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特開2018-60945可撓性永久磁石の製造方法、可撓性永久磁石、変形検出センサ及び変形検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-60945(P2018-60945A)
(43)【公開日】2018年4月12日
(54)【発明の名称】可撓性永久磁石の製造方法、可撓性永久磁石、変形検出センサ及び変形検出方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/02 20060101AFI20180316BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20180316BHJP
【FI】
   H01F7/02 B
   H01F7/02 E
   H01F41/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-198388(P2016-198388)
(22)【出願日】2016年10月6日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 貴啓
【テーマコード(参考)】
5E062
【Fターム(参考)】
5E062CC04
5E062CD05
5E062CE04
5E062CF01
(57)【要約】
【課題】検出の安定性向上に資する可撓性永久磁石の製造方法、その可撓性永久磁石、それを利用した変形検出センサ及び変形検出方法を提供する。
【解決手段】磁性フィラー2と、磁性フィラー2を分散させて含有した高分子マトリックス層3とを有する可撓性永久磁石の製造方法において、シート状をなす高分子マトリックス層3に圧縮力Pを加えて変形させ、その高分子マトリックス層3を圧縮変形させた状態で磁場を印加し、それによって磁極面の端部に対する中央部の表面磁束密度比を0.95〜1.05とする。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性フィラーと、前記磁性フィラーを分散させて含有した高分子マトリックス層とを有する可撓性永久磁石の製造方法において、シート状をなす前記高分子マトリックス層に外力を加えて変形させ、その高分子マトリックス層を変形させた状態で磁場を印加し、それによって磁極面の端部に対する中央部の表面磁束密度比を0.95〜1.05とすることを特徴とする可撓性永久磁石の製造方法。
【請求項2】
前記外力として厚み方向の圧縮力を加えることにより、その厚み方向の一方側に向かって拡幅するように前記高分子マトリックス層を変形させ、その変形させた高分子マトリックス層の厚み方向に前記磁場を印加する請求項1に記載の可撓性永久磁石の製造方法。
【請求項3】
圧縮率が10%以下となるように前記圧縮力を加える請求項2に記載の可撓性永久磁石の製造方法。
【請求項4】
前記磁性フィラーが前記高分子マトリックス層の厚み方向に偏在している請求項1〜3いずれか1項に記載の可撓性永久磁石の製造方法。
【請求項5】
磁性フィラーと、前記磁性フィラーを分散させて含有した高分子マトリックス層とを有する可撓性永久磁石において、シート状をなす前記高分子マトリックス層の両面で互いに異なる極性の磁極面を備え、前記磁極面の端部に対する中央部の表面磁束密度比が0.95〜1.05であることを特徴とする可撓性永久磁石。
【請求項6】
0.5〜40MPaの弾性率を有する請求項5に記載の可撓性永久磁石。
【請求項7】
前記磁性フィラーが前記高分子マトリックス層の厚み方向に偏在している請求項5または6に記載の可撓性永久磁石。
【請求項8】
請求項5〜7いずれか1項に記載の可撓性永久磁石と、前記高分子マトリックス層の変形に伴う磁場の変化を検出可能に構成された検出器とを備えた変形検出センサ。
【請求項9】
請求項5〜7いずれか1項に記載の可撓性永久磁石を被検出体に貼り付け、前記高分子マトリックス層の変形に伴う前記磁場の変化を検出器で検出することにより、前記被検出体の変形を検出する変形検出方法。
【請求項10】
前記被検出体が密閉型二次電池である請求項9に記載の変形検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性フィラーを分散させて含有した高分子マトリックス層を有する可撓性永久磁石の製造方法に関し、更には、その可撓性永久磁石、それを利用した変形検出センサ及び変形検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される密閉型二次電池(以下、単に「二次電池」と呼ぶことがある)は、携帯電話やノートパソコンなどのモバイル機器だけでなく、電気自動車やハイブリッド車といった電動車両用の電源としても利用されている。二次電池を構成するセルは、正極と負極をそれらの間にセパレータを介して捲回または積層してなる電極群と、その電極群を収容する外装体とを備える。一般に、外装体には、アルミラミネート箔などのラミネートフィルムや、円筒型または角型の金属缶が用いられる。
【0003】
現在、二次電池の変形を検出し、その結果に基づいて諸々の解析や判定、制御などに役立てる技術が検討されている。例えば、本出願人による特許文献1では、組電池を構成する2つ以上の二次電池の変形を変形検出センサによって検出し、特定の二次電池に異常が発生したことを判定する技術が提案されている。この変形検出センサは、磁性フィラーを分散させて含有した高分子マトリックス層を有する可撓性永久磁石と、それに対向して配置される検出器とを備え、二次電池に貼り付けた高分子マトリックス層の変形に伴う磁場の変化を検出器で検出し、それに基づいて二次電池の変形を検出する。
【0004】
