【解決手段】変形検出センサ5は、磁性フィラーを含有する平板状の高分子マトリックス層3と、高分子マトリックス層3の厚み方向一方側に配置され、高分子マトリックス層3の変形に起因する磁気変化を検出する検出部4と、を有する。高分子マトリックス層3の厚み方向の断面形状は、検出部4の反対側となる厚み方向他方側から検出部側に向けて幅が大きくなる先太り形状である。
前記高分子マトリックス層は、その厚み方向に前記磁性フィラーが偏在しており、前記磁性フィラーが相対的に多い側の面が、前記検出部の反対側の面である、請求項1〜5のいずれかに記載の変形検出センサ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について説明する。
【0013】
図1A及び
図1Bに示した密閉型二次電池1は、その筐体11の内部に複数の単電池2を有する。本実施形態では、4つの単電池2が直列に(例えば2並列2直列に、または4直列に)接続されている。詳しく図示しないが、単電池2は、正極と負極をそれらの間にセパレータを介して巻回または積層してなる電極群と、その電極群を収容する外装体とを備える。外装体の内部の密閉空間には、電極群が電解液とともに収容されている。単電池2の外装体には、アルミラミネート箔などのラミネートフィルムが用いられるが、これに代えて円筒型または角型の金属缶を使用してもよい。
【0014】
本実施形態の二次電池1は、電動車両用の電源として使用され得るリチウムイオン二次電池であり、車両には電池パックの形態で搭載される。電池パックでは、直列に接続された複数の二次電池1が、コントローラなどの諸般の機器と共に筐体内に収容される。電池パックの筐体は、車載に適した形状に、例えば車両の床下形状に合わせた形状に形成される。なお、本発明において、密閉型二次電池は、リチウムイオン電池などの非水系電解液二次電池に限られず、ニッケル水素電池などの水系電解液二次電池であっても構わない。X,Y及びZ方向は、それぞれ単電池2の長さ方向,幅方向及び厚み方向に相当する。X方向及びY方向は、その厚み方向と直交する方向でもある。
【0015】
図1Bに示すように、密閉型二次電池1には変形検出センサ5が取り付けられ、変形検出センサ5は高分子マトリックス層3と検出部4とを有する。検出部4は、単電池2の表面(外装体の外面)に貼り付けられ、その貼付には必要に応じて接着剤や接着テープが用いられる。高分子マトリックス層3は、例えば平板状に形成されていて、二次電池における間隙内、例えば互いに隣り合う単電池2の間隙内や、
図1Cのような単電池2とそれを収容する筐体11、あるいは単電池2の筐体内側(電極群上)に配置される。高分子マトリックス層3を折り曲げるようにして、単電池2や筐体11の角部に貼り付けることも可能である。高分子マトリックス層3は、その高分子マトリックス層3の変形に応じて外場に変化を与える磁性フィラーを分散させて含有している。そして、検出部4は、その高分子マトリックス層3の変形に伴う外場の変化を検出する。本実施形態の高分子マトリックス層3は、単電池2の膨れに応じた柔軟な変形が可能なエラストマー素材によりシート状に形成されている。単電池2の膨れにより二次電池2が変形を生じると、それに応じて高分子マトリックス層3が変形し、その高分子マトリックス層3の変形に伴う外場の変化が検出部4により検出され、それに基づいて二次電池1の変形を高感度に検出することができる。
【0016】
高分子マトリックス層3は、全体として平板状をなし、平面視で四角形又は円形状に形成されている。勿論、平面視でこれらの形状に限定されない。高分子マトリックス層3は、厚み方向(図中Z方向)の一方側に検出部4が配置され、厚み方向の他方側に変形箇所(単電池2、筐体11)が配置されている。高分子マトリックス層3の厚み方向の断面形状は、検出部4の反対側となる厚み方向他方側から検出部側に向けて幅が大きくなる先太り形状をなしている。変形箇所に対向(又は接触)する面と、筐体または単電池に固定する面とが、平行であることが好ましいため、高分子マトリックス層3の断面形状は、互いに平行な一対の辺を有することが好ましい。具体的な一例として、
図2A及び
図2Bに示すように、高分子マトリックス層3の断面形状が、台形状又は階段状であることが挙げられる。
【0017】
図2A及び
図2Bに示すように、断面形状における短辺の長さをL1、長辺の長さをL2として、0.5<L1/L2<1.0 好ましくは、0.6≦L1/L2<1.0 の関係を満たすことが好ましい。0.5≦L1/L2となると、短辺側(検出部側)の幅が小さすぎて磁性フィラーの量が少なくなること、先太り過ぎる形状によって高分子マトリックス層3の変形が不安定になることが考えられる。断面が階段状の場合は、屈曲部の変形が大きくなることが考えられる。これらの要因によって磁気センサである検出部4に磁束が集中せず、安定性が悪化するおそれがある。
【0018】
