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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-62620(P2018-62620A)
(43)【公開日】2018年4月19日
(54)【発明の名称】タイヤ部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20180323BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20180323BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20180323BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20180323BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20180323BHJP
【FI】
   C08J3/22
   C08J3/20 ACEQ
   C08L21/00
   C08K5/20
   B60C1/00 Z
   B60C1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-202838(P2016-202838)
(22)【出願日】2016年10月14日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 修平
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA05
4F070AC04
4F070AC05
4F070AC12
4F070AC13
4F070AC40
4F070AC47
4F070AE01
4F070AE30
4F070BA02
4F070BA10
4F070BB08
4F070FA04
4F070FA14
4F070FB04
4F070FB06
4F070FB07
4F070FC03
4J002AC001
4J002AC031
4J002AC071
4J002AC081
4J002AC091
4J002DA037
4J002DA116
4J002DE147
4J002DE237
4J002DJ017
4J002DJ037
4J002DJ047
4J002EP016
4J002FD017
4J002FD206
4J002GN01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】押出成型により得られるタイヤ部材であって、ゴム不足に起因した欠損部分の発生が低減されたタイヤ部材の製造方法の提供。
【解決手段】充填材、分散溶媒及びゴムラテックス溶液を原料として得られた充填材含有ゴム凝固物を脱水し、ゴムウエットマスターバッチを製造する工程(iii)、および少なくとも該ゴムウエットマスターバッチを押出成型することによりタイヤ部材を製造する工程(iv)を少なくとも有し、工程(iii)が、式(I)で表される化合物を添加し、水分を含んだ充填材含有ゴム凝固物中で前記化合物を分散させつつ、充填材含有ゴム凝固物を脱水する工程であるタイヤ部材の製造方法。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られた、タイヤ部材の製造方法であって、
前記充填材、前記分散溶媒、および前記ゴムラテックス溶液を混合して、充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i)、前記充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固して、充填材含有ゴム凝固物を製造する工程(ii)、前記充填材含有ゴム凝固物を脱水することにより、ゴムウエットマスターバッチを製造する工程(iii)、および少なくとも前記ゴムウエットマスターバッチを押出成型することによりタイヤ部材を製造する工程(iv)を有し、
前記工程(iii)が、前記充填材含有ゴム凝固物に下記式(I)に記載の化合物:
【化1】
(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)を添加し、水分を含んだ前記充填材含有ゴム凝固物中で前記式(I)に記載の化合物を分散させつつ、前記充填材含有ゴム凝固物を脱水する工程であることを特徴とするタイヤ部材の製造方法。
【請求項2】
前記工程(iii)において、前記式(I)に記載の化合物添加時の前記充填材含有ゴム凝固物中の水分量をWa、前記式(I)に記載の化合物の含有量をWbとしたとき、1≦Wa/Wb≦8100である請求項1に記載のタイヤ部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られた、タイヤ部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴム業界においては、カーボンブラックなどの充填材を含有するタイヤ部材を製造する際の加工性や充填材の分散性を向上させるために、ゴムウエットマスターバッチを用いることが知られている。これは、充填材と分散溶媒とを予め一定の割合で混合し、機械的な力で充填材を分散溶媒中に分散させた充填材含有スラリー溶液と、ゴムラテックス溶液と、を液相で混合し、その後、酸などの凝固剤を加えて凝固させたものを回収して乾燥するものである。ゴムウエットマスターバッチを用いる場合、充填材とゴムとを固相で混合して得られるゴムドライマスターバッチを用いる場合に比べて、充填材の分散性に優れ、加工性や補強性などのゴム物性に優れるタイヤ部材が得られる。このようなタイヤ部材を原料とすることで、例えば転がり抵抗が低減され、耐疲労性に優れた空気入りタイヤなどのゴム製品を製造することができる。
