【解決手段】測位システム1では、3つの固定局10a,10b,10cは、予め決められた室内Rの位置に固定されている。移動局12は室内Rを移動する。固定局10a,10b,10c夫々は、指向性を有し、搬送波が高周波である無線信号を送信する。移動局12は、固定局10a,10b,10cが送信した無線信号を受信し、受信した無線信号について、送信元から自局までの伝播距離を算出する。移動局12は、送信元が異なる複数の無線信号に係る伝播距離に基づいて、自局の位置を演算する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1における測位システム1の要部構成を示すブロック図である。測位システム1は、室内Rに設けられており、3つの固定局10a,10b,10c、制御装置11、移動局12及び搬送装置13を備える。固定局10a,10b,10c夫々は予め決められた室内Rの位置に固定されている。固定局10a,10b,10cの位置は、室内Rの隅であり、相互に異なっている。固定局10a,10b,10cは制御装置11に有線で接続されている。
【0032】
移動局12は搬送装置13に搭載されている。搬送装置13は、例えば、溶接部品、電子部品、基板又はウェハ等のワークを搬送する。搬送装置13は、例えば、所定のルートを移動する無人搬送車、又は、天井若しくは床に設置された軌道を移動する移動シャトル等の移動体である。搬送装置13の動作は、MES(Manufacturing Execute System)と呼ばれる生産管理システムによって管理されている。室内Rには、無線信号を遮蔽する遮蔽物O1,O2,O3が存在している。搬送装置13は、遮蔽物O1,O2,O3との接触を回避しながら室内Rを移動する。移動局12は、搬送装置13と共に、室内Rを移動する。
【0033】
固定局10a,10b,10c夫々は、制御装置11の指示に従って、無線信号を移動局12に送信する。移動局12は、固定局10a,10b,10cから受信した無線信号に基づいて、自局の位置を演算し、演算した位置を示す位置情報を含む位置信号を搬送装置13に出力する。搬送装置13は、移動局12から入力された位置信号に含まれている位置情報に基づいて、進行方向の変更、移動の停止、又は、移動速度の変更等を行う。
【0034】
図2は、固定局10aの要部構成を示すブロック図である。固定局10aは、信号出力部20、時計部21、符号化部22、符号信号発生器23、重畳部24、搬送波発生器25、増幅器26及び送信アンテナ27を有する。
【0035】
信号出力部20は、時計部21から、現在の時刻を示す時刻情報を取得する。信号出力部20が時計部21から時刻情報を取得した場合、信号出力部20が取得した時刻情報が示す時刻は、取得時点の時刻と一致又は略一致する。また、信号出力部20には、制御装置11から無線信号の送信指示が入力される。信号出力部20は、送信指示が入力された場合、時刻情報を時計部21から取得する。信号出力部20は、時計部21から取得した時刻情報、固定局10aを示す送信元情報、及び、固定局10aの位置を座標で示す座標情報等を含むベースバンド信号を符号化部22に出力する。信号出力部20には、無線信号の送信の停止を指示する停止指示が入力される。信号出力部20は、停止指示が入力された場合、ベースバンド信号の出力を停止する。
ベースバンド信号に含まれる時刻情報は、送信時刻を示す送信時刻情報である。以下では、ベースバンド信号に含まれる時刻情報を送信時刻情報と記載する。
【0036】
符号信号発生器23は、所定の符号に応じた送信側符号信号を符号化部22に出力する。
符号化部22は、符号信号発生器23から入力された送信側符号信号を用いて、信号出力部20から入力されたベースバンド信号のスペクトルを拡散させることによって、このベースバンド信号を符号化する。符号化部22は、符号化した符号化信号を重畳部24に出力する。
【0037】
搬送波発生器25は搬送波を重畳部24に出力する。搬送波発生器25が出力する搬送波は、高周波、例えば、ミリ波である。ミリ波の周波数の範囲は30GHz〜300GHzである。
重畳部24は、搬送波発生器25から入力された搬送波に、符号化部22から入力された符号化信号を重畳することによって重畳信号を生成する。重畳部24は、生成した重畳信号を増幅器26に出力する。
【0038】
増幅器26は、重畳部24から入力された重畳信号の振幅を増幅し、振幅が増幅された重畳信号を送信アンテナ27に出力する。送信アンテナ27は、増幅器26から入力された重畳信号を無線信号として移動局12に送信する。
従って、重畳部24は、送信アンテナ27が送信する無線信号を生成する生成部として機能し、送信アンテナ27は送信部として機能する。
【0039】
送信アンテナ27は、指向性を有し、
図1に示すように、第1方向に無線信号A1を送信し、第2方向に無線信号A2を送信し、第3方向に無線信号A3を送信する。送信アンテナ27は、所定の時間が経過する都度、無線信号の送信方向を、第1方向、第2方向又は第3方向に切替える。送信アンテナ27の送信方向は、第1方向、第2方向及び第3方向の順に切替えられる。
なお、送信方向の切替えは、時計部21が示す時刻に基づいて行われてもよいし、図示しないタイマに基づいて行われてもよいし、制御装置11の指示に従って行われてもよい。
【0040】
信号出力部20は、制御装置11から送信指示が入力された場合、連続してベースバンド信号を符号化部22に出力する。このとき、信号出力部20は、所定の時間が経過する都度、ベースバンド信号を符号化部22に出力する。このため、送信アンテナ27は、無線信号を連続して送信し、送信アンテナ27が連続して送信する3つの無線信号の送信方向は相互に異なる。
【0041】
図3は無線信号の生成方法の説明図である。
図3には、ベースバンド信号、送信側符号信号、符号化信号、搬送波及び無線信号の波形の一例が示されている。これらの縦軸及び横軸夫々には、電圧及び時間が示されている。説明を簡単にするため、ベースバンド信号、送信側符号信号及び符号化信号夫々は、「+1」又は「−1」を示すデジタル信号であると仮定する。実際には、「+1」は「(振幅)/2」に対応し、「−1」は「−(振幅)/2」に対応する。
【0042】
