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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-54571(P2018-54571A)
(43)【公開日】2018年4月5日
(54)【発明の名称】波長分散型蛍光X線分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20180309BHJP
   G01N 23/207 20180101ALI20180309BHJP
【FI】
   G01N23/223
   G01N23/207 320
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-194356(P2016-194356)
(22)【出願日】2016年9月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀一
(72)【発明者】
【氏名】片岡 由行
(72)【発明者】
【氏名】山田 隆
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001DA08
2G001FA11
2G001GA01
2G001GA13
(57)【要約】
【課題】高速に正確なネット強度を求める高精度の定量分析と高計数率で高精度の主成分分析との両方を簡単な構成で迅速にできる波長分散型蛍光X線分析装置を提供する。
【解決手段】直線状に配列された複数の検出素子(7)を有する単一の一次元検出器(10)を備えた波長分散型蛍光X線分析装置であって、一次元検出器(10)の位置について、検出素子(7)の配列方向が分光素子(6)における分光角度方向に対して平行となる平行位置と交差する交差位置とのいずれかに設定するための検出器位置変更機構(11)を備え、平行位置では、一次元検出器(10)の受光面が集光2次X線(42)の焦点に位置し、交差位置では、受光スリット(9)が集光2次X線(42)の焦点に配置され、一次元検出器(10)の受光面は受光スリット(9)よりも分光素子(6)から離れた集光2次X線(42)の進行方向側に位置する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に1次X線を照射するX線源と、
試料から発生した2次X線を通過させる発散スリットと、
前記発散スリットを通過した2次X線を分光して集光する分光素子と、
直線状に配列された複数の検出素子を有し、2次X線が前記分光素子で集光された集光2次X線の光軸に対して受光面が垂直である単一の一次元検出器とを備えた集中光学系の波長分散型蛍光X線分析装置であって、
前記一次元検出器の位置について、前記検出素子の配列方向が前記分光素子における分光角度方向となる平行位置と、前記検出素子の配列方向が前記分光素子における分光角度方向に対して交差する交差位置とのいずれかに、変更自在に設定するための検出器位置変更機構を備え、
前記一次元検出器が前記平行位置に設定された状態では、前記一次元検出器の受光面が集光2次X線の焦点に位置し、
前記一次元検出器が前記交差位置に設定された状態では、前記分光素子における分光角度方向に対して長手方向が直交する開口を有する受光スリットが、集光2次X線の焦点に配置され、前記一次元検出器の受光面は、前記受光スリットよりも前記分光素子から離れた集光2次X線の進行方向側に位置する波長分散型蛍光X線分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の波長分散型蛍光X線分析装置において、
前記検出素子の配列方向において、測定対象の蛍光X線に対応する前記検出素子の領域であるピーク領域と、測定対象の蛍光X線のバックグラウンドに対応する前記検出素子の領域である複数のバックグラウンド領域とが設定される検出領域設定手段と、
前記一次元検出器が前記平行位置に設定された状態で、前記ピーク領域にある前記検出素子の検出強度を積算したピーク強度、前記バックグラウンド領域ごとに前記検出素子の検出強度を積算したバックグラウンド強度、および、あらかじめ入力されたバックグラウンド除去係数に基づいて、ネット強度として測定対象の蛍光X線の強度を算出して定量分析を行う定量手段とを備えた波長分散型蛍光X線分析装置。
【請求項3】
請求項1に記載の波長分散型蛍光X線分析装置において、
