面積法によって、平均結晶粒径を算出した。評価結果を表4−6に示す。
【0089】
(高温伸び)
熱間圧延材から、JIS G0567に規定する形状の試験片を採取し、500℃にて引張試験を行い、伸びを評価した。評価結果を表4−6に示す。
【0090】
(強度)
時効熱処理後の銅合金部材から、JIS Z2241に規定する形状の試験片を採取し、常温で引張試験を行い、引張強度を評価した。評価結果を表4−6に示す。
【0091】
(導電率)
時効熱処理後の銅合金部材を用いて、四端子法によって導電率を測定した。評価結果を表4−6に示す。
【0092】
(伸線性)
上述の熱間加工材に対して、加工80%の冷間伸線を行い、直径4mmの銅合金線に加工した。直径4mmで伸線長さが100mとなるまで伸線加工した際に断線した回数を評価し、10m当たりの断線回数に換算した値を伸線性とした。評価結果を表4−6に示す。
【0093】
(鋳造性)
表に示す組成となるように各種原料を秤量し、これをアルミナ坩堝に3kg装入した。Arガス雰囲気で溶解し、溶落後、1200℃で20分間保持した。別途準備したモールドに静かに注湯し、湯面上に生じた膜をアルミナ坩堝内に残存させ、この重量を測定した。評価結果を表4−6に示す。
【0094】
(鋳造割れ)
真空溶解炉にて1200℃にて溶解後、図5に示すH字型金型に鋳造した。なお、このH字型金型は予め100℃に予熱しておいた。大気中で室温まで冷却後、H字中央部分の割れの有無を評価した。評価結果を表4−6に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】
【0100】
【表6】
【0101】
比較例1、2は、B,Zr,Crの含有量が本発明の範囲よりも少なく、平均結晶粒径が大きく、伸線性、高温伸び及び強度が不十分であった。
比較例3,4は、B,Zr,Crの含有量が本発明の範囲よりも多く、鋳造性に劣っており、比較例3では鋳造割れも確認された。また、導電率も低くなった。
比較例51は、Ni,Feの含有量が本発明の範囲よりも多く、比較例51は、Zn,Mg,Agの含有量が本発明の範囲よりも多く、いずれも導電率が低くなった。
【0102】
これに対して、本発明例によれば、平均結晶粒径が小さく、伸線性および高温伸びに優れている。また、鋳造性も良好で鋳造割れも確認されなかった。さらに、強度及び導電性にも優れていた。
ここで、本発明例1−3においては、Cr及びZrを含有しておらず、鋳造性が特によかった。また、Fe,Ni,Zn,Mg,Agを添加した本発明例51−63においては、強度がさらに向上した。
【0103】
以上のことから、本発明例によれば、溶体化処理を行った場合でも、結晶粒径の粗大化を抑制でき、伸線性及び高温伸びに優れ、且つ、強度及び導電率に優れた銅合金を提供可能であることが確認された。
【0104】
<実施例2>
図2に示す連続鋳造圧延設備を用いて、表7に示す組成の銅荒引線(φ27mm)を製造した。
次に、この銅荒引線に対して、大気炉を用いて表7に示す条件で溶体化処理を行った。
溶体化処理後の溶体化材に対して冷間伸線(加工率77%)を行って銅線材を得た。
そして、この銅線材に対して、大気炉を用いて表7に示す条件で時効熱処理を行った。
次に、時効熱処理材に対して、銅荒引線からの全加工率が81%となるように、冷間伸線を実施した。
【0105】
(強度)
銅合金トロリ線から、JIS Z2241に規定する形状の試験片を採取し、常温で引張試験を行い、引張強度を評価した。評価結果を表8に示す。
【0106】
(導電率)
銅合金トロリ線に対して、四端子法によって導電率を測定した。評価結果を表8に示す。
【0107】
(伸線性)
上述の銅荒引線に対して、加工率99%の冷間伸線を行い、直径1mmの銅線材に加工した。直径1mmで伸線長さが500mとなるまで伸線加工した際に断線した回数を評価し、10m当たりの断線回数に換算した値を伸線性とした。評価結果を表8に示す。
【0108】
(硬さ)
得られた銅合金トロリ線から試験片を採取し、エメリー紙及びバフを用いて研磨を行い、エッチング液でエッチング後、JIS Z 2244に規定された方法にてビッカース硬さを測定した。5回測定を行い、平均値及び標準偏差を算出した。評価結果を表8に示す。なお、従来例については、合金組成が大きく異なることから硬さを測定しなかった。
【0109】
(平均結晶粒径)
得られた銅合金トロリ線から試験片を採取し、エメリー紙及びバフを用いて研磨を行い、エッチング液でエッチング後、光学顕微鏡で観察し、JIS H 0321に規定された面積法により、平均結晶粒径を算出した、評価結果を表8に示す。なお、従来例については、合金組成が大きく異なることから平均結晶粒径を測定しなかった。
【0110】
(ラボ疲労特性)
溶体化処理後の溶体化材から、幅10mm,厚さ4mmの板材を切り出し、加工率50%で冷間圧延を行い、厚さを2mmとした。その後、大気炉を用いて表7に示す条件で時効熱処理を実施し、加工率75%で冷間圧延を行い、厚さ0.5mmとし、シャーを用いて長さ60mmに切断した。そして、得られた試験片の端面のバリを1500番のエメリー紙を用いて除去した。
そして、日本伸銅協会の薄板・条の疲労特性試験方法(JCBA T308:2002)に準じて、薄板疲労試験機に試験片をセット長30mmでセットした。そして、周波数50Hz、歪み振幅を変量させて、破断までの振動回数を計測した。
試験片のセット長さに対する振幅量の比率を歪振幅と定義し、歪振幅が6×10−2の条件における破断寿命で評価した。具体的には、歪振幅が6×10−2の条件で破断までの振動回数が10回以上のものを「A」、10回未満のものを「B」と評価した。評価結果を表8に示す。
【0111】
(疲労特性)
図6に示す試験装置により、本発明例82,比較例71,従来例の疲労特性を評価した。図6に示すように、銅合金トロリ線の両端を固定して張力を付与し、銅合金トロリ線の長手方向中央部を加振し、破断するまでの加振回数を疲労寿命(回)とした。評価結果を図8に示す。
【0112】
(摩耗特性)
図7に示す試験装置により、銅合金トロリ線の摩耗特性を評価した。ディスクの外周面に銅合金トロリ線を巻き付け、ディスクを回転させてパンタグラフの摺り板(型版T3−2)に摺接させた。なお、パンタグライフは、銅合金トロリ線の摺接長さ240m毎に振幅200mmでディスクの回転方向に対して直交する方向に移動させた。
本発明例82,従来例において、2種類の摺り板(型版T3−2,N5C−5)を用いて、通電なし(注水なし)及び通電電流200A(注水あり)の2条件で摩耗試験を実施し、トロリ線の摩耗率を測定した結果を図9に示す。なお、摺動速度を200km/時間、試験時間2時間である。
【0113】
【表7】
【0114】
【表8】
【0115】
本発明例においては、伸線性、強度及び導電率に優れていた。また、硬さが比較例よりも高く標準偏差も小さくなった。また、平均結晶粒径が比較例よりも小さくなった。そして、ラボ疲労特性評価の結果、比較例及び従来例よりも良好であった。
さらに、図6及び図7に示す測定装置を用いて、疲労特性及び摩耗特性を評価した結果、硬さが硬く、平均結晶粒径が小さい本発明例82においては、従来例のトロリ線(PHCトロリ線)よりも良好であることが確認された。
また、本発明例83−86においては、溶体化処理工程及び時効熱処理工程の条件を変更したが、本発明の範囲内であれば、伸線性、強度及び導電率に優れ、かつ、硬さが硬く、平均結晶粒径が小さくなり、疲労特性及び摩耗特性に優れた銅合金トロリ線を製造可能であることが確認された。
以上のことから、本発明例によれば、強度及び導電率に優れ、且つ、従来よりも摩耗特性及び疲労特性に優れた銅合金トロリ線を提供可能であることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2017年7月31日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co;0.05mass%以上0.70mass%以下、P;0.02mass%以上0.20mass%以下、Sn;0.005mass%以上0.70mass%以下、を含み、さらに、B,Cr,Zrのいずれか1種又は2種以上を含有し、残部がCuおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
Bの含有量をX(massppm)、Crの含有量をY(massppm)、Zrの含有量をZ(massppm)としたときに、
(1)式:1≦(X/5)+(Y/50)+(Z/100)
(2)式:X+Y+Z≦1000
上記(1)式及び(2)式を満足することを特徴とする銅合金。
