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特開2018-62617タイヤ部材の製造方法およびタイヤの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-62617(P2018-62617A)
(43)【公開日】2018年4月19日
(54)【発明の名称】タイヤ部材の製造方法およびタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20180323BHJP
   B29D 30/30 20060101ALI20180323BHJP
【FI】
   C08J3/22CEQ
   B29D30/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-202822(P2016-202822)
(22)【出願日】2016年10月14日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】込谷 祐樹
【テーマコード(参考)】
4F070
4F212
4F215
【Fターム(参考)】
4F070AA05
4F070AA63
4F070AC04
4F070AC12
4F070AC14
4F070AC40
4F070AC45
4F070AE01
4F070AE22
4F070AE28
4F070FA05
4F070FB03
4F070FB04
4F070FC05
4F212AA45
4F212AB07
4F212AB18
4F212AC05
4F212AH20
4F212VA11
4F212VD20
4F215AA45
4F215AB07
4F215AB18
4F215AC05
4F215AH20
4F215VA11
4F215VD20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】保管によるムーニー粘度の増加を抑え得るタイヤ部材の製造方法の提供。
【解決手段】マスターバッチは、カーボンブラックを含む凝固処理前ゴムラテックスを凝固し、水を含む凝固物に、式(I)で表される化合物を添加する工程からなるタイヤ部材の製造方法。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マスターバッチをつくる工程と、
前記マスターバッチ、しゃく解剤および加工助剤を混合する工程とを含み、
前記マスターバッチをつくる工程は、
カーボンブラックを含む凝固処理前ゴムラテックスを凝固し、凝固物を得る工程と、
水を含む前記凝固物に、下記式(I)の化合物を添加する工程と、
前記化合物を前記凝固物中に分散する工程とを含む、
タイヤ部材の製造方法。
【化1】

(式(I)において、RおよびRは、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基または炭素数1〜20のアルキニル基を示す。RおよびRは、同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)
【請求項2】
前記化合物を前記凝固物中に分散する工程は、前記凝固物を脱水しながら前記化合物を前記凝固物中に分散する工程である、請求項1に記載のタイヤ部材の製造方法。
【請求項3】
前記凝固物に前記化合物を添加する工程において、前記凝固物中のゴム100質量部に対する、前記凝固物の水分量をWaとし、前記凝固物中のゴム100質量部に対する、前記化合物の添加量をWbとしたとき、WaのWbに対する比(Wa/Wb)が1〜8100である、請求項1または2に記載のタイヤ部材の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ部材の製造方法を含む、タイヤの製造方法。
【請求項5】
マスターバッチをつくる工程と、
前記マスターバッチ、しゃく解剤および加工助剤を混合する工程とを含み、
前記マスターバッチをつくる工程は、
カーボンブラックおよびゴムを含む混合物に、下記式(I)の化合物を添加する工程と、
前記化合物を、水の存在下で前記混合物中に分散する工程とを含む、
タイヤ部材の製造方法。
【化2】

(式(I)において、RおよびRは、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基または炭素数1〜20のアルキニル基を示す。RおよびRは、同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)
【請求項6】
