【解決手段】鉄道の台車が曲線部を滑らかに走行できるのは、車輪のフランジ部分に傾斜角があり、曲線部で遠心力が働き、フランジの傾斜部分が僅かにレールに乗り上がる運動により、台車が傾斜して曲がれる。簡単な車輪の構造で曲線部を通行できる優れた特性である。しかし、地震の大きな力が加わるとこの傾斜角を持ったフランジ面に沿って車輪がレールの上部に移動して脱線し易い。従って、等価的にフランジ角を垂直に、かつフランジ長を下方に延伸する装置を台車に取り付けると、耐震性が大幅に改善される。本特許では車輪の裏側に円板、または棒を取り付け、円板の直径を車輪の直径より長くして、等価的に垂直なフランジ角、下方に長いフランジ長を実現して、脱線防止を図った。本装置の取り付けは、レール上をフランジが通過する空間と、その少し拡張した空間に着目した。
請求項2に記載した棒の起点と終点の間が分割され、起点を含む部分が車輪に固定され、終点を含む部分の一部は可動となり、前期終点を含む部分の先端が車輪のフランジの先端より車輪の中心に向かった中側に位置できる機能と、終点部が請求項2棒の先端と同じ位置に移動できる機能を備えたことを特徴とする脱線防止装置を備えた鉄道台車。
【背景技術】
【0002】
鉄道は表面が滑らかな鉄のレールの上を鉄の車輪が回転して走行するので、走行方向と逆に働く転がり摩擦による抵抗力は自動車のタイヤの場合より小さい。このため、走行に要するエネルギー効率に優れている。しかし、同時に制動時に発生する摩擦も小さいので、停車に要する時間が自動車に比べて長くなる。
鉄道の左右の車輪は一本の車軸に固定して取り付けられた一体輪軸(Wheelset)の構成をしていて、自動車のように車軸の中央に差動ギヤを持たない。差動ギヤが備わってないにも関わらず、曲線部を滑らかに走行できるのは、車輪の形状に工夫がしてあるからである。「非特許文献2」の24ページ、
図1−26「円弧断面レール上の円弧踏面車輪」に、その特徴を示した図が掲載されている。前記
図1−26の趣旨を模式的に
図8で示す。
図8は車輪とレールを示した。車輪は本特許で重要な役割を持つので、レールに接する部分の機能を詳細に示すため、踏面およびフランジ部分を非比例尺で誇張した図である。また、車輪とレールはフランジの役割を分かり易く説明するために、上下に離して示している。本明細書の図面全体にわたって、立体構造を表すため、X、Y、Zの三次元の座標が示されている。Xは車両の進行方向、Yは車両の横方向、Zは天頂方向である。拡大車輪101は車両の正面から見た車輪の部分形状である。
【0003】
拡大車輪101はレールの頭部120に車両の走行状態に従ってY方向の左右に移動109が発生する。拡大車輪101が直線走行の時、拡大車輪101は接点A4でレールの頭部120に接する。この時、車軸の中心102から接点A4までの距離である車輪の半径A103である。車両がZ軸周を反時計回り(CCW)に回転する円弧を走行するときは、Y方向に遠心力が働き、拡大車輪101は接点C108でレールに接する。その時の車輪の半径C105は車輪の半径A103より小さく行路は短い。同時に反対側の車輪の半径は直線走行時より大きく行路は長くなる。車輪とレールとの接点から見た車輪の半径が左右で異なることにより一体輪軸にも関わらず、車輪に固有な車輪踏面勾配およびフランジ角が存在するため、曲線走行を可能にしている。
同様に、車両がZ軸周を時計回り(CW)に回転する曲線を進行する時、Y方向に遠心力が働き、接点B107はレールの頭部120と接する。この場合、車輪の半径104は直線走行の車輪の半径A105より大きく行路は長い。
通常の曲線走行の時、遠心力が働き、拡大車輪101に車輪踏面勾配およびフランジに角があるため、拡大車輪101がレールの頭部120に接する点が移動する現象が発生するため、曲線走行を可能にしている。しかしながら、この特性はXY平面の方向に地震波の強い力が加わると、フランジに傾斜角があるため大きな乗り上がりが発生し易く、脱線を誘発しやすい構造である。
【0004】
鉄道は英国で発明され、その優れた特性のため世界中に普及した。欧州でも、英国は地震帯から外れた地域に位置する。一方、日本列島は地殻プレートの境目の近くに位置するので地震が頻発する。従って、国内の鉄道の耐震特性を強化することは地震国として重要な課題である。
