【解決手段】実施形態に係る相溶化剤は、エステル基、アミド基、及びヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を繰り返し単位に有する熱可塑性樹脂の存在下で、ブチルゴムを動的に架橋させる際に用いられる相溶化剤であって、ポリイソブチレン骨格を持ち、少なくとも1つの末端に前記熱可塑性樹脂の官能基と水素結合可能な官能基(例えば、アミノ基、ウレイド基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、及びメルカプト基など)を有するものである。
エステル基、アミド基、及びヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を繰り返し単位に有する熱可塑性樹脂の存在下で、ブチルゴムを動的に架橋させる際に用いられる相溶化剤であって、
ポリイソブチレン骨格を持ち、少なくとも1つの末端に前記熱可塑性樹脂の官能基と水素結合可能な官能基を有する、相溶化剤。
前記熱可塑性樹脂がエステル基を繰り返し単位に有する熱可塑性樹脂であり、前記相溶化剤の官能基が、アミノ基、ウレイド基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、及びメルカプト基からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の相溶化剤。
前記熱可塑性樹脂がアミド基を繰り返し単位に有する熱可塑性樹脂であり、前記相溶化剤の官能基が、アミノ基、ウレイド基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、メルカプト基、エステル基、及びアミド基からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の相溶化剤。
エステル基、アミド基、及びヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を繰り返し単位に有する熱可塑性樹脂と、ブチルゴムを、ポリイソブチレン骨格を持ちかつ少なくとも1つの末端に前記熱可塑性樹脂の官能基と水素結合可能な官能基を有する相溶化剤とともに、溶融混練して、前記ブチルゴムを動的に架橋させる、動的架橋体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態に係る相溶化剤は、水素結合性の官能基を繰り返し単位に有する熱可塑性樹脂とブチルゴムとの動的架橋体の製造に用いられる相溶化剤であって、ポリイソブチレン骨格を持ち、少なくとも1つの末端に熱可塑性樹脂の官能基と水素結合可能な官能基を有するものである。
【0015】
かかる相溶化剤を用いることにより、動的架橋体における相分離構造を細かくすることができるが、その理由は次のように考えられる。すなわち、該相溶化剤は、ブチルゴムに含まれる骨格と同じポリイソブチレン骨格を有し、かつ、熱可塑性樹脂の分子鎖中の繰り返し単位に含まれる官能基と水素結合可能な部位も有する。そのため、分散相を構成するブチルゴムとの親和性が高いだけでなく、連続相を構成する熱可塑性樹脂に対し、そのいたるところで水素結合を形成することができ、樹脂側への親和性も高い。すなわち、熱可塑性樹脂の分子鎖の末端に位置する官能基と反応性を有する従来の相溶化剤では、当該分子鎖の末端でしか反応できないが、本実施形態では分子鎖中のいたるところに水素結合可能な部位であるため、より結合しやすい。そのため、ブチルゴムとの親和性も相俟って、ブチルゴムを細かく分散させることができる。
【0016】
本実施形態において、熱可塑性樹脂としては、エステル基、アミド基、及びヒドロキシル基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を繰り返し単位に有するものが用いられる。ここで、熱可塑性樹脂には、熱可塑性の凍結相あるいは結晶相を形成するハードセグメントと、ゴム弾性を示すソフトセグメントと、からなるブロック共重合体である熱可塑性エラストマー重合体も含まれる。
【0017】
エステル基を繰り返し単位に有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリアリレート(PAR)、1,4−シクロヘキシルジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)などのポリエステル系樹脂が挙げられる。
【0018】