大型化による磁束密度の低減を抑制して、高感度のセンサを得るためには、高分子マトリックス層3の厚みは、0.1〜20mmが好ましい。長辺L2は1〜100mmが好ましい。
【0019】
このように、高分子マトリックス層3の厚み方向の断面形状は、検出部4の反対側となる厚み方向他方側から検出部側に向けて先太り形状であるので、検出部4に対面する先太り側の面積を広くでき、高分子マトリックス層3を固定するために利用できる面積が広くなるので、固定強度を高めることができ、振動に対する検出の安定性を向上させることが可能となる。また、高分子マトリックス層3の先太り側の面のタック(粘着性)によって、筐体又は電池への固定強度を高め、振動に対する検出の安定性を向上させることが可能となる。
【0020】
本実施形態では、高分子マトリックス層3の材料として、SE1740:東レダウコーニング製シリコーンエラストマーを用い、A液とB液を1:1で配合した。
【0021】
検出部4から出力された検出信号は不図示の制御装置に送られ、設定値以上の外場の変化が検出部4により検出された場合には、その制御装置に接続された不図示のスイッチング回路が通電を遮断し、充電電流または放電電流を停止する。このようにして、単電池2の膨れによる二次電池の変形が高感度に検出され、破裂などのトラブルを未然に防ぐことができる。
【0022】
図1では単電池2を1つだけ示しているが、電動車両用の電源のように高電圧が必要とされる用途の二次電池2では、複数の単電池2を含む電池モジュールの形態で用いられる。電池モジュールでは、複数の単電池2が組電池を構成して筐体内に収容される。一般に、車両に搭載される電池モジュールは、電池パックの形態で用いられる。電池パックでは、複数の電池モジュールが直列に接続され、それらがコントローラなどの諸般の機器とともに筐体内に収容される。電池パックの筐体は、車載に適した形状に、例えば車両の床下形状に合わせた形状に形成される。
【0023】
検出部4は、外場の変化を検出可能な箇所に配置される。検出部4は、外場の変化を検出可能な程度で高分子マトリックス層3から離して配置され、好ましくは単電池2の脹れによる影響を受けにくい比較的堅固な箇所に貼り付けられる。本実施形態では、筐体11に検出部4を貼り付けているが、これに限られず、筐体11の内面や電池パックの筐体に検出部4を貼り付けても構わない。これら筐体は、例えば金属またはプラスチックにより形成され、電池モジュール筐体にはラミネートフィルムが用いられる。
【0024】
本実施形態では、高分子マトリックス層3が上記フィラーとしての磁性フィラーを含有し、検出部4が上記外場としての磁場の変化を検出する。この場合、高分子マトリックス層3は、エラストマー成分からなるマトリックスに磁性フィラーが分散してなる磁性エラストマー層であることが好ましい。
【0025】
磁性フィラーとしては、希土類系、鉄系、コバルト系、ニッケル系、酸化物系などが挙げられるが、より高い磁力が得られる希土類系が好ましい。磁性フィラーの形状は、特に限定されるものではなく、球状、扁平状、針状、柱状および不定形のいずれであってよい。磁性フィラーの平均粒径は、好ましくは0.02〜500μm、より好ましくは0.1〜400μm、更に好ましくは0.5〜300μmである。平均粒径が0.02μmより小さいと、磁性フィラーの磁気特性が低下する傾向にあり、平均粒径が500μmを超えると、磁性エラストマー層の機械的特性が低下して脆くなる傾向にある。
【0026】
磁性フィラーは、着磁後にエラストマー中に導入しても構わないが、エラストマーに導入した後に着磁することが好ましい。エラストマーに導入した後に着磁することで磁石の極性の制御が容易となり、磁場の検出が容易になる。
【0027】
エラストマー成分には、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマーまたはそれらの混合物を用いることができる。熱可塑性エラストマーとしては、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、ポリイソプレン系熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。また、熱硬化性エラストマーとしては、例えばポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリクロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム等のジエン系合成ゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ポリウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム等の非ジエン系合成ゴム、および天然ゴム等を挙げることができる。このうち好ましいのは熱硬化性エラストマーであり、これは電池の発熱や過負荷に伴う磁性エラストマーのへたりを抑制できるためである。更に好ましくは、ポリウレタンゴム(ポリウレタンエラストマーともいう)またはシリコーンゴム(シリコーンエラストマーともいう)である。
