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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-4283(P2018-4283A)
(43)【公開日】2018年1月11日
(54)【発明の名称】照合電極
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/401 20060101AFI20171208BHJP
   G01N 27/26 20060101ALI20171208BHJP
【FI】
   G01N27/401 313Z
   G01N27/26 351P
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-127087(P2016-127087)
(22)【出願日】2016年6月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000211891
【氏名又は名称】株式会社ナカボーテック
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 紀保
(72)【発明者】
【氏名】星野 雅彦
(57)【要約】
【課題】電位再現性に優れ、また長期間安定した電位を得ることができ、しかも比較的簡素な構成で製作及び取り扱いが簡単にできる照合電極を提供すること。
【解決手段】本発明は、コンクリート中に埋設され、該コンクリート中の金属の電位を測定するのに使用される照合電極1である。照合電極1は、少なくとも表層部21が貴金属酸化物を含んで構成されている電極本体2と、電極本体2の周囲に該電極本体2と接触し且つ使用時に照合電極1の周辺のコンクリートと液絡するように配されたセメント成形体3とを備える。セメント成形体3は、水酸化カルシウム及び保水材を含み、該保水材は、パーライト、ベントナイト及び硝酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート中に埋設され、該コンクリート中の金属の電位を測定するのに使用される照合電極であって、
少なくとも表層部が貴金属酸化物を含んで構成されている電極本体と、
前記電極本体の周囲に該電極本体と接触し且つ使用時に前記照合電極の周辺のコンクリートと液絡するように配されたセメント成形体とを備え、
前記セメント成形体は、水酸化カルシウム及び保水材を含み、該保水材は、パーライト、ベントナイト及び硝酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上である照合電極。
【請求項2】
前記貴金属酸化物は、酸化イリジウム、酸化ルテニウム及び酸化パラジウムからなる群から選択される1種以上である請求項1に記載の照合電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート中に埋設された金属、例えば鉄筋コンクリート構造物の鉄筋の腐食を監視する電位測定法に使用可能な埋め込み型照合電極に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物中に配設されている鉄製の配管や鉄筋等の鋼材は、表面に不動態皮膜が形成されることによって、本来、腐食から保護されている。ところが、沿岸地域や凍結防止剤が頻繁に使用される地域のような、塩化物イオンが多量に存在する環境下では、鋼材に塩化物イオンが接触して不動態皮膜が部分的に破壊される場合がある。また、コンクリートは、主成分がセメントであることに起因して、本来内部はアルカリ性であるが、外部からの炭酸ガスの侵入によってコンクリートが中性化し、これに接触している鋼材の不動態被膜が部分的に破壊される場合もある。こうして、鋼材における不動態皮膜が破壊された部分からは、鋼材中の鉄が鉄イオンとして溶出し、鋼材の腐食(酸化)を促進させる。また、鋼材に部分的に腐食が生じることによって、鋼材の腐食した領域(アノード部)と腐食していない領域(カソード部)との間に電位差が生じ、アノード部からカソード部へ鋼材中を電子が流れることで腐食電流が発生し、アノード部における鋼材の腐食が更に進行する。このような鋼材の腐食は、鋼材自体の強度を低下させると共に、コンクリート構造物中においては腐食部分の体積の膨張によってコンクリート構造物に亀裂を生じさせ、コンクリートの剥落を生じさせるおそれがあり、大きな社会問題となっている。
【0003】
