(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-57344(P2018-57344A)
(43)【公開日】2018年4月12日
(54)【発明の名称】可食性皮膜組成物及び可食性皮膜組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/00 20160101AFI20180316BHJP
【FI】
A23L5/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-198818(P2016-198818)
(22)【出願日】2016年10月7日
(71)【出願人】
【識別番号】000118615
【氏名又は名称】伊那食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】埋橋 祐二
(72)【発明者】
【氏名】栗原 昌和
(72)【発明者】
【氏名】落 俊行
(72)【発明者】
【氏名】寺沢 亮
【テーマコード(参考)】
4B025
4B035
4B041
【Fターム(参考)】
4B025LD00
4B025LK02
4B035LC16
4B035LE06
4B035LE20
4B035LG15
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4B035LP24
4B041LD01
4B041LD03
4B041LH05
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4B041LK21
4B041LK31
4B041LK42
(57)【要約】
【課題】ガスバリア性、ヒートシール性及び引張強度に優れた可食性皮膜組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ハイドロコロイドとセルロースナノファイバーと水とを少なくとも含有し、含水率が30質量%以下であることを特徴とする可食性皮膜組成物である。また、ハイドロコロイドとセルロースナノファイバーと水とを少なくとも含有する原料溶液を、含水率が30質量%以下となるように乾燥させることを特徴とする可食性皮膜組成物の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロコロイドとセルロースナノファイバーと水とを少なくとも含有し、含水率が30質量%以下であることを特徴とする可食性皮膜組成物。
【請求項2】
前記ハイドロコロイドは、アルギン酸、アルギン酸塩、カラギナン、寒天、ペクチン、ゼラチン、タマリンドシードガム、キサンタンガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、カシアガム、ゼラチン、アラビアガム、アラビノガラクタン、カードラン、プルラン、グルコマンナン、ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、澱粉、加工澱粉、デキストリン、キチン、キトサン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩、メチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1に記載の可食性皮膜組成物。
【請求項3】
前記セルロースナノファイバーは、平均繊維幅が0.5〜500nmの範囲内であり、平均繊維長が0.1μm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の可食性皮膜組成物。
【請求項4】
フィルム、シート、帯状物、組み紐及びカプセルからなる群より選択される形態を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の可食性皮膜組成物。
【請求項5】
酸素透過性が10.0mL/m2・day以下であり、ヒートシール強度が2.1N/15mm以上であり、引張強度が20MPa以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の可食性皮膜組成物。
【請求項6】
ハイドロコロイドとセルロースナノファイバーと水とを少なくとも含有する原料溶液を、含水率が30質量%以下となるように乾燥させることを特徴とする可食性皮膜組成物の製造方法。
【請求項7】
前記原料溶液に含まれるセルロースナノファイバーが、前記原料溶液全体の質量に対して0.01〜50質量%の範囲内であることを特徴とする請求項6に記載の可食性皮膜組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可食性皮膜組成物及び可食性皮膜組成物に関し、特に、ハイドロコロイドを成分の1つとして含有する可食性皮膜組成物及び可食性皮膜組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性多糖類を主剤とした可食性皮膜組成物(可食性フィルムなど)は公知であり、代表的なものとしては澱粉を主剤としたオブラート、プルラン又は澱粉を主剤とした冷水で溶解するフィルム、カラギナンを主剤とする熱水で溶解するフィルムなどの水溶性フィルムが挙げられる(例えば、特許文献1〜4)。