【0028】
ポリウレタンエラストマーは、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られる。ポリウレタンエラストマーをエラストマー成分として用いる場合、活性水素含有化合物と磁性フィラーを混合し、ここにイソシアネート成分を混合させて混合液を得る。また、イソシアネート成分に磁性フィラーを混合し、活性水素含有化合物を混合させることで混合液を得ることも出来る。その混合液を離型処理したモールド内に注型し、その後硬化温度まで加熱して硬化することにより、磁性エラストマーを製造することができる。また、シリコーンエラストマーをエラストマー成分として用いる場合、シリコーンエラストマーの前駆体に磁性フィラーを入れて混合し、型内に入れ、その後加熱して硬化させることにより磁性エラストマーを製造することができる。なお、必要に応じて溶剤を添加してもよい。
【0029】
ポリウレタンエラストマーに使用できるイソシアネート成分としては、ポリウレタンの分野において公知の化合物を使用できる。例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートを挙げることができる。これらは1種で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。また、イソシアネート成分は、ウレタン変性、アロファネート変性、ビウレット変性、及びイソシアヌレート変性等の変性化したものであってもよい。好ましいイソシアネート成分は、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、より好ましくは2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネートである。
【0030】
活性水素含有化合物としては、ポリウレタンの技術分野において、通常用いられるものを用いることができる。例えば、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体等に代表されるポリエーテルポリオール、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート、3−メチル−1,5−ペンタンアジペートに代表されるポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカプロラクトンのようなポリエステルグリコールとアルキレンカーボネートとの反応物などで例示されるポリエステルポリカーボネートポリオール、エチレンカーボネートを多価アルコールと反応させ、次いで得られた反応混合物を有機ジカルボン酸と反応させたポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリヒドロキシル化合物とアリールカーボネートとのエステル交換反応により得られるポリカーボネートポリオール等の高分子量ポリオールを挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
活性水素含有化合物として上述した高分子量ポリオール成分の他に、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、テトラメチロールシクロヘキサン、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、スクロース、2,2,6,6−テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサノール、及びトリエタノールアミン等の低分子量ポリオール成分、エチレンジアミン、トリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、ジエチレントリアミン等の低分子量ポリアミン成分を用いてもよい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。