通常、検出器は、可撓性永久磁石の磁極面の中央部に対向するようにして配置されるが、従来の可撓性永久磁石は、磁極面の端部と中央部とで表面磁束密度が大きく変化するため、振動などにより位置ずれを生じた際に感度がぶれる傾向にあり、検出の安定性を向上するには、これを改善する余地があることが判明した。このような表面磁束密度の傾向は、可撓性永久磁石が、両面で互いに異なる極性の磁極面を備えたシート状の単極着磁磁石として形成されていることに起因するが(図1,2参照)、上述のような用途において、かかる磁石の形態は避けがたいという実状がある。
【0005】
特許文献2には、ゴム磁石シートの製造に関し、マトリックス中で分散した磁性粉を高温で磁場配向させ、その磁場方向と直交する方向にゴム磁石シートを圧縮したまま冷却し、その圧縮を解除して脱磁した後にゴム磁石シートを加硫し、得られた加硫済みシートを着磁する技術が記載されている。しかし、これは、磁場の配向状態を保持するための手法であり、検出の安定性に関する上記問題を解決しうるものではない。
【0006】
特許文献3には、アクチュエータのトルクを向上させるため、平面部に複数の磁極を形成して磁力線を集束させた永久磁石が記載されている。しかし、この永久磁石を作製するには、複雑な構造を有する着磁ヨークを用いて多極着磁を行う必要があるため、製造コストが高くなる傾向にある。もとより、この永久磁石は、アクチュエータ用磁気回路に用いられる焼結磁石であり、可撓性を有するものではなく、検出の安定性に関する上記問題を解決しうるものでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016−27539号公報
【特許文献2】特開2006−156423号公報
【特許文献3】特開2001−76925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、検出の安定性向上に資する可撓性永久磁石の製造方法、その可撓性永久磁石、それを利用した変形検出センサ及び変形検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る可撓性永久磁石の製造方法は、磁性フィラーと、前記磁性フィラーを分散させて含有した高分子マトリックス層とを有する可撓性永久磁石の製造方法において、シート状をなす前記高分子マトリックス層に外力を加えて変形させ、その高分子マトリックス層を変形させた状態で磁場を印加し、それによって磁極面の端部に対する中央部の表面磁束密度比を0.95〜1.05とするものである。この方法では、外力を加えて高分子マトリックス層を変形させた状態で磁場を印加するため、その外力を除去して元の形状に戻したときに磁力線の向きを変えられる。これを利用することで、磁極面の端部と中央部とで表面磁束密度が略同等な可撓性永久磁石が得られ、検出の安定性向上に資することができる。
【0010】
前記外力として厚み方向の圧縮力を加えることにより前記高分子マトリックス層を変形させ、その変形させた高分子マトリックス層の厚み方向に前記磁場を印加することが好ましい。この方法によれば、より簡易な作業によって所望の可撓性永久磁石が得られる。この場合、圧縮率が10%以下となるように前記圧縮力を加えることが望ましい。
【0011】
前記磁性フィラーが前記高分子マトリックス層の厚み方向に偏在していることが好ましい。この場合、磁性フィラーの少ない領域が柔軟になるので、外力を加えたときに高分子マトリックス層を変形させやすい。
【0012】
本発明に係る可撓性永久磁石は、磁性フィラーと、前記磁性フィラーを分散させて含有した高分子マトリックス層とを有する可撓性永久磁石において、シート状をなす前記高分子マトリックス層の両面で互いに異なる極性の磁極面を備え、前記磁極面の端部に対する中央部の表面磁束密度比が0.95〜1.05であるものである。この可撓性永久磁石は、磁極面の端部と中央部とで表面磁束密度が略同等であるため、検出の安定性向上に資する。可撓性永久磁石は、0.5〜40MPaの弾性率を有することが好ましい。
【0013】
本発明に係る変形検出センサは、上述した可撓性永久磁石と、前記高分子マトリックス層の変形に伴う磁場の変化を検出可能に構成された検出器とを備える。この変形検出センサは、磁極面の端部と中央部とで表面磁束密度が略同等な可撓性永久磁石を備えることから、検出の安定性に優れる。
【0014】
本発明に係る変形検出方法は、上述した可撓性永久磁石を被検出体に貼り付け、前記高分子マトリックス層の変形に伴う前記磁場の変化を検出器で検出することにより、前記被検出体の変形を検出するものである。この変形検出方法は、磁極面の端部と中央部とで表面磁束密度が略同等な可撓性永久磁石を使用するため、検出の安定性に優れる。前記被検出体は、例えばリチウムイオン二次電池に代表される密閉型二次電池であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】通常の単極着磁を施した可撓性永久磁石を模式的に示す断面図
図2図1の磁石の表面磁束密度の測定結果を示すグラフ
図3】可撓性永久磁石の前駆体を模式的に示す断面図
図4】本発明によって可撓性永久磁石を製造する様子を模式的に示す断面図
図5】本発明に係る可撓性永久磁石の一例を模式的に示す断面図
図6図5の磁石の表面磁束密度の測定結果を示すグラフ
図7】密閉型二次電池を模式的に示す(a)斜視図と(b)A−A断面図
図8】圧縮力を加えたときの高分子マトリックス層を模式的に示す断面図
図9】圧縮力を加えたときの高分子マトリックス層を模式的に示す断面図
図10】比較例1における表面磁束密度の測定結果を示すグラフ
図11】比較例2における表面磁束密度の測定結果を示すグラフ
図12】実施例1における表面磁束密度の測定結果を示すグラフ
図13】実施例2における表面磁束密度の測定結果を示すグラフ
図14】実施例3における表面磁束密度の測定結果を示すグラフ
図15】実施例4における表面磁束密度の測定結果を示すグラフ
図16】実施例5における表面磁束密度の測定結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
