(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-622(P2018-622A)
(43)【公開日】2018年1月11日
(54)【発明の名称】気管チューブ、膨張性カフ、及び封止部材
(51)【国際特許分類】
A61M 16/04 20060101AFI20171208BHJP
【FI】
A61M16/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-132702(P2016-132702)
(22)【出願日】2016年7月4日
(71)【出願人】
【識別番号】591173198
【氏名又は名称】学校法人東京女子医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100157185
【弁理士】
【氏名又は名称】吉野 亮平
(72)【発明者】
【氏名】森岡 宣伊
(72)【発明者】
【氏名】永井 美玲
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 眞
(72)【発明者】
【氏名】八木 高伸
(72)【発明者】
【氏名】石井 裕之
(72)【発明者】
【氏名】高西 淳夫
(72)【発明者】
【氏名】戸部 泰貴
(57)【要約】
【課題】気管チューブのカフに適用することによって、気管の喉頭側の気管内の空間と、主気管支側の気管内の空間との間を完全に遮断することができ、不顕性誤嚥、ひいては誤嚥性肺炎を予防することができる気管チューブ、バルーンカフ、及び封止部材を提供する。
【解決手段】人工呼吸器用の気管チューブ1は、所定の長さを有するチューブ3と、このチューブ3の外面に取り付けられた膨張性カフ5と、この膨張性カフ5の外面に密着して取り付けられた封止部材9を備え、封止部材9は、膨張性カフ5の膨張時に、膨張性カフ5の外面と、気管の内面との間を気密に封止し、かつ膨張性カフの収縮時に、膨張性カフ5の外面に密着したまま変形することを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工呼吸器用の気管チューブであって、
所定の長さを有するチューブと、
このチューブの外面に取り付けられた膨張性カフと、
この膨張性カフの外面に密着して取り付けられた封止部材を備え、
前記封止部材は、膨張性カフの膨張時に、前記膨張性カフの外面と、気管の内面との間を気密に封止し、かつ前記膨張性カフの収縮時に、前記膨張性カフの外面に密着したまま変形することを特徴とする、気管チューブ。
【請求項2】
人工呼吸器用の気管チューブの外面に取り付けられる膨張性カフであって、
膨張性カフの外面に密着して取り付けられた封止部材を備え、
前記封止部材は、膨張性カフの膨張時に、前記膨張性カフの外面と、気管の内面との間を気密に封止し、かつ前記膨張性カフの収縮時に、前記膨張性カフの外面に密着したまま変形することを特徴とする、膨張性カフ。
【請求項3】
人工呼吸器用の気管チューブの外面に取り付けられる膨張性カフに用いられる封止部材であって、
膨張性カフの外面に密着して取り付けられるように構成され、膨張性カフの膨張時に、前記膨張性カフの外面と、気管の内面との間を気密に封止し、かつ前記膨張性カフの収縮時に、前記膨張性カフの外面に密着したまま変形することを特徴とする、封止部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気管チューブ、膨張性カフ、及び封止部材に関し、特に、誤嚥性肺炎を予防することができる気管チューブ、膨張性カフ、及び封止部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自力呼吸が困難な患者や、全身麻酔が施された患者に対して、人工呼吸器を用いて患者の呼吸を補助することが行われている。人工呼吸器を用いて患者の呼吸を補助するためには、患者の気管よりも径が小さい気管チューブを患者の気管に挿管し、患者の気管に直接、空気の送排出を行う。
【0003】
また、人工呼吸器を用いているケースでは、患者の咳反射や嚥下反射が低下している場合があり、このような場合には、患者が自身の力で気管内への細菌の侵入を防止することができず、唾液と共に細菌が気管内に入り込む不顕性誤嚥が発生してしまうことがあった。そして、不顕性誤嚥が発生すると、誤嚥性肺炎を発症する場合があった。
【0004】