更に、4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)(MOCA)、2,6−ジクロロ−p−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンビス(2,3−ジクロロアニリン)、3,5−ビス(メチルチオ)−2,4−トルエンジアミン、3,5−ビス(メチルチオ)−2,6−トルエンジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,4−ジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミン、トリメチレングリコール−ジ−p−アミノベンゾエート、ポリテトラメチレンオキシド−ジ−p−アミノベンゾエート、1,2−ビス(2−アミノフェニルチオ)エタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、N,N’−ジ−sec−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラエチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトライソプロピルジフェニルメタン、m−キシリレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、及びp−キシリレンジアミン等に例示されるポリアミン類を混合することもできる。好ましい活性水素含有化合物は、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体、3−メチル−1,5−ペンタンアジペート、より好ましくはポリプロピレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体である。
【0032】
イソシアネート成分と活性水素含有化合物の好ましい組み合わせとしては、イソシアネート成分として、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、および4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの1種または2種以上と、活性水素含有化合物として、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体、および3−メチル−1,5−ペンタンアジペートの1種または2種以上との組み合わせである。より好ましくは、イソシアネート成分として、2,4−トルエンジイソシアネートおよび/または2,6−トルエンジイソシアネートと、活性水素含有化合物として、ポリプロピレングリコール、および/またはプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体との組み合わせである。
【0033】
高分子マトリックス層3は、分散したフィラーと気泡を含有する発泡体でもよい。発泡体としては、一般の樹脂フォームを用いることができるが、圧縮永久歪などの特性を考慮すると熱硬化性樹脂フォームを用いることが好ましい。熱硬化性樹脂フォームとしては、ポリウレタン樹脂フォーム、シリコーン樹脂フォームなどが挙げられ、このうちポリウレタン樹脂フォームが好適である。ポリウレタン樹脂フォームには、上掲したイソシアネート成分や活性水素含有化合物を使用できる。
【0034】
磁性エラストマー中の磁性フィラーの量は、エラストマー成分100重量部に対して、好ましくは1〜450重量部、より好ましくは2〜400重量部である。これが1重量部より少ないと、磁場の変化を検出することが難しくなる傾向にあり、450重量部を超えると、磁性エラストマー自体が脆くなる場合がある。
【0035】
高分子マトリックス層3は、その厚み方向にフィラーが偏在しているものでも構わない。例えば、高分子マトリックス層3が、フィラーが相対的に多い一方側の領域と、フィラーが相対的に少ない他方側の領域との二層からなる構造でもよい。フィラーを多く含有する一方側の領域では、高分子マトリックス層3の小さな変形に対する外場の変化が大きくなるため、低い内圧に対するセンサ感度を高められる。また、フィラーが相対的に少ない他方側の領域は比較的柔軟で動きやすく、この領域を貼り付けることにより、高分子マトリックス層3(特に一方側の領域)が変形しやすくなる。
【0036】
一方側の領域でのフィラー偏在率は、好ましくは0.5を超え、より好ましくは0.6以上であり、更に好ましくは0.7以上である。この場合、他方側の領域でのフィラー偏在率は0.5未満となる。一方側の領域でのフィラー偏在率は最大で1.0であり、他方側の領域でのフィラー偏在率は最小で0である。したがって、フィラーを含むエラストマー層と、フィラーを含まないエラストマー層との積層体構造でも構わない。フィラーの偏在には、エラストマー成分にフィラーを導入した後、室温あるいは所定の温度で静置し、そのフィラーの重さにより自然沈降させる方法を使用でき、静置する温度や時間を変化させることでフィラー偏在率を調整できる。遠心力や磁力のような物理的な力を用いて、フィラーを偏在させてもよい。或いは、フィラーの含有量が異なる複数の層からなる積層体により高分子マトリックス層を構成しても構わない。
【0037】
本実施形態では、磁性フィラーが相対的に多い側の面が、検出部4の反対側の面にしている。すなわち、磁性フィラーが相対的に多い側の面が電池2に貼り付けられている。よって、外装体21及び高分子マトリックス層3の小さな変形に対する外場の変化が大きくなるため、低い内圧に対するセンサ感度を高められる。
