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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-35077(P2018-35077A)
(43)【公開日】2018年3月8日
(54)【発明の名称】腫瘍蓄積性粒子
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/14 20060101AFI20180209BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20180209BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20180209BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180209BHJP
【FI】
   A61K9/14
   A61K47/32
   A61K49/00 A
   A61P35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-166933(P2016-166933)
(22)【出願日】2016年8月29日
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
【住所又は居所】兵庫県神戸市灘区六甲台町1−1
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 俊文
【住所又は居所】兵庫県神戸市灘区六甲台町1−1 国立大学法人神戸大学内
(72)【発明者】
【氏名】北山 雄己哉
【住所又は居所】兵庫県神戸市灘区六甲台町1−1 国立大学法人神戸大学内
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA29
4C076AA95
4C076BB11
4C076BB31
4C076CC27
4C076DD63
4C076EE10
4C076EE13
4C076FF36
4C085JJ03
4C085KB68
4C085LL18
(57)【要約】
【課題】血管内に投与された後、血管内に存在する血漿タンパク質を認識部位に結合させる機構でステルス性を獲得するとともに、腫瘍蓄積性も有するナノ粒子を提供する。
【解決手段】本発明は、血漿タンパク質が分子インプリントされた血漿タンパク質認識部位を有し且つ生体適合性モノマーに由来する構成成分を含む分子インプリントポリマーであり、血管内搬送に用いられる、腫瘍蓄積性粒子である。分子インプリントポリマーは、正電荷性基を有するモノマーに由来する構成成分を含むことが好ましい。また、正電荷性基は血漿タンパク質と結合可能な官能基であることが好ましい。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血漿タンパク質が分子インプリントされた血漿タンパク質認識部位を有し且つ生体適合性モノマーに由来する構成成分を含む分子インプリントポリマーであり、血管内搬送に用いられる、腫瘍蓄積性粒子。
【請求項2】
前記分子インプリントポリマーが、正電荷性基を有するモノマーに由来する構成成分を含む、請求項1に記載の腫瘍蓄積性粒子。
【請求項3】
前記正電荷性基が前記血漿タンパク質と結合可能な官能基である、請求項2に記載の腫瘍蓄積性粒子。
【請求項4】
前記分子インプリントポリマーが、正電荷性基を有する重合開始剤に由来する末端基を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の腫瘍蓄積性粒子。
【請求項5】
平均粒子径が10nm以上200nm以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載の腫瘍蓄積性粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍蓄積性粒子に関する。より具体的には、本発明は、血管中でステルス性を獲得することができるとともに腫瘍に選択的に蓄積する、血液内搬送用のナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
癌をはじめとする様々な疾患の治療および診断のために、ナノ粒子ベースの治療薬および診断薬を用いたドラッグデリバリシステムが開発されている。ドラッグデリバリシステムに適用されるナノ粒子に共通して付与されるべき性質の1つとしてステルス性(血中での免疫応答回避能、つまり血中滞留性)が挙げられる。ナノ粒子にステルス性を付与する手段の多くは、表面修飾である。たとえば、オプソニンの吸着の防止または凝集防止などを発揮させる目的で、ポリエチレングリコールなどの様々なポリマーを用いてナノ粒子を被覆することが知られている。他にも、食作用を阻害することを目的として、自己マーカーであるCD47タンパク質を用いてナノ粒子を被覆することも知られている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
一方、血漿タンパク質を鋳型として分子インプリントされた血漿タンパク質認識部位を有する生体適合性ナノ粒子であって、体内に投与された後に当該認識部位に血漿タンパク質と結合することでステルス性を獲得するin vivoステルス性ナノ粒子が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Advanced Materials, 2012 July 24; 24(28): 3757-3778.
【非特許文献2】Nanoscale, 2014 Jan 7; 6(1): 65-75.