このような鋼材の腐食を防止する方法としては、例えば、コンクリート構造物に陽極を設置し、この陽極からコンクリートを介してこのコンクリート構造物中の鋼材に電流(防食電流)を供給する電気防食法が知られている。電気防食法は、鋼材に対して防食電流を供給することで、アノード部とカソード部との間に生じる電位差を解消し、鋼材の電位を腐食反応が停止する電位に維持して、腐食電流が発生するのを防止する方法である。電気防食法では、効果的な防食効果を得るために、防食対象となる鋼材の電位を測定して管理する方法が一般的である。この電位測定法は、コンクリート構造物中における鋼材の近傍に照合電極(基準電極、参照電極ともいう)を設置し、この照合電極でこの鋼材との電位差を測定するというものである。
【0004】
照合電極としては、従来、コンクリート中に埋め込んで設置する埋め込み型照合電極が多く用いられている。埋め込み型照合電極の従来技術に関し、例えば特許文献1には、細線状のチタンワイヤの表面をイリジウム、ルテニウム、ハフニウム、ロジウムからなる群から選ばれた貴金属で被覆してなる照合電極が記載されている。特許文献1記載の照合電極の電位は、pHが一定であれば、貴金属酸化物の酸化還元電位で決定し、その酸化還元電位は計算式(ネルンストの式)によって求めることができるが、実構造物に直接埋設された場合などは、電極周囲の含水率や塩化物イオン濃度の変動などによりpHが変動し、長期にわたる電位の安定性には問題がある。また、電気防食を適用している場合は、この照合電極に防食電流の一部が流出入して(干渉を生じて)照合電極の電位が変動するので、得られる鋼材の測定電位が正確でないという問題がある。
【0005】
また特許文献2には、表面が金属酸化物又は金属酸化物混合物で被覆された導電性金属支持体と、該導電性金属支持体を内包するセメント質モルタルからなる固体電解質とを含む埋め込み型照合電極が記載されている。特許文献2記載の照合電極は、固体電解質にpH緩衝能を有する物質又は保水材が含まれていないことに起因して、電位が経時的に変動するという問題がある。
【0006】
本発明者らは先に、導電体及びその周囲に配された電極部を備えた埋め込み型照合電極の改良技術を提案した(特許文献3及び4)。特許文献3記載の照合電極は、電極部に銀粒子及び酸化銀粒子を含んでいるため、従来品に比して電極反応のみかけの交換電流密度が大幅に増大しており、電位の安定性が向上している。また特許文献4記載の照合電極は、電極部に二酸化マンガン及びアセチレンブラックを含んでいるため、従来品に比して電極反応のみかけの交換電流密度が大幅に増大していることに加えてさらに、コンクリートのような固相環境下でも電極部が比較的多量の水分を保持し得るため、電位の安定性が大幅に向上しており、使用期間が長きに及んでも電位が変動し難いという特長を有する。しかしながら、照合電極の電位再現性や電位の安定性については、近年より高いレベルが要望されており、さらなる改善の余地がある。また、それらの特性を満たす照合電極であっても、構造が複雑であったり大型なものであったりすると、製造コストや取り扱い性の点で問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−13100号公報
【特許文献2】特開平5−10915号公報
【特許文献3】特開平6−317553号公報
【特許文献4】特開2015−40707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、電位再現性に優れ、また長期間安定した電位を得ることができ、しかも比較的簡素な構成で製作及び取り扱いが簡単にできる照合電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、コンクリート中に埋設され、該コンクリート中の金属の電位を測定するのに使用される照合電極であって、少なくとも表層部が貴金属酸化物を含んで構成されている電極本体と、前記電極本体の周囲に該電極本体と接触し且つ使用時に前記照合電極の周辺のコンクリートと液絡するように配されたセメント成形体とを備え、前記セメント成形体は、水酸化カルシウム及び保水材を含み、該保水材は、パーライト、ベントナイト及び硝酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上である照合電極である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多少なりともpH変動を有するアルカリ環境、電気防食適用及び低水分条件下であっても、電位再現性に優れ、また長期間安定した電位を得ることができ、しかも比較的簡素な構成で製作及び取り扱いが簡単にできる照合電極が提供される。本発明の照合電極は特に、鉄筋コンクリート構造物における鉄筋の電極電位の測定に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の照合電極の一実施形態の模式的な縦断面図(照合電極の軸線方向の断面図)である。
