特開2018-62622(P2018-62622A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋ゴム工業株式会社の特許一覧

特開2018-62622ゴムウエットマスターバッチの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-62622(P2018-62622A)
(43)【公開日】2018年4月19日
(54)【発明の名称】ゴムウエットマスターバッチの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/22 20060101AFI20180323BHJP
【FI】
   C08J3/22CEQ
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-202848(P2016-202848)
(22)【出願日】2016年10月14日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 修平
【テーマコード(参考)】
4F070
【Fターム(参考)】
4F070AA05
4F070AC04
4F070AE01
4F070FA05
4F070FB04
4F070FC03
(57)【要約】
【課題】小粒径のカーボンブラックを配合した場合であっても、加硫ゴムの耐疲労性を向上し得るゴムウエットマスターバッチの製造方法を提供すること。
【解決手段】充填材を分散溶媒中に分散させる際に、ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した充填材を含有するスラリー溶液を製造する工程(I)、ゴムラテックス粒子が付着した充填材を含有するスラリー溶液と、残りのゴムラテックス溶液とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着した充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(II)、および充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固・乾燥させる工程(III)を有し、充填材は、窒素吸着比表面積(NSA)とよう素吸着量(IA)との比((NSA)/(IA))が1.00以上であるゴムウエットマスターバッチの製造方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られるゴムウエットマスターバッチの製造方法であって、
前記充填材を前記分散溶媒中に分散させる際に、前記ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液を製造する工程(I)、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液と、残りの前記ゴムラテックス溶液とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(II)、および前記充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固・乾燥させる工程(III)を有し、
前記充填材は、窒素吸着比表面積(NSA)とよう素吸着量(IA)との比((NSA)/(IA))が1.00以上であることを特徴とするゴムウエットマスターバッチの製造方法。
【請求項2】
前記充填材の窒素吸着比表面積(NSA)が100m/g以上である請求項1に記載のゴムウエットマスターバッチの製造方法。
【請求項3】
前記充填材のDBP吸収量(DBP)と圧縮DBP吸収量(24M4DBP)との差((DBP)−(24M4DBP))が25以下である請求項1または2に記載のゴムウエットマスターバッチの製造方法。
【請求項4】
ゴムウエットマスターバッチ中のゴム成分の全量を100質量部としたとき、前記充填材の含有量が60質量部未満である請求項1〜3のいずれかに記載のゴムウエットマスターバッチの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られるゴムウエットマスターバッチの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴム業界においては、カーボンブラックなどの充填材を含有するゴム組成物を製造する際の加工性や充填材の分散性を向上させるために、ゴムウエットマスターバッチを用いることが知られている。これは、充填材と分散溶媒とを予め一定の割合で混合し、機械的な力で充填材を分散溶媒中に分散させた充填材含有スラリー溶液と、ゴムラテックス溶液と、を液相で混合し、その後、酸などの凝固剤を加えて凝固させたものを回収して乾燥するものである。ゴムウエットマスターバッチを用いる場合、充填材とゴムとを固相で混合して得られるゴムドライマスターバッチを用いる場合に比べて、充填材の分散性に優れ、加工性や補強性などのゴム物性に優れるゴム組成物が得られる。このようなゴム組成物を原料とすることで、例えば転がり抵抗が低減され、耐疲労性に優れた空気入りタイヤなどのゴム製品を製造することができる。
【0003】
使用される充填材は、大粒径のものから小粒径のものまで、用途に応じて適宜選択される。例えば、小粒径のカーボンブラックを使用した場合、得られる加硫ゴムの強度および耐摩耗性などが向上する。しかしながら、小粒径のカーボンブラックは原料となるゴム組成物中で凝集し易く、得られる加硫ゴムの耐疲労性が悪化する傾向があった。
【0004】
