【解決手段】ジエン系ゴムと、石油由来ワックスと、脂肪酸金属塩と、式(I)で表される化合物と、を含み、フェニレンジアミン系老化防止剤の配合量が1質量部未満であり、石油由来ワックスに最も多く含まれる炭化水素の炭素数(Cmw)から脂肪酸金属塩に最も多く含まれる構成脂肪酸の炭素数(Cmf)を引いた差(Δ=Cmw−Cmf)が−10〜8であるゴム組成物を有する空気入りタイヤ。
前記ゴム組成物は、前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記石油由来ワックス0.1〜10質量部と、前記脂肪酸金属塩0.5〜10質量部と、前記式(I)で表される化合物0.1〜10質量部と、を配合してなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのトレッドゴムやサイドウォールゴム、リムストリップを形成するゴム組成物には、空気中のオゾンや紫外線による劣化を抑制するために、ワックス及び老化防止剤が配合されている。ワックス及び老化防止剤は、耐オゾン性などの劣化抑制効果を有する反面、ゴム表面へのブルームにより当該ゴム表面を白色化及び赤茶色化して変色することで、タイヤの外観不良の要因となる。そのため、耐オゾン性を維持しつつ、白色化及び赤茶色の変色を抑制することが求められる。
【0003】
ワックスによる白色化を抑制するため、特許文献1には、極性ゴムとシリカとカーボンブラックを含むゴム組成物に、低軟化点成分を有する天然系ワックスと高軟化点成分を有する極性天然系ワックスとを配合することが開示されている。また、極性ゴムであるエポキシ化天然ゴムに含まれる酸を中和するために、ステアリン酸カルシウムなどのアルカリ性脂肪酸金属塩を配合することも開示されている。しかし、この文献では、石油由来ワックスを使用することは否定されており、石油由来ワックスの炭素数と脂肪酸金属塩の炭素数を調整することは開示されていない。
【0004】
特許文献2には、ワックスに最も多く含まれる炭化水素の炭素数よりも16〜20小さい炭素数を持つ脂肪酸金属塩を、パラフィン系ワックスなどの石油由来ワックスとともに配合することが開示されている。しかし、本発明者の検討によれば、このように脂肪酸金属塩とワックスの炭素数の差が大きいと、白色化を抑制する効果が十分に得られないことが判明した。
【0005】
なお、特許文献3には、タイヤトレッド用ゴム組成物において、脂肪酸金属塩と脂肪酸エステルの混合物と、ワックスを配合することが開示されている。特許文献4には、サイドウォール用ゴム組成物において、離型剤としてのステアリン酸亜鉛とともに、ワックスを配合することが開示されている。また、特許文献5には、トレッドやサイドウォールなどに用いられるタイヤ用ゴム組成物において、脂肪酸金属塩とワックスを配合することが開示されている。しかしながら、これらいずれの文献にも、ワックスの炭素数と脂肪酸金属塩の炭素数を調整することで、白色化を抑制できることは示唆されていない。
【0006】
一方、赤茶色化の原因となるのは、老化防止剤の中でもフェニレンジアミン系老化防止剤であるため、フェニレンジアミン系老化防止剤の配合量を低減することが求められるが、耐オゾン性の観点からフェニレンジアミン系老化防止剤を減量するのは難しい。
【0007】
なお、特許文献6には、サイドウォール等のタイヤ用ゴム組成物における低発熱性を改善するために、カーボンブラックとジエン系ゴムとを結合させる化合物である(2Z)−4−[(4−アミノフェニル)アミノ]−4−オキソ−2−ブテン酸塩を配合することが開示されているが、この化合物を用いることでフェニレンジアミン系老化防止剤を減量しつつ耐オゾン性を維持できることについては開示されていない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0015】
本実施形態に係る空気入りタイヤに用いられるゴム組成物は、(A)ジエン系ゴム、(B)石油由来ワックス、(C)脂肪酸金属塩、及び、(D)式(I)で表される化合物、を含み、(E)フェニレンジアミン系老化防止剤を含まないか又は少量含むものである。
【0016】
(A)ジエン系ゴム
ゴム成分としてのジエン系ゴムについては、特に限定されない。使用可能なジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレンゴム、ブタジエン−イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン−イソプレンゴム、及び、ニトリルゴム(NBR)などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で、または2種以上混合して用いることができる。より好ましくは、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムよりなる群から選択される少なくとも一種である。
【0017】
一実施形態として、トレッドゴムに用いるゴム組成物において、ジエン系ゴムとしては、SBR、NR及びBRからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、例えば、SBR単独、SBRとBRのブレンド、NR単独、又は、NRとBRのブレンドでもよい。また、一実施形態として、サイドウォールゴム又はリムストリップに用いられるゴム組成物において、ジエン系ゴムとしては、NR単独、又は、NRとBRのブレンドでもよい。
