特開2018-44035(P2018-44035A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-44035(P2018-44035A)
(43)【公開日】2018年3月22日
(54)【発明の名称】廃棄物分離方法及びそれに用いる処理液
(51)【国際特許分類】
   C08J 11/08 20060101AFI20180223BHJP
   C01B 32/152 20170101ALI20180223BHJP
   C01B 32/158 20170101ALI20180223BHJP
【FI】
   C08J11/08ZAB
   C01B31/02 101F
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-177574(P2016-177574)
(22)【出願日】2016年9月12日
(71)【出願人】
【識別番号】597104916
【氏名又は名称】アースリサイクル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594033813
【氏名又は名称】株式会社大成化研
(74)【代理人】
【識別番号】100127203
【弁理士】
【氏名又は名称】奈良 泰宏
(74)【代理人】
【識別番号】100127708
【弁理士】
【氏名又は名称】木暮 隆一郎
(72)【発明者】
【氏名】立花 孝
(72)【発明者】
【氏名】松原 賢政
【テーマコード(参考)】
4F401
4G146
【Fターム(参考)】
4F401AA08
4F401AA13
4F401AA19
4F401AA20
4F401AA21
4F401AA22
4F401AA26
4F401AA29
4F401AC05
4F401AC06
4F401AC07
4F401AD03
4F401AD04
4F401AD08
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4F401CA29
4F401CA32
4F401CA46
4F401CA48
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4F401CA52
4F401EA07
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4F401EA79
4F401EA90
4F401FA01Z
4F401FA07Z
4F401FA20Z
4G146AA11
4G146AB06
4G146AC03A
4G146AC03B
4G146AD14
4G146AD17
4G146AD20
4G146AD37
4G146AD40
4G146CB10
4G146CB11
4G146CB12
4G146CB14
4G146CB19
4G146CB22
4G146CB35
4G146CB37
(57)【要約】
【課題】樹脂複合体廃棄物から特定成分を分離する際、分離処理を効率よく行うことができる廃棄物分離方法及びそれに用いる処理液を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の廃棄物分離方法は、加熱されたグリコール化合物に溶解する樹脂成分A、及び加熱されたグリコール化合物に溶解しない成分Bを含む樹脂複合体廃棄物から前記成分Bを分離する廃棄物分離方法であって、加熱された処理液と前記樹脂複合体廃棄物とを接触させることにより、前記樹脂成分Aを前記処理液に溶解させて前記成分Bを分離する工程を備え、前記処理液が、グリコール化合物と、このグリコール化合物に分散されたカーボンナノチューブとを含むことを特徴とする。本発明の処理液は、前記本発明の廃棄物分離方法に用いられる処理液であって、グリコール化合物と、このグリコール化合物に分散されたカーボンナノチューブとを含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱されたグリコール化合物に溶解する樹脂成分A、及び加熱されたグリコール化合物に溶解しない成分Bを含む樹脂複合体廃棄物から前記成分Bを分離する廃棄物分離方法であって、
加熱された処理液と前記樹脂複合体廃棄物とを接触させることにより、前記樹脂成分Aを前記処理液に溶解させて前記成分Bを分離する工程を備え、
前記処理液が、グリコール化合物と、このグリコール化合物に分散されたカーボンナノチューブとを含むことを特徴とする廃棄物分離方法。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部が極性基で修飾されている請求項1に記載の廃棄物分離方法。
【請求項3】
前記極性基が、水酸基、カルボニル基、カルボキシ基又はこれらの組み合わせである請求項2に記載の廃棄物分離方法。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブの平均直径が0.01nm以上500nm以下である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の廃棄物分離方法。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブである請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の廃棄物分離方法。
