【解決手段】動き誘発装置1は、ユーザの装着部分を囲繞して配設されるフレーム2と、フレーム2の内面に備えられた流体アクチュエータ31を備える。流体アクチュエータ31は、流体が充填されることにより膨張し、対応箇所を加圧してユーザの皮膚の表面方向の微動を生じさせ、装着部分の回旋運動を誘発する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一または類似の部分には同一または類似の符号を付している。
【0017】
(動き誘発装置)
図1ないし
図3を参照して、本発明の実施の形態に係る動き誘発装置1を説明する。動き誘発装置1は、
図3に示すように、ユーザが装着することでユーザの動きを誘発する装置である。本発明の実施の形態において、動き誘発装置1をユーザの腰部に着用する場合を説明するが、腰部に限らず、頭、腕、脚などの巻き付けが可能な部位に装着される。
【0018】
動き誘発装置1は、ユーザの装着部分に配設されるフレーム2と、空気圧アクチュエータ(流体アクチュエータ)31a、31b、31cおよび31dを備える。フレーム2の内側に空気圧アクチュエータ31a、31b、31cおよび31dが装着される装着部22と、空気圧アクチュエータ31a、31b、31cおよび31dは、それぞれ、フレーム2に装着される装着部312a、312b、312cおよび312dを備える。
【0019】
本願明細書において、空気圧アクチュエータ31a、31b、31cおよび31dを区別しない場合、単に空気圧アクチュエータ31と表記する場合がある。同様に、装着部312a、312b、312cおよび312dを区別しない場合、単に装着部312と表記する場合がある。
【0020】
(空気圧アクチュエータ)
空気圧アクチュエータ31は、フレーム2の内面に備えられる。
図1および
図2に示す例において、動き誘発装置1が4つの空気圧アクチュエータ31a、31b、31cおよび31dを備える場合を説明するが、少なくとも一つの空気圧アクチュエータ31を備えていればよい。
【0021】
空気圧アクチュエータ31は、流体が充填されることにより膨張し、対応箇所を加圧してユーザの皮膚の表面方向の微動を生じさせ、装着部分の回旋運動を誘発する。空気圧アクチュエータ31は、空気(流体)が充填可能に形成される。空気圧アクチュエータ31は、シート状のプラスチックなど、流体が充填されることにより膨張し、かつ流体が漏洩しにくい部材で形成される。
【0022】
空気圧アクチュエータ31は、充填される空気の量に追従して、ユーザ方向(フレーム2における空気圧アクチュエータ31との装着位置の法線方向の内側に向かう方向)に膨張可能なように形成される。例えば空気圧アクチュエータ31は、
図4に示すように2枚のプラスチックシートで形成される場合、空気圧アクチュエータ31の上下左右の四辺は、熱圧着などにより張り合わされ、張り合わされた内側に空気が充填可能な充填部311が形成される。この場合、空気圧アクチュエータ31の中央近傍が大きく膨張するので、空気圧アクチュエータ31の中央近傍の面の一方が、膨張時にユーザを加圧可能なように、空気圧アクチュエータ31がフレーム2に装着される。
【0023】
ユーザへの加圧面の対向面には、装着部312が設けられる。装着部312は、例えば、面ファスナーのオスにより形成され、フレーム2の内側に装着部22において面ファスナーのメスが設けられることにより、空気圧アクチュエータ31は着脱可能に形成され、フレーム2内側の所望の位置に設けることが可能である。これにより、所望の回旋運動を誘発しやすい箇所に空気圧アクチュエータ31を設けることが可能になる。
【0024】
ここで、ユーザへの加圧を測定するために、ユーザへの加圧面に、圧力センサ34が設けられ、圧力センサ34の測定値は、信号線を介して処理装置(後述)に入力される。また、空気圧アクチュエータ31に空気を送出するために、第1空気パイプ313aおよび第2空気パイプ313b等を備える。
【0025】