請求項5に記載のタイヤ部材の製造方法を含む、タイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タイヤ部材の製造方法およびタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、(2Z)−4−[(4−アミノフェニル)アミノ]−4−オキソ−2−ブテン酸ナトリウムおよびカーボンブラックをバンバリーミキサーに投入し、ゴムに練り込む方法(以下、「先行製法」という。)を開示する。(2Z)−4−[(4−アミノフェニル)アミノ]−4−オキソ−2−ブテン酸ナトリウムについて、末端の窒素官能基がカーボンブラックと結合し、炭素−炭素二重結合の部分がポリマーと結合することを特許文献1はさらに開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−95013号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示における第1のタイヤ部材の製造方法は、マスターバッチをつくる工程と、マスターバッチ、しゃく解剤および加工助剤を混合する工程とを含む。マスターバッチをつくる工程は、カーボンブラックを含む凝固処理前ゴムラテックスを凝固し、凝固物を得る工程を含む。マスターバッチをつくる工程は、水を含む凝固物に、下記式(I)の化合物(以下、「式(I)化合物」という。)を添加する工程をさらに含む。マスターバッチをつくる工程は、式(I)化合物を凝固物中に分散する工程をさらに含む。
【化1】

(式(I)において、RおよびRは、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基または炭素数1〜20のアルキニル基を示す。RおよびRは、同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)
【0005】
本開示における第2のタイヤ部材の製造方法は、マスターバッチをつくる工程と、マスターバッチ、しゃく解剤および加工助剤を混合する工程とを含む。マスターバッチをつくる工程は、カーボンブラックおよびゴムを含む混合物に、式(I)化合物を添加する工程と、式(I)化合物を、水の存在下で混合物中に分散する工程とを含む。
【発明を実施するための形態】
【0006】
未加硫ゴムは、保管後に使用されることがある。未加硫ゴムの保管は、ムーニー粘度の増加をもたらす。
【0007】
本開示は、保管によるムーニー粘度の増加を抑えることができるタイヤ部材の製造方法を提供する。さらに本開示は、保管によるムーニー粘度の増加を抑えることができるタイヤの製造方法を提供する。
【0008】
第1のタイヤ部材の製造方法は、マスターバッチをつくる工程と、マスターバッチ、しゃく解剤および加工助剤を混合する工程とを含む。マスターバッチをつくる工程は、カーボンブラックを含む凝固処理前ゴムラテックスを凝固し、凝固物を得る工程を含む。マスターバッチをつくる工程は、水を含む凝固物に、式(I)化合物を添加する工程をさらに含む。マスターバッチをつくる工程は、式(I)化合物を凝固物中に分散する工程をさらに含む。
【0009】
第1のタイヤ部材の製造方法は、保管によるムーニー粘度の増加を先行製法よりも抑えることができる。第一に、第1のタイヤ部材の製造方法は、老化防止機能を有する式(I)化合物を高度に分散できるからである。第二に、式(I)化合物とマスターバッチ由来のゴムとをよく反応させることができるからである。
【0010】
第1のタイヤ部材の製造方法は、マスターバッチ由来のゴムに式(I)化合物を高度に分散できる。式(I)化合物が親水性を示し、ゴムが乾燥状態で疎水性を示すため、先行製法では、式(I)化合物が分散し難い。一方、第1のタイヤ部材の製造方法では、凝固物の水分が、式(I)化合物の分散を助けることができる。よって、第1のタイヤ部材の製造方法は、式(I)化合物の分散性を先行製法よりも向上できる。
【0011】
式(I)化合物とマスターバッチ由来のゴムとを第1のタイヤ部材の製造方法はよく反応させることができる。式(I)化合物の反応点となるラジカルを、しゃく解剤によるポリマー鎖切断で発生させることができるからである。
【0012】
さらに、第1のタイヤ部材の製造方法は、式(I)化合物によるムーニー粘度の増加を加工助剤で抑えることができる。
【0013】
第1のタイヤ部材の製造方法において、マスターバッチをつくる工程は、カーボンブラックを含む凝固処理前ゴムラテックスを凝固し、凝固物を得る工程の前に、カーボンブラックおよび第1ゴムラテックスを混合し、カーボンブラックスラリーを得る工程と、カーボンブラックスラリーおよび第2ゴムラテックスを混合し、凝固処理前ゴムラテックスを得る工程とをさらに含むことができる。
【0014】
第1のタイヤ部材の製造方法において、式(I)化合物を凝固物中に分散する工程は、凝固物を脱水しながら式(I)化合物を凝固物中に分散する工程であることが好ましい。
【0015】
第1のタイヤ部材の製造方法において、凝固物に式(I)化合物を添加する工程において、凝固物中のゴム100質量部に対する、凝固物の水分量をWaとし、凝固物中のゴム100質量部に対する、式(I)化合物の添加量をWbとしたとき、WaのWbに対する比(Wa/Wb)が1〜8100であることが好ましい。
【0016】
第1のタイヤ部材の製造方法を、第1のタイヤの製造方法は含むことができる。
【0017】
第2のタイヤ部材の製造方法は、マスターバッチをつくる工程と、マスターバッチ、しゃく解剤および加工助剤を混合する工程とを含む。マスターバッチをつくる工程は、カーボンブラックおよびゴムを含む混合物に、式(I)化合物を添加する工程と、式(I)化合物を、水の存在下で混合物中に分散する工程とを含む。
【0018】
