【解決手段】複数のレンズを含むレンズシステムを有する光学系を製造する方法を提供する。この方法は、光学系の色収差を取得することと、光学系の色収差により、複数のレンズの間、複数のレンズの最も拡大側のレンズの外側、および複数のレンズの最も縮小側のレンズの外側のいずれかに挿入されている光学素子を、光学的距離が同一で倍率色収差が異なる他の光学素子に交換することとを有する。さらに、光学素子は、内部に接合面を有し、他の光学素子は、内部に光学素子の接合面の曲率と異なる曲率半径の接合面を有する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、プロジェクタ100の概要を示している。このプロジェクタ100は、光変調デバイス(ライトバルブ)60と、ライトバルブ60に変調用の照明光を照射する照明系70と、ライトバルブ60により形成された画像光(投影光)89をスクリーン80に拡大して投射する光学系1とを備えている。
【0017】
光学系1は、拡大側(スクリーン側)8に位置する、複数のレンズを含むレンズシステム10と、縮小側(ライトバルブ側)9に位置する光学素子50とを含む。光学素子50は、レンズシステム10の縮小側9の外側に配置されており、レンズシステム10とライトバルブ60との間に位置する。
【0018】
プロジェクタ100は、フロントプロジェクタであっても、スクリーンを含むリアプロジェクタであってもよい。ライトバルブ(光変調デバイス)60の一例は、DMD(デジタルマイクロミラーデバイス)であり、反射型LCD、透過型LCD、LCoSあるいは有機ELなどの、他の画像を形成するデバイスであってもよい。ライトバルブ60は、単板式であっても、各色の画像をそれぞれ形成する方式(3板式)であってもよい。スクリーン80は、ホワイトボード、壁面、テーブル面であってもよい。
【0019】
典型的なプロジェクタ100の一例は、ライトバルブ60としてDMDを採用した単板式のビデオプロジェクタであり、照明系70は、ハロゲンランプや白色LEDなどの光源71と、円盤型の回転色分割フィルタ(カラーホイール)72とを備え、DMD60に赤色、緑色、青色を時分割で照射し、DMD60からカラー画像を形成するための投影光89が出射される。照明系70は、さらに、照明光75を、ミラー73などを介してDMD60に出力する照明レンズシステム74を備えていてもよい。
【0020】
図2に、光学系1の概略構成を示している。この光学系(光学装置、光学システム)1に含まれるレンズシステム10は複数のレンズから構成されているズームレンズシステムであり、
図2(a)に広角端におけるレンズ配置を示し、
図2(b)は望遠端におけるレンズ配置を示す。
【0021】
レンズシステム10は、第1のグループG1から第6のグループG6の6群構成であり、全体が16枚のガラス製のレンズにより構成された変倍可能な投射光学系である。最も拡大側の第1のグループG1は全体が負の屈折力を備え、拡大側8であるスクリーン80の側から縮小側9であるDMD60の側に向けて順に、スクリーン80の側に凸面S1を向けたメニスカスタイプの正レンズL1と、スクリーン80の側に凸面S3を向けたメニスカスタイプの負レンズL2と、スクリーン80の側に凸面S5を向けたメニスカスタイプの負レンズL3と、両凹タイプの負レンズL4とを含む。全体が正の屈折力の第2のグループG2は、DMD60の側に凸面S10を向けたメニスカスタイプの正レンズL5と、2枚貼合の接合レンズ(バルサムレンズ)LB1とを含む。全体が正の屈折力の第3のグループG3は、両凸タイプの正レンズL8と、絞りStとを含む。全体が負の屈折力の第4のグループG4は、2枚貼合の接合レンズLB2を含む。全体が正の屈折力の第5のグループG5は、両凸タイプの正レンズL11と、2枚貼合の接合レンズLB3と、DMD60の側に凸面S26を向けたメニスカスタイプの正レンズL14と、両凸タイプの正レンズL15とを含む。全体が正の屈折力の第6のグループG6は、スクリーン80の側に凸面S29を向けたメニスカスタイプの正レンズL16を含み、光学素子50は第6のグループG6に含まれる。
【0022】
接合レンズLB1は、スクリーン80の側から順に配置された、両凹タイプの負レンズL6と、両凸タイプの正レンズL7とから構成されている。接合レンズLB2は、スクリーン80の側から順に配置された、スクリーン80の側に凹面S17を向けたメニスカスタイプの正レンズL9と、両凹タイプの負レンズL10とから構成されている。接合レンズLB3は、スクリーン80の側から順に配置された、両凹タイプの負レンズL12と、両凸タイプの正レンズL13とから構成されている。
