(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-33558(P2018-33558A)
(43)【公開日】2018年3月8日
(54)【発明の名称】体内埋植用医療材料の製造方法及び体内埋植用医療材料
(51)【国際特許分類】
A61L 31/00 20060101AFI20180209BHJP
【FI】
A61L31/00
A61L31/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-167487(P2016-167487)
(22)【出願日】2016年8月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】礒野 康幸
(72)【発明者】
【氏名】野一色 泰晴
【テーマコード(参考)】
4C081
【Fターム(参考)】
4C081AC03
4C081BA16
4C081BB03
4C081BB09
4C081CD081
4C081DA02
(57)【要約】
【課題】柔軟かつ高強度であるとともに、体内埋植後の視認性が良好な、実用性に優れた癒着防止膜として有用な体内埋植用医療材料の簡便な製造方法、及びその製造方法によって製造される体内埋植用医療材料を提供する。
【解決手段】ヒアルロン酸の水溶性塩及び造影剤を含有する原料フィルムを、酸無水物を含む処理液で処理し、原料フィルムを水不溶化させる工程を有し、造影剤が、水溶性造影剤又は粒子径1μm以下の微粉末状の水不溶性造影剤である体内埋植用医療材料の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸の水溶性塩及び造影剤を含有する原料フィルムを、酸無水物を含む処理液で処理し、前記原料フィルムを水不溶化させる工程を有し、
前記造影剤が、水溶性造影剤又は粒子径1μm以下の微粉末状の水不溶性造影剤である体内埋植用医療材料の製造方法。
【請求項2】
前記原料フィルムが、グリセリンをさらに含有する請求項1に記載の体内埋植用医療材料の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性造影剤がヨード造影剤であり、
前記水不溶性造影剤が硫酸バリウムである請求項1又は2に記載の体内埋植用医療材料の製造方法。
【請求項4】
前記酸無水物が、無水酢酸及び無水プロピオン酸の少なくともいずれかである請求項1〜3のいずれか一項に記載の体内埋植用医療材料の製造方法。
【請求項5】
前記造影剤が、前記原料フィルムに部分的に配置された状態で含有されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の体内埋植用医療材料の製造方法。
【請求項6】
前記原料フィルム中の前記造影剤の含有量が、前記ヒアルロン酸の水溶性塩1質量部に対し、0.5〜4質量部である請求項1〜5のいずれか一項に記載の体内埋植用医療材料の製造方法。
【請求項7】
前記原料フィルム中の前記グリセリンの含有量が、前記ヒアルロン酸の水溶性塩1質量部に対して、0.1〜1質量部である請求項2〜6のいずれか一項に記載の体内埋植用医療材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法によって製造された体内埋植用医療材料。
【請求項9】
厚みが200μm以下である請求項8に記載の体内埋植用医療材料。
【請求項10】
癒着防止膜である請求項8又は9に記載の体内埋植用医療材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内埋植用医療材料の製造方法、及び体内埋植用医療材料に関する。
【背景技術】
【0002】
体内埋植用の医療材料は、医療分野において幅広く用いられている。例えば、術後の縫合部位と臓器や、臓器同士の癒着を防止すべく、物理的障壁となるような癒着防止膜が使用されている。癒着防止膜は、患部に処置された後、処置された部位に所定期間存在することで癒着防止効果を発揮する。そして、癒着防止効果を発揮した後の癒着防止膜は、分解されて生体に吸収されることが望ましい。このような生体内分解吸収性を示し、かつ安全性の高い材料として、ヒアルロン酸は好適である。
【0003】
癒着防止膜等の体内埋植用の医療材料は、生体内に処置後、所定期間内は処置した部位に留まることが必要である。すなわち、処置後に移動したり、急速に分解・破損等したりすると、癒着防止効果が損なわれやすくなる。但し、生体内に載置した体内埋植用医療材料の状態を確認するには、患部を再切開する必要がある。しかし、患部の再切開による確認作業は患者に大きな負担を負わせるものであるため、極力避けることが望ましい。