【0003】
製造されたタイヤ部材は、製造後すぐに使用される場合もあるが、一定期間保管された後に使用される場合もある。その保管中の劣化を防止するために、例えば下記特許文献1に記載のとおり、タイヤ部材に老化防止剤を配合することが一般的に行われている。しかしながら、タイヤ部材中に老化防止剤を多量に配合すると、得られる加硫ゴムのゴム物性が悪化する傾向があり、老化防止剤の配合量をできるだけ低く抑えることが要求されている。また、ゴム凝固物の脱水・乾燥工程ではゴム凝固物に対し、熱が加えられるが、熱によりゴム分子の切断が過度に進行し、最終的に得られる加硫ゴムの低発熱性および破断強度の悪化が発生する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−95014号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、タイヤ部材はタイヤ用途で使用される場合が多く、例えばトレッドゴム用に使用されるタイヤ部材では、加硫後にゴムが欠損した部分を含むと、タイヤ製品不良の原因となる場合がある。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、押出成型により得られるタイヤ部材であって、ゴム不足に起因した欠損部分の発生が低減されたタイヤ部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち本発明は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られた、タイヤ部材の製造方法であって、前記充填材、前記分散溶媒、および前記ゴムラテックス溶液を混合して、充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i)、前記充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固して、充填材含有ゴム凝固物を製造する工程(ii)、前記充填材含有ゴム凝固物を脱水することにより、ゴムウエットマスターバッチを製造する工程(iii)、および少なくとも前記ゴムウエットマスターバッチを押出成型することによりタイヤ部材を製造する工程(iv)を有し、前記工程(iii)が、前記充填材含有ゴム凝固物に下記式(I)に記載の化合物:
【化1】
(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)を添加し、水分を含んだ前記充填材含有ゴム凝固物中で前記式(I)に記載の化合物を分散させつつ、前記充填材含有ゴム凝固物を脱水する工程であることを特徴とするタイヤ部材の製造方法、に関する。
【0008】
上記製造方法では、ゴムウエットマスターバッチを製造する工程(iii)において、水分を含んだ充填材含有ゴム凝固物中で上記式(I)に記載の化合物を分散させつつ、充填材含有ゴム凝固物を脱水する。一般に、タイヤ用に使用されるゴムは乾燥状態で疎水性を示す。一方、上記式(I)に記載の化合物は親水性を示すため、乾燥状態のゴムと式(I)に記載の化合物とを乾式混合しても、式(I)に記載の化合物の分散性は向上しない。しかしながら、上記製造方法では、脱水工程に相当する工程(iii)において、水分を含んだ充填材含有ゴム凝固物中に式(I)に記載の化合物を分散させるため、水分を介して式(I)に記載の化合物の分散性が飛躍的に高まる。その結果、充填材含有ゴム凝固物中に式(I)に記載の化合物が高いレベルで分散し、ゴム成分と式(I)に記載の化合物とが効率良く反応する。式(I)に記載の化合物が効率良く反応することにより、ゴム成分の流動性が高くなるため、押出成型した場合に、気泡に起因したゴムウエットマスターバッチの空隙率が著しく低下する。その結果、本発明に係るタイヤ部材の製造方法では、ゴム不足に起因した欠損部分の発生が低減されたタイヤ部材を製造することができる。
【0009】
さらに、本発明は、少なくとも充填材およびゴムを原料として得られた、タイヤ部材の製造方法であって、充填材およびゴムの混合物に対し、下記式(I)に記載の化合物:
【化2】
(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)および水分を添加し、分散させたゴムマスターバッチを押出成型することを特徴とするタイヤ部材の製造方法、に関する。
【0010】
上記製造方法では、水分存在下、充填材およびゴムの混合物に上記式(I)に記載の化合物を分散させる。一般に、タイヤ用に使用されるゴムは乾燥状態で疎水性を示す。一方、上記式(I)に記載の化合物は親水性を示すため、乾燥状態のゴムと式(I)に記載の化合物とを乾式混合しても、式(I)に記載の化合物の分散性は向上しない。しかしながら、上記製造方法では、水分存在下、充填材およびゴムの混合物に上記式(I)に記載の化合物を分散させるため、水分を介して式(I)に記載の化合物の分散性が飛躍的に高まる。その結果、充填材含有ゴム凝固物中に式(I)に記載の化合物が高いレベルで分散し、ゴム成分と式(I)に記載の化合物とが効率良く反応する。(I)に記載の化合物が効率良く反応することにより、ゴム成分の流動性が高くなるため、押出成型した場合に、気泡に起因したゴムウエットマスターバッチの空隙率が著しく低下する。その結果、本発明に係るタイヤ部材の製造方法では、ゴム不足に起因した欠損部分の発生が低減されたタイヤ部材を製造することができる。