まずは、参照のために、通常の単極着磁により製造した可撓性永久磁石の断面を図1に示す。可撓性永久磁石91は、磁性フィラー92と、その磁性フィラー92を分散させて含有した高分子マトリックス層93とを有する。この磁石91は、シート状をなす高分子マトリックス層93の両面で互いに異なる極性の磁極面を備えた単極着磁磁石として形成され、磁性フィラー92は高分子マトリックス層93の厚み方向に沿って一律に着磁されている。なお、図面は模式的に描かれており、実際には磁石91の断面に対してもっと小さい磁性フィラー92が細かく分散している(他の断面図においても同じ)。
【0017】
直径20mm、厚み1mmの円形シート状をなす磁石91に対する表面磁束密度の測定結果を図2に示す。グラフの横軸は、磁石91の径方向(幅方向)位置であり、0mm及び20mmがそれぞれ端位置に相当する。表面磁束密度は、N極面である磁極面から厚み方向に2mm離れた位置での測定値であり、具体的には実施例の測定方法に準ずる。図2のように、この磁石91では、磁極面の端部と中央部とで表面磁束密度が比較的大きく変化しており、その磁極面の端部に対する中央部の表面磁束密度比は0.70である。この傾向は磁石の形状が薄くて平たいほど強くなると考えられる。このことは、後述のような被検出体の変形を検出するうえで不利であり、検出の安定性を高めるためには、これを更に改善する余地がある。
【0018】
そこで、本実施形態では、シート状をなす高分子マトリックス層に外力を加えて変形させ(外力付与工程)、その高分子マトリックス層を変形させた状態で磁場を印加し(着磁工程)、それによって磁極面の端部と中央部との表面磁束密度を略同等にして、具体的には磁極面の端部に対する中央部の表面磁束密度比を0.95〜1.05とする。この方法では、外力を加えて高分子マトリックス層を変形させた状態で磁場を印加するため、その外力を除去して元の形状に戻したときに磁力線の向きを変えられる。これを利用することで表面磁束密度を調整し、その磁極面の端部と中央部とで表面磁束密度が略同等な可撓性永久磁石が得られ、検出の安定性向上に資することができる。また、複雑な構造を有する着磁ヨークなどを用いる必要がなく、製造コストが抑えられる。以下、より具体的に説明する。
【0019】
図3は、可撓性永久磁石の前駆体の断面を示す。この前駆体10は、シート状をなす高分子マトリックス層3中に磁性フィラー2を分散させて含有している。磁性フィラー2は未だ着磁されておらず、前駆体10は磁力を有していない。この前駆体10に磁場を印加して磁性フィラー2を着磁することにより、磁性フィラー2と、その磁性フィラー2を分散させて含有した高分子マトリックス層3とを有する可撓性永久磁石が得られる。前駆体10は、磁性フィラー2とエラストマー成分からなるマトリックス材料とを攪拌・混合して前駆体溶液を調製する工程(調製工程)と、その前駆体溶液を硬化させる工程(硬化工程)とを経て成形される。
【0020】
図3の前駆体10において、この状態のまま厚み方向(図3の上下方向)に磁場を印加した場合には、図1の如き磁石91が得られるに過ぎない。そこで、本実施形態では、磁場を印加するに際して、シート状をなす高分子マトリックス層3に外力を加えて変形させる。図4では、外力として厚み方向の圧縮力Pを加えることにより高分子マトリックス層3を変形させており、その変形させた高分子マトリックス層3の厚み方向に磁場を印加している。この高分子マトリックス層3の変形は、弾性変形である。本実施形態において、圧縮力Pを加えられた高分子マトリックス層3は、その厚み方向の一方側(図4では下側)に向かって拡幅(拡径)するように変形している。
【0021】
本実施形態では、外力が加えられていない自然状態において、高分子マトリックス層3の断面形状が長方形状をなし(図3参照)、その両面が互いに同じ面積を有する。図4のように厚み方向の一方側に向かって拡幅するように変形させた状態では、その断面形状は台形状となる。矢印MDは、着磁方向(磁化方向)を示しており、これは逆向きであっても構わない。図示を省略しているが、高分子マトリックス層3の周辺には着磁装置が配置されており、例えば、その着磁装置が備える一対のヨークで高分子マトリックス層3を挟み込むことによって圧縮力Pを加えることができる。着磁装置には、例えば電子磁気工業株式会社製の「ES−10100−15SH」や株式会社玉川製作所製の「TM−YS4E」を用いることができる。通常、1〜8Tの磁場を印加する。
【0022】
図4の工程を経て製造された可撓性永久磁石を図5に示し、直径20mm、厚み1mmの円形シート状をなす該磁石に対する表面磁束密度の測定結果を図6に示す。表面磁束密度の測定方法等は図2のグラフと同じである。図6のように、この磁石1では、磁極面1a(本実施形態ではN極面)の端部と中央部との表面磁束密度が略同等である。その磁極面の端部に対する中央部の表面磁束密度比は、0.95〜1.05の範囲内となる1.01である。これは、圧縮力Pを除去して元の形状に戻したときに磁性フィラー2の向きが変わることに伴い、外力が加えられていない自然状態において、磁極面1aの中央部が面する空間に向かって磁力線が集束し、その結果、磁極面1aの端部と中央部とで表面磁束密度が均一化されたためであると考えられる。
【0023】
上記の表面磁束密度比は、磁極面の中央部での表面磁束密度を、その磁極面の端部での表面磁束密度で除することにより得られ、0.95〜1.05の範囲内に設定されるが、更に小さい0.95〜1.00の範囲内でもよい。磁極面の端部での表面磁束密度には、その磁極面における幅方向(径方向)の端位置から中央位置に向かって幅寸法(直径)の15%の範囲内での最も高い値が用いられる。また、磁極面の中央部での表面磁束密度には、その磁極面における幅方向(径方向)の中央位置を中心とした幅寸法(直径)の30%の範囲内での最も高い値が用いられる。なお、端部と中央部との表面磁束密度が略同等になるのは片側の磁極面となり、本実施形態の該磁極面1aはN極面であるが、着磁方向MDを逆向きにした場合はS極面となる。したがって、N極面とS極面の何れでも表面磁束密度の均一化を図ることが可能である。