信号出力部20は、前述したように、送信時刻情報、送信元情報及び座標情報を含むベースバンド信号を符号化部22に出力する。ベースバンド信号はNRZ(Non-Return to Zero)信号である。符号信号発生器23は、前述したように、送信側符号信号を符号化部22に出力する。送信側符号信号は、符号に基づいて決まる所定の波形が周期的に繰り返される信号である。送信側符号信号の周期Tは、ベースバンド信号の1ビットの長さと一致又は略一致している。
【0043】
符号化部22は、ベースバンド信号と送信側符号信号とを乗算することによって、ベースバンド信号を符号化する。従って、ベースバンド信号が「+1」を示す期間の符号化信号の波形は所定の波形に一致し、ベースバンド信号が「−1」を示す期間の符号化信号の波形は、所定の波形の正負を反転した波形に一致する。
【0044】
符号化信号のパルス幅の最小値は、ベースバンド信号のパルス幅の最小値、即ち、ベースバンド信号の1ビットの期間よりも小さい。2値信号について、スペクトル幅は、パルス幅の最小値に反比例する。従って、符号化部22が符号化を行うことによって、ベースバンド信号のスペクトルが拡散される。
図3の例では、符号化信号のパルス幅の最小値は、(ベースバンド信号のパルス幅の最小値)/7である。このため、符号化信号のスペクトル幅は、ベースバンド信号のスペクトル幅の7倍である。
【0045】
搬送波発生器25が出力する搬送波は
図3に示すように正弦波である。搬送波がミリ波である場合、搬送波の周波数は、30GHz〜300GHz中の1つの周波数である。
【0046】
重畳部24は、前述したように、搬送波発生器25が出力した搬送波に、符号化部22が出力した符号化信号を重畳することによって、送信アンテナ27から無線信号として送信される重畳信号を生成する。符号化信号が「+1」を示す期間の重畳信号の波形は搬送波の波形に一致し、符号化信号が「−1」を示す期間の重畳信号の波形は、搬送波の波形の正負を反転した波形に一致する。
前述したように、重畳部24が生成した重畳信号の振幅は増幅器26によって増幅され、振幅が増幅された重畳信号は無線信号として送信アンテナ27から送信される。
【0047】
固定局10b,10c夫々は固定局10aと同様に構成されている。固定局10aの構成の説明において、無線信号A1,A2,A3夫々を無線信号B1,B2,B3に置き換えることによって、固定局10bの構成を説明することができる。同様に、固定局10aの構成の説明において、無線信号A1,A2,A3夫々を無線信号C1,C2,C3に置き換えることによって、固定局10cの構成を説明することができる。
【0048】
固定局10a,10b,10c夫々の搬送波発生器25が出力する搬送波の周波数は同一又は略同一である。また、固定局10a,10b,10c夫々の符号信号発生器23で用いられる符号は同一である。更に、固定局10a,10b,10cの時計部21が示す時刻は同一又は略同一である。制御装置11によって、固定局10a,10b,10cの時計部21が示す時刻が一致するように、これらの時刻が繰り返し調整される。
【0049】
制御装置11は、3つの固定局10a,10b,10c中の少なくとも2つの送信アンテナ27が同一の時間帯に無線信号を送信することがないように、固定局10a,10b,10cに送信指示を出力し、無線信号を送信する送信アンテナ27を経時的に変更する。従って、1日の全ての時間帯において、固定局10a,10b,10c中の1つの固定局のみが無線信号を送信しているか、又は、固定局10a,10b,10cの全てが無線信号の送信を停止している。
【0050】
3つの固定局10a,10b,10cの送信アンテナ27は、例えば、以下のように無線信号を送信する。
まず、制御装置11は、固定局10aの信号出力部20に送信指示を出力し、無線信号を送信する送信アンテナを固定局10aの送信アンテナ27に変更する。固定局10aの送信アンテナ27は、無線信号A1,A2,A3をこの順で送信する。
【0051】
無線信号A3が送信された後、制御装置11は、固定局10aの信号出力部20に停止指示を出力する。その後、制御装置11は、固定局10bの信号出力部20に送信指示を出力し、無線信号を送信する送信アンテナを固定局10bの送信アンテナ27に変更する。固定局10bの送信アンテナ27は、無線信号B1,B2,B3をこの順で送信する。
無線信号B3が送信された後、制御装置11は、固定局10bの信号出力部20に停止指示を出力する。その後、制御装置11は、固定局10cの信号出力部20に送信指示を出力し、無線信号を送信する送信アンテナを固定局10cの送信アンテナ27に変更する。固定局10cの送信アンテナ27は、無線信号C1,C2,C3をこの順で送信する。
無線信号C3が送信された後、制御装置11は、固定局10cの信号出力部20に停止指示を出力する。その後、制御装置11は、固定局10aの信号出力部20に送信指示を再び出力する。
【0052】
なお、固定局10a,10b,10c夫々の信号出力部20は、制御装置11から送信指示が入力されてから、前述した所定の時間の3倍が経過した場合にベースバンド信号の出力を停止するように構成されてもよい。この場合、制御装置11は、所定の時間の3倍が経過する都度、送信指示を出力すればよい。このとき、制御装置11は、固定局10a,10b,10cの信号出力部20の順に送信指示を出力する。
【0053】
図4は移動局12の要部構成を示すブロック図である。移動局12は、受信アンテナ30、増幅器31、混合器32、発振器33、ローパスフィルタ(以下ではLPFという)34、復号部35、受信検出部36、符号信号発生器37、演算部38、時計部39、タイマ40、出力部41及び記憶部42を有する。
【0054】
受信アンテナ30は、固定局10a,10b,10cの送信アンテナ27が送信した無線信号を受信し、受信した無線信号を増幅器31に出力する。受信アンテナ30の無線信号の受信帯域は、高周波数帯域、例えば、ミリ波に対応する周波数帯域(30GHz〜300GHz)の一部又は全部である。受信アンテナ30は受信部として機能する。
増幅器31は、受信アンテナ30から受信した無線信号の振幅を増幅し、振幅が増幅された無線信号を混合器32に出力する。
発振器33は正弦波を混合器32に出力する。
【0055】
混合器32は、増幅器31から入力された無線信号と発振器33から出力された正弦波とを混合することによって、符号化信号が含まれる混合信号を生成する。発振器33が出力する正弦波の周波数は、例えば、固定局10a,10b,10cの搬送波発生器25が出力する搬送波の周波数と同じである。混合器32は、生成した混合信号をLPF34に出力する。