本発明の実施の形態において、空気を充填する空気圧アクチュエータ31を用いる場合を説明するが、充填することにより膨らみユーザの所定箇所を加圧できれば、どのような流体が充填されても良い。例えば、窒素や二酸化炭素などの空気以外の気体でも良いし、水や油などの液体でも良い。また、用いる流体の種類によって、アクチュエータの部材、パイプ、ポンプ等が適宜選択される。さらに、本発明の実施の形態において、空気を自動的に充填するためにポンプ利用するが、人が空気を吹き入れても、同様に、動きを誘発することができる。また本発明の実施の形態において、空気を排出および保持するためにバルブを利用するが、バルブを用いることなく、手または足等でパイプ313aまたは313bの開閉を制御しても良い。また、本発明の実施の形態においては、後述するように、処理装置(コンピュータ)によって、ポンプおよびバルブの駆動が制御される場合を説明するが、手動によって、ポンプおよびバルブの駆動が制御されても良い。さらに、ユーザの手足に設けられたセンサを用いて手足の動きを検出し、検出された手足の動きに基づいて処理装置がポンプおよびバルブの駆動を制御しても良い。
【0026】
(フレーム)
フレーム2は、ユーザの装着部分を囲繞して配設され、内側に空気圧アクチュエータ31を備える。フレーム2は、空気圧アクチュエータ31の膨張に抗して空気圧アクチュエータ31を保持できるように形成される。
【0027】
フレーム2は、空気圧アクチュエータ31を膨張させていない状態で、ユーザの間にゆとり(遊び)があるように形成される。またフレーム2は、空気圧アクチュエータ31に空気が充填されると、空気圧アクチュエータ31がユーザに当接し、加圧するように形成される。
【0028】
フレーム2は、例えば、膨張した空気圧アクチュエータ31の形状に追従して伸縮しない様に形成される。フレーム2は、空気圧アクチュエータ31が膨張した際に、外側方向への膨張を抑制して内側方向(ユーザ側)への膨張を促し、対応箇所を加圧できる程度の保形性を有すればどのようなものでも良い。フレーム2は、例えば、アルミ等の保形性の高い素材で形成され、フレーム2自身で保形性を発揮するように形成されても良い。或いは、フレーム2は、ベルト等の通常状態では形を保持しにくい素材でも、所定の周囲以上は広がらないようにロックされれば良い。フレーム2にベルトを用いる場合、ベルトで装着部分を囲んで、ベルトのバックル(周囲調節機能)で周囲を調節してロックする。ベルトの周囲がロックされるので、空気圧アクチュエータ31が膨張した際に、空気アクチュエータ31の外側への膨張が抑制され、内側への膨張を促すことができる。
【0029】
またフレーム2は、ユーザの装着部分を囲繞できるように、サイズ調節部21を備える。サイズ調節部21は、例えば布ベルトなどであって、ユーザの装着部分への着脱を容易にする。またフレーム2は、装着部分においてフィットするように、より具体的には、空気圧アクチュエータ31の膨張による回旋運動を誘発可能なように、フレーム2の周囲を調節することを可能にする。
【0030】
フレーム2の内側には、空気圧アクチュエータ31を装着可能な装着部22を備える。装着部22は、例えば、面ファスナーのメスにより形成され、空気圧アクチュエータ31の装着部312の面ファスナーのオスを、着脱可能に形成されても良い。
図1および
図2に示す例では、フレーム2のサイズ調節部21を除く内側全面に、装着部22が設けられる場合を説明しているが、これに限らない。
【0031】
なお、
図1および
図2に示すフレーム2は、
図3に示すように、腰部に装着する動き誘発装置1の例で説明するが、フレーム2は、装着部分に適応するサイズや形状を備える。具体的にはフレーム2は、腰部に装着する場合は左右方向に長い楕円形状を有し、頭部に装着する場合は前後方向に長い楕円形状を有する。その他、手首や足首に装着する場合においても、装着分部に適合するような楕円形状を有する。
【0032】
(駆動構成)
図5を参照して、本発明の実施の形態に係る動き誘発装置1の詳細構成を説明する。
