特開2018-43315(P2018-43315A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-43315(P2018-43315A)
(43)【公開日】2018年3月22日
(54)【発明の名称】産業ロボット
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/00 20060101AFI20180223BHJP
【FI】
   B25J19/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-179690(P2016-179690)
(22)【出願日】2016年9月14日
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】高橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】小山 潤悟
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS11
3C707BS13
3C707CY03
3C707CY05
(57)【要約】
【課題】旋回部材に対するパワーケーブルの動きの追従性を向上する。
【解決手段】溶接ロボットの第4アームC6のアーム本体11には、第6旋回軸心J6を中心として旋回可能に第5アームC7が連結されている。第5アームC7のハウジング部25は全体として円筒形状になっている。当該ハウジング部25には、第7旋回軸心J7を中心軸とする断面円形状の貫通孔26が形成されていて、ハウジング部25はその端面に第1開口部を有する。ハウジング部25における第1開口部の開口縁には全体として円環状をなす開口被覆部材40が設けられている。開口被覆部材40は、ハウジング部25の外表面よりも表面粗さが小さくなっている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側部材と、当該固定側部材に対して旋回可能に連結された旋回部材と、作業ツールに電力を供給するためのパワーケーブルとを備えた産業ロボットであって、
前記固定側部材及び前記旋回部材の少なくとも一方は、前記パワーケーブルが挿通される開口部が設けられたハウジング部を備え、
前記開口部の開口縁には、前記ハウジング部の外表面よりも表面粗さの小さい開口被覆部材が設けられている
ことを特徴とする産業ロボット。
【請求項2】
前記開口被覆部材は、前記ハウジング部を構成する材料よりも軟質な材料で構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の産業ロボット。
【請求項3】
前記ハウジング部は円筒形状であり、
前記開口被覆部材は円環状であり、
前記ハウジング部の内周面には、当該内周面を覆う円筒形状のスリーブ部材が取り付けられており、
前記開口被覆部材の内径と前記スリーブ部材の内径とが同一である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の産業ロボット。
【請求項4】
前記開口被覆部材は、前記ハウジング部の軸方向いずれか一方側の端面を覆う円環板状の円環板部と、前記円環板部から軸方向に突出するとともに前記円環板部の内周縁に沿って延びる円環突部とを備え、
前記円環突部の突出先端側であって径方向内側の角部は、面取り形状になっている
ことを特徴とする請求項3に記載の産業ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の産業ロボットは、床面等に固定される基台の上部に、旋回可能に旋回台が設けられている。旋回台の上部には、複数のアームが直列的に連結されている。各アームは、それぞれ固定側(基台側)の部材に対して旋回可能になっている。最も先端側のアームには、作業ツール固定部材及び作業ツールとしての溶接トーチが取り付けられている。また、特許文献1の産業ロボットには、溶接トーチに電力を供給するためのパワーケーブルが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−152591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような産業ロボットにおいて、アームのハウジングに開口部を設け、作業ツールに電力を供給するためのパワーケーブルを、その開口部に挿通することにより、パワーケーブルの一部をアームの内部に延設することがある。このようなパワーケーブルの延設態様においては、アームが旋回する際に、パワーケーブルがハウジングにおける開口部の開口縁と摺動する。