【0023】
レンズシステム10は、広角端から望遠端へ変倍する際に、第1のグループG1および第6のグループG6は動かず、第2のグループG2、第3のグループG3、第4のグループG4および第5のグループG5は、DMD60の側からスクリーン80の側へ光軸90に沿って、それぞれのグループに含まれるレンズが一体となって移動する。
【0024】
この光学システム1は最も縮小側9で、ズーミングの際に移動しない第6のレンズ群G6の外側に配置された光学素子(光学ユニット)50を含む。
図2(a)および(b)に記載された光学素子50は、2枚貼合のガラス製の曲面接合タイプの平板状の光学素子LBAである。
【0025】
曲面接合タイプの光学素子LBAは、スクリーン80の側から順に配置された、スクリーン80の側に平面S31を向けた平凹タイプの負の屈折力の第1の要素(第1の板、第1のレンズ、第1のパーツ)L17と、DMD60の側に平面S33を向けた平凸タイプの正の屈折力の第2の要素(第2の板、第2のレンズ、第2のパーツ)L18とから構成されている。負レンズL17のDMD60の側を向いた凹面と、正レンズL18のスクリーン80の側を向いた凸面とは、曲率半径(曲率)の絶対値が等しく、互いの面同士が空気間隔を開けずに重なる(貼り合わせる)ことができる。したがって、曲面接合タイプの光学素子LBAは、両側の面S31およびS33が平面で、内部に曲面の接合面S32が形成された光学素子である。
【0026】
光学素子50(LBA)は、レンズシステム10の最もDMD60の側の正レンズL16の外側(DMD60の側)に配置され、光学素子50のDMD60の側には、プリズムPrと、DMD60とが順番に配置されている。プリズムPrの例は、RGB各色の画像光を合成するダイクロイックプリズム、TIRプリズムである。
【0027】
図3に、光学系(光学システム)1を製造する方法(製造方法)をフローチャートにより示している。この製造方法では、ステップ111において、複数のレンズL1〜L16を含むレンズシステム10および光学素子50により光学系1を組み立てる。最初に組み立てられる光学系1に用いられる光学素子50は、以下の
図4に示す平板状で曲面要素を含まないタイプの光学素子Plである。その後、ステップ112において、光学系1の光学性能試験を行い、色収差(倍率色収差)を含めた光学系1の諸性能を確認する。この光学性能試験は、事前試験(予備試験)であってもよく、出荷前試験であってもよい。また、光学性能試験は、一度に限らず、複数回繰り返して行ってもよい。
【0028】
ステップ113において、性能試験により得られた光学系1の組み立て後の倍率色収差の実測値(実測上の収差、予備光学性能値)が設計値(設計上の収差、設計光学性能値)に対して予め設定された許容範囲内か否かを判断する。許容の範囲内か否かの判断の一例は、所定の色(たとえば青色)の倍率色収差(結像位置または結像倍率)の実測値と設計値との差が画素ピッチ(ドットピッチ)の何%以内であるか否かである。許容範囲を、広角端における青色の倍率色収差の実測値と設計値との差がドットピッチの±75%と設定してもよく、±50%に設定してもよい。
【0029】
ステップ113において、試験により得られた倍率色収差の実測値と設計値との差が許容範囲内であれば、光学素子50は交換しない。したがって、光学素子50として、平板状で曲面要素を含まないタイプの光学素子Plが含まれた光学系1が製造される。すなわち、試験により得られた倍率色収差の実測値が許容範囲内の値(第2の値)であれば、光学素子50として、平板状で曲面要素を含まないタイプの光学素子(第2の光学素子)Plが選択され、光学素子Plを含む光学系1が完成品として出荷される。平板状で曲面要素を含まない光学素子Plは光学距離が同じであれば、非接合タイプであっても接合タイプであってもよい。
【0030】
ステップ113において、試験により得られた倍率色収差の実測値と設計値との差が許容範囲内でなければ、光学素子50を、平板状で曲面要素を含まないタイプの光学素子Plと光学的距離が同一で倍率色収差が異なる曲面接合タイプの光学素子LBAに交換する。すなわち、試験により得られた倍率色収差の実測値が許容範囲外の値(第1の値)であれば、光学素子50として、平板状で曲面要素を含むタイプの光学素子(第1の光学素子