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2016/088384号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ドラッグデリバリシステムに適用されるナノ粒子に付与されるべき他の性質として、腫瘍蓄積性がある。しかしながら、ステルス性と腫瘍蓄積性とは全く別個の属性であり、ステルス性を有する粒子が腫瘍蓄積性を有するとは限らない。
特に、in vivoステルス性ナノ粒子は、それまでの表面修飾粒子として合成されるステルス性ナノ粒子と異なりステルス性の獲得機構が独特であるため、腫瘍蓄積性については知られていなかった。
【0007】
このような状況に鑑み、本発明の目的は、in vivoでステルス性を獲得可能であり且つ腫瘍蓄積性も有するナノ粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の発明を包含する。
【0009】
(1)
本発明の腫瘍蓄積性粒子は、血漿タンパク質が分子インプリントされた血漿タンパク質認識部位を有し且つ生体適合性モノマーに由来する構成成分を含む分子インプリントポリマーである。本発明の腫瘍蓄積性粒子は、血管内搬送に用いられる。
【0010】
この構成により、血管内に投与された後、血管内に存在する血漿タンパク質が認識部位に結合することで、ステルス性(in vivo ステルス性)を獲得するとともに、選択的に腫瘍組織に蓄積させることができる。
【0011】
(2)
上記(1)の腫瘍蓄積性粒子において、分子インプリントポリマーが、正電荷性基を有するモノマーに由来する構成成分を含んでよい。
【0012】
この構成により、到達した腫瘍組織に対する粒子の親和性が良好であるため、腫瘍組織における蓄積性がより良好である。
【0013】
(3)
上記(2)の腫瘍蓄積性粒子において、正電荷性基は血漿タンパク質と結合可能な官能基であってよい。
【0014】
本発明のナノ粒子は、血漿タンパク質が非共有結合によって認識部位に結合するため、到達した腫瘍組織において血漿タンパク質が認識部位から外れて正電荷性基が露出することで、蓄積性がより良好となる。
【0015】
(4)
上記(1)から(3)のいずれかの腫瘍蓄積性粒子は、分子インプリントポリマーが、正電荷性基を有する重合開始剤に由来する末端基を含んでよい。
【0016】
この構成により、到達した腫瘍組織に対する粒子の親和性が良好であるため、腫瘍組織における蓄積性がより良好である。
【0017】
(5)
上記(1)から(4)のいずれかの腫瘍蓄積性粒子は、平均粒子径が10nm以上200nm以下であってよい。
【0018】
この構成により、尿としての排出を防止し、分子インプリントポリマーの比表面積の確保およびステルス性の獲得が容易であり、かつ、EPR効果の発現が容易である。
【0019】
上記(1)から(5)のいずれかの腫瘍蓄積性粒子は、薬剤成分が担持されていてよい。この構成により、腫瘍蓄積性分子はドラッグデリバリシステム用薬剤として使用することができる。
さらに、当該薬剤成分は、薬剤に重合性官能基が共有結合した薬剤モノマーに由来する構成成分として分子インプリントポリマーに含まれてよい。この構成により、薬剤の担持が容易となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によって、血管内に投与された後、血管内に存在する血漿タンパク質を認識部位に結合させる機構でステルス性を獲得するとともに、腫瘍蓄積性も有するナノ粒子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1の蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsを投与したマウスの腫瘍組織の共焦点レーザー顕微鏡写真である。
図2】実施例1の蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsを投与した1匹めのマウスの腫瘍組織における血管が含まれない腫瘍組織部位での蛍光強度の経時変化(A)と、腫瘍組織における血管中での蛍光強度の経時変化(B)とを示す。
図3】実施例1の蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsを投与した2匹めのマウスの腫瘍組織における血管が含まれない腫瘍組織部位での蛍光強度の経時変化(A)と、腫瘍組織における血管中での蛍光強度の経時変化(B)とを示す。
図4】実施例1の蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsを投与した3匹めのマウスの腫瘍組織における血管が含まれない腫瘍組織部位での蛍光強度の経時変化(A)と、腫瘍組織における血管中での蛍光強度の経時変化(B)とを示す。
図5】実施例1の蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsを投与した4匹めのマウスの腫瘍組織における血管が含まれない腫瘍組織部位での蛍光強度の経時変化(A)と、腫瘍組織における血管中での蛍光強度の経時変化(B)とを示す。
図6】実施例1の蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsを投与した5匹めのマウスの腫瘍組織における血管が含まれない腫瘍組織部位での蛍光強度の経時変化(A)と、腫瘍組織における血管中での蛍光強度の経時変化(B)とを示す。
図7】実施例1の蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsの腫瘍組織への蓄積および正常組織への蓄積との比較、ならびに比較例1のリファレンス用ナノ粒子NIP-NGsの正常組織への蓄積を示したグラフである。
