(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-3174(P2018-3174A)
(43)【公開日】2018年1月11日
(54)【発明の名称】合成短繊維用処理剤、ポリエステル系短繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 15/53 20060101AFI20171208BHJP
D06M 13/188 20060101ALI20171208BHJP
D06M 13/256 20060101ALI20171208BHJP
D06M 101/32 20060101ALN20171208BHJP
【FI】
D06M15/53
D06M13/188
D06M13/256
D06M101:32
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-127339(P2016-127339)
(22)【出願日】2016年6月28日
(11)【特許番号】特許第6080331号(P6080331)
(45)【特許公報発行日】2017年2月15日
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081798
【弁理士】
【氏名又は名称】入山 宏正
(72)【発明者】
【氏名】小室 利広
(72)【発明者】
【氏名】二宮 彰紀
(72)【発明者】
【氏名】北原 秀章
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA04
4L033AA07
4L033AB01
4L033AC09
4L033BA14
4L033BA17
4L033BA21
4L033BA28
4L033CA48
(57)【要約】
【課題】環境水域の保全を図りつつ、乳液作製時の溶解性が良好で、乳液の泡立ちが少なく、延伸時の糸切れの発生が少ない合成短繊維用処理剤、かかる合成短繊維用処理剤を用いたポリエステル系短繊維及びかかる合成短繊維用処理剤を用いるポリエステル系短繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】特定のグリセライド誘導体を含有し、且つP元素の含有量が0.5質量%以下である合成短繊維用処理剤を用いた。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のグリセライド誘導体を含有し、且つP元素の含有量が0.5質量%以下であることを特徴とする合成短繊維用処理剤。
グリセライド誘導体:下記のグリセライド1モルに対しエチレンオキサイド又はエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとが、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=10/90〜100/0(モル比)の割合で合計5〜60モル付加している化合物
グリセライド:グリセリンと脂肪酸とのエステル化合物であり、該脂肪酸1分子中の全炭素数が8〜32であり、該脂肪酸1分子中に含まれる不飽和結合の数が0〜3個であって、該脂肪酸1分子中に含まれる水酸基の数が0〜2個であるエステル化合物
【請求項2】
グリセライド誘導体を50質量%以上含有する請求項1記載の合成短繊維用処理剤。
【請求項3】
更に下記の界面活性剤を含有し、グリセライド誘導体を70〜99質量%及び下記の界面活性剤を1〜30質量%(合計100質量%)の割合で含有して成る請求項1記載の合成短繊維用処理剤。
界面活性剤:アニオン界面活性剤及び/又はカチオン界面活性剤
【請求項4】
界面活性剤が、スルホン酸アルカリ金属塩及び/又は脂肪酸アルカリ金属塩である請求項3記載の合成短繊維用処理剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つの項記載の合成短繊維用処理剤が付着していることを特徴とするポリエステル系短繊維。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一つの項記載の合成短繊維用処理剤を紡糸工程及び/又は延伸工程でポリエステル系繊維に対し0.01〜0.5質量%の割合で付着させ、延伸工程の後で該ポリエステル系繊維を裁断してポリエステル系短繊維を得ることを特徴とするポリエステル系短繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成短繊維用処理剤、ポリエステル系短繊維及びポリエステル系短繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成短繊維用処理剤として、有機リン酸エステルを必須成分として含有するものが用いられている(例えば、特許文献1〜3参照)。しかし、これら従来の合成短繊維用処理剤には、これらに含まれる有機リン酸エステルに起因して、環境水域の富栄養化を招き、水質を悪化させるという問題があることに加えて、乳液作製時の溶解性が悪いため均一な乳液の作製が難しく、また延伸工程にて乳液が泡立ち易く、更に延伸時に糸切れが発生し易いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−65322号公報