そして、挿管時の不顕性誤嚥を防止し、誤嚥性肺炎を防止することを目的として、気管チューブに膨張性のバルーン又はカフを設けた気管チューブが開発されている(例えば、特許文献1)。特許文献1の気管チューブでは、気管チューブの外壁に膨張性のカフを設けることにより、気管チューブの外壁と患者の気管の内壁との間のスペースを無くし、気管の喉頭側から主気管支側に向けて細菌が侵入するのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−540922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたような、プラスチック製の膨張性カフは、内部に空気を導入して膨張させたときに、常に一定の形状をとるため径や外形が常に一定である。そうすると、特許文献1に記載されたような膨張性カフでは、複雑な形状を有する患者の気管の表面に上手く適合した形状とならない場合があった。そして、例えば、患者の気管の径が、カフの外径よりも著しく小さい場合、又はカフが位置決めされた位置の気管表面の凹凸が大きい場合、カフ内に空気を導入してもカフが完全に拡張せず、カフの外面に皺がある状態で気管チューブが気管内に固定されてしまう。そして、カフの外面に皺があると、カフの気管の喉頭側の気管内の空間と、主気管支側の気管内の空間との間を完全に遮断することができず、細菌が喉頭側から主気管支側に侵入してしまう、という問題があった。
【0007】
そこで本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、気管チューブのカフに適用することによって、気管の喉頭側の気管内の空間と、主気管支側の気管内の空間との間を完全に遮断することができ、不顕性誤嚥、ひいては誤嚥性肺炎を予防することができる気管チューブ、バルーンカフ、及び封止部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は、人工呼吸器用の気管チューブであって、所定の長さを有するチューブと、このチューブの外面に取り付けられた膨張性カフと、この膨張性カフの外面に密着して取り付けられた封止部材を備え、前記封止部材は、膨張性カフの膨張時に、前記膨張性カフの外面と、気管の内面との間を気密に封止し、かつ前記膨張性カフの収縮時に、前記膨張性カフの外面に密着したまま変形することを特徴とする。
【0009】
このように構成された本発明によれば、膨張性カフの外面に封止部材を設けることにより、膨張性カフの膨張時に、封止部材によって膨張性カフの外面と、気管の内面との間を気密に封止することができる。そして、封止部材によって膨張性カフの外面と、気管の内面との間を気密に封止することにより、気管の喉頭側の気管内の空間と、主気管支側の気管内の空間との間を完全に遮断することができ、細菌が主気管側の気管内の空間に侵入するのを防止することができる。
【0010】
また、上述した課題を解決するために、本発明は、人工呼吸器用の気管チューブの外面に取り付けられる膨張性カフであって、膨張性カフの外面に密着して取り付けられた封止部材を備え、前記封止部材は、膨張性カフの膨張時に、前記膨張性カフの外面と、気管の内面との間を気密に封止し、かつ前記膨張性カフの収縮時に、前記膨張性カフの外面に密着したまま変形することを特徴とする。
【0011】
また、上述した課題を解決するために、本発明は、人工呼吸器用の気管チューブの外面に取り付けられる膨張性カフに用いられる封止部材であって、膨張性カフの外面に密着して取り付けられるように構成され、膨張性カフの膨張時に、前記膨張性カフの外面と、気管の内面との間を気密に封止し、かつ前記膨張性カフの収縮時に、前記膨張性カフの外面に密着したまま変形することを特徴とする。
【0012】
このように構成された本発明によっても、膨張性カフの膨張時に、封止部材によって膨張性カフの外面と、気管の内面との間を気密に封止することができる。そして、封止部材によって膨張性カフの外面と、気管の内面との間を気密に封止することにより、気管の喉頭側の気管内の空間と、主気管支側の気管内の空間との間を完全に遮断することができ、細菌が主気管側の気管内の空間に侵入するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、封止部材によって膨張性カフの外面と、気管の内面との間を気密に封止することにより、気管の喉頭側の気管内の空間と、主気管支側の気管内の空間との間を完全に遮断することができ、これにより、不顕性誤嚥、ひいては誤嚥性肺炎を予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態による気管チューブを示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態による膨張性カフの収縮時の状態を示す側面図である。
【
図3】本発明の実施形態による封止部材の断面図である。
【
図4】本発明の実施形態による膨張性カフの使用時における、気管チューブの水平断面の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による気管チューブについて説明する。
図1は、気管チューブを示す斜視図である。
図1に示すように、気管チューブ1は、人工呼吸器に接続されたチューブ3と、チューブ3の外面に取り付けられた膨張性カフ5と、膨張性カフ5への空気の出し入れを行うためのカフ用チューブ7と、封止部材9とを備えている。
【0016】
チューブ3は、一端が、人工呼吸器の呼気/吸気ポートに連結されており、他端は、所定のベベル角を有する開口端をなしている。そしてチューブ3の外面には、膨張性カフ5が取り付けられている。
【0017】