図8図7に示した3群それぞれの蛍光強度変化(F−F)の経時変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[1.腫瘍蓄積性粒子]
本発明の腫瘍蓄積性粒子は、血管内搬送に用いられる分子インプリントポリマーである。分子インプリントポリマーは、標的分子に選択性のある結合部位(標的分子認識部位)を有する合成ポリマーである。分子インプリントポリマーは、鋳型重合法の一つである分子インプリント法により合成されるものである。分子インプリント法は、標的分子を鋳型として、その標的分子に選択性のある結合部位(標的分子認識部位)を、ポリマー中に人工的に構築する方法である。
【0023】
[1−1.標的分子]
本発明の腫瘍蓄積性粒子が標的分子認識部位で認識対象とする標的分子は、血漿タンパク質である。本発明の腫瘍蓄積性粒子が血管内に投与された場合に、血液中の血漿タンパク質が分子インプリントポリマーの標的分子認識部位に結合することで、ステルス性を獲得することができる。つまり本発明の腫瘍蓄積性粒子は、in vivoステルス性ナノ粒子としての機能を有する。血漿タンパク質としては、アルブミン、γ−グロブリン、フィブリノゲン、トランスフェリン、セルロプラスミン、および癌胎児性抗原などが挙げられるが、この中でも最も多くを占めるアルブミンであることが好ましい。この場合、腫瘍蓄積性粒子の血液中でのステルス性確保がより効率的に行われる。なお、血漿タンパク質は、ヒト由来およびヒト以外の動物由来であってよい。ヒト以外の動物としては、マウス、ラット、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ハムスタ−、ウサギ、およびヤギなどの哺乳動物を含む脊椎動物が挙げられる。
【0024】
[1−2.分子インプリントポリマーの構成材料]
本発明の腫瘍蓄積性粒子を構成する分子インプリントポリマーは、少なくとも機能性モノマーと生体適合性モノマーとにそれぞれ由来する構成成分(モノマー単位)を含む架橋ポリマーである。
この分子インプリントポリマーは、正電荷性基を有するモノマーに由来する構成成分を含んでいることが好ましい。分子インプリントポリマーが正電荷性基を有することで、到達した腫瘍組織において腫瘍細胞との親和性に優れるため、蓄積性に優れる。正電荷性基は、具体的には塩基性官能基であってよい。塩基性官能基としては、たとえば、置換されていてよいアミノ基(具体的には、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基)、4級アンモニウム基、環状2級アミノ基(たとえば、ピロリジル基、ピペリジル基)、ピリジル基、イミダゾール基、グアニジン基、アミジノ基などが挙げられる。
【0025】
正電荷性基を有するモノマーに由来する構成成分は、分子インプリントポリマーを構成するモノマー成分のうちどの成分であってもよい。たとえば、以下に例示するモノマー(機能性モノマー、生体適合性モノマー、水溶性モノマー、シグナル基含有モノマー、薬剤モノマー)の中では、機能性モノマー、水溶性モノマー、シグナル基含有モノマー、薬剤モノマーの少なくともいずれかに由来する成分であってよく、それぞれのモノマーの本来の機能を最大限利用する観点からは、機能性モノマーに由来する成分であることがより好ましい。
【0026】
正電荷性基を有するモノマーに由来する構成成分の含有量は、分子インプリントポリマーを構成する構成成分全体の2モル%以上30モル%以下、好ましくは5モル%以上20モル%以下であってよい。当該含有量が上記下限以上であることは、良好な腫瘍蓄積性を得る点で好ましく、上記上限以下であることは、正電荷性基を有しない他のモノマー単位による機能をバランスよく発現させる点で好ましい。
【0027】
上記した機能性モノマーは、標的分子である血漿タンパク質と結合可能な官能基と、重合性官能基とを併せ持つ分子をいう。血漿タンパク質との結合様式は、共有結合でも非共有結合でもかまわない。非共有結合としては、水素結合、イオン結合、静電相互作用、ファンデルワールス相互作用、疎水性相互作用などが挙げられる。
【0028】
血漿タンパク質と結合可能な官能基としては、たとえば、スルホン酸基およびカルボキシル基などの酸性官能基;置換されていてよいアミノ基(具体的には、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基)、4級アンモニウム基、環状2級アミノ基(たとえば、ピロリジル基、ピペリジル基)、ピリジル基、イミダゾール基、グアニジン基、アミジノ基などの塩基性官能基;カルバモイル基;水酸基;アルデヒド基などが挙げられる。腫瘍蓄積性を考慮すると、血漿タンパク質と結合可能な官能基は、上述の正電荷性官能基として機能する塩基性官能基であることが好ましい。血漿タンパク質と結合可能な官能基が血中の血漿タンパク質と非共有結合により結合するため、到達先の腫瘍組織において血漿タンパク質が外れることにより正電荷性基を露出させることができる。このように免疫回避の役割を終えた機能性モノマー成分が到達先の腫瘍組織において血漿タンパク質を解離し粒子の正電荷性基を優位にすることで、粒子と腫瘍細胞との親和性が良好となり、腫瘍蓄積性がより良好となる。
重合性官能基としては、ビニル基および(メタ)アクリル基などが挙げられる(他のモノマーについても同様)。
【0029】
機能性モノマーの具体例としては、ピロリジルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、アクリルアミド、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。機能性モノマーは、鋳型とする血漿タンパク質に応じて適宜選択することができる。
【0030】
上記した生体適合性モノマーとは、生体適合性ポリマーを構成可能なモノマーをいう。生体適合性ポリマーは、好ましくは親水性ポリマーであり、双性イオンポリマーおよびノニオンポリマーを含む。なお、生体適合性とは、生体物質の接着を誘起しない性質をいう。このようなモノマーに由来する成分を含むことにより、分子インプリントポリマー自体に好ましい血中滞留性を具備させることができる。