【請求項6】
前記処理液中の前記カーボンナノチューブの含有量が0.01質量%以上30質量%以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の廃棄物分離方法。
【請求項7】
前記グリコール化合物が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジプロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−ジメチロールシクロヘキサン、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、3−メチルペンタン−1,4−ジオール、2,2−ジエチルブタン−1,3−ジオール、4,5−ノナンジオール又はこれらの組み合わせである請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の廃棄物分離方法。
【請求項8】
前記グリコール化合物がトリエチレングリコールである請求項7に記載の廃棄物分離方法。
【請求項9】
前記分離する工程における前記処理液の加熱温度が260℃以上280℃以下である請求項8に記載の廃棄物分離方法。
【請求項10】
前記樹脂複合体廃棄物が、前記樹脂成分Aとして熱硬化性樹脂を含む請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の廃棄物分離方法。
【請求項11】
前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル又はこれらの組み合わせである請求項10に記載の廃棄物分離方法。
【請求項12】
前記樹脂複合体廃棄物が、前記樹脂成分Aとしてポチエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル又はこれらの組み合わせを含む請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の廃棄物分離方法。
【請求項13】
前記樹脂複合体廃棄物が、前記成分Bとして強化繊維を含む請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の廃棄物分離方法。
【請求項14】
前記強化繊維が、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ボロン繊維又はこれらの組み合わせである請求項13に記載の廃棄物分離方法。
【請求項15】
前記樹脂複合体廃棄物が、前記成分Bとして金属を含む請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の廃棄物分離方法。
【請求項16】
前記樹脂複合体廃棄物が、前記成分Bとしてポリオレフィンを含む請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の廃棄物分離方法。
【請求項17】
前記処理液がアルカリ金属水酸化物を更に含む請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の廃棄物分離方法。
【請求項18】
前記処理液中の前記アルカリ金属水酸化物の含有量が0.1質量%以上10質量%以下である請求項17に記載の廃棄物分離方法。
【請求項19】
前記アルカリ金属水酸化物が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はこれらの組み合わせである請求項17又は請求項18に記載の廃棄物分離方法。
【請求項20】
請求項1から請求項19のいずれか1項に記載の廃棄物分離方法に用いられる処理液であって、
グリコール化合物と、このグリコール化合物に分散されたカーボンナノチューブとを含むことを特徴とする処理液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂複合体廃棄物から特定成分を分離する廃棄物分離方法及びそれに用いる処理液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数種の樹脂からなる複合体や、金属等の樹脂以外の成分と樹脂との複合体等の樹脂複合体が知られている。例えば、樹脂と強化繊維とを含む繊維強化プラスチック(以下、「FRP」ともいう)は、軽量性や耐久性という点で優れていることから、自動車、航空機、スポーツ用品、その他の分野で広く採用されている。
【0003】
また、金属と樹脂とを一体化させた樹脂複合体は、例えばOA機器、携帯端末、携帯電話、テレビ、掃除機、冷蔵庫等の各種電気製品や、これらの制御部に用いられているプリント配線板、更には樹脂被覆電線、光ケーブルなどに広く採用されている。
【0004】
これらの樹脂複合体を用いた製品においては、使用後、あるいは製造過程において不良と判定された後の製品を再利用処理する際、利用価値の高い特定成分を分離する方法が検討されている。
【0005】