LPF34は、混合器32から入力された混合信号から符号化信号を抽出し、抽出した符号化信号を、復号部35及び受信検出部36に出力する。混合器32及びLPF34は抽出部として機能する。
【0056】
符号信号発生器37は、所定の符号に応じた受信側符号信号を復号部35に出力する。符号信号発生器37で用いられる符号は、固定局10a,10b,10cの符号信号発生器23で用いられる符号と同一である。受信側符号信号は、送信側符号信号と同様に、符号に基づいて決まる所定の波形が周期的に繰り返される信号である。受信側符号信号及び送信側符号信号夫々について、所定の波形及び周期は同一である。
符号信号発生器23,37で用いられる符号は、例えば、PN(Pseudo Noise:疑似雑音)符号である。
【0057】
復号部35は、符号信号発生器37から入力された受信側符号信号と、LPF34から入力された符号化信号との位相が一致している状態で、受信側符号信号及び符号化信号を乗算することによって、LPF34から入力された符号化信号のスペクトルを逆拡散させる。これにより、LPF34によって抽出された符号化信号がベースバンド信号に復号される。
【0058】
図5はベースバンド信号への復号の説明図である。以下では、受信側符号信号及び符号化信号の乗算によって得られる信号を乗算信号と記載する。
図5には、符号化信号、受信側符号信号及び乗算信号の波形の一例が示されている。これらの縦軸及び横軸夫々には、電圧及び時間が示されている。説明を簡単にするため、受信側符号信号、受信側符号信号及び乗算信号夫々は、「+1」又は「−1」を示すデジタル信号であると仮定する。実際には、「+1」は「(振幅)/2」に対応し、「−1」は「−(振幅)/2」に対応する。
【0059】
復号部35は符号化信号及び受信側符号信号を乗算する。従って、符号化信号及び受信側符号化信号が共に「+1」又は「−1」を示す期間、乗算信号は「+1」を示す。また、符号化信号及び受信側符号信号の中で一方が「+1」を示し、かつ、他方が「−1」を示す期間、乗算信号は「−1」を示す。
【0060】
図5に示すように、符号化信号及び受信側符号信号の位相差がゼロではない場合、乗算信号はベースバンド信号と一致しない。このとき、受信側符号信号の周期Tに亘って積分することによって算出される積分値の絶対値、即ち、相関値は小さい。
図5の例では、相関値は1である。
符号化信号及び受信側符号の位相差がゼロである場合、乗算信号はベースバンド信号と一致し、相関値は最大である。
図5の例では、相関値の最大値は周期Tの長さと一致する。
【0061】
復号部35は、相関値を監視しながら、符号化信号及び受信側符号の位相差をゼロに調整する。相関値が最大である場合、位相差はゼロである。前述したように、符号化信号のパルス幅の最小値は、ベースバンド信号のパルス幅の最小値よりも小さく、スペクトル幅は、パルス幅の最小値に反比例する。従って、復号部35が復号を行うことによって、符号化信号のスペクトルが逆拡散される。
図5の例では、ベースバンド信号のパルス幅の最小値は、符号化信号のパルス幅の最小値の7倍であるため、ベースバンド信号のスペクトル幅は、(符号化信号のスペクトル幅)/7である。
【0062】
相関値は、受信アンテナ30が受信した無線信号の受信強度が大きい程大きい。復号部35は、復号したベースバンド信号と、位相差がゼロである場合における相関値を示す相関値情報とを演算部38に出力する。
なお、固定局10a,10b,10c夫々の符号信号発生器23が用いる符号が、移動局12の符号信号発生器37が用いる符号と異なる場合、位置差に無関係に相関値は小さく、符号化信号がベースバンド信号に復号されることはない。
【0063】
図4に示す受信検出部36は、LPF34から符号化信号が入力された場合、無線信号の受信を検出し、受信アンテナ30が無線信号を受信したことを演算部38に通知する。
【0064】
演算部38は、時計部39から、現在の時刻を示す時刻情報を取得する。演算部38は時計部39から時刻情報を取得した場合、演算部38が取得した時刻情報が示す時刻は、取得時点の時刻と略一致する。
タイマ40は、演算部38の指示に従って、計時の開始及び終了を行う。タイマ40が計時している計時時間は演算部38によって読み出される。
【0065】
出力部41は、演算部38の指示に従って、移動局12の位置を示す位置情報を含む位置信号を搬送装置13に出力する。搬送装置13は、前述したように、出力部41から入力された位置信号に含まれている位置情報に基づいて、進行方向の変更、移動の停止、又は、移動速度の変更等を行う。
【0066】
記憶部42は例えば不揮発性メモリである。記憶部42には、制御プログラムが記憶されている。演算部38は、図示しないCPU(Central Processing Unit)を有し、制御プログラムを実行することによって、移動局12の位置を演算する位置演算処理を含む処理を実行する。
記憶部42には、種々のデータが演算部38によって記憶される。また、記憶部42に記憶されているデータは演算部38によって読み出される。記憶部42には、固定局10a,10b,10cの位置を示す情報が記憶されている。
【0067】
図6は、演算部38が実行する処理の手順を示すフローチャートである。まず、演算部38は、タイマ40に指示して計時を開始させ(ステップS1)、受信検出部36が無線信号の受信を検出したか否かを判定する(ステップS2)。
【0068】
演算部38は、受信検出部36が無線信号の受信を検出したと判定した場合(S2:YES)、復号部35から入力されたベースバンド信号に含まれている送信時刻情報及び送信元情報と、復号部35から入力された相関値情報とを取得する(ステップS3)。次に、演算部38は、時計部39から時刻情報を取得する(ステップS4)。ここで、演算部38が取得した時刻情報が示す時刻は、無線信号の受信時刻である。
【0069】
次に、演算部38は、受信アンテナ30が受信した無線信号について、ステップS3で取得した送信時刻情報が示す送信時刻と、ステップS4で取得した時刻情報が示す受信時刻とに基づいて、送信元から移動局12の受信アンテナ30までの伝播時間を算出する(ステップS5)。演算部38は、例えば、送信時刻から受信時刻までの期間を伝播時間として算出する。演算部38は時間算出部として機能する。
【0070】