図5に示すように、本発明の実施の形態に係る動き誘発装置1は、フレーム2、第1ユニット3a、第2ユニット3b、第3ユニット3c、第4ユニット3d、処理装置(コンピュータ)4、および記憶装置5を備える。第1ユニット3a、第2ユニット3b、第3ユニット3cおよび第4ユニット3dは、それぞれ、空気圧アクチュエータ31a、31b、31cおよび31dを備え、同様の構成を備える。
図6に示すように、動き誘発装置1が腰部Cに装着される場合、ユーザの左前、右前、左後および右後にそれぞれ、第1ユニット3a、第2ユニット3b、第3ユニット3cおよび第4ユニット3dに対応する空気圧アクチュエータ31が配設される。
【0033】
第1ユニット3a、第2ユニット3b、第3ユニット3cおよび第4ユニット3dを区別しない場合、単にユニット3と記載する。また、ユニットを構成する各部についても同様である。
【0034】
(ユニット)
ユニット3は、空気圧アクチュエータ31、ポンプ32、バルブ33、圧力センサ34および気圧センサ35を備える。ユニット3は、一つの空気圧アクチュエータ31を備え、空気圧アクチュエータ31でユーザを加圧するための装置セットである。動き誘発装置1は、複数の空気圧アクチュエータ31と、複数の空気圧アクチュエータ31のそれぞれに対応する複数のポンプ32および複数のバルブ33を備える。
【0035】
ポンプ32は、空気圧アクチュエータ31の充填部311に空気(流体)を送出する装置であり、具体的には、空気ポンプである。バルブ33は、バルブの開閉によって、空気圧アクチュエータ31の充填部311の空気(流体)を排出および保持する装置であり、具体的にはソレノイドバルブである。
【0036】
図4に示す例において、ポンプ32およびバルブ33は、第2空気パイプ313bの先に接続される。例えば、バルブ33が閉まった状態で、ポンプ32が充填部311に空気を送出することにより、空気圧アクチュエータ31の充填部311に空気が充填され、空気圧アクチュエータ31は膨張する。また、閉まったバルブ33を開けることにより、充填部311に充填された空気が放出され、空気圧アクチュエータ31は、収縮する。
【0037】
気圧センサ35は、空気圧アクチュエータ31内の気圧を測定する測定装置である。
図4に示す例において、気圧センサ35(図示せず)は、第2空気パイプ313bの先に接続される。圧力センサ34は、
図4に示すように、ユーザへの加圧面に設けられ、ユーザへの加圧を測定する測定装置である。
【0038】
処理装置4は、
図7に示すように、ポンプ32、バルブ33、圧力センサ34および気圧センサ35と信号線で接続して、空気圧アクチュエータ31の膨張および伸縮を制御する。処理装置4は、プログラムの実行により、所定の手段として機能する。
【0039】
処理装置4は、ポンプ32に、空気を送出する指示を送信し、バルブ33に、空気を排出または保持する指示を送信する。またポンプ32は、処理装置4の指示に応じて、空気圧アクチュエータ31内へ空気を送出し、バルブ33は、処理装置4の指示に応じて開閉し、空気圧アクチュエータ31内の空気を排出または保持する。
【0040】
これにより、処理装置4は、空気圧アクチュエータ31の充填部311への空気の送出、保持および排出を制御することが可能である。処理装置4はさらに、ポンプ32およびバルブ33の駆動レベルや駆動時間等を指示して、充填部311に充填される空気量を調節しても良い。
【0041】
空気圧アクチュエータ31の空気量をより適切に調節するために、処理装置4は、圧力センサ34から、空気圧アクチュエータ31によるユーザへの加圧値を取得し、気圧センサ35から、空気圧アクチュエータ31内の気圧値を取得しても良い。例えば、圧力センサ34による加圧値を取得することにより、空気圧アクチュエータ31がユーザに加圧していることを確認した上で、適切な加圧値を得られるように、ポンプ32に駆動指示を送信することができる。また気圧センサ35による気圧値を取得することにより、空気圧アクチュエータ31の爆発や空気漏れ等を検知することができる。さらに処理装置4は、圧力センサ34から取得した圧力値や気圧センサ35から取得した気圧値に基づいて、ポンプ32およびバルブ33の駆動レベルや駆動時間等を指示して、充填部311に充填される空気量を調節しても良い。