例えば、樹脂と強化繊維とを含むFRPを再利用処理する場合、このFRPからなる樹脂複合体廃棄物と加熱されたトリエチレングリコールとを接触させることにより、樹脂をトリエチレングリコールに溶解させて強化繊維を分離する方法が提案されている(特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−6948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1に記載された方法では、樹脂がトリエチレングリコールに溶解するまでにある程度の時間を要するため、分離処理を効率よく行うことが困難であった。
【0008】
そこで、本発明においては、樹脂複合体廃棄物から特定成分を分離する際、分離処理を効率よく行うことができる廃棄物分離方法及びそれに用いる処理液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 本発明の廃棄物分離方法は、加熱されたグリコール化合物に溶解する樹脂成分A、及び加熱されたグリコール化合物に溶解しない成分Bを含む樹脂複合体廃棄物から前記成分Bを分離する廃棄物分離方法であって、加熱された処理液と前記樹脂複合体廃棄物とを接触させることにより、前記樹脂成分Aを前記処理液に溶解させて前記成分Bを分離する工程を備え、前記処理液が、グリコール化合物と、このグリコール化合物に分散されたカーボンナノチューブとを含むことを特徴とする。
【0010】
前記(1)の廃棄物分離方法によれば、高熱伝導性のカーボンナノチューブが分散された処理液を用いるため、樹脂複合体廃棄物中に加熱された処理液を速やかに浸透させることができる。これにより、短時間で樹脂成分Aを処理液に溶解させることができるため、成分Bの分離処理を効率よく行うことができる。なお、「グリコール化合物」とは、2つの水酸基を有する化合物、その誘導体、又はそれらの塩のうち、少なくとも処理温度において液状の化合物を指す。また、「加熱されたグリコール化合物に溶解する樹脂成分A」には、熱溶融する樹脂成分だけでなく、加熱されたグリコール化合物中で熱分解又は解重合することにより可溶化する樹脂成分も含まれる。
【0011】
(2) 前記(1)の廃棄物分離方法において、前記カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部が極性基で修飾されていることが好ましい。この構成の場合、カーボンナノチューブのグリコール化合物への分散性を向上させることができるため、樹脂複合体廃棄物中に加熱された処理液をより速やかに浸透させることができる。
【0012】
(3) 前記(2)の廃棄物分離方法において、前記極性基が、水酸基、カルボニル基、カルボキシ基又はこれらの組み合わせであることが好ましい。この構成の場合、カーボンナノチューブのグリコール化合物への分散性を更に向上させることができるため、樹脂複合体廃棄物中に加熱された処理液を更に速やかに浸透させることができる。なお、カルボニル基で修飾される場合としては、カーボンナノチューブ表面にカルボニル基が付加される場合だけでなく、カーボンナノチューブ表面の活性点(欠陥)への酸素原子の付加によりカルボニル基が形成される場合も含む。また、カルボキシ基で修飾される場合としては、カーボンナノチューブ表面にカルボキシ基が付加される場合だけでなく、カーボンナノチューブ表面の活性点(欠陥)への酸素原子の付加によりカルボニル基が形成された後、このカルボニル基への水酸基の付加によりカルボキシ基が形成される場合も含む。
【0013】
(4) 前記(1)から(3)の廃棄物分離方法において、前記カーボンナノチューブの平均直径が0.01nm以上500nm以下であることが好ましい。この構成によれば、カーボンナノチューブの熱伝導性を高めつつ、グリコール化合物への分散性をより向上させることができる。これにより、樹脂複合体廃棄物中に加熱された処理液をより速やかに浸透させることができる。なお、前記「平均直径」は、電子顕微鏡で観察されるカーボンナノチューブの単体の直径の平均値であり、例えば電子顕微鏡で任意に10個のカーボンナノチューブの単体を選択し、これらのカーボンナノチューブの直径を平均した値である。
【0014】
(5) 前記(1)から(4)の廃棄物分離方法において、前記カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブであることが好ましい。この構成によれば、カーボンナノチューブの熱伝導性をより高めることができるため、樹脂複合体廃棄物中に加熱された処理液をより速やかに浸透させることができる。なお、前記「多層カーボンナノチューブ」とは、グラファイト層を2層以上重ねて筒状に巻いた構造を有するカーボンナノチューブを指す。
【0015】
(6) 前記(1)から(5)の廃棄物分離方法において、前記処理液中の前記カーボンナノチューブの含有量が0.01質量%以上30質量%以下であることが好ましい。この構成によれば、カーボンナノチューブの高熱伝導性に起因する樹脂複合体廃棄物中への処理液の浸透性を高めつつ、処理液中におけるカーボンナノチューブの沈殿を抑制することにより分離処理を安定して行うことができる。
【0016】
