特開2018-41872(P2018-41872A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2018-41872複合磁性材料、その複合磁性材料を熱硬化して得られる複合磁性成形体、その複合磁性成形体を用いて得られる電子部品、およびそれらの製造方法
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  • 特開2018041872-複合磁性材料、その複合磁性材料を熱硬化して得られる複合磁性成形体、その複合磁性成形体を用いて得られる電子部品、およびそれらの製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-41872(P2018-41872A)
(43)【公開日】2018年3月15日
(54)【発明の名称】複合磁性材料、その複合磁性材料を熱硬化して得られる複合磁性成形体、その複合磁性成形体を用いて得られる電子部品、およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20180216BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20180216BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20180216BHJP
【FI】
   H01F1/26
   H01F41/02 D
   C22C38/00 303S
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-175840(P2016-175840)
(22)【出願日】2016年9月8日
(71)【出願人】
【識別番号】000107804
【氏名又は名称】スミダコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】川原井 貢
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一央
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA01
5E041AA11
5E041BB04
5E041BB05
5E041BB06
5E041CA01
5E041HB15
5E041NN04
(57)【要約】
【課題】極めて錆び難いため電気的特性が劣化し難く、かつ、強度に優れる電子部品を得ることができる複合磁性材料、その複合磁性材料を熱硬化して得られる複合磁性成形体の提供。
【解決手段】金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、有機金属石鹸と、を含み、前記有機金属石鹸の融点は、前記バインダ樹脂の熱硬化温度以下であり、前記有機金属石鹸の含有量(重量)/(前記有機金属石鹸の含有量(重量)+前記金属磁性粉末の含有量(重量)+前記バインダ樹脂の含有量(重量))×100の計算値は0.01wt%超、2.0wt%未満であり、成形して複合磁性成形体を得た後、前記熱硬化温度にて熱硬化すると、硬化した前記バインダ樹脂および溶融した後に固化した有機金属石鹸が前記金属磁性粉末の表面を被覆している複合磁性熱硬化体が得られる、複合磁性材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、有機金属石鹸と、を含み、前記有機金属石鹸の融点は、前記バインダ樹脂の熱硬化温度以下であり、
前記有機金属石鹸の含有量(重量)/(前記有機金属石鹸の含有量(重量)+前記金属磁性粉末の含有量(重量)+前記バインダ樹脂の含有量(重量))×100の計算値は0.01wt%超、2.0wt%未満である、複合磁性材料。
【請求項2】
複合磁性材料を成形した複合磁性成形体を熱硬化した複合磁性熱硬化体であって、
前記複合磁性材料は、金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、有機金属石鹸と、を含み、前記有機金属石鹸の融点は、前記バインダ樹脂の熱硬化温度以下であり、
前記複合磁性材料において、有機金属石鹸の含有量(重量)/(有機金属石鹸の含有量(重量)+金属磁性粉末の含有量(重量)+前記バインダ樹脂の含有量(重量))×100の計算値は0.01wt%超、2.0wt%未満であり、
前記複合磁性成形体を前記熱硬化温度にて熱硬化したことで、硬化した前記バインダ樹脂および溶融した後に固化した有機金属石鹸が、前記金属磁性粉末の表面を被覆している、複合磁性熱硬化体。
【請求項3】
請求項2に記載の複合磁性熱硬化体の内部に部材を包埋している、電子部品。
【請求項4】
前記部材がコイルである、請求項3に記載の電子部品。
【請求項5】
金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、有機金属石鹸と、を含み、前記有機金属石鹸の含有量(重量)/(前記有機金属石鹸の含有量(重量)+前記金属磁性粉末の含有量(重量)+前記バインダ樹脂の含有量(重量))×100の計算値が0.01wt%超、2.0wt%未満である複合磁性材料を得る原料調製工程と、
前記複合磁性材料を用いて成形して、内部に部材を包埋している複合磁性成形体[1]を得る成形工程と、
前記複合磁性成形体[1]を、前記有機金属石鹸の融点よりも高い熱硬化温度にて熱硬化する熱硬化工程と、
を備え、硬化した前記バインダ樹脂および溶融した後に固化した有機金属石鹸が前記金属磁性粉末の表面を被覆している複合磁性熱硬化体が部材を包埋している電子部品が得られる、電子部品の製造方法。
【請求項6】
金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、有機金属石鹸と、を含み、前記有機金属石鹸の含有量(重量)/(前記有機金属石鹸の含有量(重量)+前記金属磁性粉末の含有量(重量)+前記バインダ樹脂の含有量(重量))×100の計算値が0.01wt%超、2.0wt%未満である複合磁性材料を得る原料調製工程と、
前記複合磁性材料を金型に注型し、成形して、内部に部材を包埋している複合磁性成形体[2]を得る成形工程と、
前記複合磁性成形体[2]を、前記有機金属石鹸の融点よりも高い熱硬化温度にて熱硬化する熱硬化工程と、
を備え、硬化した前記バインダ樹脂および溶融した後に固化した有機金属石鹸が前記金属磁性粉末の表面を被覆している複合磁性熱硬化体が部材を包埋している電子部品が得られる、電子部品の製造方法。
【請求項7】
金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、有機金属石鹸と、可塑剤と、を含み、前記有機金属石鹸の含有量(重量)/(前記有機金属石鹸の含有量(重量)+前記金属磁性粉末の含有量(重量)+前記バインダ樹脂の含有量(重量))×100の計算値が0.01wt%超、2.0wt%未満である複合磁性材料を得る原料調製工程と、
前記複合磁性材料を金型に注型し、成形して、内部に部材を包埋している複合磁性成形体[3]を得る成形工程と、
前記複合磁性成形体[3]を、前記有機金属石鹸の融点よりも高い熱硬化温度にて熱硬化する熱硬化工程と、
を備え、硬化した前記バインダ樹脂および溶融した後に固化した有機金属石鹸が前記金属磁性粉末の表面を被覆している複合磁性熱硬化体が部材を包埋している電子部品が得られる、電子部品の製造方法。
【請求項8】
金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、有機金属石鹸と、溶媒と、を含み、前記有機金属石鹸の含有量(重量)/(前記有機金属石鹸の含有量(重量)+前記金属磁性粉末の含有量(重量)+前記バインダ樹脂の含有量(重量))×100の計算値が0.01wt%超、2.0wt%未満である複合磁性材料を得る原料調製工程と、
前記溶媒を含む前記複合磁性材料を金型へ流し込んで注型し、成形して、内部に部材を包埋している複合磁性成形体[4]を得る成形工程と、
前記複合磁性成形体[4]を、前記有機金属石鹸の融点よりも高い熱硬化温度にて熱硬化する熱硬化工程と、
を備え、硬化した前記バインダ樹脂および溶融した後に固化した有機金属石鹸が前記金属磁性粉末の表面を被覆している複合磁性熱硬化体が部材を包埋している電子部品が得られる、電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合磁性材料、その複合磁性材料を熱硬化して得られる複合磁性成形体、その複合磁性成形体を用いて得られる電子部品、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属磁性粉末にバインダ樹脂として熱硬化性樹脂を混合し、これを成形して熱硬化した複合磁性熱硬化体を、絶縁被膜を有する導線を卷回したコイルと組み合わせた電子部品等には、種々の信頼性が要求されている。