【0018】
(B)石油由来ワックス
石油由来ワックスは、石油ワックスとも称され、石油から得られる炭化水素系ワックスである。石油由来ワックスを配合することにより、当該ワックスがゴム表面にブルームすることで耐オゾン性が付与される。その一方で、ワックスは白色化の要因にもなるが、石油由来ワックスであれば、後述する特定の脂肪酸金属塩と併用することにより、白色化を抑制することができる。石油由来以外のワックスでは、耐オゾン性が不十分であり、また、該特定の脂肪酸金属塩と併用したときの白色化抑制効果が不十分である。
【0019】
石油由来ワックスとしては、パラフィンワックス及び/又はマイクロクリスタリンワックスが挙げられる。パラフィンワックスは、原油の減圧蒸留留出油部分から分離抽出される常温で固形のワックスであり、直鎖状飽和炭化水素(ノルマルパラフィン)を主体とする飽和炭化水素である。マイクロクリスタリンワックスは、主として原油の減圧蒸留残査油部分または重質留出油部分から分離抽出される常温で固形のワックスであり、分岐飽和炭化水素(イソパラフィン)や飽和環状炭化水素(シクロパラフィン)を多く含む炭化水素である。一実施形態において、石油由来ワックスは、パラフィン系石油ワックスであることが好ましい。ここで、パラフィン系石油ワックスとは、パラフィンワックスを含むワックスであり、好ましくは、パラフィンワックス、又は、パラフィンワックスとマイクロクリスタリンワックスとの混合物である。
【0020】
石油由来ワックスは、一般に、炭素数20〜60の範囲内の炭化水素を含む混合物であり、炭化水素の炭素数分布にピークを持つものが用いられる。石油由来ワックスに含まれる炭化水素の炭素数は特に限定されない。例えば、石油由来ワックスに最も多く含まれる炭化水素の炭素数(Cmw)は、20〜50でもよく、20〜40でもよく、20〜35でもよく、20〜30でもよく、22〜28でもよい。ここで、「石油由来ワックスに最も多く含まれる炭化水素の炭素数」とは、石油由来ワックスに含まれる炭化水素のうち、質量比率が最も多い炭化水素の炭素数である。Cmwは、例えば、ガスクロマトグラフィーを用いて測定した炭素数分布のピークトップから求めることができる。
【0021】
石油由来ワックスの配合量は、特に限定されない。例えば、耐オゾン性などの観点から、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部でもよく、0.5〜5質量部でもよく、1〜3質量部でもよい。
【0022】
(C)脂肪酸金属塩
本実施形態に係るゴム組成物には、石油由来ワックスとともに、脂肪酸金属塩が配合される。ここで、脂肪酸金属塩は、複数の脂肪酸金属塩の混合物であってもよい。
【0023】
本実施形態では、脂肪酸金属塩として、以下の条件を満足するものが用いられる。すなわち、石油由来ワックスに最も多く含まれる炭化水素の炭素数をCmwとし、脂肪酸金属塩に最も多く含まれる構成脂肪酸の炭素数をCmfとして、CmwからCmfを引いた差Δ(=Cmw−Cmf)が−10以上8以下である(−10≦Δ≦8)。このように石油由来ワックスの炭素数と同程度の炭素数を主成分とする脂肪酸金属塩を用いることにより、ゴム表面にブルームしてきた石油由来ワックスの結晶化を阻害し、当該ワックスが均一で薄い平滑な膜を形成するため、白色化しにくくなると考えられる。Δ>8では、脂肪酸金属塩と石油由来ワックスの炭素数の差が大きく、白色化を抑制する効果が十分に得られない。また、Δ<−10では、石油由来ワックスの炭素数に対して脂肪酸金属塩の炭素数が大きくなりすぎ、白色化を抑制する効果が不十分となる。差Δは、−5〜6であることが好ましく、より好ましくは−3〜6であり、−1〜5でもよい。
【0024】
ここで、「構成脂肪酸」とは、脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸である。また、「脂肪酸金属塩に最も多く含まれる構成脂肪酸の炭素数(Cmf)」とは、脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸のうち、最もモル比率の多い脂肪酸の炭素数のことである。一般に、脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸は、単一の脂肪酸または炭素数が異なる複数の脂肪酸からなる。なお、構成脂肪酸が1種のみからなる脂肪酸金属塩の場合、上記の脂肪酸金属塩に最も多く含まれる構成脂肪酸の炭素数(Cmf)は、当該1種の構成脂肪酸の炭素数である。また、脂肪酸金属塩が複数の脂肪酸金属塩の混合物の場合、Cmfは、当該複数の脂肪酸金属塩を構成する全ての脂肪酸のうち、最もモル比率が多い脂肪酸の炭素数である。Cmfは、例えば水酸化テトラメチルアンモニウムによる反応熱分解により、脂肪酸金属塩を脂肪酸エステルにした後、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)で分析して得られた各脂肪酸の含有比率から最もモル比率の多い脂肪酸を求めることで得られる。
