【実施例】
【0030】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0031】
<皮膜付き吸音材の原料および製造>
図1〜
図3に示す配合の原料から、実施例1〜11の吸音材の皮膜および比較例1〜7の吸音材の皮膜を製造した。以下に、各原料の詳細を示す。
【0032】
図1〜
図3に示す各「プレポリマー」は、
図4若しくは
図5に示す配合(重量比)の原料を以下の方法に従って反応させることで得られる。
【0033】
まず、1リットル容量のセパラブルフラスコにポリイソシアネートを図に示す量入れて、窒素を流しながらポリオールを攪拌しながら図に示す量添加する。内容物が均一になったことを確認後、触媒(ジブチルチンジラウレート(DBTDL)0.3g)を添加する。そして、1時間かけて80〜90℃になるように、ゆっくりと昇温する。目的の温度に昇温してから2時間後にイソシアネート基含有率をJIS Z1603−1:2007に基づく方法(ポリウレタン原料芳香族イソシアネート試験方法)に準拠して測定する。そして、プレポリマーA,B,Cでは、イソシアネート基含有率が、4.0〜5.0%の範囲内になっていることを確認する。また、プレポリマーDでは、イソシアネート基含有率が、2.0〜3.0%の範囲内になっていることを確認する。また、プレポリマーEでは、イソシアネート基含有率が、0.5〜1.0%の範囲内になっていることを確認する。また、プレポリマーFでは、イソシアネート基含有率が、0.2〜1.0%の範囲内になっていることを確認する。また、プレポリマーGでは、イソシアネート基含有率が、6.0〜7.0%の範囲内になっていることを確認する。また、プレポリマーHでは、イソシアネート基含有率が、0.1〜0.5%の範囲内になっていることを確認する。そして、イソシアネート基含有率が、各プレポリマーに応じた範囲内になっていない場合には、反応時間を延長する。
【0034】
イソシアネート基含有率が、各プレポリマーに応じた範囲内になっていることを確認後、ビニルエーテル、アクリレート、アリルエーテルの少なくとも1つを図に示す量、ゆっくりと滴下し、2時間反応を行わせる。2時間経過後に、再度、上記方法に従ってイソシアネート基含有率を測定し、イソシアネート基含有率が0.5%以下になっていることを確認する。そして、イソシアネート基含有率が0.5%以下になっていることを条件として、図に示す各「プレポリマー」が得られる。
【0035】
なお、上述のようにして得られた「プレポリマーA」の理論分子量は4129であり、「プレポリマーB」の理論分子量は4101であり、「プレポリマーC」の理論分子量は4157であり、「プレポリマーD」の理論分子量は2755であり、「プレポリマーE」の理論分子量は10581であり、「プレポリマーF」の理論分子量は20755であり、「プレポリマーG」の理論分子量は1581であり、「プレポリマーH」の理論分子量は30755である。
【0036】
・ポリオールa;ポリプロピレングリコール(PPG)、商品名:アクトコールD2000(Mw:2000)、三井化学(株)製
・ポリオールb;ポリプロピレングリコール(PPG)、商品名:アクトコールD1000(Mw:1000)、三井化学(株)製
・ポリオールc;ポリプロピレングリコール(PPG)、商品名:サンニックスPP−200(Mw:200)、三洋化成(株)製
・ポリオールd;ポリプロピレングリコール(PPG)、商品名:プレミノールS4011(Mw:10000)、旭硝子(株)製
・ポリイソシアネート;TDI、商品名:ルプラネートT−80(Mw:174.2)、BASF製
・ビニルエーテル;ヒドロキシブチルビニルエーテル(Mw:116.2)、日本カーバイド(株)製
・アリルエーテル;ヒドロキシエチルアリルエーテル(Mw:102.1)、日本乳化剤(株)製
・アクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート(Mw:130.1)、日本触媒(株)製
【0037】
また、上述のようにして得られた各「プレポリマー」100重量部に含まれるアリルエーテル基とビニルエーテル基とアクリレート基との少なくとも1つの全当量数を演算する。そして、演算された当量数に、
図1〜
図3に示すエンチオール比(当量比)を乗じることで、原料として必要なポリチオールに含まれるチオール基の当量数が演算される。なお、
図1〜