【0003】
これに関連した従来法として、例えば特許文献1には、主成分としてFeを含み、前記主成分に次いで含有率の大きい副成分として、Si、AlおよびCrのうちの少なくとも1種を含む軟磁性材料で構成され、表面が酸化鉄を含む酸化物層で覆われた一次粒子を用意する第1の工程と、該一次粒子に対して、不活性雰囲気中で熱処理を施すことにより、前記酸化物層中の酸化鉄の少なくとも一部を還元するとともに、前記酸化物層中に前記副成分の酸化物を生成し、二次粒子を得る第2の工程とを有することを特徴とする酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法が記載され、また、この製造方法により製造されたことを特徴とする酸化物被覆軟磁性粉末が記載され、また、この酸化物被覆軟磁性粉末とバインダ樹脂との混合物を、加圧・成形して成形体を得た後、該成形体中の前記バインダ樹脂を硬化させてなることを特徴とする圧粉磁心、さらにこの圧粉磁心を備えた磁性素子が記載されている。そして、これらによれば、表面を絶縁性の高い酸化物で被覆してなり、長期にわたって渦電流損失が小さく、高透磁率の圧粉磁心を製造可能な酸化物被覆軟磁性粉末を安価に製造することができる酸化物被覆軟磁性粉末の製造方法、かかる製造方法により製造された酸化物被覆軟磁性粉末、この粉末を用いて製造され、高透磁率で低損失の圧粉磁心、およびこの圧粉磁心を備えた高性能の磁性素子を提供できると記載されている。
【0004】
このような金属磁性粉末を用いた電子部品には、特に、塩水噴霧試験に供しても錆が発生しない程度の防錆性能を備えることが強く求められている。
ここで、本来、金属磁性粉末はバインダである熱硬化性樹脂に均等にコーティングされていて、これにより防錆が確保されることが期待されている。しかしながら、酸化した金属磁性粉末の表面とバインダである熱硬化性樹脂の濡れ性を完全に一致させることは難しく、金属磁性粉末の表面を完全にバインダである熱硬化性樹脂でコーティングすることはできないのが現状である。そのために、金属磁性粉末の表面をカップリング剤で改質したり、分散剤を添加して濡れ性を改善したりする手法が検討され、実施されている。
また、防錆性能を高めるために、現在、電子部品製品の樹脂塗装やコーティング(CVDコーティング、フッ素コーティング等)が行われているが、材料費が高い、加工コストがかかる等の問題や、電子部品の電極部分を避けてコーティングする必要があるという技術的な問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−88502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような従来法では、塩水噴霧試験に耐える防錆性能は得られないのが実情である。本発明者は、この原因を種々解析検討し、金属磁性粉末の表面の物理的・化学的性状により、バインダにコーティングされていない部分が残存し、塩水噴霧試験では、この部分において金属磁性粉末に錆が発生し、また、錆はこれを起点にしてコーティングされた部分の下層に侵行し広がっていくとの結論に達した。また、バインダにコーティングされていない部分は、バインダと混合した時点ではコーティングされているものの、成形時(熱硬化前)の金型との摩擦や成形体の搬送時の成形体同士の摩擦により、コーティング膜が削り取られて発生する場合があることも、本発明者は見出した。
【0007】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。
すなわち、本発明の目的は、極めて錆び難いため電気的特性が劣化し難く、かつ、強度に優れる電子部品を得ることができる複合磁性材料、その複合磁性材料を熱硬化して得られる複合磁性成形体、その複合磁性成形体を用いて得られる電子部品、およびそれらの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討し、特定の有機金属石鹸を特定量配合することにより、熱硬化時に、配合した有機金属石鹸が溶融して金属磁性粉末の表面に広がり、バインダ(熱硬化性樹脂)でコーティングされていない部分等をコーティングし、これによって金属磁性粉末の表面のコーティングされていない部分が大幅に減少し、塩水噴霧試験に耐える防錆性能が確保されることを見出し、本発明を完成させた。
ここで本発明者はバインダ(熱硬化性樹脂)でコーティングされていない部分、すなわち、金属磁性粉末の露出しているピンホール等を、有機金属石鹸の溶融物が選択的に塞いでいると推測している。
【0009】
本発明は、
金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、有機金属石鹸と、を含み、前記有機金属石鹸の融点は、前記バインダ樹脂の熱硬化温度以下であり、
前記有機金属石鹸の含有量(重量)/(前記有機金属石鹸の含有量(重量)+前記金属磁性粉末の含有量(重量)+前記バインダ樹脂含有量(重量))×100の計算値は0.01wt%超、2.0wt%未満である、複合磁性材料である。
このような複合磁性材料を、以下では「本発明の材料」ともいう。
【0010】
また、本発明は、
複合磁性材料を成形した複合磁性成形体を熱硬化した複合磁性熱硬化体であって、
前記複合磁性材料は、金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、有機金属石鹸と、を含み、前記有機金属石鹸の融点は、前記バインダ樹脂の熱硬化温度以下であり、
前記複合磁性材料において、有機金属石鹸の含有量(重量)/(有機金属石鹸の含有量(重量)+金属磁性粉末の含有量(重量)+前記バインダ樹脂含有量(重量))×100の計算値は0.01wt%超、2.0wt%未満であり、
前記複合磁性成形体を前記熱硬化温度にて熱硬化したことで、硬化した前記バインダ樹脂および溶融した後に固化した有機金属石鹸が、前記金属磁性粉末の表面を被覆している、複合磁性熱硬化体である。
このような複合磁性材料を、以下では「本発明の熱硬化体」ともいう。
【0011】
また、本発明は、本発明の熱硬化体の内部に部材を包埋している、電子部品である。
このような電子部品を、以下では「本発明の電子部品」ともいう。
【0012】
本発明の電子部品では、前記部材がコイルであることが好ましい。
【0013】
本発明の電子部品の製造方法は、
金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、有機金属石鹸と、を含み、前記有機金属石鹸の含有量(重量)/(前記有機金属石鹸の含有量(重量)+前記金属磁性粉末の含有量(重量)+前記バインダ樹脂含有量(重量))×100の計算値が0.01wt%超、2.0wt%未満である複合磁性材料を得る原料調製工程と、
前記複合磁性材料を用いて成形して、内部に部材を包埋している複合磁性成形体[1]を得る成形工程と、
前記複合磁性成形体[1]を、前記有機金属石鹸の融点よりも高い熱硬化温度にて熱硬化する熱硬化工程と、
を備え、硬化した前記バインダ樹脂および溶融した後に固化した有機金属石鹸が前記金属磁性粉末の表面を被覆している複合磁性熱硬化体が部材を包埋している電子部品が得られる、電子部品の製造方法であることが好ましい。
【0014】
本発明の電子部品の製造方法は、
金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、有機金属石鹸と、を含み、前記有機金属石鹸の含有量(重量)/(前記有機金属石鹸の含有量(重量)+前記金属磁性粉末の含有量(重量)+前記バインダ樹脂含有量(重量))×100の計算値が0.01wt%超、2.0wt%未満である複合磁性材料を得る原料調製工程と、
前記複合磁性材料を金型に押し入れ、成形して、内部に部材を包埋している複合磁性成形体[2]を得る成形工程と、
前記複合磁性成形体[2]を、前記有機金属石鹸の融点よりも高い熱硬化温度にて熱硬化する熱硬化工程と、
を備え、硬化した前記バインダ樹脂および溶融した後に固化した有機金属石鹸が前記金属磁性粉末の表面を被覆している複合磁性熱硬化体が部材を包埋している電子部品が得られる、電子部品の製造方法であることが好ましい。
【0015】
本発明の電子部品の製造方法は、
金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、有機金属石鹸と、可塑剤と、を含み、前記有機金属石鹸の含有量(重量)/(前記有機金属石鹸の含有量(重量)+前記金属磁性粉末の含有量(重量)+前記バインダ樹脂の含有量(重量))×100の計算値が0.01wt%超、2.0wt%未満である複合磁性材料を得る原料調製工程と、
前記複合磁性材料を金型に押し入れ、成形して、内部に部材を包埋している複合磁性成形体[3]を得る成形工程と、
前記複合磁性成形体[3]を、前記有機金属石鹸の融点よりも高い熱硬化温度にて熱硬化する熱硬化工程と、