そのため、アームの旋回動作にパワーケーブルの動きが円滑に追従できず、アームの旋回動作に対して遅れてパワーケーブルが動くことがある。仮にこのような事態が発生すると、例えば、アームが旋回を完了して所定の停止位置に達しているにも拘らずパワーケーブルが遅れて動き、その動きに伴ってアームが意図せず振動するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、固定側部材と、当該固定側部材に対して旋回可能に連結された旋回部材と、作業ツールに電力を供給するためのパワーケーブルとを備えた産業ロボットであって、前記固定側部材及び前記旋回部材の少なくとも一方は、前記パワーケーブルが挿通される開口部が設けられたハウジング部を備え、前記開口部の開口縁には、前記ハウジング部の外表面よりも表面粗さの小さい開口被覆部材が設けられていることを特徴とする。
【0006】
上記の構成によれば、ハウジング部の開口部に挿通されたパワーケーブルは、旋回部材が旋回する際に、表面粗さが小さくて滑らかな開口被覆部材と摺動する。したがって、開口被覆部材が設けられていないハウジング部の開口縁に摺動する場合に比較してパワーケーブルが動く際の抵抗が小さい。その結果、旋回部材が旋回した際にパワーケーブルが円滑に動きやすくなり、旋回部材の旋回動作に対するパワーケーブルの動きの遅れを抑制できる。すなわち、旋回部材の旋回動作に対するパワーケーブルの動きの追従性が向上する。
【0007】
上記発明において、前記開口被覆部材は、前記ハウジング部を構成する材料よりも軟質な材料で構成されていてもよい。
上記の構成によれば、開口被覆部材の材質が比較的に軟質であるため、パワーケーブルがハウジング部の開口縁に摺動する場合に比較して、パワーケーブルに傷が付くことを抑制できる。
【0008】
上記発明において、前記ハウジング部は円筒形状であり、前記開口被覆部材は円環状であり、前記ハウジング部の内周面には、当該内周面を覆う円筒形状のスリーブ部材が取り付けられており、前記開口被覆部材の内径と前記スリーブ部材の内径とが同一であってもよい。
【0009】
上記の構成によれば、開口被覆部材とスリーブ部材との間に段差が生じてなく、開口被覆部材の内径全体をパワーケーブルの可動範囲として利用できる。したがって、パワーケーブルが不要に屈折することは抑制される。
【0010】
上記発明において、前記開口被覆部材は、前記ハウジング部の軸方向いずれか一方側の端面を覆う円環板状の円環板部と、前記円環板部から軸方向に突出するとともに前記円環板部の内周縁に沿って延びる円環突部とを備え、前記円環突部の突出先端側であって径方向内側の角部は、面取り形状になっていてもよい。
【0011】
上記の構成によれば、パワーケーブルが円環突部の突出先端側の角部に接触したときに、パワーケーブルが円環突部に狭い領域で接触することを抑制でき、パワーケーブルを円環突部の角部に面接触させることができる。そのため、パワーケーブルが摩耗することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、旋回部材の旋回動作に対するパワーケーブルの動きの追従性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】溶接ロボットの全体図。
図2】第4アームと第5アームとの連結部分の斜視図。
図3】第4アームと第5アームとの連結部分の断面図。
図4】開口被覆部材の平面図。
図5図4における5−5線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(溶接ロボットの全体構成)
本発明を、産業ロボットとしての多関節型の溶接ロボットに適用した実施形態を説明する。先ず、溶接ロボットの全体構成について説明する。
【0015】
図1に示すように、溶接ロボットは、床面や壁面等に固定される基台C1を備えている。溶接ロボットの基台C1の上部には、第1旋回軸心J1を中心として旋回可能に旋回台C2が設けられている。旋回台C2の上部には、第1旋回軸心J1と直交する第2旋回軸心J2を中心として旋回可能に第1アームC3が連結されている。第1アームC3の先端部には、第2旋回軸心J2と直交する第3旋回軸心J3を中心として旋回可能に第2アームC4が連結されている。第2アームC4の先端部には、第3旋回軸心J3と直交する第4旋回軸心J4を中心として旋回可能に第3アームC5が連結されている。
【0016】