【0025】
脂肪酸金属塩に最も多く含まれる構成脂肪酸の炭素数(Cmf)は18よりも大きいことが好ましく、これにより白色化抑制効果を高めることができる。該Cmfは20よりも大きいことが好ましく、より好ましくは22以上である。該Cmfの上限は特に限定しないが、30以下でもよい。
【0026】
脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸(構成脂肪酸)としては、石油由来ワックスに最も多く含まれる炭化水素の炭素数との差Δが−10〜8である炭素数を持つ各種の飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸が挙げられる。具体的には、ミリスチン酸(炭素数14)、ペンタデカン酸(炭素数15)、パルミチン酸(炭素数16)、ヘプタデカン酸(炭素数17)、ステアリン酸(炭素数18)、アラキジン酸(炭素数20)、ベヘン酸(炭素数22)、リグノセリン酸(炭素数24)、セロチン酸(炭素数26)、モンタン酸(炭素数28)、メリシン酸(炭素数30)などが挙げられ、これらのいずれか1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記の差Δの条件を満たす限り、これら脂肪酸よりも炭素数の小さい脂肪酸及び/又は炭素数の大きい脂肪酸を、構成脂肪酸として含んでもよい。
【0027】
脂肪酸金属塩における金属としては、例えば、ナトリウム塩(Na)、カリウム塩(K)などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩(Mg)、カルシウム塩(Ca)などのアルカリ土類金属塩、亜鉛塩(Zn)、コバルト塩(Co)、銅塩(Cu)などの遷移金属塩などが挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩が好ましく、より好ましくはナトリウム塩及び/又はカルシウム塩である。
【0028】
脂肪酸金属塩の配合量は、特に限定されないが、石油由来ワックスによる白色化を抑制する効果を高めるという観点から、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.5〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜8質量部であり、2〜5質量部でもよい。
【0029】
(D)式(I)で表される化合物
本実施形態に係るゴム組成物には、下記式(I)で表される化合物が配合される。この化合物は、ラジカル捕捉剤として働くため、老化防止剤を減量することができる。フェニレンジアミン系老化防止剤を減量することにより、それに起因する赤茶けを抑制することができ、上記の白色化の抑制効果と相俟ってタイヤの外観性を改良することができる。
【0030】
【化2】
式(I)中、R
1及びR
2は、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基又は炭素数1〜20のアルキニル基を示し、R
1及びR
2は同一であっても異なっていてもよい。
【0031】
R
1及びR
2のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などを挙げることができる。R
1及びR
2のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、1−メチルエテニル基などを挙げることができる。R
1及びR
2のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロパルギル基などを挙げることができる。これらのアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基の炭素数としては、1〜10であることが好ましく、より好ましくは1〜5である。R
1及びR
2としては、好ましくは、水素原子、又は、炭素数1〜5のアルキル基であり、より好ましくは、水素原子、又は、メチル基であり、更に好ましくは、水素原子である。一実施形態において、式(I)中の−NR
1R
2は、−NH
2、−NHCH
3、又は、−N(CH
3)
2であることが好ましく、より好ましくは−NH
2である。
【0032】
式(I)中のM
+は、ナトリウムイオン、カリウムイオン又はリチウムイオンを示し、好ましくはナトリウムイオンである。
【0033】
式(I)で表される化合物の配合量は、特に限定されないが、フェニレンジアミン系老化防止剤を減量しつつ耐オゾン性を維持するという観点から、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜8質量部であり、1〜5質量部でもよい。
【0034】
(E)フェニレンジアミン系老化防止剤
本実施形態に係るゴム組成物には、フェニレンジアミン系老化防止剤を含まないか、又は、フェニレンジアミン系老化防止剤を含む場合でもその配合量をジエン系ゴム100質量部に対して1質量部未満とする。このようにフェニレンジアミン系老化防止剤を減量することにより、ゴム表面の赤茶けを抑制することができる。
【0035】