【特許文献2】特開2012−229506号公報
【特許文献3】特開平10−212654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、環境水域の保全を図りつつ、乳液作製時の溶解性が良好で、乳液の泡立ちが少なく、延伸時の糸切れの発生が少ない合成短繊維用処理剤、かかる合成短繊維用処理剤を用いたポリエステル系短繊維及びかかる合成短繊維用処理剤を用いるポリエステル系短繊維の製造方法を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、特定のグリセライド誘導体を含有し、且つP元素の含有量が0.5質量%以下である合成短繊維用処理剤を用いることが正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、下記のグリセライド誘導体を含有し、且つP元素の含有量が0.5質量%以下である合成短繊維用処理剤に係る。また本発明は、かかる合成短繊維用処理剤が付着しているポリエステル系短繊維及びかかるポリエステル系短繊維の製造方法に係る。
【0007】
グリセライド誘導体:下記のグリセライド1モルに対しエチレンオキサイド又はエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとが、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=10/90〜100/0(モル比)の割合で合計5〜60モル付加している化合物
【0008】
グリセライド:グリセリンと脂肪酸とのエステル化合物であり、該脂肪酸1分子中の全炭素数が8〜32であり、該脂肪酸1分子中に含まれる不飽和結合の数が0〜3個であって、該脂肪酸1分子中に含まれる水酸基の数が0〜2個であるエステル化合物
【0009】
先ず、本発明に係る合成短繊維用処理剤(以下、本発明の処理剤という)について説明する。本発明の処理剤は、前記のグリセライド誘導体を含有し、且つP元素の含有量が0.5質量%以下のものである。
【0010】
本発明の処理剤において、P元素の含有量は、ICP発光分析測定法により測定して求めることができる。
【0011】
本発明の処理剤に供するグリセライド誘導体は、グリセライド1モルに対しエチレンオキサイド又はエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとが、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=10/90〜100/0(モル比)の割合で合計5〜60モル付加している化合物である。エチレンオキサイド/プロピレンオキサイドのモル比率は前記の範囲内であればよいが、45/65〜100/0(モル比)のものが好ましい。付加形態には特に制限はなく、ブロック付加、ランダム付加のいずれでもよい。また製造方法は特に限定されるものではない。
【0012】
グリセライドは、グリセリンと脂肪酸とのエステル化合物であり、該脂肪酸1分子中の全炭素数が8〜32であり、該脂肪酸1分子中に含まれる不飽和結合の数が0〜3個であって、該脂肪酸1分子中に含まれる水酸基の数が0〜2個であるエステル化合物である。グリセライドを形成することとなる脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレイン酸等が挙げられるが、なかでもミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレイン酸等の該脂肪酸1分子中の全炭素数が14〜24であり、該脂肪酸1分子中に含まれる不飽和結合の数が0〜1個であって、該脂肪酸1分子中に含まれる水酸基の数が0〜1個であるものが好ましい。
【0013】
本発明の処理剤において、グリセライド誘導体の含有量に特に制限はないが、全体の50質量%以上含有するものが好ましい。
【0014】