膨張性カフ5は、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、シリコンのようなプラスチック製のバルーンであり、その内部空間は、気管から完全に遮断されている。そして、膨張性カフ5の内部空間には、カフ用チューブ7が連結されている。そして、このカフ用チューブ7を通じて膨張性カフ5の内部空間に空気を流入させ、又は内部空間から空気を吸引して、膨張性カフ5を膨張させたり、収縮させたりするように構成されている。
【0018】
封止部材9は、例えば樹脂製のリング状部材であり、膨張性カフ5の膨張時、及び収縮時の何れの場合にも、そのリングの内側部分が膨張性カフ5の外面に密着するように、膨張性カフ5の外面に接着されている。封止部材9を膨張性カフ5の外面に接着させるためには、例えばシリコン接着剤等、人体に無害なものを用いることが好ましい。
【0019】
図2は、膨張性カフの収縮時の状態を示す側面図である。
図1及び
図2に示すように、封止部材9は、生態適合性を有し、かつ膨張性カフ5が膨張し、又は収縮したときに、膨張性カフ5の外面に密着したまま膨張性カフ5の形状に追従するように変形可能な材料によって形成されている。そして封止部材9を形成するための材料としては、例えば、シリコンのような生態適合性に優れた材料や、各種エラストマーのような弾性に優れた材料等によって形成されている。また、封止部材9は、膨張性カフ9の内圧が、約340KPa(40cmH
2O)〜約590KPa(60cmH
2O)であるときに、封止部材9の気管の上下の空間の間で液体が行き来できない程度に気管に密着していることが好ましい。
【0020】
図3は、封止部材の断面図である。
図3に示すように、封止部材9は、例えば直径3〜5mmの円形断面を有しており、膨張性カフ5の膨張に追従して拡張されたときの外径が、気管の径よりも大きくなるように、例えば20mm以上とされる。また、封止部材9は、膨張性カフ5が収縮したときに、膨張性カフ5の収縮に追従して収縮し、その外径が気管の径よりも小さくなるように、例えば13mm以下となるように構成されている。また、封止部材9の内径は、膨張性カフ5の外径に応じて適宜選択される。また、封止部材9は、膨張性カフ5の変形に好適に追従できるように、例えば、厚さが2mm以下、ヤング率が0.05Mpa以下ショアA硬度が10度以下の材料によって形成されていることが好ましい。
【0021】
図4は、膨張性カフの使用時における、気管チューブの水平断面の断面図である。
図4に示すように、膨張性カフ5の膨張時には、膨張性カフ5の周囲にある封止部材9が気管の内面の形状に応じて変形し、膨張性カフ5の外面と、気管の内面との間を完全に密封している。これにより、膨張性カフ5を気管内に配置したときに、膨張性カフ5の喉頭側の空間と、主気管支側の空間とを完全に遮断することができる。これにより、喉頭側の空間から主気管支側に細菌が侵入するのを防止することができる。
【0022】
なお、上述の例では、封止部材が円形断面を有するリングであるものとして詳細な説明を行ったが、封止部材の断面形状は、円形断面に限られるものではなく、楕円形断面のものを用いてもよい。また、封止部材は、リング状に限らず、カフの長さ方向に沿って延びる管状形状としてもよい。
【0023】
また、上述の例では、封止部材の外径が、膨張性カフの外径よりも大きいため、膨張性カフの使用時には、封止部材のみが気管の内面に接触するが、円錐形の膨張性カフに対して封止部材を適用することにより、封止部材、及び膨張性カフの大径部の両方が気管の内面に接触するようにしてもよい。これにより、密封効果をより向上させることができる。
【0024】
以下、本発明の実施例及び比較例について詳述する。
【0025】
実施例では、気管に見立てた内径7mmの塩化ビニル製のチューブ、並びに厚さ50μm、最大直径30mmの塩化ビニル製のカフ、及びカフに取付けられたシリコン樹脂性のリング形状の封止部材を準備した。封止部材は、円形断面を有しており、内径が15mm、外径が16mmであり、カフの最大直径を有する部分に、シリコン樹脂を用いて接着した。そして、カフ及び封止部材を垂直に固定したチューブ内に挿入してカフの内圧を1176KPa(120cmH
2O)まで高めた。その後、チューブの上部開口から2mlの色素水をチューブ内に滴下した。その後、カフの内圧を段階的に低下させ、色素水がカフ及び封止部材を通過してチューブの下側に漏れた時点でのカフの内圧及びカフの内部容積の計測を3回繰り返した。
【0026】
また、比較例として、市販のポリウレタン製カフ(商品:コビディエンジャパン社製、Seal Guard Evac気管チューブ)を準備し、同様の試験を行った。
【0027】
上記実施例及び比較例による試験結果を表1に示す。
【0029】
一般的に、気管等の組織に686KPa(70cmH
20)の圧力を二時間以上加え続けると組織障害が起こることが知られている。そして、本発明の実施例では、カフの内圧を686KPa以下に抑えたまま色素水の漏れを防ぐことが出来ていることがわかる。
【符号の説明】
【0030】
1 気管チューブ
3 チューブ
5 膨張性カフ
9 封止部材