フェニレンジアミン系老化防止剤としては、例えば、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(6PPD)、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(IPPD)、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(DPPD)、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン(DNPD)、N−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−シクロヘキシル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1−メチルヘプチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンなどのp−フェニレンジアミン系老化防止剤が挙げられる。
【0036】
本実施形態では、ラジカル捕捉効果のある式(I)の化合物を配合することにより、赤茶けの要因となるフェニレンジアミン系老化防止剤を減量するものであるため、フェニレンジアミン系老化防止剤の含有量は極力少ないことが好ましく、例えば、ジエン系ゴム100質量部に対して0.5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは含まないことである。
【0037】
また、式(I)の化合物の配合により老化防止剤を減量することができるため、より好ましくは、芳香族第二級アミン系老化防止剤の含有量が1質量部未満(より好ましくは0.5質量部以下、更に好ましくは含まないこと)であり、より好ましくは、アミン系老化防止剤の含有量が1質量部未満(より好ましくは0.5質量部以下、更に好ましくは含まないこと)であり、より好ましくは、化学的老化防止剤の含有量が1質量部未満(より好ましくは0.5質量部以下、更に好ましくは含まないこと)である。ここで、芳香族第二級アミン系老化防止剤とは、上記フェニレンジアミン系老化防止剤に加えて、ジフェニルアミン系老化防止剤(例えば、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(CD)、オクチル化ジフェニルアミン(ODPA)、スチレン化ジフェニルアミン等)や、ナフチルアミン系老化防止剤(例えば、N−フェニル−1−ナフチルアミン(PAN)、N−フェニル−2−ナフチルアミン(PBN)等)などを包含する概念である。アミン系老化防止剤とは、上記芳香族第二級アミン系老化防止剤に加えて、アミン−ケトン系老化防止剤(例えば、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体(TMDQ)、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロ−キノリン(ETMDQ)、ジフェニルアミンとアセトンの反応物(ADPAL)等)などを包含する概念である。化学的老化防止剤とは、上記アミン系老化防止剤に加えて、フェノール系老化防止剤などを包含する概念である。
【0038】
(F)その他の成分
本実施形態に係るゴム組成物には、上記の成分の他に、充填剤、亜鉛華、ステアリン酸、プロセスオイル、加硫剤、加硫促進剤など、タイヤ用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。
【0039】
充填剤としては、カーボンブラック及び/又はシリカを配合することができる。カーボンブラックとしては、特に限定されず、ゴム用補強剤として用いられているSAF級(N100番台)、ISAF級(N200番台)、HAF級(N300番台)、FEF級(N500番台)(ともにASTMグレード)などの各種グレードのファーネスカーボンブラックを用いることができる。シリカとしては、特に限定されないが、湿式シリカが好ましい。充填剤の配合量は、特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部に対して、10〜150質量部であることが好ましく、より好ましくは20〜120質量部であり、更に好ましくは30〜100質量部である。一実施形態として、カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して10〜120質量部でもよく、20〜100質量部でもよい。また、シリカの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して10〜120質量部でもよく、20〜100質量部でもよい。
【0040】
なお、充填剤としてシリカを配合する場合、シリカの分散性を更に向上するために、スルフィドシランやメルカプトシランなどのシランカップリング剤を配合してもよい。シランカップリング剤の配合量は、特に限定されないが、シリカ配合量に対して2〜20質量%であることが好ましい。
【0041】