【0005】
高速で走行中の列車が地震に襲われると脱線に繋がる。一旦脱線すると、列車は線路域を逸脱して、大きな事故を引き起こすことがあり得る。地震が原因で、大きな事故の発生を抑制するため、「非特許文献1」では地震発生の早期検出と、検出後列車を緊急停止させ事故を防ぐ提案がなされている。この提案を切っ掛けとして、現在、日本各地に広く分布して配置された地震計のデータを検出し、通信網を通じてデータを取得し、リアルタイム処理を行い、震源地の推定と地震の大きさを即時算出する。大きな地震が発生したと判断されると、即刻、列車に緊急停車命令を送信して停車させ事故を防ぐ提案であり、現実にこの方式は機能している。
但し、この方式では震源の位置と列車の位置の相対関係によっては防災措置が有効に働かない場合ある。
震源から伝播する地震波の伝播速度は縦波と横波で異なる。即ち、縦波P波(Primary Wave)の伝播速度は5km/秒〜7km/秒、横波S波(SecondaryWave)の伝播速度は3km/秒〜4km/秒であり、両者の伝播時間に差がある。また、伝播媒体である地質によって伝播速度が変わるので、伝播速度は単一に定義できなく、幅のある値を使って検討する。
地震による大きな揺れはS波によって起こされるので、「非特許文献1」によるとP波発生のデータ受信に基づき地震の発生を検出した直後、走行中の列車に緊急停止命令を送信する。大きな揺れを生じさせるS波到来以前に、列車を停止させ脱線を防止する方式である。
【0006】
現在、センサー設置の拡充、地震データの処理のソフトウエアの更新を通じてこの方式の品質が向上している。しかし、地震の特性は多種多様であるので、この方式で減災できる場合とできない場合がある。
気象庁による平成27年から過去5年間の地震のデータに基づくと、震度5以上の地震の震源の深さは浅いもので5kmから深いもので100km近辺に分布しているが、多くの場合10km前後の場合が多い。
一般的に車両の走行地点と震源の間の距離がdkmであると、P波到来とS波到来の時間差は概略値で、d/(7.5)秒である。この時間差が走行中の列車を停車させるための
時間に余裕がある場合は脱線防止に有効でるが、時間差が短い場合は「非特許文献1」による方法は有効に働かない。
2015年3月28日、総理府、中央防災会議、議題(2)、首都直下地震対策特別措置法、資料2−1によると、首都直下地震の発生確率は30年間で70%と予測している。在来線が時速100kmで走行中の車両は停車に約30秒を要する。震源が近くかつ浅い場合、「非特許文献1」の方式でP波警報を受信しても、S波到来までに列車を停車できない場合がある。
【0007】
首都直下地震の場合、震源は首都近傍で、深さも海溝型に比較して浅いと考えられる。
図21は近郊電車が高密度で走っている状況下で、首都直下地震が発生した場合の脱線に伴う危険を時系列で示した。横軸は時間軸130で、時間は左から右に経過する。ある時点で地震発生131が起きる。震源からP波が伝播して、広く分布している地震計に感知され、地震データ処理センターから列車に対して停車命令が送信される。列車はP波警報受信132を受信し、緊急停車の操作が行われるが、実際に列車が停車133するのは暫時後になる。震源が走行地点に近い直下地震では列車が停車133の時点の前にS波に襲われるので、脱線の危険が大きく、S波到来134から停車までの期間は脱線危険期間135である。
首都直下地震による脱線で走行中の列車に災害が発生するのみならず、併設された線路を走行中の列車間と衝突する二次災害の恐れがあり、これらの災害を防止する減災措置を講じなければならない。列車の脱線で大きな災害を発生した例として、2000年3月8日に発生した日比谷線脱事故がある。低速運転中にもかかわらず脱線し、対向車線の車両が衝突し、人身事故と大きな車両の破壊が発生した。1963年11月9日に発生した鶴見事故は貨物線の脱線を一次原因にして、脇を走る横須賀線の上り下りの列車が衝突し、161名の死亡事故が発生した。高密度で走行する大都市の近郊電車の地震による脱線を防止するのみならず、それに繋がる災害も防がなければならない。