本発明の処理剤としては、更にアニオン界面活性剤及び/又はカチオン界面活性剤を含有し、グリセライド誘導体を70〜99質量%及びかかる界面活性剤を1〜30質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものが好ましく、界面活性剤がスルホン酸アルカリ金属塩及び/又は脂肪酸アルカリ金属塩であるものがより好ましい。
【0015】
具体的にアニオン界面活性剤としては、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、オレイン酸カリウム、ドデセニルコハク酸カリウム等が挙げられ、またカチオン界面活性剤としては、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0016】
本発明の処理剤には、グリセライド誘導体以外の非イオン界面活性剤を用いることができ、その具体例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエステル、ソルビタンエステル等が挙げられるが、その使用量は、本発明の効果を損なわない範囲とする。
【0017】
次に本発明に係るポリエステル系短繊維(以下、本発明の短繊維という)について説明する。本発明の短繊維は、本発明の処理剤が付着しているポリエステル系短繊維である。本発明の短繊維としては、いずれも本発明の処理剤が付着しているポリエチレンテレフタレート短繊維、ポリトリメチレンテレフタレート短繊維等のポリエステル系短繊維が挙げられるが、なかでもポリエチレンテレフタレート短繊維が好ましい。
【0018】
最後に本発明に係るポリエステル系短繊維の製造方法(以下、本発明の製造方法という)について説明する。本発明の製造方法は、本発明の処理剤を紡糸工程及び/又は延伸工程でポリエステル系繊維に対し0.01〜0.5質量%の割合で付着させ、延伸工程の後で該ポリエステル系繊維を裁断してポリエステル系短繊維を得るポリエステル系短繊維の製造方法である。本発明の処理剤を付与する工程は、紡糸工程及び/又は延伸工程であるが、紡糸工程で付着させるのが好ましい。給油方法は、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等のいずれでもよいが、浸漬給油法、スプレー給油法又はローラー給油法が好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、環境水域の保全を図りつつ、乳液作製時の溶解性が良好で、乳液の泡立ちが少なく、延伸時の糸切れの発生が少ないという効果がある。
【実施例】
【0020】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0021】
試験区分1(グリセライド誘導体の合成)
・グリセライド誘導体(G−1)の合成
硬化ヒマシ油500部及びフレーク状の水酸化カリウム3部を2Lオートクレーブ容器に仕込み、反応系内の窒素置換を行なった。次に反応系を155℃に加温して、エチレンオキサイド263部及びプロピレンオキサイド337部をランダムで徐々に圧入し、圧入終了後、155℃にて1時間熟成を行なった。熟成後、90℃まで反応系を冷却し、85%リン酸4部を加えて中和した。最後に濾過機にて濾過を行ない、実施例1のグリセライド誘導体(G−1)1100部を得た。
【0022】
・グリセライド誘導体(G−2〜G−9及びGr−1〜Gr−3)の合成
グリセライド誘導体(G−1)の場合と同様にして、但し用いる原料の種類や仕込み量、またエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドの仕込み量を変え、表1に記載のグリセライド誘導体(G−2〜G−9及びGr−1〜Gr−3)を合成した。
【0023】
【表1】
【0024】
表1において、
Al−1:グリセリン
Alr−1:エチレングリコール
Fa−1:12-ヒドロキシステアリン酸
Fa−2:リシノール酸
Fa−3:オレイン酸
Fa−4:リノール酸
Fa−5:パルミチン酸
Fa−6:ベヘニン酸
Far−1:テトラコンタン酸
EO:エチレンオキサイド
PO:プロピレンオキサイド
【0025】
試験区分2(合成短繊維用処理剤の調製)
・実施例1
グリセライド誘導体(G−1)80部及びドデシルスルホン酸ナトリウム(A−1)を有効成分で10部及びオレイン酸カリウム(A−2)を有効成分で10部、以上をビーカーへ入れ、更に有効成分が80%になるようにイオン交換水を加え、プロペラで全体が均一になるまで撹拌し、実施例1の合成繊維用処理剤の水性液を調製した。
【0026】
・実施例2〜実施例18及び比較例1〜比較例5
