【解決手段】プラズマ生成装置A1において、トロイダル形状の放電空間を有するチャンバ1と、高周波電流を出力する高周波電源3とを備えるようにした。そして、高周波電源3が出力する高周波電流を、チャンバ1に、トロイダル方向に流すことで、高周波磁界を生成する。また、高周波電流を流すチャンバ1に並列コンデンサ6を並列接続した。したがって、高周波電源3から見た負荷のインピーダンスが高くなるので、高周波電源3の出力が低電力であっても、チャンバ1に高い電圧を印加することができる。これにより、チャンバ1内に、プラズマ着火に必要な大きな高周波電界を発生させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、紫外線照射装置や、高電圧パルスを印加するための電極を別途設けるためには、チャンバの構造や形状を設計する必要があるので、開発期間が長くなる。また、プラズマを着火するだけのための構成の追加が必要なので、製造コストが高くなるという問題がある。一方、もともと設置されている誘導コイルに高電圧パルスを印加する場合は、新たに部品を追加する必要はないが、大きな高周波電界を生成させるためには、大きな電力を入力する必要がある。この場合、電力を供給する高周波電源を構成する回路に流れる高周波電流が過大となり、回路を損傷する恐れがある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、低電力でプラズマ着火に必要な大きな高周波電界を発生させることができるプラズマ生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面によって提供されるプラズマ生成装置は、トロイダル形状の放電空間を有するチャンバと、高周波電流を出力する高周波電源と、前記高周波電流が流れることで高周波磁界を生成する磁界生成部と、前記磁界生成部に並列接続された並列コンデンサとを備えていることを特徴とする。この構成によると、磁界生成部に並列コンデンサが並列接続されているので、高周波電源から見た負荷のインピーダンスが高くなる。インピーダンスが高くなるので、高周波電源の出力が低電力であっても、磁界生成部に高い電圧を印加することができる。これにより、磁界生成部は、大きな高周波磁界を生成して、チャンバ内に大きな高周波電界を発生させることができる。したがって、低電力でプラズマ着火に必要な大きな高周波電界を発生させることができる。
【0008】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記並列コンデンサの静電容量は、前記磁界生成部の自己インダクタンスに基づいて、設定される。この構成によると、磁界生成部の自己インダクタンスに応じて、並列コンデンサの静電容量を設定することができ、高周波電源から見た負荷のインピーダンスを適切な値にすることができる。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記磁界生成部の自己インダクタンスをLとし、前記高周波電流の角周波数をωとした場合、前記並列コンデンサの静電容量Cは下記式に基づいて算出されて設定される。
C=1/(ω
2L)
この構成によると、磁界生成部と並列コンデンサとで並列共振回路を構成することができ、高周波電源から見た負荷のインピーダンスを最大にすることができる。
【0010】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記並列コンデンサは、前記高周波電源と前記磁界生成部と間に配置されている。この構成によると、汎用的な高周波電源を用いることができる。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記並列コンデンサは、前記高周波電源の内部に配置されている。この構成によると、磁界生成部を高周波電源に接続するだけで、並列コンデンサを磁界生成部に並列接続させることができる。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記チャンバは、導体製であって、トロイダル方向の一部を絶縁するための絶縁部を備えている。この構成によると、チャンバを電流経路の一部として利用することができる。または、チャンバにトロイダル方向の誘導電流が流れることを防止することができる。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記チャンバは金属製である。この構成によると、チャンバの強度を保ちつつ、チャンバに電流を流すことができる。