【0008】
地震に対する鉄道の防災措置は大きく二分される。第一は通常の線路、橋梁、隧道、駅舎などの線路域の異常振動の発生、崩落など、線路域の地盤、構築物が損傷しない様に構築物の保全を図ること。第二は車両に脱線を防止する仕組みを組み込むことである。本特許では後者の車両に脱線防止の仕組みを組み込む措置に関する。
【0009】
地震による減災のため車両に新たに装置を搭載した実施例が2件ある。「非特許文献4」は2004年に発生した中越地震で上越新幹線が脱線した時の現象からの学習を記述している。その経験に基づき着想した方法である。脱線が発生した際、排障器が車両を線路域から大きく逸脱することを防ぐ役割を果たした。この現象を参考にして、排障器より遥かに頑丈な逸脱防止用L型ガイドを開発した。この装置は車両がたとえ脱線しても、車両が線路域からの逸脱防止を図って減災を行うのであるが、車両の脱線を防止する機能は有しない。
「非特許文献5」では地震が車両に与える振動を減衰させるダンパの特性を工夫して、
ダンパが地震の振動をより多く吸収して地震に対する安全率の向上を図った。しかし、車両が受ける振動を小さくする役割を持つが、積極的に脱線防止を図る仕組みは含まれておらず、大きな地震に対する脱線防止の効果は期待できない。
【0010】
過去の大地震の写真には地盤が崩壊したり、レールが飴のように曲がった情景が残されている。線路域は広い地域にわったて敷設されているので、線路域が地質の異なる地盤の上に敷設されている場合があり、このような地域で地震が地盤を振動させると、異なる地質の境界では地盤の2次元的振動モードの不連続性より不均一な力が働き、敷設されているレールの形状を破壊することがあり得る。このため、建造物である線路基盤、橋梁、高架構造物などが崩壊することがあり得る。これらの破損に対する対策は、地質工学、土木工学、建設工学等の立場で建造物に対する耐震性を向上させる措置が講じられ、線路域の保全が図られなければならない。
これらの対策が取られ、線路域の保全が図られているという前提で、地震時の車両とレールの振動の形態を想定する。地震が発生すると基盤が保全されている限り、レールの軌間は規定の間隔を維持したまま、線路域が2次元のXY平面で振動する。地震波は基本波に多くの高調波成分が含まれる複雑な波形をしているが、主要なエネルギー成分は基本波であると考えられる。従って、基本波モードで振動の形態を考える。
揺れる地盤上に構築されたレールは形状が保たれたまま地盤の揺れに同期して揺れる。その上を走る車両はこの揺れを受けて揺れる。レールと車両が同期して揺れている場合、車両が脱線に至る確率は低い。しかし、地震で励起された車両は車両の固有な振動モードが存在するので、レールで振らされた車両は車両に固有な振動をし、レールの振動と必ずしも同期せず、その結果として、両者の振動モードの位相の組み合わせによって、車輪のフランジがレールと激しく衝突する現象が発生する。
【0011】
脱線はレールの垂直面と車輪のフランジ面が激しく衝突した時発生する。衝突する箇所の一方はレールの頭部の側面で、XZ面に平行であり、もう一方のフランジ面はXZ面の垂直面に対して、Y方向に成分をもつ傾斜角を有する。地震の振動はXY平面で起き、上記レール面が上記傾斜角を有するフランジ面に衝突するとき、フランジ面に傾斜角があるため、上記レールの振動がフランジ面に与える力の一部が+Z方向の力の成分を持ち、この力が車両を+Z方向に持ち上げる運動を生じさせる。この力によって起きる運動がある限界を超えると、フランジの先端がレールの頭部に乗り上がる現象を発生させ、さらにXY面に移動する力が働くと脱線を発生させる。
【0012】
地震によってXY平面に強い力が懸る運動は避けられないが、この力の一部がZ方向の力を生じさせ、脱線を誘発する現象を抑制する措置を講じたい。