【0038】
フィラー偏在率は、以下の方法により測定される。即ち、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置(SEM−EDS)(SEM:株式会社日立ハイテクノロジーズ社製S−3500N、EDS:堀場製作所製EMAXモデル7021−H)を用いて、加速電圧25kV、真空度50Pa、WD15mmの条件にて高分子マトリックス層の断面を60倍で観察する。その断面の厚み方向全体の領域と、その断面を厚み方向に二等分した2つの領域に対し、それぞれ元素分析によりフィラー固有の金属元素(本実施形態の磁性フィラーであれば例えばFe元素)の存在量を求める。この存在量について、厚み方向全体の領域に対する一方側の領域の比率を算出し、それを一方側の領域でのフィラー偏在率とする。他方側の領域でのフィラー偏在率も、これと同様である。
【0039】
フィラーが相対的に少ない他方側の領域は、気泡を含有する発泡体で形成されている構造でも構わない。これにより、高分子マトリックス層3が更に変形しやすくなってセンサ感度が高められる。また、他方側の領域とともに一方側の領域が発泡体で形成されていてもよく、その場合の高分子マトリックス層3は全体が発泡体となる。このような厚み方向の少なくとも一部が発泡体である高分子マトリックス層は、複数の層(例えば、フィラーを含有する無発泡層と、フィラーを含有しない発泡層)からなる積層体により構成されていても構わない。
【0040】
磁場の変化を検出する検出部4には、例えば、磁気抵抗素子、ホール素子、インダクタ、MI素子、フラックスゲートセンサなどを用いることができる。磁気抵抗素子としては、半導体化合物磁気抵抗素子、異方性磁気抵抗素子(AMR)、巨大磁気抵抗素子(GMR)、トンネル磁気抵抗素子(TMR)が挙げられる。このうち好ましいのはホール素子であり、これは広範囲にわたって高い感度を有し、検出部4として有用なためである。ホール素子には、例えば旭化成エレクトロニクス株式会社製EQ432Lが使用できる。
【0041】
高分子マトリックス層3は、次の1)〜2)に例示するように、製造可能である。
【0042】
1)まず、磁性フィラーを樹脂前駆体液に分散させる。次に、樹脂前駆体液を所定形状を有する容器に注入し、硬化させて高分子マトリックス層3を作製する。所定形状は、平板形状であり、厚み方向の断面形状が、厚み方向他方側から一方側に向けて幅が大きくなる先太り形状である。次に、容器から高分子マトリックス層3を脱型する。次に、高分子マトリックス層3を厚み方向に着磁する。次に、高分子マトリックス層3の変形に起因する磁気変化を検出する検出部を、高分子マトリックス層3の厚み方向一方側(先太り側)に配置して、検出部4と高分子マトリックス層3とを組み付ける。
【0043】
2)まず、磁性フィラーを樹脂前駆体液に分散させる。次に、樹脂前駆体液を容器に注入し、硬化させて磁性樹脂を作製する。次に、容器から高分子マトリックス層3を脱型する。次に、平板状であり、且つ厚み方向の断面形状が、厚み方向他方側から一方側に向けて幅が大きくなる先太り形状になるように、磁性樹脂を加工又は積層させ、高分子マトリックス層3を製作する。次に、高分子マトリックス層3を厚み方向に着磁する。次に、高分子マトリックス層3の変形に起因する磁気変化を検出する検出部を、高分子マトリックス層3の厚み方向一方側(先太り側)に配置して、検出部4と高分子マトリックス層3とを組み付ける。
【0044】
すなわち、高分子マトリックス層3の製造は、一体成形しても、積層成形してもよい。積層して成形する場合には、着磁は積層の前後のいずれもよい。
【実施例】
【0045】
本開示の変形検出センサの効果を具体的に示すために、下記実施例について下記の評価を行った。
【0046】
(1)特性安定性
高分子マトリックス層3をステンレス板の一方側の面に貼り付けるとともに、その高分子マトリックス層3の中央部にセンサ中心が対向するようにして、ホール素子(検出器4)をステンレス板の他方側の面に貼り付けた。上記ステンレス板を振動試験機に設置し、振動数200Hz、振幅0.8mm(全振幅1.6mm)の正弦波を与えて、振動試験を行った。なお、正弦波は互いに垂直な3方向からそれぞれ3時間ずつ印加した。この振動試験の前後で、高分子マトリックス層3を、20mmΦの面圧子を用いて圧縮変形させた。高分子マトリックス層3の厚みに対して15%圧縮変形時に出力されるホール素子(検出部4)の出力電圧と、17.5%圧縮変形時に出力されるホール素子(検出部4)の出力電圧との差により磁束密度の変化を計測した。振動試験前後の磁束密度変化の差の絶対値を、試験前の磁束密度変化で除した値に100を乗じた値を、特性安定性とした。測定回数は10回とした。数値が小さいほど、特性安定性が優れていることを示す。
【0047】
(2)粘着力