図2図2は、酸化イリジウム被覆電極(電極本体)の電位とその周囲のpHとの関係を、理論値と実測値とにより比較したグラフである。
図3図3は、コンクリート中における酸化イリジウム被覆電極(電極本体)の電位の実測値を正規確率紙にプロットしたグラフである。
図4図4は、本発明に係る電極本体の電位安定性評価試験の結果、より具体的には、飽和水酸化カルシウム水溶液中及びセメント成形体中それぞれにおける電位の経時変化を示すグラフである。
図5図5は、実施例及び比較例の照合電極の評価試験方法の説明図である。
図6図6は、図5に示す評価試験方法による各実施例及び比較例の照合電極の評価結果、より具体的には、コンクリート中における照合電極の電極電位の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の照合電極について、その好ましい一実施形態に基づき図面を参照して説明する。図1には、本発明の照合電極の一実施形態である照合電極1が示されている。照合電極1は、コンクリート中に埋設され、該コンクリート中の金属の電位を測定するのに使用されるもので、電極本体2と、電極本体2の周囲に電極本体2と接触するように配されたセメント成形体3と、電極本体2及びセメント成形体3を収容する収容体4とを備える。
【0013】
収容体4は、照合電極1の外形を形成しており、図1に示すように、中空の円筒状ないし管状をなし、その軸線方向即ち長手方向Xの両端が開口している。収容体4は、中空部に配されたセパレータ5によって上部4aと下部4bとに区分されており、その下部4bの中空部に電極本体2及びセメント成形体3が収容されている。収容体4の上部4aの中空部には、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等の充填材6が充填され、また、上部4a側の開口部は、樹脂等からなる栓体7によって封止されている。収容体4の材質としては、この種の照合電極において収容体として使用可能なものを特に制限なく用いることができ、例えば、塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル、PTFE(四フッ化エチレン樹脂)、PVDF(フッ化ビニリデン樹脂)、PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂)等の樹脂、セラミック等が挙げられる。
【0014】
セメント成形体3は、照合電極1の使用時において、照合電極1の周辺の図示しないコンクリートと液絡、即ち電解液を介して電気的に接続するように配されている。即ち、収容体4の下部4b側の開口部はセメント成形体3によって閉塞されており、該開口部にてセメント成形体3が露出しているところ、斯かる構成の照合電極1の下部4b側を常法に従ってコンクリート中に埋設した場合、セメント成形体3は、収容体4内にて電極本体2と接触しつつ、下部4b側の開口部にて照合電極1の周辺のコンクリートとも接触することになる。ここで、セメント成形体3及び照合電極1の周辺のコンクリートには、それぞれ、細孔空隙などとも呼ばれる空隙が多数存在し、この空隙の中には細孔溶液と呼ばれる水分が存在し、この細孔溶液は通常、セメントあるいはコンクリートの主成分たる水酸化カルシウムなどの電解質を含む電解液であるため、照合電極1の使用時においては、セメント成形体3はその内部の電解液を介してこれと接触するコンクリートと液絡する。
【0015】
図1に示すように、電極本体2には導線8が接続されている。導線8は、その一端が充填材6中で電極本体2に接続され、他端が図示しない計測機器に接続されており、収容体4の上部4a側の開口部を閉塞する栓体7をその高さ方向に貫通して外部に延出している。このように、電極本体2と計測機器とが導線8を介して電気的に接続され、また前述したように、電極本体2と接触するように配されたセメント成形体3が照合電極1の周辺のコンクリートと液絡していることにより、照合電極1が設置されたコンクリート中の金属の電位を該計測機器によって測定することができる。
【0016】