を備え、硬化した前記バインダ樹脂および溶融した後に固化した有機金属石鹸が前記金属磁性粉末の表面を被覆している複合磁性熱硬化体が部材を包埋している電子部品が得られる、電子部品の製造方法であることが好ましい。
【0016】
本発明の電子部品の製造方法は、
金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、有機金属石鹸と、溶媒と、を含み、前記有機金属石鹸の含有量(重量)/(前記有機金属石鹸の含有量(重量)+前記金属磁性粉末の含有量(重量)+前記バインダ樹脂の含有量(重量))×100の計算値が0.01wt%超、2.0wt%未満である複合磁性材料を得る原料調製工程と、
前記溶媒を含む前記複合磁性材料を金型へ流し込んで注型し、成形して、内部に部材を包埋している複合磁性成形体[4]を得る成形工程と、
前記複合磁性成形体[4]を、前記有機金属石鹸の融点よりも高い熱硬化温度にて熱硬化する熱硬化工程と、
を備え、硬化した前記バインダ樹脂および溶融した後に固化した有機金属石鹸が前記金属磁性粉末の表面を被覆している複合磁性熱硬化体が部材を包埋している電子部品が得られる、電子部品の製造方法であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、極めて錆び難いため電気的特性が劣化し難く、かつ、強度に優れる電子部品を得ることができる複合磁性材料、その複合磁性材料を熱硬化して得られる複合磁性成形体、その複合磁性成形体を用いて得られる電子部品、およびそれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例における強度測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<本発明の材料>
本発明の材料について説明する。
本発明の材料は、金属磁性粉末と、熱硬化性樹脂と、有機金属石鹸とを含む。
【0020】
金属磁性粉末について説明する。
金属磁性粉末は鉄を主成分とする磁性粉末であれば特に限定されず、例えば、鉄を主成分とし、副成分として、クロム(Cr)、シリコン(Si)、カーボン(C)、アルミ(Al)、マンガン(Mn)などを添加したものを用いることができる。また、アモルファス金属粉末を用いても良い。
ここで金属磁性粉末における鉄の含有率は90wt%以上であることが好ましく、92wt%以上であることがより好ましい。また、98wt%以下であることが好ましく、97wt%以下であることがより好ましい。
金属磁性粉末は、上記のような副成分の少なくとも1つを含み、残部が鉄および不可避的不純物であることが好ましい。
【0021】
金属磁性粉末は、Crを2〜10wt%含むことが好ましく、3〜8wt%含むことがより好ましい。
Crは大気中の酸素と結合して、化学的に安定な酸化物(例えば、Cr23等)を容易に生成する。このため、Crを含む複合磁性材料は、耐食性に特に優れたものとなる。さらにCrの酸化物は比抵抗が大きいため、複合磁性材料で構成された粒子の表面付近にCrの酸化物層が形成されることにより、粒子間をより確実に絶縁することができる。
したがって、Crの含有率を前記範囲内とすることにより、耐食性に優れるとともに、渦電流損失のより小さい電子部品を製造可能な複合磁性材料が得られる。
【0022】
金属磁性粉末は、Siを2〜10wt%含むことが好ましく、3〜8wt%含むことがより好ましい。
Siは金属磁性粉末を用いて得られる電子部品の透磁率を高め得る成分である。また、金属磁性粉末がSiを含むと比抵抗が高くなるため、圧粉磁心などの電子部品に発生する誘導電流を低減し、渦電流損失を低減し得る成分でもある。
したがって、Siの含有率を前記範囲内とすることにより、透磁率を高めつつ、渦電流損失のより小さい電子部品を製造可能な複合磁性材料が得られる。
【0023】
金属磁性粉末は、C(カーボン)を0.5〜2.0wt%含むことが好ましく、0.7〜1.5wt%含むことがより好ましく、0.5wt%程度含むことがさらに好ましい。C(カーボン)の含有率がこのような範囲であると、コアロスを低く抑えられる点で好ましい。
【0024】
金属磁性粉末は、Alを2〜10wt%含むことが好ましく、3〜8wt%含むことがより好ましい。
Alは大気中の酸素と結合して、化学的に安定な酸化物(例えば、Al23等)を容易に生成する。このため、Alを含む複合磁性材料は、耐食性に特に優れたものとなる。
さらに、Alの酸化物は、特に強固で安定性が高いため、金属磁性粉末で構成された粒子の表面付近にAlの酸化物層が形成されることにより、粒子間をより確実に絶縁することができる。
したがって、Alの含有率を前記範囲内とすることにより、耐食性に優れるとともに、渦電流損失のより小さい電子部品を製造可能な複合磁性材料が得られる。
【0025】
金属磁性粉末は、上記のような主成分および副成分の他に、副成分より含有率の小さい成分として、B(ホウ素)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Mn(マンガン)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Ga(ガリウム)、Ge(ゲルマニウム)、Zr(ジルコニウム)、Nb(ニオブ)、Mo(モリブデン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Ta(タンタル)等のうちの少なくとも1種を含んでいてもよい。その場合、これらの成分の含有率の総和は、1wt%以下とするのが好ましい。
また、金属磁性粉末は、製造過程で不可避的に混入するP(リン)、S(硫黄)等の成分を含んでいてもよい。その場合、これらの成分の含有率の総和は、1wt%以下とするのが好ましい。
【0026】
金属磁性粉末は、平均粒子径が5〜30μmであるのが好ましく、7〜25μmであるのがより好ましく、8〜20μmであるのがさらに好ましい。
【0027】
金属磁性粉末は、水アトマイズ法により製造されたものを用いることが好ましい。
水アトマイズ法は、溶湯(溶融金属)を、高速で噴射した水(アトマイズ水)に衝突させることにより、溶湯を微粉化するとともに冷却して、金属粉末を製造する方法である。水アトマイズ法で製造された金属磁性粉末は、その製造過程で表面が酸化し、酸化鉄を含む酸化物層が自然に形成される。
また、水アトマイズ法により製造された金属磁性粉末は、その形状が球形に近くなる。このため、最終的に得られる複合磁性材料の流動性が高くなり、この金属磁性粉末を用いて複合磁性熱硬化体や電子部品を製造する際に、その充填率を高めることができる。その結果、より高密度・高磁束密度のものが得られる。
【0028】
本発明の材料において金属磁性粉末の含有率は90〜99wt%であることが好ましく、92〜98wt%であることがより好ましい。
【0029】
バインダ樹脂について説明する。
バインダ樹脂はバインダとしての役割を果たすものであれば特に限定されず、シリコン系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等の有機熱硬化性或いは熱可塑性バインダ、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸カドミウムのようなリン酸塩、ケイ酸ナトリウムのようなケイ酸塩(水ガラス)等の無機バインダ等が挙げられるが、特に、シリコン系樹脂またはエポキシ系熱硬化性樹脂が好ましい。これらの樹脂材料は、加熱されることによって容易に硬化するとともに、耐熱性に優れたものである。
【0030】
本発明の材料におけるバインダ樹脂の含有量は、バインダ樹脂の含有量(重量)/(バインダ樹脂の含有量(重量)+金属磁性粉末の含有量(重量))×100の計算値が1〜10wt%となる量であることが好ましく、2〜8wt%となる量であることがより好ましく、4.0wt%程度となる量であることがさらに好ましい。
本発明の材料におけるバインダ樹脂の含有量がこのような範囲であると、極めて錆び難いため電気的特性が劣化し難く、かつ、強度に優れる電子部品を得ることができる複合磁性材料が得られる。
【0031】
有機金属石鹸について説明する。
有機金属石鹸は、その融点が前記バインダ樹脂の熱硬化温度以下のものであり、かつ、NaまたはKを含まないものであれば特に限定されない。
ここでバインダ樹脂は、バインダ樹脂の種類等によってある程度の範囲内に決まるものであるが、その範囲内において選択された特定の温度を意味するものとする。例えば130〜230℃の範囲において好ましく熱硬化するバインダ樹脂を用い、150℃において熱処理することで熱硬化を行った場合、熱処理温度は150℃である。この場合、有機金属石鹸は、その融点が150℃以下のものを用いる。
【0032】