【0042】
(動きデータ)
処理装置4が読み出し可能な記憶装置5は、動きデータ51を記憶する。動きデータ51は、ポンプ32の識別子と、ポンプ32に対応する空気圧アクチュエータ31が膨張することにより誘発される動きとを対応づけたデータである。処理装置4は、動きデータ51を参照して、所望の動きに対応するポンプ32に、このポンプ32に対応する空気圧アクチュエータ31に空気を送出する指示を送信し、ユーザに所望の動きを誘発する。ここで、バルブ33は、ポンプ32により送出された空気を空気圧アクチュエータ31内に充填させるため、閉められており、空気圧アクチュエータ31内の空気を保持する。
【0043】
図8を参照して、動きデータ51を説明する。「左回旋」などの誘発される動きに対応づけられた数字によって、駆動するユニット3が特定される。具体的には、「1」、「2」、「3」および「4」はそれぞれ、第1ユニット3a、第2ユニット3b、第3ユニット3cおよび第4ユニット3dの各ユニット3(空気圧アクチュエータ31およびポンプ32)に対応し、各ユニット3に対応する空気圧アクチュエータ31の位置は、
図6を参照して示したとおりである。
【0044】
動きデータ51は、下記(1)〜(6)のデータのうち、少なくとも一つのデータを備える。
(1) 第2ポンプ32bの識別子および第3ポンプ32cの識別子と、左回旋運動を対応づけるデータ
(2) 第1ポンプ32aの識別子および第4ポンプ32dの識別子と、右回旋運動を対応づけるデータ
(3) 第1ポンプ32aの識別子および第2ポンプ32bの識別子と、前並進運動を対応づけるデータ、
(4) 第3ポンプ32cの識別子および第4ポンプ32dの識別子と、後並進運動を対応づけるデータ、
(5) 第1ポンプ32aの識別子および第3ポンプ32cの識別子と、左並進運動を対応づけるデータ、および
(6) 第2ポンプ32bの識別子および第4ポンプ32dの識別子と、右並進運動を対応づけるデータ
【0045】
動きデータ51は、さらに、駆動するポンプの識別子、すなわち膨張する空気圧アクチュエータ31の位置に応じてユーザにメッセージを通知するために、下記(7)および(8)のデータを備えても良い。
(7) 第1ポンプ32aの識別子、第2ポンプ32bの識別子、第3ポンプ32cの識別子および第4ポンプ32dの識別子と、注意喚起を対応づけるデータ、および
(8) 駆動するポンプ32の識別子なしと、運動継続の指示を対応づけるデータ
【0046】
上記(1)のデータにおいては、右前および左後の各空気圧アクチュエータ31を膨張させることにより、各空気圧アクチュエータ31がユーザに当接した後、動き誘発装置1(フレームおよび空気圧アクチュエータ)が、左回旋方向に動く。この動き誘発装置1の動きに誘発されて、各空気圧アクチュエータ31の当接部分において左回旋方向にそれぞれ皮膚のずれが生じ(破線矢印参照)、左回旋運動を誘発する。同様に、上記(2)のデータにおいては、左前および右後の各空気圧アクチュエータ31を膨張させることにより、動き誘発装置1が、右回旋方向に動き、各空気圧アクチュエータ31の当接部分において右回旋方向にそれぞれ皮膚のずれが生じ、右回旋運動を誘発する。
【0047】
上記(3)のデータにおいては、左前および右前の空気圧アクチュエータ31を膨張させることにより、各空気圧アクチュエータ31がユーザに当接した後、動き誘発装置1が、前並進方向に動き、各空気圧アクチュエータ31の当接部分において、当接部分のカーブに沿いながら前中心方向にそれぞれ皮膚のずれが生じ、左右方向のパワーが相殺され、前並進運動を誘発する。同様に、上記(4)のデータにおいては、左後および右後の各空気圧アクチュエータ31を膨張させることにより、動き誘発装置1が、後並進方向に動き、各空気圧アクチュエータ31の当接部分において、当接部分のカーブに沿いながら後中心方向にそれぞれ皮膚のずれが生じ、左右方向のパワーが相殺され、後並進運動を誘発する。
【0048】