【0031】
双性イオンポリマーを構成可能な双性イオンモノマーは、酸性官能基(たとえば、リン酸基、硫酸基、およびカルボキシル基など)に由来するアニオン基と、塩基性官能基(たとえば、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基および4級アンモニウム基など)に由来するカチオン基との両方を1分子中に含む。たとえば、ホスホベタイン、スルホベタイン、およびカルボキシベタインなどが挙げられる。
【0032】
より具体的には、ホスホベタインとしては、ホスホリルコリン基を側鎖に有する分子が挙げられ、好ましくは、2−メタクリロイロキシエチルホスホリルコリン(MPC)などが挙げられる。
スルホベタインとしては、N,N−ジメチル−N−(3−スルホプロピル)−3’−メタクリロイルアミノプロパンアミニウムインナーソルト(SPB)、N,N−ジメチル−N−(4−スルホブチル)−3’−メタクリロイルアミノプロパンアミニウムインナーソルト(SBB)などが挙げられる。
カルボキシベタインとしては、N,N−ジメチル−N−(1−カルボキシメチル)−2’−メタクリロイロキシエタンアミニウムインナーソルト(CMB)、N,N−ジメチル−N−(2−カルボキシエチル)−2’−メタクリロイロキシエタンアミニウムインナーソルト(CEB)などが挙げられる。
【0033】
双性イオンモノマーに由来する構成成分を有することは、分子インプリントポリマーに薬剤を担持させた場合の薬剤放出性の点で好ましい。さらに、血中分散安定性を維持しつつ粒子径をより小さく制御しやすい点においても好ましい。
【0034】
ノニオンポリマーとしては、ポリエーテル系高分子、たとえばポリ(エチレングリコール)(PEG)が挙げられる。分子インプリントポリマーにPEGのようなノニオンポリマーが含まれる場合は、分子排除効果による血中分散安定性が得られる。
【0035】
上記した生体適合性モノマー由来成分は、たとえば分子インプリントポリマーの0%超50%以下(%で表される量はモル基準)、好ましくは1%以上30%以下、さらに好ましくは2%以上20%以下の割合で含ませることができる。生体適合性モノマー由来成分の含有量が上記上限値以下であることにより、分子インプリント血漿タンパク質認識部位を好ましく維持することができ、上記下限値以上であることにより、好ましい血中滞留性を得ることができる。
【0036】
分子インプリントポリマーは、上記の他に、水溶性モノマーに由来する構成成分を有していてもよい。この場合における水溶性モノマーとは、下限臨界溶液温度(LCST)を有する熱応答性ポリマー、pH応答性ポリマーなどの外部刺激応答性ポリマーを構成可能なモノマーをいう。
【0037】
LCSTを有する熱応答性ポリマーとしては、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)、ポリ(N,N−ジエチルアクリルアミド)、ポリ(ビニルメチルエーテル)、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリエチレンオキシド側鎖を含むポリマー(たとえば、ポリ(ジエチレングリコールメタクリレート)、ポリ(トリエチレングリコールメタクリレート)、ポリ(オリゴエチレングリコールメタクリレート))、ポリ酢酸ビニルけん化物、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。このような構成成分を有することによって、分子インプリントポリマーは、低温域では親水性を示す一方、LCST以上への温度変化によって疎水性を示し、細胞へ取り込まれやすくなる。
【0038】
pH応答性ポリマーとしては、アルカリ性域で親水性を示すアニオン性ポリマー(たとえば、ポリ(メタ)アクリル酸)および酸性域で親水性を示すカチオン性ポリマー(たとえば、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート、ポリジエチルアミノエチルメタクリレート、ポリ2−ビニルピリジン、ポリ4−ビニルピリジン、メタクリルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド改質重合体(MADQUAT))などが挙げられる。
【0039】
分子インプリントポリマーは、上記の他に、シグナル基含有モノマーに由来する構成成分を有していてもよい。シグナル基は、検出可能な官能基であればよく、たとえば、蛍光基、放射性元素含有基、磁性基などから当業者が適宜選択することができる。
蛍光基としては、フルオレセイン系色素、インドシアニン色素などのシアニン系色素、ローダミン系色素、量子ドットなどに由来する基が挙げられる。蛍光基は、生体への透過性が高い近赤外蛍光基であることが好ましい。放射性元素含有基としては、18Fなどの放射性同位体でラベルした、糖、アミノ酸、核酸などに由来する基が挙げられる。磁性基としては、フェリクロームなどの磁性体を有するもの、フェライトナノ粒子、ナノ磁性粒子などにみられるものが挙げられる。
【0040】
また、シグナル基含有モノマーのシグナル基は正電荷性基である方が腫瘍蓄積性はより良好となる。しかしながら、シグナル基含有モノマー以外の構成モノマー(特に機能性モノマー)において正電荷性基を具備させることでより良好な腫瘍蓄積性を発揮させることができるため、シグナル基は正電荷性、負電荷性および無電荷性の制限なくあらゆるシグナル基から選択することができる。したがって、シグナル基の機能を最大限利用しながらも、良好な腫瘍蓄積性を発揮させることができる。
【0041】
分子インプリントポリマーは、上記の他に、薬剤モノマーに由来する構成成分を有していてもよい。薬剤モノマーについては後述する。
【0042】