【0024】
磁場を印加するに際しては、圧縮率が10%以下となるように圧縮力Pを加えることが好ましい。圧縮率は、高分子マトリックス層3における変形前の厚みをT、その変形後の厚みをTとして、(T−T)/Tの式により求められる。圧縮率を10%以下とすることにより、端部と中央部との表面磁束密度を略同等にしやすく、これが10%を超えた場合には、端部よりも中央部での表面磁束密度が高くなる傾向にある。また、圧縮率は0%を超え、高分子マトリックス層3を適度に変形させるうえで、圧縮率は2%を超えることが好ましい。厚みTは、例えば0.5〜20mmであり、より好ましくは1〜5mmである。
【0025】
本実施形態では、磁性フィラー2が高分子マトリックス層3の厚み方向に偏在している磁石1を例示する。高分子マトリックス層3は、磁性フィラー2が相対的に少ない一方側の領域からなる第一層31と、磁性フィラー2が相対的に多い他方側の領域からなる第二層32との二層構造を有し、それらの境界面を破線によって概念的に描いている。端部と中央部との表面磁束密度が略同等な磁極面1aは第一層31により形成され、その反対側の磁極面1bは第二層32により形成されている。
【0026】
磁性フィラー2の少ない第一層31は、比較的柔軟で動きやすい。このため、図4のように外力を加えたときに、第一層31が大きく変形し、それに第二層32が追随するようにして高分子マトリックス層3を簡単に変形させることができる。また、磁性フィラー2の多い第二層32では、高分子マトリックス層3の変形に対する磁場の変化が大きくなるため、検出の感度を高めるうえで有利であり、例えば、後述のように二次電池の変形を検出する場面では低い内圧に対するセンサ感度が高められる。磁性フィラーを偏在させる場合において、実施例の測定方法に準じて求められるフィラー偏在率は、0.55以上が好ましく、0.6以上がより好ましい。
【0027】
上記の如き偏在構造を有する磁石1は、磁性フィラー2が高分子マトリックス層3の厚み方向に偏在している前駆体10(図3,4参照)を用いることで得られる。かかる前駆体10は、例えば、エラストマー成分からなるマトリックス材料に磁性フィラー2を導入した後、室温あるいは所定の温度で静置し、その磁性フィラーの重さにより自然沈降させる方法により成形でき、その静置する温度や時間を変化させることでフィラー偏在率を調整できる。あるいは、遠心力や磁力のような物理的な力を利用して磁性フィラーを偏在させても構わない。
【0028】
図4では、圧縮力Pを加えられた高分子マトリックス層3において、第一層31と第二層32の各々が厚み方向の一方側に向かって拡幅(拡径)した例を示したが、これに限られない。フィラー偏在率や摩擦力などの条件によっては、図7,8のように変形することもあり得るが、上述のようにして磁極面の端部と中央部との表面磁束密度が略同等な永久磁石が得られる限り、このような変形でも構わない。図4,7及び8の何れの場合においても、第二層32と比べて第一層31の方が幅方向(径方向)外側に大きく張り出している。また、第二層32では、第一層31と接する側(下側)が、その反対側(上側)と比べて幅方向(径方向)外側に大きく張り出している。
【0029】
本実施形態では、高分子マトリックス層に外力を加えて圧縮変形させた例を示したが、磁極面の端部に対する中央部の表面磁束密度比を0.95〜1.05にしうるものであれば、これに限られない。例えば、高分子マトリックス層に外力を加えて弓形に曲げ変形させ、その高分子マトリックス層を変形させた状態で磁場を印加し、それによって磁極面の端部に対する中央部の表面磁束密度比を0.95〜1.05にするものでもよい。
【0030】
図5に示した可撓性永久磁石1は、磁性フィラー2と、磁性フィラー2を分散させて含有した高分子マトリックス層3とを有する。この磁石1は、シート状をなす高分子マトリックス層3の両面で互いに異なる極性の磁極面を備え、単極着磁磁石として形成されている。図6のように、磁極面1aの端部と中央部との表面磁束密度が略同等で、その端部に対する中央部の表面磁束密度比は0.95〜1.05の範囲内にある。これは、該磁極面の中央部が面する空間に向かって磁力線が集束した結果、磁極面1aの端部と中央部とで表面磁束密度が均一化されたためと考えられる。かかる構成によれば、振動などにより位置ずれを生じても感度がぶれにくく、検出の安定性向上に資することができる。
【0031】
可撓性永久磁石1は、0.5〜40MPaの弾性率を有することが好ましい。弾性率の測定は、具体的には実施例の測定方法に準ずる。弾性率が0.5MPa以上であることにより、自らの磁力による変形を防いで、磁石の形状を良好に保持することができる。また、弾性率が40MPa以下であることにより、外力を加えたときに高分子マトリックス層を変形させやすい。これが40MPaを超えていると、高分子マトリックス層を変形させたときに亀裂などが生じる恐れがある。
【0032】
既述のように、本実施形態では、磁性フィラー2が高分子マトリックス層3の厚み方向に偏在しており、高分子マトリックス層3は第一層31と第二層32とを有する。第一層31は、磁性フィラー2と気泡を含有する発泡体で形成されていてもよく、それにより高分子マトリックス層3をより容易く変形できる。また、第二層32が発泡体で形成されていてもよく、高分子マトリックス層3の全体が発泡体で形成されていてもよい。発泡体としては、一般の樹脂フォームを用いることができるが、圧縮永久歪などの特性を考慮すると、ポリウレタン樹脂フォームやシリコーン樹脂フォームなどの熱硬化性樹脂フォームを用いることが好ましい。
【0033】