また、ポリエステル系樹脂としては、ポリエステルをハードセグメントとするブロック共重合体である熱可塑性ポリエステル系エラストマー重合体を用いてもよい。ハードセグメントのポリエステルはジカルボン酸とジオールを反応させてなるものである。ジカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸を用いることが好ましく、例えば、テレフタル酸やナフタレンジカルボン酸が挙げられる。ジオールとしては、脂肪族又は脂環族ジオールを用いることができ、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。ソフトセグメントの構成成分としては、ポリエステル、ポリエーテル、ポリカーボネート等が挙げられ、該ポリエステルとしては、例えば、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族グリコールから製造される脂肪族ポリエステルが挙げられる。ソフトセグメントの構成成分としてのポリエーテルとしては、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)などのポリアルキレンエーテルグリコールなどが挙げられる。ソフトセグメントの構成成分としてのポリカーボネートとしては、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルなどの炭酸エステルと脂肪族グリコールなどから製造される脂肪族ポリカーボネートジオールが挙げられる。
【0019】
アミド基を繰り返し単位に有する熱可塑性樹脂としては、例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/66/610共重合体、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体などの脂肪族ポリアミド系樹脂(ナイロン樹脂)が挙げられる。
【0020】
ヒドロキシル基を繰り返し単位に有する熱可塑性樹脂としては、例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)が挙げられる。
【0021】
以上列挙した熱可塑性樹脂は、いずれか1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本実施形態において、ブチルゴム(略称:IIR。イソブテン−イソプレン共重合体とも称される。)としては、特に限定されず、例えば、空気入りタイヤのインナーライナー等に用いられている各種のブチルゴムを使用することができる。ブチルゴムの結合イソプレン量は特に限定されず、例えば0.6〜3モル%でもよい。
【0023】
本実施形態において、相溶化剤としては、イソブチレンの重合体であるポリイソブチレン骨格を主鎖とするポリマーからなり、その少なくとも1つの末端に、上記熱可塑性樹脂の官能基と水素結合可能な官能基が導入されたものを用いる。好ましくは、ポリイソブチレン骨格からなるポリマーの両末端に上記官能基が導入されたものである。官能基は、ポリイソブレチン骨格の両末端で異なるものが導入されてもよく、一末端に複数種の官能基が導入されてもよい。
【0024】
上記熱可塑性樹脂の官能基がエステル基である場合、すなわちエステル基を繰り返し単位に含む熱可塑性樹脂の場合、相溶化剤の官能基は、アミノ基(−NH
2,−NHR)、ウレイド基(−NHCONH
2,−NHCONHR)、カルボキシル基(−COOH)、ヒドロキシル基(−OH)、及びメルカプト基(−SH)からなる群から選択される少なくとも1種からなることが好ましい。この場合、熱可塑性樹脂のエステル基が水素結合のアクセプターとなるので、相溶化剤は、水素結合のドナーとなる上記官能基を持つ。なお、アミノ基及びウレイド基の式中のRは、例えば炭素数10以下のアルキル基が好ましい。アミノ基は1級アミノ基(−NH
2)が好ましく、ウレイド基も1級アミノ基を持つもの(−NHCONH
2)が好ましい。
【0025】
上記熱可塑性樹脂の官能基がアミド基である場合、すなわちアミド基を繰り返し単位に含む熱可塑性樹脂の場合、相溶化剤の官能基は、アミノ基(−NH
2,−NHR)、ウレイド基(−NHCONH
2,−NHCONHR)、カルボキシル基(−COOH)、ヒドロキシル基(−OH)、メルカプト基(−SH)、エステル基(−COO−)、及びアミド基(−CONH−)からなる群から選択される少なくとも1種からなることが好ましい。この場合、熱可塑性樹脂のアミド基は水素結合のドナーにもアクセプターにもなり得るので、相溶化剤としては、水素結合のドナーとなる官能基だけでなく、アクセプターとなるエステル基を持つものであってもよい。
【0026】
上記熱可塑性樹脂の官能基がヒドロキシル基である場合、すなわちヒドロキシル基を繰り返し単位に含む熱可塑性樹脂の場合、相溶化剤の官能基は、エステル基(−COO−)、アミド基(−CONH−)、ウレイド基(−NHCONH
