(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-48691(P2018-48691A)
(43)【公開日】2018年3月29日
(54)【発明の名称】すべり支承
(51)【国際特許分類】
F16F 15/04 20060101AFI20180302BHJP
F16F 1/40 20060101ALI20180302BHJP
E04H 9/02 20060101ALN20180302BHJP
【FI】
F16F15/04 E
F16F15/04 P
F16F1/40
E04H9/02 331E
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-184187(P2016-184187)
(22)【出願日】2016年9月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】河内山 修
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 雄一
(72)【発明者】
【氏名】北林 良太
(72)【発明者】
【氏名】入澤 祐太
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139CA24
2E139CC02
3J048AA03
3J048AC03
3J048BA08
3J048BE12
3J048BG04
3J048DA01
3J048EA38
3J059AA01
3J059AB11
3J059BA43
3J059BB01
3J059BC01
3J059BC04
3J059BC06
3J059BD01
3J059BD05
3J059DA03
3J059EA08
3J059GA42
(57)【要約】
【課題】長期的な摺動面の状態の変化を最小限に抑え、すべり支承本来の性能を維持する。
【解決手段】摺動面5aを有するすべり板5と、すべり板の摺動面に対して摺動自在に配される摺動部材2(すべり材4f)とを備えたすべり支承1であって、摺動部材との当接部を除く摺動面上に貼着、密着又は載置されたフィルム又はシート6を備えるすべり支承。摺動面とフィルム等との間に離形性又は潤滑性を有する物質を介在させてもよい。フィルム又はシートは防水性が高く、通気性の低い性質を有する材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリクロロトリフロロエチレン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ポリフェニレンサルファイド、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ゴム等で形成することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動面を有するすべり板と、該すべり板の摺動面に対して摺動自在に配される摺動部材とを備えたすべり支承であって、
前記摺動部材との当接部を除く前記摺動面上に貼着、密着又は載置されたフィルム又はシートを備えることを特徴とするすべり支承。
【請求項2】
前記摺動面と前記フィルム又はシートとの間に離形性又は潤滑性を有する物質が介在することを特徴とする請求項1に記載のすべり支承。
【請求項3】
前記フィルム又はシートは、高防水性又は低通気性、あるいは高防水性及び低通気性を有する材料からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のすべり支承。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、すべり支承に関し、特に、構造物等の対象物とそれを支持する基礎面の一方に装着されて摺動面を有するすべり板と、他方に装着されてすべり板の摺動面に対して摺動自在に配される摺動部材とを備え、地震等の際に摺動部材がすべり板の摺動面を摺動することで免震機能を発揮するすべり支承に関する。
【背景技術】
【0002】
上記すべり支承の一例として、
図3に示すように、上部構造物に装着されてフランジプレート23と積層ゴム体24からなる摺動部材22と、下部構造物に装着されて上面に摺動面25aを有するすべり板25と、摺動部材22の当接部を除く摺動面25aを保護するステンレス板からなる保護板28(28A、28B)とを組み合わせてなるすべり支承21が存在する。
【0003】
上記構成を有するすべり支承21は、大きな地震等が発生すると、摺動部材22の積層ゴム体24のゴム層が弾性変形した後、積層ゴム体24の底面に存在するすべり材(不図示)がすべり板25の摺動面25a上を摺動する。また、保護板28も積層ゴム体24に追従して移動する。これにより、すべり材と摺動面25aとの間で摩擦力を生じ、上部構造物と下部構造物との間に生じる水平力を減衰させる。