(7) 前記(1)から(6)の廃棄物分離方法において、前記グリコール化合物が、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジプロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−ジメチロールシクロヘキサン、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、3−メチルペンタン−1,4−ジオール、2,2−ジエチルブタン−1,3−ジオール、4,5−ノナンジオール又はこれらの組み合わせであることが好ましい。この構成の場合、より短時間で樹脂成分Aを処理液に溶解させることができる。
【0017】
(8) 前記(7)の廃棄物分離方法において、前記グリコール化合物がトリエチレングリコールであることが好ましい。トリエチレングリコールは沸点が比較的高いため、より高い温度での処理が可能となる。これにより、更に短時間で樹脂成分Aを処理液に溶解させることができる。
【0018】
(9) 前記(8)の廃棄物分離方法において、前記処理液の加熱温度が260℃以上280℃以下であることが好ましい。この温度範囲内に調整することにより、更に短時間で樹脂成分Aを処理液に溶解させることができる。
【0019】
(10) 前記(1)から(9)の廃棄物分離方法において、前記樹脂複合体廃棄物が、前記樹脂成分Aとして熱硬化性樹脂を含んでいてもよい。
【0020】
(11) 前記(10)の廃棄物分離方法において、前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0021】
(12) 前記(1)から(11)の廃棄物分離方法において、前記樹脂複合体廃棄物が、前記樹脂成分Aとしてポチエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル又はこれらの組み合わせを含んでいてもよい。
【0022】
(13) 前記(1)から(12)の廃棄物分離方法において、前記樹脂複合体廃棄物が、前記成分Bとして強化繊維を含んでいてもよい。
【0023】
(14) 前記(13)の廃棄物分離方法において、前記強化繊維が、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ボロン繊維又はこれらの組み合わせであってもよい。
【0024】
(15) 前記(1)から(14)の廃棄物分離方法において、前記樹脂複合体廃棄物が、前記成分Bとして金属を含んでいてもよい。
【0025】
(16) 前記(1)から(15)の廃棄物分離方法において、前記樹脂複合体廃棄物が、前記成分Bとしてポリオレフィンを含んでいてもよい。
【0026】
(17) 前記(1)から(16)の廃棄物分離方法において、前記処理液がアルカリ金属水酸化物を更に含むことが好ましい。この構成によれば、より短時間で樹脂成分Aを処理液に溶解させることができる。
【0027】
(18) 前記(17)の廃棄物分離方法において、前記処理液中の前記アルカリ金属水酸化物の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。この構成によれば、更に短時間で樹脂成分Aを処理液に溶解させつつ、分離する成分Bの劣化を抑制できる。
【0028】
(19) 前記(17)又は(18)の廃棄物分離方法において、前記アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はこれらの組み合わせであることが好ましい。この構成によれば、更に短時間で樹脂成分Aを処理液に溶解させることができる。
【0029】
(20) 本発明の処理液は、前記(1)から(19)の廃棄物分離方法に用いられる処理液であって、グリコール化合物と、このグリコール化合物に分散されたカーボンナノチューブとを含むことを特徴とする。
【0030】
前記(20)の処理液によれば、上述した本発明の廃棄物分離方法において容易かつ確実に成分Bを分離できる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の廃棄物分離方法によれば、樹脂複合体廃棄物中に加熱された処理液を速やかに浸透させることができるため、加熱されたグリコール化合物に溶解する樹脂成分を短時間で処理液に溶解させることができる。これにより、加熱されたグリコール化合物に溶解しない成分(特定成分)の分離処理を効率よく行うことができる。また、本発明の処理液によれば、上述した本発明の廃棄物分離方法において容易かつ確実に上記特定成分を分離できる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0033】
<廃棄物分離方法>
本発明の一実施形態に係る廃棄物分離方法は、加熱されたグリコール化合物に溶解する樹脂成分A、及び加熱されたグリコール化合物に溶解しない成分Bを含む樹脂複合体廃棄物から前記成分Bを分離する廃棄物分離方法であって、加熱された処理液と前記樹脂複合体廃棄物とを接触させることにより、前記樹脂成分Aを前記処理液に溶解させて前記成分Bを分離する工程を備え、前記処理液が、グリコール化合物と、このグリコール化合物に分散されたカーボンナノチューブとを含むことを特徴とする。
【0034】