)LBAが選択され、光学素子LBAを含む光学系1が完成品として出荷される。この際、先ず、ステップ114において、試験により得られた倍率色収差の実測値が設計値よりも外側(プラス側)へ移動しているか否かを確認する。倍率色収差の実測値が設計値よりも外側へ移動しているときは、ステップ115において、光学素子50を、曲面接合タイプの光学素子LBAで、平凹タイプの第1の要素(レンズ)L17のアッベ数ν1が平凸タイプの第2の要素(レンズ)L18のアッベ数ν2より大きい光学素子LBAのタイプAに交換する。
【0031】
さらに、ステップ115においては、予め用意された複数種類の倍率色収差の異なる光学素子LBA(タイプA)の中から、試験により得られた倍率色収差の実測値と設計値との差を補正するために適したものを選択して交換する。これにより再度、倍率色収差を測定し直す工数を省いて、所定の性能を備えた光学系1を製造し、供給できる。本例では、接合曲面の曲率半径が600、400および200mmの3種類の光学素子LBA(タイプA)が用意されており、により、試験により得られた倍率色収差の実測値と設計値との差を補正するために適した曲率半径の光学素子LBA(タイプA)が選択され、平板状の光学素子Plと交換される。
【0032】
光学素子50を平板状の光学素子Plから曲面を含む光学素子LBAに交換した後に倍率色収差等を再測定して光学性能を確認してもよい。
【0033】
ステップ114において、試験により得られた倍率色収差の実測値が設計値よりも内側(マイナス側)へ移動している場合は、ステップ116において、光学素子50を、曲面接合タイプの光学素子LBAで、平凹タイプの第1のレンズL17のアッベ数ν1が平凸タイプの第2のレンズL18のアッベ数ν2より小さい光学素子LBA(タイプB)に交換する。
【0034】
この製造方法においては、光学系1をいったん組み立てて光学性能を試験し、その結果、倍率色収差が許容範囲を超えていれば光学素子50を入れ替えることにより倍率色収差を許容範囲に収めることができる。入れ替え対象の光学素子50として、他の入れ替え対象としない光学素子(レンズ)とのインターフェイスとなる両面が平面の光学素子50を予め挿入しておき、その光学素子50を、光路長が同一で両面が平面であって曲面を内包した倍率色収差が異なるタイプの光学素子50と入れ替えることにより、光学系1の倍率色収差を除いた基本的な光学性能を変えずに倍率色収差を補正できる。すなわち、光学系1の投影光の結像位置を変えることなく、光学系1の色収差を補正できる。このため、所望の高い性能を備えた光学系1を安定して製造でき、光学系を製造する際の歩留まりを向上できる。
【0035】
近年、プロジェクタにおいても、ハイビジョンまたはスーパーハイビジョンと称される高精細な投影画像が要求されている。投影画像に要求される仕様が高精細化することに対応して、レンズシステムの設計性能の向上、レンズシステムを構成する各レンズ自体の加工精度(製作精度)の向上、各レンズを組み立てる際の工作精度(組立精度)の向上が図られている。しかしながら、現在市場に供給されている光学ガラスにおいてはアッベ数の公差が±0.5%程度である。設計性能、各レンズの加工精度、複数のレンズの組み立て精度などを向上して高性能のレンズシステムを製造しようとすると、アッベ数などの光学ガラスの特性の公差といったレンズシステムの製造側では制御が難しい要因が障害となり、所望の高い性能を備えた光学系を提供することが難しい状況となる。
【0036】
光学ガラスの特性の変化などの製造側で制御が難しい要因による各レンズの公差が累積することにより、倍率色収差が設計値通りの光学系が製造できることもあれば、製品規格として要求される倍率色収差の許容値を上回る(逸脱する)おそれもある。光学系1の光学性能が許容範囲から外れると、投影画像の画質に影響を与える可能性がある。レンズシステム(光学系)を構成する複数のレンズの組み合わせを変えて、各レンズの公差の累積による光学性能が所定の許容範囲に入るようにすることも可能であるかもしれない。しかしながら、レンズシステムを構成する複数のレンズを入れ替えて、その都度、光学性能を確認する作業は工数がかかり、製造コストおよび製造期間に影響がある。さらに、レンズを入れ替えても所望の性能が得られるという保証はない。
【0037】
この製造方法においては、倍率色収差以外の光学性能にほとんど影響を与えない平行平板状の光学素子50を予め光学系1に組み込むことにより、複数のレンズを組み合わせて光学系1を基本的に製造した後に得られる倍率色収差に基づき、交換対象の光学素子50を交換せずに平行平板状の光学素子Plとするか、倍率色収差を補正するために曲面接合タイプの光学素子LBAに交換するかを選択できる。したがって、レンズシステム10を構成する各レンズL1〜L16の性能の公差やレンズシステム10を組み立てる際の組立公差などの累積により所定の光学性能が得られていれば、その状態で光学系1を出荷できる。