加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄が挙げられる。加硫剤の配合量は、特に限定されず、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜10質量部でもよく、0.5〜5質量部でもよい。なお、加硫促進剤の配合量としては、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0042】
該ゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。例えば、第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し、石油由来ワックス、脂肪酸金属塩及び式(I)の化合物とともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合することによりゴム組成物を調製することができる。
【0043】
本実施形態に係る空気入りタイヤは、該ゴム組成物により作製されたゴム部分を備えるものであり、トレッドゴム、サイドウォールゴム及びリムストリップからなる群から選択された少なくとも1つのゴム部分に、該ゴム組成物を用いたものである。
【0044】
図1は、空気入りタイヤの一例を示したものである。空気入りタイヤは、トレッド部1と、左右一対のサイドウォール部2と、左右一対のビード部3とからなり、一対のビード部3に埋設された一対のビードコア4間にトロイダル状に延在するカーカスプライ5が埋設され、トレッド部1におけるカーカスプライ5の半径方向外周側にベルト6が配されている。
【0045】
空気入りタイヤは、トレッド部1においてベルト6の半径方向外周側に配置されて接地面を形成するトレッドゴム7と、サイドウォール部2においてカーカスプライ5のタイヤ外面側に配置されサイドウォール部2のタイヤ外表面を形成するサイドウォールゴム8と、ビード部3においてリムフランジとの接触領域を覆うように配置されビード部3のタイヤ外表面を形成するリムストリップ9とを備える。リムストリップ9は、サイドウォールゴム8の下端部に連続してビード部3の外側に配されたゴム層である。
【0046】
これらのトレッドゴム7、サイドウォールゴム8及びリムストリップ9は、空気入りタイヤの外表面を形成するため、ゴム表面の変色を抑制することが求められ、そのため、上記実施形態に係るゴム組成物が好適に用いられる。
【0047】
空気入りタイヤを製造するに際しては、上記ゴム組成物を用いて、常法に従い、例えば、押出加工によって所定の形状に成形することにより、未加硫のトレッドゴム部材、サイドウォールゴム部材、及び/又はリムストリップゴム部材を得る。そして、これらを、インナーライナー、カーカス、ベルト、ビードコア、ビードフィラーなどの他の部品と組み合わせてグリーンタイヤ(未加硫タイヤ)を作製する。その後、該グリーンタイヤを、例えば140〜180℃で加硫成型することにより、空気入りタイヤを製造することができる。本実施形態に係る空気入りタイヤは、トレッドゴムとサイドウォールゴムとリムストリップのいずれか1つ又は2つ以上が上記ゴム組成物により形成される。
【0048】
本実施形態に係る空気入りタイヤの種類としては、特に限定されず、乗用車用タイヤ、トラックやバスなどに用いられる重荷重用タイヤなどの各種のタイヤが挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
[第1実施例]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。表1中の各成分の詳細は、以下の通りである。
【0051】
・SBR:スチレンブタジエンゴム、JSR(株)製「SBR1723」
・BR:ブタジエンゴム、宇部興産(株)製「BR150」
・カーボンブラック1:HAF、東海カーボン(株)製「シースト3」
・シリカ:東ソー・シリカ(株)製「ニップシールAQ」
・オイル:JX日鉱日石エネルギー(株)製「JOMOプロセスNC140」
・シランカップリング剤:エボニック社製「Si75」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「1号亜鉛華」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・老化防止剤1:N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(6PPD)、住友化学工業株式会社製「アンチゲン6C」
・化合物(I):住友化学(株)製の(2Z)−4−[(4−アミノフェニル)アミノ]−4−オキソ−2−ブテン酸ナトリウム(下記式(I’)で表される化合物)
【0052】
【化3】
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「5%油処理粉末硫黄」
・加硫促進剤CZ:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
・加硫促進剤D:三新化学工業(株)製「サンセラーDM−G」
【0053】
・ラウリン酸Ca:日東化成工業(株)製「CS−3」(Cmf:12)
・ラウリン酸Zn:日東化成工業(株)製「ZS−3」(Cmf:12)
・ステアリン酸Ca:日油(株)製「カルシウムステアレートG」(Cmf:18)
・ベヘン酸Ca:日東化成工業(株)製「CS−7」(Cmf:22)