本実施形態の廃棄物分離方法によれば、高熱伝導性のカーボンナノチューブが分散された処理液を用いるため、樹脂複合体廃棄物中に加熱された処理液を速やかに浸透させることができる。これにより、短時間で樹脂成分Aを処理液に溶解させることができるため、成分Bの分離処理を効率よく行うことができる。以下、本実施形態の廃棄物分離方法について詳述する。
【0035】
(樹脂複合体廃棄物)
本実施形態の廃棄物分離方法の被処理物である樹脂複合体廃棄物は、加熱されたグリコール化合物に溶解する樹脂成分A、及び加熱されたグリコール化合物に溶解しない成分Bを含む樹脂複合体の廃棄物であれば特に限定されない。また、上記樹脂複合体廃棄物は、樹脂成分A及び成分Bをそれぞれ複数含んでいてもよい。
【0036】
上記樹脂複合体の一例としては、FRPが挙げられる。FRPは、樹脂と強化繊維との複合体であり、樹脂が樹脂成分Aに相当し、強化繊維が成分Bに相当する。
【0037】
上記樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂や、ポチエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの樹脂を複数組み合わせてもよい。
【0038】
上記強化繊維としては、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ボロン繊維等が挙げられる。これらの強化繊維を複数組み合わせてもよい。
【0039】
また、上記樹脂複合体は、成分Bとして金属を含んでいてもよい。金属を含む樹脂複合体としては、金属材料を含むプラスチック製品であるOA機器、携帯端末、携帯電話、テレビ、掃除機、冷蔵庫等の各種電気製品や、これらの制御部に用いられているプリント配線板、更には樹脂被覆電線、光ケーブルなどが挙げられる。
【0040】
また、上記樹脂複合体としては、アルミニウムと、ポリプロピレン等のポリオレフィンと、ポリエチレンテレフタレートとからなる積層シート等も例示できる。この積層シートの場合、ポリエチレンテレフタレートが樹脂成分Aに相当し、アルミニウム及びポリオレフィンが成分Bに相当する。
【0041】
また、上記樹脂複合体として、錠剤の包装材料等に適用されるポリ塩化ビニルと金属との複合材料も例示できる。この場合、ポリ塩化ビニルが樹脂成分Aに相当し、金属が成分Bに相当する。なお、この複合材料については、ポリ塩化ビニルの代わりにポリエチレンテレフタレート等の他の熱可塑性樹脂を用いてもよく、ポリ塩化ビニルと他の熱可塑性樹脂とを組み合わせてもよい。
【0042】
その他の樹脂複合体として、ポリオレフィンからなる複数の樹脂片を熱硬化性樹脂で接着させた樹脂複合体を挙げることができる。この場合、熱硬化性樹脂が樹脂成分Aに相当し、ポリオレフィンが成分Bに相当する。
【0043】
(処理液)
本実施形態で用いられる処理液は、グリコール化合物と、このグリコール化合物に分散されたカーボンナノチューブとを含む。
【0044】
上記グリコール化合物としては、特に限定されないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジプロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−ジメチロールシクロヘキサン、2,2−ジエチルプロパン−1,3−ジオール、3−メチルペンタン−1,4−ジオール、2,2−ジエチルブタン−1,3−ジオール、4,5−ノナンジオール又はこれらの組み合わせが好ましい。グリコール化合物として、上記特定の化合物を用いると、より短時間で樹脂成分Aを処理液に溶解させることができる。
【0045】
上記列挙したグリコール化合物の中でも、トリエチレングリコールが好ましい。トリエチレングリコールは沸点が比較的高いため、より高い温度での処理が可能となる。これにより、更に短時間で樹脂成分Aを処理液に溶解させることができる。また、トリエチレングリコールを用いる場合、上記処理液の加熱温度が260℃以上280℃以下であることが好ましい。この温度範囲内に調整することにより、更に短時間で樹脂成分Aを処理液に溶解させることができる。
【0046】
上記カーボンナノチューブとしては、上記グリコール化合物に分散可能である限り、その製法等について特に限定されないが、表面の少なくとも一部が極性基で修飾されているカーボンナノチューブが好ましい。表面の少なくとも一部が極性基で修飾されているカーボンナノチューブによれば、グリコール化合物への分散性を向上させることができるため、樹脂複合体廃棄物中に加熱された処理液をより速やかに浸透させることができる。
【0047】
上記極性基としては、水酸基、カルボニル基、カルボキシ基又はこれらの組み合わせが好ましい。この場合、カーボンナノチューブのグリコール化合物への分散性を更に向上させることができるため、樹脂複合体廃棄物中に加熱された処理液を更に速やかに浸透させることができる。
【0048】