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記絶縁部は、前記チャンバをトロイダル方向の一部で切り離した隙間を維持したものである。この構成によると、チャンバをトロイダル方向で適切に絶縁することができる。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記チャンバは、前記絶縁部を挟んだ両側の外壁にそれぞれ配置されたフランジをさらに備えており、筒状であって、前記チャンバの切り離された部分が両側から挿入された状態で、2つの前記フランジの間に配置されて、前記隙間の大きさを規定する中継アダプタを、前記プラズマ生成装置は、さらに備えている。この構成によると、中継アダプタを挟んだ状態で2つのフランジを固定することで、規定された隙間を維持することができる。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記中継アダプタの内面と前記チャンバの外壁との間に配置され、両者に密着するように変形することで前記チャンバを密封状態に保つ弾性リングをさらに備えている。この構成によると、チャンバを密封状態に保つことができる。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記チャンバの一部を取り囲むように配置された磁気コアをさらに備えている。この構成によると、磁束が磁気抵抗の小さい磁気コア内を通過するので、同じ磁束を発生させるために必要な励磁電流を小さくできる。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記磁界生成部は、前記チャンバである。この構成によると、チャンバが高周波電流を流す経路になる。当該経路の内側にプラズマ電流が流れる経路があり、両経路は近接して、両経路の中心軸がほぼ同じになる。これにより、漏れ磁束を減少させることができ、結合を強めることができる。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記チャンバは、トロイダル方向の一部を絶縁するための第2の絶縁部と、前記第2の絶縁部を挟んだ、前記チャンバの両側の間に直列接続される直列コンデンサとをさらに備えている。この構成によると、第2の絶縁部の近傍でも電界結合を発生させることができる。
【0020】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記直列コンデンサのリアクタンスは、プラズマが発生した後の状態における前記磁界生成部のリアクタンスの約2分の1である。この構成によると、絶縁部の近傍で発生する電界結合と、第2の絶縁部の近傍で発生する電界結合とを同程度とすることができる。
【0021】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記磁界生成部は、前記磁気コアに巻回された誘導コイルである。この構成によると、チャンバに高周波電流を流す必要がないので、チャンバの素材を導体とする必要がない。
【0022】
本発明の第2の側面によって提供される高周波電源は、トロイダル形状の放電空間を有するチャンバに高周波電界を発生させるための高周波磁界を生成する磁界生成部に高周波電流を出力する高周波電源であって、出力端子間に並列接続された並列コンデンサを備えており、前記並列コンデンサの静電容量は、前記磁界生成部の自己インダクタンスに基づいて、設定されていることを特徴とする。この構成によると、高周波電源を磁界生成部に接続することで、磁界生成部に並列コンデンサを並列接続することができる。したがって、並列コンデンサを含めた負荷のインピーダンスを高くできる。また、当該インピーダンスを、磁界生成部の自己インダクタンスに応じた適切な値にすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、磁界生成部に並列コンデンサが並列接続されているので、高周波電源から見た負荷のインピーダンスが高くなる。インピーダンスが高くなるので、高周波電源の出力が低電力であっても、磁界生成部に高い電圧を印加することができる。これにより、磁界生成部は、大きな高周波磁界を生成して、チャンバ内に大きな高周波電界を発生させることができる。したがって、低電力でプラズマ着火に必要な大きな高周波電界を発生させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付図面を参照して具体的に説明する。
【0026】
図1〜
図4は、第1実施形態に係るプラズマ生成装置を説明するための図である。
図1(a)は、第1実施形態に係るプラズマ生成装置の全体を示す簡略化した概念図である。