有機金属石鹸として、例えば長鎖脂肪酸金属石鹸が挙げられ、具体的にはステアリン酸金属石鹸、プロピオン酸金属石鹸、ナフテン酸金属石鹸、べヘン酸系、モンタン酸系、ラウリン酸系、オクチル酸金属石鹸、リシノール酸金属石鹸等が挙げられ、より具体的には、マグネシウムステアレート、カルシウムステアレート、カルシウムラウレート、アルミニウムラウレート、12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム、12−ヒドロキシステアリン酸亜鉛、12−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム、12−ヒドロキシステアリン酸アルミバリウム、12−ヒドロキシステアリン酸リチウム、亜鉛ステアレート、カルシウムベヘネート、カルシウムオクチコサネート、バリウムステアレート、アルミニウムステアレート、ジンク(亜鉛)ラウレート等が挙げられる。
【0033】
本発明の材料における有機金属石鹸の含有量は、有機金属石鹸の含有量(重量)/(有機金属石鹸の含有量(重量)+金属磁性粉末の含有量(重量)+バインダ樹脂の含有量(重量))×100の計算値が0.01wt%超、2.0wt%未満となる量であり、0.02〜1.8wt%となる量であることがより好ましく、0.20〜1.0wt%となる量であることがさらに好ましい。
本発明の材料における有機金属石鹸の含有量がこのような範囲であると、極めて錆び難いため電気的特性が劣化し難く、かつ、強度に優れる電子部品を得ることができる複合磁性材料が得られる。
【0034】
本発明の材料は、上記のような金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、有機金属石鹸とを含み、さらに溶媒を含んでもよい。溶媒はバインダ樹脂へ添加した後、他の成分と混合することが好ましい。
溶媒はバインダ樹脂を溶解し得る有機溶媒であれば特に限定されないが、例えば、トルエン、クロロホルム、酢酸エチル等が挙げられる。
本発明の材料において溶媒の含有率は特に限定されないが、1.0〜10.0wt%であることが好ましく、2.0〜8.0wt%であることがより好ましい。
【0035】
本発明の材料は、上記のような金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、有機金属石鹸とを含み、また、成形して複合磁性成形体を得た後、前記熱硬化温度にて熱硬化すると、硬化した前記バインダ樹脂および溶融した後に固化した有機金属石鹸が前記金属磁性粉末の表面を被覆している複合磁性熱硬化体が得られるものである。
なお、複合磁性成形体および複合磁性熱硬化体については後述する。
【0036】
本発明の材料は分級を施したものであってもよい。分級の方法としては、例えば、ふるい分け分級、慣性分級、遠心分級のような乾式分級、沈降分級のような湿式分級等が挙げられる。
【0037】
本発明の材料は造粒されたものであってもよい。造粒の方法としては、混練造粒、ペレタイジングなどの従来公知の方法を適用することができる。
【0038】
<本発明の材料の製造方法>
本発明の材料の製造方法について説明する。
本発明の材料は、前述の金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、有機金属石鹸とを、前述の量にて混合して得ることができる。さらに溶媒を含んでいてもよい。
また、バインダ樹脂、有機金属石鹸および溶媒を混合した後、ここへ金属磁性粉末を添加して混合して得てもよいし、金属磁性粉末と有機金属石鹸とを混合した後、ここへバインダ樹脂および必要に応じて溶媒を添加して混合して得てもよいし、金属磁性粉末とバインダ樹脂と必要に応じて溶媒とを混合した後、ここへ有機金属石鹸を添加して混合して得てもよい。
【0039】
ここで混合は混錬造粒であってよい。また、混合した後、分級を施してもよい。分級の方法としては、例えば、ふるい分け分級、慣性分級、遠心分級のような乾式分級、沈降分級のような湿式分級等が挙げられる。
なお、本発明の材料が溶媒を含む場合、混合することで溶媒は揮発する場合がある。したがって、混合した後の本発明の材料には溶媒がほとんど含まれていない場合もある。
【0040】
<本発明の熱硬化体>
本発明の熱硬化体について説明する。
本発明の熱硬化体は、前述の本発明の材料を成形した複合磁性成形体を熱硬化した複合磁性熱硬化体である。
【0041】
複合磁性成形体は、本発明の材料を用いて従来公知の方法で成形して得ることができる。この成型方法は、後述する本発明の電子部品の製造方法における成形工程と同様の方法であることが好ましい。
複合磁性成形体の形状、大きさ等も特に限定されない。
【0042】
複合磁性成形体を所定の熱硬化温度にて熱処理して熱硬化することで、本発明の熱硬化体が得られる。熱硬化は従来公知の方法で行うことができる。この熱硬化方法は、後述する本発明の電子部品の製造方法における熱硬化工程と同様の方法であることが好ましい。
【0043】
本発明の熱硬化体は、本発明の材料を成形した複合磁性成形体を熱硬化した複合磁性熱硬化体であり、前記複合磁性成形体を前記熱硬化温度にて熱硬化したことで、硬化した前記バインダ樹脂および溶融した後に固化した有機金属石鹸が、前記金属磁性粉末の表面を被覆している、複合磁性熱硬化体である。
なお、前記複合磁性成形体および本発明の熱硬化体の組成は、原則、本発明の材料の組成と同じである。
【0044】
<本発明の熱硬化体の製造方法>
本発明の熱硬化体の製造方法について説明する。
本発明の熱硬化体の製造方法は、後述する本発明の電子部品の製造方法における原料調製工程と、成形工程とを備え、さらに本発明の電子部品の製造方法における熱硬化工程において部材(コイル等)を含まない状態で熱硬化する工程とを備えることが好ましい。
【0045】
<本発明の電子部品>
本発明の電子部品について説明する。
本発明の電子部品は、前述の本発明の熱硬化体の内部に部材を包埋しているものである。
ここで部材として、磁心を備えた各種磁性素子(電磁気部品)が挙げられ、具体的にはコイル(チョークコイルを含む)、インダクタ、ノイズフィルタ、リアクトル、モータ、発電機、トランス、アンテナなどが挙げられる。
【0046】
<本発明の電子部品の製造方法>
本発明の電子部品の製造方法について説明する。
本発明の電子部品の製造方法は原料調製工程と、成形工程と、熱硬化工程とを備える。ここで原料調製工程は、前述の本発明の材料の製造方法と同様であってよい。
以下では、本発明の熱硬化体の製造方法における好ましい態様(態様1〜態様4)について説明する。
【0047】
[態様1]
初めに、本発明の熱硬化体の製造方法における好ましい態様の1つである態様1について説明する。
態様1における原料調製工程は、前述の本発明の材料の製造方法と同様であって、溶媒が少ない、または溶媒がほとんど含まれていない複合磁性材料(本発明の材料)を得る工程である。
すなわち、態様1における原料調製工程では、金属磁性粉末、バインダ樹脂および有機金属石鹸に、さらに溶媒を加えて混合する。ここで混合の程度を調整することで溶媒を揮発させることができるし、場合によって有機金属石鹸の融点より低い温度で加熱して溶媒を蒸発させても良い。混合する前における溶媒の含有率を5〜15wt%とすることが好ましい。混合造粒後は溶剤を乾燥させて溶剤含有率をほぼ0wt%とすることが好ましい。このような混合の種類としては、例えば混練造粒等が挙げられる。他の方法で混合した後に混錬造粒してもよく、さらに分級を施してもよい。
また、原料調製工程で得られた複合磁性材料を、後の成形工程の要求に基づいて、乾燥粉末状態から粘土状状態までにすることが可能である。
【0048】
態様1における成形工程では、このような原料調製工程によって得られた複合磁性材料を用いて成形して、内部に部材を包埋している複合磁性成形体[1]を得る。
複合磁性材料がその内部にコイル等の部材を包埋している複合磁性成形体[1]を得る方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法を適用することができる。
例えば所定の金型へコイル等の部材および複合磁性材料を装入し、所定の高い圧力、例えば3〜5ton/cm2にて複合磁性材料を圧縮して成形することができる。
また、上記圧縮成型より遥かに小さい、例えば千分の一程度、所定圧力で上記複合磁性材料を金型内に押し込むことで成形することもできる。
【0049】
態様1における熱硬化工程では、このような成形工程によって得られた複合磁性成形体[1]を、前記有機金属石鹸の融点よりも高い熱硬化温度にて熱硬化する。
熱硬化時間も特に限定されず、例えば0.1〜5時間であってよく、0.2〜1時間であることが好ましい。
熱硬化する方法も特に限定されず、例えば従来公知の恒温槽を用いて熱硬化することができる。
【0050】
[態様2]
態様2について説明する。
態様2における原料調製工程では、バインダ樹脂として、常温において流動性を備えるものを用いる。また、溶媒は含まなくてよい。