【0038】
一方、複数のレンズの性能の公差の累積などにより倍率色収差の実測値が設計値に対して許容範囲を超えているときは、光学素子50を交換することにより、容易に、低コストで、短時間に光学系1の倍率色収差の実測値を許容範囲に収め、所定の光学性能を備えた光学系1を出荷できる。したがって、この製造方法により製造された光学系1を採用することにより、高画質の投影画像をスクリーン80に投射可能なプロジェクタ100を安定して低コストで提供できる。
【0039】
交換対象の光学素子50は、レンズシステム10を構成する複数のレンズL1〜L16の間で、光学素子50を挿入できる空気空間が確保できる間の何れか、最も拡大側8のレンズL1の外側、および最も縮小側9のレンズL16の外側のいずれに挿入されていてもよい。交換対象の光学素子50は1つに限らず、複数の光学素子を交換対象としてもよい。光学系1においては、交換対象の光学素子50を、レンズシステム10を構成する各レンズの間の空間ではなく、レンズシステム10の縮小側9であるDMD60の側の端(外側)の空間99に組み込んでいる。レンズシステム10の構成に変更を加えずに、例えば、レンズシステム10のレンズホルダーに各レンズを再装着したりすることなく、光学素子50を交換できる。このため、レンズシステム10を組み立てた後の倍率色収差により光学素子50の交換が必要なときに、容易に光学素子50を交換でき、レンズシステム10の側の性能は安定した状態に保たれるので、光学系1の光学性能を何回も測定し直すような手間を省くことも可能となる。
【0040】
さらに、この光学系1においては、最も縮小側9の第6のグループG6はズーミングの際に動かず、ズーミングしても交換対象の光学素子50との距離は変わらない。したがって、光学素子50を交換しても、それによる倍率色収差の補正以外の光学性能への影響を最小限にとどめることができる。交換対象の光学素子50をレンズシステム10の内部に配置する場合も、ズーミングの際に距離が変わるレンズ間の空間ではなく、ズーミングの際に一体で移動するレンズグループ内に交換対象の光学素子50を配置することが望ましい。
【0041】
また、一般的には有効径の小さなレンズが配置されるレンズシステム10の縮小側9に交換対象の光学素子50を配置することにより、交換対象の光学素子50の有効径を小さくできる。このため、倍率色収差を補正するための交換用の光学素子50を低コストで準備することが可能となり、光学系1の製造コストを低減しやすい。交換対象の光学素子50を最も拡大側8のレンズL1の外側(スクリーン80の側)に配置してもよい。交換対象の光学素子50は、さらに、プリズムPrとDMD60との間に配置してもよい。
【0042】
図4に、ステップ111において組み立てられた光学系1の概略構成を示す。
図4(a)は広角端におけるレンズ配置を示し、
図4(b)は望遠端におけるレンズ配置を示す。
図5に、光学系1の諸数値を示す。
図5(a)はレンズシステム10のレンズデータであり、
図5(b)はレンズシステム10のズームデータである。
図6に、光学系1の倍率色収差の設計値を示す。
図6(a)は広角端における倍率色収差の設計値であり、
図6(b)は望遠端における倍率色収差の設計値である。
【0043】
図5(a)において、Riはスクリーン80の側から順に並んだ各レンズ(各レンズ面)の曲率半径(mm)、diはスクリーン80の側から順に並んだ各レンズ面の間の距離(mm)、ndはスクリーン80の側から順に並んだ各レンズの屈折率(d線)、νdはスクリーン80の側から順に並んだ各レンズのアッベ数(d線)、Flatは平面を示している。
図6(a)および(b)の倍率色収差は、タンジェンシャル光線およびサジタル光線のそれぞれについて、青色光(波長470nm)(点線)と、緑色光(波長550nm)(破線)と、赤色光(波長620nm)(実線)とを示している。以降の収差図においても同様である。
【0044】
最初に組み立てられる光学系1は、複数のレンズを含むレンズシステム10と、ライトバルブ60およびレンズシステム10の間に組み込まれた光学素子50とを含み、光学素子50としては、非接合タイプで曲面要素を含まない光学素子(光学ユニット)Plが採用されている。レンズシステム10の構成は、