図1(b)は当該プラズマ生成装置の等価回路を示す回路図である。
図2は、第1実施形態に係るチャンバを説明するための図である。
図2(a)は、当該チャンバの外観斜視図であり、
図2(b)は、
図2(a)のII-II線断面図である。
図3は、絶縁ギャップを説明するための図である。
図3(a)は、
図2(b)の破線IIIで囲まれた部分の断面拡大図である。
図3(b)は、当該部分の分解図である。
図4は、
図2(b)のIV-IV線断面図である。
【0027】
プラズマ生成装置A1は、トロイダル形状の放電空間において、電磁誘導により高周波電界を発生させることで、放電空間に導入された材料ガスをプラズマ化し、トロイダルプラズマを発生させる、誘導結合型のプラズマ生成装置である。プラズマ生成装置A1は、プラズマ化された材料ガスを、反応性ガスとして、薄膜形成処理やエッチング処理などのプラズマ処理工程に排出する。
図1に示すように、プラズマ生成装置A1は、チャンバ1、磁気コア2、高周波電源3、接続線4、および、並列コンデンサ6を備えている。
【0028】
チャンバ1は、トロイダル形状の放電空間を有し、トロイダルプラズマを発生させるものである。
図2に示すように、チャンバ1の本体11は、軸に直交する断面が略円形状の筒の先端と基端とを接続して、全体として長円形状に形成したトロイダル形状をなしている。チャンバ1は、材料ガスを本体11に導入するための開口であるインレットポート12、および、プラズマ化された材料ガスである反応性ガスを本体11から排出するための開口であるアウトレットポート13を備えている。本実施形態においては、材料ガスが通過する2つの経路が同等の長さになるように、インレットポート12の位置とアウトレットポート13の位置とは、チャンバ1の本体11の周方向において互いに反対側となる位置としている。なお、インレットポート12の位置とアウトレットポート13の位置は、これに限定されない。チャンバ1は、アルミニウムなどの金属製である。なお、チャンバ1の素材はこれに限定されず、銅や鉄など他の金属であってもよい。また、ある程度強度があり、電流を流すものであればよく、例えば、超伝導セラミックやカーボンなどの導体であってもよい。また、チャンバ1の本体11の断面(トロイダル方向の軸に直交する断面)は、略円形状に限定されず、長円形状や楕円形状、四角形などの多角形状であってもよい。
【0029】
チャンバ1の本体11には、トロイダル方向の一部で切り離された絶縁ギャップ11a(
図1および
図3参照)が設けられている。
図3に示すように、絶縁ギャップ11aは、本体11の外壁11bに設けられた2つのフランジ11d、2つのフランジ11dの間に配置される絶縁スペーサ14および中継アダプタ15によって、隙間が維持されている部分であり、本体11の切り離された部分を電気的に絶縁するためのものである。
【0030】
絶縁スペーサ14は、例えば絶縁性のセラミックのリングであり、チャンバ1の本体11の切り離された部分が挿入されて、フランジ11dに当接するように配置されている。絶縁スペーサ14は、本体11と中継アダプタ15とが接触しないようにして、本体11と中継アダプタ15とを電気的に絶縁する。本体11の切り離された部分の両側にそれぞれ配置されているので、2つの絶縁スペーサ14が用いられている。なお、絶縁スペーサ14の素材は限定されず、本体11と中継アダプタ15との間に空間を生じさせられる剛性を有する絶縁体であればよい。
【0031】
中継アダプタ15は、チャンバ1の本体11の切り離された部分を、絶縁ギャップ11aを維持した状態で、接続するものである。中継アダプタ15は、例えばアルミニウム製の円筒であり、内側部分が階段状になっている。本体11の切り離された部分が、中継アダプタ15の両側から挿入され、両側のフランジ11d同士が、例えばボルトとナットで固定される。中継アダプタ15および2つの絶縁スペーサ14によって、両側のフランジ11dの間隔が規定され、本体11の切り離された部分が、所定の隙間を空けて固定される。当該所定の隙間が、絶縁ギャップ11aになる。「絶縁ギャップ11a」が、本発明の「絶縁部」に相当する。なお、「絶縁ギャップ11a」および「絶縁スペーサ14」をまとめて、本発明の「絶縁部」と考えることもできる。
【0032】
また、チャンバ1の本体11を密封するために、中継アダプタ15と絶縁スペーサ14との間に、Oリング16およびOリング加圧リング17が配置されている。
【0033】