分子インプリントポリマーが後述の重合開始剤の使用によって合成されたものである場合、正電荷性基を有する重合開始剤に由来する末端基を含んでいることが好ましい。分子インプリントポリマーが正電荷性基を有することで、到達した腫瘍組織において腫瘍細胞との親和性に優れるため、蓄積性に優れる。正電荷性基としては上述の通りである。
【0043】
[1−3.薬剤の担持]
本発明の腫瘍蓄積性粒子は、薬剤等のキャリアとして用いることができ、抗がん剤、遺伝子、造影剤、蛍光プローブ、および、酵素などのタンパク質などの薬剤を担持することができる。
【0044】
坑がん剤としては、一般的に癌治療に使用されている抗がん剤であればいずれであってもよい。具体的には、タキサン系薬剤、白金製剤、ニトロソウレア系薬剤、窒素マスタード系薬剤、トリアジン系薬剤、アンスラサイクリン系薬剤、ビンカアルカロイド系薬剤、エピポドフィロトキシン系薬剤、カンプトテシン系薬剤、およびフッ化ピリミジン系薬剤を例示できる。タキサン系薬剤として、タキソール、タキソテール、パクリタキセル、およびドセタキセルなどが挙げられる。白金製剤としては、シスプラチンおよびカルボプラチンなどが挙げられる。ニトロソウレア系薬剤としては、カルムスチンおよびロムスチンなどが挙げられる。窒素マスタード系薬剤としては、シクロホスファミドなどが挙げられる。トリアジン系薬剤としては、ダカルバジンなどが挙げられる。アンスラサイクリン系薬剤としては、ドキソルビシンなどが挙げられる。ビンカアルカロイド系薬剤としては、ビンクリスチンおよびビンブラスチンなどが挙げられる。エピポドフィロトキシン系薬剤としては、エトポシドなどが挙げられる。カンプトテシン系薬剤としては、イリノテカンなどが挙げられる。フッ化ピリミジン系薬剤としては、5−フルオロウラシルおよびテガフールなどが挙げられる。
【0045】
薬剤は、腫瘍蓄積性粒子において共有結合によって担持されていてよい。具体的には、分子インプリントポリマーの構成成分として、薬剤モノマーに由来する構成成分を含ませることによって担持させることができる。薬剤モノマーは、上述の薬剤が重合性官能基と共有結合した構造を有する。
薬剤モノマーは、所望の薬剤と、重合性官能基を有するモノマー(重合性モノマー)とを反応させることによって得ることができる。
【0046】
この場合、薬剤側の反応性基としては、当該薬剤自身の効力発現を妨げない基が当業者によって適宜選択される。該当する反応性基が一分子の薬剤に複数存在する場合は、当該反応性基と重合性モノマーとで構成される共有結合のin vivo分解性(つまり薬剤放出性)を考慮して、適当な一の反応性基を当業者が適宜決定することができる。
【0047】
重合性モノマー側の反応性基としては、重合性官能基以外の基であって、かつ、薬剤側の反応性基と反応可能な基が当業者によって適宜選択される。したがって薬剤と反応させられる重合性モノマーとしては特に限定されないが、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボキシル基を有するモノマー;ヒドロキシアルキルアクリレート、ヒドロキシアルキルメタクリレートなどのヒドロキシル基を有するモノマー;メチロールアクリレート、メチロールメタクリレート;アリルアクリレート、アリルメタクリレートなどのビニル基を有するモノマー;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートなどのグリシジル基を有するモノマー;アミノ基を有するモノマー;スルホン酸基を有するモノマーなどが挙げられる。
【0048】
なお、薬剤側の反応性基と重合性モノマー側の反応性基とは、直接的に縮合等による結合していてもよいし、薬剤モノマーの分子設計上において当業者が適宜選択することが可能な連結基を介して結合していてもよい。
【0049】
また、薬剤性モノマーの薬剤部分は正電荷性基を有している方が腫瘍蓄積性はより良好となる。しかしながら、薬剤性モノマー以外の構成モノマー(特に機能性モノマー)において正電荷性基を具備させることでより良好な腫瘍蓄積性を発揮させることができるため、薬剤部分は正電荷性、負電荷性および無電荷性の制限なくあらゆる薬剤から選択することができる。したがって、薬剤の機能を最大限利用しながらも、良好な腫瘍蓄積性を発揮させることができる。
【0050】
[1−4.粒子径]
本発明の腫瘍蓄積性粒子の平均粒子径は、10nm以上200nm以下であってもよいし、10nm以上100nm以下であってもよい。平均粒子径が上記下限以上であることは、尿としての排出を防止する点、ならびに分子インプリントポリマーの比表面積の確保およびステルス性の獲得が容易である点で好ましく、上記上限以下であることは、血漿タンパク質結合後のEPR(enhanced permeability and retention)効果の発現が容易である点で好ましい。タンパク質結合後のEPR効果をより良好に得る観点から、本発明の腫瘍蓄積性粒子の平均粒子は、20nm以上50nm以下、または20nm以上35nm以下であってもよい。一方で、品質管理性を良好に得る観点からは、EPR効果の発現が認められる200nm以下の粒径範囲内でできるだけ大きい粒径(たとえば、50nm以上200nm以下、または100nm超200nm以下)を選択することもできる。
【0051】
また、本発明の腫瘍蓄積性粒子はin vivoステルス性を有するため、粒子径は、in vivoで血漿タンパク質が結合することによる粒子径の拡大を見越した大きさであってよい。たとえば、本発明の腫瘍蓄積性粒子の粒子径は、in vivoで血漿タンパク質が結合したステルス性獲得後における粒子径の、0.5倍以上0.9倍以下、好ましくは0.6倍以上0.8倍以下となる粒子径であってよい。
【0052】