図3に示すポリチオールの配合比は、上記プレポリマー100重量部に対するモル数である。このため、チオール基の当量数が、チオールの配合比に応じた比率とされる。具体的には、例えば、チオール基の当量数Aである場合において、実施例1では、ポリチオールCに対して、モル比100とされているため、ポリチオールCのチオール基の当量数はAとされる。また、実施例2では、ポリチオールAに対して、モル比50とされ、ポリチオールBに対して、モル比50とされているため、ポリチオールAのチオール基の当量数はA/2とされ、ポリチオールBのチオール基の当量数はA/2とされる。そして、各ポリチオールのチオール基の当量数と、各ポリチオールの官能基数とに基づいて、各ポリチオールのモル数が演算される。この演算されたモル数の各ポリチオールと、上記プレポリマー100重量部とを計量し、80℃に加温した後に、混合撹拌する。
【0038】
・ポリチオールA;官能基数2、ブタンジオールビスチオプロピオネート、商品名:BDTP(Mw:266.4)、淀化学(株)製
・ポリチオールB;官能基数3、トリメチロールプロパントリス、商品名:TMMP(Mw:398.5)、SC有機化学(株)製
・ポリチオールC;官能基数4、ペンタエリスリトールテトラキス、商品名:PEMP(Mw:488.6)、SC有機化学(株)製
・ポリチオールD;官能基数6、ジペンタエリスリトールヘキサキス、商品名:DPMP(Mw:783.0)、SC有機化学(株)製
【0039】
なお、各ウレタンプレポリマーと反応が行われるチオール基の平均官能基数を、
図1〜
図3の「平均官能基数」の欄に示す。また、全チオール基の全当量数の、各ウレタンプレポリマーのビニルエーテル基とアリルエーテル基とアクリレート基とのうちの1つの全当量数に対する比率を、
図1〜
図3の「エン/チオール比」の欄に示す。
【0040】
そして、
図1〜
図3に示す配合比で混合された原料、つまり、混合されたプレポリマーとポリチオールとを、透過性の良い離型フィルムの上に、50μmの膜厚で塗布する。次に、塗布された混合原料の上に、基体としてのウレタンフォームを圧着する。なお、基体のウレタンフォームとして、下記に示すウレタンフォームを所定のサイズに切り出したものを使用した。そして、そのウレタンフォームが圧着された混合原料に、離形フィルムの下方から紫外線を照射する。これにより、塗布された混合原料が硬化し、実施例1〜11の皮膜付き吸音材および比較例1〜7の皮膜付き吸音材が形成される。なお、混合原料を硬化させる際の紫外線の照射量は、600mJ/cm
2(365nm積算光量)とされている。
・基体(ウレタンフォーム);(株)イノアックコーポレーション製 軟質ポリウレタン発泡体、密度:25kg/m
3(JIS K 7222)、硬さ(25%圧縮硬さ):127N(JIS K 6400−2)
【0041】
<皮膜付き吸音材の物性評価>
上述のように製造された実施例1〜11の皮膜付き吸音材および比較例1〜7の皮膜付き吸音材に対して、追従性の評価を行なった。具体的には、上述したウレタンフォーム(幅20mm×長さ150mm×厚さ30mm)の表面に、厚さ50μmの皮膜を形成することで、実施例1〜11の皮膜付き吸音材および比較例1〜7の皮膜付き吸音材の試験片を作製する。次に、試験片の裏面に両面テープを貼着し、3種類の径の異なる樹脂製の円筒(φ160mm、φ120mm、φ90mm)の外周面に、貼り合わせる。そして、常温で24時間放置した後に、皮膜に亀裂,やぶれ等が生じていないかを目視にて確認する。この際、皮膜に亀裂等が生じていない場合に、「○」と評価し、皮膜に亀裂等が生じている場合に、「×」と評価する。その評価結果を、
図1〜
図3に示す「追従性」の欄に、円筒の径毎に示す。
【0042】
また、皮膜の形成されていない吸音材、つまり、上述した基体としてのウレタンフォーム(以下、「皮膜無し吸音材」と記載する)と、実施例1の皮膜付き吸音材とに対して、JIS A 1405−2(垂直入射吸音率)に基づいて吸音率を測定した(試験器:ブリュエル・ケアー製 音響試験器、音響管;4206/4206−T型インピーダンス管基本構成および透過損失管キット)。その測定結果を、
図6に示す。
【0043】
また、実施例1〜11の皮膜のみの単体、および比較例1〜7の皮膜のみの単体に対して、JIS K 6400−5に基づく方法に準拠して、伸び(%)を測定した。その測定結果を、
図1〜
図3の「伸び(%)」の欄に示す。
【0044】
以上の結果から、ウレタンフォームの表面に皮膜を形成することで、低周波域を含む幅広い周波数域の音を好適に吸音可能であることが解る。具体的には、
図6に示すように、実施例1の皮膜付き吸音材の吸音特性は、皮膜無し吸音材と比較して、100〜400Hz程度、低い周波数域にシフトしており、実施例1の皮膜付き吸音材は、皮膜無し吸音材と比較して、低周波域を含む幅広い周波数域の音を好適に吸音する特性を有している。
【0045】