Oリング16は、例えばフッ素系ゴム製のリングである。Oリング16は、絶縁スペーサ14と中継アダプタ15との間で、チャンバ1の本体11の切り離された部分が挿入されて、配置されている。Oリング16は、変形して、中継アダプタ15の内面および本体11の外壁11bに密着し、本体11を密封状態に保つ。なお、Oリング16の素材は限定されず、弾力があって、中継アダプタ15の内面と本体11の外壁11bとの間の隙間を密閉できるものであり、絶縁体であればよい。また、化学的に安定で耐熱性が高いものが望ましい。「Oリング16」が、本発明の「弾性リング」に相当する。
【0034】
Oリング加圧リング17は、例えばテフロン(登録商標)製のリングである。Oリング加圧リング17は、絶縁スペーサ14とOリング16との間で、チャンバ1の本体11の切り離された部分が挿入されて、配置されている。Oリング加圧リング17は、Oリング16側に向かうほど内径が大きくなるように、内周面のOリング16側に傾斜が設けられている。Oリング加圧リング17は、当該傾斜によってOリング16を加圧して変形を促すことで、Oリング16の中継アダプタ15および本体11との密着性を高めている。なお、Oリング加圧リング17の素材は限定されず、Oリング16を加圧できる剛性を有する絶縁体であればよい。また、化学的に安定で耐熱性が高いものが望ましい。また、Oリング16に接する側の傾斜は、必ずしも必要ではない。
【0035】
Oリング16およびOリング加圧リング17は、本体11の切り離された部分の両側にそれぞれ配置されているので、それぞれ2つずつ用いられている。なお、Oリング16およびOリング加圧リング17の構成は上述したものに限定されない。Oリング加圧リング17でOリング16を加圧することによってOリング16を変形させて、本体11を密封状態に保つように構成すればよい。また、Oリング16のみで本体11を密封状態に保てるのであれば、Oリング加圧リング17を備えないようにしてもよい。また、本体11の内部で生成された反応性ガスに対する耐性の高い部材を、Oリング16よりも絶縁ギャップ11a側に配置して、Oリング16を保護するようにしてもよい。
【0036】
図3(a)に示すように、Oリング16およびOリング加圧リング17は、絶縁ギャップ11aから離れた位置に配置されるので、反応性ガスに晒されにくくなっており、反応性ガスによって劣化することを抑制されている。
【0037】
本実施形態では、絶縁ギャップ11aを数mm程度の隙間としている。絶縁ギャップ11aが大きいほど、絶縁を保ちやすいが、反応性ガスが絶縁ギャップ11aの外側に侵入しやすくなるので、Oリング16およびOリング加圧リング17が劣化しやすくなる。したがって、絶縁ギャップ11aは、絶縁を保てる範囲で、できるだけ小さくするのが望ましい。本実施形態では、中継アダプタ15の軸方向の長さによって、絶縁ギャップ11aの大きさが決定される。したがって、中継アダプタ15を取り換えることで、容易に、絶縁ギャップ11aの大きさを変更することができる。
【0038】
なお、絶縁ギャップ11aを維持するための構造は、これに限られない。本実施形態では、中継アダプタ15をアルミニウム製としたので、中継アダプタ15と本体11とが接触しないように絶縁スペーサ14を配置しているが、中継アダプタ15が絶縁体でできていれば、絶縁スペーサ14を配置しなくてもよい。この場合、「絶縁ギャップ11a」および「中継アダプタ15」が、本発明の「絶縁部」に相当する。また、他の構造であっても、絶縁ギャップ11aを維持し、本体11を密閉できるものであればよい。なお、本体11を密閉でき、かつ、電気的に絶縁できればよいので、絶縁ギャップ11aを設ける代わりに、例えば、反応性ガスに対する耐性の高い絶縁体の樹脂などで、本体11の切り離された部分を接続するようにしてもよい。この場合、当該「絶縁体の樹脂」が、本発明の「絶縁部」に相当する。
【0039】
磁気コア2は、強磁性体のトロイダル形状のコアである。4つの磁気コア2は、それぞれがチャンバ1の本体11の一部を取り囲むように(各磁気コア2を本体11が貫通するように)設けられている。なお、磁気コア2の形状は限定されず、例えば四角形の環形状であってもよい。
【0040】
高周波電源3は、高周波電力を出力するものであり、電力系統からの交流電力を整流回路で直流電力に変換し、直流電力をインバータ回路で高周波電力に変換して出力する。また、高周波電源3は、制御回路を備えており、出力電力や出力電流を制御している。本実施形態では、高周波電源3は、例えば13.56MHzの高周波電力を出力する。なお、高周波電源3の構成および周波数は限定されない。
【0041】
接続線4は、高周波電源3の出力端子と、チャンバ1とを接続するものである。一方の接続線4は、高周波電源3の一方の出力端子とチャンバ1の一方のフランジ11d(
図1においては記載を省略)とを接続し、他方の接続線4は、高周波電源3の他方の出力端子とチャンバ1の他方のフランジ11d(
