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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-62610(P2018-62610A)
(43)【公開日】2018年4月19日
(54)【発明の名称】更生タイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20180323BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20180323BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20180323BHJP
   B29D 30/56 20060101ALI20180323BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C08J3/22
   C08K5/20
   B29D30/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-202800(P2016-202800)
(22)【出願日】2016年10月14日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 修平
【テーマコード(参考)】
4F070
4F212
4F215
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA04
4F070AA05
4F070AC04
4F070AC47
4F070AE01
4F070FA05
4F070FB04
4F070FC03
4F212AH20
4F212VA17
4F212VD05
4F212VD20
4F212VL20
4F215AH20
4F215VA17
4F215VD05
4F215VD20
4F215VL20
4J002AC011
4J002AC071
4J002AC081
4J002AC091
4J002DA036
4J002EP017
4J002FD016
4J002FD140
4J002FD150
4J002GN01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】トレッドゴムと台タイヤの接着性を改良した更生タイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】接着用のクッションゴムを介して、トレッドゴムを台タイヤに貼り付ける更生タイヤの製造方法で、クッションゴムの製造工程が、充填材、分散溶媒及びゴムラテックス溶液を原料として得られる充填材含有ゴム凝固物を脱水し、ゴムウエットマスターバッチを製造する工程(iii)及びゴムウエットマスターバッチを含有するゴム組成物をシート状に成型する工程(iv)を少なくとも有する更生タイヤの製造方法。工程(iii)は、充填材含有ゴム凝固物に式(I)に示される化合物を添加し、水分を含んだ充填材含有ゴム凝固物中で式(I)に示される化合物を分散させつつ、充填材含有ゴム凝固物を脱水する工程である。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着用のクッションゴムを介して、トレッドゴムを台タイヤに貼り付ける更生タイヤの製造方法であって、
前記クッションゴムの製造工程が、充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を混合して、充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i)、前記充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固して、充填材含有ゴム凝固物を製造する工程(ii)、前記充填材含有ゴム凝固物を脱水することにより、ゴムウエットマスターバッチを製造する工程(iii)、および前記ゴムウエットマスターバッチを含有するゴム組成物をシート状に成型する工程(iv)を有し、
前記工程(iii)が、前記充填材含有ゴム凝固物に下記式(I)に記載の化合物:
【化1】

(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)を添加し、水分を含んだ前記充填材含有ゴム凝固物中で前記式(I)に記載の化合物を分散させつつ、前記充填材含有ゴム凝固物を脱水する工程であることを特徴とする更生タイヤの製造方法。
【請求項2】
前記工程(iii)において、前記式(I)に記載の化合物添加時の前記充填材含有ゴム凝固物中の水分量をWa、前記式(I)に記載の化合物の含有量をWbとしたとき、1≦Wa/Wb≦8100である請求項1に記載の更生タイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着用のクッションゴムを介して、トレッドゴムを台タイヤに貼り付ける更生タイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、基本的に路面に接するトレッドゴムが台タイヤに貼り付けられた構造を有する。トレッドゴムは、長期間のタイヤ走行に伴い摩耗が進行するため、耐用期間に限りがあるが、台タイヤに関しては、トレッドゴムの寿命が終わっても十分に使用可能である場合が多い。このため、摩耗済のトレッドゴム部分に新しいトレッドゴムを被せて、再び更生タイヤとして利用される場合がある。自動車用タイヤ、特にトラック用あるいはバス用などの重荷重用タイヤとして、タイヤ経費節減のために更生タイヤを使用することが多い。