磁性フィラー2としては、フェライト、アルニコ、サマリウムコバルト、ネオジムが例示される。磁性フィラー2の形状は、特に限定されるものではなく、球状、扁平状、針状、柱状および不定形のいずれであってもよい。磁性フィラー2の平均粒径は、好ましくは0.02〜500μm、より好ましくは0.1〜400μm、更に好ましくは0.5〜300μmである。平均粒径が0.02μmより小さいと、磁性フィラー2の磁気特性が低下する傾向にあり、平均粒径が500μmを超えると、磁石1の機械的特性が低下して脆くなる傾向にある。
【0034】
高分子マトリックス層3は、エラストマー成分からなるマトリックス材料により形成され、該マトリックス材料としては、ゴム、ポリウレタン、シリコーン、ポリエチレン、塩ビ、ナイロンが例示される。磁性フィラー2の量は、エラストマー成分100重量部に対して、好ましくは1〜450重量部、より好ましくは2〜400重量部である。これが1重量部より少ないと、磁場の変化を検出することが難しくなる傾向にあり、450重量部を超えると、磁石1が脆くなる場合がある。
【0035】
エラストマー成分としては、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマーまたはそれらの混合物を用いることができる。熱可塑性エラストマーとしては、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、ポリイソプレン系熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。また、熱硬化性エラストマーとしては、例えばポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリクロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム等のジエン系合成ゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ポリウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム等の非ジエン系合成ゴム、および天然ゴム等を挙げることができる。このうち好ましいのは熱硬化性エラストマーであり、これは電池の発熱や過負荷に伴うエラストマーのへたりを抑制できるためである。更に好ましくは、ポリウレタンゴム(ポリウレタンエラストマーともいう)またはシリコーンゴム(シリコーンエラストマーともいう)である。
【0036】
ポリウレタンエラストマーは、活性水素含有化合物とイソシアネート成分とを反応させることにより得られる。ポリウレタンエラストマーをエラストマー成分として用いる場合、活性水素含有化合物と磁性フィラーとを混合し、ここにイソシアネート成分を混合させて混合液を得る。また、イソシアネート成分に磁性フィラーを混合し、活性水素含有化合物を混合させることで混合液を得ることも出来る。いずれの方法であっても、磁性フィラーを活性水素含有化合物およびイソシアネート成分を含む高分子マトリックス前駆体と混合して混合液を調整する。シリコーンエラストマーをエラストマー成分として用いる場合、シリコーンエラストマーの前駆体に磁性フィラーを入れて混合して混合液を調整できる。なお、必要に応じて溶剤を添加してもよい。
【0037】
ポリウレタンエラストマーに使用できるイソシアネート成分としては、ポリウレタンの分野において公知の化合物を使用できる。例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートを挙げることができる。これらは1種で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。また、イソシアネート成分は、ウレタン変性、アロファネート変性、ビウレット変性、及びイソシアヌレート変性等の変性化したものであってもよい。好ましいイソシアネート成分は、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジシソシアネート、より好ましくは2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネートである。
【0038】
活性水素含有化合物として、ポリウレタンの分野において公知の化合物を使用できる。例えば、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体等に代表されるポリエーテルポリオール、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート、3−メチル−1,5−ペンタンアジペートに代表されるポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカプロラクトンのようなポリエステルグリコールとアルキレンカーボネートとの反応物などで例示されるポリエステルポリカーボネートポリオール、エチレンカーボネートを多価アルコールと反応させ、次いで得られた反応混合物を有機ジカルボン酸と反応させたポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリヒドロキシル化合物とアリールカーボネートとのエステル交換反応により得られるポリカーボネートポリオール等の高分子量ポリオールを挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