図1においては記載を省略)とを接続する。チャンバ1の本体11は、2つのフランジ11dの間で、絶縁ギャップ11aによって、電気的に絶縁されている。したがって、
図1の細線矢印で示す電流経路が形成され、高周波電源3が出力する高周波電流は、チャンバ1の本体11をトロイダル方向に流れる。チャンバ1(本体11)はコイルとして機能し、トロイダルの中心孔11eを貫く方向に高周波磁界を生成する。本実施形態においては、「チャンバ1(本体11)」が、本発明の「磁界生成部」に相当する。なお、各接続線4は、各フランジ11dではなく、チャンバ1の外壁11bに接続するようにしてもよい。
【0042】
並列コンデンサ6は、2つの接続線4の間に接続されるコンデンサであり、コイルとして機能するチャンバ1に対して並列接続されている。チャンバ1がコイルとして機能するので、プラズマ生成装置A1を電気回路としてみたときの等価回路は、
図1(b)に示す回路になる。なお、
図1(b)において破線で示すコンデンサは、コンデンサとして機能する絶縁ギャップ11aを示している。ただし、絶縁ギャップ11aによるコンデンサの静電容量は、並列コンデンサ6の静電容量と比べて微小(例えば数百分の一程度)なので、無視して考える。
【0043】
チャンバ1の自己インダクタンスをLとし、チャンバ1を流れる高周波電流の角周波数をωとした場合、並列コンデンサ6の静電容量C
1は、下記(1)式を満たすように設計されている。
C
1=1/(ω
2L) ・・・・ (1)
【0044】
すなわち、チャンバ1と並列コンデンサ6とを合わせたインピーダンスZは、下記(2)式のように求められる。このインピーダンスZを最大にする条件として、上記(1)式が導出される。
Z=1/{(1/jωL)+jωC
1}
=jωL/(1−ω
2LC
1) ・・・・ (2)
【0045】
つまり、チャンバ1と並列コンデンサ6とは、並列共振回路を構成している。なお、完全な並列共振回路として設計すると、高周波電源3の出力電圧が高くなる。高周波電源3を構成する各回路素子の耐圧を考慮して、並列コンデンサ6の静電容量C
1を上記(1)式の条件より少しずらして、インピーダンスZを調整するようにしてもよい。
【0046】
また、絶縁ギャップ11aによるコンデンサの静電容量を考慮して、並列コンデンサ6の静電容量C
1を設計するようにしてもよい。この場合、絶縁ギャップ11aによるコンデンサの静電容量をCgapとすると、並列コンデンサ6の静電容量C
1は、下記(1)式を満たすように設計される。
C
1=1/(ω
2L)−Cgap ・・・・ (3)
【0047】
なお、図示しないが、プラズマ生成装置A1は、チャンバ1の本体11内部のプラズマの電流や電力を検出するためのセンサや、プラズマの発光光を検出するためのセンサなども備えている。高周波電源3は、センサの検出結果に応じて出力を制御するようにしてもよい。
【0048】
また、高周波電源3の出力端にインピーダンス整合装置を配置して、高周波電源3から見た負荷全体のインピーダンスを所望のインピーダンスに調整するようにしてもよい。この場合、インピーダンス整合装置は、プラズマ着火時は稼働しないようにして、プラズマ着火後に稼働するように制御する。
【0049】
次に、プラズマの発生方法について説明する。
【0050】
チャンバ1の本体11内部には、インレットポート12より材料ガスが導入される。材料ガスは、例えばフッ素ガスなどであるが、限定されない。
【0051】
高周波電流がチャンバ1の本体11をトロイダル方向に流れることにより、各磁気コア2の内部を通過する磁束が変化する。各磁気コア2の磁束の変化により、チャンバ1の本体11の内側の放電空間に、トロイダル方向の高周波電界が発生する。当該電界によって、本体11内部の材料ガスがプラズマ化し、トロイダルプラズマが生成され、チャンバ1の本体11の内側の放電空間をトロイダル方向にプラズマ電流が流れる。
【0052】
例えば、
図4に示すチャンバ1の本体11の左側の断面において、本体11に紙面の手前側に向かって電流が流れると、磁気コア2の内部に反時計回りの主磁束(同図に示す太線矢印参照)が発生する。そして、本体11の内側の放電空間において、電磁誘導により、当該主磁束を打ち消そうとする逆起電力が誘起され、紙面の奥側に向かう電界が発生する。このとき、
図4に示すチャンバ1の本体11の右側の断面においては、本体11に紙面の奥側に向かって電流が流れるので、磁気コア2の内部に時計回りの主磁束(同図に示す太線矢印参照)が発生し、本体11の内側の放電空間に紙面の手前側に向かう電界が発生する。つまり、チャンバ1の本体11の内側の放電空間に、トロイダル方向の高周波電界が発生する。