実施例1の場合と同様にして、但し用いる原料や仕込み量を変え、表2に記載した実施例2〜実施例18及び比較例1〜比較例5の合成短繊維用処理剤を調整した。
【0027】
試験区分3(P元素濃度の測定方法)
P元素濃度の測定には、ICP発光分析を用いた。具体的には、試験区分2で調製した合成繊維用処理剤を有効成分換算で0.1g正確に量りとり、蒸留水で希釈して全重量を100gとし、この希釈液をICP発光分析に供した。定量は濃度既知の市販の標準サンプルとの強度値を比較することにより処理剤中に含まれるP元素濃度を求めた。
【0028】
【表2】
【0029】
表2において、
G−1〜G−9,Gr−1〜Gr−3:試験区分1で合成したグリセライド誘導体等
A−1:ドデシルスルホン酸ナトリウム
A−2:オレイン酸カリウム
A−3:ドデスルベンゼンスルホン酸ナトリウム
A−4:ドデセニルコハク酸カリウム
B−1:ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド
C−1:ドデシルアルコールエトキシレート(n=10)
Ra−1:ステアリルリン酸カリウム
【0030】
試験区分4(合成短繊維用処理剤の評価)
・延伸時糸切れ防止性の評価
試験区分2で調整した各例の合成短繊維用処理剤の延伸時糸切れ防止性を評価する指標として、下記の振り子評価及び濡れ評価を用いた。
【0031】
・振り子評価
各例の合成短繊維用処理剤を5%水溶液に希釈し、曽田式振り子型摩擦試験機(神鋼造機社製)に供して、接触面最大応力111kg/mm
2、測定温度80℃での摩擦係数を測定し、次の基準で評価した。
【0032】
評価基準
◎:摩擦係数が0.120未満
○:摩擦係数が0.120以上0.180未満
×:摩擦係数が0.180以上
【0033】
・濡れ評価
各例の合成短繊維処理剤を1%水溶液に希釈し、垂直板法表面張力測定装置(協和界面科学社製のKYOWA CBVP SURFACE TENSIONMETER)に供して、20℃における静的表面張力を測定するという操作を5回行ない、その平均値を算出し、次の基準で評価した。
【0034】
評価基準
◎:静的表面張力が35.0mN/m未満
○:静的表面張力が35.0mN/m以上50.0mN/m未満
×:静的表面張力が50.0mN/m以上
【0035】
・泡立ちの評価
各例の合成短繊維処理剤を1%水溶液に希釈し、試験管に入れて10秒間で20回激しく振とうさせ、泡を目視判定し、次の基準で評価した。
【0036】
評価基準
◎:殆ど泡が立たず、僅かな泡も直ちに消失する
○:少し泡がたつが、泡は徐々に消失する
×:泡立ちは激しいが、泡は徐々に消失する
××:泡立ちが激しく、泡切れも悪い
【0037】
・乳液溶解性の評価
30℃のイオン交換水をプロペラにて150rpmで撹拌下に各例の合成短繊維用処理剤を有効成分で5%の濃度になるように徐々に加えて溶解させた。この時の溶解性を目視にて観察し、次の基準で評価した。
【0038】
評価基準
○:容易に溶解する
×:なかなか溶解しないが、時間を掛ければ溶解する
【0039】
【表3】
【0040】
表3の結果からも明らかなように、本発明によれば、環境水域の保全を図りつつ、乳液作成時の溶解性が良好で、乳液の泡立ちが少なく、延伸時の糸切れの発生が少ないという効果がある。
【手続補正書】
【提出日】2016年7月13日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0002
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0002】
従来、合成短繊維用処理剤として、有機リン酸エステルを必須成分として含有するものが用いられている(例えば、特許文献1
及び2参照)。しかし、これら従来の合成短繊維用処理剤には、これらに含まれる有機リン酸エステルに起因して、環境水域の富栄養化を招き、水質を悪化させるという問題があることに加えて、乳液作製時の溶解性が悪いため均一な乳液の作製が難しく、また延伸工程にて乳液が泡立ち易く、更に延伸時に糸切れが発生し易いという問題がある。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0003
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0003】
【特許文献1】特開2016−65322号公報
【特許文献2】特開2012−229506号公報
【手続補正書】