【0011】
上記タイヤ部材の製造方法では、前記水分の添加量をWa、前記式(I)に記載の化合物の添加量をWbとしたとき、1≦Wa/Wb≦8100であることが好ましい。上記のとおり、式(I)に記載の化合物は水分存在下、水分を介して充填材およびゴムの混合物中での分散性が著しく向上する。特に、1≦Wa/Wb≦7500であると、式(I)に記載の化合物の分散性と、充填材およびゴムの混合物中の水分除去に必要な時間短縮とがバランス良く達成可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るタイヤ部材の製造方法は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として使用する。
【0013】
本発明において、充填材とは、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウムなど、ゴム工業において通常使用される無機充填材を意味する。上記無機充填材の中でも、本発明においてはカーボンブラックを特に好適に使用することができる。
【0014】
カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックの他、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、通常のゴム工業において、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。
【0015】
分散溶媒としては、特に水を使用することが好ましいが、例えば有機溶媒を含有する水であってもよい。
【0016】
ゴムラテックス溶液としては、天然ゴムラテックス溶液および合成ゴムラテックス溶液を使用することができる。
【0017】
天然ゴムラテックス溶液は、植物の代謝作用による天然の生産物であり、特に分散溶媒が水である、天然ゴム/水系のものが好ましい。本発明において使用する天然ゴムラテックス中の天然ゴムの数平均分子量は、200万以上であることが好ましく、250万以上であることがより好ましい。天然ゴムラテックス溶液については濃縮ラテックスやフィールドラテックスといわれる新鮮ラテックスなど区別なく使用できる。合成ゴムラテックス溶液としては、例えばスチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴムを乳化重合により製造したものがある。
【0018】
本発明においては、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られた充填材含有ゴム凝固物を脱水する際、下記式(I)に記載の化合物を添加する。
【化3】
(式(I)中、RおよびRは、水素原子、ならびに炭素数1〜20のアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基を示し、RおよびRは同一であっても異なっていてもよい。Mはナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを示す。)
【0019】
なお、充填材、特にはカーボンブラックへの親和性を高めるためには、式(I)中のRおよびRが水素原子であり、Mがナトリウムイオンである下記式(I’)に記載の化合物:
【化4】
を使用することが特に好ましい。
【0020】
ゴム不足に起因した欠損部分の発生を効果的に抑制するためには、タイヤ部材に含まれるゴム成分の全量を100質量部としたとき、式(I)に記載の化合物の配合量は0.1〜10質量部であることが好ましく、0.5〜8質量部であることがより好ましい。
【0021】
以下に、本発明に係るタイヤ部材の製造方法について具体的に説明する。かかる製造方法は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られた、タイヤ部材の製造方法であって、前記充填材、前記分散溶媒、および前記ゴムラテックス溶液を混合して、充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i)、前記充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固して、充填材含有ゴム凝固物を製造する工程(ii)、前記充填材含有ゴム凝固物を脱水することにより、ゴムウエットマスターバッチを製造する工程(iii)、および少なくとも前記ゴムウエットマスターバッチを押出成型することによりタイヤ部材を製造する工程(iv)を有し、前記工程(iii)が、前記充填材含有ゴム凝固物に上記式(I)に記載の化合物を添加し、水分を含んだ前記充填材含有ゴム凝固物中で前記式(I)に記載の化合物を分散させつつ、前記充填材含有ゴム凝固物を脱水する工程であることを特徴とする。
【0022】
(1)工程(i)