次に、演算部38は、受信アンテナ30が受信した無線信号について、ステップS5で算出した伝播時間に基づいて、送信元から移動局12の受信アンテナ30までの無線信号の伝播距離を算出する(ステップS6)。例えば、室内が真空であると見なす場合、演算部38は、伝播時間に、真空中の無線信号の伝播速度を乗算することによって伝播距離を算出する。真空中の無線信号の伝播速度は3と10の8乗との積(単位:m/s)で表される。演算部38は距離算出部としても機能する。
【0071】
次に、演算部38は、ステップS3で取得した送信元情報が示す送信元に対応付けて、ステップS3で取得した相関情報が示す相関値と、ステップS6で算出した伝播距離とを記憶部42に記憶する(ステップS7)。
図7は、送信元に対応付けられた相関値及び伝播距離を示す図表である。ステップS7では、演算部38は、例えば、
図7に示すように、送信元である固定局10aに対応付けて、相関値Ma1と伝播距離La1とを記憶する。
【0072】
演算部38は、受信検出部36が無線信号の受信を検出していないと判定した場合(S2:NO)、又は、ステップS7を実行した後、タイマ40が計時している計時時間が基準時間以上であるか否かを判定する(ステップS8)。演算部38は、計時時間が基準時間未満であると判定した場合(S8:NO)、ステップS2を実行する。
【0073】
演算部38は、計時時間が基準時間以上となるまでの間に、受信アンテナ30が受信した無線信号について、送信元に対応付けて相関値及び伝播時間を記憶する。前述したように、無線信号A1,A2,A3,B1,B2,B3,C1,C2,C3は、固定局10a,10b,10cから所定の時間が経過する都度、順次送信される。基準時間は、例えば、所定の時間の9倍に設定される。これにより、計時時間が基準時間以上となるまでに、移動局12の受信アンテナ30は、無線信号A1,A2,A3,B1,B2,B3,C1,C2,C3の全てを受信することが可能である。
【0074】
計時時間が基準時間以上となるまでに、無線信号A1,A2,A3,B1,B2,B3,C1,C2,C3の全てを受信した場合、
図7に示すように、送信元に対応付けて9個の相関値と、9個の伝播距離とが記憶部42に記憶される。計時時間が基準時間以上となるまでに、例えば、無線信号B3が移動局12の受信アンテナ30に到達しなかった場合、送信元に対応付けて8個の相関値と、8個の伝播距離とが記憶部42に記憶される。
【0075】
演算部38は、計時時間が基準時間以上であると判定した場合(S8:YES)、タイマ40に指示して計時を終了させ(ステップS9)、固定局10a,10b,10c夫々について、相関値が最大である伝播距離を選択する(ステップS10)。演算部38は、計時時間が基準時間以上となるまでに記憶部42に記憶された相関値及び伝播距離に基づいて、ステップS10を実行する。固定局10a,10b,10c夫々について、相関値が高い程、無線信号の受信状態が良好であるため、相関値が最大である伝播距離を選択する。
【0076】
例えば、計時時間が基準時間以上となるまでに、
図7に示すように、相関値及び伝播距離が記憶部42に記憶されたと仮定する。演算部38は、固定局10aについて、相関値Ma1,Ma2,Ma3中の最大の相関値に対応する伝播距離を選択する。相関値Ma1が最大の相関値である場合、伝播距離La1を選択する。同様に、演算部38は、固定局10bについて、相関値Mb1,Mb2,Mb3中の最大の相関値に対応する伝播距離を選択し、固定局10cについて、相関値Mc1,Mc2,Mc3中の最大の相関値に対応する伝播距離を選択する。
【0077】
次に、演算部38は、ステップS10で選択した3つの伝播距離に基づいて、移動局12の位置を演算する(ステップS11)。演算部38は、例えば、双曲線航法によって、移動局12の位置を演算する。演算部38は、ステップS10で、固定局10a,10b,10c夫々に対応する伝播距離La1,Lb1,Lc1を選択したと仮定する。双曲線航法では、演算部38は、固定局10a,10b,10cの位置を示す座標において、固定局10a,10b夫々との距離の差が(La1−Lb1)の絶対値となる位置を示す第1双曲線を描き、固定局10b,10c夫々との距離の差が(Lb1−Lc1)の絶対値となる位置を示す第2双曲線を描き、第1双曲線及び第2双曲線の交点を移動局12の位置として演算する。第1双曲線は、固定局10a,10bの位置を2つの焦点とする双曲線である。第2双曲線は、固定局10b,10cの位置を2つの焦点とする双曲線である。固定局10a,10b,10c夫々の位置は、送信元が固定局10a,10b,10cである無線信号のベースバンド信号に含まれている座標情報が示す位置である。
【0078】
演算部38は、他の方法で移動局12の位置を演算してもよい。演算部38は、例えば、固定局10a,10b,10cの位置を示す座標において、中心が固定局10aの位置であり、半径が伝播距離La1である円を描き、中心が固定局10bの位置であり、半径が伝播距離Lb1である円を描き、中心が固定局10cの位置であり、半径が伝播距離Lc1である円を描く。そして、演算部38は、3つの円の交点を移動局12の位置として算出してもよい。
演算部38は位置演算部としても機能する。
【0079】
次に、演算部38は、出力部41に指示して、ステップS11で演算した位置を示す位置情報を含む位置信号を搬送装置13に出力させる(ステップS12)。
演算部38は、ステップS12を実行した後、処理を終了する。演算部38は、処理を終了した後、再び、ステップS1を実行し、移動局12の位置の演算を繰り返す。
【0080】
以上のように構成された測位システム1では、固定局10a,10b,10c夫々の送信アンテナ27は、指向性を有するので、室内の壁面又は棚等の物体で反射して移動局12の受信アンテナ30に到達する無線信号の数が少ない。更に、固定局10a,10b,10c夫々の送信アンテナ27が送信する無線信号の搬送波は、高周波、例えばミリ波である。このため、無線信号が回折によって大きく広がることはなく、固定局10a,10b,10c夫々の送信アンテナ27から送信された無線信号は、直進して移動局12の受信アンテナ30に到達する確率が高い。結果、移動局12の演算部38は、移動局12の位置として誤った位置を演算する確率は低い。
【0081】