図2に示した光学系1と同一である。交換対象の光学素子Plは、接合タイプで曲面要素を含まないものであってもよく、2枚以上の平板が並列に配置されているものであってもよい。また、レンズシステム10の特性から特定の方向に倍率色収差を補正することが事前に判明している場合は、曲面接合タイプで特定の倍率色収差を発生させる光学素子であってもよい。
【0045】
図7に、ステップ112の性能試験において測定された、組み立てられた状態の光学系1の倍率色収差の実測値の一例を示している。
図7(a)は広角端における倍率色収差の実測値であり、
図7(b)は望遠端における倍率色収差の実測値である。
図7に示した実測値は、負レンズL12のアッベ数(設計値23.78)が−0.5%ずれ、正レンズL16のアッベ数(設計値25.46)が+0.5%ずれた場合を仮定し、それらの特性を備えたレンズを含む光学系1の倍率色収差を、組み立てられた直後の実測値として示している。この程度のアッベ数の変動は、レンズガラスの特性値の公差範囲内であり、製造過程において普通に発生する可能性があるものである。
【0046】
図7(a)および(b)に示す青色光の倍率色収差は、
図6(a)および(b)に示す設計値に対し外側(プラス側)に移動している。ステップ113の判定では、青色光の倍率色収差の実測値が許容範囲を超え、青色光の結像位置がドットピッチの75%以上ずれると判断されたものとする。ステップ113で青色光の倍率色収差の実測値が許容範囲内であると判定されれば、
図4に示した平行平板の光学素子Plを含む光学系1が完成品として出荷される。
【0047】
図7(a)および(b)に示した例では、ステップ114において青色の倍率色収差が設計値に対して外側にシフトしていると判断される。したがって、ステップ115において、平凹の第1の要素L17のアッベ数ν1が平凸の第2の要素L18のアッベ数ν2より大きいタイプAの曲面要素を含む光学素子LBAが選択され、光学系1の光学素子50が交換される。
【0048】
図8に、タイプAの曲面接合型の光学素子LBAを示す。
図8(a)は光学素子LBA(タイプA)の概略構成を示す図であり、
図8(b)は、光学系1の光学素子50を光学素子LBA(タイプA)に交換したときの光学系1のレンズデータであり、光学素子50の両側に位置する正レンズL16およびプリズムPrのレンズデータと併せて示している。
【0049】
光学素子LBA(タイプA)は、高アッベ数の負レンズL17と、低アッベ数の正レンズL18とから構成されている。このため、平行平板の光学素子Plとは異なり、倍率色収差を発生し、青色光の結像位置を外側から内側に向けて移動させる。光学素子LBA(タイプA)は、スクリーン80の側の面S31およびDMD60の側の面S33が平面であり、両面をパワーがゼロまたはゼロに極めて近い平面で構成することにより、倍率色収差以外の諸収差の発生を抑制している。
【0050】
光学素子LBA(タイプA)の両側の平面S31およびS33の間の距離(光学的距離、厚み)は8.5mmであり、平行平板Plの両側の平面S31およびS32の間の距離(光学的距離、厚み)と等しい。また、光学素子LBA(タイプA)のガラス板L17の屈折率n1およびガラス板L18の屈折率n2との差は小さく、両ガラス板の屈折率n1およびn2と、平行平板の光学素子Plのガラス板の屈折率とはほぼ等しく、たとえば絶対値で差が0.02以内になるように設計されている。
【0051】
光学素子LBA(タイプA)の平凹の第1の要素L17の屈折率n1と、平凸の第2の要素L18の屈折率n2と、第1の要素L17のアッベ数ν1と、第2の要素L18のアッベ数ν2とは以下の条件(1)および(2)を満たすように選択することが好ましい。
【0052】
0≦|n1−n2|<0.02 ・・・(1)
2<|ν1−ν2|<33 ・・・(2)
条件(1)を満たすことにより、屈折力の符号が逆向きで屈折率の差がほとんどない要素L17およびL18を組み合わせて色収差以外の収差に影響を与えない光学素子LBAを提供できる。さらに、条件(2)を満たすことにより、屈折力の符号が逆向きでアッベ数の差が大きい負のパワーの第1の要素L17および正のパワーの第2の要素L18を組み合わせて倍率色収差を含む色収差を良好に補正できる。条件(1)および(2)において、要素L17およびL18の屈折率の差はアッベ数の差に比べて小さいことが望ましい。また、倍率色収差の実測値と設計値との差分が大きくなる可能性があるケースでは、光学要素L17およびL18のアッベ数の差を条件(2)の範囲で大きくすることが望ましい。
【0053】