前記一次元検出器が前記交差位置に設定された状態で、すべての前記検出素子の検出強度を積算することにより測定対象の蛍光X線の強度を算出して定量分析を行う定量手段を備えた波長分散型蛍光X線分析装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の波長分散型蛍光X線分析装置において、
前記交差位置が、前記検出素子の配列方向が前記分光素子における分光角度方向に対して直交する直交位置、および、前記検出素子の配列方向が前記分光素子における分光角度方向に対して所定の角度で斜交する単一の斜交位置のいずれか一方である波長分散型蛍光X線分析装置。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか一項に記載の波長分散型蛍光X線分析装置において、
前記一次元検出器の受光面が矩形であり、
前記交差位置が、前記一次元検出器の受光面の対角線方向が前記分光素子における分光角度方向に対して直交する対角線位置である波長分散型蛍光X線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集中光学系を備えた波長分散型蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析において、試料に含有される微量元素を精度よく測定するためには、1次X線が照射された試料から発生する蛍光X線のバックグラウンドについて正確に補正する必要がある。そのため、集中光学系を備えた波長分散型蛍光X線分析装置において、単一の分光素子で分光し、単一の検出器の前に隣接して設けた複数の開口を持つ受光スリットを設け、2次X線を通過させる開口を切り替えて、試料からの蛍光X線のバックグラウンドについて補正する装置がある(特許文献1)。この集中光学系は、固定光学系として用いるため、通常、単元素専用の蛍光X線分析装置か多元素同時型蛍光X線分析装置に用いられる。
【0003】
ほとんどの場合、蛍光X線スペクトルPSとバックグラウンドスペクトルBSとを模式的に示す図12のように、蛍光X線のスペクトルPSのあるピーク領域PAとピーク近接領域BAとにおいて、バックグラウンドスペクトルBSは近似的に直線的に変化する。一般に、走査型蛍光X線分析装置では、ピーク近接領域にゴニオメータを移動させてバックグラウンド強度を測定することで、ピーク領域とピーク近接領域とにおいて同程度の感度でバックグラウンド強度を測定できると見なし、ピーク測定強度からバックグラウンド測定強度を差し引いてネット強度を求めている。
【0004】
一方、特許文献1に記載の装置のように、分光素子および検出器が固定されている集中光学系の波長分散型蛍光X線分析装置においては、単一の検出器の前に隣接して設けた複数の開口をもつ受光スリットを設け、2次X線を通過させる開口をピーク近接領域に切り替えてバックグラウンド強度を測定するが、ピーク領域よりも感度が低いため、実際に発生しているバックグラウンド強度に比べて強度が低く測定される。そのため、ピーク測定強度からピーク近接領域のバックグラウンド測定強度を単に差し引くだけでは、正確なネット強度を求めることができない。
【0005】
そこで、集中光学系を備えた波長分散型蛍光X線分析装置において、複数の分光素子と、単一の検出器に入射する2次X線の光路を選択する手段とを設け、使用する分光素子を切り替えてピーク強度とバックグラウンド強度とを同程度と見なせる感度で測定し、試料からの蛍光X線のバックグラウンドについて補正する装置がある。さらに、この装置の光路選択手段に代えて、検出器を位置敏感型検出器とし、ピーク強度とバックグラウンド強度とを同時に短時間で測定する装置もある(特許文献2)。
【0006】
また、蛍光X線分析の主成分分析においては、高い測定精度を必要とするため、測定対象元素を高計数率で測定する必要がある。しかし、従来の検出器(比例計数管、シンチレーションカウンタなど)では、計数直線性が得られる計数上限は1000〜4000kcps程度である。そのため、アッテネータ交換機構を装備し、例えば金属で主成分元素のX線強度が計数上限を超える試料を分析するときには、アッテネータを用いて、計数上限以下に蛍光X線強度を低下させる。または、最大含有率の試料で計数上限を超えないように強度減衰させる固定アッテネータを装備することもあるが、この場合には、低含有率試料でも強度減衰される。アッテネータを用いることに代えて、X線管へ供給する管電圧もしくは管電流を下げて測定することもある(例えば、特許文献3の段落0002)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−128975号公報
【特許文献2】特表2004−086018号公報