2,−NHCONHR)、及びカルボキシル基(−COOH)からなる群から選択される少なくとも1種からなることが好ましい。
【0027】
相溶化剤の分子量は、特に限定されない。例えば、数平均分子量Mnが3000〜10万でもよく、4000〜5万でもよく、5000〜2万でもよく、5000〜1万でもよい。ここで、数平均分子量Mnは、GPCにより測定される値(ポリスチレン換算)である。
【0028】
相溶化剤は、例として、末端に反応性基を持つポリイソブレチンポリマーを用いて、上記官能基を持つ化合物を該反応性基に反応させることにより合成することができる。
【0029】
例えば、両末端反応性ポリイソブチレンポリマーとして、下記式(1)で表される両末端にアルコキシシリル基を持つポリイソブチレン(株式会社カネカ製「エピオン」Sタイプ)を用いてもよい。このポリマーに、下記式(2)で表される官能基を持つシランカップリング剤を、アルコキシシランカップリング反応(加水分解反応及び縮合反応)させる。これにより、ポリイソブチレンの両末端に官能基を導入することができる。
【0031】
(R
1)
m(R
2)
nSi−R
3−A (2)
式(1)中、PIBはポリイソブチレン鎖、即ちポリイソブチレン骨格を示す。式(2)中、R
1は、炭素数1〜3のアルコキシ基であり、より好ましくはメトキシ基又はエトキシ基である。R
2は、炭素数1〜4のアルキル基もしくはアルケニル基である。m=1〜3、m+n=3である。R
3は、2価の炭化水素基であり、好ましくは炭素数1〜16のアルキレン基、より好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基である。Aは、上記官能基であり、例えば、アミノ基、ウレイド基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、メルカプト基、エステル基、又はアミド基を含む基である。エステル基を含む基としては、例えば、アクリロキシ基やメタクリロキシ基が挙げられる。
【0032】
両末端反応性ポリイソブチレンポリマーとしては、下記式(3)で表される両末端にアリル基を持つポリイソブチレン(株式会社カネカ製「エピオン」Aタイプ)を用いてもよい。このポリマーに、下記式(3)で表される官能基を持つチオール化合物を、エン−チオール反応させる。これにより、ポリイソブチレンの両末端に官能基を導入することができる。
【0033】
CH
2=CHCH
2−PIB−CH
2CH=CH
2 (3)
HS−R
4−A (4)
式(3)中、PIBはポリイソブチレン鎖を示す。式(4)中、R
4は、2価の炭化水素基であり、好ましくは炭素数1〜16のアルキレン基、より好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基である。Aは、上記官能基であり、例えば、アミノ基、ウレイド基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、メルカプト基、エステル基、又はアミド基を含む基である。エステル基を含む基としては、アクリロキシ基やメタクリロキシ基が挙げられる。
【0034】
なお、「エピオン」は、低温リビングカチオン重合により合成されるものであり、分子鎖中に重合開始剤の残基が含まれるが、相溶化剤のポリイソブチレン骨格にはこのような重合開始剤の残基が含まれてもよい。また、ポリイソブレチン骨格と官能基との間には、シロキサン結合やチオエーテル結合など、上記官能基を導入するための連結基が介在してもよい。
【0035】
本実施形態に係る動的架橋体は、上記熱可塑性樹脂と、該熱可塑性樹脂の連続相中に分散したブチルゴムの架橋物と、上記相溶化剤と、を含むものであり、熱可塑性樹脂を連続相(マトリックス相)とし、ブチルゴムを分散相(ドメイン相)とする海島構造を持つ熱可塑性エラストマー組成物である。
【0036】
連続相を形成する熱可塑性樹脂には、本実施形態による効果を損なわない限り、可塑剤、軟化剤、充填剤、補強剤、加工助剤、安定剤、酸化防止剤などの添加剤を必要に応じて適宜配合してもよい。
【0037】
分散相を形成するブチルゴムの架橋物には、ゴム成分としてのブチルゴムの他に、充填剤や軟化剤、老化防止剤、加工助剤などの一般にゴム組成物に配合される各種添加剤を、本実施形態による効果を損なわない限り、配合してもよい。
【0038】