下記特許文献1〜3では、小粒径のカーボンブラックを配合したゴムウエットマスターバッチが記載されているが、加硫ゴムの耐疲労性を向上する観点から、さらなる改良の余地があることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2016−519196号公報
【特許文献2】特開2016−37547号公報
【特許文献3】特開2015−214626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、小粒径のカーボンブラックを配合した場合であっても、加硫ゴムの耐疲労性を向上し得るゴムウエットマスターバッチの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られるゴムウエットマスターバッチの製造方法であって、前記充填材を前記分散溶媒中に分散させる際に、前記ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液を製造する工程(I)、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液と、残りの前記ゴムラテックス溶液とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(II)、および前記充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固・乾燥させる工程(III)を有し、前記充填材は、窒素吸着比表面積(NSA)とよう素吸着量(IA)との比((NSA)/(IA))が1.00以上であることを特徴とするゴムウエットマスターバッチの製造方法、に関する。
【0008】
本発明に係るゴムウエットマスターバッチの製造方法では、充填材を分散溶媒中に分散させる際に、ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した充填材を含有するスラリー溶液を製造する(工程(I))。これにより、充填材の表面の一部あるいは全部に、極薄いラテックス相が生成し、工程(II)において残りのゴムラテックス溶液と混合する際、充填材の再凝集を防止することができ、かつゴムラテックス粒子が付着した充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固・乾燥する工程(III)においても、充填材の再凝集を抑制することができる。その結果、充填材が均一に分散し、経時的にも充填材の分散安定性に優れたゴムウエットマスターバッチが得られる。
【0009】
ところで、充填材の窒素吸着比表面積(NSA)とよう素吸着量(IA)との比((NSA)/(IA))は、充填材の表面活性を示し、この値が高いほど、ゴムと充填材との相互作用が強くなる。上記のとおり、本発明に係る製造方法では、ゴムウエットマスターバッチが工程(I)〜(III)を経由して製造され、かつ使用する充填材としてゴムと相互作用が強いものを使用するため、充填材の分散性が非常に優れたものとなる。その結果、最終的に製造される加硫ゴム中でも充填材の分散性が非常に優れるため、その耐疲労性が向上する。
【0010】
上記ゴムウエットマスターバッチの製造方法において、前記充填材の窒素吸着比表面積(NSA)が100m/g以上であることが好ましい。また、上記ゴムウエットマスターバッチの製造方法において、前記充填材のDBP吸収量(DBP)と圧縮DBP吸収量(24M4DBP)との差((DBP)−(24M4DBP))が25以下であることが好ましい。これらの構成によれば、小粒径の充填材を使用することによる効果、例えばゴム強度や耐疲労性の向上が特に期待できる。
【0011】
上記ゴムウエットマスターバッチの製造方法において、ゴムウエットマスターバッチ中のゴム成分の全量を100質量部としたとき、前記充填材の含有量が60質量部未満であることが好ましい。充填材の含有量を低く抑えることで、充填材の凝集を防止し、加硫ゴムの耐疲労性をより向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料として得られるゴムウエットマスターバッチの製造方法に関する。
【0013】
本発明において、充填材とは、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウムなど、ゴム工業において通常使用される無機充填材を意味する。上記無機充填材の中でも、本発明においてはカーボンブラックを使用することが好ましい。
【0014】
本発明においては、窒素吸着比表面積(NSA)とよう素吸着量(IA)との比((NSA)/(IA))が1.00以上であるカーボンブラックを使用することが好ましい。この条件を満たすカーボンブラックとしては、例えばASTM D1765に規定されたN120((NSA);126m/g、(IA);122mg/g)、N121((NSA);122m/g、(IA);121mg/g)、N125((NSA);122m/g、(IA);117mg/g)、N134((NSA);143m/g、(IA);142mg/g)、N339((NSA);91m/g、(IA);90mg/g)、N343((NSA);96m/g、(IA);92mg/g)、N351((NSA);71m/g、(IA);68mg/g)、N375((NSA);93m/g、(IA);90mg/g)、N642((NSA);39m/g、(IA);36mg/g)、N650((NSA);36m/g、(IA);36mg/g)、N683((NSA);36m/g、(IA);35mg/g)、N754((NSA);25m/g、(IA);24mg/g)、N762((NSA);29m/g、(IA);27mg/g)、N765((NSA);34m/g、(IA);31mg/g)、N772((NSA);32m/g、(IA);30mg/g)、N774((NSA);30m/g、(IA);29mg/g)、N787(NSA);32m/g、(IA);30mg/g)などが挙げられる。なお、窒素吸着比表面積(NSA)およびよう素吸着量(IA)は、いずれもJIS K6217−1に基づいて測定可能である。