【提出日】2016年11月7日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成短繊維用処理剤、ポリエステル系短繊維及びポリエステル系短繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、合成短繊維用処理剤として、有機リン酸エステルを必須成分として含有するものが用いられている(例えば、特許文献1及び2参照)。しかし、これら従来の合成短繊維用処理剤には、これらに含まれる有機リン酸エステルに起因して、環境水域の富栄養化を招き、水質を悪化させるという問題があることに加えて、乳液作製時の溶解性が悪いため均一な乳液の作製が難しく、また延伸工程にて乳液が泡立ち易く、更に延伸時に糸切れが発生し易いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−65322号公報
【特許文献2】特開2012−229506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、環境水域の保全を図りつつ、乳液作製時の溶解性が良好で、乳液の泡立ちが少なく、延伸時の糸切れの発生が少ない合成短繊維用処理剤、かかる合成短繊維用処理剤を用いたポリエステル系短繊維及びかかる合成短繊維用処理剤を用いるポリエステル系短繊維の製造方法を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、特定のグリセライド誘導体及び特定の界面活性剤を特定割合で含有し、且つP元素の含有量が0.5質量%以下である合成短繊維用処理剤を用いることが正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、下記のグリセライド誘導体を70〜99質量%及び下記の界面活性剤を1〜30質量%(合計100質量%)の割合で含有し、且つP元素の含有量が0.5質量%以下である合成短繊維用処理剤に係る。また本発明は、かかる合成短繊維用処理剤が付着しているポリエステル系短繊維及びかかるポリエステル系短繊維の製造方法に係る。
【0007】
グリセライド誘導体:下記のグリセライド1モルに対しエチレンオキサイド又はエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとが、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=10/90〜100/0(モル比)の割合で合計5〜60モル付加している化合物
【0008】
グリセライド:グリセリンと脂肪酸とのエステル化合物であり、該脂肪酸1分子中の全炭素数が8〜32であり、該脂肪酸1分子中に含まれる不飽和結合の数が0〜3個であって、該脂肪酸1分子中に含まれる水酸基の数が0〜2個であるエステル化合物
【0009】
界面活性剤:アニオン界面活性剤及び/又はカチオン界面活性剤
【0010】
先ず、本発明に係る合成短繊維用処理剤(以下、本発明の処理剤という)について説明する。本発明の処理剤は、前記のグリセライド誘導体及び前記の界面活性剤を含有し、且つP元素の含有量が0.5質量%以下のものである。
【0011】
本発明の処理剤において、P元素の含有量は、ICP発光分析測定法により測定して求めることができる。
【0012】
本発明の処理剤に供するグリセライド誘導体は、グリセライド1モルに対しエチレンオキサイド又はエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとが、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=10/90〜100/0(モル比)の割合で合計5〜60モル付加している化合物である。エチレンオキサイド/プロピレンオキサイドのモル比率は前記の範囲内であればよいが、45/65〜100/0(モル比)のものが好ましい。付加形態には特に制限はなく、ブロック付加、ランダム付加のいずれでもよい。また製造方法は特に限定されるものではない。
【0013】
グリセライドは、グリセリンと脂肪酸とのエステル化合物であり、該脂肪酸1分子中の全炭素数が8〜32であり、該脂肪酸1分子中に含まれる不飽和結合の数が0〜3個であって、該脂肪酸1分子中に含まれる水酸基の数が0〜2個であるエステル化合物である。グリセライドを形成することとなる脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレイン酸等が挙げられるが、なかでもミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸、リシノレイン酸等の該脂肪酸1分子中の全炭素数が14〜24であり、該脂肪酸1分子中に含まれる不飽和結合の数が0〜1個であって、該脂肪酸1分子中に含まれる水酸基の数が0〜1個であるものが好ましい。