【請求項2】
さらに、
(3)式:1≦(2X/5)+(2Y/50)
(4)式:Y<400
上記(3)式及び(4)式を満足することを特徴とする請求項1に記載の銅合金。
【請求項3】
Bを5massppm以上1000massppm以下の範囲内で含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の銅合金。
【請求項4】
さらに、Ni;0.01mass%以上0.15mass%以下、Fe;0.005mass%以上0.07mass%以下のいずれか1種又は2種を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の銅合金。
【請求項5】
さらに、Zn;0.002mass%以上0.5mass%以下、Mg;0.002mass%以上0.25mass%以下、Ag;0.002mass%以上0.25mass%以下のいずれか1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の銅合金。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された銅合金の組成を有する銅合金鋳塊であって、
加工率50%の冷間圧延を施し、950℃で1時間の熱処理を行った後の平均結晶粒径が400μm以下であることを特徴とする銅合金鋳塊。
【請求項7】
950℃で1時間の熱処理を行った後の導電率が45%IACS以下であることを特徴とする請求項6に記載の銅合金鋳塊。
【請求項8】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載された銅合金の組成を有する銅合金溶体化材であって、
導電率が45%IACS以下であることを特徴とする銅合金溶体化材。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、例えば、自動車や機器の配線、トロリ線、ロボット用ワイヤ及び航空機用ワイヤ等に使用されるCo,P及びSnを含有する析出強化型の銅合金、銅合金鋳塊及び銅合金溶体化材に関するものである。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
上述のような要求特性を満足する高い強度と高い導電率とを備えた銅合金からなる銅合金線として、例えば特許文献1−3に示すように、Co、P及びSnを含有する銅合金線が提案されている。これらの銅合金線は、Co及びPの化合物を銅の母相中に析出させることによって、導電率を確保したまま、強度の向上を図ることが可能となる
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
ところで、上述の特許文献1−3に記載されたCo、P及びSnを含有する銅合金線を製造する場合には、ビレットと呼ばれる断面積の大きな鋳塊を製出し、このビレットを再加熱して熱間押出し、その後、さらに伸線加工等を行う方法が実施されている。しかしながら、断面積の大きな鋳塊を製出した後に熱間押出を行って銅合金を製造する場合、鋳塊のサイズによって得られる銅合金の長さが制限されることになり、長尺の銅合金線(銅合金トロリ線)を得ることができなかった。また、生産効率が悪いといった問題があった。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
ここで、本発明者らが検討した結果、連続鋳造圧延法で製造された銅合金線は、熱間押出工程を含む製造方法によって製造された銅合金線に比べて、Co,Pの偏析が大きいことが判明した。そこで、特許文献4には、CoとPの比率を規定することにより、Co、Pの偏析を抑制し、引張強度及び導電性を向上させる技術が提案されている
【手続補正7】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
【特許文献1】特開2010−212164号公報
【特許文献2】再公表WO2009/107586号公報
【特許文献3】再公表WO2009/119222号公報
【特許文献4】特許第5773015号公報
【手続補正8】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
ところで、特許文献4においては、主成分であるCo及びPの比率を規定することで、Co、Pの偏析を抑制しているが、これらの偏析を抑制するためには、連続鋳造圧延法又は連続鋳造法によって製造された連続鋳造線材に対して、溶体化処理を行うことも効果的である。また、ビレット等の銅合金鋳塊においても、Co、Pの偏析を抑制するために、十分な溶体化処理を行うことが好ましい。
ただし、上述のCo、P及びSnを含有する銅合金からなる連続鋳造線材や銅合金鋳塊に対して溶体化処理を行った場合、結晶粒径が粗大化し、その後の加工性が大きく低下するといった問題があった。また、高温時に脆化して伸びが低下し、割れが生じやすいといった問題があった。
【手続補正9】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正10】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであって、Co,P及びSnを含有する銅合金において、溶体化処理を行った場合でも、結晶粒径の粗大化を抑制でき、加工性及び高温伸びに優れ、且つ、強度及び導電率に優れた銅合金、銅合金鋳塊、銅合金溶体化材を提供することを目的としている。
【手続補正11】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正12】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0024
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正13】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0025
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正14】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0026
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正15】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0027
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正16】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正17】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0029
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0029】
本発明によれば、Co,P及びSnを含有する銅合金において、溶体化処理を行った場合でも、結晶粒径の粗大化を抑制でき、加工性及び高温伸びに優れ、且つ、強度及び導電率に優れた銅合金、銅合金鋳塊、銅合金溶体化材を提供することが可能となる。
【手続補正18】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
図1】本発明の第一の実施形態における銅合金部材の製造方法を示すフロー図である。
図2図1に示す製造方法において用いられる連続鋳造圧延設備の概略説明図である。
図3】本発明の第二の実施形態における銅合金部材の製造方法を示すフロー図である。
図4実施例において鋳造割れを評価する際に使用されるH字型金型の説明図である。
【手続補正19】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0072
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正20】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0073
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正21】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0074