第2のタイヤ部材の製造方法は、保管によるムーニー粘度の増加を先行製法よりも抑えることができる。第一に、第2のタイヤ部材の製造方法は、老化防止機能を有する式(I)化合物を高度に分散できるからである。第二に、式(I)化合物とマスターバッチ由来のゴムとをよく反応させることができるからである。さらに、第2のタイヤ部材の製造方法は、式(I)化合物によるムーニー粘度の増加を加工助剤で抑えることもできる。
【0019】
第2のタイヤ部材の製造方法を、第2のタイヤの製造方法は含むことができる。
【0020】
実施形態1におけるタイヤ部材の製造方法は、カーボンブラックとゴムラテックスとを混合し、カーボンブラックスラリーを得る工程を含む。カーボンブラックとゴムラテックスとを混合することによって、カーボンブラックの再凝集を防止できる。カーボンブラックの表面の一部または全部に極薄いラテックス相が生成し、ラテックス相がカーボンブラックの再凝集を抑制すると考えられるからである。カーボンブラックとしては、たとえばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックのほか、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、通常のゴム工業において、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。カーボンブラックスラリーをつくる工程のゴムラテックスは、たとえば天然ゴムラテックス、合成ゴムラテックスなどである。天然ゴムラテックス中の天然ゴムの数平均分子量は、たとえば200万以上である。合成ゴムラテックスは、たとえばスチレン−ブタジエンゴムラテックス、ブタジエンゴムラテックス、ニトリルゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックスである。ゴムラテックスの固形分(ゴム)濃度は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上である。固形分濃度の上限は、たとえば5質量%、好ましくは2質量%、さらに好ましくは1質量%である。カーボンブラックとゴムラテックスとは、高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機で混合できる。
【0021】
カーボンブラックスラリーでは、カーボンブラックが水中に分散している。カーボンブラックスラリーにおけるカーボンブラックの量は、カーボンブラックスラリー100質量%において、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上である。カーボンブラックスラリーにおけるカーボンブラック量の上限は、好ましくは15質量%、より好ましくは10質量%である。
【0022】
カーボンブラックスラリーとゴムラテックスとを混合し、凝固処理前ゴムラテックスを得る工程を、実施形態1におけるタイヤ部材の製造方法はさらに含む。カーボンブラックスラリーと混合するためのゴムラテックスは、たとえば天然ゴムラテックス、合成ゴムラテックスなどである。カーボンブラックスラリーと混合するためのゴムラテックスの固形分濃度は、カーボンブラックスラリーをつくる工程におけるゴムラテックスの固形分濃度よりも高いことが好ましい。カーボンブラックスラリーと混合するためのゴムラテックスの固形分濃度は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。ゴムラテックスにおける固形分濃度の上限は、たとえば60質量%、好ましくは40質量%、さらに好ましくは30質量%である。カーボンブラックスラリーとゴムラテックスとは、高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機で混合できる。
【0023】
凝固処理前ゴムラテックスでは、ゴム粒子、カーボンブラックなどが水中に分散している。
【0024】
凝固処理前ゴムラテックスを凝固し、凝固物を得る工程を、実施形態1におけるタイヤ部材の製造方法はさらに含む。凝固を起こすために、凝固処理前ゴムラテックスに凝固剤を添加できる。凝固剤は、たとえば酸である。酸としてギ酸、硫酸などを挙げることができる。凝固処理前ゴムラテックスを凝固することで得られた凝固物は、水を含む。
【0025】
凝固物に、式(I)化合物を添加する工程を、実施形態1におけるタイヤ部材の製造方法はさらに含む。式(I)化合物を添加する工程において、凝固物の水分量Waは、凝固物中のゴム100質量部に対して、たとえば1質量部以上、好ましくは10質量部以上である。Waの上限は、たとえば800質量部、好ましくは600質量部である。式(I)化合物の添加量Wbは、凝固物中のゴム100質量部に対して、たとえば0.1質量部以上、好ましくは0.5質量部以上である。Wbの上限は、たとえば10質量部、好ましくは5質量部である。WaのWbに対する比(Wa/Wb)は、好ましくは1〜8100である。Wa/Wbが1未満であると、耐疲労性の向上効果が大きくはないだろう。8100をこえると、凝固物中の水分がマスターバッチに残ることがあるかもしれない。
【0026】
式(I)を次に示す。
【化2】

(式(I)において、RおよびRは、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基または炭素数1〜20のアルキニル基を示す。RおよびRは、同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)