【0015】
また、本発明においては、カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)が100m/g以上であることが好ましい。さらに、カーボンブラックのDBP吸収量(DBP)と圧縮DBP吸収量(24M4DBP)との差((DBP)−(24M4DBP))が25以下であることが好ましい。なお、DBP吸収量(DBP)および圧縮DBP吸収量(24M4DBP)は、いずれもJIS K6217−4に基づいて測定可能である。
【0016】
使用するカーボンブラックは、通常のゴム工業において、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒物であってもよく、未造粒物であってもよい。
【0017】
ゴムウエットマスターバッチの中のゴム成分(固形分)の全量を100質量部としたとき、カーボンブラックの含有量は60質量部未満であることが好ましい。一方、カーボンブラックの含有量の下限としては、例えば30質量部が例示可能である。
【0018】
分散溶媒としては、特に水を使用することが好ましいが、例えば有機溶媒を含有する水であってもよい。
【0019】
ゴムラテックス溶液としては、天然ゴムラテックス溶液および合成ゴムラテックス溶液を使用することができる。
【0020】
天然ゴムラテックス溶液は、植物の代謝作用による天然の生産物であり、特に分散溶媒が水である、天然ゴム/水系のものが好ましい。天然ゴムラテックス溶液については濃縮ラテックスやフィールドラテックスといわれる新鮮ラテックスなど区別なく使用できる。合成ゴムラテックス溶液としては、例えばスチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴムを乳化重合により製造したものがある。
【0021】
以下に、本発明に係るゴムウエットマスターバッチの製造方法について、カーボンブラックを使用した形態について説明する。かかる製造方法は、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際に、ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する工程(I)、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液と、残りの前記ゴムラテックス溶液とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(II)、およびカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を凝固・乾燥させる工程(III)を有する。
【0022】
工程(I)において、ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合する方法としては、高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサーなどの分散機を使用してカーボンブラックを分散させる方法が挙げられる。
【0023】
上記「高せん断ミキサー」とは、ローターとステーターとを備えるミキサーであって、高速回転が可能なローターと、固定されたステーターと、の間に精密なクリアランスを設けた状態でローターが回転することにより、高せん断作用が働くミキサーを意味する。このような高せん断作用を生み出すためには、ローターとステーターとのクリアランスを0.8mm以下とし、ローターの周速を5m/s以上とすることが好ましい。このような高せん断ミキサーは、市販品を使用することができ、例えばSILVERSON社製「ハイシアーミキサー」が挙げられる。
【0024】
(1)工程(I)
工程(I)では、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際に、ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する。ゴムラテックス溶液は、あらかじめ分散溶媒と混合した後、充填材を添加し、分散させても良い。また、分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで所定の添加速度で、ゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させても良く、あるいは分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで何回かに分けて一定量のゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させても良い。ゴムラテックス溶液が存在する状態で、分散溶媒中にカーボンブラックを分散させることにより、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造することができる。工程(I)におけるゴムラテックス溶液の添加量としては、使用するゴムラテックス溶液の全量(工程(I)および工程(II)で添加する全量)に対して、0.075〜12質量%が例示される。