また、固定局10a,10b,10c中の少なくとも2つの送信アンテナ27が同一の時間帯に無線信号を送信することはなく、固定局10a,10b,10cの送信アンテナ27の中で、無線信号を送信する送信アンテナ27は、経時的に変更される。このため、複数の無線信号が相互に干渉することはなく、無線信号に含まれる送信時刻情報及び送信元情報等が、移動局12の演算部38によって適切に取得される。
【0082】
更に、固定局10a,10b,10c夫々の送信アンテナ27は、無線信号を連続して送信する。このとき、送信アンテナ27は、無線信号の送信方向を、所定の時間が経過する都度、変更する。このため、固定局10a,10b,10c夫々の送信アンテナ27が送信した無線信号が移動局12の受信アンテナ30によって受信される確率が高い。
【0083】
また、以上のように構成された移動局12においては、受信アンテナ30は、搬送波が高周波である無線信号を受信する。このため、受信アンテナ30は、送信元から直進した無線信号を受信する確率が高い。結果、演算部38が、移動局12の位置として、誤った位置を演算する確率は低い。
【0084】
(実施の形態2)
図8は、実施の形態2における移動局12の要部構成を示すブロック図である。
以下では、実施の形態2について、実施の形態1と異なる点を説明する。後述する構成を除く他の構成については、実施の形態1と共通しているため、実施の形態1と共通する構成部には実施の形態1と同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0085】
実施の形態2における測位システム1では、実施の形態1における測位システム1と比較して、移動局12及び搬送装置13の構成が異なる。
実施の形態2における搬送装置13は、実施の形態1と同様に動作する。搬送装置13は、更に、所定の位置、例えば、室内Rの入口近傍の位置に停止する。搬送装置13は、所定の位置に停止している間、所定の位置に停止していることを示す停止信号を移動局12に出力し続ける。実施の形態1の説明で述べたように、移動局12は搬送装置13に搭載されている。従って、搬送装置13が所定の位置に停止している場合、移動局12も所定の位置に停止している。
【0086】
実施の形態2における移動局12は、実施の形態1における移動局12が有する構成部に加えて、入力部43を有する。入力部43には、搬送装置13から停止信号が入力される。入力部43は、搬送装置13から停止信号が入力された場合、その旨を演算部38に通知する。
【0087】
測位システム1では、固定局10a,10b,10c夫々の時計部21が示す時刻と、移動局12の時計部39が示す時刻とが一致していない可能性がある。時計部21,39が示す時刻が互いに異なっている場合、演算部38が算出する伝播時間に誤差が生じる。このため、記憶部42には、演算部38が算出した伝播時間を補正するための補正量を示す補正量情報が記憶されている。
【0088】
演算部38は、補正量を算出し、補正量情報が示す補正量を変更する。演算部38は補正量算出部としても機能する。また、記憶部42には補正フラグの値が記憶されている。補正フラグの値はゼロ又は1である。補正フラグの値がゼロであることは、補正量を演算しないことを意味する。補正フラグの値が1であることは、補正量を演算することを意味する。補正フラグの値も演算部38によって変更される。
【0089】
図9及び
図10は、演算部38が実行する処理の手順を示すフローチャートである。演算部38はこの処理を繰り返し実行する。
実施の形態2における演算部38が実行するステップS25〜S29,S31〜S35,S39,S40夫々は、実施の形態1における演算部38が実行するステップS1〜S5,S6〜S10,S11,S12と同様である。このため、ステップS25〜S29,S31〜S35,S39,S40の詳細な説明を省略する。
【0090】
演算部38は、移動局12が所定の位置に停止したか否かを判定する(ステップS21)。ステップS21では、演算部38は、入力部43に停止信号が入力されている場合、移動局12が所定の位置に停止したと判定し、入力部43に停止信号が入力されていない場合、移動局12が所定の位置に停止していないと判定する。演算部38は判定部としても機能する。
【0091】
演算部38は、移動局12が所定の位置に停止していないと判定したと判定した場合(S21:NO)、補正フラグの値をゼロに設定する(ステップS22)。演算部38は、移動局12が所定の位置に停止したと判定した場合(S21:YES)、補正量情報が示す補正量をゼロに変更し(ステップS23)、補正フラグの値を1に設定する(ステップS24)。演算部38は、ステップS22又はステップS24を実行した後、ステップS25を実行する。
【0092】
演算部38は、ステップS29を実行した後、補正量情報が示す補正量に基づいて、ステップS29で算出した伝播時間を補正する(ステップS30)。例えば、演算部38は、ステップS29で算出した伝播時間に、正又は負の値である補正量を加算することによって補正を行う。演算部38は補正部としても機能する。
演算部38は、ステップS30を実行した後、ステップS31を実行する。ステップS31では、演算部38は、ステップS30で補正された伝播時間に基づいて、伝播距離を算出する。演算部38は、例えば、ステップS30で補正された伝播時間に無線信号の伝播速度を乗算することによって伝播距離を算出する。
【0093】
演算部38が補正量を演算する場合、即ち、補正フラグの値が1である場合、補正情報が示す補正量はゼロであるため、ステップS30で伝播時間が補正されることはない。
【0094】
演算部38は、ステップS35を実行した後、補正フラグの値が1であるか否かを判定する(ステップS36)。演算部38は、補正フラグの値が1であると判定した場合(S36:YES)、補正量を算出する(ステップS37)。
【0095】
1つの例では、記憶部42には、固定局10a,10b,10c夫々の送信アンテナ27から、所定の位置に停止している移動局12の受信アンテナ30までの無線信号の伝播時間が記憶されている。固定局10a,10b,10c夫々について、相関値が最大である伝播距離に対応する伝播時間と、記憶部42に記憶されている伝播時間との差から補正量を算出する。
他の例では、ステップS35で選択した3つの伝播距離夫々を、演算結果が所定の位置を示すように、同一の距離だけ増減させ、距離の変化量に対応する伝播時間から補正量を算出する。
【0096】
演算部38は、ステップS37を実行した後、補正量情報が示す補正量を、ステップS37で算出した補正量に変更する(ステップS38)。