【0004】
また、特許文献1には、すべり板の摺動面上に蝋等のワックスを塗布したすべり支承が開示されている。このワックスは離形性を有し、積層ゴム体の衝突によって剥がれ落ちる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−121747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記
図3に記載のすべり支承及び特許文献1に記載のすべり支承においては、工事期間中や供用中にすべり板の摺動面に傷が付いたり、摺動面上に異物が堆積することを防止するなど、すべり板の摺動面を物理的に保護することはできるが、長期的には摺動面が化学的に変化する可能性や摺動表面への水分の付着や酸素等のアタックにより表面状態が変化し、すべり支承本来の性能を維持することができない虞があった。
【0007】
そこで、本発明は上記すべり支承における問題点に鑑みてなされたものであって、長期的な摺動面の状態の変化を最小限に抑え、すべり支承本来の性能を維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、摺動面を有するすべり板と、該すべり板の摺動面に対して摺動自在に配される摺動部材とを備えたすべり支承であって、前記摺動部材との当接部を除く前記摺動面上に貼着、密着又は載置されたフィルム又はシートを備えることを特徴とする。ここで、フィルムとは厚さが10μm〜0.2mm未満程度のもの、シートとは厚さが0.2mm〜6mm程度のものをいう。
【0009】
本発明によれば、フィルム又はシートによって摺動部材との当接部を除くすべり板の摺動面が水や酸素、水蒸気等と接触することを防止し、長期的な摺動面の状態の変化を最小限に抑えることができる。また、地震等によりすべり板と摺動部材との間に相対変位が生じた場合には、摺動部材の移動によってフィルム又はシートは容易に剥がれる又は容易に積層ゴム体に追従するため、摺動部材の移動が妨げられることがなく、すべり支承本来の性能を維持することができる。
【0010】
上記すべり支承において、前記摺動面と前記フィルム又はシートとの間に離形性又は潤滑性を有する物質を介在させることができる。これにより、フィルム又はシートが摺動部材の摺動に与える影響をより小さく抑えることができる。
【0011】
また、前記フィルム又はシートを高防水性又は低通気性、あるいは高防水性及び低通気性を有する材料で形成することができ、フィルム又はシートは単一であってもよく、複数枚組み合わせたもの(分割したもの)や、多層加工されたものでもよい。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、長期的な摺動面の状態の変化を最小限に抑えることができると共に、摺動部材の移動が妨げられることがないため、すべり支承本来の性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るすべり支承の一実施の形態を示す一部破断斜視図である。
【
図3】従来のすべり支承の一例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1及び
図2は、本発明に係るすべり支承の一実施の形態を示し、このすべり支承1は、上部構造物に装着されるフランジプレート3と、フランジプレート3の下面に装着される積層ゴム体4と、下部構造物に装着され、上面にステンレス鋼材をフッ素樹脂5bでコーテンィグした摺動面5aを有するすべり板5と、積層ゴム体4の底面に装着された後述するすべり材4fとの当接部を除く摺動面5aを覆うように摺動面5aに貼着、密着又は載置されるフィルム又はシート6とで構成される。
【0016】
積層ゴム体4は、ゴム層と補強板とが交互に積層された積層ゴム部4aと、積層ゴム部4aの上下に配置される厚肉鋼板4b、4cと、積層ゴム部4a及び厚肉鋼板4b、4cを覆うゴム4eと、厚肉鋼板4cの下面に固定されたすべり材4fとで構成され、一般的に用いられているものである。また、積層ゴム体4の鉛直方向に設けられた孔に減衰材料が挿入されていてもよい。減衰材料は、例えば鉛・錫・超塑性材料又は鉄・ゴム等の複数で構成される粉体の混合物等がある。さらに積層ゴム体4は、ゴム自体に減衰性能があるものでもよい。以下の説明では、フランジプレート3及び積層ゴム体4の全体を摺動部材2という。
【0017】