平均粒子径は、動的光散乱法によって測定される粒度分布における算術平均径を意味する。動的光散乱法とは、粒子が分散している溶液にレーザー光を当て、その散乱光変化を測定したときに検出される粒子のブラウン運動に依存した散乱光度の揺らぎに基づいて、粒子の大きさ(粒子径)を導き出す方法である。動的光散乱法に基づく粒子径測定装置は各社から市販されており(たとえば、大塚電子、シスメックス、ベックマン・コールターなど)、本発明腫瘍蓄積性粒子の平均粒子径測定に好適に利用いることができる。
【0053】
[2.腫瘍蓄積性粒子の製造]
本発明の腫瘍蓄積性粒子は、分子インプリンティング法によって合成する。具体的には、標的分子である血漿タンパク質、その誘導体または類似化合物を鋳型分子とし、この鋳型分子をラジカル重合反応時に共存させる。鋳型分子の共存により、鋳型分子に対して相補的に相互作用する分子認識部位が、有機ポリマーの合成とともに構築される。分子インプリントポリマーの合成方法の詳細は、例えば、参考文献「Komiyama, M., Takeuchi, T., Mukawa, T., Asanuma, H. "Molecular Imprinting", WILEY-VCH, Weinheim, 2002.」の記載などを参照して当業者が適宜決定することができる。
【0054】
鋳型分子が共存させられる重合反応系には、少なくとも、機能性モノマーと、生体適合性モノマーと、架橋剤と、重合開始剤とが含まれてよい。この他にも、上述した水溶性モノマー(つまり外部刺激応答性ポリマーを構成可能なモノマー)、シグナル基含有モノマーおよび薬剤モノマーの少なくともいずれかをさらに含んでもよい。また、重合促進剤をさらに含んでもよい。なお、上記の各モノマーの代わりに、当該モノマーのオリゴマーおよび/またはポリマーが含まれてもよい。
【0055】
各モノマーについては、具体的には、上記項目1−2(分子インプリントポリマーの構成材料)および項目1−3(薬剤の担持)で述べた各種化合物が挙げられる。
架橋剤は、分子中に重合性官能基(ビニル基など)を少なくとも2個持つ分子を用いることが好ましく、たとえば、エチレングリコールジメチルアクリレート、N,N'−メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0056】
重合開始剤としては、たとえば、過硫酸アンモニウムおよび過硫酸カリウムなどの過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩などのアゾ系重合開始剤が挙げられる。腫瘍蓄積性を考慮すると2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩などの正電荷性官能基を有する重合開始剤であることがより好ましい。この場合、正電荷性基が分子インプリントポリマーの末端基として導入される。重合促進剤としては、N,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンなどが挙げられる。
【0057】
溶媒としては、鋳型分子の変性抑制の観点から、緩衝液等の水系の溶媒が好ましく用いられる。
【0058】
分子インプリンティング法においては、上記の全ての成分を同時に共存させて重合反応を開始することができる。あるいは、予め鋳型分子/機能性モノマー複合体を形成しておき、その後、鋳型分子/機能性モノマー複合体を、生体適合性モノマーおよび架橋剤とともに重合反応に供してもよい。
【0059】
これによって、鋳型分子の形状および相互作用点の配置を記憶した有機ポリマーが得られる。なお、得られた有機ポリマーにおける鋳型分子と機能性モノマー由来成分との結合様式は、切断可能であれば共有結合でも非共有結合でもかまわない。当該結合様式が非共有結合である場合は、予め鋳型分子/機能性モノマー複合体を形成しておくことを必ずしも要さず、切断を容易に行うことができる点で好ましい。
【0060】
なお、分子インプリントポリマーの微粒子を得るための重合方法としては、例えば、無乳化剤沈殿重合法、分散重合法、乳化重合法、シード乳化重合法などが挙げられる。(参考文献:蒲池幹治、遠藤剛監修者、『ラジカル重合ハンドブック』(1999)エヌティーエス、G. Schmid Ed. Nanoparticles, Wiley-VCH (2004))。分子インプリントポリマーの微粒子を得るための重合方法としては、上記の他にも、懸濁重合、ミニエマルション重合、マイクロサスペンション重合、マイクロエマルション重合、シード重合、およびシード分散重合などが挙げられる。
【0061】
上記の重合反応で得られた有機ポリマーから、鋳型分子を除去することにより、鋳型分子と基質特異的に相互作用する分子認識部位を有する有機ポリマー(分子インプリントポリマー)が得られる。鋳型分子の除去は、鋳型分子と機能性モノマー由来成分との結合を切断し、遊離した鋳型分子を分子インプリントポリマーから分離することによって行うことができる。
【0062】
鋳型分子の切断は、鋳型分子と機能性モノマー由来成分との結合様式に基づいて、当業者が適宜決定することができる。たとえば、1M NaCl溶液;極性溶媒(たとえばメタノールなどのアルコール);界面活性剤(たとえば、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS)、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド(TTAB)、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(Triton)、脂肪酸エステル(Span)、ポリオキシエチレンエーテル脂肪酸エステル(Tween));タンパク質変性剤(たとえば、トリス[2−カルボキシエチル]ホスフィン塩酸塩(TCEP)、尿素、グリシン塩、酸、アルカリ);酵素(たとえば、ペプシン、トリプシン、パパイン)などによって切断を行うことができる。なお、非共有結合を切断する工程は、後述の分離工程で同時に行われてもよい。この場合、分離工程で使用される移動相(緩衝液)を、鋳型分子の溶離液として機能させることができる。