演算部38は、補正フラグの値が1ではない、即ち、補正フラグの値がゼロであると判定した場合(S36:NO)、ステップS39を実行する。
【0097】
演算部38は、ステップS38又はステップS40を実行した後、処理を終了する。演算部38は、処理を終了した後、再び、ステップS21を実行し、移動局12の位置の演算を繰り返す。
補正フラグの値が1である場合、移動局12の位置が所定の位置であることは自明である。このため、演算部38は、ステップS38を実行した後に、移動局12の位置の演算、及び、移動局12の位置を示す位置信号の出力を行う必要はない。
【0098】
実施の形態2における測位システム1では、移動局12の演算部38は、補正された伝播時間に基づいて無線信号の正確な伝播距離を算出する。また、演算部38は、移動局12が所定の位置に停止している判定した場合に補正量を算出する。このため、正確な補正量が算出される。
実施の形態2における固定局10a,10b,10cが実施の形態1と同様に構成されており、実施の形態2における移動局12には、実施の形態1における移動局12と同様の構成が含まれている。このため、実施の形態2における測位システム1及び移動局12は実施の形態1と同様の効果を奏する。
【0099】
(実施の形態3)
図11は、実施の形態3における測位システム1の要部構成を示すブロック図である。
以下では、実施の形態3について、実施の形態1と異なる点を説明する。後述する構成を除く他の構成については、実施の形態1と共通しているため、実施の形態1と共通する構成部には実施の形態1と同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0100】
実施の形態3における測位システム1は、実施の形態1における測位システム1が備える構成部に加えて、固定局10dを備えている。固定局10dも、予め決められた室内Rの位置に固定され、制御装置11に有線で接続されている。固定局10a,10b,10c,10dの位置は相互に異なっている。固定局10dも制御装置11の指示に従って、無線信号を移動局12に送信する。移動局12は、固定局10a,10b,10c,10dから受信した無線信号に基づいて、自局の位置を演算する。
【0101】
固定局10dは固定局10aと同様に構成されている。実施の形態1における固定局10aの構成の説明において、無線信号A1,A2,A3夫々を無線信号D1,D2,D3に置き換えることによって、固定局10dの構成を説明することができる。
【0102】
固定局10dの搬送波発生器25が出力する搬送波の周波数は、固定局10a,10b,10c夫々の搬送波発生器25が出力する周波数と同一又は略同一である。また、固定局10dの符号信号発生器23で用いられる符号も、固定局10a,10b,10c夫々の符号信号発生器23で用いられる符号と同一である。制御装置11によって、固定局10a,10b,10c,10dの時計部21が示すと時刻が一致するように、これらの時刻が繰り返し調整されている。
【0103】
実施の形態1と同様に、制御装置11は、4つの固定局10a,10b,10c,10d中の少なくとも2つの送信アンテナ27が同一の時間帯に無線信号を送信することがないように、固定局10a,10b,10c,10dに送信指示を出力し、無線信号を送信する送信アンテナ27を経時的に変更する。従って、1日の全ての時間帯において、固定局10a,10b,10c,10d中の1つの固定局のみが無線信号を送信しているか、又は、固定局10a,10b,10c,10dの全てが無線信号の送信を停止している。
移動局12の受信アンテナ30は、固定局10a,10b,10c,10dの送信アンテナ27が送信した無線信号を受信し、受信した無線信号は増幅器31に出力される。
【0104】
移動局12の演算部38は実施の形態1と同様の処理を行う。基準時間は、例えば、所定の時間の12倍に設定される。これにより、タイマ40が計時している計時時間が基準時間以上となるまでに、移動局12の受信アンテナ30は、無線信号A1,A2,A3,B1,B2,B3,C1,C2,C3,D1,D2,D3の全てを受信することが可能である。
【0105】
ステップS10では、演算部38は、固定局10a,10b,10c,10d夫々について、相関値が最大である伝播距離を選択する。ステップS11では、演算部38は、ステップS10で選択した4つの伝播時間に基づいて、移動局12の位置を演算する。ここで、演算部38は、4つの伝播距離を用いるため、2次元の位置、即ち、
図11の上下及び左右に係る位置だけではなく、3次元の位置、即ち、上下、左右及び高低に係る位置を演算することができる。高低に係る位置は、
図11の紙面に垂直な方向の位置である。
実施の形態3における測位システム1及び移動局12は、実施の形態1と同様の効果を奏する。
【0106】
なお、実施の形態3において、演算部38が演算する位置が2次元の位置で十分である場合、演算部38は、固定局10a,10b,10c,10d中の3つ夫々について、相関値が最大である伝播距離を選択し、選択した3つの伝播距離に基づいて、移動局12の位置を演算してもよい。この構成では、固定局10a,10b,10c,10d中の1つの送信アンテナ27が連続して送信した全ての無線信号を、移動局12の受信アンテナ30が受信することができなかった場合であっても、移動局12の位置が演算される。
【0107】
また、固定局の数はK(K:5以上の整数)個であってもよい。演算部38が演算する位置が2次元の位置で十分である場合、演算部38は、K個の固定局中の3つ夫々について、相関値が最大である伝播距離を選択し、選択した3つの伝播距離に基づいて、移動局12の位置を演算してもよい。この構成では、K個の固定局中の(K−3)個の固定局の送信アンテナ27が連続して送信した全ての無線信号が、移動局12の受信アンテナ30が受信されなかった場合であっても、移動局12の位置が演算される。
【0108】
演算部38が演算すべき位置が3次元の位置である場合、演算部38は、K個の固定局中の4つ夫々について、相関値が最大である伝播距離を選択し、選択した4つの伝播距離に基づいて、移動局12の位置を演算してもよい。この構成では、K個の固定局中の(K−4)個の固定局の送信アンテナ27が連続して送信した全ての無線信号を、移動局12の受信アンテナ30が受信することができなかった場合であっても、移動局12の位置が演算される。