活性水素含有化合物として上述した高分子量ポリオール成分の他に、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、テトラメチロールシクロヘキサン、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、スクロース、2,2,6,6−テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサノール、及びトリエタノールアミン等の低分子量ポリオール成分、エチレンジアミン、トリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、ジエチレントリアミン等の低分子量ポリアミン成分を用いてもよい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。更に、4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)(MOCA)、2,6−ジクロロ−p−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンビス(2,3−ジクロロアニリン)、3,5−ビス(メチルチオ)−2,4−トルエンジアミン、3,5−ビス(メチルチオ)−2,6−トルエンジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,4−ジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミン、トリメチレングリコール−ジ−p−アミノベンゾエート、ポリテトラメチレンオキシド−ジ−p−アミノベンゾエート、1,2−ビス(2−アミノフェニルチオ)エタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、N,N’−ジ−sec−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラエチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトライソプロピルジフェニルメタン、m−キシリレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、及びp−キシリレンジアミン等に例示されるポリアミン類を混合することもできる。好ましい活性水素含有化合物は、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体、3−メチル−1,5−ペンタンアジペート、より好ましくはポリプロピレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体である。
【0040】
ポリウレタンエラストマーを用いる場合、そのNCO indexは、好ましくは0.3〜1.2、より好ましくは0.35〜1.1、更に好ましく0.4〜1.05である。NCO indexが0.3より小さいと、エラストマーの硬化が不十分になる傾向にあり、NCO indexが1.2より大きいと、弾性率が高くなり、センサ感度が低下する傾向にある。
【0041】
図9に示した密閉型二次電池6には、その二次電池6の変形を検出するための変形検出センサ5が装着されている。変形検出センサ5は、被検出体としての二次電池6に貼り付けられる可撓性永久磁石1と、高分子マトリックス層3の変形に伴う磁場の変化を検出可能に構成された検出器4とを備える。二次電池6が膨れなどの変形を生じると、それに応じて高分子マトリックス層3が変形し、その高分子マトリックス層3の変形に伴う磁場の変化が検出器4によって検出される。このようにして、二次電池6の変形を高感度に配線レスで検出できる。
【0042】
本実施形態の二次電池6は、密閉された外装体61の内部に電極群62が収容されたセル(単電池)として構成されている。電極群62は、正極と負極がそれらの間にセパレータを介して積層または捲回された構造を有し、セパレータには電解液が保持されている。二次電池6は、外装体61としてアルミラミネート箔などのラミネートフィルムを用いたラミネート電池であり、具体的には容量1.44Ahのラミネート型リチウムイオン二次電池である。図示を省略しているが、複数の二次電池6により構成された組電池が筐体60に収容されている。
【0043】
図9の例では、二次電池6の外装体61の外面に磁石1を貼り付けているため、外装体61の変形(主に膨れ)に応じて高分子マトリックス層3を変形させることができる。磁石1は、外装体61の内面に貼り付けても構わない。あるいは、電極群62に磁石1を貼り付けてもよく、かかる構成によれば、電極群62の変形(主に膨れ)に応じて高分子マトリックス層3を変形させることができる。検出する二次電池6の変形は、外装体61及び電極群62の何れの変形であっても構わない。
【0044】
検出器4は、磁場の変化を検出可能な箇所に配置され、好ましくは二次電池6の膨れによる影響を受けにくい比較的堅固な箇所に貼り付けられる。本実施形態では、図9(b)のように筐体60の内面に検出器4を貼り付けている。電池モジュールの筐体60は、例えば金属またはプラスチックにより形成され、ラミネートフィルムが用いられる場合もある。図面上、検出器4は、高分子マトリックス層3と近接して配置されているが、高分子マトリックス層3から離して配置しても構わない。
【0045】
検出器4には、例えば、磁気抵抗素子、ホール素子、インダクタ、MI素子、フラックスゲートセンサなどを用いることができる。磁気抵抗素子としては、半導体化合物磁気抵抗素子、異方性磁気抵抗素子(AMR)、巨大磁気抵抗素子(GMR)、トンネル磁気抵抗素子(TMR)が挙げられる。このうち好ましいのはホール素子であり、これは広範囲にわたって高い感度を有し、検出器4として有用なためである。ホール素子には、例えば旭化成エレクトロニクス株式会社製EQ-432Lが使用できる。
【0046】
被検出体である二次電池6に磁石1を貼り付ける際には、端部と中央部との表面磁束密度が略同等な磁極面1a(を形成する第一層31)を検出器4に向けることにより、検出の安定性を高めることができる。検出器4は、好ましくは磁極面の中央部に対向するようにして配置される。この磁石1では、磁極面1aの端部と中央部との表面磁束密度が略同等であるため、振動などにより位置ずれを生じても感度がぶれにくく、検出の安定性を高めることができる。