フィルム又はシート6は、防水性が高く、通気性の低い性質を有する材料、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリクロロトリフロロエチレン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデン、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、エチレン/ビニルアルコール共重合体、ポリフェニレンサルファイド、芳香族ポリアミド、脂肪族ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ゴム等の高分子材料を含むものでもよい。また、すべり板5の摺動面5aとフィルム又はシート6との間に離形性又は潤滑性を有する他のフィルム又はシートや油等を介在させてもよい。フィルム又はシート6は、上記性質に加え、遮光性が高い、耐熱性が高い、耐薬品性が高い、耐衝撃性が高い、除湿性が高いものが好ましい。
【0018】
また、フィルム又はシート6は、摺動部材2が摺動面5a上の初期位置にある状態(図示する状態)で、すべり材4fとの当接部を除く摺動面5aの全体又は一部(分割も含む)に貼着、密着又は載置される。フィルム又はシート6と摺動面5aの間から水分や空気等を排除するため、フィルム又はシート6と摺動面5aの間に油を介在させ、両者を密着させることもできる。
【0019】
以上のように、本発明によれば、大きな地震等が発生する前には、フィルム又はシート6によってすべり材4fとの当接部を除く摺動面5aが水(結露水、漏水、雨水、海水、泥水等)、酸素、水蒸気等と接触することを防止することができるため、摺動面5aの長期的な状態の変化を最小限に抑え、摺動部材2の摺動面5aに対する摺動性能を維持することが可能になる。
【0020】
また、大きな地震等が発生した場合には、積層ゴム体4のゴム層が弾性変形した後、すべり材4fがすべり板5の摺動面5aを摺動する。この際、すべり材4fはフィルム又はシート6を容易に剥がしながら又は容易に積層ゴム体4に追従させながらすべり板5の摺動面5aを移動するため、フィルム又はシート6によって積層ゴム体4の移動が妨げられることがない。
【0021】
尚、特許文献1に記載のワックスを保護材に用いたすべり支承は、硬化したワックスを掻き分ける力が必要となり、低い摩擦係数を要求されるすべり支承においてはこの掻き分け力が設計で想定した水平力に影響を及ぼすが、本発明によれば、フィルム又はシート6を容易に剥がしながら又は容易に積層ゴム体4に追従させながらすべり材4fがすべり板5の摺動面5aを移動するため、設計で想定した水平力に影響を及ぼすことがない。また、フィルム又はシート6と摺動面5aの間に、離形性又は潤滑性を有する他のフィルム又はシート6や油等を介在させることにより、小さな水平力でフィルム又はシート6を剥がす又は積層ゴム体4に追従させることができる。
【0022】
また、上記積層ゴム体4の移動時に、すべり材4fと摺動面5aの当接部にフィルム又はシート6が巻き込まれることを防止する目的で、積層ゴム体の外周部にフィルム又はシート6の巻き込み防止部材を設けたり、積層ゴム体の周辺部のフィルム又はシート6の端部を立ち上げた構造としてもよい。
【0023】
さらに、上記実施の形態では、上面にステンレス鋼材をフッ素樹脂5bでコーテンィグした摺動面5aを有するすべり板5を例示したが、フィルム又はシート6によってすべり材4fの摺動が妨げられることがなく、すべり支承本来の機能が維持されるのであれば、摺動面5aがフッ素樹脂5bでコーテンィグした面でなくとも構わない。
【0024】
また、摺動部材2を上部構造物に、すべり板5を下部構造物に各々固定した場合について説明したが、すべり支承を橋梁に適用する場合等、下部構造物側に十分なスペースを確保することが困難な構造物に適用する場合には、上部構造物にすべり板5を固定し、下部構造物に摺動部材2を固定してもよい。この際、すべり板5の摺動面5aは下方を向くことになるので、摺動面5aからフィルム又はシート6が離間し難い構成とする。
【0025】
さらに、摺動部材2に積層ゴム体4を備えたすべり支承1について説明したが、積層ゴム体を有さないすべり支承においても本発明を適用することができ、その場合、摺動面が平面、曲面又は球面であっても本発明を適用することができる。
【0026】
また、本発明は、上記構造物用のすべり支承に限定されず、構造物用以外のすべり支承、例えば、配管設備、物流設備・機器、機械設備・装置、電気設備・機器、電算設備・機器、什器、家具、展示物等に適用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 すべり支承
2 摺動部材
3 フランジプレート
4 積層ゴム体
4a 積層ゴム部
4b、4c 厚肉鋼板
4e ゴム
4f すべり材
5 すべり板
5a 摺動面
5b フッ素樹脂
6 フィルム又はシート