電極本体2は網目状をなし、該電極本体2を厚み方向に貫通する開孔2Hを複数有している。本発明においては、電極本体の形状は特に制限されず、例えば照合電極1の長手方向Xに延びる棒状ないし板状でも良いが、照合電極の電気的性能を向上させるためには、電極本体2とセメント成形体3との接触面積をなるべく大きくすることが好ましく、その観点から、図1に示す如き網目状を電極本体の好ましい形状として例示できる。網目状の電極本体2の各部の寸法等は任意に設定することができる。
【0017】
図1に拡大して示すように、電極本体2の表層部21は貴金属酸化物を含んで構成されている。即ち電極本体2は、網目状の基材20と、基材20の表面を被覆する表層部21とからなり、その表層部21が貴金属酸化物を含んでいる。つまり、照合電極1においては、電極本体2の表層部21とセメント成形体3とが接触している。基材20は、電極本体2を長寿命にする観点から耐食性に優れていることが望ましく、斯かる観点から基材20の材質としては、チタン、タンタル又はニオブが好ましい。尚、本発明においては、電極本体は少なくともその表層部が貴金属酸化物を含んで構成されていれば良く、電極本体全体が貴金属酸化物でも良い。
【0018】
電極本体2の表層部21に用いる貴金属酸化物としては、酸化イリジウム、酸化ルテニウム及び酸化パラジウムが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの貴金属酸化物は、酸化還元反応(電極反応)の交換電流密度が高いので、微小な電流が流入しても照合電極の電位変動がなく安定した電位の測定が可能となる。
【0019】
照合電極1の特徴的な構成の1つとして、このような貴金属酸化物を含む電極本体2を内包するセメント成形体3に、水酸化カルシウム及び保水材が含有されている点が挙げられる。即ち照合電極1は、電極本体2の表層部21に含まれる貴金属酸化物とそれを構成する貴金属との間で得られる酸化還元電位を基準として利用するものであるところ、この電極本体2に周囲に水酸化カルシウム及び保水材を含むセメント成形体3が配されていることで、電極本体2の周囲のpH値及び水分量の変動を抑制するような系が実現されており、その酸化還元電位を基準として、照合電極1の周辺のコンクリート中に埋設された鋼材の電位を測定するようになされている。このような照合電極1における酸化還元電位は、電気化学的には純粋な可逆電位と言えるので、電極本体2の電位は長期間安定するようになり、また電位再現性が向上する。即ち、水酸化カルシウム及び保水材を含んだセメント成形体3を、電極本体2の周囲にこの電極本体2と接触するように配することで、照合電極1内部のpH値及び水分量が安定し、そのため、コンクリート中に埋設された鋼材や電気防食用陽極の電位を精度よく測定することができ、鋼材の腐食防食のモニタリングや電気防食の維持管理が容易に行なえるようになる。
【0020】
以下に、本発明者らがこのような照合電極1の特徴的な構成に想到するに至った経緯を説明する。
金属チタンを基材とし、その表面に貴金属酸化物を含む被覆が施された電極(以下、特定電極ともいう)は、電解工業分野の電解プロセスにおいて、電解用の不溶性金属電極として広く用いられ、またpH電極としても利用されている。そのため本発明者らは、前記特定電極の電位は、環境のpH値に依存し、貴金属酸化物とそれを構成する貴金属の酸化還元電位により決定づけられていると推定した。
【0021】
そこで本発明者らは、前記推定を確かめるため、前記特定電極として、金属チタンの表面を酸化イリジウム(IrO2)で被覆した電極を用意し、その酸化イリジウム被覆電極をpH1〜13の電解液に浸漬してその浸漬中の電極の電位を測定した。図2には、その電位の実測値が、理論値と共に示されている。この電位の理論値は、下記式(1)で示す酸化還元反応について、下記式(2)で示すネルンストの式(Nernst equation)を用いて導出された酸化イリジウムの酸化還元電位である。図2に示す通り、実測値と理論値とは各pH値において互いにほぼ同様の値を示し、これにより、酸化イリジウム被覆電極の電位は、該電極の表層部に存する酸化イリジウムの酸化還元電位によって決定づけられていることがわかる。このことから本発明者らは、酸化イリジウム被覆電極即ち前記特定電極は、pH値が比較的安定している環境、例えばコンクリート中において、ほぼ一定の電位を示すと推定した。
【0022】
【数1】
【0023】