工程(i)では、充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を混合して、充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する。特に、本発明においては、前記工程(i)が、前記充填材を前記分散溶媒中に分散させる際に、前記ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液を製造する工程(i−(a))、およびゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液と、残りの前記ゴムラテックス溶液とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(i−(b))を含むことが好ましい。以下に、工程(i−(a))および工程(i−(b))について説明する。特に、本実施形態では、充填材としてカーボンブラックを使用した例について説明する。
【0023】
工程(i−(a))
工程(i−(a))では、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際に、ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する。ゴムラテックス溶液は、あらかじめ分散溶媒と混合した後、カーボンブラックを添加し、分散させても良い。また、分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで所定の添加速度で、ゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させても良く、あるいは分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで何回かに分けて一定量のゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させても良い。ゴムラテックス溶液が存在する状態で、分散溶媒中にカーボンブラックを分散させることにより、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造することができる。工程(i−(a))におけるゴムラテックス溶液の添加量としては、使用するゴムラテックス溶液の全量(工程(i−(a))および工程(i−(b))で添加する全量)に対して、0.075〜12質量%が例示される。
【0024】
工程(i−(a))では、添加するゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量が、カーボンブラックとの質量比で0.25〜15%であることが好ましく、0.5〜6%であることが好ましい。また、添加するゴムラテックス溶液中の固形分(ゴム)濃度が、0.2〜5質量%であることが好ましく、0.25〜1.5質量%であることがより好ましい。これらの場合、ゴムラテックス粒子をカーボンブラックに確実に付着させつつ、カーボンブラックの分散度合いを高めたゴムウエットマスターバッチを製造することができる。
【0025】
工程(i−(a))において、ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合する方法としては、高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用してカーボンブラックを分散させる方法が挙げられる。
【0026】
上記「高せん断ミキサー」とは、ローターとステーターとを備えるミキサーであって、高速回転が可能なローターと、固定されたステーターと、の間に精密なクリアランスを設けた状態でローターが回転することにより、高せん断作用が働くミキサーを意味する。このような高せん断作用を生み出すためには、ローターとステーターとのクリアランスを0.8mm以下とし、ローターの周速を5m/s以上とすることが好ましい。このような高せん断ミキサーは、市販品を使用することができ、例えばSILVERSON社製「ハイシアーミキサー」が挙げられる。
【0027】
本発明においては、ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合し、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する際、カーボンブラックの分散性向上のために界面活性剤を添加しても良い。界面活性剤としては、ゴム業界において公知の界面活性剤を使用することができ、例えば非イオン性界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両イオン系界面活性剤などが挙げられる。また、界面活性剤に代えて、あるいは界面活性剤に加えて、エタノールなどのアルコールを使用しても良い。ただし、界面活性剤を使用した場合、最終的な加硫ゴムのゴム物性が低下することが懸念されるため、界面活性剤の配合量は、ゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量100質量部に対して、2質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、実質的に界面活性剤を使用しないことが好ましい。
【0028】
工程(i−(b))
工程(i−(b))では、スラリー溶液と、残りのゴムラテックス溶液とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造する。スラリー溶液と、残りのゴムラテックス溶液とを液相で混合する方法は特に限定されるものではなく、スラリー溶液および残りのゴムラテックス溶液とを高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用して混合する方法が挙げられる。必要に応じて、混合の際に分散機などの混合系全体を加温してもよい。
【0029】