【特許文献3】特開2012−159404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献2に記載の装置では、蛍光X線とそのバックグラウンドとを別々に測定するために複数の分光素子を備えるので、装置の構成が複雑であり、コストが高く、装置の組み立てや調整に要する時間が長くなるという問題があった。
【0009】
また、主成分分析において、アッテネータを用いて、計数上限以下に蛍光X線強度を低下させるか、または、X線管へ供給する管電圧もしくは管電流を下げて測定するためには、試料ごとに適切な分析条件に設定する必要があり、測定操作が煩雑になるとともに、X線強度を低下させるために測定精度も悪化するという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、高速に正確なネット強度を求める高精度の定量分析と、高計数率で高精度の主成分分析との両方を簡単な構成で迅速にできる波長分散型蛍光X線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、試料に1次X線を照射するX線源と、試料から発生した2次X線を通過させる発散スリットと、前記発散スリットを通過した2次X線を分光して集光する分光素子と、直線状に配列された複数の検出素子を有し、2次X線が前記分光素子で集光された集光2次X線の光軸に対して受光面が垂直である単一の一次元検出器とを備えた集中光学系の波長分散型蛍光X線分析装置であって、前記一次元検出器の位置について、前記検出素子の配列方向が前記分光素子における分光角度方向となる平行位置と、前記検出素子の配列方向が前記分光素子における分光角度方向に対して交差する交差位置とのいずれかに、変更自在に設定するための検出器位置変更機構を備える。
【0012】
そして、本発明においては、前記一次元検出器が前記平行位置に設定された状態では、前記一次元検出器の受光面が集光2次X線の焦点に位置し、前記一次元検出器が前記交差位置に設定された状態では、前記分光素子における分光角度方向に対して長手方向が直交する開口を有する受光スリットが、集光2次X線の焦点に配置され、前記一次元検出器の受光面は、前記受光スリットよりも前記分光素子から離れた集光2次X線の進行方向側に位置する。
【0013】
本発明によれば、前記一次元検出器の位置について、前記検出素子の配列方向が前記分光素子における分光角度方向となる平行位置と、前記検出素子の配列方向が前記分光素子における分光角度方向に対して交差する交差位置とのいずれかに、変更自在に設定するための検出器位置変更機構を備えるので、高速に正確なネット強度を求める高精度の定量分析と、高計数率で高精度の主成分分析との両方を簡単な構成で迅速にできる。
【0014】
本発明においては、前記検出素子の配列方向において、測定対象の蛍光X線に対応する前記検出素子の領域であるピーク領域と、測定対象の蛍光X線のバックグラウンドに対応する前記検出素子の領域である複数のバックグラウンド領域とが設定される検出領域設定手段と、前記一次元検出器が前記平行位置に設定された状態で、前記ピーク領域にある前記検出素子の検出強度を積算したピーク強度、前記バックグラウンド領域ごとに前記検出素子の検出強度を積算したバックグラウンド強度、および、あらかじめ入力されたバックグラウンド除去係数に基づいて、ネット強度として測定対象の蛍光X線の強度を算出して定量分析を行う定量手段とを備えるのが好ましい。この場合には、実際に発生しているバックグラウンド強度に比べて強度が低く測定されるバックグラウンドについて正しく補正するとともに、ピーク強度とバックグラウンド強度とを同時に測定するので、高速に正確なネット強度を求める高精度の定量分析ができる。
【0015】
本発明においては、前記一次元検出器が前記交差位置に設定された状態で、すべての前記検出素子の検出強度を積算することにより測定対象の蛍光X線の強度を算出して定量分析を行う定量手段を備えるのが好ましい。この場合には、すべての前記検出素子の検出強度を積算して測定対象の蛍光X線の強度を算出することにより、高計数率で高精度の主成分分析ができる。
【0016】
本発明においては、前記交差位置が、前記検出素子の配列方向が前記分光素子における分光角度方向に対して直交する直交位置、および、前記検出素子の配列方向が前記分光素子における分光角度方向に対して所定の角度で斜交する単一の斜交位置のいずれか一方であるのが好ましい。この場合には、前記交差位置が直交位置および単一の斜交位置のいずれか一方であって、前記一次元検出器が、受光面への集光2次X線の投影像との関係で最適な位置に設定され得るので、集光2次X線強度を最大限に検出でき、より高計数率で高精度の主成分分析ができる。