カーボンナノチューブの表面に極性基を導入する方法は、特に限定されず、例えば特開2014−15387号公報等に記載の公知の方法を採用できる。より具体的には、まず、カーボンナノチューブ粉末と硫酸とを少量ずつ所定の割合で混合撹拌し、混合液を生成する(工程1)。続いて、この混合液に所定の割合で硝酸を混合し撹拌する(工程2)。その後、十分に煮沸するまで該混合液を加熱した(工程3)後、加熱を止め、冷却する(工程4)。続いて、該混合液をpH12〜13のアルカリ水溶液で希釈してpH値を調整した(工程5)後、更に大気中において冷却する(工程6)。冷却後、該混合液をろ過して、ろ過水を取り出す(工程7)。そして、取り出したろ過水(混合液)を水で希釈する(工程8)。ここで、工程7及び工程8については、更に1回以上繰り返してもよい。続いて、希釈した混合液を遠心分離機により遠心分離させた(工程9)後、上澄み液に対して超音波洗浄機により超音波照射しながらろ過する(工程10)。ここで、工程9及び工程10については、それぞれ更に1回以上繰り返してもよく、工程9及び工程10のいずれか一方のみを更に1回以上繰り返してもよい。続いて、得られたろ過水を水で希釈して所定の濃度に調整することで、表面に極性基が導入されたカーボンナノチューブの分散液を得ることができる。
【0049】
カーボンナノチューブの平均直径としては、熱伝導性を高める観点から、0.01nm以上が好ましく、0.1nm以上がより好ましく、1nm以上が更に好ましい。また、グリコール化合物への分散性をより向上させる観点から、カーボンナノチューブの平均直径としては、500nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、50nm以下が更に好ましい。
【0050】
本実施形態で用いられるカーボンナノチューブとしては、多層カーボンナノチューブが好ましい。多層カーボンナノチューブを用いると、熱伝導性をより高めることができるため、樹脂複合体廃棄物中に加熱された処理液をより速やかに浸透させることができる。
【0051】
処理液中のカーボンナノチューブの含有量としては、樹脂複合体廃棄物中への処理液の浸透性を高める観点から、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましい。また、処理液中におけるカーボンナノチューブの沈殿を抑制することにより分離処理を安定して行う観点から、処理液中のカーボンナノチューブの含有量としては、30質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。
【0052】
本実施形態で用いられる処理液は、アルカリ金属水酸化物を更に含むことが好ましい。処理液がアルカリ金属水酸化物を更に含んでいる場合、より短時間で樹脂成分Aを処理液に溶解させることができる。特に、解重合により可溶化する樹脂成分Aを含む樹脂複合体廃棄物が被処理物の場合は、処理液にアルカリ金属水酸化物を更に配合することにより、分離処理時間を著しく短縮できる。上記アルカリ金属水酸化物としては、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又はこれらの組み合わせを用いる場合、更に短時間で樹脂成分Aを処理液に溶解させることができる。
【0053】
本実施形態で用いられる処理液がアルカリ金属水酸化物を更に含む場合、処理液中のアルカリ金属水酸化物の含有量としては、より短時間で樹脂成分Aを処理液に溶解させる観点から0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましい。また、分離する成分Bの劣化を抑制する観点から、処理液中のアルカリ金属水酸化物の含有量としては、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0054】
本実施形態で用いられる処理液には、必要に応じて分散剤等の他の成分を添加してもよい。分散剤としては、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸アルカリ金属塩等の水溶性樹脂が好ましい。これらの分散剤は、1種単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
また、本実施形態で用いられる処理液には、その他の分散剤として、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤を添加してもよい。
【0056】
上記アニオン性界面活性剤としては、芳香族スルホン酸系界面活性剤(ドデシルベンゼンスルホン酸塩等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩など)、モノソープ系アニオン性界面活性剤、エーテルサルフェート系界面活性剤、フォスフェート系界面活性剤、カルボン酸系界面活性剤などが挙げられる。
【0057】
上記カチオン性界面活性剤としては、第4級アルキルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルアミン塩、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリビニルピリジン、ポリアクリルアミド等が挙げられる。
【0058】
上記ノニオン性界面活性剤としては、エーテル系ノニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等)、エステル系ノニオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンオレエート、ポリオキシエチレンジステアレート、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート等)、ソルビトールやグリセリン等の多価アルコール脂肪酸のアルキルエーテル、多価アルコール脂肪酸のアルキルエステル、アミノアルコール脂肪酸アミドなどが挙げられる。