そこで本発明者らは、前記推定を確かめるため、酸化イリジウム被覆電極を実際にコンクリート中に埋設し、飽和塩化銀基準電極(Silver Silver−Chloride Electrode)を基準として電位を測定した。図3には、その電位の実測値を正規確率紙にプロットしたグラフが示されている。正規確率紙にプロットされた点(電位の実測値)が一直線に並べば正規分布と判断する。実測値の平均値は、pH12.5近傍における酸化イリジウムの酸化還元電位に近似していたが、図3に示す通り、実測値のばらつきは大きく、前記推定に反する結果となった。
【0024】
以上の結果から本発明者らは、酸化イリジウム被覆電極の如き、金属チタンからなる基材の表面が貴金属酸化物を含む層で被覆された特定電極は、そのままでは、コンクリート中の鋼材の電位を測定するための照合電極には使用し難いとの結論に達した。そこで、本発明者らは検討を重ねた結果、図3に示したような電位のばらつきの要因は、前記特定電極とコンクリートとの界面におけるpH値及び水分量のばらつきに関係すると考え、さらに検討を重ねた結果、前記特定電極の周囲にこれと接触するようにセメント成形体を配し、そのセメント成形体にpH緩衝剤としての水酸化カルシウムと、安定した含水率を保持するための保水材とを含有させることで、電位のばらつきの要因となった、電極とコンクリートとの界面におけるpH値及び水分量のばらつきが低減され、電位再現性及び電位安定性が向上するとの知見を得た。本発明は斯かる知見に基づきなされたものである。
【0025】
セメント成形体3は、セメント、保水材、水酸化カルシウム及び水を含むセメント組成物の硬化物である。セメント組成物が硬化してセメント成形体3となるまでの間は通常、養生期間が確保される。このセメント組成物はさらに、川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂、珪砂又はこれらの混合物等の細骨材を含み得る。セメント成形体3は、セメント組成物を調製してそれを硬化させるだけで得られるため製造が簡単であり、また、その中間製造物たるセメント組成物が流動性を有するため、例えば、これを収容体4に流し込むなどの作業を比較的容易に行うことができ、作業性に優れる。また、セメント成形体3は保形性に優れており、セメント組成物が硬化して所定形状のセメント成形体3となった後は、その所定形状が維持されやすい。従って、このような有利な点を持つセメント成形体3を用いた照合電極1は、比較的簡素な構成で製作及び取り扱いが簡単にできるという利点を有する。
【0026】
セメント成形体3の製造に用いられるセメントとしては、普通・中庸熱・耐硫酸塩等の各種ポルトランドセメント;これらポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ又はシリカを混合した各種混合セメント(高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント)等が挙げられ、本発明ではこれらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。但し、早強・超早強ポルトランドセメント及びアルミナセメントは、水和熱による発熱が大きいため、本発明では使用を避けた方が好ましい。また、セメント成形体3に含有可能な細骨材の好ましい一例として、目開き2mmのふるいをすべて通過するものの含有量が85質量%以上である細骨材が挙げられる。
【0027】
セメント成形体3に含有される水酸化カルシウムは、セメント成形体3に存する細孔溶液の主成分であり、非常に強い緩衝能を有する。また飽和水酸化カルシウム水溶液は、照合電極1が埋設されるコンクリートと同程度のpH値となる。従って、水酸化カルシウムを含むセメント成形体3は、電極本体2の周囲のpH値を長期にわたり安定させる。
【0028】
セメント成形体3中の水酸化カルシウムの含有量は、セメント成形体3中のセメントの質量に対して、好ましくは2〜8質量%である。セメント成形体3中の水酸化カルシウムの含有量が少なすぎると、セメント成形体3中の水酸化カルシウム水溶液が少なすぎることなるため、照合電極1をコンクリート中に埋設した後にセメント成形体3のpH値が大きく変動するおそれがあり、また水酸化カルシウムの含有量が多すぎると、セメント成形体3中の未水和水酸化カルシウムが徐々に水に溶解することによって、セメント成形体3が崩壊しやすくなるおそれがある。
【0029】
セメント成形体3に含有される保水材としては、パーライト、ベントナイト及び硝酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上が好ましい。セメント成形体3にこのような保水材が含有されることで、セメント成形体3の保水性が向上し、これを内蔵する照合電極1は、従来の照合電極と比べて電位安定性に優れたものとなる。