【0017】
本発明においては、前記一次元検出器の受光面が矩形であり、前記交差位置が、前記一次元検出器の受光面の対角線方向が前記分光素子における分光角度方向に対して直交する対角線位置であるのが好ましい。この場合には、前記交差位置が、多くの場合に集光2次X線強度を効率よく検出できる対角線位置であるので、より簡単な構成によって高計数率で高精度の主成分分析ができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態である波長分散型蛍光X線分析装置を示す概略図である。
図2】平行位置に設定された一次元検出器における受光面を示す図である。
図3】直交位置である交差位置に設定された一次元検出器における受光面を示す図である。
図4】交差位置に設定された一次元検出器および受光スリットを示す図である。
図5】直交位置である交差位置における、集光2次X線の投影像と検出素子の配列を示す図である。
図6】斜交位置である交差位置における、集光2次X線の投影像と検出素子の配列を示す図である。
図7】対角線位置であり、斜交位置である交差位置における、集光2次X線の投影像と検出素子の配列を示す図である。
図8】対角線位置であり、斜交位置である交差位置における、集光2次X線の投影像と検出素子の配列を示す別の図である。
図9】平行位置に設定された一次元検出器においてピーク領域とバックグラウンド領域とにある検出素子を示す図である。
図10】測定対象元素を多量に含む試料とブランク試料との測定スペクトルを重ね合わせたスペクトルについてピーク領域とバックグラウンド領域とを示す図である。
図11】1つの試料の測定スペクトルについてピーク測定領域とバックグラウンド測定領域とを示す図である。
図12】蛍光X線スペクトルとバックグラウンドスペクトルとを模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態である波長分散型蛍光X線分析装置について図面にしたがって説明する。図1に示すように、この装置は、試料Sに1次X線1を照射するX線源2と、試料Sから発生した2次X線4を通過させる発散スリット5と、発散スリット5を通過した2次X線4を分光して集光する分光素子6と、直線状に配列された複数の検出素子7(図2、3参照)を有し、2次X線4が分光素子7で集光された集光2次X線42の光軸に対して受光面が垂直である単一の一次元検出器10とを備えた集中光学系の波長分散型蛍光X線分析装置であって、一次元検出器10の位置について、検出素子7の配列方向が分光素子6における分光角度方向となる平行位置と、検出素子7の配列方向が分光素子6における分光角度方向に対して交差する交差位置とのいずれかに、変更自在に設定する検出器位置変更機構11を備える。
【0020】
一次元検出器10が平行位置に設定された状態では、一次元検出器10の受光面が集光2次X線42の焦点に位置する(図1に示す状態)とともに、前述したように、図2に示すように検出素子7の配列方向が分光素子6における分光角度方向となっており、例えば、75μmの間隔で第1番の検出素子7から第256番の検出素子7までが分光角度の小さい位置(図2における左側、図1における斜め上側。なお、図2、9においては図1の紙面奥側から一次元検出器の受光面を見ているので、図1とは左右関係が逆転している。)から順に直線状に配列されている。
【0021】
一次元検出器10が交差位置に設定された状態では、図4に示すように、分光素子6における分光角度方向に対して長手方向が直交する開口を有する受光スリット9が、集光2次X線42の焦点に配置され、一次元検出器10の受光面は、受光スリット9よりも分光素子6から離れた集光2次X線42の進行方向側に位置する(図4では、検出器位置変更機構11において受光スリット9が配置される部分を破断して示している)。それとともに、前述したように、図3に示すように検出素子7の配列方向が分光素子6における分光角度方向に対して交差している。
【0022】
さらに、図1のこの装置は、検出素子7の配列方向における位置と検出素子7の検出強度との関係を測定スペクトルとして表示器15に表示する測定スペクトル表示手段14と、検出素子7の配列方向において、測定対象の蛍光X線に対応する検出素子7の領域であるピーク領域と、測定対象の蛍光X線のバックグラウンドに対応する検出素子7の領域である複数のバックグラウンド領域とが操作者により設定される検出領域設定手段16と、一次元検出器10が平行位置に設定された状態で、ピーク領域にある検出素子7の検出強度を積算したピーク強度、バックグラウンド領域ごとに検出素子7の検出強度を積算したバックグラウンド強度、および、あらかじめ入力されたバックグラウンド除去係数kに基づいて、ネット強度Inetとして測定対象の蛍光X線の強度を算出して定量分析を行う定量手段17とを備える。