【0014】
本発明の処理剤は、更にアニオン界面活性剤及び/又はカチオン界面活性剤を含有し、グリセライド誘導体を70〜99質量%及びかかる界面活性剤を1〜30質量%(合計100質量%)の割合で含有して成るものであるが、界面活性剤がスルホン酸アルカリ金属塩及び/又は脂肪酸アルカリ金属塩であるものが好ましい。
【0015】
具体的にアニオン界面活性剤としては、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、オレイン酸カリウム、ドデセニルコハク酸カリウム等が挙げられ、またカチオン界面活性剤としては、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0016】
次に本発明に係るポリエステル系短繊維(以下、本発明の短繊維という)について説明する。本発明の短繊維は、本発明の処理剤が付着しているポリエステル系短繊維である。本発明の短繊維としては、いずれも本発明の処理剤が付着しているポリエチレンテレフタレート短繊維、ポリトリメチレンテレフタレート短繊維等のポリエステル系短繊維が挙げられるが、なかでもポリエチレンテレフタレート短繊維が好ましい。
【0017】
最後に本発明に係るポリエステル系短繊維の製造方法(以下、本発明の製造方法という)について説明する。本発明の製造方法は、本発明の処理剤を紡糸工程及び/又は延伸工程でポリエステル系繊維に対し0.01〜0.5質量%の割合で付着させ、延伸工程の後で該ポリエステル系繊維を裁断してポリエステル系短繊維を得るポリエステル系短繊維の製造方法である。本発明の処理剤を付与する工程は、紡糸工程及び/又は延伸工程であるが、紡糸工程で付着させるのが好ましい。給油方法は、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等のいずれでもよいが、浸漬給油法、スプレー給油法又はローラー給油法が好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、環境水域の保全を図りつつ、乳液作製時の溶解性が良好で、乳液の泡立ちが少なく、延伸時の糸切れの発生が少ないという効果がある。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0020】
試験区分1(グリセライド誘導体の合成)
・グリセライド誘導体(G−1)の合成
硬化ヒマシ油500部及びフレーク状の水酸化カリウム3部を2Lオートクレーブ容器に仕込み、反応系内の窒素置換を行なった。次に反応系を155℃に加温して、エチレンオキサイド263部及びプロピレンオキサイド337部をランダムで徐々に圧入し、圧入終了後、155℃にて1時間熟成を行なった。熟成後、90℃まで反応系を冷却し、85%リン酸4部を加えて中和した。最後に濾過機にて濾過を行ない、実施例1のグリセライド誘導体(G−1)1100部を得た。
【0021】
・グリセライド誘導体(G−2〜G−9及びGr−1〜Gr−3)の合成
グリセライド誘導体(G−1)の場合と同様にして、但し用いる原料の種類や仕込み量、またエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドの仕込み量を変え、表1に記載のグリセライド誘導体(G−2〜G−9及びGr−1〜Gr−3)を合成した。
【0022】
【表1】
【0023】
表1において、
Al−1:グリセリン
Alr−1:エチレングリコール
Fa−1:12-ヒドロキシステアリン酸
Fa−2:リシノール酸
Fa−3:オレイン酸
Fa−4:リノール酸
Fa−5:パルミチン酸
Fa−6:ベヘニン酸
Far−1:テトラコンタン酸
EO:エチレンオキサイド
PO:プロピレンオキサイド
【0024】
試験区分2(合成短繊維用処理剤の調製)
・実施例1
グリセライド誘導体(G−1)80部及びドデシルスルホン酸ナトリウム(A−1)を有効成分で10部及びオレイン酸カリウム(A−2)を有効成分で10部、以上をビーカーへ入れ、更に有効成分が80%になるようにイオン交換水を加え、プロペラで全体が均一になるまで撹拌し、実施例1の合成繊維用処理剤の水性液を調製した。
【0025】
・実施例2〜13、参考例14〜18及び比較例1〜5
実施例1の場合と同様にして、但し用いる原料や仕込み量を変え、表2に記載した実施例2〜13、参考例14〜18及び比較例1〜5の合成短繊維用処理剤を調整した。
【0026】
試験区分3(P元素濃度の測定方法)