残りのゴムラテックス溶液は、次工程(iii)での脱水時間・労力を考慮した場合、工程(i−(a))で添加したゴムラテックス溶液よりも固形分(ゴム)濃度が高いことが好ましく、具体的には固形分(ゴム)濃度が10〜60質量%であることが好ましく、20〜30質量%であることがより好ましい。
【0030】
(2)工程(ii)
工程(ii)では、充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固して、充填材含有ゴム凝固物を製造する。凝固方法としては、ゴムラテックス粒子が付着した充填材含有ゴムラテックス溶液中に凝固剤を含有させる方法が例示可能である。この場合、凝固剤としては、ゴムラテックス溶液の凝固用として通常使用されるギ酸、硫酸などの酸や、塩化ナトリウムなどの塩を使用することができる。なお、工程(ii)の後、工程(iii)の前に、必要に応じて、充填材含有ゴム凝固物が含む水分量を適度に低減する目的で、例えば遠心分離工程や加熱工程などの固液分離工程を設けても良い。
【0031】
(3)工程(iii)
工程(iii)では、充填材含有ゴム凝固物を脱水することにより、ゴムウエットマスターバッチを製造する。工程(iii)では例えば、単軸押出機を使用し、100〜250℃に加熱しつつ、充填材含有ゴム凝固物にせん断力を付与しながら脱水することが可能である。本発明においては、特に工程(iii)において、充填材含有ゴム凝固物に上記式(I)に記載の化合物を添加し、水分を含んだ充填材含有ゴム凝固物中で式(I)に記載の化合物を分散させつつ、充填材含有ゴム凝固物を脱水する。工程(iii)開始前の充填材含有ゴム凝固物の水分率は特に限定されるものではないが、前記固液分離工程などを必要に応じて設けて、後述するWa/Wbが適切な範囲となるように水分率を調整することが好ましい。
【0032】
上記のとおり、水分存在下で、充填材含有ゴム凝固物中に式(I)に記載の化合物を分散させることにより、その分散性が著しく向上する。特に式(I)に記載の化合物添加時の充填材含有ゴム凝固物の水分量をWa、式(I)に記載の化合物の含有量をWbとしたとき、1≦Wa/Wb≦8100であることが好ましい。Wa/Wbが1未満であると、充填材含有ゴム凝固物中での式(I)に記載の化合物の分散性が十分に向上しない場合がある。式(I)に記載の化合物の分散性をさらに向上させるためには、Wa/Wbが1以上であることが好ましい。一方、Wa/Wbが8100を超える場合、脱水させる水分が著しく多くなるため、ゴムウエットマスターバッチの生産性が悪化する傾向がある。ゴムウエットマスターバッチの生産性を考慮した場合、Wa/Wbは7500以下であることが好ましい。
【0033】
工程(iii)の後、必要に応じてさらにゴムウエットマスターバッチの水分率を低減するため、別途、乾燥工程を設けても良い。ゴムウエットマスターバッチの乾燥方法としては、単軸押出機、オーブン、真空乾燥機、エアードライヤーなどの各種乾燥装置を使用することができる。
【0034】
(4)工程(iv)
工程(iv)では、必要に応じてゴムウエットマスターバッチと各種配合剤とを乾式混合し、これらを押出成型することによりタイヤ部材を製造する。押出成型方法については後述する。使用可能な配合剤としては、例えば、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、メチレン受容体およびメチレン供与体、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、有機過酸化物、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤が挙げられる。
【0035】
硫黄系加硫剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。本発明に係るタイヤ部材における硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.3〜6.5質量部であることが好ましい。硫黄の含有量が0.3質量部未満であると、加硫ゴムの架橋密度が不足してゴム強度などが低下し、6.5質量部を超えると、特に耐熱性および耐久性の両方が悪化する。加硫ゴムのゴム強度を良好に確保し、耐熱性と耐久性をより向上するためには、硫黄の含有量がゴム成分100質量部に対して1.5〜5.5質量部であることがより好ましい。
【0036】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して1〜5質量部であることが好ましい。
【0037】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン−ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して1〜5質量部であることが好ましい。
【0038】
ゴムウエットマスターバッチ(必要に応じて、各種配合剤を配合)の押出成型方法は、ゴム業界において公知の手法を用いて行うことができる。使用する押出機としては、一般的な単軸押出機および多軸押出機などが使用可能であり、吐出側の口金を工夫することにより、所望の形状のタイヤ部材を製造することができる。本発明に係る製造方法により製造可能なタイヤ部材としては、ゴムの欠損部分が低減されることが好ましい部材、例えばトレッドゴムなどが挙げられる。
【0039】
上記タイヤ部材の製造方法では、押出成型することにより得られるタイヤ部材の欠損部分をさらに低減するために、押出成型前のゴムウエットマスターバッチ(必要に応じて、各種配合剤を配合)の水分率を下げることが好ましく、具体的には水分率を5質量%以下に下げることがより好ましい。