【0053】
プラズマ化された材料ガスは、反応性ガスとして、アウトレットポート13より排出される。
【0054】
次に、本実施形態に係るプラズマ生成装置A1の作用および効果について説明する。
【0055】
本実施形態によると、チャンバ1に並列コンデンサ6が並列接続され、チャンバ1と並列コンデンサ6とは、並列共振回路を構成している。したがって、高周波電源3から見た負荷のインピーダンスZは高くなる。インピーダンスZが高くなるので、高周波電源3の出力が低電力であっても、チャンバ1に高い電圧を印加することができる。これにより、チャンバ1は、大きな高周波磁界を生成して、チャンバ1の本体11の内側に大きな高周波電界を発生させることができる。つまり、低電力でプラズマ着火に必要な大きな高周波電界を発生させることができる。したがって、高周波電源3は、大きな電力を出力する必要がない。また、紫外線照射装置や高電圧パルスを印加するための電極を別途設ける必要もない。なお、並列コンデンサ6の静電容量C
1を共振条件より少しずらした場合でも、高周波電源3から見た負荷のインピーダンスZは十分高くなるので、同様の効果を奏することができる。
【0056】
また、本実施形態によると、高周波電源3が出力した高周波電流がチャンバ1の本体11をトロイダル方向に流れ、プラズマ電流がチャンバ1の本体11の内側の放電空間をトロイダル方向に流れる。つまり、励磁電流である高周波電流が流れる経路の内側にプラズマ電流が流れる経路があり、両経路は近接して、両経路の中心軸がほぼ同じである。
図4に示すように、漏れ磁束(細線矢印参照)は、チャンバ1の本体11の内壁11cと、トロイダルプラズマPとの間のプラズマシース部分にのみ発生する。プラズマシース部分は狭い領域である上に磁気抵抗が大きいので、漏れ磁束は、ごくわずかしか発生しない。したがって、漏れ磁束を減少させることができ、結合を強めることができる。これにより、高周波電源3が出力する電力を有効利用することができる。また、磁束を変化させるための誘導コイルが必要ないので、誘導コイルのための設置スペースを省くことができ、プラズマ生成装置A1を小型化することができる。また、製造コストを削減することができる。
【0057】
また、本実施形態においては、磁気コア2が設けられており、磁束が磁気抵抗の小さい磁気コア2内を通過するので、同じ磁束を発生させるために必要な励磁電流が小さくなる。したがって、高周波電源3から出力させる高周波電流を抑制することができる。また、チャンバ1の本体11を流れる電流を小さくできるので、チャンバ1での発熱を抑制することができる。
【0058】
なお、上記第1実施形態においては、磁気コア2を4つ設けた場合について説明したが、これに限られず、磁気コア2の数は、その断面積に応じて、適宜設計すればよい。また、高周波電源3が周波数の高い高周波電流を出力する場合などには、磁気コア2を設けないようにしてもよい。この変形例の場合でも、高周波電流がチャンバ1の本体11をトロイダル方向に流れると、本体11の中心孔11eを貫く磁束が変化するので、チャンバ1の本体11の内側の放電空間に、トロイダル方向の高周波電界が発生し、トロイダルプラズマが生成される。また、並列コンデンサ6が設けられているので、高周波電源3から見た負荷のインピーダンスZは高くなる。したがって、本変形例においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、本変形例の場合、磁気コア2を設ける必要がないので、プラズマ生成装置A1をより小型化することができ、また、製造コストを削減することができる。
【0059】
上記第1実施形態においては、チャンバ1の本体11が、長円形のトロイダル形状の場合について説明したが、これに限られない。本体11は、例えば、円形や楕円形のトロイダル形状であってもよい。また、
図5に示すチャンバ1’のように、四角形の環形状としてもよいし、当該四角形の角部を曲線状とした略四角形の環形状としてもよい。また、その他の多角形の環形状としてもよい。これらの場合でも、本体11の内部の放電空間に、トロイダルプラズマを発生させることができる。また、並列コンデンサ6が設けられているので、高周波電源3から見た負荷のインピーダンスZは高くなる。したがって、本変形例においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0060】
第1実施形態に係るプラズマ生成装置A1の場合、インレットポート12から導入された材料ガスは、二手に分かれて、本体11の内部のプラズマ中を通過し、アウトレットポート13から排出される。絶縁ギャップ11aの近傍では、電位差による高周波電界が発生し、電界結合も発生するので、プラズマ化されやすい。したがって、絶縁ギャップ11aを通過する場合(