【0004】
体内における医療材料等の位置を確認するための技術として、例えば、放射線撮影用コントラスト剤を含有するポリマーで一部を構成した医療用具が開示されている(特許文献1)。また、蓄光剤含有物等の暗視野発光体を備えた衛生材料が開示されている(特許文献2)。さらに、放射線不透過性の生分解性材料によって一部を構成したステント等の医療用器具が開示されている(特許文献3)。また、造影剤を含む層と、造影剤を含まない層との積層体である生体吸収性癒着防止材が開示されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−153895号公報
【特許文献2】特開2008−161337号公報
【特許文献3】特開2009−172285号公報
【特許文献4】特開2012−213619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2で開示された医療用具等は、術後に体内に置き忘れたような場合に発見しやすくするためのものである。また、特許文献3で開示された医療用器具は、体内でカテーテルを使用する際の位置確認を容易にするためのものである。このため、生体内に載置した体内埋植用医療材料の状態を確認するための技術については、特許文献1〜3には記載されていない。
【0007】
なお、特許文献4で開示された癒着防止材は造影剤を含む層を備えるため、生体内での状態をある程度確認することは可能である。しかし、この癒着防止材は積層構造を有するので、製造工程が煩雑であるとともに、厚くなりやすい。したがって、造影剤の使用量が多くなりやすいといった課題を有するものであった。
【0008】
本発明は、このような従来技術の有する問題点を解決するためになされたものであり、その課題とするところは、柔軟かつ高強度であるとともに、体内埋植後の視認性が良好な、実用性に優れた癒着防止膜として有用な体内埋植用医療材料の簡便な製造方法を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、上記の製造方法によって製造される体内埋植用医療材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示す体内埋植用医療材料の製造方法が提供される。
[1]ヒアルロン酸の水溶性塩及び造影剤を含有する原料フィルムを、酸無水物を含む処理液で処理し、前記原料フィルムを水不溶化させる工程を有し、前記造影剤が、水溶性造影剤又は粒子径1μm以下の微粉末状の水不溶性造影剤である体内埋植用医療材料の製造方法。
[2]前記原料フィルムが、グリセリンをさらに含有する前記[1]に記載の体内埋植用医療材料の製造方法。
[3]前記水溶性造影剤がヨード造影剤であり、前記水不溶性造影剤が硫酸バリウムである前記[1]又は[2]に記載の体内埋植用医療材料の製造方法。
[4]前記酸無水物が、無水酢酸及び無水プロピオン酸の少なくともいずれかである前記[1]〜[3]のいずれかに記載の体内埋植用医療材料の製造方法。
[5]前記造影剤が、前記原料フィルムに部分的に配置された状態で含有されている前記[1]〜[4]のいずれかに記載の体内埋植用医療材料の製造方法。
[6]前記原料フィルム中の前記造影剤の含有量が、前記ヒアルロン酸の水溶性塩1質量部に対し、0.5〜4質量部である前記[1]〜[5]のいずれかに記載の体内埋植用医療材料の製造方法。
[7]前記原料フィルム中の前記グリセリンの含有量が、前記ヒアルロン酸の水溶性塩1質量部に対して、0.1〜1質量部である前記[2]〜[6]のいずれかに記載の体内埋植用医療材料の製造方法。
【0010】
また、本発明によれば、以下に示す体内埋植用医療材料が提供される。
[8]前記[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法によって製造された体内埋植用医療材料。
[9]厚みが200μm以下である前記[8]に記載の体内埋植用医療材料。
[10]癒着防止膜である前記[8]又は[9]に記載の体内埋植用医療材料。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、柔軟かつ高強度であるとともに、体内埋植後の視認性が良好な、実用性に優れた癒着防止膜として有用な体内埋植用医療材料の簡便な製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、上記の製造方法によって製造される体内埋植用医療材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】造影剤の配置パターンの例を示す模式図である。