図1に示すように、第3アームC5の先端部には、第4旋回軸心J4と直交する第5旋回軸心J5を中心として旋回可能に第4アームC6が連結されている。第4アームC6の先端部には、第5旋回軸心J5と直交する第6旋回軸心J6を中心として旋回可能に第5アームC7が連結されている。第5アームC7の先端には、第6旋回軸心J6と直交する第7旋回軸心J7を中心として旋回可能に作業ツール固定部材C8が連結されている。作業ツール固定部材C8には、作業ツールとして溶接トーチC9が固定されている。溶接トーチC9は作業ツール固定部材C8と共に一体的に旋回する。
【0017】
図1に示すように、溶接ロボットには、溶接トーチC9に電力を供給するためのパワーケーブルPCが設けられている。パワーケーブルPCは、図示しない溶接電源装置から延びて先端が溶接トーチC9にまで至っている。パワーケーブルPCは、旋回台C2の外面及び第1アームC3の外面にステーSで固定されている。パワーケーブルPCにおける第1アームC3に対する固定箇所よりも先端側は、第1アームC3のハウジングに設けられた開口部を介して第1アームC3の内部に引き込まれている。パワーケーブルPCは、第1アームC3の内部から第2アームC4の内部へと至っており、第2アームC4のハウジングに設けられた開口部を介して第2アームC4の外部に引き出されている。
【0018】
図1に示すように、パワーケーブルPCは、第2アームC4の外面及び第3アームC5の外面にステーSで固定されている。パワーケーブルPCにおける第3アームC5への固定箇所よりも先端側は、第4アームC6の外面に沿うように延設されているとともに第5アームC7側へと至っている。パワーケーブルPCは、第5アームC7を貫通するように延設され、その先端側が作業ツール固定部材C8に固定された溶接トーチC9に接続されている。
【0019】
(第4アームC6と第5アームC7との連結部分の構成)
次に、第4アームC6と第5アームC7との連結部分のより具体的な構成について説明する。なお、第4アームC6及び第5アームC7の関係に着目した場合、より基台C1側に位置する第4アームC6が「固定側部材」に相当し、第4アームC6に対して旋回可能な第5アームC7が「旋回部材」に相当する。
【0020】
図2に示すように第4アームC6は、その先端側に略四角柱状のアーム本体11を備えている。図3に示すように、アーム本体11の側面には、円形状に突出する突出部11aが設けられている。なお、この突出部11aの中心軸線は、第6旋回軸心J6である。アーム本体11は、アルミニウム合金で形成されている。アーム本体11の突出部11aには、第5アームC7の回動部21が連結されている。
【0021】
図2に示すように、回動部21は、全体として円柱状になっている。回動部21のアーム本体11側の面には、円形状の凹部21aが設けられている。この凹部21aの内径は、アーム本体11における突出部11aの外径と略同じになっている。回動部21の凹部21aは、アーム本体11の突出部11aに回動可能に嵌め合わされている。そして、回動部21は、第6旋回軸心J6を中心として第4アームC6のアーム本体11に対して回動可能になっている。回動部21の外周面には、径方向外側に向かって四角柱状の連結部22が突出している。連結部22における第4アームC6のアーム本体11とは反対側の側面には、ハウジング部25が設けられている。
【0022】
図3に示すように、ハウジング部25は、全体として円筒形状になっている。具体的には、ハウジング部25には、第7旋回軸心J7を中心軸とする断面円形状の貫通孔26が形成されている。ハウジング部25は、第7旋回軸心J7方向の作業ツール固定部材C8側とは反対側(図3において上側)の端面に第1開口部26aを有するとともに、第7旋回軸心J7方向の作業ツール固定部材C8側の端面に第2開口部26bを有している。また、ハウジング部25の作業ツール固定部材C8側の端面のうち、第2開口部26bの周縁は円形状に窪んだ形状となっている。ハウジング部25は、第6旋回軸心J6よりも作業ツール固定部材C8側(図3において下側)に位置している。図2に示すように、ハウジング部25の貫通孔26(第1開口部26a及び第2開口部26b)には、パワーケーブルPCが挿通されていて、パワーケーブルPCがハウジング部25を軸方向に貫通している。
【0023】
上記した第5アームC7における回動部21、連結部22、及びハウジング部25は、いずれもアルミニウム合金で形成されている。また、第5アームC7においては、回動部21が第6旋回軸心J6を中心として回動することで、連結部22と共にハウジング部25が第6旋回軸心J6を中心として旋回する。
【0024】