P元素濃度の測定には、ICP発光分析を用いた。具体的には、試験区分2で調製した合成繊維用処理剤を有効成分換算で0.1g正確に量りとり、蒸留水で希釈して全重量を100gとし、この希釈液をICP発光分析に供した。定量は濃度既知の市販の標準サンプルとの強度値を比較することにより処理剤中に含まれるP元素濃度を求めた。
【0027】
【表2】
【0028】
表2において、
G−1〜G−9,Gr−1〜Gr−3:試験区分1で合成したグリセライド誘導体等
A−1:ドデシルスルホン酸ナトリウム
A−2:オレイン酸カリウム
A−3:ドデスルベンゼンスルホン酸ナトリウム
A−4:ドデセニルコハク酸カリウム
B−1:ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド
C−1:ドデシルアルコールエトキシレート(n=10)
Ra−1:ステアリルリン酸カリウム
【0029】
試験区分4(合成短繊維用処理剤の評価)
・延伸時糸切れ防止性の評価
試験区分2で調整した各例の合成短繊維用処理剤の延伸時糸切れ防止性を評価する指標として、下記の振り子評価及び濡れ評価を用いた。
【0030】
・振り子評価
各例の合成短繊維用処理剤を5%水溶液に希釈し、曽田式振り子型摩擦試験機(神鋼造機社製)に供して、接触面最大応力111kg/mm
2、測定温度80℃での摩擦係数を測定し、次の基準で評価した。
【0031】
評価基準
◎:摩擦係数が0.120未満
○:摩擦係数が0.120以上0.180未満
×:摩擦係数が0.180以上
【0032】
・濡れ評価
各例の合成短繊維処理剤を1%水溶液に希釈し、垂直板法表面張力測定装置(協和界面科学社製のKYOWA CBVP SURFACE TENSIONMETER)に供して、20℃における静的表面張力を測定するという操作を5回行ない、その平均値を算出し、次の基準で評価した。
【0033】
評価基準
◎:静的表面張力が35.0mN/m未満
○:静的表面張力が35.0mN/m以上50.0mN/m未満
×:静的表面張力が50.0mN/m以上
【0034】
・泡立ちの評価
各例の合成短繊維処理剤を1%水溶液に希釈し、試験管に入れて10秒間で20回激しく振とうさせ、泡を目視判定し、次の基準で評価した。
【0035】
評価基準
◎:殆ど泡が立たず、僅かな泡も直ちに消失する
○:少し泡がたつが、泡は徐々に消失する
×:泡立ちは激しいが、泡は徐々に消失する
××:泡立ちが激しく、泡切れも悪い
【0036】
・乳液溶解性の評価
30℃のイオン交換水をプロペラにて150rpmで撹拌下に各例の合成短繊維用処理剤を有効成分で5%の濃度になるように徐々に加えて溶解させた。この時の溶解性を目視にて観察し、次の基準で評価した。
【0037】
評価基準
○:容易に溶解する
×:なかなか溶解しないが、時間を掛ければ溶解する
【0038】
【表3】
【0039】
表3の結果からも明らかなように、本発明によれば、環境水域の保全を図りつつ、乳液作成時の溶解性が良好で、乳液の泡立ちが少なく、延伸時の糸切れの発生が少ないという効果がある。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のグリセライド誘導体を70〜99質量%及び下記の界面活性剤を1〜30質量%(合計100質量%)の割合で含有し、且つP元素の含有量が0.5質量%以下であることを特徴とする合成短繊維用処理剤。
グリセライド誘導体:下記のグリセライド1モルに対しエチレンオキサイド又はエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとが、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=10/90〜100/0(モル比)の割合で合計5〜60モル付加している化合物
グリセライド:グリセリンと脂肪酸とのエステル化合物であり、該脂肪酸1分子中の全炭素数が8〜32であり、該脂肪酸1分子中に含まれる不飽和結合の数が0〜3個であって、該脂肪酸1分子中に含まれる水酸基の数が0〜2個であるエステル化合物
界面活性剤:アニオン界面活性剤及び/又はカチオン界面活性剤
【請求項2】
界面活性剤が、スルホン酸アルカリ金属塩及び/又は脂肪酸アルカリ金属塩である請求項1記載の合成短繊維用処理剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の合成短繊維用処理剤が付着していることを特徴とするポリエステル系短繊維。
【請求項4】
請求項1又は2記載の合成短繊維用処理剤を紡糸工程及び/又は延伸工程でポリエステル系繊維に対し0.01〜0.5質量%の割合で付着させ、延伸工程の後で該ポリエステル系繊維を裁断してポリエステル系短繊維を得ることを特徴とするポリエステル系短繊維の製造方法。