【
図2】実施例1で製造した体内埋植用フィルムの走査型電子顕微鏡写真である。
【
図3】比較例1で製造した体内埋植用フィルムの走査型電子顕微鏡写真である。
【
図5】実施例1のフィルムで作製した癒着防止膜で処置した犬のX線写真である。
【
図6】実施例4のフィルムで作製した癒着防止膜で処置した犬のX線写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0014】
(体内埋植用医療材料及びその製造方法)
本発明の体内埋植用医療材料の製造方法は、ヒアルロン酸の水溶性塩及び造影剤を含有する原料フィルムを、酸無水物を含む処理液で処理し、原料フィルムを水不溶化させる工程(水不溶化工程)を有する。そして、造影剤が、ヨード造影剤又は粒子径が1μm以下の微粉末状の硫酸バリウムである。以下、その詳細について説明する。
【0015】
ヒアルロン酸の水溶性塩としては、無機塩、アンモニウム塩、及び有機アミン塩等を用いることができる。無機塩の具体例としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;亜鉛、鉄等の金属塩等を挙げることができる。
【0016】
造影剤としては、ヨード造影剤等の水溶性造影剤又は硫酸バリウム等の水不溶性造影剤を用いる。このような造影剤を用いることで、X線画像診断法、コンピュータ断層撮影(Computed Tomography(CT))、核磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging(MRI))診断法に好適な体内埋植用医療材料を得ることができる。造影剤は、必要に応じて2種以上を併用してもよい。なお、原料フィルム中の造影剤の含有量は、使用する機器の性能等にもよるが、画像診断時に体内埋植用医療材料が視認されうる濃度に設定すればよい。具体的には、原料フィルム中の造影剤の含有量は、ヒアルロン酸の水溶性塩1質量部に対し、0.5〜4質量部であることが好ましく、1〜2質量部であることがさらに好ましい。
【0017】
水不溶性造影剤としては、その粒子径が1μm以下、好ましくは0.5μm以下の微粉末状の硫酸バリウム等の水不溶性造影剤を用いる。所定の粒径以下の微粉末状の硫酸バリウム等を用いることで、水不溶性の造影剤が凝集しにくく高度に分散しているとともに、表面の平滑性が高く、触感がしなやかな体内埋植用医療材料を得ることができる。粒子径が1μmを超える水不溶性造影剤を用いると、得られる体内埋植用医療材料中で水不溶性造影剤が凝集しやすくなり、造影能が低下してしまう。このため、より多くの硫酸バリウム等を配合しなければ、十分な造影能を有する体内埋植用医療材料を得ることができない。なお、硫酸バリウム等の水不溶性造影剤の粒径は、市販の水不溶性造影剤を乾式粉砕又は湿式粉砕することによって適宜調整することができる。
【0018】
水不溶化工程で用いる原料フィルムは、ヒアルロン酸の水溶性塩及び造影剤を含有する製膜原液を用いて形成することができる。製膜原液は、ヒアルロン酸の水溶性塩の溶液に造影剤を添加して調製することができる。また、ヒアルロン酸の水溶性塩の溶液は、ヒアルロン酸の水溶性塩と溶媒とを混合して調製することができる。溶媒としては、ヒアルロン酸の水溶性塩を溶解可能なものであればよく、水、含水アルコール等の水系溶媒を用いることができる。製膜原液を用いて原料フィルムを形成するには、例えば、製膜原液をトレイ等の容器内に流延した後、乾燥機等を使用し、5〜50℃の温度条件下で送風乾燥すればよい。
【0019】
図1は、造影剤の配置パターンの例を示す模式図である。
図1の(a)〜(d)に示すように、造影剤10は原料フィルム20に部分的に配置された状態で含有されていることも好ましい態様である。このように造影剤が部分的に配置された原料フィルムを水不溶化処理すれば、造影剤が部分的に配置された体内埋植用医療材料を得ることができる。なお、造影剤が部分的に配置された原料フィルムは、例えば、ヒアルロン酸の水溶性塩を含有する製膜原液を用いて形成したフィルム上の所望とする箇所に造影剤を配置することで得ることができる。
【0020】