【0025】
工程(I)では、添加するゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量が、カーボンブラックとの質量比で0.25〜15%であることが好ましく、0.5〜6%であることが好ましい。また、添加するゴムラテックス溶液中の固形分(ゴム)濃度が、0.2〜5質量%であることが好ましく、0.25〜1.5質量%であることがより好ましい。これらの場合、ゴムラテックス粒子をカーボンブラックに確実に付着させつつ、カーボンブラックの分散度合いを高めたゴムウエットマスターバッチを製造することができる。
【0026】
本発明においては、ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合し、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する際、カーボンブラックの分散性向上のために界面活性剤を添加しても良い。界面活性剤としては、ゴム業界において公知の界面活性剤を使用することができ、例えば非イオン性界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両イオン系界面活性剤などが挙げられる。また、界面活性剤に代えて、あるいは界面活性剤に加えて、エタノールなどのアルコールを使用しても良い。ただし、界面活性剤を使用した場合、最終的な加硫ゴムのゴム物性が低下することが懸念されるため、界面活性剤の配合量は、ゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量100質量部に対して、2質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、実質的に界面活性剤を使用しないことが好ましい。
【0027】
工程(I)において製造されるスラリー溶液中、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックは、90%体積粒径(μm)(「D90」)が、31μm以上であることが好ましく、35μm以上であることがより好ましい。この場合、スラリー溶液中のカーボンブラックの分散性に優れ、かつカーボンブラックの再凝集を防止することができるため、スラリー溶液の保存安定性に優れると共に、最終的な加硫ゴムの発熱性、耐久性およびゴム強度にも優れる。
【0028】
(2)工程(II)
工程(II)では、スラリー溶液と、残りのゴムラテックス溶液とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造する。スラリー溶液と、残りのゴムラテックス溶液とを液相で混合する方法は特に限定されるものではなく、スラリー溶液および残りのゴムラテックス溶液とを高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用して混合する方法が挙げられる。必要に応じて、混合の際に分散機などの混合系全体を加温してもよい。
【0029】
残りのゴムラテックス溶液は、工程(III)での乾燥時間・労力を考慮した場合、工程(I)で添加したゴムラテックス溶液よりも固形分(ゴム)濃度が高いことが好ましく、具体的には固形分(ゴム)濃度が10〜60質量%であることが好ましく、20〜30質量%であることがより好ましい。
【0030】
(3)工程(III)
工程(III)では、カーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を凝固させる。凝固方法としては、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液中に凝固剤を添加して凝固物を得る方法が挙げられる。
【0031】
凝固剤としては、ゴムラテックス溶液の凝固用として通常使用されるギ酸、硫酸などの酸や、塩化ナトリウムなどの塩を使用することができる。
【0032】
工程(III)では、凝固段階で得られた凝固物を溶液から分離(固液分離)し、乾燥してゴムウエットマスターバッチを製造する。固液分離段階では、必要に応じて、カーボンブラック含有ゴムラテックス溶液中に、凝集剤を含有させた後、得られた凝集体を回収し、乾燥させてもよい。凝集剤としては、ゴムラテックス溶液の凝集剤として公知のものを限定なく使用でき、具体的には例えば、カチオン性凝集剤が挙げられる。また、固液分離は当業者に公知の手法、例えば遠心分離やろ過などを実施することができる。
【0033】
凝固物の乾燥方法としては、オーブン、真空乾燥機、エアードライヤーなどの各種乾燥装置を使用することができる。
【0034】
工程(III)実施後、得られたゴムウエットマスターバッチと各種配合剤とを乾式混合する。使用可能な配合剤としては、例えば、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、メチレン受容体およびメチレン供与体、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、有機過酸化物、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤が挙げられる。
【0035】