図3に示すように、ハウジング部25の内周面25a(貫通孔26の周面)には、当該内周面25aを覆うスリーブ部材31が設けられている。スリーブ部材31は、円筒形状の円筒部32と、円筒部32の端縁から径方向外側に延びるフランジ部33とを備えている。円筒部32の外径は、ハウジング部25の貫通孔26の内径と略同一になっていて、円筒部32の外周面がハウジング部25の内周面25aに面接触している。円筒部32の中心軸(第7旋回軸心J7)方向の寸法は、ハウジング部25の貫通孔26の中心軸方向の寸法よりもやや短くなっている。
【0025】
図3に示すように、スリーブ部材31のフランジ部33は、ハウジング部25の作業ツール固定部材C8側の端面のうちの窪んだ部分に嵌め込まれていて、ハウジング部25の第2開口部26b側の端面に面接触している。したがって、スリーブ部材31は、フランジ部33においてハウジング部25の第2開口部26bの開口縁の近傍を覆っている。また、スリーブ部材31は、円筒部32において、ハウジング部25の内周面25aのうち第1開口部26a側の一部を除く略全体を覆っている。
【0026】
上記のように構成されたスリーブ部材31は、アルミニウム合金で形成されている。また、スリーブ部材31における円筒部32の内周面は、磨き加工が施されていて、表面粗さが、ハウジング部25の外表面よりも小さくなっている。
【0027】
図3に示すように、スリーブ部材31のフランジ部33には、複数のボルト孔が設けられていて、このボルト孔に挿通されるボルトB1によりハウジング部25に固定されている。
【0028】
図3に示すように、円筒部32の外周面のうち、ハウジング部25の第1開口部26a側の端部には、円環状のシール部材35が取り付けられている。シール部材35は、円筒部32の外周面とハウジング部25の内周面25aとの間の隙間をシールしていて、当該隙間を介して円筒部32の壁の内部空間に水分や埃等の異物が侵入することを防いでいる。
【0029】
なお、図3では、第4アームC6のアーム本体11の内部構造や、第5アームC7の回動部21及び連結部22の内部構造の図示を省略している。また、第5アームC7におけるハウジング部25の内部構造についても、貫通孔26を除く部分については図示を省略している。
【0030】
図2及び図3に示すように、ハウジング部25における第1開口部26aの開口縁には、全体として円環状をなす開口被覆部材40が設けられている。図4及び図5に示すように、開口被覆部材40は、円環板状の円環板部41と、円環板部41から軸方向に突出する円環突部45とを備えている。
【0031】
図4に示すように、円環板部41の外縁形状は、円周の一部(図4において下側の一部)を直線的に接続したような形状になっている。円環板部41の外縁において円周状になっている部分の外径は、ハウジング部25における第1開口部26aの内径よりも大きくなっている。円環板部41の内縁形状は円形状になっていて、その内径R2は、スリーブ部材31における円筒部32の内径R1と同一になっている。図5に示すように、円環板部41の内周縁の角部P1は面取り形状になっている。この実施形態では、円環板部41の角部P1は、いわゆる丸み面取り形状(R形状)になっている。
【0032】
図4に示すように、円環板部41には、当該円環板部41を厚み方向に貫通するボルト孔42が設けられている。ボルト孔42は、円環板部41の周方向に複数(この実施形態では5つ)並設されている。円環板部41の周方向において外縁形状が円周状になっている部分の円環板部41の幅Wの中央を通り、且つ円環板部41の中心を中心とする仮想円Cを描いたとき、各ボルト孔42は、その仮想円Cよりも径方向外側に設けられている。図2及び図3に示すように、開口被覆部材40における円環板部41の各ボルト孔42には、ボルトB2が挿通されていて、このボルトB2より、開口被覆部材40がハウジング部25に固定されている。
【0033】
図4及び図5に示すように、開口被覆部材40の円環突部45は、円環板部41の中心軸方向(図4において紙面手前側、図5において下側)に突出している。また、円環突部45は、円環板部41の内周縁に沿って円周状に延びている。円環突部45の内径は、円環板部41の内径R2と同じになっている。円環突部45の径方向外側の外縁部における直径R3(外径)は、ハウジング部25における第1開口部26aの内径と略同一になっている。図5に示すように、開口被覆部材40の円環突部45の突出先端側(図5において下側)であって径方向内側の角部P2は、面取り形状になっている。この実施形態では、円環突部45の角部P2は、いわゆる丸み面取り形状(R形状)になっている。
【0034】