もし、一体輪軸の曲線走行の特性を脇に置いて、フランジの形状を脱線防止の目的達成のためのみに設計するとしたら、フランジ角を鋭角にすると脱線の可能性を極めて小さくできる。そこで、一体輪軸にもかかわらず、曲線走行を可能にして、かつ、脱線の可能性をできる限り小さくする二つの矛盾する機能を同時に満たす方法を考察する。一体輪軸の車輪は鍛造で製造され、車輪の規格があるので、現在の形状を変更できない。しかし、耐震脱線防止の機能を実現するため、台車全体に車輪のフランジ角が鋭角または、XZ面に平行な垂直なフランジに相当する新たな装置を取り付け、曲線走行が可能であって、かつ地震に対して脱線を防止する機能を持つことは可能である。
【0013】
「特許文献1」、「特許文献2」、「特許文献3」では台車に新たな装置を取り付けて、現在のフランジより、等価的にフランジ角が鋭角で、かつレールの下方に長く伸びたフランジ長を実現する方法を考案した。
現在使われている車輪とレールに変更を加えないで、新たに台車に装置を取り付ける。但し、この装置を台車に取り付けた場合、台車の走行に支障が生じてはならない。そこで、
台車の近傍にこの装置を取り付けても支障を来さない空間を見出す。車輪がレール上を通過する領域の付近がこの目的に利用できる候補の空間になる。即ち、車輪とレールの位置関係を観察して、車輪のフランジがレール上を通過する空間の領域に車両の走行に支障になる物体がないことは無論であるが、その近傍の空間にもレールに付随する構築物と接触することが一切ない間隙が存在することに注目した。
図10は車両が通常の直線走行している状態の時の車輪とレールの一般的な位置関係を示す。車輪1はレール2の上に乗っている。レールには継目板、ポイント、踏切板、脱線防止ガードレールなどが取り付けられているが、車輪のフランジがレール2上を回転し通行する部分のみならず、その空間より少し拡張した空間にもフランジの走行を妨げる物がない三次元の領域が存在する。この部分を自由空間142と定義した。領域は正常に通行しているフランジの内側に接して、−Z方向に実際のフランジの先端より少し下方に伸びた線分と、この線分と直交するフランジの先端よりーZ方向に少し下方にY方向に引いた線分で、レールの頭部に接する線分で囲まれた部分を自由空間142と定義した。
「特許資料1」、「特許資料2」では棒状のラッチをXZ面内で回転可能な構造とするため、ラッチの回転中心を台車に取り付けた。ラッチの先端は
図10の自由空間142に達して、Z軸方向の下端はレールの継目板と接触する可能性のある部分の下方に伸ばす。ラッチの設置部位は、台車の下部であって、車輪と車輪の間や、車輪の前後の車輪と接触ない分部である。ラッチの台車の取り付け場所は車両の動揺に影響されない位置を選ぶ。
ラッチはフランジの先端よりさらに下方に伸びているので、走行中のレールの付属物である継目板に接触したときは、ラッチは台車の取り付け点を中心にして、XZ面内で回転して、ラッチが走行の支障にならないようにした。
【0014】
「特許資料1」および「特許資料2」では地震時に棒状のアクチュエータをフランジの先端より相当―Z方向に伸ばした。その為、アクチュエータがレール付属物である継ぎ目板と接触することがある。継目板と接触したとき、アクチュエータの損傷を避けるため、XZ面内で回転させた。
「特許資料3」では継目板とアクチュエータが接触すると、短時間とはいえ大きな力学的な衝撃を受けるので、この衝撃を避ける方法を考案した。
図11は「特許資料3」の発明の特徴を示した図である。アクチュエータ・ホルダー150は台車に取り付けられている。アクチュエータ・ホルダー150の内側にはアクチュエータ151が収納されている。
図11(a)は通常の走行状態の時のレールの頭部120とアクチュエータ151の位置関係を示した。通常に通行している時アクチュエータ151はレールの頭部120の上部よりさらに上部に収納されていて、台車の走行の走行に関わることはない。
図11(b)はP波警報受信後の停車命令を受信したときの状態である。アクチュエータ151はレールの頭部151の側面に下降して、垂直なフランジ角、長いフランジ長を実現して、脱線の防止の機能を果たす。地震の振動が継続している間台車は揺れる。台車の動揺より生ずるZ軸成分の揺れが、フランジをレール頭部に乗り上げる現象を生じさせる。