熱可塑性樹脂の存在下でブチルゴムを架橋するために、ブチルゴムには架橋剤が添加される。架橋剤としては、硫黄や硫黄含有化合物等などの加硫剤、加硫促進剤の他、フェノール樹脂などが挙げられる。好ましくは、耐熱性等の点から、フェノール樹脂を用いることである。フェノール樹脂としては、フェノール類とホルムアルデヒドとの縮合反応により得られる樹脂が挙げられ、例えば、アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂が挙げられる。架橋剤の配合量は、ブチルゴムを適切に架橋できるものであれば、特に限定されないが、ブチルゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部でもよく、0.5〜7質量部でもよい。
【0039】
動的架橋体において、熱可塑性樹脂とブチルゴムとの配合比は、特に限定されず、例えば、質量比(熱可塑性樹脂/ブチルゴム)で、90/10〜30/70でもよく、70/30〜40/60でもよく、60/40〜40/60でもよい。
【0040】
相溶化剤の配合量は特に限定されないが、熱可塑性樹脂とブチルゴムの合計量100質量部に対して1〜20質量部でもよく、2〜10質量部でもよい。
【0041】
本実施形態において、動的架橋体を製造するに際しては、上記の熱可塑性樹脂とブチルゴムを、上記相溶化剤とともに、溶融混練して、架橋剤によりブチルゴムを動的に架橋(即ち、混練しながらゴムを架橋)させる。これらの熱可塑性樹脂及びブチルゴムへの、相溶化剤及び架橋剤を含む各種添加剤の添加時期は、例えば、上記溶融混練前に予め添加混合しておいてもよく、溶融混練中に添加してもよい。
【0042】
一実施形態として、ジエン系ゴムに架橋剤とともに相溶化剤を添加してゴムマスターバッチを作製し、該ゴムマスターバッチを熱可塑性樹脂とともに混練機に投入し、溶融混練して動的架橋することにより動的架橋体を得てもよい。他の実施形態として、ジエン系ゴムに架橋剤を添加してゴムマスターバッチを作製し、該ゴムマスターバッチを熱可塑性樹脂及び相溶化剤とともに混練機に投入し、溶融混練して動的架橋することにより動的架橋体を得てもよい。
【0043】
混練に使用する混練機としては、特に限定されず、例えば、二軸押出機、スクリュー押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどが挙げられる。混練温度は、熱可塑性樹脂が溶融し、かつ架橋剤が架橋する温度以上であればよい。
【0044】
このようにして得られた動的架橋体をフィルム化することにより、低空気透過性フィルムが得られる。すなわち、低空気透過性フィルムは、上記方法により得られた動的架橋体のペレットを用いて、フィルムを成形することにより製造することができる。動的架橋体のペレットをフィルム化する方法は特に限定されず、例えば押し出し成形やカレンダー成形など、通常の熱可塑性樹脂をフィルム化する方法を用いることができる。
【0045】
低空気透過性フィルムの空気透過性は、特に限定されないが、80℃での空気透過係数が5×10
13fm
2/Pa・s以下であることが好ましく、インナーライナーの薄肉化によるタイヤの軽量化を図ることができる。該空気透過係数は、0.1×10
13〜4×10
13fm
2/Pa・sでもよい。ここで、空気透過係数は、JIS K7126−1「プラスチック−フィルム及びシート−ガス透過度試験方法−第1部:差圧法」に準じて、試験気体:空気、試験温度:80℃にて測定される値である。
【0046】
低空気透過性フィルムの厚みは、特に限定されず、例えば、0.02〜1.0mmでもよく、0.05〜0.5mmでもよく、0.1〜0.3mmでもよい。
【0047】
本実施形態に係る低空気透過性フィルムは、例えば、乗用車用タイヤ、トラックやバスなどの重荷重用タイヤを含む各種の自動車用タイヤ、また自転車を含む二輪車用タイヤなど、各種の空気入りタイヤに適用することができる。
【0048】
図1は、一実施形態に係る空気入りタイヤ1の断面図である。図示するように、空気入りタイヤ1は、リム組みされる一対のビード部2,2と、該ビード部2からタイヤ径方向外側に延びる一対のサイドウォール部3,3と、該一対のサイドウォール部3,3間に設けられた路面に接地するトレッド部4とから構成される。一対のビード部2,2には、それぞれビードコア5が埋設され、繊維コードからなるカーカスプライ6が左右のビード部2,2間に架け渡して設けられている。また、トレッド部4におけるカーカスプライ6の外周側にはベルト7が設けられている。カーカスプライ6の内側にはタイヤ内面の全体にわたってインナーライナー8が設けられている。本実施形態では、このインナーライナー8として上記低空気透過性フィルムが用いられる。インナーライナー8は、
図1中の拡大図に示すように、タイヤ内面側のゴム層であるカーカスプライ6の内面に貼り合わされている。
【0049】