【0047】
検出器4から出力された検出信号は不図示の制御装置に送られ、設定値以上の磁場の変化が検出器4により検出された場合には、その制御装置に接続された不図示のスイッチング回路が通電を遮断し、充電電流または放電電流を停止する。かかる構成によれば、二次電池の変形を検出した結果に基づいて、二次電池の破裂などのトラブルを未然に防ぐことができる。
【0048】
本実施形態では、密閉型二次電池がリチウムイオン二次電池である例を示したが、これに限られない。使用される二次電池は、リチウムイオン電池などの非水系電解液二次電池に限られず、ニッケル水素電池などの水系電解液二次電池であっても構わない。また、被検出体は、密閉型二次電池に限られない。
【0049】
本実施形態では、可撓性永久磁石を二次電池の変形検出に用いた例を示したが、これに限られるものではなく、近接センサやモータなど他の用途において、磁極面の端部よりも中央部での表面磁束密度が高い上記の可撓性永久磁石を使用することもできる。
【0050】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【実施例】
【0051】
本発明の構成と効果を具体的に示す実施例について説明する。
【0052】
比較例1
高分子マトリックス層となるマトリックス材料として、後述のシリコーンエラストマー(「SE1740」)を使用し、磁性フィラーが高分子マトリックス層の厚み方向に偏在した前駆体を成形した。その前駆体に磁場を印加する際、高分子マトリックス層を圧縮することなく(圧縮率0%)、通常の単極着磁により可撓性永久磁石を製造した。着磁は、着磁装置(株式会社玉川製作所製、TM−YS4E)を用いて2.0Tで実施した。
【0053】
SE1740を用いた上記前駆体の成形工程は、次の通りである。DOW CORNING(R) SE1740A(東レ・ダウコーニング製、シリコーン)100重量部に、MQP-14-12(モリコープ・マグネクエンチ社製、ネオジム系フィラー、平均粒径50μm)466.7重量部を添加し、フィラー分散液を調製した。これにDOW CORNING(R) SE1740B(東レ・ダウコーニング製、シリコーン)100重量部を加えて、自転・公転ミキサー(シンキー社製)にて混合、脱泡し、磁性フィラーを含有する反応液を調製した。この反応液を離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム上に滴下し、ドクターブレードにて厚み2.0mmに調整した。これを室温にて5分間静置して偏在処理した後、90℃で15時間硬化を行って、磁性フィラーが高分子マトリックス層の厚み方向に偏在した前駆体を成形した。
【0054】
比較例2
高分子マトリックス層となるマトリックス材料として、後述のシリコーンエラストマー(「SilGel612」)を使用し、磁性フィラーが高分子マトリックス層内で殆ど偏在していない前駆体を成形した。その前駆体に磁場を印加する際、高分子マトリックス層を圧縮することなく(圧縮率0%)、通常の単極着磁により可撓性永久磁石を製造した。着磁は、前記着磁装置を用いて2.0Tで実施した。
【0055】
SilGel612を用いた上記前駆体の成形工程は、次の通りである。WACKER SilGel612A(旭化成ワッカーシリコーン製、シリコーン)140重量部に、MQP-14-12(モリコープ・マグネクエンチ社製、ネオジム系フィラー、平均粒径50μm)560重量部を添加し、フィラー分散液を調製した。これにWACKER SilGel612B(旭化成ワッカーシリコーン製、シリコーン)100重量部を加えて、自転・公転ミキサー(シンキー社製)にて混合、脱泡し、磁性フィラーを含有する反応液を調製した。この反応液を離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム上に滴下し、ドクターブレードにて厚み2.0mmに調整した。これを90℃で15時間硬化を行って、磁性フィラーが高分子マトリックス層内で殆ど偏在していない前駆体を成形した。
【0056】
実施例1
高分子マトリックス層となるマトリックス材料として、後述の自社製ポリウレタンエラストマー(「ポリウレタンA」)を使用し、磁性フィラーが高分子マトリックス層の厚み方向に偏在した前駆体を成形した。その前駆体に磁場を印加する際、高分子マトリックス層を圧縮し(圧縮率5%)、図4の如き単極着磁により可撓性永久磁石を製造した。着磁は、前記着磁装置を用いて2.0Tで実施した。
【0057】
ポリウレタンAを用いた上記前駆体の成形工程は、次の通りである。反応容器に、EXCENOL3030(旭硝子製、ポリオキシプロピレングリコール、OH価56、官能基数3)85.2重量部を入れ、撹拌しながら減圧脱水を1時間行った。その後、反応容器内を窒素置換した。次いで、反応容器にコスモネートT−80(三井化学製、トルエンジイソシアネート、2,4体=80%)14.8重量部を添加して、反応容器内の温度を80℃に保持しながら5時間反応させてイソシアネート末端プレポリマー(NCO%=3.58%)を合成した。EXCENOL3030(旭硝子製、ポリオキシプロピレングリコール)189.8重量部およびジラウリン酸ジブチル錫(ナカライテスク製)0.26重量部の混合液に、MQP-14-12(モリコープ・マグネクエンチ社製、ネオジム系フィラー、平均粒径50μm)676.2重量部を添加し、フィラー分散液を調製した。このフィラー分散液を減圧脱泡し、同様に減圧脱泡した上記プレポリマー100重量部を添加して、自転・公転ミキサー(シンキー社製)にて混合、脱泡し、磁性フィラーを含有する反応液を調製した。この反応液を離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム上に滴下し、ドクターブレードにて厚み2.0mmに調整した。これを室温にて15分間静置して偏在処理した後、80℃で15時間硬化を行って、磁性フィラーが高分子マトリックス層の厚み方向に偏在した前駆体を成形した。