台車がZ軸成分で動揺したとき、その揺れをセンサーで検出して、台車が揺れるにも関わらず、その揺れを相殺するようアクチュエータの動作を制御して、アクチュエータ151が常にレールの頭部151に留まるようにして脱線防止を図る。
【0015】
図12は一体輪軸の車軸と車輪の構成を示す。車輪の中央部分であるボス部164は製造段階で車軸163に嵌められ固定されている。
図12(a)は車輪をXZ面から見た図を示す。
図12(b)はYZ面から見た車輪の構成を示す。車輪のリム部161は円環で、円環の外側はレールと接触する踏面で、前記踏面はレールの頭部の水平な表面に対して緩やかな傾斜を有する。リム部161の先端はフランジ160で、レールの頭部に沿って、車輪の走行を進行方向に案内する役割をする。フランジ160は曲線部を滑らかに走行させるためXZ面の水平面に対して、車輪の内側に対して傾斜角を有する構造である。板部162はリム部161とボス部162を結ぶ構造であり、固有な曲線を有する一枚板の構造である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
車両の車輪がレール上をレールから外れることなく走行できる原理は車輪のフランジが担う。本発明では、車両が地震波を受けたときであっても、車輪に脱線防止の円板または棒を備えることで、フランジの持つレール上を正常に走行できる機能を強化して、脱線防止する措置を講じた。
【実施例1】
【0025】
図1は本発明の基礎となる自由空間の定義を示す図である。
図1の車輪1とレール2の配置は台車の手前の進行方向のYZ面から見た左側の車輪1とレール2を示している。「特許資料1」、「特許資料2」、「特許資料3」では脱線防止のため
図10で示す車輪1のフランジの先端よりーZ方向であって、フランジに占有されないフランジの近傍のレール2に沿った自由空間142を使って、脱線防止の使用の役割を果たすアクチュエータを作用させた。本発明では自由空間142および車輪1の内側の自由空間を合わせて活用した。
車輪1は直線走行をする時、通常の位置である接点A4でレール2と接している。車両が曲線部を走行する時、接点AはY方向の正または負の方向に移動する。移動の詳細な様子は
図82の接点A4、接点B107、接点C108で示す。軌間に存在するレールの付属物6は脱線防止用ガードレール、踏切用ガードレール、ポイントの接続点などの構築物である。接点A4の線分5は接点A4のZ方向の延長線である。間隔AA7は接点Aの線分5とレール付属物6のZ方向の線分との間隔である。接点Aの線分5は車輪の内部に位置するので、自由空間の定義のためには車輪1の内側の境界面を自由空間の境界の一つとして定義する。間隔BB8は車輪1の内側とレール付属物6の間YZ方向の自由空間を示す。但し、レール付属物6のXY平面の境界面よりZ方向の上の部分では自由空間は間隔BB8より広い空間が自由空間として定義できる。
レール付属物6のXY平面の境界面よりZ方向に下方な限界線は間隔CC9、間隔DD10、間隔EE11で示される。間隔CC9はフランジの下方の先端の位置を示す。間隔DD10はレール2の頭部の下限を示す。間隔EE11はレールの継目板等の上部の先端を示す。レール面3より下限に存在する構築物は踏切部分の溝、継目板、ポイント構造物、脱線防止ガードレール等である。
本発明で使用する自由空間はレール付属物6の下部にあっては車輪1の内側であって、レール2の頭部の内側の側面と、車輪1の内側の側面から間隔BB8分離れたXZ面内の平面と、レール面3から間隔CC9と間隔EE11の間のXY面内の平面に囲まれた三次元空間をいう。レール付属物6のXY平面より上部の間隔BB8はレール付属物6の下部の時より広い範囲で定義できる。上記範囲の自由空間を活用して、脱線防止の機能を持たせる。
【0026】
図2は脱線防止板20を車輪1の内側に取り付けた図である。
図2(a)はXZ面から車輪を見て、脱線防止板20が車輪1に取り付けられたときの内側(−Y方向)から車輪1を見た図である。脱線防止板20で覆われて見えない部分の車輪1の構造は点線で示してある。脱線防止板20の円の直径は車輪1の直径より大きい。そのため、脱線防止板20の外周は車輪1の外周を超えた円板である。車輪のフランジの先端を超える部分である脱線防止板先端部21はフランジ160が本来持っている脱線防止の機能を拡張して、さらに脱線防止の役割を果たす。脱線防止板先端部21の長さ、および厚さは