上記のように構成された開口被覆部材40は、ハウジング部25を構成するアルミニウム合金よりも軟質な合成樹脂で形成されている。この実施形態では、開口被覆部材40は、ポリブチレンテレフタレート(PBT)で形成されている。また、開口被覆部材40の表面は、ハウジング部25の外表面よりも表面粗さが小さくなっている。
【0035】
図2及び図3に示すように、開口被覆部材40は、円環板部41の外縁が直線状になっている部分が回動部21側に位置するようにハウジング部25に取り付けられている。そして、開口被覆部材40における円環板部41は、ハウジング部25の第1開口部26a側の端面に面接触している。また、開口被覆部材40における円環突部45は、ハウジング部25の第1開口部26aの内側に位置している。
【0036】
(溶接ロボットの作用及び効果)
上記のように構成された溶接ロボットの作用及び効果を、溶接を開始する際の動作を例として説明する。溶接ロボットが溶接を開始する際には、溶接トーチC9の先端が所定の溶接開始点に位置するように、旋回台C2、第1アームC3〜第5アームC7、及び作業ツール固定部材C8が旋回する。そして、旋回台C2、第1アームC3〜第5アームC7、及び作業ツール固定部材C8の旋回が終了した後、溶接ロボットは、予め定められた待機時間の間、溶接の開始を待機して、上記各部材の旋回に伴って生じる揺れ等が収まるのを待つ。その後、溶接ロボットによる溶接が開始される。
【0037】
ここで、上記実施形態では、図2に示すように、第7旋回軸心J7方向において、第6旋回軸心J6と第5アームC7におけるハウジング部25の第1開口部26aの距離が比較的に短い。そのため、第4アームC6に対する第5アームC7の旋回位置によっては、パワーケーブルPCが相当の力でもって、ハウジング部25における第1開口部26aの開口縁に押し付けられる。
【0038】
また、例えば、第4アームC6が旋回すると、第5アームC7におけるハウジング部25の貫通孔26に挿通されているパワーケーブルPCは、ハウジング部25における第1開口部26aの開口縁に摺動しつつ動くことになる。このとき、上述したように、パワーケーブルPCが相当の力でもって第1開口部26aの開口縁に押し付けられていると、両者の間に大きな摩擦力が生じてパワーケーブルPCの動作が妨げられる。そのため、第4アームC6の旋回動作にパワーケーブルPCの動きが速やかに追従できず、第4アームC6が旋回動作を終了した後に、パワーケーブルPCが遅れて動くことがある。例えば、このようなパワーケーブルPCの動きの遅れが、溶接ロボットが溶接の開始を待っている待機時間中に発生すると、パワーケーブルPCの動きに応じて意図せずに第5アームC7等が振動してしまい、待機時間が経過して溶接が開始されようとしているにも拘わらず、第5アームC7の揺れが収まっていないという事態が生じ得る。したがって、このような事態が発生することを防ぐために、パワーケーブルPCが遅れて動くことを考慮して溶接の開始を待つための待機時間を設定する必要があり、待機時間が長時間化する。
【0039】
この点、上記実施形態では、第5アームC7におけるハウジング部25の第1開口部26aの開口縁には、ハウジング部25の外表面よりも表面粗さが小さくて滑らかな開口被覆部材40が設けられている。そのため、パワーケーブルPCが、ハウジング部25に設けられた開口被覆部材40に相応の力でもって押し付けられても両者の間に生じる摩擦はそれほど大きくなく、パワーケーブルPCが動く際の抵抗を小さくできる。その結果、上述した例のように第4アームC6が旋回した際であっても、パワーケーブルPCが円滑に動きやすくなり、第4アームC6の旋回動作に対するパワーケーブルPCの動きの遅れを抑制できる。すなわち、第4アームC6に対するパワーケーブルPCの動きの追従性が向上する。
【0040】
また、ハウジング部25の貫通孔26に挿通されているパワーケーブルPCは、第4アームC6や第5アームC7が旋回するのに伴って、開口被覆部材40の円環突部45の内側や、スリーブ部材31における円筒部32の内周面にも接触し得る。上記実施形態では、スリーブ部材31における円筒部32の内周面の表面粗さが小さくされている。したがって、パワーケーブルPCと円筒部32との間に生じる摩擦力により、第4アームC6の旋回動作に対するパワーケーブルPCの動きの追従性が低下することは抑制できる。
【0041】
上記実施形態では、開口被覆部材40の材質として、ハウジング部25を構成するアルミニウム合金よりも軟質なポリブチレンテレフタレートを採用している。しかも、開口被覆部材40における円環板部41の内周縁の角部P1が丸み面取り形状になっている。したがって、パワーケーブルPCが開口被覆部材40に相応の力でもって押し付けられたり摺動したりしても、パワーケーブルPCに傷が付くことを抑制できる。