この場合、金属磁性粉末、バインダ樹脂および有機金属石鹸を混合すると、粘土状の複合磁性材料を得ることができる。
混合の種類としては、例えば混練造粒等が挙げられる。他の方法で混合した後に混錬造粒してもよい。
【0051】
態様2における成形工程では、このような原料調製工程によって得られた複合磁性材料を金型に押入れ、成形して、内部に部材を包埋している複合磁性成形体[2]を得る。
複合磁性材料がその内部にコイル等の部材を包埋している複合磁性成形体[2]を得る方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法を適用することができる。
例えば所定の金型へコイル等の部材および複合磁性材料を置き入れし、所定の圧力にて押し込むことで成形することができる。
【0052】
態様2における熱硬化工程は、態様1における熱硬化工程と同様であってよい。
【0053】
態様2の方法によって得られる本発明の電子部品は粘土状の複合磁性材料を用いるため、低圧で成形され、造粒の痕跡がない。したがって、複合磁性材料内部のコイル等を形成している部材へのダメージが少ないという点で優れる。
【0054】
[態様3]
態様3について説明する。
態様3における原料調製工程は、金属磁性粉末と、バインダ樹脂と、有機金属石鹸との他に、さらに可塑剤を含む複合磁性材料(本発明の材料)を得る工程である。
可塑剤としてはフタル酸ジエチル等の沸点150℃以上の有機溶剤を用いることができる。
また、可塑剤の添加量は本発明の材料において1〜4wt%とすることができる。
この場合、金属磁性粉末、バインダ樹脂、有機金属石鹸および可塑剤を混合すると、粘土状の複合磁性材料を得ることができる。
【0055】
態様3における成形工程は、態様2における成形工程と同様であってよい。
【0056】
態様3における熱硬化工程は、態様1における熱硬化工程と同様であってよい。
【0057】
態様3の方法によって得られる本発明の電子部品は粘土状の複合磁性材料を用いるため、低圧で成形され、造粒の痕跡がない。したがって、複合磁性材料内部のコイル等を形成している部材へのダメージが少ないという点で優れる。
【0058】
[態様4]
態様4について説明する。
態様4における原料調製工程は、前述の本発明の材料の製造方法と同様であって、溶媒が含まれる複合磁性材料(本発明の材料)を得る工程である。
すなわち、態様4における原料調製工程では、金属磁性粉末、バインダ樹脂、有機金属石鹸および溶媒を撹拌混合する。例えば混合する前における溶媒の含有率は5〜10wt%とすることができ、この場合、混合後における溶媒の含有率もほとんど変化しない。逆にいえばほとんど変化しないような撹拌混合を行う。
この場合、スラリー状の複合磁性材料を得ることができる。
【0059】
態様4における成形工程では、このような原料調製工程によって得られた複合磁性材料を金型に流し込み、成形して、内部に部材を包埋している複合磁性成形体[2]を得る。
複合磁性材料がその内部にコイル等の部材を包埋している複合磁性成形体[2]を得る方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法を適用することができる。
例えば所定の金型へコイル等の部材および複合磁性材料を流し込んで成形することができる。
【0060】
態様4における熱硬化工程では、上記のような成形工程によって得られたもの、すなわち、金型等の内部に部材および複合磁性材料が含まれているものを、そのままの状態で熱処理する。その他については態様1における熱硬化工程と同様であってよい。
【0061】
態様4の方法によって得られる本発明の電子部品はスラリー状の複合磁性材料を用いるため、無加圧の流し込み成型よって成形され、造粒の痕跡がない。したがって、複合磁性材料内部のコイル等を形成している部材へのダメージが少ないという点で優れる。
【0062】
本発明の電子部品の製造方法は、上記のような態様1〜4に代表される方法であって、硬化した前記バインダ樹脂および溶融した後に固化した有機金属石鹸が前記金属磁性粉末の表面を被覆している複合磁性熱硬化体が部材を包埋している電子部品が得られる製造方法である。
【実施例】
【0063】
<比較例1>
金属磁性粉末として、クロム4wt%、シリコン4wt%、カーボン0.5wt%、残部は鉄とする組成を備え、平均粒子径(D50)が12μmの水アトマイズ粉末を用意した。ここで平均粒子径は、MicrotracSRA150(HORIBA製作所社製)を用いて測定した。また、バインダ樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を用意した。
次に、バインダ樹脂を溶媒(トルエン)に加え十分に撹拌混合して樹脂溶液とした後、この樹脂溶液に金属磁性粉末を加え、混合しながらトルエンを蒸発し、混合物を混練造粒し、ふるいを通して整粒し造粒粉末とした。ここでトルエンに加えるバインダ樹脂の量は、バインダ樹脂の重量/(バインダ樹脂の重量+金属磁性粉末の重量)×100の計算値が4wt%となる量とした。
次に、この造粒粉末を金型を用いて2ton/cm2の圧力で成形し、外径10mm−厚さ1mmのディスク状の成形体を作製した。
次に、この成形体を恒温槽で150℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした。
【0064】
<実施例1−1〜1−8、比較例1−1〜1−2>
金属磁性粉末として、クロム4wt%、シリコン4wt%、カーボン0.5wt%、残部は鉄とする組成を備え、平均粒子径(D50)が12μmの水アトマイズ粉末を用意した。ここで平均粒子径は、MicrotracSRA150(HORIBA製作所社製)を用いて測定した。また、バインダ樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を用意した。さらに、有機金属石鹸としてマグネシウムステアレート(融点:140℃)を用意した。
次に、バインダ樹脂および有機金属石鹸をトルエンに加え十分に撹拌混合して樹脂溶液とした後、この樹脂溶液に金属磁性粉末を加え、混合しながらトルエンを蒸発し、混合物を混練造粒し、ふるいを通して整粒し造粒粉末とした。ここでトルエンに加えるバインダ樹脂の量は、バインダ樹脂の重量/(バインダ樹脂の重量+金属磁性粉末の重量)×100の計算値が4wt%となる量とした。また、トルエンに加える有機金属石鹸の量は、有機金属石鹸の重量/(有機金属石鹸の重量+金属磁性粉末の重量+バインダ樹脂の重量)×100の計算値が0.01wt%、0.02wt%、0.05wt%、0.10wt%、0.20wt%、0.50wt%、1.00wt%、1.50wt%、1.80wt%、2.00wt%の各々となる量とした。
次に、この造粒粉末を金型を用いて2ton/cm2の圧力で成形し、外径10mm−厚さ1mmのディスク状の成形体を作製した。
次に、この成形体を恒温槽で150℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした。
【0065】
<実施例2>
金属磁性粉末として、クロム4wt%、シリコン4wt%、カーボン0.5wt%、残部は鉄とする組成を備え、平均粒子径(D50)が12μmの水アトマイズ粉末を用意した。ここで平均粒子径は、MicrotracSRA150(HORIBA製作所社製)を用いて測定した。また、バインダ樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を用意した。さらに、有機金属石鹸としてマグネシウムステアレート(融点:140℃)を用意した。
次に、金属磁性粉末に有機金属石鹸を添加しV型混合機で30min混合した。ここで金属磁性粉末に加える有機金属石鹸の量は、有機金属石鹸の重量/(有機金属石鹸の重量+金属磁性粉末の重量+バインダ樹脂の重量)×100の計算値が0.50wt%となる量とした。
次に、金属磁性粉末に有機金属石鹸を添加し混合したものに、バインダ樹脂および少量のトルエンを加え、十分に撹拌混合して混合混錬し造粒し、ふるいを通して整粒し造粒粉末とした。ここでバインダ樹脂の量は、バインダ樹脂の重量/(バインダ樹脂の重量+金属磁性粉末の重量)×100の計算値が4wt%となる量とした。
次に、この造粒粉末を金型を用いて2ton/cm2の圧力で成形し、外径10mm−厚さ1mmのディスク状の成形体を作製した。
次に、この成形体を恒温槽で150℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした。
【0066】
<実施例3>
金属磁性粉末として、クロム4wt%、シリコン4wt%、カーボン0.5wt%、残部は鉄とする組成を備え、平均粒子径(D50)が12μmの水アトマイズ粉末を用意した。ここで平均粒子径は、MicrotracSRA150(HORIBA製作所社製)を用いて測定した。また、バインダ樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を用意した。さらに、有機金属石鹸としてマグネシウムステアレート(融点:140℃)を用意した。