また、吸音材の皮膜の原料として、アリルエーテル基とビニルエーテル基とアクリレート基との少なくとも1つを末端官能基として有するウレタンプレポリマーと、チオール基を有するポリチオールとを採用することで、エンチオール反応を利用して、ウレタンプレポリマーとポリチオールとを混合した混合原料に紫外線を照射するだけで、皮膜を形成することができる。このことは、比較例6の皮膜付き吸音材から明らかである。詳しくは、比較例6の皮膜付き吸音材では、原料としてポリチオールが配合されておらず、ウレタンプレポリマーのみの原料は、紫外線の照射により硬化せず、皮膜を形成することができなかった。一方、実施例1〜11の全ての皮膜付き吸音材では、原料として、ウレタンプレポリマーとポリチオールとを採用することで、プレポリマーとポリチオールとの混合原料は、紫外線の照射により硬化し、適切に皮膜が形成される。このことから、原料として、ウレタンプレポリマーとポリチオールとを採用することで、紫外線の照射により、皮膜を形成可能であることが解る。これにより、乾燥工程,加熱工程等の工程を行うことなく、紫外線を照射することで、皮膜付き吸音材を製造することが可能となり、製造効率が向上する。また、エンチオール反応を利用した硬化反応では、酸素の存在による硬化不良が無いため、酸素を遮断する必要が無く、設備の軽減を図ることが可能となる。
【0046】
また、全チオール基の全当量数の、各ウレタンプレポリマーのビニルエーテル基とアリルエーテル基とアクリレート基との少なくとも1つの全当量数に対する比率(エン/チオール比)は、高過ぎても、低過ぎても、皮膜の追従性が悪い。具体的には、実施例1〜11の全ての皮膜付き吸音材では、エン/チオール比は1.0〜2.3であり、追従性の評価において、全ての径の円筒(φ160mm、φ120mm、φ90mm)で良好である。一方、比較例4の皮膜付き吸音材では、エン/チオール比は0.5であり、追従性の評価において、径の短い円筒(φ90mm)で皮膜に亀裂等が生じ、追従性が悪い。また、比較例5の皮膜付き吸音材では、エン/チオール比は2.5であり、追従性の評価において、径の短い円筒(φ90mm)で皮膜に亀裂等が生じ、追従性が悪い。このことから、エン/チオール比は、誤差を考慮して、0.7〜2.3であることが好ましい。
【0047】
また、皮膜の原料として配合されるポリチオールの平均官能基数は、低すぎると、追従性が悪い。具体的には、比較例1の皮膜付き吸音材では、ポリチオールの平均官能基数は2.0であり、追従性の評価において、全ての径の円筒(φ160mm、φ120mm、φ90mm)で皮膜に亀裂等が生じ、追従性が悪い。一方、実施例1〜11の全ての皮膜付き吸音材では、ポリチオールの平均官能基数は2.5以上であり、追従性の評価において、全ての径の円筒(φ160mm、φ120mm、φ90mm)で良好である。このことから、ポリチオールの平均官能基数は、2.5以上であることが好ましい。
【0048】
また、皮膜の原料として配合されるウレタンプレポリマーの重量平均分子量は、高過ぎても、低過ぎても、皮膜の追従性が悪い。具体的には、実施例1〜11の全ての皮膜付き吸音材では、ウレタンプレポリマーの重量平均分子量は2755〜20755であり、追従性の評価において、全ての径の円筒(φ160mm、φ120mm、φ90mm)で良好である。一方、比較例2の皮膜付き吸音材では、ウレタンプレポリマーの重量平均分子量は1581であり、追従性の評価において、全ての径の円筒(φ160mm、φ120mm、φ90mm)で皮膜に亀裂等が生じ、追従性が悪い。また、比較例3の皮膜付き吸音材では、ウレタンプレポリマーの重量平均分子量は30755であり、追従性の評価において、径の短い円筒(φ90mm)で皮膜に亀裂等が生じ、追従性が悪い。このことから、ウレタンプレポリマーの重量平均分子量は、誤差を考慮して、2000〜30000であることが好ましい。
【0049】
また、吸音材が角部,コーナー部に用いられる際には、皮膜は、基体とともに大きく撓められることから、皮膜の伸びは100%以上であることが望ましい。ただし、皮膜の原料として配合されるウレタンプレポリマーの重量平均分子量が低すぎる場合、若しくは、皮膜の原料としてポリチオールが配合されない場合には、皮膜の伸びが低下する。具体的には、比較例2の皮膜付き吸音材では、ウレタンプレポリマーの重量平均分子量は1581であり、皮膜の伸びは50%である。また、比較例7の皮膜付き吸音材では、ポリチオールが配合されておらず、皮膜の伸びは70%である。このことからも、ウレタンプレポリマーの重量平均分子量は、誤差を考慮して、2000以上であることが好ましく、皮膜の原料としてポリチオールを配合することが好ましい。