【0030】
パーライトは、黒曜石、真珠岩、松脂岩又は珪藻土等を高温で熱処理してできる人工発泡体である。これらのパーライト原料の中でも特に真珠岩、松脂岩、珪藻土は、保水性に優れるため好ましい。
ベントナイトには、カルシウム型、ナトリウム型があり、本発明ではどちらも用いることができるが、カルシウム型よりも吸水・膨潤性の大きいナトリウム型のベントナイトが有利である。このナトリウム型のベントナイトとは、モンモリロナイトのシート状結晶の層間にナトリウムイオンやカリウムイオン等のアルカリ金属類を吸着しているベントナイトである。
硝酸マグネシウムは潮解性を有するため、比較的少量でもセメント成形体3の保水性を十分に高め、照合電極1の内部に水分を長期間保持させ得る。
【0031】
セメント成形体3中の保水材の含有量は、セメント成形体3の保水性及び形状保持性の一層の向上の観点から、セメント成形体3中のセメントの質量に対して、好ましくは5〜20質量%である。
【0032】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、本発明の照合電極の外形形状は、図1に示す照合電極1の如き管状に限定されず、任意の形状を選択し得る。また、照合電極1においては充填材6とセメント成形体3とがセパレータ5によって分け隔てられていたが、セパレータ5が設置されずに、充填材6とセメント成形体3とが接触していても良い。また例えば収容体4において、セメント成形体3が充填された部分(下部4b)が、充填材6が充填された部分(上部4a)に対して着脱自在に構成されていても良く、斯かる構成により、照合電極のメンテナンス性が向上し、電極本体2やセメント成形体3の管理保守作業が行いやすくなる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。
【0034】
〔試験例1〕
照合電極における電極本体の電位安定性評価試験を行った。試験対象の電極本体は、「表層部が貴金属酸化物を含んで構成されている電極本体」であり、具体的には、金属チタンの表面を酸化イリジウムで被覆した電極本体Aと、金属チタンの表面を酸化ルテニウムで被覆した電極本体Bとを、下記(電極本体の作製)に従って作製した。
先ず、評価対象の電極本体A,Bを、電極本体A,Bとの相対的電位を求める飽和水酸化カルシウムを内部溶液とする水銀・酸化水銀基準電極(Hg/HgO/satCa(OH)2電極)と共に飽和水酸化カルシウム水溶液中に25日間浸漬し、その浸漬期間中に適宜電位を測定した。ここで使用した飽和水酸化カルシウム水溶液は、水酸化カルシウム(吉澤石灰工業株式会社製、特号消石灰、密度2.34g/cm3)を水(埼玉県上尾市産水道水)に溶解して調製されたもので、水温は20℃であった。この飽和水酸化カルシウム水溶液は、コンクリート中の細孔空隙水を模擬したものである。
その後、飽和水酸化カルシウム水溶液から取り出した電極本体A,Bを、電極本体A,Bとの相対的電位を求める水銀・酸化水銀基準電極と共にセメント成形体中に所定期間埋設し、その埋設期間中データロガーにて連続測定を行った。ここで使用したセメント成形体は、下記(セメント成形体の作製)に従って作製した。
【0035】
(電極本体の作製)
電極本体A(酸化イリジウム被覆電極)は次の手順で作製した。即ち、塩化イリジウム酸をn−ブタノールに溶かして調製した溶液を、一端がチタン線でスポット溶接された13mm×30mmのチタンメッシュ材に刷毛で塗りつけた後、そのメッシュ材を焼成して電極本体Aを得た。
電極本体B(酸化ルテニウム被覆電極)の作製方法は、前記の電極本体Aの作製方法において、塩化イリジウム酸に代えて塩化ルテニウムを用いた以外は、前記の電極本体Aの作製方法と同じである。
【0036】
(セメント成形体の作製)
セメント100質量部、水酸化カルシウム5質量部、パーライト(保水材)10質量部及び細骨材28質量部をミキサーで混合し、得られた混合物に水60質量部を加えて混練し、セメント組成物を得た。このセメント組成物を所定時間養生させて硬化させ、目的とするセメント成形体を得た。使用した材料の詳細は下記の通り。
・セメント:(株)トクヤマ製普通ポルトランドセメント、比重3.16
・水酸化カルシウム:吉澤石灰工業株式会社製、特号消石灰、密度2.34g/cm3
・パーライト:三井金属鉱業社製、三井パーライトA、密度0.055g/cm3
・細骨材:静岡県掛川産陸砂、比重2.59
・水:埼玉県上尾市産水道水
【0037】