次に、金属磁性粉末にバインダ樹脂および少量のトルエンを加え、十分に撹拌混合して混合混錬し造粒し、ふるいを通して整粒し造粒粉末とした。ここでバインダ樹脂の量は、バインダ樹脂の重量/(バインダ樹脂の重量+金属磁性粉末の重量)×100の計算値が4wt%となる量とした。
次に、この造粒粉末に有機金属石鹸を添加しV型混合機で30min混合した。ここで造粒粉末に加える有機金属石鹸の量は、有機金属石鹸の重量/(有機金属石鹸の重量+金属磁性粉末の重量+バインダ樹脂の重量)×100の計算値が0.50wt%となる量とした。
次に、この造粒粉末を金型を用いて2ton/cm2の圧力で成形し、外径10mm−厚さ1mmのディスク状の成形体を作製した。
次に、この成形体を恒温槽で150℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした。
【0067】
<比較例4−1、実施例4−1>
金属磁性粉末として、クロム4wt%、シリコン4wt%、カーボン0.5wt%、残部は鉄とする組成を備え、平均粒子径(D50)が12μmの水アトマイズ粉末を用意した。ここで平均粒子径は、MicrotracSRA150(HORIBA製作所社製)を用いて測定した。また、バインダ樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を用意した。さらに、有機金属石鹸としてカルシウムステアレート(融点:160℃)を用意した。
次に、バインダ樹脂および有機金属石鹸をトルエンに加え十分に撹拌混合して樹脂溶液とした後、この樹脂溶液に金属磁性粉末を加え、混合しながらトルエンを蒸発し、混合物を混練造粒し、ふるいを通して整粒し造粒粉末とした。ここでトルエンに加えるバインダ樹脂の量は、バインダ樹脂の重量/(バインダ樹脂の重量+金属磁性粉末の重量)×100の計算値が4wt%となる量とした。また、トルエンに加える有機金属石鹸の量は、有機金属石鹸の重量/(有機金属石鹸の重量+金属磁性粉末の重量+バインダ樹脂の重量)×100の計算値が0.50wt%となる量とした。
次に、この造粒粉末を金型を用いて2ton/cm2の圧力で成形し、外径10mm−厚さ1mmのディスク状の成形体を作製した。
次に、この成形体を恒温槽で150℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした(比較例4−1)。また、これとは別に、この成形体を恒温槽で180℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした(実施例4−1)。
【0068】
<比較例5−1、実施例5−1>
金属磁性粉末として、クロム4wt%、シリコン4wt%、カーボン0.5wt%、残部は鉄とする組成を備え、平均粒子径(D50)が12μmの水アトマイズ粉末を用意した。ここで平均粒子径は、MicrotracSRA150(HORIBA製作所社製)を用いて測定した。また、バインダ樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を用意した。さらに、有機金属石鹸としてカルシウムラウレート(融点:155℃)を用意した。
次に、バインダ樹脂および有機金属石鹸をトルエンに加え十分に撹拌混合して樹脂溶液とした後、この樹脂溶液に金属磁性粉末を加え、混合しながらトルエンを蒸発し、混合物を混練造粒し、ふるいを通して整粒し造粒粉末とした。ここでトルエンに加えるバインダ樹脂の量は、バインダ樹脂の重量/(バインダ樹脂の重量+金属磁性粉末の重量)×100の計算値が4wt%となる量とした。また、トルエンに加える有機金属石鹸の量は、有機金属石鹸の重量×(有機金属石鹸の重量+金属磁性粉末の重量+バインダ樹脂の重量)×100の計算値が0.50wt%となる量とした。
次に、この造粒粉末を金型を用いて2ton/cm2の圧力で成形し、外径10mm−厚さ1mmのディスク状の成形体を作製した。
次に、この成形体を恒温槽で150℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした(比較例5−1)。また、これとは別に、この成形体を恒温槽で180℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした(実施例5−1)。
【0069】
<比較例6−1、実施例6−1>
金属磁性粉末として、クロム4wt%、シリコン4wt%、カーボン0.5wt%、残部は鉄とする組成を備え、平均粒子径(D50)が12μmの水アトマイズ粉末を用意した。ここで平均粒子径は、MicrotracSRA150(HORIBA製作所社製)を用いて測定した。また、バインダ樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を用意した。さらに、有機金属石鹸としてアルミニウムステアレート(融点:165℃)を用意した。
次に、バインダ樹脂および有機金属石鹸をトルエンに加え十分に撹拌混合して樹脂溶液とした後、この樹脂溶液に金属磁性粉末を加え、混合しながらトルエンを蒸発し、混合物を混練造粒し、ふるいを通して整粒し造粒粉末とした。ここでトルエンに加えるバインダ樹脂の量は、バインダ樹脂の重量/(バインダ樹脂の重量+金属磁性粉末の重量)×100の計算値が4wt%となる量とした。また、トルエンに加える有機金属石鹸の量は、有機金属石鹸の重量/(有機金属石鹸の重量+金属磁性粉末の重量+バインダ樹脂の重量)×100の計算値が0.50wt%となる量とした。
次に、この造粒粉末を金型を用いて2ton/cm2の圧力で成形し、外径10mm−厚さ1mmのディスク状の成形体を作製した。
次に、この成形体を恒温槽で150℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした(比較例6−1)。また、これとは別に、この成形体を恒温槽で180℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした(実施例6−1)。
【0070】
<実施例7>
金属磁性粉末として、クロム4wt%、シリコン4wt%、カーボン0.5wt%、残部は鉄とする組成を備え、平均粒子径(D50)が12μmの水アトマイズ粉末を用意した。ここで平均粒子径は、MicrotracSRA150(HORIBA製作所社製)を用いて測定した。また、バインダ樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を用意した。さらに、有機金属石鹸として12−ヒドロキシステアリン酸カルシウム(融点:145℃)を用意した。
次に、バインダ樹脂および有機金属石鹸をトルエンに加え十分に撹拌混合して樹脂溶液とした後、この樹脂溶液に金属磁性粉末を加え、混合しながらトルエンを蒸発し、混合物を混練造粒し、ふるいを通して整粒し造粒粉末とした。ここでトルエンに加えるバインダ樹脂の量は、バインダ樹脂の重量/(バインダ樹脂の重量+金属磁性粉末の重量)×100の計算値が4wt%となる量とした。また、トルエンに加える有機金属石鹸の量は、有機金属石鹸の重量/(有機金属石鹸の重量+金属磁性粉末の重量+バインダ樹脂の重量)×100の計算値が0.50wt%となる量とした。
次に、この造粒粉末を金型を用いて2ton/cm2の圧力で成形し、外径10mm−厚さ1mmのディスク状の成形体を作製した。
次に、この成形体を恒温槽で150℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした。
【0071】
<実施例8>
金属磁性粉末として、クロム4wt%、シリコン4wt%、カーボン0.5wt%、残部は鉄とする組成を備え、平均粒子径(D50)が12μmの水アトマイズ粉末を用意した。ここで平均粒子径は、MicrotracSRA150(HORIBA製作所社製)を用いて測定した。また、バインダ樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を用意した。さらに、有機金属石鹸としてジンクステアレート(融点:120℃)を用意した。
次に、バインダ樹脂および有機金属石鹸をトルエンに加え十分に撹拌混合して樹脂溶液とした後、この樹脂溶液に金属磁性粉末を加え、混合しながらトルエンを蒸発し、混合物を混練造粒し、ふるいを通して整粒し造粒粉末とした。ここでトルエンに加えるバインダ樹脂の量は、バインダ樹脂の重量/(バインダ樹脂の重量+金属磁性粉末の重量)×100の計算値が4wt%となる量とした。また、トルエンに加える有機金属石鹸の量は、有機金属石鹸の重量/(有機金属石鹸の重量+金属磁性粉末の重量+バインダ樹脂の重量)×100の計算値が0.50wt%となる量とした。