図1の自由空間にあってレール付属物に接触しない範囲の形状である。
【0027】
図3はレール2、車輪1、脱線防止板20が脱線時に示す力学的な振る舞いを示すための図である。そのため、脱線に関わる力のベクトル成分を拡大して分かり易く示すため、車輪1はレール2の上部に離して示してある。また、地震の力を受けた場合、フランジ160が大きく移動するので、この部分を拡大して示した。
通常の走行の場合、車輪1はレール2の上部の右端の接点A4でレール2と接するが、横圧ベクトル26が働き、フランジ面が移動する現象を図で説明を分かり易くするため、輪重ベクトル25と横力ベクトル26の原点を接点A4よりやや下方のフランジ面にある点F27と想定して設定した。
通常の直線走行時、車輪1の踏面がレール2の頭部の上面に密着している時、輪重は総てレール2の頭部の上面に負荷する。曲線部通過時に横圧が発生する。横圧の成分がフランジ面に沿って車輪1を+Z方向に移動させる力が働く。この時の力の幾何学的な構成を以下の前提に従って示す。
車輪1に係る輪重ベクトル25並びに横圧ベクトル26の成分を示すため、点F27から点M33までの各点をアルファベットのFからMの記号で表し、このアルファベットを用いて各点の所定の角度を∠の記号で表す。
∠LMJはフランジ角θで通常62度前後、点F27から点G28に向かって輪重ベクトル25PがーZ方向に働く。∠GFJはフランジ角θに等しく、フランジ面に沿った輪重ベクトル25の成分はPsinθである。曲線通過時などXY平面方向に力が働くと、横圧ベクトル26Qが発生する。∠FHKはフランジ角θであるから、横圧ベクトル26Qのフランジ面に沿った成分はQcosθである。
【0028】
「非特許文献7」、355ページ、4.4脱線の項には脱線係数の定義が示されている。通常、直線走行時に輪重ベクトル25Pはレール2の上面に垂直方向に働く。この時、横圧ベクトルQ26が加わると、車輪1とレール2の位置関係が変動して、車輪1とレール2の接触はフランジの側面に移動する。輪重ベクトル25Pと横圧ベクトル26Qはフランジ面に沿って、車輪1がレール2滑り降りようとする力と、競り上がろうとする力が働く。
【0029】
Psinθ=レールの側面を滑り降りようとする力
Qcosθ=レールの側面を競り上がるとする力
μ(Qsinθ+Pcosθ)=車輪が移動する時、車輪がレールに接する面に垂直には働く輪重の余弦成分と横圧の正弦成分の合成力によって発生する摩擦力、μは摩擦係数
車輪1のフランジ面で、この面を滑り降りる力と競り上がる力が釣り合って、以下の動
動方程式が成り立つ。
【0030】
「数1」 Psinθ=Qcosθ+μ(Qsinθ+Pcosθ)
「数1」より、PとQの比で表される脱線係数が定義される。
【0031】
「数2」 Q/P=(sinθ―μcosθ)/(cosθ+μsinθ)
「数2」は通常の走行状態で曲線部、ポイント、継目部などで発生する横圧によって、脱線を引き起こす程度を定量的に理解するための指標を示す。線路域の全域を設計する際、この領域で発生する横圧に上限値を課すための基準になる。「数2」は競り上がり脱線の場合の公式であるが、フランジ角θ、摩擦係数μが同じであっても、式の内容が異なる滑り上がり脱線の公式もある。滑り上がり脱線の場合、大きな横圧でも脱線は起きにくいので、より厳しい競り上がり脱線の「数2」の値を基にして、脱線の発生可能性を評価すれば危険の割合を定量的に知ることができる。
地震時に発生する横圧による車両の運動は「数2」だけでは表すことができない。従って、初期状態から大きな横圧によって発生する運動を通常の「数2」から現象が通常の限界を超えた事象として考察すべきである。
【0032】