図4には前記試験例1の結果が示されている。測定値はすべて飽和塩化銀電極基準の値に換算した値である。図4中、符号Iで示す試験期間は、電極本体A,Bの飽和水酸化カルシウム水溶液中への浸漬期間に相当し、符号IIで示す試験期間は、電極本体A,Bのセメント成形体中への埋設期間に相当する。
試験期間Iにおいては、電極本体A,Bの周囲に存しているのはpH値が安定な水溶液であるため、電極本体A,Bの電位は図4に示す通り、電極本体A,Bの表層部に含まれている貴金属酸化物(酸化イリジウム、酸化ルテニウム)におけるpH12.5〜12.7の酸化還元電位に近似し、且つ試験期間Iの全期間(25日間)にわたって安定していた。
また試験期間Iから試験期間IIへ移行する過程においては、電極本体A,Bは若干卑な電位になったが、試験期間IIにおいては図4に示す通り、電極本体A,Bの電位は貴金属酸化物におけるpH12.7の酸化還元電位に近似し安定していた。この試験期間IIにおける電極本体A,Bの電位の安定性は、電極本体A,Bの周囲に配されたセメント成形体に水酸化カルシウム及びパーライト(保水材)が含有された結果、電極本体A,Bの周囲のpH値及び水分量がそれぞれ長期間にわたって適正な範囲を維持し得るようになったためと推察される。
【0038】
〔実施例1〜5及び比較例1〕
図1に示す照合電極1と同様の構成の埋め込み型照合電極を作製した。電極本体2として、前記試験例1で作製した電極本体A(酸化イリジウム被覆電極)を用いた。
具体的には先ず、硬質塩化ビニル樹脂管からなる中空管状の収容体4の中空部にセパレータ5を設けた後、電極本体Aと結線されたチタン線をセパレータ5に挿入し、収容体4の上部4aの中空部にてこのチタン線と導線8とを接続した。
次に、収容体4の上部4a側の開口部から充填材6としてのエポキシ樹脂を充填した後、該開口部にプラスチック製の栓体7を設置して該開口部を封止した。
次に、下記表1に示す組成のセメント組成物を、収容体4の下部4b側の開口部から流し込んで下部4bの中空部全体に充填した後、その中空部内のセメント組成物を室温で1日養生して硬化させてセメント成形体3とした。このセメント組成物の材料としては、前記(セメント成形体の作製)で使用した材料に加えてさらに、保水材としてのベントナイト((株)立花マテリアル製、TB−250、みかけ比重0.68)を使用した。収容体4の下部4b側の開口部はセメント成形体3によって完全に閉塞され、その開口部を閉塞するセメント成形体3の外表面は、収容体4の下部4b側の開口部の端面と面一であった。こうして目的とする埋め込み型照合電極を作製した。
【0039】
【表1】
【0040】
〔試験例2〕
各実施例及び比較例の照合電極について、次の方法によりコンクリート中での電位の経時変化を測定した。具体的には図5に示すように、内部に直径9mmの鉄筋91が格子状に埋設されたコンクリート試験体90(縦800mm×横400mm×高さ200mm)を作製し、このコンクリート試験体90の上面に、電気ドリルを用いて直径26mm、深さ50mmの照合電極の設置孔を約100mm間隔で7個一列に形成した。こうして形成した設置孔のうち、中央に位置する設置孔を除く他の6個の設置孔には、図5中符号10で示す試験対象の照合電極を設置し、また、中央に位置する設置孔には、コンクリートとの液絡を確保するために、飽和水酸化カルシウム水溶液のゲルを詰め込んだ後で、照合電極10の相対的電位を求めるための水銀酸化水銀基準電極11をそのゲルの上から差し込んで設置した。基準電極11の内部の電解質は、飽和水酸化カルシウム水溶液のゲル化物からなる固体の電解質である。そして、照合電極10から延出する導線10Lを、コンクリート試験体90の外部に配置された計測機器(高抵抗電圧計)12のプラス端子に接続すると共に、基準電極11から延出する導線11Lを計測機器12のマイナス端子に接続し、その状態で常法に従って照合電極10の電位の経時変化を測定した。
【0041】
図6には前記試験例2の結果が示されている。図6に示す通り、比較例1の照合電極の電位は変動し、経時的に貴化したのに対し、実施例1〜5の照合電極の電位は何れもコンクリート中において長期間安定し、その間、実施例1〜5の照合電極のセメント成形体が適正なpH値及び水分量を維持していたことがわかる。尚、図6の電位は、飽和塩化銀基準電極(Silver Silver−Chloride Electrode)に換算した値である。
【符号の説明】
【0042】
1 照合電極
2 電極本体
20 基材
21 表層部
3 セメント成形体
4 収容体
4a 収容体の上部
4b 収容体の下部
5 セパレータ
6 充填材
7 栓体
8 導線
図1
図2
図3
図4
図5
図6