原料フィルムは、グリセリンをさらに含有することが好ましい。グリセリンを含有する原料フィルムは、例えば、グリセリンを添加した製膜原液を用いて形成することができる。理由については明らかではないが、グリセリンを含有する原料フィルムを水不溶化することで、グリセリンを含有しない原料フィルムを水不溶化した場合に比べて、柔軟性、伸縮性、及び引張強度にさらに優れた体内埋植用医療材料を製造することができる。なお、原料フィルム中のグリセリンの含有量は、ヒアルロン酸の水溶性塩1質量部に対して、0.1〜1質量部であることが好ましく、0.25〜0.5質量部であることがさらに好ましい。
【0021】
酸無水物を含む処理液で原料フィルムを処理し、原料フィルムを水不溶化することで、本発明の体内埋植用医療材料を得ることができる。酸無水物を含む処理液を用いて原料フィルムを水不溶化する方法は、例えば、国際公開第2015/029892号で開示された内容にしたがって実施することができる。具体的には、以下に示す手順にしたがって原料フィルムを水不溶化することができる。
【0022】
原料フィルムを処理するために用いる処理液は、酸無水物を含有する。酸無水物の具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水コハク酸、無水酪酸、無水フタル酸、及び無水マレイン酸等を挙げることができる。なかでも、無水酢酸及び無水プロピオン酸が好ましい。これらの酸無水物は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
処理液は、水及び水溶性有機溶媒の少なくともいずれかの媒体をさらに含むとともに、この媒体中に酸無水物が溶解又は分散していることが好ましい。このような媒体中に酸無水物が溶解又は分散した処理液を使用することで、原料フィルムを十分かつ速やかに水不溶化することができる。
【0024】
水溶性有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル、及びテトラヒドロフラン等を挙げることができる。なかでも、メタノール、エタノール、及びジメチルスルホキシドが好ましい。これらの水溶性有機溶媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
処理液中の酸無水物の濃度は、通常、0.1〜50質量%であり、5〜30質量%であることが好ましい。酸無水物の濃度が0.1質量%未満であると、得られる体内埋植用医療材料の水不溶化の程度が不十分になる、或いは水不溶化に長時間を要する傾向にある。一方、酸無水物の濃度が50質量%を超えると、効果が頭打ちになる傾向にある。
【0026】
原料フィルムをより十分かつ速やかに水不溶化させる観点から、処理液が媒体として水を含有することが好ましい。処理液中の水の含有量は、原料フィルムが溶解又は膨潤しない程度とすることが好ましい。具体的には、処理液中の水の含有量は、0.01〜50質量%であることが好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。処理液中の水の含有量が0.01質量%未満であると、メタノール以外の溶媒では水不溶化が不十分となる場合がある。また、処理液中の水の含有量が50質量%超であると、得られる体内埋植用医療材料の形状維持が困難となる場合がある。
【0027】
原料フィルムを処理液で処理することによって原料フィルムがその形状を維持したまま水不溶化され、体内埋植用医療材料が形成される。処理液で原料フィルムを処理する方法は特に限定されないが、原料フィルムの全体に処理液が接触するとともに、原料フィルムの内部にまで処理液が浸透するように処理することが好ましい。具体的な処理方法としては、原料フィルムを処理液中に浸漬する、原料フィルムに処理液を塗布又は吹き付ける(噴霧する)等の方法を挙げることができる。
【0028】
本発明の製造方法においては化学的架橋剤を用いる必要がないため、得られる体内埋植用医療材料を構成する分子中に化学的架橋剤に由来する官能基等の構造が取り込まれることがない。このため、上記の製造方法によって製造される本発明の体内埋植用医療材料は、原料であるヒアルロン酸本来の特性が保持されているとともに、安全性が高い。したがって、本発明の体内埋植用医療材料は、生体内に埋植して用いられる癒着防止膜として好適である。なお、本発明の体内埋植用医療材料を癒着防止膜として用いる場合、体内埋植用医療材料の厚みは200μm以下であることが好ましく、60〜120μmであることがさらに好ましい。
【0029】
本発明の体内埋植用医療材料を癒着防止膜として使用する場合、例えば、手術後の縫合部位の直下に処置することができる。処置の際には内視鏡等を用いることも可能である。生体内に処置した体内埋植用医療材料は、例えば、X線画像診断法、コンピュータ断層撮影(CT)、核磁気共鳴画像(MRI)診断法等の手段によって、生体内における位置、形状、及び残留状況等を確認することができる。なお、本発明の体内埋植用医療材料は、ヒトだけではなく、例えば、家畜や愛玩動物等に用いることもできる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0031】