次に、この造粒粉末を金型を用いて2ton/cm2の圧力で成形し、外径10mm−厚さ1mmのディスク状の成形体を作製した。
次に、この成形体を恒温槽で150℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした。
【0072】
<実施例9>
金属磁性粉末として、クロム4wt%、シリコン4wt%、カーボン0.5wt%、残部は鉄とする組成を備え、平均粒子径(D50)が12μmの水アトマイズ粉末を用意した。ここで平均粒子径は、MicrotracSRA150(HORIBA製作所社製)を用いて測定した。また、バインダ樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を用意した。さらに、有機金属石鹸としてカルシウムベヘネート(ベヘン酸Ca、融点:145℃)を用意した。
次に、バインダ樹脂および有機金属石鹸をトルエンに加え十分に撹拌混合して樹脂溶液とした後、この樹脂溶液に金属磁性粉末を加え、混合しながらトルエンを蒸発し、混合物を混練造粒し、ふるいを通して整粒し造粒粉末とした。ここでトルエンに加えるバインダ樹脂の量は、バインダ樹脂の重量/(バインダ樹脂の重量+金属磁性粉末の重量)×100の計算値が4wt%となる量とした。また、トルエンに加える有機金属石鹸の量は、有機金属石鹸の重量/(有機金属石鹸の重量+金属磁性粉末の重量+バインダ樹脂の重量)×100の計算値が0.50wt%となる量とした。
次に、この造粒粉末を金型を用いて2ton/cm2の圧力で成形し、外径10mm−厚さ1mmのディスク状の成形体を作製した。
次に、この成形体を恒温槽で150℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした。
【0073】
<実施例10>
金属磁性粉末として、クロム4wt%、シリコン4wt%、カーボン0.5wt%、残部は鉄とする組成を備え、平均粒子径(D50)が12μmの水アトマイズ粉末を用意した。ここで平均粒子径は、MicrotracSRA150(HORIBA製作所社製)を用いて測定した。また、バインダ樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を用意した。さらに、有機金属石鹸としてカルシウムオクチコサネート(モンタン酸Ca、融点:135℃)を用意した。
次に、バインダ樹脂および有機金属石鹸をトルエンに加え十分に撹拌混合して樹脂溶液とした後、この樹脂溶液に金属磁性粉末を加え、混合しながらトルエンを蒸発し、混合物を混練造粒し、ふるいを通して整粒し造粒粉末とした。ここでトルエンに加えるバインダ樹脂の量は、バインダ樹脂の重量/(バインダ樹脂の重量+金属磁性粉末の重量)×100の計算値が4wt%となる量とした。また、トルエンに加える有機金属石鹸の量は、有機金属石鹸の重量/(有機金属石鹸の重量+金属磁性粉末の重量+バインダ樹脂の重量)×100の計算値が0.50wt%となる量とした。
次に、この造粒粉末を金型を用いて2ton/cm2の圧力で成形し、外径10mm−厚さ1mmのディスク状の成形体を作製した。
次に、この成形体を恒温槽で150℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした。
【0074】
<比較例2>
金属磁性粉末として、クロム4wt%、シリコン4wt%、カーボン0.5wt%、残部は鉄とする組成を備え、平均粒子径(D50)が12μmの水アトマイズ粉末を用意した。ここで平均粒子径は、MicrotracSRA150(HORIBA製作所社製)を用いて測定した。また、バインダ樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を用意した。さらに、有機金属石鹸としてバリウムステアレート(融点:220℃)を用意した。
次に、バインダ樹脂および有機金属石鹸をトルエンに加え十分に撹拌混合して樹脂溶液とした後、この樹脂溶液に金属磁性粉末を加え、混合しながらトルエンを蒸発し、混合物を混練造粒し、ふるいを通して整粒し造粒粉末とした。ここでトルエンに加えるバインダ樹脂の量は、バインダ樹脂の重量/(バインダ樹脂の重量+金属磁性粉末の重量)×100の計算値が4wt%となる量とした。また、トルエンに加える有機金属石鹸の量は、有機金属石鹸の重量/(有機金属石鹸の重量+金属磁性粉末の重量+バインダ樹脂の重量)×100の計算値が0.50wt%となる量とした。
次に、この造粒粉末を金型を用いて2ton/cm2の圧力で成形し、外径10mm−厚さ1mmのディスク状の成形体を作製した。
次に、この成形体を恒温槽で150℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした。
【0075】
<比較例3>
金属磁性粉末として、クロム4wt%、シリコン4wt%、カーボン0.5wt%、残部は鉄とする組成を備え、平均粒子径(D50)が12μmの水アトマイズ粉末を用意した。ここで平均粒子径は、MicrotracSRA150(HORIBA製作所社製)を用いて測定した。また、バインダ樹脂として熱硬化性のシリコン樹脂を用意した。
次に、バインダ樹脂をトルエンに加え十分に撹拌混合して樹脂溶液とした後、この樹脂溶液に金属磁性粉末を加え、混合しながらトルエンを蒸発し、混合物を混練造粒し、ふるいを通して整粒し造粒粉末とした。ここでトルエンに加えるバインダ樹脂の量は、バインダ樹脂の重量/(バインダ樹脂の重量+金属磁性粉末の重量)×100の計算値が4wt%となる量とした。
次に、この造粒粉末を金型を用いて3ton/cm2の圧力で成形し、外径10mm−厚さ1mmのディスク状の成形体を作製した。
次に、この成形体を恒温槽で200℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした。
【0076】
<実施例11−1〜11−8、比較例11−1〜11−2>
金属磁性粉末として、クロム4wt%、シリコン4wt%、カーボン0.5wt%、残部は鉄とする組成を備え、平均粒子径(D50)が12μmの水アトマイズ粉末を用意した。ここで平均粒子径は、MicrotracSRA150(HORIBA製作所社製)を用いて測定した。また、バインダ樹脂として熱硬化性のシリコン樹脂を用意した。さらに、有機金属石鹸としてアルミニウムステアレート(融点:165℃)を用意した。
次に、バインダ樹脂および有機金属石鹸をトルエンに加え十分に撹拌混合して樹脂溶液とした後、この樹脂溶液に金属磁性粉末を加え、混合しながらトルエンを蒸発し、混合物を混練造粒し、ふるいを通して整粒し造粒粉末とした。ここでトルエンに加えるバインダ樹脂の量は、バインダ樹脂の重量/(バインダ樹脂の重量+金属磁性粉末の重量)×100の計算値が4wt%となる量とした。また、トルエンに加える有機金属石鹸の量は、有機金属石鹸の重量/(有機金属石鹸の重量+金属磁性粉末の重量+バインダ樹脂の重量)×100の計算値が0.01wt%、0.02wt%、0.05wt%、0.10wt%、0.20wt%、0.50wt%、1.00wt%、1.50wt%、1.80wt%、2.00wt%の各々となる量とした。
次に、この造粒粉末を金型を用いて3ton/cm2の圧力で成形し、外径10mm−厚さ1mmのディスク状の成形体を作製した。
次に、この成形体を恒温槽で200℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした。
【0077】
<比較例4>
金属磁性粉末として、クロム4wt%、シリコン4wt%、カーボン0.5wt%、残部は鉄とする組成を備え、平均粒子径(D50)が12μmの水アトマイズ粉末を用意した。ここで平均粒子径は、MicrotracSRA150(HORIBA製作所社製)を用いて測定した。また、バインダ樹脂として熱硬化性のシリコン樹脂を用意した。さらに、有機金属石鹸としてバリウムステアレート(融点:220℃)を用意した。
次に、バインダ樹脂および有機金属石鹸をトルエンに加え十分に撹拌混合して樹脂溶液とした後、この樹脂溶液に金属磁性粉末を加え、混合しながらトルエンを蒸発し、混合物を混練造粒し、ふるいを通して整粒し造粒粉末とした。ここでトルエンに加えるバインダ樹脂の量は、バインダ樹脂の重量/(バインダ樹脂の重量+金属磁性粉末の重量)×100の計算値が4wt%となる量とした。また、トルエンに加える有機金属石鹸の量は、有機金属石鹸の重量/(有機金属石鹸の重量+金属磁性粉末の重量+バインダ樹脂の重量)×100の計算値が0.50wt%となる量とした。
次に、この造粒粉末を金型を用いて3ton/cm2の圧力で成形し、外径10mm−厚さ1mmのディスク状の成形体を作製した。
次に、この成形体を恒温槽で200℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした。
【0078】
<実施例12>