【0063】
遊離した鋳型分子は、分子インプリントポリマーから分離される。分離方法は両者の物性の差を利用した分離方法を、当業者が適宜選択することができる。好ましくは、サイズ排除クロマトグラフィによって分離することができる。
【0064】
[3.腫瘍蓄積性粒子の利用]
本発明の腫瘍蓄積性粒子は、薬剤が担持されることで、薬学的に許容される成分とともに医薬組成物として利用可能である。薬学的に許容される成分は、非毒性、不活性かつ腫瘍蓄積性粒子の標的分子認識部位に影響を与えない固体および/または液体であり、たとえば、滅菌水、生理食塩水、安定剤、賦形剤、酸化防止剤、緩衝剤、防腐剤、pH調整剤、界面活性剤、結合剤等などが挙げられる。
薬剤組成物は、注射および経皮吸収などの方法で体内投与される形態で調製されることができる。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0066】
(1.ナノ粒子[HSA]MIP-NGs,NIP-NGsの合成)
(1−1.実施例1:蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsの合成)
水溶性モノマーとしてのN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAm)204mg、架橋剤としてのN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)15.4mg、機能性モノマーとしてのピロリジルアクリレート(PyA)21mg、蛍光性モノマーとしてのフルオレセインアクリルアミド(FAm)2mg、生体適合性モノマーとしてのメタクリロイロキシエチルホスホリルコリン(MPC)30mg、開始剤としての2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩(V-50)109mg、および標的タンパク質としてのヒト血清アルブミン(HSA, 血中に50-60%存在)6.6mgを、シュレンクフラスコ内で50 mLの10 mM PBS (pH 7.4)に溶解させ、窒素雰囲気下70℃で12時間、無乳化剤沈殿重合を行った。これにより、ヒト血清アルブミンを鋳型とする分子インプリントポリマー([HSA]MIP-NGs)を合成した。
【0067】
(1−2.比較例1:蛍光性リファレンスナノ粒子NIP-NGsの合成)
ヒト血清アルブミンを用いなかったことを除いて上記と同様の無乳化剤沈殿重合を行った。これにより、リファレンスナノ粒子(NIP-NGs)を合成した。
【0068】
内径1.2 cmのカラムに、高さ33 cmまでSephadex G-50 Medium を充填し、2 mLの得られたナノゲルエマルション([HSA]MIP-NGs合成生成物)を導入し、溶離液に10 mM PBS buffer (pH 7.4)を使用し、サイズ排除クロマトグラフィにより蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsおよび蛍光性リファレンスナノ粒子NIP-NGsを精製した。
【0069】
精製した蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsおよび蛍光性リファレンスナノ粒子NIP-NGsのDLS測定を行った。DLS測定には動的光散乱光度計(DLS)(マルバーン株式会社製データサイザー)を用い、温度条件は25℃とした。
結果、蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsは、Z平均粒子径:35nm、PDI:0.48、蛍光性リファレンスナノ粒子NIP-NGsは、Z平均粒子径:26nm、PDI:0.40であった。
【0070】
(2.腫瘍マウスにおける腫瘍蓄積性評価)
以下のとおり、実施例1の蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsについて、腫瘍を埋め込んだマウスに投与し、腫瘍における蓄積性を評価した。
【0071】
(2−1.実験手順)
ドーサルスキンフォールドチャンバー(DSFC)セットを、水道水を用いて超音波洗浄した。洗浄は、数回水を変えて合計約30分行った。DSFCの金属類を250℃で約10秒、滅菌処理した。
【0072】
観察用Balb/c nudeマウス(メス,生後5週間)を麻酔で眠らせた。炎症を抑え、膿の発生を防止するため、眠らせたマウスにパンストリン(抗生物質)を10 mg/mLの濃度で50〜100μL を尾静脈より投与した。DSFCを取り付ける際の目印として、背骨の上部にマジックでプロットを打った。シリンジをプロット上にさし、縫合糸をマウスの背中の皮膚に通し、DSFCを取り付けていった。このような縫合糸を背中の皮膚に通す作業を計4回行い、まずマウスの背骨を中心として右側にDSCFを取り付けた。
【0073】
電気メスを用いてDSCFの左側の皮膚を円形状に切開し、血管を露出させた。当該左側にも同様にDSFCをシリンジおよび縫合糸を用いてセットしていった。切開した部分に、生理食塩水をかけた後、共焦点レーザー顕微鏡観察用カバーガラス(マツナミガラス、円形、12 mm)をピンセットでとりつけた。さらに、カバーガラスが外れるのを防止するためカバーガラス固定器具をセットした。
【0074】
別途用意した、HeLa腫瘍を皮下に埋め込んだドナーマウスから、腫瘍の一部を切り出した。共焦点レーザー顕微鏡の視野におさまりやすいように、切り出したHeLa腫瘍を、生理食塩水をかけて乾燥を防ぎながらさらに細かくした。
【0075】
切り取ったHeLa腫瘍を観察用マウスに定着させるため、一度カバーガラスを取り外し、血管の近傍にHeLa腫瘍を載せた。その後、生理食塩水をかけ、カバーガラスを固定した。
新生血管が生じてHeLa腫瘍とマウスの血管が繋がるまで、約1週間待った。
【0076】