<体内埋植用フィルムの製造>
(実施例1)
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量150万Da、資生堂社製)を水に溶解してヒアルロン酸ナトリウム水溶液を調製した。また、硫酸バリウム(試薬特級、和光純薬社製)を水に分散させた後、ホモジナイザーを使用して湿式粉砕し、粒径(メディアン径)1μm以下の微粉末状の硫酸バリウムを含む水分散液を調製した。調製したヒアルロン酸ナトリウム水溶液、硫酸バリウムの水分散液、及びグリセリンを混合し、1.0%ヒアルロン酸ナトリウム、2.0%硫酸バリウム、及び0.2%グリセリンを含有する製膜原液を調製した。調製した製膜原液100gをステンレストレイ(12cm×9cm)内に流延した後、20℃で送風乾燥してフィルムを得た。75%エタノール水溶液/無水酢酸(8/2(体積比))の混合液に得られたフィルムを浸漬し、50℃で1時間放置して水不溶化処理した。次いで、エタノール及び水で十分洗浄した後に風乾し、厚さ約75μmの体内埋植用フィルムを得た。
【0032】
(実施例2)
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量150万Da、資生堂社製)を水に溶解してヒアルロン酸ナトリウム水溶液を調製した。また、硫酸バリウム(試薬特級、和光純薬社製)を水に分散させた後、ホモジナイザーを使用して湿式粉砕し、粒径(メディアン径)1μm以下の微粉末状の硫酸バリウムを含む水分散液を調製した。調製したヒアルロン酸ナトリウム水溶液及び硫酸バリウムの水分散液を混合し、1.0%ヒアルロン酸ナトリウム、2.0%硫酸バリウムを含有する製膜原液を調製した。調製した製膜原液100gをステンレストレイ(12cm×9cm)内に流延した後、20℃で送風乾燥してフィルムを得た。75%エタノール水溶液/無水酢酸(8/2(体積比))の混合液に得られたフィルムを浸漬し、50℃で1時間放置して水不溶化処理した。次いで、エタノール及び水で十分洗浄した後に風乾し、厚さ約75μmの体内埋植用フィルムを得た。
【0033】
(実施例3)
硫酸バリウムに代えてヨード造影剤(イオパミドール、試薬特級、和光純薬社製)を用いるとともに、湿式粉砕を行わなかったこと以外は、前述の実施例1と同様にして、厚さ約90μmの体内埋植用フィルムを得た。
【0034】
(実施例4)
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量150万Da、資生堂社製)を水に溶解してヒアルロン酸ナトリウム水溶液を調製した。調製したヒアルロン酸ナトリウム水溶液、及びグリセリンを混合し、1.0%ヒアルロン酸ナトリウム、及び0.5%グリセリンを含有する製膜原液を調製した。調製した製膜原液100gをステンレストレイ(12cm×9cm)内に流延した後、20℃で送風乾燥して厚さ約80μmのフィルムを得た。一方、硫酸バリウム(試薬特級、和光純薬製)を1.0%ヒアルロン酸ナトリウム水溶液に分散させた後、ホモジナイザーを使用して湿式粉砕し、ヒアルロン酸ナトリウム及び粒径(メディアン径)1μm以下の微粉末状の硫酸バリウムを含有する水分散液を調製した。得られた水分散液を
図1(b)に示すパターン(直径約1.5cmの円状)となるようにフィルム上に載置した後、20℃で送風乾燥して原料フィルムを得た。75%エタノール水溶液/無水酢酸(8/2(体積比))の混合液に得られた原料フィルムを浸漬し、50℃で1時間放置して水不溶化処理した。次いで、エタノール及び水で十分洗浄した後に風乾した。これにより、硫酸バリウムからなる造影部分が
図1(b)に示すパターンで配置された、厚さ約75μmの体内埋植用フィルムを得た。
【0035】
(比較例1)
市販の硫酸バリウムを湿式粉砕せず、粒径(メディアン径)約100μmの粉末状の硫酸バリウムを含む水分散液を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、厚さ約75μmの体内埋植用フィルムを得た。
【0036】
(比較例2)