【0023】
また、定量手段17は、一次元検出器10が交差位置に設定された状態で、すべての検出素子7の検出強度を積算することにより測定対象の蛍光X線の強度を算出して定量分析を行う。測定スペクトル表示手段14、検出領域設定手段16および定量手段17は、この波長分散型蛍光X線分析装置を制御する、例えばコンピュータである制御手段18に含まれる。
【0024】
検出器位置変更機構11は、例えば、集光2次X線42の光軸を軸心として一次元検出器10を回転させる、手動またはモーター駆動の回転機構12と、集光2次X線42の光軸方向に一次元検出器10をスライドさせる、手動またはモーター駆動のスライド機構13とを有し、この検出器位置変更機構11を用いることにより、一次元検出器10が平行位置と交差位置とのいずれかに設定される。検出器位置変更機構11は、回転機構12およびスライド機構13を有する機構に限られず、例えば、波長分散型蛍光X線分析装置に一次元検出器10を取り付けるためのねじ孔を平行位置と交差位置のそれぞれに対応する位置に設けたねじ止め機構であってもよい。
【0025】
交差位置については、本発明では、検出素子7の配列方向と分光素子6における分光角度方向との交差角度が相異なる複数の交差位置を設けてもよいが、本実施形態の装置では、交差位置は、検出素子7の配列方向が分光素子6における分光角度方向に対して直交する直交位置、および、検出素子7の配列方向が分光素子6における分光角度方向に対して所定の角度で斜交する(直角以外の角度で交差する)単一の斜交位置のいずれか一方である。
【0026】
ここで、交差位置においては、交差位置における検出素子7の配列方向と分光素子6における分光角度方向との交差角度が、集光2次X線42が入射する検出素子7の数が最多となる角度であって、かつ、一次元検出器10の受光面を含む(含んで広がる)平面における集光2次X線42の投影面積のうち一次元検出器10の受光面からはみ出す部分の投影面積が最小となる角度であることが好ましい。
【0027】
例えば、一次元検出器10の位置を設定しようとする分光系において、一次元検出器10の受光面を含む平面における集光2次X線42の投影像19の長さ(長手方向の寸法)が、検出素子7の配列方向における受光面の長さ以下の場合には、図5に示すように、交差位置を直交位置とするのが好ましい。一次元検出器10が直交位置に設定された状態では、図3に示すように、第1番の検出素子7から第256番の検出素子7までが、分光素子6における分光角度方向に対して直交する方向に、図3における下側または上側から順に配列される。
【0028】
また例えば、一次元検出器10の位置を設定しようとする分光系において、一次元検出器10の受光面を含む平面における集光2次X線42の投影像19の長さが、検出素子7の配列方向における受光面の長さよりも長い場合には、図6〜8に示すように、交差位置を斜交位置とし、図6、7のように一次元検出器10の受光面を含む平面における集光2次X線42の投影像19が受光面からぎりぎりはみ出さないか、図8のようにはみ出す部分が最小となるようにするのが好ましい。なお、図示と理解の容易のため、図5〜8では、図2、3よりも検出素子7の個数を少なくして示している。
【0029】
このように、交差位置を直交位置および単一の斜交位置のいずれか一方とすると、一次元検出器10が、受光面への集光2次X線42の投影像19との関係で最適な位置に設定され得るので、集光2次X線強度を最大限に検出でき、より高計数率で高精度の主成分分析ができる。
【0030】
一次元検出器10の受光面が矩形である場合には、交差位置を上述のように直交位置および単一の斜交位置のいずれか一方とすることに代えて、図7、8に示すように、交差位置を、一次元検出器10の受光面の対角線方向が分光素子6における分光角度方向に対して直交する対角線位置としてもよい。この場合には、交差位置が、多くの場合に集光2次X線強度を効率よく検出できる対角線位置となるので、より簡単な構成によって高計数率で高精度の主成分分析ができる。
【0031】
次に、一次元検出器10が平行位置に設定された状態での本実施形態の装置の動作について説明する。一次元検出器10が平行位置に設定されると、検出素子7の配列方向が分光素子6における分光角度方向となり、図9に示すように、75μmの間隔で第1番の検出素子7から第256番の検出素子7までが分光角度の小さい位置(図9における左側)から順に直線状に配列される。