【0003】
例えば、特許文献1には、カラギナンを主成分とする多糖類と多価アルコールと水とを主成分とするヒートシール可能な可食性フィルムが記載されている。また、特許文献2には、澱粉を主成分とし、アルギン酸ナトリウムとカルシウムイオンを含む可食性フィルムが記載されている。また、特許文献3には、ホモ多糖類及びヘテロ多糖類から選ばれる多糖類とスクラロースとを含むフィルム状甘味組成物が記載されている。特許文献4には、γ−ポリグルタミン酸と水溶性高分子から形成されるフィルムに有機酸とリゾチームとを含有させた口腔衛生用可食性フィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−308760号公報(請求項1など)
【特許文献2】特開2004−248665号公報(請求項1など)
【特許文献3】特許第4982669号公報(段落0005など)
【特許文献4】特開2007−326808号公報(請求項1など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの文献に記載された可食性フィルムは、カラギナンやアルギン酸ナトリウムなどのハイドロコロイドを主成分としており、適度の強度を保持しつつ口腔内で容易に崩壊して食することができる特性を有している。
【0006】
しかしながら、従来のハイドロコロイドの物性では、要求される様々な用途に使用するには限界がある。例えば従来のハイドロコロイド製のフィルムでは、プラスチックフィルムのような引張強度が得られないために、機械耐性が劣り、製品の量産化ができないという不都合があった。また、従来のハイドロコロイド製のフィルムは、プラスチックフィルムと比べてヒートシール強度が低いために、袋状やカプセル状に加工しても破袋やシール不良を起こしやすいという不都合もあった。さらに、ハイドロコロイド製のフィルムは、通気性が高いため、種々の用途で要求される高いガスバリア性を満たすことが難しいという面もあった。
【0007】
本発明は、ガスバリア性、ヒートシール性及び引張強度に優れた可食性皮膜組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ハイドロコロイドにセルロースナノファイバーを配合することすることで、ガスバリア性等に優れた可食性皮膜組成物となることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、ハイドロコロイドとセルロースナノファイバーと水とを少なくとも含有し、含水率が30質量%以下であることを特徴とする可食性皮膜組成物である。
【0010】
この場合において、前記ハイドロコロイドは、アルギン酸、アルギン酸塩、カラギナン、寒天、ペクチン、ゼラチン、タマリンドシードガム、キサンタンガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、カシアガム、ゼラチン、アラビアガム、アラビノガラクタン、カードラン、プルラン、グルコマンナン、ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、澱粉、加工澱粉、デキストリン、キチン、キトサン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩、メチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種類であることが好ましい。
【0011】
また、前記セルロースナノファイバーは、平均繊維幅が0.5〜500nmの範囲内であり、平均繊維長が0.1μm以上であることが好適である。
【0012】
さらにまた、上記の場合において、フィルム、シート、帯状物、組み紐及びカプセルからなる群より選択される形態を有することが好ましい。
【0013】
さらに、酸素透過性が10.0mL/m
2・day以下であり、ヒートシール強度が2.1N/15mm以上であり、引張強度が20MPa以上であることが好ましい。
【0014】
本発明は、ハイドロコロイドとセルロースナノファイバーと水とを少なくとも含有する原料溶液を、含水率が30質量%以下となるように乾燥させることを特徴とする可食性皮膜組成物の製造方法である。
【0015】
この場合において、前記原料溶液に含まれるセルロースナノファイバーが、前記原料溶液全体の質量に対して0.01〜50質量%の範囲内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ガスバリア性、ヒートシール性及び引張強度に優れた可食性皮膜組成物及びその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.可食性皮膜組成物
以下、本発明の可食性皮膜組成物について説明する。本発明の可食性皮膜組成物は、ハイドロコロイドとセルロースナノファイバーと水とを少なくとも含有し、含水率が30質量%以下である。そして、本発明の可食性皮膜組成物は、ガスバリア性、ヒートシール性、引張強度などの面で優れた性質を有する。以下、各成分について詳細に説明する。