ヒアルロン酸ナトリウム(分子量150万Da、資生堂社製)を水に溶解してヒアルロン酸ナトリウム水溶液を調製した。調製したヒアルロン酸ナトリウム水溶液、及びグリセリンを混合し、1.0%ヒアルロン酸ナトリウム、及び0.5%グリセリンを含有する製膜原液を調製した。調製した製膜原液100gをステンレストレイ(12cm×9cm)内に流延した後、20℃で送風乾燥して厚さ約80μmのフィルムを得た。75%エタノール水溶液/無水酢酸(8/2(体積比))の混合液に得られたフィルムを浸漬し、50℃で1時間放置して水不溶化処理した。次いで、エタノール及び水で十分洗浄した後に風乾し、厚さ約75μmの体内埋植用フィルムを得た。
【0037】
<評価>
(外観等)
実施例1で製造した体内埋植用フィルムの走査型電子顕微鏡写真(倍率:1万倍)を
図2に示す。また、比較例1で製造した体内埋植用フィルムの走査型電子顕微鏡写真(倍率:1万倍)を
図3に示す。
図2及び3に示すように、実施例1のフィルムの表面は高い平滑性を有するのに対し、比較例1のフィルムの表面は凹凸が目立っていた。また、実施例1のフィルムの触感はしなやかであるのに対し、比較例1のフィルムの触感はパリパリとしていた。なお、実施例2のフィルムの触感は、実施例1のフィルム触感と比較するとややバリバリしていたが、比較例1のフィルムよりもしなやかであった。
【0038】
(膨潤度)
実施例1で製造したフィルムと比較例2で製造したフィルムを、それぞれ約3×3cmの大きさに切断して試料片を作製し、乾燥質量を測定した。次いで、試料片を蒸留水に十分浸漬した後、表面の水分を軽く拭ってから湿潤質量を測定し、下記式(1)にしたがって膨潤度を算出した。
膨潤度=試料片の湿潤質量/試料片の乾燥質量 ・・・(1)
【0039】
実施例1のフィルムの膨潤度は「1.32」であり、比較例2のフィルムの膨潤度は「2.04」であった。実施例1のフィルムの膨潤度が、比較例2のフィルムの膨潤度よりも低かったのは、実施例1のフィルムに含まれている微粉末状の硫酸バリウムが膨潤しなかったためであると考えられる。そこで、硫酸バリウムを除外した質量を基準として実施例1のフィルムの膨潤度を算出したところ「1.85」であった。これにより、実施例1のフィルムの膨潤度は、造影剤を含有しない比較例2のフィルムの膨潤度と同等であることがわかった。
【0040】
(引張試験)
JIS K 7311:1995(ポリウレタン系熱可塑性エラストマーの試験方法)に準拠し、以下に示す手順により実施例1で製造したフィルムと比較例2で製造したフィルムの引張試験を行った。蒸留水で十分膨潤させたフィルムをダンベルカッターで打ち抜いて試験片を作製した。シングルコラム型の材料試験機(商品名「STA−1150」、エーアンドディ社製)を使用し、クロスヘッド速度10mm/秒の条件で試験片の破断強度を測定し、フィルムのヤング率を算出した。結果を
図4(グラフ)に示す。実施例1のフィルムの引張強度及び比較例2のフィルムの引張強度は、いずれも約1.5Nであった。また、実施例1のフィルムのヤング率は9.00MPaであり、比較例2のフィルムのヤング率は9.43MPaであった。以上より、実施例1のフィルムは、造影剤を含有しない比較例2のフィルムと同等の柔軟性を有することがわかった。
【0041】
(造影能)
実施例1、4、及び比較例1で製造したフィルムをそれぞれ滅菌用袋に封入し、25kGyの放射線を照射して滅菌用袋ごと滅菌して癒着防止膜を作製した。成犬(ビーグル犬、雌、1.5歳、体重約10kg)を全身麻酔処置した後に開胸し、肺を10分間外気にさらした。その後、開胸部傷口直下の肺上に癒着防止膜をそれぞれ処置してから閉胸した。単純X線撮影したところ、実施例1及び4のフィルムでそれぞれ作製した癒着防止膜については、いずれも埋植部位に存在することを確認できた。これに対して、比較例1のフィルムで作製した癒着防止膜については、単純X線撮影しても造影されず、埋植部位に存在することが確認できなかった。実施例1のフィルムで作製した癒着防止膜で処置した犬のX線写真を
図5に示す。また、実施例4のフィルムで作製した癒着防止膜で処置した犬のX線写真を
図6に示す。なお、
図5中、白丸で囲った箇所に癒着防止膜を確認することができる。また、
図6中、白丸で囲った箇所に硫酸バリウムからなる造影部分を確認することができる。埋植3週間後に再度単純X線撮影したところ、癒着防止膜の像を確認することはできなかった。また、開胸したところ、癒着防止膜は消失しており、処置した部位には癒着が発生していないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の体内埋植用医療材料は、例えば、癒着防止膜として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0043】
10:造影剤
20:原料フィルム