【0003】
更生タイヤの製造には、大きく分類して、未加硫のトレッドゴムを台タイヤに貼り付けるとともに、金型に入れて加硫しつつトレッドパターンをトレッドゴムに付与するリモールド方式と、既にトレッドパターンが付与された加硫済トレッドゴム(プレキュアトレッド)を台タイヤに貼り付けて、プレキュアトレッド貼り付け台タイヤを形成し、これをリム状体に装着するとともに、環状の加硫用エンベロープをプレキュアトレッド貼り付け台タイヤの上から被せ、これを加硫缶の中で加硫するプレキュア方式との2種類がある。
【0004】
いずれの方式であっても、更生タイヤの加硫は比較的、低温で長時間行われるため、トレッドゴムと台タイヤとを接着させるクッションゴムが加硫中に収縮し、しわなどが発生することにより、接着が不均一となる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−95014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
なお、前記特許文献1では、低燃費性を改善することを目的とした、特定の化合物を配合したトレッド用ゴム組成物が記載されているが、クッションゴムにかかる前記課題について記載も示唆もされていない。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、トレッドゴムと台タイヤとを接着させるクッションゴムの形状安定性を高めることで、両者の接着性を改良した更生タイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち本発明は、接着用のクッションゴムを介して、トレッドゴムを台タイヤに貼り付ける更生タイヤの製造方法であって、前記クッションゴムの製造工程が、充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を混合して、充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i)、前記充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固して、充填材含有ゴム凝固物を製造する工程(ii)、前記充填材含有ゴム凝固物を脱水することにより、ゴムウエットマスターバッチを製造する工程(iii)、および前記ゴムウエットマスターバッチを含有するゴム組成物をシート状に成型する工程(iv)を有し、前記工程(iii)が、前記充填材含有ゴム凝固物に下記式(I)に記載の化合物:
【化1】

(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)を添加し、水分を含んだ前記充填材含有ゴム凝固物中で前記式(I)に記載の化合物を分散させつつ、前記充填材含有ゴム凝固物を脱水する工程であることを特徴とする更生タイヤの製造方法、に関する。
【0009】
上記製造方法においては、特にクッションゴムの製造工程に特徴がある。具体的には、上記製造方法では、クッションゴム製造工程の工程(iii)において、水分を含んだ充填材含有ゴム凝固物中で上記式(I)に記載の化合物を分散させつつ、充填材含有ゴム凝固物を脱水する。一般に、タイヤ用に使用されるゴムは乾燥状態で疎水性を示す。一方、上記式(I)に記載の化合物は親水性を示すため、乾燥状態のゴムと式(I)に記載の化合物とを乾式混合しても、式(I)に記載の化合物の分散性は向上しない。しかしながら、上記製造方法では、脱水工程に相当する工程(iii)において、水分を含んだ充填材含有ゴム凝固物中に式(I)に記載の化合物を分散させるため、水分を介して式(I)に記載の化合物の分散性が飛躍的に高まる。その結果、充填材含有ゴム凝固物中に式(I)に記載の化合物が高いレベルで分散する。一旦、充填材含有ゴム凝固物中に式(I)に記載の化合物が分散すれば、充填材含有ゴム凝固物が脱水されても、式(I)に記載の化合物の分散性は保持されることから、最終的に乾燥して得られるゴムウエットマスターバッチおよびそのゴム組成物でも、式(I)に記載の化合物の分散性は向上する。そして、式(I)に記載の化合物が配合されているため、加硫することにより得られるクッションゴムの収縮が抑制され、形状安定性が向上する。その結果、かかるクッションゴムを含む更生タイヤは、トレッドゴムと台タイヤとの接着性に優れる。
【0010】
上記更生タイヤの製造方法では、前記工程(iii)において、前記式(I)に記載の化合物添加時の前記充填材含有ゴム凝固物の水分量をWa、前記式(I)に記載の化合物の添加量をWbとしたとき、1≦Wa/Wb≦8100であることが好ましい。上記のとおり、式(I)に記載の化合物は水分存在下、水分を介して充填材含有ゴム凝固物中での分散性が著しく向上する。特に、1≦Wa/Wb≦8100であると、式(I)に記載の化合物の分散性と、充填材含有ゴム凝固物中の水分除去に必要な時間短縮とがバランス良く達成可能となる。
【0011】