式(I)において、RおよびRが水素原子であることが好ましい。Mがナトリウムイオンであることが好ましい。式(I)化合物は、好ましくは下記式(I’)の化合物である。
【化3】
【0027】
式(I)化合物を凝固物中に分散する工程を、実施形態1におけるタイヤ部材の製造方法はさらに含む。式(I)化合物を凝固物中に分散する工程は、たとえば、式(I)化合物 添加後の凝固物を脱水しながら、式(I)化合物を凝固物中に分散する工程であり、より具体的には、式(I)化合物 添加後の凝固物に、100℃〜250℃でせん断力を付与しながら、式(I)化合物を凝固物中に分散する工程である。温度の下限は、好ましくは120℃である。温度の上限は、好ましくは230℃である。式(I)化合物を凝固物中に分散するために、単軸押出機などの押出機を用いることができる。
【0028】
式(I)化合物の分散後に凝固物の乾燥と可塑化とをおこない、マスターバッチを得る工程を、実施形態1におけるタイヤ部材の製造方法はさらに含む。
【0029】
マスターバッチは、ゴムを含む。ゴムは、たとえば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴムなどである。マスターバッチにおける天然ゴムの量は、ゴム100質量%において、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。
【0030】
マスターバッチは、カーボンブラックをさらに含む。カーボンブラックの量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上である。カーボンブラックの量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは80質量部以下、より好ましくは60質量部以下である。
【0031】
マスターバッチは、式(I)化合物をさらに含む。式(I)化合物の量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1質量部以上である。式(I)化合物の量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。
【0032】
マスターバッチと、しゃく解剤、加工助剤などの配合剤と、必要に応じてマスターバッチ由来のゴム以外のゴムとを混合機で乾式混合し、混合物を得る工程を、実施形態1におけるタイヤ部材の製造方法はさらに含む。マスターバッチ由来のゴム以外のゴムとして、たとえば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴムなどを挙げることができる。しゃく解剤は、ゴム成分ポリマー鎖を切断し、ラジカルを発生させることできる。たとえば、2,2’−ジベンズアミドジフェニルジスルフィド(DBD)、2−ベンズアミドチオフェノールの亜鉛塩、キシリルメルカプタン、β−ナフチルメルカプタン、ペンタクロロチオフェノール(PCTP)などを挙げることができる。なかでも、DBDが好ましい。これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。しゃく解剤の添加量は、全ゴム(「全ゴム」は、マスターバッチ由来のゴムと、マスターバッチ由来のゴム以外のゴムとを含む。)100質量部に対して、たとえば0.01質量部以上、好ましくは0.05質量部以上である。しゃく解剤の添加量の上限は、全ゴム100質量部に対して、たとえば3質量部、好ましくは2質量部、より好ましくは1質量部である。しゃく解剤の添加量が多すぎると、保管安定性が低下する可能性がある。加工助剤は、脂肪酸金属塩を含むことができる。脂肪酸金属塩の脂肪酸は、好ましくは炭素数6〜28の飽和または不飽和脂肪酸であり、たとえば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ネルボン酸などを挙げることができる。これらは1種または2種以上を混合して用いることができる。炭素数14〜20の飽和脂肪酸がより好ましい。脂肪酸金属塩を構成する金属としては、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛、ニッケル、モリブデンなどが挙げられ、なかでも亜鉛が好ましい。加工助剤は、1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。加工助剤の添加量は、全ゴム100質量部に対して、たとえば0.1質量部以上、好ましくは0.3質量部以上である。加工助剤の添加量の上限は、全ゴム100質量部に対して、たとえば5質量部、好ましくは3質量部である。そのほかの配合剤は、たとえばステアリン酸、ワックス、酸化亜鉛、老化防止剤などである。老化防止剤として、芳香族アミン系老化防止剤、アミン−ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などを挙げることができる。混合機として密閉式混合機、オープンロールなどを挙げることができる。密閉式混合機としてバンバリーミキサー、ニーダーなどを挙げることができる。