(2−2.腫瘍蓄積性評価)
In-vivo共焦点レーザー顕微鏡(Nikon A1R)を用いて、観察用マウスに移植したHeLa細胞に対して蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsの集積効果が発現するかどうかを確認した。観察用マウスを麻酔により眠らせ、尾静脈に注射しカテーテルを介してサンプル(蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGs)と連結させた。共焦点レーザー顕微鏡にマウスを設置し、DSFCの血管に焦点を合わせた(対物レンズ:20倍、励起波長:488 nm、蛍光波長:500-550 nm)。0分を撮影後、一定間隔で撮影した。蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsの投与は約8分の時点で行った。
【0077】
撮影した共焦点レーザー顕微鏡写真を図1に示す。図1では、0分時点から10時間12分までの経過を示す。図1に示すように、HeLa腫瘍を移植した観察用マウスに対して蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsを投与した結果、HeLa腫瘍部位の血管にもフルオレセイン由来の蛍光が観察されたことから、HeLa腫瘍にも血管新生が生じており、HeLa腫瘍部位の血管に蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsが流れていることが分かった。さらに、腫瘍部位における血管外組織の蛍光が少しずつ大きくなってきていることも観察された。
【0078】
腫瘍組織における蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsの蓄積量を定量的に確認するため、血管が含まれない腫瘍組織部位4箇所と、血管部位1箇所とを選択し、それぞれの部位における蛍光強度の経時変化を調べた。それぞれの部位における0時間時点の蛍光強度をF、都度計測時点における蛍光強度をFとし、計測時間を横軸、F−Fの値を縦軸としてプロットしたグラフを図2(A)に示す。図2(A)に示すように、すべての部位において、時間とともに蛍光強度が増加していることが分かった。したがって、腫瘍組織に対して血管から蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsが浸出し組織へ堆積したことが分かった。
【0079】
(2−3.血中滞留性評価)
一方、血中滞留性を調べるため、同腫瘍組織における血管中の蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGs量の経時変化を調べた。その結果を図2(B)に示す。図2(B)における0時間時点の蛍光強度を100%した場合の半減期は7.2時間であり、別途BalB/cマウスの正常血管で観察した血中滞留性とおおよそ一致した。
【0080】
(2−4.個体間における腫瘍蓄積性の再現性検証)
別途、4匹のBalB/c nudeマウスへHeLa腫瘍を移植し、上述と同様に腫瘍蓄積性(図3(A)、図4(A)、図5(A)、図6(A))と血管滞留性(図3(B)、図4(B)、図5(B)、図6(B))とを評価した。図3から図6に示すように、4匹のマウスすべてにおいて蛍光強度が時間経過に伴い増大する一方、血液中の蛍光強度は時間経過に伴い減少した。このことから、蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsが再現性の良い腫瘍蓄積性を有することが明らかになった。
【0081】
(2−5.腫瘍組織への選択的蓄積性)
実施例1の蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsの腫瘍組織への蓄積と正常組織への蓄積との比較を行った。具体的には、投与後8時間時点のそれぞれの組織における蛍光強度の比較を行った。5匹の異なるマウスにおける腫瘍組織および正常組織での蛍光強度変化(F−F)を図7に示す(n=5)。ここで、腫瘍組織での蛍光強度は、4箇所の腫瘍部位における蛍光強度変化の平均値を示している。蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsの腫瘍組織での蛍光強度変化(F−F)は57.3であり、正常組織では8.23であった。このことから、蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsの腫瘍組織への選択的蓄積性を明瞭に確認できたといえる。
一方で、比較例1の蛍光性リファレンスナノ粒子NIP-NGsについても正常組織への蓄積性を調べ、図7に併せて示した。蛍光性リファレンスナノ粒子NIP-NGsの正常組織での蛍光強度変化(F−F)は9.97であり、蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsの正常組織における値と同程度であり、蓄積は認められなかった。なお、蛍光性リファレンスナノ粒子NIP-NGsが肝臓へ蓄積していることを確認しているため、当該NIP-NGsの腫瘍組織への蓄積性は、蛍光性HSA認識ナノ粒子[HSA]MIP-NGsよりも低くなる。
【0082】
また、図7のサンプルについて、蛍光強度変化(F−F)の経時変化を図8に示す(n=5)。図8に示すように、時間経過とともに、腫瘍組織に対して選択的に蛍光強度が上昇していることから、腫瘍組織への選択的な蓄積性が観察された。
【0083】
本発明の好ましい実施形態は上記の通りであるが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨から逸脱することのない様々な変形がなされる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8