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正22】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0075
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正23】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0076
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正24】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0077
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正25】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0078
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正26】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0079
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正27】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0080
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正28】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0081
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正29】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0082
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正30】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0083
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正31】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0084
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正32】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0085
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0085】
以上、本発明の実施形態である銅合金、銅合金鋳塊、銅合金溶体化材について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、第一の実施形態では、銅合金部材の製造方法の一例として、図2に示すベルトホイール式連続鋳造機を用いたものとして説明したが、これに限定されることはなく、ツインベルト式の連続鋳造圧延機等を用いてもよい。また、上方連続鋳造機、横型連続鋳造機及びホットトップ連続鋳造機により連続鋳造線材を製造してもよい。
また、第二の実施形態のように、銅合金鋳塊を製造し、この銅合金鋳塊に溶体化処理を行ってもよい。
【手続補正33】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0094
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0094】
(鋳造割れ)
真空溶解炉にて1200℃にて溶解後、図4に示すH字型金型に鋳造した。なお、このH字型金型は予め100℃に予熱しておいた。大気中で室温まで冷却後、H字中央部分の割れの有無を評価した。評価結果を表4−6に示す。
【手続補正34】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0104
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正35】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0105
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正36】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0106
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正37】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0107
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正38】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0108
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正39】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0109
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正40】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0110
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正41】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0111
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正42】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0112
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正43】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0113
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正44】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0114
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正45】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0115
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正47】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図4
【補正方法】変更
【補正の内容】
図4
【手続補正48】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図5
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正49】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図6
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正50】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図7
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正51】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図8
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正52】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図9
【補正方法】削除
【補正の内容】