【0040】
なお、さらに本発明は、少なくとも充填材およびゴムを原料として得られた、タイヤ部材の製造方法であって、充填材およびゴムの混合物に対し、上記式(I)に記載の化合物および水分を添加し、分散させたゴムウエットマスターバッチを押出成型することを特徴とするタイヤ部材の製造方法、に関する。充填材は、上記ゴムウエットマスターバッチの製造方法で使用するものと同じものを使用可能であり、ゴムは当業者に公知のジエン系ゴム、例えば天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリスチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)などが使用可能である。
【実施例】
【0041】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。
【0042】
(使用原料)
a)カーボンブラック
カーボンブラック「N121」(CSRC社製)
b)分散溶媒 水
c)ゴムラテックス溶液
天然ゴムラテックス溶液(NRフィールドラテックス);Golden Hope社製(DRC=31.2%)
d)式(I)に記載の化合物
(2Z)−4−[(4−アミノフェニル)アミノ]−4−オキソ−2−ブテン酸ナトリウム(住友化学株式会社製)
e)凝固剤 ギ酸(一級85%、10%溶液を希釈して、pH1.2に調整したもの)、「ナカライテスク社製」
f)酸化亜鉛 亜鉛華1号(三井金属社製)
g)ステアリン酸;「ルナックS−20」(花王株式会社製)
h)ワックス;「OZOACE0355」(日本精蝋社製)
i)老化防止剤 N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン「6PPD」、(モンサント社製)
j)硫黄 「5%油入微粉末硫黄」(鶴見化学工業社製)
k)加硫促進剤 「サンセラーNS−G」(三新化学工業社製)
【0043】
実施例1
濃度0.52質量%に調整した天然ゴム希薄ラテックス水溶液に、表1に記載の配合量となるようにカーボンブラックを添加し(水に対するカーボンブラックの濃度は5質量%)、これにPRIMIX社製ロボミックスを使用してカーボンブラックを分散させることにより(該ロボミックスの条件:9000rpm、30分)、表1に記載の天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液を製造した(工程(i)−(a))。次に、工程(i−(a))で製造された天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液に、天然ゴムラテックス溶液(28質量%)を、表1に記載の配合量となるように添加し、次いでSANYO社製家庭用ミキサーSM−L56型を使用して混合し(ミキサー条件11300rpm、30分)、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造した(工程(i))。
【0044】
工程(i)で製造された天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液に、凝固剤としての蟻酸を溶液全体がpH4となるまで添加し、カーボンブラック含有天然ゴム凝固物を製造した(工程(ii))。得られたカーボンブラック含有天然ゴム凝固物に対し、必要に応じて固液分離工程を実施することにより、表1に記載の水分量となるように調整したカーボンブラック含有天然ゴム凝固物および式(I)に記載の化合物をスエヒロEPM社製スクリュープレスV−01型に投入し、カーボンブラック含有天然ゴム凝固物中、式(I)に記載の化合物を分散させつつ、カーボンブラック含有天然ゴム凝固物を脱水して、ゴムウエットマスターバッチ(を製造した(工程(iii))。工程(iii)における、Wa/Wbの値を表1に示す。
【0045】
実施例1で得られたゴムウエットマスターバッチおよび表1に記載の各種配合剤をバンバリーミキサーを用いて乾式混合し、これらを単軸押出機を使用して押出成型した(工程(iv))。なお、表1中の配合比率は、ゴム成分の全量を100質量部としたときの質量部(phr)で示す。
【0046】
比較例1〜2
ゴムウエットマスターバッチを製造することに代えて、ゴム成分、カーボンブラックおよび表1に記載の各種配合剤をバンバリーミキサーを用いて、完全に乾燥した状態で乾式混合することにより、タイヤ部材を製造した。
【0047】
比較例3〜4
工程(iii)において、充填材含有ゴム凝固物に式(I)に記載の化合物を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法によりタイヤ部材を製造した。
【0048】
比較例5
工程(iii)において、充填材含有ゴム凝固物を完全に乾燥した段階で式(I)に記載の化合物を添加したこと以外は、実施例1と同様の方法によりタイヤ部材を製造した。
【0049】
得られたタイヤ部材の欠損部分の有無を、気泡率により評価した。気泡率(AB)は加硫後のタイヤ部材の比重を(P0)、押出成型後の未加硫ゴムの比重を(P)とし、下記式;
(AB)=(1−(P))/(P0)
から算出した。比較例1を100とした指数評価を行い、数値が小さい方が気泡率が低く、ゴムの欠損発生が抑制されていることを意味する。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】