図1に示す本体11の右側の経路)と、絶縁ギャップ11aを通過しない場合(
図1に示す本体11の左側の経路)とでは、材料ガスのプラズマ化の度合いが異なり、排出される反応性ガスが不均一になる。当該不均一を抑制するようにした場合を、第2実施形態として、以下に説明する。
【0061】
図6は、第2実施形態に係るプラズマ生成装置を説明するための図である。
図6(a)は、第2実施形態に係るプラズマ生成装置の全体を示す簡略化した概念図である。
図6(a)において、第1実施形態に係るプラズマ生成装置A1(
図1(a)参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
図6(a)に示すように、プラズマ生成装置A2は、チャンバ1の本体11に絶縁ギャップ11a’が追加され、当該絶縁ギャップ11a’を挟むように、チャンバ1の本体11に直列コンデンサ6’が接続されている点で、第1実施形態に係るプラズマ生成装置A1と異なる。
【0062】
絶縁ギャップ11a’は、絶縁ギャップ11aと同様、チャンバ1の本体11を電気的に絶縁するためのものである。絶縁ギャップ11a’は、チャンバ1の本体11における絶縁ギャップ11aの反対側の位置に配置されている。絶縁ギャップ11a’の周囲の構造も、絶縁ギャップ11a(
図3参照)と同様である。「絶縁ギャップ11a’」が、本発明の「第2の絶縁部」に相当する。
【0063】
直列コンデンサ6’は、リアクタンスが、プラズマが発生した後の状態におけるチャンバ1のリアクタンスの約2分の1のコンデンサである。直列コンデンサ6’は、絶縁ギャップ11a’を挟むように、接続線5によって、チャンバ1の本体11に接続されている。これにより、高周波電源3が出力する高周波電流は、接続線4、チャンバ1の本体11の半分、接続線5、直列コンデンサ6’、接続線5、チャンバ1の本体11の半分、および、接続線4によって形成された電流経路(
図6に示す細線矢印)を流れる。
【0064】
図6(b)は、プラズマ生成装置A2の等価回路を示したものである。
【0065】
プラズマが発生した後の状態におけるチャンバ1のリアクタンスをX
L、並列コンデンサ6のリアクタンスをX
C1、直列コンデンサ6’のリアクタンスをX
C2とする。チャンバ1が絶縁ギャップ11a,11a’によって2つの部分に分けられているので、
図6(b)においては、一方の部分のリアクタンスをX
L1、他方の部分のリアクタンスをX
L2として表している。X
L1+X
L2=X
Lとなる。X
C2=(1/2)X
Lなので、絶縁ギャップ11aの両端間の電位差V1、および、絶縁ギャップ11a’の両端間の電位差V2は、それぞれ下記(4)、(5)式のようになる。なお、チャンバ1の本体11に流れる電流をIとしている。
V1=j(X
L−X
C2)×I=j(1/2)X
L×I ・・・・ (4)
V2=−jX
C2×I=−j(1/2)X
L×I ・・・・ (5)
【0066】
上記(4)、(5)式より、|V1|=|V2|となり、絶縁ギャップ11aの近傍と絶縁ギャップ11a’の近傍とでは、同じ大きさの高周波電界が発生する。したがって、絶縁ギャップ11a’の近傍でも、絶縁ギャップ11aの近傍と同様の電界結合が発生する。
【0067】
第2実施形態の場合、直列コンデンサ6’があるので、第1実施形態の場合とは共振条件が異なる。直列コンデンサ6’の静電容量をC
2とすると、チャンバ1と並列コンデンサ6と直列コンデンサ6’とを合わせたインピーダンスZ’は、下記(6)式のように求められる。このインピーダンスZ’を最大にする条件として、下記(7)式が導出される。並列コンデンサ6の静電容量C
1は、下記(7)式を満たすように設計される。
【数1】
【0068】
第2実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、第2実施形態においては、絶縁ギャップ11aの近傍で発生する電界結合と、絶縁ギャップ11a’の近傍で発生する電界結合とが同程度なので、絶縁ギャップ11aを通過する場合(
図6(a)に示す本体11の右側の経路)と、絶縁ギャップ11a’を通過する場合(
図6(a)に示す本体11の左側の経路)とで、材料ガスのプラズマ化の度合いが同様になる。したがって、排出される反応性ガスが不均一になることを抑制することができる。
【0069】