【0033】
混合物に加硫系配合剤を添加し、加硫系配合剤を混合物に練り込み、ゴム組成物を得る工程を、実施形態1におけるタイヤ部材の製造方法はさらに含む。加硫系配合剤として硫黄、有機過酸化物などの加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤などを挙げることができる。硫黄として粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを挙げることができる。加硫促進剤としてスルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などを挙げることができる。
【0034】
ゴム組成物は、天然ゴムを含むゴム成分を含む。天然ゴムの量は、ゴム成分100質量%において、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上である。天然ゴム量の上限は、たとえば100質量%である。
【0035】
ゴム組成物は、カーボンブラックをさらに含む。カーボンブラックの量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上である。カーボンブラックの量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは80質量部以下、より好ましくは60質量部以下である。
【0036】
ゴム組成物は、式(I)化合物をさらに含む。式(I)化合物の量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上である。式(I)化合物の量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下である。
【0037】
ゴム組成物は、ステアリン酸、ワックス、酸化亜鉛、老化防止剤、硫黄、加硫促進剤などをさらに含むことができる。硫黄の量は、ゴム成分100質量部に対して、硫黄分換算で好ましくは0.5質量部〜5質量部である。加硫促進剤の量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部〜5質量部である。
【0038】
ゴム組成物の用途は、トレッド、サイドウォール、チェーハー、ビードフィラーなどのタイヤ部材用途である。
【0039】
ゴム組成物からなるタイヤ部材を備える生タイヤをつくる工程を、実施形態1におけるタイヤの製造方法は含む。生タイヤを加熱する工程を実施形態1におけるタイヤの製造方法はさらに含む。実施形態1の方法で得られたタイヤは、空気入りタイヤであることができる。
【0040】
実施形態1の変形例をここで説明する。実施形態1におけるタイヤ部材の製造方法は、カーボンブラックとゴムラテックスとを混合し、カーボンブラックスラリーを得る工程を含むものの、実施形態1の変形例は、この工程の代わりに、カーボンブラックと水とを混合し、カーボンブラックスラリーを得る工程を含む。
【0041】
実施形態2におけるタイヤ部材の製造方法は、カーボンブラックおよびゴムを含む混合物に、式(I)化合物を添加する工程を含む。混合物におけるカーボンブラックの量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上である。カーボンブラックの量は、ゴム100質量部に対して、好ましくは80質量部以下、より好ましくは60質量部以下である。ゴムは、たとえば天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴムなどである。混合物における天然ゴムの量は、ゴム100質量%において、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは100質量%である。式(I)化合物の添加量は、混合物中のゴム100質量部に対して、たとえば0.1〜10質量部である。
【0042】
式(I)化合物を、水の存在下で混合物中に分散し、マスターバッチを得る工程を、実施形態2におけるタイヤ部材の製造方法はさらに含む。混合物の水分量は、混合物中のゴム100質量部に対して、たとえば1質量部以上、好ましくは10質量部以上である。混合物の水分量の上限は、たとえば800質量部、好ましくは600質量部である。マスターバッチについては、実施形態1の説明を援用する。
【0043】
マスターバッチとしゃく解剤、加工助剤などの配合剤と、必要に応じてマスターバッチ由来のゴム以外のゴムとを混合機で乾式混合し、加硫系配合剤添加前混合物を得る工程を、実施形態2におけるタイヤ部材の製造方法はさらに含む。これについては、実施形態1の説明を援用する。
【0044】
加硫系配合剤添加前混合物に加硫系配合剤を添加し、加硫系配合剤を加硫系配合剤添加前混合物に練り込み、ゴム組成物を得る工程を、実施形態2におけるタイヤ部材の製造方法はさらに含む。これについては、実施形態1の説明を援用する。
【0045】
ゴム組成物からなるタイヤ部材を備える生タイヤをつくる工程を、実施形態2におけるタイヤの製造方法は含む。タイヤ部材としてトレッド、サイドウォール、チェーハー、ビードフィラーなどを挙げることができる。実施形態2におけるタイヤの製造方法は、生タイヤを加熱する工程をさらに含む。実施形態2の方法で得られたタイヤは、空気入りタイヤであることができる。