【0018】
(1)ハイドロコロイド
ハイドロコロイドは、本発明の可食性皮膜組成物を構成する成分の1つであり、水に溶解する性質を有している。ハイドロコロイドの具体例としては、可食性皮膜組成物が使用される目的や、使用対象の食品物性などにより任意のものを使用することができる。
【0019】
このようなハイドロコロイドとしては、例えば、アルギン酸、アルギン酸塩、カラギナン、寒天、ペクチン、ゼラチン、タマリンドシードガム、キサンタンガム、グアーガム、タラガム、ローカストビーンガム、カシアガム、ゼラチン、アラビアガム、アラビノガラクタン、カードラン、プルラン、グルコマンナン、ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム、澱粉、加工澱粉、デキストリン、キチン、キトサン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシメチルセルロース塩、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、その他のセルロース誘導体などを挙げることができる。これらのハイドロコロイドは、1種類のみ用いてもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。
【0020】
可食性皮膜組成物に含まれるハイドロコロイドの含有量は、最終的な可食性皮膜組成物の重量に対して1〜90質量%の範囲内が好ましく、10〜80質量%の範囲内がより好ましい。ハイドロコロイドの含有量が1質量%と下回ると、十分な強度が得られにくい傾向がある。一方、ハイドロコロイドの含有量が90質量%を上回ると、セルロースナノファイバーの比率が相対的に小さくなって十分なガスバリア性、ヒートシール強度、引張強度が得られにくくなるほか、ハイドロコロイド溶液の粘性が高くなるため、作製した可食性皮膜組成物においても糊状感を感じやすく食感において違和感が生じやすい。
【0021】
(2)セルロースナノファイバー
セルロースナノファイバーは、食物繊維をナノオーダーまで細かく解きほぐした繊維素材である。一般に、セルロースナノファイバーは、線熱膨張係数が小さく、弾性率が高いという性質を有しており、硬くて丈夫という特徴がある。また、セルロースナノファイバーは、食物由来の材料であることから、環境負荷が小さいという特徴もある。
【0022】
本発明のセルロースナノファイバーの平均繊維幅(「平均繊維径」ともいう)は、特に制限はなく、ナノオーダー(すなわち1000nm未満)であれば問題ないが、通常は0.5〜500nmの範囲内であり、好ましくは1〜50nmの範囲内である。
【0023】
また、セルロースナノファイバーの平均繊維長は、特に制限はないが、通常は0.1μm以上であり、好ましくは1μm以上である。また、セルロースナノファイバーの平均繊維長の上限についても特に制限はないが、通常は1cm以下であり、好ましくは1mm以下である。
【0024】
セルロースナノファイバーの原料は、セルロースが含まれるものであれば特に制限はないが、例えば、木材、わら(麦、稲ほか)、茎(とうもろこし、綿花ほか)、サトウキビ、バガス、竹、綿、ケナフ、食品残渣など植物資源を原料としたものを挙げることができる。
【0025】
セルロースナノファイバーの製造方法は、特に限定されないが、ホモジナイザーや摩砕機などを用いて物理的にミクロフィブリル化する方法や、バクテリアにより生物的に産出する方法などを挙げることができる。なお、ミクロフィブリルカによりセルロースナノファイバーを製造する方法においては、ミクロフィブリル化前に化学的に薬品処理を施してもよい。
【0026】
可食性皮膜組成物に含まれるセルロースナノファイバーの含有量は、最終的な可食性皮膜組成物の重量に対して0.1〜50質量%の範囲内が好ましく、1〜25質量%の範囲内がより好ましい。セルロースナノファイバーの含有量が0.1質量%と下回ると、十分なガスバリア性、ヒートシール強度、引張強度が得られにくくなるほか、ハイドロコロイド溶液の粘性が高くなるため、作製した可食性皮膜組成物においても糊状感を感じやすく食感において違和感が生じやすい。一方、セルロースナノファイバーの含有量が50質量%を上回ると、可食性皮膜組成物の柔軟性が低くなり、取り扱いにくくなりやすい。
【0027】
(3)その他の成分
可食性皮膜組成物には、従来の可食性皮膜組成物を製造する時に使用される他の成分を配合してもよい。このような他の成分としては、例えば、グリセリン、色素、香料などを挙げることができる。その他の成分の含有量は、可食性皮膜組成物の全体量に対して、70質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。
【0028】
(4)含水率