硫黄系加硫剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。本発明に係るゴム組成物における硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.3〜6質量部であることが好ましい。硫黄の含有量が0.3質量部未満であると、加硫ゴムの架橋密度が不足してゴム強度などが低下し、6.5質量部を超えると、特に耐熱性および耐久性の両方が悪化する。加硫ゴムのゴム強度を良好に確保し、耐熱性と耐久性をより向上するためには、硫黄の含有量がゴム成分100質量部に対して1.5〜5.5質量部であることがより好ましい。
【0036】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して1.0〜5.0質量部であることが好ましい。
【0037】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン−ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.5〜6.0質量部であることが好ましい。
【0038】
上述のとおり、工程(III)で得られるゴムウエットマスターバッチは、カーボンブラックの分散性に優れる。このため、このゴム組成物を用いて製造された空気入りタイヤ、具体的にはトレッドゴム、サイドゴム、プライもしくはベルトコーティングゴム、またはビードフィラーゴムに本発明に係るゴム組成物を使用した空気入りタイヤは、耐疲労性能が優れたゴム部を備える。
【実施例】
【0039】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。
【0040】
(使用原料)
a)充填材
カーボンブラックA 「ニテロン#300IH」(新日化カーボン社製)
カーボンブラックB 「シースト7HM」(東海カーボン社製)
カーボンブラックC 「VULCAN7H」(Cabot社製)
カーボンブラックA〜Cの(NSA)、(IA)、((NSA)/(IA))、(DBP)、(24M4DBP)および((DBP)−(24M4DBP))の値を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
b)分散溶媒 水
c)ゴムラテックス溶液 天然ゴムラテックス溶液(NRフィールドラテックス);(Golden Hope社製)(DRC=31.2%のものをゴム濃度が25質量%となるように調整、質量平均分子量Mw=23.2万)
d)凝固剤 ギ酸(一級85%、10%溶液を希釈して、pH1.2に調整したもの);「ナカライテスク社製」
e)亜鉛華 亜鉛華1種;(三井金属社製)
f)ステアリン酸;「ルナックS−20」(花王社製)
g)ワックス;「OZOACE0355」(日本精蝋社製)
h)老化防止剤 N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン;「6PPD」、(モンサント社製)
i)硫黄;「粉末硫黄」(鶴見化学工業社製)
j)加硫促進剤;「CBS」(三新化学社製)
k)天然ゴム RSS#3
【0043】
実施例1〜2、比較例3
濃度0.52質量%に調整した天然ゴム希薄ラテックス水溶液に、表2に記載の配合量となるようにカーボンブラックを添加し(水に対するカーボンブラックの濃度は5質量%)、これにPRIMIX社製ロボミックスを使用してカーボンブラックを分散させることにより(該ロボミックスの条件:9000rpm、30分)、表1に記載の天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液を製造した(工程(I))。次に、工程(I)で製造された天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液に、天然ゴムラテックス溶液28質量%を、表2に記載の配合量となるように添加し、次いでSANYO社製家庭用ミキサーSM−L56型を使用して混合し(ミキサー条件11300rpm、30分)、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造した(工程(II))。
【0044】
工程(II)で製造された天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液に、凝固剤としての蟻酸を溶液全体がpH4となるまで添加し、カーボンブラック含有天然ゴム凝固物を製造した。得られたカーボンブラック含有天然ゴム凝固物に対し、カーボンブラック含有天然ゴム凝固物をスエヒロEPM社製スクリュープレスV−01型に投入し、カーボンブラック含有天然ゴム凝固物を脱水して、ゴムウエットマスターバッチ(を製造した(工程(III))。
【0045】
上記で得られたゴムウエットマスターバッチおよび表2に記載の各種配合剤をバンバリーミキサーを用いて乾式混合することにより、ゴム組成物を製造した。なお、表2中の配合比率は、ゴム成分の全量を100質量部としたときの質量部(phr)で示す。
【0046】
比較例1
天然ゴム、カーボンブラックおよび各種配合剤をバンバリーミキサーを用いて乾式混合することによりゴム組成物を製造した。
【0047】
比較例2
天然ゴムラテックス溶液全量と、カーボンブラックおよび水を表2記載の配合量で混合してゴムウエットマスターバッチを製造し、これと表2に記載の各種配合剤をバンバリーミキサーを用いて乾式混合することにより、ゴム組成物を製造した。
【0048】
(評価)
評価は、各ゴム組成物を所定の金型を使用して、150℃で30分間加熱、加硫して得られたゴムについて行った。
【0049】
(耐疲労性)
JIS K6260に準じて、製造した加硫ゴムの耐疲労性を、比較例1の値を100として指数評価した。数値が大きいほど耐疲労性に優れることを意味する。結果を表2に示す。
【0050】
【表2】