横圧ベクトル26が大きくなると、車輪1のフランジ面を押し上げる力が増大する。この押し上げる力は単に横圧の値だけの関数でなく、フランジ角θの関数でもある。フランジ角は台車が曲線部を滑らかに走行できるために車輪が持つ基本機能であるので、フランジ角θの規定値を変えることはできない。しかし、単に「数2」を数学的かつ物理的な特性を知るため、フランジ角θを大きく垂直に近づけると大きな横圧であっても、横圧ベクトル26が車輪を上昇させる力は小さくなる。
通常の走行時に地震に遭遇すると、曲線走行時に発生する横圧より遥かに大きな横圧が発生するので、フランジ面がレール2の上部の側面に競り上がり、車輪1とレール2の接点がフランジ面の下部に移動する現象が発生する。大きな地震に襲われるとフランジ160の先端部がレール2の上部の表面に競り上がったとすると、車輪1がレール2の上部に乗り上がる可能性のある瞬間が発生する。この時、さらに地震に由来する大きな横圧ベクトル26が加わると、フランジ160の先端がレールの上部を移動して、車輪1が線路域から脱輪することがあり得る。
【0033】
従来の構造ではフランジ160の先端がレール2の上部の表面に達し脱線を起こしやすい状態が発生するが、この特許の構造では、車輪1のフランジ160の先端がレール2の上部に達した時、レール2の上部の表面は脱線防止板20と接する。脱線防止板20とレール2が接した状態で、「数2」の特性から、フランジ角θが90度になる、脱線係数は不定解になるが、90度より少し小さい値を「数2」に代入すると、殆ど横圧ベクトル26が競り上がりの力の成分を生じないことが分かる。
【0034】
「非特許文献8」によると、フランジ厚さは約32mmと示されている。この厚さは車両質量から発生するXY面上に働く慣性質量に耐えられる鋼鉄の値である。これに対する脱線防止板20は鋼鉄製である必要はない。近来、鋼鉄と並び、単位体積当たり強度が優れた多くの材料が開発されている。
【0035】
地震時に発生する横圧ベクトル26が加わる脱線防止板20の部材は予測される力の衝撃荷重に耐える強度と可撓性がある材料を用いる。鉄道車両の使用環境は常温の範囲であるので、特殊な厳しい条件は要求されない。現在、このような条件の下では多数の新規な材料の開発が精力的に進められている。本特許に従う製品を開発するに当って、最近の開発成果を取り込んだり、一般の材料を基礎として、本特許で要求されている特性に合わせ、新規材料の開発成果を取り込むべきである。
【0036】
一般にCFRP材料を用いた樹脂構造体において、要求する応力―ひずみ曲線を描き、特に圧縮試験においては弾性変形領域を長広く設計できる。一般的な鉄系金属は車輪の素材として用いるが、類似形状に設計したものに関しては、その降伏点は同一材料であっても、材料にかかる荷重の方向性によって異なるので、少なくとも地震による脱線挙動などの単発的な荷重の支障に対して対応できる設計を採用できる。
【0037】
図4は典型的な樹脂材A37、樹脂材B38、鉄材39の曲線はヤング率に合わせて、ひずみと応力の特性を示したものである。ここで鉄材39は車輪の材料として用いている鉄系金属である。一方、同一の樹脂構造体であっても、異なる繊維方向を採用した場合、強度を評価すると樹脂材B38や、樹脂材A37のような応力ひずみ特性を示す。材料の繊維配合の方向性を設計して、調整することで、形状制限が厳しい条件下でも、要求に合う部材を設計することが可能である。
【0038】
「非特許文献9」によると、長さ100mm、幅20mm、厚さ1mmのCFRP製の環状ばねが400Nの荷重で疲労寿命が200万回まで維持されることが示されている。この特性から、脱線防止板20の形状や特性を直接導き出すことはできないが、地震時に脱線防止板20に係る横圧の部位、横圧の大きさ、地震継続の時間の推定、車輪1に固定する位置、脱線防止板20に係るモーメントなどを決定して、許される自由空間内で実現可能な形状を、使用する素材、樹脂材であれば目的に合った繊維の合成方法などの要素を吟味して、具体的な脱線防止板20を定める必要がある。
【0039】
「非特許文献10」によると、台車の側バリ・コイルバネを従来の鉄鋼製からCFRP製に変更して、構造の簡素化と、軽量化が実現できたことが示されている。このように、新素材の開発は従来の固定概念を崩し、適応範囲を着実に広げ、不可能を可能に変えている。
【0040】