条件(1)の上限は、0.01であることが好ましく、0.005であることがさらに好ましく、0.001であることが望ましい。条件(2)の上限は、25であることが好ましく、20であることがさらに好ましく、15であることが望ましい。条件(2)の下限は、5であることが好ましく、10であることが望ましい。条件(1)の上限を超えると、要素L17およびL18の屈折率の差が大きくなり、色収差以外の収差変動が大きくなるため、光学素子50の交換のみによる補正が難しくなる。条件(2)の上限を超えると、光学素子L17およびL18のアッベ数の差が大きくなり過ぎ、条件(2)の下限を超えると、アッベ数の差が小さくなり、いずれの場合も色収差の補正が困難となる。
【0054】
この光学素子LBA(タイプA)の条件(1)および(2)の値は以下の通りである。
【0055】
|n1−n2|=0.00062
|ν1−ν2|=12.05
したがって、条件(1)および(2)を満たす。
【0056】
図8(a)に示した光学素子LBA(タイプA)は、内部に曲率半径R32が400mmの曲面S32を含む。ステップ115においては、曲率半径R32が異なり、倍率色収差が異なる複数の光学素子LBAを予め用意し、実測により得られた倍率色収差を設計値に補正するために適した光学素子LBAに交換する。この例では、曲率半径R32が400mmの曲面S32を備えた光学素子LBAに加えて、曲率半径R32が600mmの曲面S32を備えた、補正能力が弱いタイプの光学素子LBAと、曲率半径R32が200mmの曲面S32を備えた、補正能力が強いタイプの光学素子LBAとを予め用意しておくことができる。
【0057】
図9に、光学素子50を、曲率半径R32が400mmの曲面S32を備えた光学素子LBA(タイプA)に交換した光学系1の倍率色収差を、補正後の実測値として示している。
図9(a)は広角端における倍率色収差の実測値を示し、
図9(b)は望遠端における倍率色収差の実測値を示す。これらの図からわかるように、光学系1の倍率色収差の実測値が、
図6(a)および(b)に示した設計値とほぼ同じ状態に補正されている。したがって、設計値と同じまたは近い状態に倍率色収差が良好に補正された光学系1を製造し、出荷できる。
【0058】
図10に、光学素子50を、曲率半径R32が600mmの曲面S32を備えた光学素子LBA(タイプA)に交換した光学系1の倍率色収差を、補正後の実測値として示している。
図10(a)は広角端における倍率色収差の実測値を示し、
図10(b)は望遠端における倍率色収差の実測値を示す。これらの図からわかるように、光学系1の倍率色収差の実測値は、
図6(a)および(b)に示した設計値に近くなるように補正されている。しかしながら、
図9(a)および(b)に示した実測値に比較すると補正は十分ではない。
【0059】
図11に、光学素子50を、曲率半径R32が200mmの曲面S32を備えた光学素子LBA(タイプA)に交換した光学系1の倍率色収差を、補正後の実測値として示している。
図11(a)は広角端における倍率色収差の実測値を示し、
図11(b)は望遠端における倍率色収差の実測値を示す。これらの図からわかるように、光学系1の倍率色収差の実測値は、
図6(a)および(b)に示した設計値を超えて、逆側(内側、マイナス側)に補正されており、補正が強すぎることがわかる。
【0060】
曲率半径R32の差による補正の量(きき量)は、事前に確認することが可能である。したがって、ステップ115においては、ステップ112で得られた倍率色収差の実測値により、用意された光学素子LBAの中から補正に最も適した曲率半径R32を備えた光学素子LBAを選択し、光学素子50を交換することができる。
【0061】
図12に、ステップ111において他のレンズを用いて光学系1を組み立て、ステップ112の性能試験で倍率色収差を測定した他の例を示している。
図12(a)は広角端における倍率色収差の実測値であり、
図12(b)は望遠端における倍率色収差の実測値である。
図12に示した実測値は、負レンズL12のアッベ数(設計値23.78)が+0.5%ずれ、正レンズL16のアッベ数(設計値25.46)が−0.5%ずれた場合を仮定し、それらの特性を備えたレンズを含む光学系1の倍率色収差を、組み立てられた直後の実測値として示している。この程度のアッベ数の変動は、レンズガラスの特性値の公差範囲内であり、製造過程において普通に発生する可能性があるものである。
【0062】
図12(a)および(b)に示す青色光の倍率色収差は、