【0032】
さて、本発明における必須の構成要件ではないが、本実施形態の装置は、測定スペクトル表示手段14を備え、操作者がピーク領域およびバックグラウンド領域を設定するにあたり、検出領域設定手段16とともに用いられる。例えば、測定スペクトル表示手段14により、図10に示す測定スペクトルが表示器15に表示される。
【0033】
図10では、測定対象元素を多量に含む試料Sおよびブランク試料Sの測定スペクトルが重ね合わされて表示されている。重ね合わせたスペクトルが比較しやすいように測定対象元素を多量に含む試料Sの強度を小さくして表示している。この測定スペクトルにおいて、横軸は検出素子7の配列方向における位置であり、検出素子番号、分光素子6の分光角度、エネルギー値で表示してもよい(図11、12においても同様)。縦軸は検出素子7の検出強度である。測定対象元素を多量に含む試料Sで測定された蛍光X線のスペクトルPSが破線で、ブランク試料Sで測定されたバックグラウンドスペクトルBSが実線で示され、横軸方向において、ピーク領域PA、第1バックグラウンド領域BA、第2バックグラウンド領域BAが示されている。
【0034】
図10において、各領域BA,PA,BAにおける各スペクトルPS,BS以下の部分(各スペクトルPS,BSと横軸の間の部分で、スペクトルBSについては3本の黒い棒状の部分、スペクトルPSについては中央の黒い棒状の部分をさらに破線で延長した部分)の面積が、スペクトルPS,BSに対応する試料Sについて各領域BA,PA,BAにある検出素子7によって検出された検出強度に相当する。図10では、測定対象元素を多量に含む試料Sについては、ピーク領域PAにある検出素子7によって検出された検出強度I、ブランク試料Sについては、第1バックグラウンド領域BAにある検出素子7によって検出された検出強度IB1、ピーク領域PAにある検出素子7によって検出された検出強度I、第2バックグラウンド領域BAにある検出素子7によって検出された検出強度IB2が読み取れる。なお、測定スペクトル表示手段14により表示器15に表示されるのは、各スペクトルPS,BSと横軸方向における各領域BA,PA,BAであって、上述した各検出強度に相当する部分については、必ずしも表示されるわけではない。
【0035】
表示された測定スペクトルに基づいて、操作者によって検出領域設定手段16から、例えば、第123番から第129番の検出素子7をピーク領域PAの蛍光X線強度測定用に、第106番から第112番の検出素子7を第1バックグラウンド領域BAのバックグラウンド測定用に、第140番から第146番の検出素子7を第2バックグラウンド領域BAのバックグラウンド測定用に、それぞれ設定される。これらの検出素子7の設定は、検出領域設定手段16に記憶される。このように、表示された測定スペクトルに基づいて、最適なピーク領域PAおよび最適なバックグラウンド領域BA,BAを設定することができる。なお、測定スペクトル表示手段14を用いずに、例えば同型の他の波長分散型蛍光X線分析装置で得られた測定スペクトルに基づいて、検出領域設定手段16からピーク領域PAおよびバックグラウンド領域BA,BAを設定してもよい。
【0036】
ピーク領域PA、第1バックグラウンド領域BAおよび第2バックグラウンド領域BAが検出領域設定手段16にそれぞれ設定されると、分光角度がθの2次X線41(図9における中央)の強度がピーク領域PAにある検出素子7によって、分光角度がθよりも小さい2次X線41(図9における左側)の強度が第1バックグラウンド領域BAにある検出素子7によって、分光角度がθよりも大きい2次X線41(図9における右側)の強度が第2バックグラウンド領域BAにある検出素子7によって、それぞれ検出されることになる。なお、図9においては、分光角度が上述のように相異なる3つの集光2次X線42を、それぞれの光軸上の2次X線41で代表させて示している。
【0037】
分析対象の試料Sが測定されると、定量手段17は、下記の式(1)および式(2)に基づいて、ピーク強度Iからピーク領域のバックグラウンド強度Iを適切に差し引き、測定対象の蛍光X線のネット強度Inetを算出して定量分析を行う。
【0038】
net=I−I …(1)
=k(IB1+IB2) …(2)
net:測定対象の蛍光X線の算出されたネット強度
:ピーク領域にある検出素子(第123番から第129番の検出素子)の検出強度を積算したピーク強度
:ピーク領域のバックグラウンド強度
B1:第1バックグラウンド領域にある検出素子(第106番から第112番の検出素子)の検出強度を積算したバックグラウンド強度