上記(5)のデータにおいては、左前および左後の空気圧アクチュエータ31を膨張させることにより、各空気圧アクチュエータ31がユーザに当接した後、動き誘発装置1が、左並進方向に動き、各空気圧アクチュエータ31の当接部分において、当接部分のカーブに沿いながら左端方向にそれぞれ皮膚のずれが生じ、上下方向のパワーが相殺され、左並進運動を誘発する。同様に、上記(6)のデータにおいては、右前および右後の各空気圧アクチュエータ31を膨張させることにより、動き誘発装置1が、右並進方向に動き、各空気圧アクチュエータ31の当接部分において、当接部分のカーブに沿いながら右端方向にそれぞれ皮膚のずれ生じ、上下方向のパワーが相殺され、右並進運動を誘発する。
【0049】
上記(7)のデータにおいては、各空気圧アクチュエータ31を膨張させることにより、回旋方向のパワーが相殺されて、ユーザの全方位からの圧迫が残り、ユーザに、全方位での圧迫で、アラート等の注意を働きかけることができる。上記(8)のデータにおいては、いずれの空気圧アクチュエータ31も膨張させないことにより、ユーザは運動を変更するトリガーを感じることがないので、現在の運動を継続するように働きかけることができる。
【0050】
(評価)
図9ないし
図11を参照して、本発明の実施の形態に係る動き誘発装置1の効果を説明する。
【0051】
図9は、被験者6名に対して、本発明の実施の形態に係る動き誘発装置1を腰部Cに装着させた際の、所定の圧迫条件における回旋角度を表している。
図9におけるPitch軸、Yaw軸およびRoll軸は、
図13に示す通りであり、Yaw軸は、上下方向に対応し水平方向の回旋の軸である。
【0052】
圧迫条件は、左回旋運動を誘発する圧迫、圧迫無しおよび右回旋運動を誘発する圧迫である。動き誘発装置1は、各被験者に対して、各圧迫条件を実現するための駆動を、ランダムに、それぞれ5回繰り返す。被験者は、運動や力を知覚した場合は抗わないように指示されている。
【0053】
左回旋運動を誘発する際、動き誘発装置1は、第2ユニット3bおよび第3ユニット3cを駆動し、右前および左後を圧迫する。右回旋運動を誘発する際、動き誘発装置1は、第1ユニット3aおよび第4ユニット3dを駆動し、左前および右後を圧迫する。圧迫無しの場合、動き誘発装置1は、いずれのユニット3も駆動しない。
【0054】
回旋角度は、被験者が水平方向に回旋した角度である。回旋角度は、圧迫条件を提示した前後の被験者の位置により算出される。例えば被験者の胸部に再帰性反射材マーカーが装着され、圧迫条件を提示した前後の再帰性反射材マーカーの位置により算出される。
【0055】
このような実験において
図9に示すように、左回旋運動を誘発した際に、Yaw軸で左回旋が観察され、右回旋運動を誘発した際に、Yaw軸で右回旋が観察される。これに対し、左回旋運動および右回旋運動を誘発した際のPitch軸およびRoll軸、さらに、いずれの圧迫条件においても、圧迫無しの場合は、ほとんど回旋に動きがない。すなわち、
図9は、動き誘発装置1の駆動と被験者の回旋とに相関が観察され、有意差が確認された。
【0056】
図10は、被験者3名に対して、本発明の実施の形態に係る動き誘発装置1を腰部Cに装着させた際の、所定の圧迫条件における移動量を表している。
【0057】
圧迫条件は、圧迫なし、全圧迫、左並進運動を誘発する圧迫、右並進運動を誘発する圧迫、前並進運動を誘発する圧迫、および後並進運動を誘発する圧迫である。動き誘発装置1は、各被験者に対して、各圧迫条件を実現するための駆動を、ランダムに、それぞれ5回繰り返す。被験者は、運動や力を知覚した場合は抗わないように指示されている。
【0058】
左並進運動を誘発する際、動き誘発装置1は、第1ユニット3aおよび第3ユニット3cを駆動し、左前および左後を圧迫する。右並進運動を誘発する際、動き誘発装置1は、第2ユニット3bおよび第4ユニット3dを駆動し、右前および右後を圧迫する。前並進運動を誘発する際、動き誘発装置1は、第1ユニット3aおよび第2ユニット3bを駆動し、左前および右前を圧迫する。後並進運動を誘発する際、動き誘発装置1は、第3ユニット3cおよび第4ユニット3dを駆動し、左後および右後を圧迫する。圧迫無しの場合、動き誘発装置1は、いずれのユニット3も駆動せず、全圧迫の場合、動き誘発装置1は、全てのユニット3を駆動する。