JIS T 9233に準拠し、ピクマタックテスタ(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、試験片寸法を幅10mm、長さ100mmとし、圧着荷重100g、圧着速度2000mm/min、剥し速度3000mm/minの条件下で、高分子マトリックス層3の長辺側表面(磁性フィラーが相対的に少ない側の面)の粘着力[N/cm
2]を測定した。この測定を5回実施し、その平均値を粘着力とした。
【0048】
実施例1
DOW CORNING(R) SE1740A(東レ・ダウコーニング製、シリコーン)100重量部に、MQP-14-12(モリコープ・マグネクエンチ社製、ネオジム系フィラー、平均粒径50μm)466.7重量部を添加し、フィラー分散液を調製した。これにDOW CORNING(R) SE1740B(東レ・ダウコーニング製、シリコーン)100重量部を加えて、自転・公転ミキサー(シンキー社製)にて混合、脱泡し、磁性フィラーを含有する反応液を調製した。この反応液を離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム上に滴下し、ドクターブレードにて厚み2.0mmに調整した。これを室温にて5分間静置(偏在処理時間)した後、90℃で15時間硬化を行った。これを脱型し、磁性フィラーが高分子マトリックス層の厚み方向に偏在した前駆体を得た。これを平面視で四角形となり、厚み方向の断面形状が
図2Aに示す台形状になるように、高分子マトリックス層3を加工した。磁性フィラーが相対的に多い側を短辺側とし、短辺L1の長さを10mm、長辺L2の長さを11mmとした。フィラー偏在率は0.84であった。
着磁は、着磁装置(株式会社玉川製作所製、TM−YS4E)を用いて2.0Tで実施した。
【0049】
実施例2
短辺L1の長さを10mm、長辺L2の長さを12mmとした。それ以外は、実施例1と同じとした。
【0050】
実施例3
DOW CORNING(R) SE1740A(東レ・ダウコーニング製、シリコーン)100重量部に、MQP-14-12(モリコープ・マグネクエンチ社製、ネオジム系フィラー、平均粒径50μm)466.7重量部を添加し、フィラー分散液を調製した。これにDOW CORNING(R) SE1740B(東レ・ダウコーニング製、シリコーン)100重量部を加えて、自転・公転ミキサー(シンキー社製)にて混合、脱泡し、磁性フィラーを含有する反応液を調製した。この反応液を、平面視で円形となり、厚み方向の断面形状が
図2Bに示す階段状を有する容器(上面直径12mm、下面直径10mm、厚み2.0mmのポリエチレン製容器)に注入し、ドクターブレードにて厚み2.0mmに調整した。これを室温にて5分間静置(偏在処理時間)した後、90℃で15時間硬化を行って、磁性フィラーが高分子マトリックス層の厚み方向に偏在した前駆体を得た。これを容器から脱型し、磁性フィラーが相対的に多い側を短辺側とした、短辺L1の長さ10mm、長辺L2の長さ12mmの高分子マトリックス層3を得た。フィラー偏在率は0.84であった。
着磁は、着磁装置(株式会社玉川製作所製、TM−YS4E)を用いて2.0Tで実施した。
【0051】
実施例4
短辺L1の長さを10mm、長辺L2の長さを16mmとした。それ以外は、実施例3と同じとした。
【0052】
実施例5
実施例1の高分子マトリックス層3の長辺側表面に、5μg/cm
3のタルクを塗布し、粘着力を低下させた。
【0053】
比較例1
平面視で円形となり、厚み方向の断面形状が四角になるように、高分子マトリックス層を形成した。両辺とも10mmである。それ以外は、実施例1と同じとした。
【0054】
【表1】
【0055】
表1により、実施例1〜4がいずれも比較例1よりも特性安定性の値が小さくなっている。高分子マトリックス層3の形状を、検出部側に向いた先太り形状にすることで、特性安定性の値が小さくなり、特性安定性が向上することが分かる。
【0056】
実施例4は実施例3よりも特性安定性の値が大きくなっている。このことから、L1/L2が小さくなり過ぎると、値の低下代が低下することがわかる。実施例3、4の数値の上昇具合から推測すると、値の低下効果が得られるのは、0.5<L1/L2<1.0であると考えられる。勿論、実施例1〜4は比較例1に対して優れていることから、0.6≦L1/L2<1.0がより好ましい。
【0057】
実施例5は実施例1に比べて粘着力が劣るが、比較例1よりも特性安定性の値が小さく、特性安定性が向上している。よって、高分子マトリックス層3の粘着性も特性安定性に寄与すると考えられる。高分子マトリックス層3の粘着力は0.2N/cm
2以上あればよいことが分かる。
【0058】
以上、本実施形態の変形検出センサは、磁性フィラーを含有する平板状の高分子マトリックス層3と、高分子マトリックス層3の厚み方向一方側に配置され、高分子マトリックス層3の変形に起因する磁気変化を検出する検出部4と、を備え、高分子マトリックス層3の厚み方向の断面形状は、検出部4の反対側となる厚み方向他方側から検出部側に向けて幅が大きくなる先太り形状である。