かかる空気入りタイヤの製造方法としては、例えば、低空気透過性フィルムをインナーライナーとして用いて、成形ドラムの外周にインナーライナーを筒状に装着し、その上にカーカスプライを貼り付け、更にベルト、トレッドゴム及びサイドウォールゴムなどの各タイヤ部材を貼り重ね、インフレートすることによりグリーンタイヤ(未加硫タイヤ)が作製され、該グリーンタイヤをモールド内で加硫成型することにより、空気入りタイヤが得られる。なお、
図1に示す例では、低空気透過性フィルムをカーカスプライの内面側に設けたが、タイヤ内部からの空気の透過を防止して、タイヤの空気圧を保持することができる態様、即ち内圧保持のための空気透過抑制層として設けられるものであれば、例えば、カーカスプライの外面側などの種々の位置に設けることができ、特に限定されない。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0051】
[使用原材料]
以下の実施例で使用した原材料の詳細は以下の通りである。
【0052】
・EP100S:(株)カネカ製「エピオンEP100S」(式(1)で表される両末端アルコキシシリルポリイソブチレン、Mn=7000)
・EP200A:(株)カネカ製「エピオンEP200A」(式(3)で表される両末端アリルポリイソブチレン、Mn=6000)
・KBE−903:信越化学工業(株)製シランカップリング剤「KBE−903」(3−アミノプロピルトリエトキシシラン)
・KBE−403:信越化学工業(株)製シランカップリング剤「KBE−403」(3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)
・KBE−503:信越化学工業(株)製シランカップリング剤「KBE−503」(3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン)
・KBE−585:信越化学工業(株)製シランカップリング剤「KBE−585」(3−ウレイドプロピルトリアルコキシシラン)
・AIBN:アゾビスイソブチロニトリル
・ポリエステル系樹脂:東洋紡(株)製「ペルプレンP280B」(ハードセグメントがPBT、ソフトセグメントがPTMGである熱可塑性ポリエステル系エラストマー重合体)
・ナイロン樹脂:東レ(株)製ナイロン樹脂「アミランCM6041」
・ブチルゴム:エクソンモービルケミカル社製「IIR268」
・架橋剤:アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂、田岡化学工業(株)製「タッキロール201」
・相溶化剤BF−E:住友化学(株)製「ボンドファーストBF−E」(エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体)
・相溶化剤CL430:日油(株)製「モディパーCL430」、ポリカーボネートを主鎖とし、グリシジルメタクリレートで変性したアクリロニトリル−スチレン共重合体を側鎖とするグラフトポリマー。
【0053】
[評価測定方法]
以下の実施例での評価測定方法は以下の通りである。
【0054】
・M10:(株)島津製作所製オートグラフを用いて引張試験を行った。厚さ0.2mmのフィルムを3号ダンベルで打ち抜き、500mm/分の速度で引張った際の10%伸びた状態の応力をM10とした。この値が小さいほど、柔軟性に優れる。
【0055】
・分散状態(分散相観察):ブルカー社製Dimension Iconを用いてタッピングモードで位相像を観察し、分散相の径が5μm未満の場合を「小」とし、5μm以上の場合を「大」とした。分散相の径は、50μm角の画像中の10個の分散相についての各面積を求め、各面積から算出した円相当径(その面積に相当する円の直径)の平均の値を用いた。
【0056】
・耐久性:JIS K6270を参考にして、フィルムを配向方向に打ち抜き試験片(ダンベル3号形試験片)を作製し、引張試験機を用いて、試験片をチャック間3cmにて挟み込み、5Hzの振動数で50%の繰り返し伸張をかけた(雰囲気温度40℃)。試験片の数は10個とし、50%伸張を100万回繰り返し、フィルムの破断が起こったものが3個以下の場合を合格「○」とし、4個以上の場合を不合格「×」とした。
【0057】
[相溶化剤の合成]
・相溶化剤1〜7の合成:表1に示す配合に従って、70℃にて5時間プロペラで攪拌混合することにより、アルコキシシランカップリング反応させて、相溶化剤1〜7を得た。得られた相溶化剤1〜7を
1H−NMRで分析することにより、ポリイソブレチン骨格の両末端に官能基が導入されたことを確認した。分析は、一度溶媒(THF)に溶かした後、エタノールによる再沈殿で生成したものを、試料として用いた。