【0059】
移動量は、圧迫条件を提示した前後において、被験者が水平方向に移動した長さである。移動量は、例えば被験者の胸部に装着された再帰性反射材マーカーの、圧迫条件を提示した前後の位置により算出される。
【0060】
このような実験において前並進運動を誘発した際に、
図10(a)に示すように、前方向への移動が観察され、後並進運動を誘発した際に、後方向への移動が観察される一方、
図10(b)に示すように、左右方向への移動がほとんど観察されない。また、左並進運動を誘発した際に、
図10(b)に示すように、左方向への移動が観察され、右並進運動を誘発した際に、右方向への移動が観察される一方、左並進運動および右並進運動を誘発した際には、前後方向への移動がほとんど観察されない。また、
図10(a)および(b)に示すように、全圧迫および圧迫なしの場合、左右方向および前後方向への移動がほとんど観察されない。すなわち、
図10は、動き誘発装置1の駆動と被験者の移動とに相関が観察され、有意差が確認された。
【0061】
図11は、第2ユニット3bおよび第3ユニット3cを駆動して左回旋運動を誘発する際の、駆動開始からの時間と、時間経過に伴った気圧センサ35、圧力センサ34および回旋角度の相関を示す。気圧センサ35および圧力センサ34の各値は、気圧センサ35および圧力センサ34からそれぞれ取得されたセンサ値を正規化した値である。
【0062】
気圧センサ35bの値は、右前に設けられた第2空気圧アクチュエータ31b内の気圧を示し、気圧センサ35cの値は、左後に設けられた第3空気圧アクチュエータ31c内の気圧を示す。圧力センサ34bの値は、右前に設けられた第2空気圧アクチュエータ31bがユーザを加圧する圧力を示し、圧力センサ34cの値は、左後に設けられた第3空気圧アクチュエータ31cがユーザを加圧する圧力を示す。回旋角度は、被験者が水平方向に回旋した角度である。回旋角度は、圧迫条件を提示した前後の被験者の位置により算出される。
【0063】
図11は、第2ユニット3bおよび第3ユニット3cを駆動して、各ポンプ32によって各空気圧アクチュエータ31に空気の送出が開始されると、気圧センサ35bおよび35cの値は、徐々に大きくなり、空気圧アクチュエータ31内に空気が充填されるのが判る。一方、圧力センサ34bおよび34cの値は、8秒に到達するまでは、ほとんど数値に変化がないのに対し、8秒近傍において立ち上がりがあり、圧力センサ34aおよび34bの値が大きくなることがわかる。
図11は、空気圧アクチュエータ31に空気が充填されてから、空気圧アクチュエータ31がユーザを加圧するまでに8秒ほどの時間がかかっている。これは、駆動前には、空気圧アクチュエータ31とユーザの間にゆとりがあり、空気圧アクチュエータ31に空気が充填されるのに伴って、空気圧アクチュエータ31がユーザに当接し、加圧していく過程を示している。
【0064】
このような条項で動き誘発装置1が駆動すると、8秒に到達するまでは、ほとんど数値に変化がないのに対し、8秒近傍において立ち上がりがあり、回旋が開始されている。
図11は、圧力センサ34bおよび34cがユーザへの加圧を開始するタイミングで回旋が開始されていることを示しており、ユーザへの加圧と回旋とに相関があることを示す。
【0065】
このような本発明の実施の形態に係る動き誘発装置1は、従来のように装具をずらすという動作をしなくとも、所望箇所を圧迫して回旋を引き起こすことができる。
【0066】
動き誘発装置1は、空気圧アクチュエータ31に空気を充填して膨らませることによりユーザの所定箇所を加圧するので、ユーザの加圧箇所の形状に馴染みながら緩やかに広い面で圧迫することができる。これにより、加圧によるユーザの痛みや損傷を軽減して、所定箇所を適切に圧迫することが可能になる。また、動き誘発装置1は、緩やかに加圧して運動を引き起こすので、ユーザは、大きなインパクトを感じることなく、動き誘発装置1による運動の誘発を受け入れることができる。