【0059】
このように、高分子マトリックス層3の厚み方向の断面形状は、検出部4の反対側となる厚み方向他方側から検出部側に向けて先太り形状であるので、検出部4に対面する先太り側の面積を広くでき、高分子マトリックス層3を固定するために利用できる面積が広くなるので、固定強度を高めることができ、振動に対する検出の安定性を向上させることが可能となる。
【0060】
本実施形態では、断面形状は、台形状または階段状である。
【0061】
本実施形態では、断面形状における短辺の長さをL1、長辺の長さをL2としたときに、0.5<L1/L2<1の関係を満たす。
【0062】
この構成によれば、L1/L2が小さすぎることに起因する特定安定性の低下代が小さくなることを防止でき、安定性を適切に向上させることが可能となる。
【0063】
本実施形態では、高分子マトリックス層3は粘着性を有し、二次電池を構成する筐体または単電池に直接固定される。
本実施形態では、前記高分子マトリックス層の粘着力が0.2N/cm
2以上である。
このように、高分子マトリックス層3の面のタック(粘着性)によって、筐体又は電池への固定強度を高め、振動に対する検出の安定性を向上させることが可能となる。
【0064】
本実施形態では、高分子マトリックス層3は、その厚み方向に磁性フィラーが偏在しており、磁性フィラーが相対的に多い側の面が、検出部4の反対側の面である。
【0065】
本実施形態の変形検出センサの製造方法は、磁性フィラーを樹脂前駆体液に分散させる工程と、樹脂前駆体液を所定形状を有する容器に注入して硬化させ、平板形状で且つ厚み方向の断面形状が先太り状となる高分子マトリックス層3を作製する工程と、容器から高分子マトリックス層3を脱型する工程と、高分子マトリックス層3を厚み方向に着磁する工程と、高分子マトリックス層3の変形に起因する磁気変化を検出する検出部4を、高分子マトリックス層3の先太り側に配置し、検出部4と高分子マトリックス層3とを組み付ける工程と、を含む。
【0066】
本実施形態の変形検出センサの製造方法は、磁性フィラーを樹脂前駆体液に分散させる工程と、樹脂前駆体液を容器に注入し、硬化させて磁性樹脂を作製する工程と、容器から高分子マトリックス層3を脱型する工程と、磁性樹脂を加工又は積層することで、平板形状で且つ厚み方向の断面形状が先太り状となる高分子マトリックス層3を作製する工程と、高分子マトリックス層3を厚み方向に着磁する工程と、高分子マトリックス層3の変形に起因する磁気変化を検出する検出部4を、高分子マトリックス層3の先太り側に配置し、検出部4と高分子マトリックス層3とを組み付ける工程と、を含む。
【0067】
上記製造方法で製造された変形検出センサの高分子マトリックス層3は、厚み方向の断面形状が検出部4側に向けて先太り形状であるので、検出の安定性を向上させることができる。
【0068】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0069】
磁性フィラーの防錆などを目的として、高分子マトリックス層3の柔軟性を損なわない程度に、高分子マトリックス層3を封止する封止材を設けてもよい。ただし、上記の高分子マトリックス層3のタック(粘着性)による効果が損なわれるが、センサとして利用可能である。封止材には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂またはそれらの混合物を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、ポリイソプレン系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、エチレン・アクリル酸エチルコポリマー、エチレン・酢酸ビニルコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリブタジエン等を挙げることができる。また、熱硬化性樹脂としては、例えばポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ポリクロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム等のジエン系合成ゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ポリウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム等の非ジエン系ゴム、天然ゴム、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。これらのフィルムは積層されていてもよく、また、アルミ箔などの金属箔や上記フィルム上に金属が蒸着された金属蒸着膜を含むフィルムであってもよい。