可食性皮膜組成物は、含水率が30質量%以下であり、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下である。含水率が30質量%を超えると、可食性皮膜組成物の水分量が多くなりすぎて粘性などが高くなり、取扱いが困難になりやすい。可食性皮膜組成物の含水率の下限は、特に制限はないが、通常は1質量%以上であり、好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上である。可食性皮膜組成物の含水率が1質量%を下回ると、組成物の柔軟性が劣りやすくなる。
【0029】
(5)可食性皮膜組成物の特性
可食性皮膜組成物の酸素透過性は、通常は10.0mL/m
2・day以下であり、8.0mL/m
2・day以下が好ましく、4.0mL/m
2・day以下が特に好ましい。また、可食性皮膜組成物のヒートシール強度は、通常は2.1N/15mm以上であり、2.5N/15mm以上が好ましく、3.0N/15mm以上が特に好ましい。さらに、可食性皮膜組成物の引張強度は、通常は20MPa以上であり、25MPa以上が好ましく、30MPa以上が特に好ましい。なお、酸素透過性、ヒートシール強度、引張強度は、後述する実施例に記載した方法で測定した値と定義することができる。
【0030】
可食性皮膜組成物の膜厚は、10μm〜250μmの範囲内が好ましく、20μm〜150μmの範囲内がより好ましい。可食性皮膜組成物の膜厚が10μmより薄いと強度が弱くなり、包装材料、食品のセパレーター、結束帯などに使用した場合、破損や断裂などの問題が生じる。可食性皮膜組成物の膜厚が250μmより厚いと柔軟性に欠け、取扱いが困難になりやすい。
【0031】
(6)シール剤
可食性皮膜組成物は、表面にシール剤を積層又は塗布してヒートシール性を付与することができる。シール剤としては、例えばゼラチンや寒天、大豆蛋白質などを挙げることができる。シール剤の積層又は塗布方法は、一般的に行われている方法でよい。積層又は塗布の具体的な方法としては、例えば、作製した可食性皮膜組成物の表面にシール剤溶液をキャスティングして乾燥させたり、スプレーやはけで塗布したりする方法などを挙げることができる。
【0032】
可食性皮膜組成物の表面にシール剤を塗布することにより、可食性皮膜組成物をヒートシールして袋状などに加工することが可能となる。これにより、例えば袋状にした可食性皮膜組成物の袋内に調味料や油などを充填すれば、軽量な容器となり、手を汚すことがなく、水やお湯に即溶解する製品を作製することができる。
【0033】
(7)可食性皮膜組成物の形態
本発明の可食性皮膜組成物の形態は、特に制限はないが、例えば、フィルム、シート、帯状物、組み紐、カプセルなどを挙げることができる。
【0034】
2.可食性皮膜組成物の製造方法
次に、本発明の可食性皮膜組成物の製造方法について説明する。可食性皮膜組成物は、原料となるハイドロコロイドとセルロースナノファイバーと水とを用意し、これらを混合して原料溶液を調整し、この原料溶液を含水率が30質量%以下となるように乾燥させることで製造することができる。
【0035】
原料のハイドロコロイドとセルロースナノファイバーは、いずれも粉末状態でもよく、溶媒に溶解させた溶液状態であってもよい。粉末状態の原料を使用する場合、ハイドロコロイドとセルロースナノファイバーと水とを混合して撹拌することで、原料溶液を調整する。溶液状態の場合は予め水に溶解したハイドロコロイドとセルロースナノファイバーとを混合することで原料溶液を調整する。ハイドロコロイドとセルロースナノファイバーを混合する際の温度は、通常、70〜100℃の範囲内であり、混合時間は1〜60分の範囲内である。
【0036】
原料溶液に含まれるセルロースナノファイバーは、最終的に得られる可食性皮膜組成物に要求される特性等に応じて適宜調整することができる。一般に、セルロースナノファイバーは、原料溶液全体の質量に対して0.01〜50質量%の範囲内となるように添加することが好ましく、0.1〜10質量%の範囲内がより好ましい。
【0037】
調製した原料溶液は、公知の方法で成形形する。可食性皮膜組成物がフィルム状又はシート状である場合、成形方法としては、例えば、キャスティング法、インフレーション法、スプレー法、印刷法などを挙げることができ、キャスティングの場合の支持体としては、PET等のフィルムやステンレス等金属などを挙げることができる。可食性皮膜組成物が帯状物である場合、成形方法としては、上記の方法でフィルム状又はシート状に加工したものを帯状に切断する方法などを挙げることができる。可食性皮膜組成物がカプセルである場合、ロータリーダイを用いたスタンピング法、スプレードライ法などを挙げることができる。カプセルの形状としては、ラウンド型、オーバル型、オブロング型などを挙げることができる。
【0038】
成膜後は乾燥することで可食性皮膜組成物となる。乾燥条件としては、特に制限はないが、通常、乾燥温度は60〜100℃、乾燥時間は10秒〜30分間程度である。
【0039】
3.可食性皮膜組成物の用途