図6(a)および(b)に示す設計値に対し内側(マイナス側)に移動している。上記と同様に、ステップ113の判定では、青色光の倍率色収差の実測値が許容範囲を超え、青色光の結像位置がドットピッチの75%以上ずれると判断されたものとする。
【0063】
図12(a)および(b)に示した例では、ステップ114において青色の倍率色収差が設計値に対して内側にシフトしていると判断される。したがって、ステップ116において、平凹の第1の要素L17のアッベ数ν1が平凸の第2の要素L18のアッベ数ν2より小さいタイプBの曲面要素を含む光学素子LBAが選択され、光学系1の光学素子50が交換される。
【0064】
図13に、タイプBの曲面接合型の光学素子LBAを示す。
図13(a)は光学素子LBA(タイプB)の概略構成を示す図であり、
図13(b)は、光学系1の光学素子50を光学素子LBA(タイプB)に交換したときの光学系1のレンズデータであり、光学素子50の両側に位置する正レンズL16およびプリズムPrのレンズデータと併せて示している。
【0065】
光学素子LBA(タイプB)は、低アッベ数の負レンズL17と、高アッベ数の正レンズL18とから構成されている。このため、平行平板の光学素子Plとは異なり、倍率色収差を発生する。光学素子LBA(タイプB)は、光学素子LBA(タイプA)と逆方向の倍率色収差を発生し、青色光の結像位置を内側から外側に向けて移動させる。光学素子LBA(タイプB)も、スクリーン80の側の面S31およびDMD60の側の面S33が平面であり、両面のパワーがゼロまたはゼロに極めて近い。また、光学素子LBA(タイプB)の両側の平面S31およびS33の間の距離(光学的距離、厚み)は8.5mmであり、平行平板Plの両側の平面S31およびS32の間の距離(光学的距離、厚み)と等しい。光学素子LBA(タイプB)のガラス板L17の屈折率n1およびガラス板L18の屈折率n2との差は小さく、両ガラス板の屈折率n1およびn2と、平行平板の光学素子Plのガラス板の屈折率とはほぼ等しく、たとえば絶対値で差が0.02以内になるように設計されている。
【0066】
光学素子LBA(タイプB)の平凹の第1の要素L17の屈折率n1、平凸の第2の要素L18の屈折率n2、第1の要素L17のアッベ数ν1、第2の要素L18のアッベ数ν2の条件(1)および(2)の値は以下通りである。
【0067】
|n1−n2|=0.00062
|ν1−ν2|=12.05
したがって、条件(1)および(2)を満たす。
【0068】
図13(a)に示した光学素子LBA(タイプB)は、内部に曲率半径R32が400mmの曲面S32を含む。ステップ116においては、曲率半径R32が異なり、倍率色収差が異なる複数の光学素子LBAを予め用意し、実測により得られた倍率色収差を設計値に補正するために適した光学素子LBAに交換する。この例においては、曲率半径R32が400mmの曲面S32を備えた光学素子LBAに加えて、曲率半径R32が600mmの曲面S32を備えた、補正能力が弱いタイプの光学素子LBAと、曲率半径R32が200mmの曲面S32を備えた、補正能力が強いタイプの光学素子LBAとを予め用意している。
【0069】
図14に、光学素子50を、曲率半径R32が400mmの曲面S32を備えた光学素子LBA(タイプB)に交換した光学系1の倍率色収差を、補正後の実測値として示している。
図14(a)は広角端における倍率色収差の実測値を示し、
図14(b)は望遠端における倍率色収差の実測値を示す。これらの図からわかるように、光学系1の倍率色収差の実測値が、
図6(a)および(b)に示した設計値とほぼ同じ状態に補正されている。したがって、設計値と同じまたは近い状態に倍率色収差が良好に補正された光学系1を製造し、出荷できる。
【0070】
図15に、光学素子50を、曲率半径R32が600mmの曲面S32を備えた光学素子LBA(タイプB)に交換した光学系1の倍率色収差を、補正後の実測値として示している。
図15(a)は広角端における倍率色収差の実測値を示し、
図15(b)は望遠端における倍率色収差の実測値を示す。これらの図からわかるように、光学系1の倍率色収差の実測値は、
図6(a)および(b)に示した設計値に近くなるように補正されている。しかしながら、
図14(a)および(b)に示した実測値に比較すると補正は十分ではない。
【0071】
図16に、光学素子50を、曲率半径R32が200mmの曲面S32を備えた光学素子LBA(タイプB)に交換した光学系1の倍率色収差を、補正後の実測値として示している。