1H−NMRにおいて、イソブチレンユニットとは別の末端ピーク(水素結合可能な官能基を持つユニット)の導入を確認した。相溶化剤1〜3ではアミノ基、相溶化剤4ではエポキシ基、相溶化剤5ではエステル基(メタクリロキシ基)、相溶化剤6ではアミノ基及びエポキシ基、相溶化剤7ではウレイド基が、それぞれ導入されていた。また、GPC分析により、相溶化剤1〜7のMnを測定した。結果を表1に示す。
【0058】
・相溶化剤8,9の合成:表1に示す配合に従って、各成分を混合した後、室温でN
2ガスを30分置換した。そのものを攪拌しながら70℃で20時間反応(エン−チオール反応)させた。反応したものをエタノールで再沈殿させて、相溶化剤8,9を得た。得られた相溶化剤8,9を、相溶化剤1〜7と同様にして、
1H−NMRで分析することにより、ポリイソブレチン骨格の両末端に官能基が導入されたことを確認した。相溶化剤8ではアミノ基、相溶化剤9ではカルボキシル基が、それぞれ導入されていた。また、GPC分析により、相溶化剤8,9のMnを測定した。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
[動的架橋体及び低空気透過性フィルムの作製・評価(ポリエステル系樹脂)]
下記表2,3に示す配合(質量部)に従い、動的架橋体を作製した。詳細には、比較例1〜5及び実施例1〜7については、合成した相溶化剤が高粘度であったため、ブチルゴムと架橋剤と相溶化剤を、架橋しない条件で予め混合してゴムマスターバッチのペレットを作製し、得られたペレットと熱可塑性樹脂を、220〜250℃に設定した2軸押出機((株)プラスチック工学研究所製)にて溶融混練して、動的架橋体のペレットを作製した。比較例6及び7については、相溶化剤は予め熱可塑性樹脂とドライブレンドし、得られた混合物を、ブチルゴムと架橋剤をマスターバッチ化したペレットとともに、220〜250℃に設定した2軸押出機((株)プラスチック工学研究所製)にて溶融混練して、動的架橋体のペレットを作製した。
【0061】
得られた動的架橋体のペレットを単軸押出機にて幅14cm×厚み0.2mmに成形し、得られたフィルムについて、空気透過係数及びM10を測定するとともに、分散状態(分散相観察)及び耐久性を評価した。結果を表2,3に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
表2,3に示すように、熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂である場合、相溶化剤の官能基がアミノ基、ウレイド基、カルボキシル基である実施例1〜7であると、M10が低く柔軟性に優れるとともに、ゴム分散相が細かく分散しており、耐久性にも優れるものであった。これに対し、比較例2,3では、EP100SやEP200Aをそのまま添加したため、ゴム分散相を細かくする効果が小さく、耐久性に劣っていた。比較例4,5では、EP100SやEP200Aに官能基を導入したものの、導入した官能基がエポキシ基又はエステル基であり、これらは、ポリエステル系樹脂の繰り返し単位に含まれるエステル基に対して水素結合を形成しないので、ゴム分散相を細かくする効果が小さく、耐久性に劣っていた。ポリイソブレチン骨格を有していない従来の相溶化剤を用いた比較例6,7でも、ゴム分散相を十分に細かくすることができず、耐久性に劣っていた。
【0065】
[動的架橋体及び低空気透過性フィルムの作製・評価(ナイロン樹脂)]
下記表4に示す配合(質量部)に従い、動的架橋体を作製した。詳細には、比較例8及び実施例8〜11については、実施例1と同様に、ゴムマスターバッチのペレットを予め作製してから、熱可塑性樹脂と溶融混練した。比較例9については、比較例6と同様に、相溶化剤は予め熱可塑性樹脂とドライブレンドしてから、ブチルゴムと架橋剤をマスターバッチ化したペレットとともに溶融混練した。得られた動的架橋体のペレットを、実施例1と同様に厚み0.2mmでフィルム化し、M10を測定するとともに、分散状態(分散相観察)及び耐久性を評価した。結果を表4に示す。
【0066】
【表4】
【0067】
表4に示すように、熱可塑性樹脂がナイロン樹脂である場合、官能基としてエポキシ基を導入した相溶化剤4を用いた比較例10では、ポリエステル系樹脂の場合と同様、ゴム分散相を細かくする効果が小さく、耐久性に劣っていた。しかし、官能基としてエステル基を導入した相溶化剤5については、ナイロン樹脂に含まれるアミド基と水素結合を形成できるため、実施例9に示されるように、ゴム分散相が細かく分散しており、耐久性に優れるものであった。相溶化剤の官能基としてアミノ基、カルボキシル基を用いた場合も同様に、ナイロン樹脂のアミド基と水素結合を形成することができるため、実施例8,10,11に示されるように、ゴム分散相が細かく分散しており、耐久性に優れていた。