【0059】
上記両性界面活性剤としては、アルキルベタイン系界面活性剤(ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、2−アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、プロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等)、スルホベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤などが挙げられる。
【0060】
本実施形態で用いられる処理液には、上述の成分以外にも、pH調整剤等の任意成分も配合することが可能である。
【0061】
(分離工程)
本実施形態の廃棄物分離方法は、加熱された処理液と樹脂複合体廃棄物とを接触させることにより、樹脂成分Aを処理液に溶解させて成分Bを分離する工程(分離工程)を備える。処理液と樹脂複合体廃棄物とを接触させる方法は特に限定されず、処理液に樹脂複合体廃棄物を浸漬する方法や、樹脂複合体廃棄物に処理液を噴霧する方法等、いずれの方法であってもよい。処理方式についても、連続処理方式及びバッチ処理方式のいずれであってもよい。また、接触は、常圧下で行っても加圧下で行ってもよい。なお、処理液を加熱するタイミングは特に限定されない。よって、例えば処理液と樹脂複合体廃棄物とを浸漬により接触させる方法を採用する場合、加熱した状態の処理液に樹脂複合体廃棄物を浸漬してもよく、加熱前の処理液に樹脂複合体廃棄物を浸漬した後、処理液を加熱してもよい。
【0062】
処理液の加熱温度は、樹脂成分Aが処理液に溶解する温度であれば特に限定されないが、例えば用いるグリコール化合物の沸点−30℃以上沸点以下の範囲であり、好ましくは用いるグリコール化合物の沸点−20℃以上沸点以下の範囲である。また、処理液と樹脂複合体廃棄物との接触時間は、被処理物や用いるグリコール化合物等に応じて適宜設定すればよく、例えば1〜300分程度である。
【0063】
(他の工程)
本実施形態の廃棄物分離方法においては、上記分離工程後、通常、成分Bの回収工程が設けられる。回収方法としては、遠心分離、ろ過等、公知の方法を適宜選択できる他、特開2008−13614号公報や特開2013−6948号公報等に記載の回収方法を採用することもできる。その他、回収した成分Bを水洗する工程や、回収した成分Bを乾燥させる工程等を別途設けてもよい。
【0064】
<処理液>
本発明の他の実施形態に係る処理液は、上述した実施形態の廃棄物分離方法に用いられる処理液であって、グリコール化合物と、このグリコール化合物に分散されたカーボンナノチューブとを含む。本実施形態の処理液によれば、上述した実施形態の廃棄物分離方法において容易かつ確実に成分Bを分離できる。当該処理液については、上述の廃棄物分離方法で好適に用いられる処理液として説明しているので、ここでは説明を省略する。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0066】
<樹脂複合体廃棄物>
被処理物である樹脂複合体廃棄物としては、炭素繊維とエポキシ樹脂とからなるFRP(CFRP)を用いた。
【0067】
<処理液>
処理液としては、トリエチレングリコールにカーボンナノチューブを分散させた分散液に水酸化ナトリウム(1.25質量%)を溶解させたものを用いた。処理液中のカーボンナノチューブの含有量は、表1の実施例1〜4に示す通りとした。また、処理液に用いたカーボンナノチューブは、宇部興産社の多層カーボンナノチューブ「AMC(登録商標):平均直径11nm」の表面に上述した方法で極性基を導入したものを用いた。
【0068】
<処理条件>
表1の実施例1〜4に示す含有量でカーボンナノチューブを含有する処理液を270℃まで加熱した後、常圧下、各処理液にCFRPを浸漬し、270℃に維持した状態で炭素繊維とエポキシ樹脂とが分離するまで目視で観察し、浸漬処理開始から分離するまでの時間(浸漬処理時間)を計測した。また、比較例1として、カーボンナノチューブを含有しないこと以外は実施例1〜4と同様の処理液を準備し、実施例1〜4と同様にCFRPを処理して浸漬処理時間を計測した。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示すように、カーボンナノチューブを含有する処理液を用いた実施例1〜4は、カーボンナノチューブを含有しない比較例1に比べ、浸漬処理時間を短縮できた。この結果から、本発明によれば、分離処理を効率よく行うことができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の廃棄物分離方法は、強化繊維等の利用価値の高い特定成分を短時間で分離する廃棄物分離方法として好適である。また、本発明の処理液は、本発明の廃棄物分離方法において容易かつ確実に特定成分を分離できる処理液として好適である。