さらに、本発明は、接着用のクッションゴムを介して、トレッドゴムを台タイヤに貼り付ける更生タイヤの製造方法であって、前記クッションゴムの製造工程が、充填材およびゴムの混合物に対し、下記式(I)に記載の化合物:
【化2】

(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)および水分を添加し、分散させることを特徴とする更生タイヤの製造方法、に関する。
【0012】
上記製造方法では、水分存在下、充填材およびゴムの混合物に上記式(I)に記載の化合物を分散させる。一般に、タイヤ用に使用されるゴムは乾燥状態で疎水性を示す。一方、上記式(I)に記載の化合物は親水性を示すため、乾燥状態のゴムと式(I)に記載の化合物とを乾式混合しても、式(I)に記載の化合物の分散性は向上しない。しかしながら、上記製造方法では、水分存在下、充填材およびゴムの混合物に上記式(I)に記載の化合物を分散させるため、水分を介して式(I)に記載の化合物の分散性が飛躍的に高まる。その結果、充填材およびゴムの混合物中に式(I)に記載の化合物が高いレベルで分散する。一旦、充填材含有ゴム凝固物中に式(I)に記載の化合物が分散すれば、充填材含有ゴム凝固物が脱水されても、式(I)に記載の化合物の分散性は保持されることから、最終的に乾燥して得られるゴムウエットマスターバッチおよびそのゴム組成物でも、式(I)に記載の化合物の分散性は向上する。そして、式(I)に記載の化合物が配合されているため、加硫することにより得られるクッションゴムの収縮が抑制され、形状安定性が向上する。その結果、かかるクッションゴムを含む更生タイヤは、トレッドゴムと台タイヤとの接着性に優れる。
【0013】
上記更生タイヤの製造方法では、前記水分の添加量をWa、前記式(I)に記載の化合物の添加量をWbとしたとき、1≦Wa/Wb≦8100であることが好ましい。上記のとおり、式(I)に記載の化合物は水分存在下、水分を介して充填材およびゴムの混合物中での分散性が著しく向上する。特に、1≦Wa/Wb≦7500であると、式(I)に記載の化合物の分散性と、充填材およびゴムの混合物中の水分除去に必要な時間短縮とがバランス良く達成可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る更生タイヤの製造方法では、クッションゴムの製造工程において、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として使用する。
【0015】
本発明において、充填材とは、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウムなど、ゴム工業において通常使用される無機充填材を意味する。上記無機充填材の中でも、本発明においてはカーボンブラックを特に好適に使用することができる。
【0016】
カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックの他、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、通常のゴム工業において、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。
【0017】
分散溶媒としては、特に水を使用することが好ましいが、例えば有機溶媒を含有する水であってもよい。
【0018】
ゴムラテックス溶液としては、天然ゴムラテックス溶液および合成ゴムラテックス溶液を使用することができる。
【0019】
天然ゴムラテックス溶液は、植物の代謝作用による天然の生産物であり、特に分散溶媒が水である、天然ゴム/水系のものが好ましい。本発明において使用する天然ゴムラテックス中の天然ゴムの数平均分子量は、200万以上であることが好ましく、250万以上であることがより好ましい。天然ゴムラテックス溶液については濃縮ラテックスやフィールドラテックスといわれる新鮮ラテックスなど区別なく使用できる。合成ゴムラテックス溶液としては、例えばスチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴムを乳化重合により製造したものがある。
【0020】
本発明に係る更生タイヤの製造方法では、クッションゴムの製造工程において、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られた充填材含有ゴム凝固物を脱水する際、下記式(I)に記載の化合物を添加する。
【化3】

(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)
【0021】
なお、充填材、特にはカーボンブラックへの親和性を高めるためには、式(I)中のRおよびRが水素原子であり、Mがナトリウムイオンである下記式(I’)に記載の化合物:
【化4】

を使用することが特に好ましい。
【0022】
クッションゴムの形状安定性を向上するためには、タイヤ部材に含まれるゴム成分の全量を100質量部としたとき、式(I)に記載の化合物の配合量は0.1〜10質量部であることが好ましく、0.5〜5質量部であることがより好ましい。
【0023】