【実施例】
【0046】
以下に、本開示の実施例を説明する。
【0047】
原料・薬品を次に示す。
天然ゴムラテックス(Dry Rubber Content=31.2%) Golden Hope社製
凝固剤 ギ酸(一級85%)ナカライテスク社製 (10%溶液を希釈し、pH1.2に調整し、使用した)
カーボンブラック 「シーストSO」東海カーボン社製
化合物1 (2Z)−4−[(4−アミノフェニル)アミノ]−4−オキソ−2−ブテン酸ナトリウム(式(I’)の化合物) 住友化学社製
酸化亜鉛 「亜鉛華1号」三井金属社製
ステアリン酸 「ルナックS−20」花王社製
ワックス 「OZOACE0355」日本精蝋社製
老化防止剤 「6PPD」(N−フェニル−N'−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン) モンサント社製
しゃく解剤 「ノクタイザーSD」大内新興化学工業社製
加工助剤1 「アクチプラストMS」(脂肪酸亜鉛塩とDBDとの混合物 DBD含有量は5〜10質量%であり、構成脂肪酸の主成分は炭素数18の飽和脂肪酸である。) ラインケミー社製
加工助剤2 「アクチプラストPP」(脂肪酸の亜鉛塩) ラインケミー社製
加工助剤3 「ストラクトール WB16」(カルシウム石鹸と飽和脂肪酸アマイドとの混合物) エスアンドエスジャパン社製
硫黄 「5%油入微粉末硫黄」鶴見化学工業社製
加硫促進剤 「サンセラーNS−G」(N−(tert−ブチル)−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド)三新化学工業社製
【0048】
実施例1〜7・比較例5〜8におけるウエットマスターバッチの作製
濃縮天然ゴムラテックスに25℃で水を加え、固形分(ゴム)濃度0.52質量%の希薄天然ゴムラテックスと、固形分(ゴム)濃度28質量%の天然ゴムラテックスとを得た。希薄天然ゴムラテックス954.8質量部に、50質量部のカーボンブラックを添加し、カーボンブラック添加後の希薄天然ゴムラテックスをPRIMIX社製ロボミックスで撹拌し、カーボンブラック・天然ゴムスラリーを得た。カーボンブラック・天然ゴムスラリーを、固形分(ゴム)濃度28質量%の天然ゴムラテックスに表1にしたがい加え、カーボンブラック・天然ゴムスラリー添加後の天然ゴムラテックスを、SANYO社製家庭用ミキサーで11300rpm、30分で撹拌し、凝固処理前ゴムラテックスを得た。凝固処理前ゴムラテックスに、凝固剤としてのギ酸をpH4になるまで添加し、フィルターで凝固物と廃液とに分離した。凝固物に化合物1を添加し、化合物1添加後の凝固物をスエヒロEPM社製スクリュープレスV−02型(スクイザー式1軸押出脱水機)で180℃で脱水・可塑化しながら、凝固物中に化合物1を分散した。以上の手順で、ウエットマスターバッチを得た。
【0049】
比較例1〜4・9・11におけるウエットマスターバッチの作製
凝固物に化合物1を添加しなかったこと以外は実施例1と同じ手順で、比較例1〜4・9・11のウエットマスターバッチを得た。
【0050】
比較例10・12におけるウエットマスターバッチの作製
凝固物に化合物1を添加する前に、凝固物を実質的に完全に脱水したこと以外は実施例1と同じ手順で、比較例10・12のウエットマスターバッチを作製した。
【0051】
各例における未加硫ゴムの作製
硫黄と加硫促進剤とを除く配合剤を表1にしたがって添加し、神戸製鋼社製のB型バンバリーミキサーで混練りし、ゴム混合物を排出した。ゴム混合物と硫黄と加硫促進剤とをB型バンバリーミキサーで混練りし、未加硫ゴムを得た。
【0052】
ムーニー粘度指数
製造直後における未加硫ゴムのムーニー粘度をJIS K−6300−1に準拠して測定し、比較例1の値を100とした指数で、ムーニー粘度を示した。指数が低いほど、ムーニー粘度が低く、加工性に優れる。
【0053】
保管安定性
未加硫ゴムの保管安定性を、ムーニー粘度を基準に評価した。具体的には、製造直後における未加硫ゴムのムーニー粘度をJIS K−6300−1に準拠して測定し、3か月間標準温度(23±2℃)で未加硫ゴムを保管した後にムーニー粘度をふたたび測定した。製造直後のムーニー粘度を100とした指数で保管後のムーニー粘度を示した。指数が100に近いほど、未加硫ゴムの保管安定性に優れる。
【0054】
【表1】
【0055】
化合物1と加工助剤1との併用は、保管安定性の改善をもたらした。化合物1は単独で、10ポイントの保管安定性改善をもたらした(比較例1・比較例5参照)。加工助剤1は単独で、1ポイントの保管安定性悪化をもたらした(比較例1・比較例2参照)。一方、化合物1と加工助剤1との併用は、18ポイントの保管安定性改善をもたらした(比較例1・実施例1参照)。
【0056】
加工助剤1は、化合物1によるムーニー粘度の増加を効果的に抑えた。化合物1は単独で、21ポイントのムーニー粘度増加をもたらした(比較例1・比較例5参照)。加工助剤1は単独で、9ポイントのムーニー粘度減少をもたらした(比較例1・比較例2参照)。一方、化合物1と加工助剤1との併用は、わずか2ポイントのムーニー粘度増加をもたらした(比較例1・実施例1参照)。