本発明の可食性皮膜組成物の用途としては、特に制限はないが、食品の包装材料、食品を区分するセパレーター、食品を結束する結束帯など好適に使用することができる。包装材料は、食品や菓子などを包装する素材であり、例えば、可溶性コーヒーなどを入れる小袋、キャンディーやチョコレート、チーズなどを包む包装紙などを挙げることができる。また、食品のセパレーターとしては、二以上の食品要素を仕切る素材であり、例えば、ケーキのスポンジと生クリームを仕切る部材、焼き菓子や調理パン、惣菜などの具材と生地との間を仕切る部材などを挙げることができる。また、結束帯は、麺類などを結束する素材であり、例えば、パスタ、そばなどを結束する部材などを挙げることができる。
【0040】
本発明は、上述したように、食べられる素材で、かつ従来の素材における物理的問題点を解決したものであるため、可食性皮膜組成物の用途は一気に広がりを見せることができる。これまでに作り出せなかった新たな製品創造の可能性や、リサイクルされなければ廃棄され環境に大きな負担をかけることになるプラスチック製品の代替にも好適である。また、食品分野のみならず工業分野や農林水産分野への応用も可能である。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。また、以下の実施例において「%」表示は特に規定しない限り重量基準(重量パーセント)である。
【0042】
(原料)
・κカラギナン:伊那食品工業社製 E−150
・寒天:伊那食品工業社製 UP-37
・セルロースナノファイバー(CNF):森林総合研究所製 (繊維幅3nm〜20nm、繊維長1μm以上)
・微結晶セルロース:ダイセル社製 セリッシュFD100F(繊維幅20nm〜60nm、繊維長数μm以上)
・グリセリン:坂本薬品工業社製 食品添加物グリセリン
【0043】
(酸素透過性の測定方法)
JIS−K−7126に準じて測定を行った。
【0044】
(ヒートシール強度の測定方法)
JIS−Z−0238に準じて測定を行った。
【0045】
(引張強度・伸び率の測定方法)
JIS−K−7127に準じて測定を行った。
【0046】
(含水率の測定方法)
作製した可食性皮膜組成物を約1.0g秤量し、80℃の雰囲気下で30分間静置後に重量を測定し、乾燥減量を初期重量で除して100倍した値を含水率とした。
【0047】
(厚みの測定方法)
JIS−K−7130に準じて測定を行った。
【0048】
1.可食性皮膜組成物(可食性フィルム)
表1に示す処方により原料を混合して原料溶液を作製した。次に、原料溶液を支持体上に均一に流延し、原料溶液の凝固点以上で加熱乾燥して、含水率8〜12%で膜厚35μmの可食性皮膜組成物を得た。作製した可食性皮膜組成物を用いて物性の測定を行った。その結果を表2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
可食性皮膜組成物の測定結果から、κカラギナン(ハイドロコロイド)とCNF(セルロースナノファイバー)を含む実施例1〜3では、セルロースナノファイバーを含まない比較例1,2と比べて、酸素透過性、ヒートシール強度、引張強度のいずれにおいても優れることがわかった。
【0052】
2.可食性皮膜組成物(可食性糸)
ハイドロコロイドとして寒天を使用し、上述した「1.可食性皮膜組成物(可食性フィルム)」と同様にして、セルロースなし(比較例3−1)、CNF(実施例4−1)、微結晶セルロース(比較例4−1)の3種類のサンプル(可食性フィルム)を作製した。各セルロースはフィルム固形量の1%を上乗せした。可食性フィルムの膜厚はすべて30μmであった。得られた可食性フィルムの物性を測定した。その結果を表3に示す。なお、測定値はすべて6回の測定値の平均値を採用した。
【0053】
【表3】
【0054】
表3のサンプルを使用し、それぞれのサンプルについて、フィルムを15mm×200mmにカットし、一端を固定した状態で50回転縒り、可食性糸を作製した。得られた可食性糸の物性を測定した。その結果を表4に示す。なお、測定値はすべて6回の測定値の平均値を採用した。
【0055】
【表4】
【0056】
上記の結果から、セルロースナノファイバーを含有する実施例4−1,4−2では、引張強度と伸び率の両方において、セルロースなし(比較例3−1,3−2)よりも優れており、微結晶セルロース(比較例4−1,4−2)と同等か優れていることがわかった。
【0057】
3.可食性膜組成物(ソフトカプセル)
表5に示す処方により原料を混合した。詳細には、表5に示す成分を溶解タンクの中の水に撹拌しながら少量ずつ加え均一に分散させ、その後80℃〜98℃で撹拌しながら加温し、ダマが発生しないように溶解した。溶解後に脱泡を行い、原料溶液を得た。得られた原料溶液を用いて常法に従いソフトカプセル皮膜を得た。皮膜の厚さは400μmであった(乾燥前)。得られた皮膜からスタンピング法によりソフトカプセルを作製し、評価を行った。その結果を表6に示す。
【0058】
【表5】
【0059】
【表6】
【0060】
上記の結果から、ハイドロコロイドとセルロースナノファイバーと水とを含有する実施例5−1〜5−4では、ソフトカプセルを成型できたが、セルロースナノファイバーを含有していない比較例5−1〜5−5では、ソフトカプセルを成型できなかった。