以下に、本発明に係る更生タイヤの製造方法のうち、クッションゴムの製造工程について具体的に説明する。かかる製造工程は、充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を混合して、充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i)、前記充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固して、充填材含有ゴム凝固物を製造する工程(ii)、前記充填材含有ゴム凝固物を脱水することにより、ゴムウエットマスターバッチを製造する工程(iii)、前記ゴムウエットマスターバッチを含有するゴム組成物をシート状に成型する工程(iv)を有し、前記工程(iii)が、前記充填材含有ゴム凝固物に式(I)に記載の化合物を添加し、水分を含んだ前記充填材含有ゴム凝固物中で前記式(I)に記載の化合物を分散させつつ、前記充填材含有ゴム凝固物を脱水する工程である。
【0024】
(1)工程(i)
工程(i)では、充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を混合して、充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する。特に、本発明においては、前記工程(i)が、前記充填材を前記分散溶媒中に分散させる際に、前記ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液を製造する工程(i−(a))、およびゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液と、残りの前記ゴムラテックス溶液とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i−(b))を含むことが好ましい。以下に、工程(i−(a))および工程(i−(b))について説明する。特に、本実施形態では、充填材としてカーボンブラックを使用した例について説明する。
【0025】
工程(i−(a))
工程(i−(a))では、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際に、ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する。ゴムラテックス溶液は、あらかじめ分散溶媒と混合した後、カーボンブラックを添加し、分散させても良い。また、分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで所定の添加速度で、ゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させても良く、あるいは分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで何回かに分けて一定量のゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させても良い。ゴムラテックス溶液が存在する状態で、分散溶媒中にカーボンブラックを分散させることにより、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造することができる。工程(i−(a))におけるゴムラテックス溶液の添加量としては、使用するゴムラテックス溶液の全量(工程(i−(a))および工程(i−(b))で添加する全量)に対して、0.075〜12質量%が例示される。
【0026】
工程(i−(a))では、添加するゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量が、カーボンブラックとの質量比で0.25〜15%であることが好ましく、0.5〜6%であることが好ましい。また、添加するゴムラテックス溶液中の固形分(ゴム)濃度が、0.2〜5質量%であることが好ましく、0.25〜1.5質量%であることがより好ましい。これらの場合、ゴムラテックス粒子をカーボンブラックに確実に付着させつつ、カーボンブラックの分散度合いを高めたゴムウエットマスターバッチを製造することができる。
【0027】
工程(i−(a))において、ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合する方法としては、高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用してカーボンブラックを分散させる方法が挙げられる。
【0028】
上記「高せん断ミキサー」とは、ローターとステーターとを備えるミキサーであって、高速回転が可能なローターと、固定されたステーターと、の間に精密なクリアランスを設けた状態でローターが回転することにより、高せん断作用が働くミキサーを意味する。このような高せん断作用を生み出すためには、ローターとステーターとのクリアランスを0.8mm以下とし、ローターの周速を5m/s以上とすることが好ましい。このような高せん断ミキサーは、市販品を使用することができ、例えばSILVERSON社製「ハイシアーミキサー」が挙げられる。
【0029】