固定局の数がK個である場合、基準時間は、例えば、所定の時間の3・K倍に設定される。「・」は積を表す。
また、演算部38が演算する位置が1次元の位置で十分である場合には、固定局の数は2つであってもよい。この場合、基準時間は、例えば、所定の時間の6倍に設定される。
【0109】
更に、搬送装置13が所定の位置で停止する場合おいては、移動局12の演算部38は、移動局12が所定の位置に停止したときに、実施の形態2と同様に、補正量を算出し、算出した補正量に基づいて、算出した伝播時間を補正してもよい。
【0110】
(実施の形態4)
図12は、実施の形態4における測位システム1の要部構成を示すブロック図である。
以下では、実施の形態4について、実施の形態1と異なる点を説明する。後述する構成を除く他の構成については、実施の形態1と共通しているため、実施の形態1と共通する構成部には実施の形態1と同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0111】
実施の形態4における測位システム1は、実施の形態1における測位システム1が備える構成部を同様に備える。実施の形態4では、実施の形態1と比較して、室内Rの環境が異なる。実施の形態4では、遮蔽物O1,O2,O3の代わりに、遮蔽物O4,O5が存在している。遮蔽物O4,O5は、互いに対向するように配置されている。遮蔽物O4,O5の間の領域を、搬送装置13は移動することが可能である。移動局12は、搬送装置13に搭載されているので、遮蔽物O4,O5の間の領域を移動する可能性がある。
【0112】
遮蔽物O4,O5の間の領域に移動局12が位置している場合、
図12に示すように、固定局10b,10cの送信アンテナ27が送信した無線信号が直接に移動局12に到達することはない。以下では、遮蔽物O4,O5の間の領域を遮蔽領域と記載する。
【0113】
実施の形態4における測位システム1では、遮蔽領域に位置している移動局12に無線信号を到達させるため、実施の形態4における測位システム1は、無線信号を反射するリフレクタ14を更に備える。リフレクタ14は、例えば、三角柱状をなす。リフレクタ14は、固定局10b,10cの送信アンテナ27が送信した無線信号を反射する。リフレクタ14で反射した無線信号は遮蔽領域を伝播する。遮蔽領域に移動局12が位置する場合、移動局12の受信アンテナ30は、リフレクタ14で反射した無線信号を受信する。
【0114】
図13は移動局12の要部構成を示すブロック図である。実施の形態4における移動局12は、実施の形態1における移動局12が有する構成部に加えて、ドップラー計測器44を更に有する。移動局12が移動している間に移動局12の受信アンテナ30が無線信号を受信した場合、受信アンテナ30が受信する無線信号の搬送波は、この無線信号が送信された時点における無線信号の搬送波とは異なる。この現象は、所謂ドップラー効果である。
【0115】
移動局12の進行方向が無線信号の伝播方向と同一の方向である場合、受信アンテナ30が受信する無線信号の搬送波の周波数は、送信時点における搬送波の周波数よりも低く、移動局12の移動速度が速い程、これらの周波数の差は大きい。
また、移動局12の進行方向が無線信号の伝播方向の反対方向である場合、受信アンテナ30が受信する無線信号の搬送波の周波数は、送信時点における搬送波の周波数よりも高く、移動局12の移動速度が速い程、これらの周波数の差は大きい。
【0116】
以上のことから、移動局12が遮蔽領域に位置している場合、受信アンテナ30が受信する無線信号の搬送波の周波数と、固定局10a,10b,10cの搬送波発生器25が出力する搬送波の周波数との差に基づいて、移動局12の進行方向及び移動速度とを検知することができる。
【0117】
増幅器31は、受信アンテナ30から受信した無線信号の振幅を増幅し、振幅が増幅された無線信号を混合器32及びドップラー計測器44に出力する。
【0118】
ドップラー計測器44は、移動局12が遮蔽領域に位置している場合、固定局10b,10cの送信アンテナ27が送信した無線信号夫々について、増幅器31から入力された無線信号の搬送波の周波数と、搬送波発生器25が出力する搬送波の周波数との差に基づいて、移動局12の進行方向及び移動速度を検知する。搬送波発生器25が出力する搬送波の周波数は記憶部42に予め記憶されている。ドップラー計測器44は、検知した進行方向及び移動速度を演算部38に通知する。ドップラー計測器44は、進行方向として、リフレクタ14に接近していること、又は、リフレクタ14から遠ざかっていることを演算部38に通知する。
【0119】
図14及び
図15は、演算部38が実行する処理の手順を示すフローチャートである。演算部38はこの処理を繰り返し実行する。記憶部42には、遮蔽フラグの値が記憶されている。遮蔽フラグの値は、ゼロ又は1である。遮蔽フラグの値がゼロであることは、移動局12が遮蔽領域に位置していないことを意味する。遮蔽フラグの値が1であることは、移動局12が遮蔽領域に位置していることを意味する。また、記憶部42には、室内Rにおいて固定されている物体の位置を示す配置図が記憶されている。
実施の形態3における演算部38が実行するステップS51〜S60夫々は実施の形態1における演算部38が実行するステップS1〜S10と同様である。このため、ステップS1〜S10の詳細な説明を省略する。
【0120】
演算部38は、ステップS60を実行した後、ステップS60で選択した3つの伝播距離を記憶部42に記憶する(ステップS61)。これらの3つの伝播距離夫々には、固定局10a,10b,10cの1つが対応付けられている。前述したように、
図14及び
図15に示す処理は繰り返し実行される。このため、固定局10a,10b,10c夫々について、伝播距離の推移が記憶部42に記憶されている。
【0121】
次に、演算部38は、遮蔽フラグの値がゼロであるか否かを判定する(ステップS62)。演算部38は、遮蔽フラグの値がゼロであると判定した場合(S62:YES)、移動局12が遮蔽領域に侵入したか否かを判定する(ステップS63)。リフレクタ14によって反射して移動局12の受信アンテナ30に到達した無線信号の伝播距離は、送信元から移動局12の受信アンテナ30に直接に到達した無線信号の伝播距離よりも長い。このため、移動局12が遮蔽領域に侵入した場合、固定局10b,10cの送信アンテナ27が送信した無線信号の伝播距離が突然に大きく変化する。従って、固定局10b,10cの送信アンテナ27が送信した無線信号について、今回のステップS60で選択した伝播距離が、前回のステップS60で選択した伝播距離よりも長く、かつ、これらの伝播距離の差が所定の第1基準距離以上である場合、演算部38は、移動局12が遮蔽領域に侵入したと判定する。他の場合、演算部38は、移動局12が遮蔽領域に侵入していないと判定する。