【0042】
また、上記実施形態では、開口被覆部材40の円環板部41(円環突部45)の内径R2は、スリーブ部材31における円筒部32の内径R1と同一であり、両者の間に段差が生じていない。そのため、円環板部41の内径R2の全体をパワーケーブルPCの可動範囲として利用でき、パワーケーブルPCが不要に屈折することを抑制できる。さらに、開口被覆部材40における円環突部45の角部P2は、丸み面取り形状になっている。したがって、パワーケーブルPCが円環突部45の角部P2に接触する際に面接触させることができ、パワーケーブルPCが円環突部45の角部P2に非常に狭い領域で接触するような場合に比較して、パワーケーブルPCの摩耗を抑制できる。
【0043】
ところで、上記実施形態では、開口被覆部材40がボルトB2でハウジング部25に固定されているため、図3に示すように、開口被覆部材40の円環板部41からボルトB2の頭部が突出し、このボルトB2の頭部がパワーケーブルPCに接触する可能性がある。この点、上記実施形態では、各ボルト孔42が、開口被覆部材40の円環板部41において仮想円Cよりも径方向外側に設けられている。したがって、円環板部41の径方向内側にボルト孔42が設けられている場合に比較して、パワーケーブルPCがボルト孔42に挿通されたボルトB2の頭部に接触することに伴う影響を避けやすくなる。
【0044】
また、開口被覆部材40は、ボルトB2でハウジング部25に固定されているため、ボルトB2を外すことにより、開口被覆部材40をハウジング部25から取り外すことが可能である。したがって、経時劣化等によって開口被覆部材40の表面粗さが大きくなったり汚れが目立ったりしても、新たな開口被覆部材40に取り替えることができる。
【0045】
(変更例)
上記実施形態は、以下のように変更できる。
・開口被覆部材40及びそれに関連する構成が適用される産業ロボットは、上記実施形態の多関節型の溶接ロボットに限らない。例えば、旋回軸心が6軸以下の溶接ロボットや8軸以上の溶接ロボットに適用してもよい。また、作業ツール固定部材C8に溶接トーチC9に代えて他のツールを固定したロボットであってもよい。例えば、作業ツール固定部材C8に、物体を把持するマニピュレータを固定した搬送ロボットであってもよい。
【0046】
・第4アームC6や第5アームC7の材質は、アルミニウム合金でなくてもよい。例えば、第4アームC6や第5アームC7は、鉄系の合金などの金属製であってもよいし、合成樹脂製であってもよい。
【0047】
・第5アームC7におけるハウジング部25に代えて、又は加えて、他のアームに開口被覆部材を適用してもよい。例えば、上記実施形態では、第1アームC3のハウジングや第2アームC4のハウジングに開口部が設けられ、その開口部にパワーケーブルPCが挿通されている。これら第1アームC3のハウジングや第2アームC4のハウジングの開口部の開口縁に開口被覆部材を適用してもよい。また、それ以外の部材にもパワーケーブルPCが挿通される開口部が設けられているならば、その開口部の開口縁に開口被覆部材を適用してもよい。
【0048】
・パワーケーブルPCは、溶接トーチC9に電力を供給するだけでなく、他の機能を有していてもよい。例えば、溶接トーチC9に電力を供給する電源線に加えて、各アームの旋回動作を制御するための制御信号線等が内蔵された多軸ケーブルであってもよい。また、パワーケーブルPCの内部において、溶接ワイヤや溶接の際に使用されるガスを送給するための管(ホース)が設けられていてもよい。特にパワーケーブルPCの内部に溶接ワイヤが挿通されている場合、パワーケーブルPCが各アーム等の旋回動作に遅れて動くと、溶接ワイヤの先端位置を位置合わせした後に当該溶接ワイヤの先端位置にずれが生じて、精密な溶接を実現できないことがある。そのため、パワーケーブルPCの内部に溶接ワイヤが挿通されているような溶接ロボットに、上記開口被覆部材40等に関する構成を適用することは好適である。
【0049】
・開口被覆部材40において、円環板部41の内周縁の角部P1や円環突部45の突出先端側の角部P2の面取り形状は、丸み面取り形状に限らない。例えば、角部P1や角部P2を斜めに直線状に面取りした形状であってもよい。
【0050】
・円環板部41の内周縁の角部P1や円環突部45の突出先端側の角部P2を面取り形状にしなくてもよい。例えば、パワーケーブルPCの外皮の材質よりも、開口被覆部材40の材質の方が軟質であり、パワーケーブルPCが開口被覆部材40の各角部P1、P2に接触しても影響が小さいのであれば、面取り形状にしなくても弊害は小さい。