本発明においては、ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合し、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する際、カーボンブラックの分散性向上のために界面活性剤を添加しても良い。界面活性剤としては、ゴム業界において公知の界面活性剤を使用することができ、例えば非イオン性界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両イオン系界面活性剤などが挙げられる。また、界面活性剤に代えて、あるいは界面活性剤に加えて、エタノールなどのアルコールを使用しても良い。ただし、界面活性剤を使用した場合、最終的な加硫ゴムのゴム物性が低下することが懸念されるため、界面活性剤の配合量は、ゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量100質量部に対して、2質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、実質的に界面活性剤を使用しないことが好ましい。
【0030】
工程(i−(b))
工程(i−(b))では、スラリー溶液と、残りのゴムラテックス溶液とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造する。スラリー溶液と、残りのゴムラテックス溶液とを液相で混合する方法は特に限定されるものではなく、スラリー溶液および残りのゴムラテックス溶液とを高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用して混合する方法が挙げられる。必要に応じて、混合の際に分散機などの混合系全体を加温してもよい。
【0031】
残りのゴムラテックス溶液は、次工程(iii)での脱水時間・労力を考慮した場合、工程(i−(a))で添加したゴムラテックス溶液よりも固形分(ゴム)濃度が高いことが好ましく、具体的には固形分(ゴム)濃度が10〜60質量%であることが好ましく、20〜30質量%であることがより好ましい。
【0032】
(2)工程(ii)
工程(ii)では、充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固して、充填材含有ゴム凝固物を製造する。凝固方法としては、ゴムラテックス粒子が付着した充填材含有ゴムラテックス溶液中に凝固剤を含有させる方法が例示可能である。この場合、凝固剤としては、ゴムラテックス溶液の凝固用として通常使用されるギ酸、硫酸などの酸や、塩化ナトリウムなどの塩を使用することができる。なお、工程(ii)の後、工程(iii)の前に、必要に応じて、充填材含有ゴム凝固物が含む水分量を適度に低減する目的で、例えば遠心分離工程や加熱工程などの固液分離工程を設けても良い。
【0033】
(3)工程(iii)
工程(iii)では、充填材含有ゴム凝固物を脱水することにより、ゴムウエットマスターバッチを製造する。工程(iii)では例えば、単軸押出機を使用し、100〜250℃に加熱しつつ、充填材含有ゴム凝固物にせん断力を付与しながら脱水することが可能である。本発明においては、特に工程(iii)において、充填材含有ゴム凝固物に上記式(I)に記載の化合物を添加し、水分を含んだ充填材含有ゴム凝固物中で式(I)に記載の化合物を分散させつつ、充填材含有ゴム凝固物を脱水する。工程(iii)開始前の充填材含有ゴム凝固物の水分率は特に限定されるものではないが、前記固液分離工程などを必要に応じて設けて、後述するWa/Wbが適切な範囲となるように水分率を調整することが好ましい。
【0034】
上記のとおり、水分存在下で、充填材含有ゴム凝固物中に式(I)に記載の化合物を分散させることにより、その分散性が著しく向上する。特に式(I)に記載の化合物添加時の充填材含有ゴム凝固物の水分量をWa、式(I)に記載の化合物の含有量をWbとしたとき、1≦Wa/Wb≦8100であることが好ましい。Wa/Wbが1未満であると、充填材含有ゴム凝固物中での式(I)に記載の化合物の分散性が十分に向上しない場合がある。式(I)に記載の化合物の分散性をさらに向上させるためには、Wa/Wbが1以上であることが好ましい。一方、Wa/Wbが8100を超える場合、脱水させる水分が著しく多くなるため、ゴムウエットマスターバッチの生産性が悪化する傾向がある。ゴムウエットマスターバッチの生産性を考慮した場合、Wa/Wbは7500以下であることが好ましい。
【0035】
工程(iii)の後、必要に応じてさらにゴムウエットマスターバッチの水分率を低減するため、別途、乾燥工程を設けても良い。ゴムウエットマスターバッチの乾燥方法としては、単軸押出機、オーブン、真空乾燥機、エアードライヤーなどの各種乾燥装置を使用することができる。
【0036】
(4)工程(iv)
工程(iv)では、ゴムウエットマスターバッチと各種配合剤とを乾式混合することにより、ゴム組成物を製造し、これをシート状またはテープ状のクッションゴムを成型する。成型方法としては、例えば押出成型が挙げられる。クッションゴムの厚さは、更生タイヤの種類により適宜変更可能であるが、例えば0.1〜3.0mmが挙げられる。クッションゴムを製造する際、使用可能な配合剤としては、例えば、粘着付与剤、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、メチレン受容体およびメチレン供与体、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、有機過酸化物、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤が挙げられる。