【0122】
演算部38は、移動局12が遮蔽領域に侵入していないと判定した場合(S63:NO)、ステップS60で選択した3つの伝播距離に基づいて、実施の形態1におけるステップS11と同様に移動局12の位置を演算する(ステップS64)。
【0123】
演算部38は、移動局12が遮蔽領域に侵入したと判定した場合(S63:YES)、遮蔽フラグの値を1に設定する(ステップS65)。ステップS67の説明で述べるように、
図14及び
図15に示す処理では、演算部38が演算した移動局12の位置が記憶部42に記憶される。また、
図14及び
図15に示す処理は繰り返し実行されるので、演算部38が演算した移動局12の位置の推移が記憶部42に記憶されている。
【0124】
演算部38は、ステップS65を実行した後、過去の移動局12の位置、ドップラー計測器44から入力された通知結果、及び、室内Rの配置図等に基づいて移動局12の位置を演算する(ステップS66)。ドップラー計測器44から入力された通知結果は、前述した移動局12の進行方向及び移動速度である。
【0125】
演算部38は、ステップS64又はステップS66を実行した後、演算した移動局12の位置を記憶部42に記憶する(ステップS67)。その後、演算部38は、出力部41に指示して、ステップS64又はステップS66で演算した位置を示す位置情報を含む位置信号を搬送装置13に出力させる(ステップS68)。
演算部38は、ステップS68を実行した後、処理を終了する。演算部38は、処理を終了した後、再び、ステップS1を実行し、移動局12の位置の演算を繰り返す。
【0126】
演算部38は、遮蔽フラグの値がゼロではない、即ち、遮蔽フラグの値が1であると判定した場合(S62:NO)、移動局12が遮蔽領域から離脱したか否かを判定する(ステップS69)。前述したように、リフレクタ14によって反射して移動局12の受信アンテナ30に到達した無線信号の伝播距離は、送信元から移動局12の受信アンテナ30に直接に到達した無線信号の伝播距離よりも長い。このため、移動局12が遮蔽領域から離脱した場合、固定局10b,10cの送信アンテナ27が送信した無線信号の伝播距離が突然に大きく変化する。従って、固定局10b,10cが送信した無線信号について、今回のステップS60で選択した伝播距離が、前回のステップS60で選択した伝播距離よりも短く、かつ、これらの伝播距離の差が所定の第2基準距離以上である場合、演算部38は、移動局12が遮蔽領域から離脱したと判定する。他の場合、演算部38は、移動局12が遮蔽領域から離脱していないと判定する。
【0127】
演算部38は、移動局12が遮蔽領域から離脱していないと判定した場合(S69:NO)、ステップS66を実行し、引き続き、過去の移動局12の位置、ドップラー計測器44から入力された通知結果、及び、室内Rの配置図等に基づいて移動局12の位置を演算する。
演算部38は、移動局12が遮蔽領域から離脱したと判定した場合(S69:YES)、遮蔽フラグの値をゼロに設定し(ステップS70)、ステップS64を実行する。演算部38は、位置の演算方法を、ステップS60で選択した3つの伝播距離に基づいて行う演算方法に戻す。
【0128】
実施の形態4における測位システム1では、移動局12が遮蔽領域に位置している場合であっても、固定局10a,10b,10cの送信アンテナ27が送信した無線信号が移動局12に到達する。更に、移動局12が遮蔽領域に位置している場合であっても、演算部38は、ドップラー計測器44が通知する通知結果に基づいて、移動局12の位置を演算することができる。
【0129】
実施の形態4における固定局10a,10b,10cが実施の形態1と同様に構成されており、実施の形態4における移動局12には、実施の形態1における移動局12と同様の構成が含まれている。このため、実施の形態4における測位システム1及び移動局12は実施の形態1と同様の効果を奏する。
【0130】
なお、搬送装置13が所定の位置で停止する場合においては、移動局12の演算部38は、移動局12が所定の位置に停止したときに、実施の形態2と同様に、補正量を算出し、算出した補正量に基づいて、算出した伝播時間を補正してもよい。
また、実施の形態4において、固定局の数はM(M:4以上の整数)個であってもよい。演算部38は、M個の固定局中の3つ夫々について、相関値が最大である伝播距離を選択し、選択した3つの伝播距離に基づいて、移動局12の位置を演算してもよい。この構成では、M個の固定局中の(M−3)個の固定局の送信アンテナ27が連続して送信した全ての無線信号が、移動局12の受信アンテナ30によって受信されなかった場合であっても、移動局12の位置が演算される。
【0131】
なお、実施の形態1〜4において、固定局の送信アンテナ27が送信する無線信号の送信方向の数は、3に限定されず、2又は4以上であってもよい。また、この送信方向の数は、全ての固定局について同じでなくてもよい。更に、固定局の送信アンテナ27は連続して無線信号を送信しなくてもよい。また、固定局の位置は、相互に異なる室内Rの位置であればよいので、室内Rの隅に限定されない。
【0132】
また、伝播時間の算出方法は、無線信号の送信時刻及び受信時刻に基づく算出方法に限定されない。例えば、1つの固定局の符号信号発生器23が行う送信側符号信号の出力と、移動局12の符号信号発生器37が行う受信側符号信号の出力とを同一時刻に行い、移動局12内において、符号化信号及び受信側符号信号の位相差(
図5を参照)を伝播時間として算出してもよい。
更に、復号部35が出力する相関値情報が示す相関値は、符号化信号及び受信側符号信号の位相差がゼロである場合における相関値に限定されず、符号化信号及び受信側符号信号の位相差がゼロではない場合における相関値であってもよい。
【0133】
開示された実施の形態1〜4はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。