【0051】
・開口被覆部材40における円環板部41及び円環突部45の内径R2は、スリーブ部材31における円筒部32の内径R1と同一でなくてもよい。すなわち、ハウジング部25の貫通孔26内において、開口被覆部材40とスリーブ部材31との間に段差が生じていてもよい。上述した変更例と同様に、パワーケーブルPCの外皮の材質が比較的に硬質であるならば、開口被覆部材40とスリーブ部材31との間に段差が生じていても弊害は小さい。
【0052】
・開口被覆部材40は、ポリブチレンテレフタレート以外の合成樹脂で構成されていてもよい。また、開口被覆部材40は、必ずしも合成樹脂で構成されていなくてもよい。例えば、開口被覆部材40を、第5アームC7におけるハウジング部25と同じアルミニウム合金で構成し、そのアルミニウム合金製の開口被覆部材40の表面を磨き加工するなどして、当該開口被覆部材40の表面粗さをハウジング部25の外表面よりも小さくしてもよい。
【0053】
・開口被覆部材40の円環板部41において、ボルト孔42は仮想円Cよりも径方向内側に設けられていてもよい。例えば、ボルト孔42の周囲が他の箇所に対して窪んでいて、その窪みにボルトB2の頭部が収容されるのであれば、ボルト孔42がどのような位置に配置されていても、ボルトB2の頭部にパワーケーブルPCが接触するおそれは小さい。
【0054】
・開口被覆部材40の形状も、ハウジング部25における第1開口部26aの開口縁を覆うことができるのであれば問わない。例えば、円環突部45を省略してもよい。また、例えば、ハウジング部25の形状が四角筒状で第1開口部26aの平面視形状も四角形状であるならば、開口被覆部材40は、全体として四角環状になっていてもよい。
【0055】
・ハウジング部25に対する開口被覆部材40の固定態様は、ボルトB2に限らない。例えば、接着剤で固定してもよい。また、例えば、開口被覆部材40における円環突部45の径方向外側の外縁部における直径R3を、ハウジング部25の第1開口部26aの内径よりもわずかに大きくし、円環突部45を弾性変形させつつハウジング部25の第1開口部26aに嵌合させることにより、開口被覆部材40をハウジング部25に固定してもよい。
【0056】
・スリーブ部材31の内周面の表面粗さは、ハウジング部25の外表面の表面粗さよりも小さくなくてもよい。すなわち、スリーブ部材31の内周面は、磨き加工されていなくてもよい。
【0057】
・スリーブ部材31の材質は問わない。例えば、スリーブ部材31を、開口被覆部材40と同様に合成樹脂(ポリブチレンテレフタレート)で構成してもよい。なお、スリーブ部材31の円筒部32には、シール部材35から径方向内側に向かう力が作用する。スリーブ部材31の円筒部32とハウジング部25の内周面25aとの間にシール部材35を介在させる場合、この径方向内側に向かう力によって過度な変形が生じないような材質でスリーブ部材31を構成する必要がある。
【0058】
・ハウジング部25の内周面25aを覆うスリーブ部材31を省略してもよい。スリーブ部材31を省略した場合、例えばハウジング部25の内周面25aに磨き加工を施して表面粗さを小さくすれば、パワーケーブルPCが内周面25aに対して摺動したときの抵抗を小さくできる。なお、スリーブ部材31を省略する場合において、ハウジング部25における第2開口部26bの開口縁に開口被覆部材を設けてもよい。
【0059】
(技術思想の追記)
上記実施形態及び変更例から導き出せる技術思想を以下に追記する。
・開口被覆部材の円環板部には、当該開口被覆部材をハウジング部に固定するためのボルトが挿通されるボルト孔が設けられ、そのボルト孔は、円環板部の径方向の幅の中央よりも径方向外側に設けられている。
【符号の説明】
【0060】
C1…基台、C2…旋回台、C3…第1アーム、C4…第2アーム、C5…第3アーム、C6…第4アーム、C7…第5アーム、C8…作業ツール固定部材、C9…溶接トーチ、J1…第1旋回軸心、J2…第2旋回軸心、J3…第3旋回軸心、J4…第4旋回軸心、J5…第5旋回軸心、J6…第6旋回軸心、J7…第7旋回軸心、PC…パワーケーブル、B1…ボルト、B2…ボルト、P1…角部、P2…角部、R1…内径、R2…内径、R3…直径、11…アーム本体、11a…突出部、21…回動部、21a…凹部、22…連結部、25…ハウジング部、25a…内周面、26…貫通孔、26a…第1開口部、26b…第2開口部、31…スリーブ部材、32…円筒部、33…フランジ部、35…シール部材、40…開口被覆部材、41…円環板部、42…ボルト孔、45…円環突部。
図1
図2
図3
図4
図5