【0058】
実施例2
高分子マトリックス層となるマトリックス材料として、SE1740を使用し、磁性フィラーが高分子マトリックス層の厚み方向に偏在した前駆体を成形した。その前駆体に磁場を印加する際、高分子マトリックス層を圧縮し(圧縮率5%)、図4の如き単極着磁により可撓性永久磁石を製造した。着磁は、前記着磁装置を用いて2.0Tで実施した。
【0059】
実施例3
高分子マトリックス層となるマトリックス材料として、後述の自社製ポリウレタンエラストマー(「ポリウレタンB」)を使用し、磁性フィラーが高分子マトリックス層の厚み方向に偏在した前駆体を成形した。その前駆体に磁場を印加する際、高分子マトリックス層を圧縮し(圧縮率5%)、図4の如き単極着磁により可撓性永久磁石を製造した。着磁は、前記着磁装置を用いて2.0Tで実施した。
【0060】
ポリウレタンBを用いた上記前駆体の成形工程は、次の通りである。ポリウレタンAと同じ要領により、イソシアネート末端プレポリマーを合成した。EXCENOL3030(旭硝子製、ポリオキシプロピレングリコール)106.8重量部およびジラウリン酸ジブチル錫(ナカライテスク製)0.19重量部の混合液に、MQP-14-12(モリコープ・マグネクエンチ社製、ネオジム系フィラー、平均粒径50μm)482.4重量部を添加し、フィラー分散液を調製した。このフィラー分散液を減圧脱泡し、同様に減圧脱泡した上記プレポリマー100.0重量部を添加して、自転・公転ミキサー(シンキー社製)にて混合、脱泡し、磁性フィラーを含有する反応液を調製した。この反応液を離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム上に滴下し、ドクターブレードにて厚み2.0mmに調整した。これを室温にて15分間静置して偏在処理した後、80℃で15時間硬化を行って、磁性フィラーが高分子マトリックス層の厚み方向に偏在した前駆体を成形した。
【0061】
実施例4,5
前駆体に磁場を印加する際の圧縮率を異ならせたこと以外は、実施例2と同じ条件により可撓性永久磁石を製造した。
【0062】
各例の磁石に対し、以下の方法によりフィラー偏在率、弾性率、表面磁束密度、及び、特性安定性を測定した。それらの測定結果を表1に示す。図10〜16は、それぞれの表面磁束密度の測定結果を示すグラフである。グラフの横軸は、磁石の径方向位置であり、5mm及び25mmがそれぞれ端位置に相当する。
【0063】
[フィラー偏在率]
走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置(SEM−EDS)(SEM:日立ハイテクノロジーズ社製S−3500N、EDS:堀場製作所製EMAX モデル7021−H)を用いて、加速電圧25kV、真空度50Pa、WD15mmの条件にて、磁石の断面を50倍で観察し、その断面の厚み方向の全域と、その断面を厚み方向に二等分した2つの領域に対し、それぞれ元素分析により磁性フィラー固有のFe元素の存在量を求め、その全域での存在量に対する、磁性フィラーが相対的に多い領域での存在量の比率をフィラー偏在率として算出した。
【0064】
[弾性率]
オートグラフAG−X(島津製作所社製)を用いて、室温下で、圧縮速度0.1mm/minにて圧縮試験を行った。試験片には、厚み2mm、直径10mmの直円柱形の可撓性永久磁石を用いた。なお、24〜26%歪みにおける応力値から圧縮弾性率を求めた。
【0065】
[表面磁束密度]
直径20mm、厚み2mmの可撓性永久磁石の磁極面から2mm離れた位置の表面磁束密度を測定した。該磁極面は、N極面であり、磁性フィラーが偏在している場合は、磁性フィラーが相対的に少ない一方側の領域からなる第一層の表面である。測定にはマグネットアナライザー(IMS社製MTS)を用いた。磁極面の中央部での表面磁束密度は、その磁極面の径方向の中央位置を中心とした直径6mmの範囲内での最も高い値とし、磁極面の端部での表面磁束密度は、その磁極面の径方向の端位置から中央位置に向かって3mmの範囲内での最も高い値とした。
【0066】
[特性安定性]
直径20mm、厚み2mmの可撓性永久磁石をステンレス板の一方側の面に貼り付けるとともに、その磁石の磁極面の中央部にセンサ中心が対向するようにして、検出器であるホール素子(旭化成エレクトロニクス社製、EQ−432L)をステンレス板の他方側の面に貼り付けた。上記ステンレス板を振動試験機に設置し、振動数200Hz、振幅0.8mm(全振幅1.6mm)の正弦波を与えて振動試験を行った。正弦波は互いに垂直な3方向からそれぞれ3時間ずつ印加した。この振動試験の前後で、50mm×50mmの面圧子を用いて磁石に圧力を印加し、22.5%歪み時における20%歪み時に対する磁束密度の変化を測定した。振動試験前後の磁束密度変化の差の絶対値を、試験前の磁束密度変化で除した値に100を乗じた値を、特性安定性とした。測定回数は10回とし、その平均値を算出した。数値が小さいほど検出の安定性に優れるものと評価される。
【0067】
【表1】
【0068】
比較例1,2では、いずれも磁極面の端部と中央部とで表面磁束密度が大きく変化しているのに対し、実施例1〜5では、いずれも磁極面の端部と中央部とで表面磁束密度が略同等である。実施例1〜5では、それぞれ比較例1,2よりも特性安定性が低いことから、振動試験により永久磁石と検出器(ホール素子)とが多少の位置ずれを生じても磁束密度変化の大きさが大きく変化しない、即ち検出の安定性に優れる、と評価できる。
【符号の説明】
【0069】
1 可撓性永久磁石
2 磁性フィラー
3 高分子マトリックス層
4 検出器
5 変形検出センサ
6 密閉型二次電池
10 前駆体
31 第一層
32 第二層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16