【0067】
また、ハンガー反射による回旋運動は、皮膚の弛み(ずれ)が発生して所定時間経過した後に回旋することが知られている。一方、本発明の実施の形態に係る動き誘発装置1において、空気圧アクチュエータ31に空気が充填されるのに時間を要する。従って、ハンガー反射による回旋運動を空気圧アクチュエータ31で実現することは、ハンガー反射の動作原理に則った好適な手法であると考えられる。
【0068】
さらに、動き誘発装置1は、複数の空気圧アクチュエータ31のそれぞれを膨張させるための複数のユニット3を備え、処理装置4によって所望の空気圧アクチュエータ31を膨張させることができる。これにより動き誘発装置1は、左右回旋運動のみならず、前後並進運動および左右並進運動を誘発することができるので、ユーザに所望方向への移動や運動を誘発することができる。
【0069】
(適用例)
本発明の動き誘発装置1は、ユーザの腰部Cに装着される歩行ナビゲーション装置として適用することができる。例えば処理装置4がGPS(Global Positioning System)等を備えることにより、ユーザの位置を把握して、ユーザに行かせたい方向に移動するように誘発することができる。
【0070】
その場合、
図12に示すように、動き誘発装置1は、左右旋回運動を誘発する圧迫条件を提示すると、ユーザに曲がり角等で誘発された方向に曲がるように促すことができる。同様に、動き誘発装置1は、前並進運動を誘発する圧迫条件を提示すると、ユーザに歩き始めるまたは前に進むように促し、後並進運動を誘発する圧迫条件を提示すると、ユーザに立ち止まるまたは後に進むように促すことができる。動き誘発装置1は、左右並進運動を誘発する圧迫条件を提示すると、ユーザに前進しつつ横に移動するように促すことができる。
【0071】
このような動き誘発装置1によれば、腰部Cの動きを促して所望の運動を誘発するので、ユーザは動き誘発装置1の誘発に従って、自然に運動をすることができる。動き誘発装置1は、表示装置に依ることなくユーザの動きを誘発するので、ユーザは、手で表示装置等の機器を所持する必要がなく手を解放して、正面を向いた状態で、動きを促すことができる。これにより、ユーザは安全性を確保して、ナビゲーションに従って動くことができる。またこのような動き誘発装置1は、ナビゲーションを伴うゲームなどにも適用することができる。
【0072】
また、本発明の動き誘発装置1を、バーチャルリアリティ空間における歩行誘導に用いることもできる。バーチャルリアリティにおいて歩行するためには大きな空間が必要になるという問題があるところ、従来、その問題を解決するために人の歩行を視覚的に誘導する手法(Redirected Walking)が知られている。この手法では、歩行中に視覚映像を左右に回転させることで、ユーザ自身は真っ直ぐ歩いているつもりであるにもかかわらず、回転軌道で歩行させることができ、これによって必要な空間を削減している。
【0073】
しかしこのようなRedirected Walkingの手法のみを用いた場合、必要な空間を削減する効果は低く、実際には30m平方程度のスペースが必要であることがわかっている。
【0074】
これに対して本発明の動き誘発装置1によれば、人の姿勢を制御することが可能になるので、姿勢の制御よって、人の動く軌道をより強力に制御できることが出来になる。このように、本発明の動き誘発装置1を、狭い実空間を用いてバーチャルリアリティ空間での歩行に適用することができる。
【0075】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなる。
【0076】
例えば、
図5で参照した処理装置4は、無線通信ネットワークを介してサーバに接続し、サーバからの指示によって、各ユニット3を制御するように構成されても良い。
【0077】
本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。