B2:第2バックグラウンド領域にある検出素子(第140番から第146番の検出素子)の検出強度を積算したバックグラウンド強度
k:バックグラウンド除去係数
【0039】
バックグラウンド除去係数kは、ブランク試料Sを測定することにより、下記の式(3)に基づいて求められ、あらかじめ定量手段17に入力されている。
【0040】
k=I/(IB1+IB2) …(3)
:ブランク試料についてピーク領域にある検出素子(第123番から第129番の検出素子)の検出強度を積算したピーク強度
B1:ブランク試料について第1バックグラウンド領域にある検出素子(第106番から第112番の検出素子)の検出強度を積算したバックグラウンド強度
B2:ブランク試料について第2バックグラウンド領域にある検出素子(第140番から第146番の検出素子)の検出強度を積算したバックグラウンド強度
【0041】
バックグラウンド除去係数kは、下記の式(4)の検量線式を用い回帰計算で検量線定数を求めるときに同時に求めてもよい。
【0042】
W=A(I−k(IB1+IB2))+B …(4)
W:試料中の測定対象元素の含有率
A、B:検量線定数
【0043】
このように、本実施形態の装置によれば、一次元検出器10が平行位置に設定された状態で、実際に発生しているバックグラウンド強度に比べて強度が低く測定されるバックグラウンドについて正しく補正するとともに、ピーク強度Iとバックグラウンド強度IB1,IB2とを同時に測定するので、高速に正確なネット強度Inetを求める高精度の定量分析ができる。
【0044】
上記の例では、2つのバックグラウンド領域BA,BAで測定してバックグラウンドを除去したが、1つまたは3つ以上のバックグラウンド領域BAで測定してもよい。また、上記の例では、設定する検出素子7の個数について、ピーク領域PA、第1バックグラウンド領域BAおよび第2バックグラウンド領域BAにある検出素子7の個数を同数にしたが、相異なる個数であってもよい。
【0045】
さらに、上述した測定対象元素を多量に含む試料Sとブランク試料Sとの測定スペクトルを重ね合わせた測定スペクトルに代えて、測定対象の蛍光X線のスペクトルとバックグラウンドスペクトルとが観察できる1つの試料Sによる、図11に示す測定スペクトルを用いてもよい。図11では、この1つの試料Sについて、第1バックグラウンド領域BAにある検出素子7によって検出された検出強度IB1、ピーク領域PAにある検出素子7によって検出された検出強度I、第2バックグラウンド領域BAにある検出素子7によって検出された検出強度IB2が読み取れる。
【0046】
次に、一次元検出器10が交差位置に設定された状態での本実施形態の装置の動作について説明する。一次元検出器10が交差位置に設定されると、検出素子7の配列方向が分光素子6における分光角度方向に対して交差する。そして、定量手段17が、すべての検出素子7の検出強度を積算することにより測定対象の蛍光X線の強度を算出して定量分析を行う。1つの検出素子7の最大計数率は、例えば1Mcpsであるので、256個の検出素子7を有する一次元検出器10を使用した場合、256Mcpsまでの計数率で測定することができる。実際の測定強度は最大でも20Mcps程度であるため10倍以上計数率の余裕がある。
【0047】
このように、本実施形態の装置によれば、一次元検出器10が交差位置に設定された状態で、すべての検出素子7の検出強度を積算して測定対象の蛍光X線の強度を算出することにより、高計数率で高精度の主成分分析ができる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の波長分散型蛍光X線分析装置によれば、一次元検出器10の位置について、検出素子7の配列方向が分光素子6における分光角度方向となる平行位置と、検出素子7の配列方向が分光素子6における分光角度方向に対して交差する交差位置とのいずれかに、変更自在に設定するための検出器位置変更機構11を備えるので、高速に正確なネット強度Inetを求める高精度の定量分析と、高計数率で高精度の主成分分析との両方を簡単な構成で迅速にできる。
【符号の説明】
【0049】
1 1次X線
2 X線源
4 2次X線
5 発散スリット
6 分光素子
7 検出素子
9 受光スリット
10 一次元検出器
11 検出器位置変更機構
16 検出領域設定手段
17 定量手段
42 集光2次X線
BA,BA バックグラウンド領域
PA ピーク領域
S 試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12