【0037】
粘着付与剤は、ゴム組成物に粘着性を付与する添加剤であり、タッキファイヤーとも称される。トレッドクッションとしての粘着性及び加硫速度の点から、アルキルフェノール系樹脂や石油系炭化水素樹脂などの粘着樹脂が好ましく用いられ、これらはそれぞれ単独で用いても併用してもよい。
【0038】
上記アルキルフェノール系樹脂としては、アルキルフェノール(例えば、p−t−ブチルフェノール)とアセチレンの重縮合物であるアルキルフェノールアセチレン系樹脂、アルキルフェノール(例えば、p−t−ブチルフェノール、p−t−オクチルフェノール、p−t−ドデシルフェノール)とホルムアルデヒドの重縮合物であるアルキルフェノールホルムアルデヒド系樹脂が挙げられ、特にはアルキルフェノールアセチレン系樹脂が好ましい。
【0039】
上記石油系炭化水素樹脂としては、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂が挙げられる。脂肪族系石油樹脂は、炭素数4〜5個相当の石油留分(C5留分)であるイソプレンやシクロペンタジエンなどの不飽和モノマーをカチオン重合することにより得られる樹脂であり(C5系石油樹脂とも称される。)、水添したものであってもよい。芳香族系石油樹脂は、炭素数8〜10個相当の石油留分(C9留分)であるビニルトルエン、アルキルスチレン、インデンなどのモノマーをカチオン重合することにより得られる樹脂であり(C9系石油樹脂とも称される。)、水添したものであってもよい。脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂は、上記C5留分とC9留分を共重合することにより得られる樹脂であり(C5/C9系石油樹脂とも称される。)、水添したものであってもよい。
【0040】
粘着付与剤の配合量は、クッションゴムに含まれるゴム成分の全量100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、より好ましくは1〜8質量部である。
【0041】
硫黄系加硫剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。本発明に係るゴム組成物における硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.3〜6.5質量部であることが好ましい。硫黄の含有量が0.3質量部未満であると、加硫ゴムの架橋密度が不足してゴム強度などが低下し、6.5質量部を超えると、特に耐熱性および耐久性の両方が悪化する。加硫ゴムのゴム強度を良好に確保し、耐熱性と耐久性をより向上するためには、硫黄の含有量がゴム成分100質量部に対して1.5〜5.5質量部であることがより好ましく、2〜4.5質量部であることがさらに好ましい。
【0042】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して1〜5質量部であることがより好ましく、1.5〜4質量部であることがさらに好ましい。
【0043】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン−ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して1〜5質量部であることがより好ましく、2〜4.5質量部であることがさらに好ましい。
【0044】
なお、さらに本発明に係る更生タイヤの製造方法では、クッションゴムの製造工程が、充填材およびゴムの混合物に対し、式(I)に記載の化合物および水分を添加し、分散させることも可能である。充填材は、上記ゴムウエットマスターバッチの製造方法で使用するものと同じものを使用可能であり、ゴムは当業者に公知のジエン系ゴム、例えば天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリスチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)などが使用可能である。
【0045】
本発明に係る更生タイヤの製造方法では、シート状に成型されたクッションゴムを介して、トレッドゴムを台タイヤに貼り付ける。更生タイヤの製造方法として、本発明ではリモールド方式とプレキュア方式の両方が採用可能である。リモールド方式では、例えば、未加硫のトレッドゴムを、クッションゴムを介して台タイヤを貼り付ける成型工程と、金型に入れて加硫しつつトレッドパターンをトレッドゴムに付与する加硫工程とを少なくとも有する。一方、プレキュア方式では、トレッドパターンが付与された加硫済トレッドゴムを、クッションゴムを介して台タイヤに貼り付けて、プレキュアトレッド貼り付け台タイヤを製造する成型工程と、プレキュアトレッド貼り付け台タイヤをリム状体に装着するとともに、環状の加硫用エンベロープをプレキュアトレッド貼り付け台タイヤの上からかぶせ、これを加硫缶の中で加硫する加硫工程とを少なくとも有する。
【0046】
リモールド方式とプレキュア方式のいずれであっても、本発明に係る構成空気入りタイヤの製造方法によれば、トレッドゴムと台タイヤとを接着させるクッションゴムの形状安定性が優れるため、接着力に優れた更生タイヤを製造することができる。