金属磁性粉末として、クロム4wt%、シリコン4wt%、カーボン0.5wt%、残部は鉄とする組成を備え、平均粒子径(D50)が12μmの水アトマイズ粉末を用意した。ここで平均粒子径は、MicrotracSRA150(HORIBA製作所社製)を用いて測定した。また、バインダ樹脂として常温で流動性を備える熱硬化性のエポキシ樹脂を用意した。さらに、有機金属石鹸としてカルシウムステアレート(融点:160℃)を用意した。
次に、金属磁性粉末に有機金属石鹸を添加しV型混合機で30min混合した。ここで金属磁性粉末に加える有機金属石鹸の量は、有機金属石鹸の重量/(有機金属石鹸の重量+金属磁性粉末の重量)×100の計算値が0.50wt%となる量とした。
次に、金属磁性粉末に有機金属石鹸を添加し混合したものにバインダ樹脂を加え、十分に混錬し、粘土状の複合磁性材料を作成した。ここでバインダ樹脂の量は、バインダ樹脂の重量/(バインダ樹脂の重量+金属磁性粉末の重量+バインダ樹脂の重量)×100の計算値が7wt%となる量とした。
次に、この粘土状の複合磁性材料を金型に注型し、外径10mm−厚さ1mmのディスク状の成形体を作製した。
次に、この成形体を恒温槽で180℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした。
【0079】
<実施例13>
金属磁性粉末として、クロム4wt%、シリコン4wt%、カーボン0.5wt%、残部は鉄とする組成を備え、平均粒子径(D50)が12μmの水アトマイズ粉末を用意した。ここで平均粒子径は、MicrotracSRA150(HORIBA製作所社製)を用いて測定した。また、バインダ樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を用意した。さらに、有機金属石鹸としてアルミニウムステアレート(融点:165℃)を用意した。
次に、バインダ樹脂および有機金属石鹸をDEP(フタル酸ジエチル)に加え十分に撹拌混合して樹脂溶液とした後、この樹脂溶液に金属磁性粉末を加え、十分に混錬し、粘土状の複合磁性材料を作製した。ここでバインダ樹脂の量は、バインダ樹脂の重量/(バインダ樹脂の重量+金属磁性粉末の重量)×100の計算値が4wt%となる量とした。また、有機金属石鹸の量は、有機金属石鹸の重量/(有機金属石鹸の重量+金属磁性粉末の重量+バインダ樹脂の重量)×100の計算値が0.50wt%となる量とした。さらに、DEPの量は、DEPの重量/(DEPの重量+金属磁性粉末の重量+バインダ樹脂の重量)×100の計算値が2.0wt%となる量とした。
次に、この粘土状の複合磁性材料を金型に注型し、外径10mm−厚さ1mmのディスク状の成形体を作製した。
次に、この成形体を恒温槽で180℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした。
【0080】
<実施例14>
金属磁性粉末として、クロム4wt%、シリコン4wt%、カーボン0.5wt%、残部は鉄とする組成を備え、平均粒子径(D50)が12μmの水アトマイズ粉末を用意した。ここで平均粒子径は、MicrotracSRA150(HORIBA製作所社製)を用いて測定した。また、バインダ樹脂として熱硬化性のエポキシ樹脂を用意した。さらに、有機金属石鹸としてアルミニウムステアレート(融点:165℃)を用意した。
次に、バインダ樹脂および有機金属石鹸をトルエンに加え十分に撹拌混合して樹脂溶液とした後、この樹脂溶液に金属磁性粉末を加え、十分に混錬し、スラリー状の複合磁性材料を作製した。ここでバインダ樹脂の量は、バインダ樹脂の重量/(バインダ樹脂の重量+金属磁性粉末の重量)×100の計算値が4wt%となる量とした。また、有機金属石鹸の量は、有機金属石鹸の重量/(有機金属石鹸の重量+金属磁性粉末の重量+バインダ樹脂の重量)×100の計算値が0.50wt%となる量とした。さらに、トルエンの量は、トルエンの重量/(トルエンの重量+金属磁性粉末の重量+バインダ樹脂の重量)×100の計算値が5.0wt%となる量とした。
次に、このスラリー状の複合磁性材料を金型に流し込んで注型し、50℃に加熱してトルエンを乾燥し、金型から取り出して、外径10mm−厚さ1mmのディスク状の成形体を作製した。
次に、この成形体を恒温槽で180℃−30分間、熱硬化処理を行い、サンプルとした。
【0081】
<塩水噴霧試験>
上記の実施例および比較例の各々において作製したディスク状のサンプルを、塩水噴霧試験(JIS−Z2371、35℃−24Hr)に供し、錆の発生を観察した。そして、錆面積を求めた。
結果を第1表に示す。なお、第1表では、錆の発生がサンプル面積の2%未満の場合を◎、2%以上5%未満の場合を○、5%以上の場合を×とし、◎と○を効果有り(良好)、×を不良と判断した。
【0082】
<複合材料の強度測定>
上記実施例および比較例で作製した造粒粉末状の複合磁性材料(実施例1〜実施例11および比較例)、粘土状の複合磁性材料(実施例12、13)またはスラリー状の複合磁性材料(実施例14)について、次に記す方法によって、コイルと共に成型した後、上記の実施例および比較例の各々において行った場合と同様の条件(温度および時間等)にて熱硬化処理を行うことで、電子部品としての製品形状に加工した。そして得られた製品形状のサンプルについて強度測定を行った。以下に具体的に説明する。
【0083】
初めに、図1に示す要領で、0.3mm径の被覆導線を用いて内径3.6mm、高さ3.6mm、14.5ターンのコイルを作製し、このコイルを、部品の外部電極となるSnメッキされた銅フレーム(フープ)に固定し、半製品とした。そして、この半製品のコイル部分とフープの電極部分とを金型の内部にセットした。
そして、実施例1〜実施例11および比較例の場合は、この金型内へ必要量の造粒粉末状の複合磁性材料を入れた後、コイルと共に造粒粉末状の複合磁性材料を2ton/cm2または3ton/cm2の圧力で加圧成型した。また、実施例12、13の場合は、この金型内へ必要量の粘土状の複合磁性材料を注型した後、コイルと共に粘土状の複合磁性材料を1kg/cm2の圧力で加圧成型した。さらに、実施例14の場合は、この金型内へスラリー状の複合磁性材料を流し込んで注型し、その後、トルエンを乾燥させた。
次に、実施例1〜14および比較例の各々について、実施例および比較例の各々において行った場合と同様の条件(温度および時間等)にて熱硬化処理を行った。その後、電極となる部分を残して余分なフープを切断除去し、成形体から伸びる電極を曲げ加工して外部電極を形成した。そして、このフープの曲げ加工時に成形体がフープを支えきれずに、かけたり割れたりするか否かを確認することで強度測定を行った。
結果を第1表に示す。なお、第1表では、フープの曲げ加工ができた場合を◎、フープの曲げ加工はできたが、成形体に小さなクラックが発生した場合を○、成形体が大きく欠けたり割れたりして正常にフープの曲げ加工ができなかったものを強度不足と判断して×と表した。
【0084】
【表1】
【0085】
第1表に示すように、比較例1は有機金属石鹸を含まないため、防錆(塩水噴霧試験の結果、錆発生)が×となった。
比較例1−1は有機金属石鹸の添加量が少ないため、防錆が×となった。
比較例1−10は有機金属石鹸の添加量が多く、複合材料の強度不足のため、×となった。
比較例4−1では、添加した有機金属石鹸の融点(160℃)が熱硬化温度(150℃)以上だったため、熱硬化時に有機金属石鹸が融解せず、金属粉末のバインダ樹脂でコーティングされていない部分をコーティングすることができなかった。そのために防錆が×となった。
比較例5−1では、添加した有機金属石鹸の融点(155℃)が熱硬化温度(150℃)以上だったため、熱硬化時に有機金属石鹸が融解せず、金属粉末のバインダ樹脂でコーティングされていない部分をコーティングすることができなかった。そのために防錆が×となった。
比較例6−1では、添加した有機金属石鹸の融点(165℃)が熱硬化温度(150℃)以上だったため、熱硬化時に有機金属石鹸が融解せず、金属粉末のバインダ樹脂でコーティングされていない部分をコーティングすることができなかった。そのために防錆が×となった。
比較例2では、添加した有機金属石鹸の融点(220℃)がエポキシ樹脂の熱硬化温度(180℃)以上であったため、熱硬化時に有機金属石鹸が融解せず、金属粉末のバインダ樹脂でコーティングされていない部分をコーティングすることができなかった。そのために防錆が×となった。
比較例3は比較例1と同様に有機金属石鹸を含まないため、防錆(塩水噴霧試験の結果、錆発生)が×となった。
比較例4では比較例2と同様に、添加した有機金属石鹸の融点(220℃)がシリコン樹脂の熱硬化温度(200℃)以上であったため、熱硬化時に有機金属石鹸が融解せず、金属粉末のバインダ樹脂でコーティングされていない部分をコーティングすることができなかった。そのために防錆が×となった。
図1