図16(a)は広角端における倍率色収差の実測値を示し、
図16(b)は望遠端における倍率色収差の実測値を示す。これらの図からわかるように、光学系1の倍率色収差の実測値は、
図6(a)および(b)に示した設計値を超えて、逆側(外側、プラス側)に補正されており、補正が強すぎることがわかる。
【0072】
光学素子LBA(タイプB)においても、曲率半径R32の差による補正量は、事前に確認することが可能である。したがって、ステップ116においては、ステップ112で得られた倍率色収差の実測値により、用意された光学素子LBAの中から補正に最も適した曲率半径R32を備えた光学素子LBAを選択し、光学素子50を交換することができる。このため、組み立てられた状態では様々な要因による公差により倍率色収差が許容範囲に入らない光学系1であっても、予め挿入されている交換対象の光学素子50を、倍率色収差の実測値を設計値に近い状態に補正するために適した光学素子50に交換することにより倍率色収差が許容範囲に収まった光学系を製造でき、提供できる。
【0073】
上記には、複数のレンズを含むレンズシステムを有する光学系を製造する方法であって、前記光学系の色収差を取得することと、前記光学系の色収差により、前記複数のレンズの間、前記複数のレンズの最も拡大側のレンズの外側、および前記複数のレンズの最も縮小側のレンズの外側のいずれかに挿入されている光学素子を、光学的距離が同一で倍率色収差が異なる他の光学素子に交換することとを有する方法が記載されている。前記交換することは、平板状で曲面要素を含まない光学素子を、平板状の曲面接合タイプの光学素子に交換することを含んでもよい。
【0074】
前記曲面接合タイプの光学素子は、平凹タイプの第1の要素と、平凸タイプの第2の要素とを含み、前記第1の要素の屈折率n1と、前記第2の要素の屈折率n2と、前記第1の要素のアッベ数ν1と、前記第2の要素のアッベ数ν2とが以下の条件(1)および(2)を満たし、さらに、前記交換することは、前記色収差のうち、青色の倍率色収差が設計値よりも外側へ移動しているときは、前記アッベ数ν1が前記アッベ数ν2より大きい前記曲面接合タイプの光学素子に交換することと、青色の倍率色収差が設計値よりも内側へ移動しているときは、前記アッベ数ν1が前記アッベ数ν2より小さい前記曲面接合タイプの光学素子に交換することとを含んでもよい。
0≦|n1−n2|<0.02・・・(1)
2<|ν1−ν2|<33・・・(2)
【0075】
前記光学系は変倍光学系であり、前記交換することは、前記最も縮小側のレンズの外側に挿入されている光学素子を交換することを含んでもよい。前記光学系は縮小側に配置される光変調デバイスからの投影光を投射する光学系であり、前記交換することは、前記最も縮小側のレンズの外側で、前記光変調デバイスとの間に挿入されている光学素子を交換することを含んでもよい。また、上記に記載の方法により製造された光学系と、前記最も縮小側のレンズの外側に配置された光変調デバイスとを有するプロジェクタも含まれる。
【0076】
上記には、複数のレンズを含むレンズシステムを有する光学系であって、前記複数のレンズの間、前記複数のレンズの最も拡大側のレンズの外側、および前記複数のレンズの最も縮小側のレンズの外側のいずれかに挿入されている光学素子が、製造時に取得された色収差により、光学的距離が同一で倍率色収差が異なる他の光学素子に交換されている光学系が開示されている。前記他の光学素子は、平板状の曲面接合タイプの光学素子であってもよい。前記曲面接合タイプの光学素子は、平凹タイプの第1の要素と、平凸タイプの第2の要素とを含み、前記第1の要素の屈折率n1と、前記第2の要素の屈折率n2と、前記第1の要素のアッベ数ν1と、前記第2の要素のアッベ数ν2とが上記の条件(1)および(2)を満たすものであってもよい。上記に記載の光学系と、前記最も縮小側のレンズの外側に配置された光変調デバイスとを有するプロジェクタも含まれる。
【0077】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されず、特許請求の範囲に規定されたものを含む。たとえば、上記においてはプロジェクタ用の光学系を例に本発明を説明しているが撮像用の光学系であってもよい。光学系に含まれるレンズシステムの構成も上記の6群構成に限らず、5群以下または7群以上の構成であってもよい。さらに、レンズシステムは、変倍を行わないタイプであってもよい。また、レンズシステムおよび光学素子を構成する各材質は、ガラス製であっても、樹脂製であってもよい。