【実施例】
【0047】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。
【0048】
(使用原料)
a)カーボンブラック
カーボンブラック「N330」;「ショウワブラックN330T」(キャボットジャパン社製)
カーボンブラック「N550」;「ショウワブラックN550」(キャボットジャパン社製)
b)分散溶媒 水
c)ゴムラテックス溶液
天然ゴムラテックス溶液(NRフィールドラテックス);Golden Hope社製(DRC=31.2%)
d)式(I)に記載の化合物
(2Z)−4−[(4−アミノフェニル)アミノ]−4−オキソ−2−ブテン酸ナトリウム(住友化学株式会社製)
e)凝固剤 ギ酸(一級85%、10%溶液を希釈して、pH1.2に調整したもの)、「ナカライテスク社製」
f)粘着付与剤 「R7510H」(スケネクタディー社製)
g)ステアリン酸 ルナックS−20(花王石鹸)
h)ブルカレント 「ブルカレントE/C」(ランクセス社製)
i)老化防止剤 「ノクラック6C」(大内新興化学社製)
j)硫黄 「ミュークロンOT−20F」(四国化成工業社製)
k)加硫促進剤
(A)1,3−ジフェニルグアニジン「ノクセラーD」(大内新興化学社製)
(B)2−メルカプトベンゾチアゾール「ノクセラーM」(大内新興化学社製)
(C) ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛「ノクセラーZTC」(大内新興化学社製)
l)天然ゴム(NR) 「RSS#3」
m)ZnO 「ZINC OXIDE KS−2」(SBCHEMICAL)
o)オイル 「NC−140」(ジャパンエナジー社製)
【0049】
実施例1
濃度0.52質量%に調整した天然ゴム希薄ラテックス水溶液に、表1に記載の配合量となるようにカーボンブラックを添加し(水に対するカーボンブラックの濃度は5質量%)、これにPRIMIX社製ロボミックスを使用してカーボンブラックを分散させることにより(該ロボミックスの条件:9000rpm、30分)、表1に記載の天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液を製造した(工程(i)−(a))。次に、工程(i−(a))で製造された天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液に、天然ゴムラテックス溶液(25質量%)を、表1に記載の配合量となるように添加し、次いでSANYO社製家庭用ミキサーSM−L56型を使用して混合し(ミキサー条件11300rpm、30分)、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造した(工程(i))。
【0050】
工程(i)で製造された天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液に、凝固剤としての蟻酸を溶液全体がpH4となるまで添加し、カーボンブラック含有天然ゴム凝固物を製造した(工程(ii))。得られたカーボンブラック含有天然ゴム凝固物に対し、必要に応じて固液分離工程を実施することにより、表1に記載の水分量となるように調整したカーボンブラック含有天然ゴム凝固物および式(I)に記載の化合物をスエヒロEPM社製スクリュープレスV−01型に投入し、カーボンブラック含有天然ゴム凝固物中、式(I)に記載の化合物を分散させつつ、カーボンブラック含有天然ゴム凝固物を脱水して、ゴムウエットマスターバッチを製造した(工程(iii))。工程(iii)における、Wa/Wbの値を表1に示す。
【0051】
実施例1で得られたゴムウエットマスターバッチおよび表1に記載の各種配合剤をバンバリーミキサーを用いて乾式混合することにより、ゴム組成物を製造した(工程(iv))。なお、表1中の配合比率は、ゴム成分の全量を100質量部としたときの質量部(phr)で示す。
【0052】
比較例1〜2
ゴムウエットマスターバッチを製造することに代えて、ゴム成分、カーボンブラックおよび表1に記載の各種配合剤をバンバリーミキサーを用いて、完全に乾燥した状態で乾式混合することにより、ゴム組成物および加硫ゴムを製造した。
【0053】
比較例3
工程(iii)において、充填材含有ゴム凝固物に式(I)に記載の化合物を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法によりゴム組成物およびその加硫ゴムを製造した。
【0054】
比較例4
工程(iv)において、乾式状態で充填材含有ゴム凝固物に式(I)に記載の化合物を添加したこと以外は、実施例1と同様の方法によりゴム組成物およびその加硫ゴムを製造した。
【0055】
比較例5
工程(iii)において、充填材含有ゴム凝固物を完全に乾燥した段階で式(I)に記載の化合物を添加したこと以外は、実施例1と同様の方法によりゴム組成物およびその加硫ゴムを製造した。
【0056】
得られたゴム組成物を1.0kg10インチのロールでシート出しし、23℃で24時間後の長さを測定し、比較例1の値を100として指数評価した。数値が大きいほど形状安定性に優れることを意味する。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】