第2実施形態においては、絶縁ギャップ11aの位置と絶縁ギャップ11a’の位置とが、チャンバ1の本体11において互いに反対側となる位置である場合について説明したが、これに限られない。インレットポート12からアウトレットポート13に至る2つの経路のうちのいずれか一方の途中に絶縁ギャップ11aが設けられ、他方の途中に絶縁ギャップ11a’が設けられていればよい。
【0070】
上記第1および第2実施形態においては、本体11に高周波電流を流すことで高周波磁界を生成する場合について説明したが、これに限られない。磁気コア2に巻回された誘導コイルに高周波電流を流すことで高周波磁界を生成する場合について、第3実施形態として、以下に説明する。
【0071】
図7は、第3実施形態に係るプラズマ生成装置の全体を示す簡略化した概念図である。
図7において、第1実施形態に係るプラズマ生成装置A1(
図1(a)参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
図7に示すように、プラズマ生成装置A3は、磁気コア2が1つであって、当該磁気コア2に巻回された誘導コイル7を備えており、各接続線4が誘導コイル7の各端子に接続されている点で、第1実施形態に係るプラズマ生成装置A1と異なる。本実施形態においては、「誘導コイル7」が、本発明の「磁界生成部」に相当する。
【0072】
第3実施形態においては、高周波電源3が出力した高周波電流は、誘導コイル7を流れる。これにより、磁気コア2の内部を通過する磁束が変化する。磁気コア2の磁束の変化により、チャンバ1の本体11の内側の放電空間に、トロイダル方向の高周波電界が発生する。当該電界によって、本体11内部の材料ガスがプラズマ化し、トロイダルプラズマが生成され、チャンバ1の本体11の内側の放電空間をトロイダル方向にプラズマ電流が流れる。
【0073】
第3実施形態によると、誘導コイル7に並列コンデンサ6が並列接続され、誘導コイル7と並列コンデンサ6とは、並列共振回路を構成している。したがって、高周波電源3から見た負荷のインピーダンスZは高くなる。インピーダンスZが高くなるので、高周波電源3の出力が低電力であっても、誘導コイル7に高い電圧を印加することができる。これにより、誘導コイル7は、大きな高周波磁界を生成して、チャンバ1の本体11の内側に大きな高周波電界を発生させることができる。つまり、低電力でプラズマ着火に必要な大きな高周波電界を発生させることができる。
【0074】
第3実施形態においては、第1および第2実施形態とは異なり、チャンバ1に電流を流す必要がないので、チャンバ1の素材は導体でなくてもよい。また、チャンバ1の本体11に絶縁ギャップ11aを設ける必要もない。逆に、チャンバ1の素材を金属などの導体とする場合は、チャンバ1の本体11の外壁に、トロイダル方向の誘導電流が流れることを防止するために、
図1に示す絶縁ギャップ11aと同様な絶縁ギャップを設けるのが望ましい。
【0075】
上記第1ないし第3実施形態においては、並列コンデンサ6が2つの接続線4の間に接続されている場合について説明したが、これに限られない。例えば、並列コンデンサ6を、高周波電源3の内部に配置するようにしてもよいし、チャンバ1の絶縁ギャップ11aを挟む2つのフランジ11dの間に配置するようにしてもよい。並列コンデンサ6を、高周波電源3の内部に配置した場合を、第4実施形態として、以下に説明する。
【0076】
図8は、第4実施形態に係るプラズマ生成装置の全体を示す簡略化した概念図である。
図8において、第1実施形態に係るプラズマ生成装置A1(
図1(a)参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。
図8に示すように、プラズマ生成装置A4は、並列コンデンサ6が高周波電源3’の内部に配置されている点で、第1実施形態に係るプラズマ生成装置A1と異なる。
【0077】
高周波電源3’は、内部の出力端子間に並列接続された並列コンデンサ6を備えている。並列コンデンサ6の静電容量は、第1実施形態と同様に、チャンバ1の自己インダクタンスに基づいて、上記(1)式を満たすように設計されている。したがって、第4実施形態においても、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。さらに、第4実施形態においては、並列コンデンサ6が高周波電源3’の内部に配置されているので、接続線4でチャンバ1を高周波電源3’の出力端子に接続すればよいだけである。
【0078】
本発明に係るプラズマ生成装置および高周波電源は、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係るプラズマ生成装置および高周波電源の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。