図5は脱線防止板20を車輪1に固定して取り付ける箇所を示した。脱線防止板内周部41は取り付け箇所に応じて半径が異なる。リム部161に取り付ける場合は、大円になり、ボス部に取り付ける場合は小円になる。地震の振動による応力を受けるのは脱線防止板先端部21なので、地震時に受ける脱線防止板20のモーメントを小さくするためにはリム部161に近い分部に支点があることが望ましい。脱線防止板20の取り付箇所は車輪1以外では車軸163が接続の候補箇所となる。板部162に取り付ける場合、リム部161や、ボス部164と異なり、凹凸の平面をしているので、それに合わせて接続箇所を選ぶ必要がある。
【実施例2】
【0041】
脱線防止板20の原型は円板であって、地震発生時にフランジ160を超える脱線防止板先端部21脱線防止の役割を果たす。円板であれば、車輪1が回転しても車輪1とレール2の相対位置は変らず、脱線防止板先端部21は車輪1の回転角に関わらず、常時脱線防止の役割を果たす。
しかし、車輪1の高速走行時の回転周期と地震の基本波の周期を比較したとき、車輪1の回転周期の方が遥かに高い。従って、地震波の基本周波数の波長の1周期の期間に脱線防止板20のように連続して脱線防止を果たすことは必ずしも必要ではなく、地震波一波長の間で有意義な回数だけ、脱線防止の役割を果たせば、脱線防止の機能を果たせる。
【0042】
図6は脱線防止板20と同じ脱線防止機能を棒状の脱線防止棒A45で行わせる方法で、この発明の一部を成す。
図6は代表例として、脱線防止棒A、からDまでの4本構成した図である。
図6の場合、車軸163を中心として、脱線防止棒は脱線防止板20の円を基準として90度毎に配置した状態を示す。脱線防止棒に必要な本数は地震の基本波の周波数と、脱線防止が求められる車両の低速状態との関数である。
【0043】
地震波は多くの高調波成分を含む複雑な波形をしている。「非特許文献5」の22ページ、
図11および「非特許文献6」、160ページ、
図5−33によると、地震波の基本波の最大周波数は3Hz以下、頻度の高い周波数領域は2.5Hzから1Hzの間で、1Hz以下の周波数はゆっくりした振動で、震源が遠方にある場合の地震であるので、P波検出後、S波襲来まで停車できる場合が多い。
【0044】
車両の持つ運動エネルギーは速度の二乗に比例する。例えば、速度100km/hを速度20km/hに減速すると運動エネルギーは1/25になる。脱線によって起こされる破壊が、車両の運動エネルギーの減少と共に小さくなるので、速度20km/hの時であっても脱線防止棒の役割について検討する。
車輪1の直径は0.86m、円周は2.7018mである。時速20km/hの時に車輪1の一回転要する時間は0.49秒である。地震波が3Hzの時の1周期は0.3秒である。脱線防止棒が1本で、地震波が3Hzの場合は地震波1周期に脱線防止の機能を果たすのは1箇所である。1箇所では少ないので、3Hzの地震波で車輪1が揺れる時、地震波1周期0.3秒に8本の脱線防止棒を備えたとすると、地震波の最大振幅点の近傍で複数の脱線防止棒が脱線防止の機能を果たすことができる。
地震波が3Hzより周波数が低い場合は、脱線防止棒が8本で脱線防止の機能を果たすのは8箇所以上となり、1車輪当たりの脱線防止棒の装填個数は危険防止を講ずる範囲の地震波の周波数と車両の速度を勘案して決められる。
【0045】
図7では脱線防止棒A35を可動部と固定部に2分割した構造を示している。脱線防止棒固定部52は車輪1の内側に取り付けて固定する。
図7(a)の脱線防止棒可動部A50は脱線防止棒固定部52に接続して、車軸163から円周方向に移動できる構造である。通常の走行状態は脱線防止棒可動部A50の先端はフランジの先端の内側に収納されている。従って、この状態での脱線防止棒は脱線防止の機能は果たさない。
図7(b)はP波検出後、脱線防止機能を作動させたときの状態である。脱線防止棒可動部B51は脱線防止棒固定部52からフランジ160の先端よりさらに円周の外側の方向に延伸して、脱線防止機能を果たす状態を示す。
図7(a)、(b)は脱線防止棒をXZ面から見た図で、図(c)はYZ面見た脱線防止棒と車輪の関係を示した。