・ベヘン酸Na:日東化成工業(株)製「NS−7」(Cmf:22)
・モンタン酸Ca:日東化成工業(株)製「CS−8」(Cmf:28)
【0054】
・ワックス1:石油ワックス(パラフィン系石油ワックス)、日本精鑞(株)製「OZOACE0355」(Cmw:27)
・ワックス2:石油ワックス(パラフィン系石油ワックス)(Cmw:32)
・ワックス3:石油ワックス(パラフィン系石油ワックス)(Cmw:23)
・ワックス4:動物系ワックス、横関油脂工業(株)製「精製ミツロウBEESWAXCO−100」(Cmw:26)
ここで、ワックス2及び3は、ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて、種々の市販ワックスについてカラムによる分離を行い、特定の炭素数のワックス成分を分離採取し、これらのワックス成分を組合せ、ブレンドすることにより、炭素数分布を調整した試作ワックスである。
【0055】
Cmw(ワックスに最も多く含まれる炭化水素の炭素数)は、測定装置としてキャピラリーガスクロマトグラフ(GC)を用い、ポリイミドコーティングされたキャピラリーカラムを用いて、キャリアガス:ヘリウム、流量:4mL/分、昇温速度:15℃/分で、180℃から390℃まで測定することにより、ワックスの炭素数分布を得て、該炭素数分布からピークトップの炭素数を求めた。
【0056】
Cmf(脂肪酸金属塩に最も多く含まれる構成脂肪酸の炭素数)は、反応熱分解GCMS(ガスクロマトグラフ質量分析計)法を用いて求めることができる。ここでは、フロンティア・ラボ株式会社製の熱分解装置(3030D)を用い350℃にて加熱分解を行い、日本電子株式会社製のGC/MS装置(Automass SUN)を用いて熱分解GC/MSの測定を行った(使用カラム:フロンティア・ラボ株式会社製VA−DX30、キャリアガス:ヘリウム、流量:1mL/分、昇温速度:10℃/分)。この際、試料約200μgに25質量%水酸化テトラメチルアンモニウム/メタノール溶液を2μL添加したものを測定試料とした。
【0057】
各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して試験片(厚み:2mm)を作製して、外観性と耐オゾン性を評価した。各評価方法は、以下の通りである。
【0058】
・外観性(白色化):加硫ゴム片を屋外で日光に照射させ、40日後における加硫ゴム片の表面を目視により観察して、下記基準で外観性(白色化)を評価した。点数が大きいほど、外観性が良好である。
点数5:白色への変色がほとんどなし
点数4:わずかに白色に変色している
点数3:全体の半分未満が白色に変色している
点数2:全体の半分以上が白色に変色している
点数1:全体的に白色に変色している
【0059】
・外観性(赤茶色化):加硫ゴム片を屋外で日光に照射させ、40日後における加硫ゴム片の表面を目視により観察して、下記基準で外観性(赤茶色化)を評価した。点数が大きいほど、外観性が良好である。
点数5:赤茶色への変色がほとんどなし
点数4:わずかに赤茶色に変色している
点数3:全体の半分未満が赤茶色に変色している
点数2:全体の半分以上が赤茶色に変色している
点数1:全体的に赤茶色に変色している
【0060】
・耐オゾン性:加硫ゴム片を25%伸張した条件下でオゾンウェザーメーター装置中に設置し、オゾン濃度100pphm、温度50℃の環境下で24時間放置した。その後、クラックの発生状態を目視により観察して、下記基準で耐オゾン性を評価した。点数が大きいほど、耐オゾン性が良好である。
点数4:クラック発生なし
点数3:肉眼では確認できないが10倍の拡大鏡では確認できるクラックが発生
点数2:1mm以下のクラックが発生
点数1:1mmを超えるクラックが発生
【0061】
【表1】
【0062】
[第2実施例]
バンバリーミキサーを使用し、下記表2に示す配合(質量部)に従って、第1実施例と同様の方法で、ゴム組成物を調製した。表2中の各成分の詳細は、以下の通りである(表1に記載のものと同じものは上述した通り)。
【0063】
・NR:天然ゴム、RSS#3
・カーボンブラック2:FEF、東海カーボン(株)製「シーストSO」
・老化防止剤2:アミン−ケトン系、住友化学工業株式会社製「アンチゲンRD-G」
・加硫促進剤NS:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーNS−P」
【0064】
各ゴム組成物について、160℃×20分で加硫して試験片(厚み:2mm)を作製して、外観性と耐オゾン性を評価した。各評価方法は、上述した通りである。
【0065】
【表2】
【0066】
表1に示すように、コントロールである比較例1に対し、ワックスを配合した比較例2では、耐オゾン性は改善されたものの、ゴム表面が白色化し、外観性に劣っていた。比較例3及び4では、ワックスとともに脂肪酸金属塩を配合したものの、脂肪酸金属塩とワックスの炭素数の差Δが大きく、白色化の抑制効果は得られなかった。比較例5では、比較例3及び4に比べて、炭素数のより高い脂肪酸金属塩を配合したことにより、外観性に若干の改善効果が認められたが、脂肪酸金属塩とワックスの炭素数の差Δが依然として大きく、改善効果は不十分であった。比較例6では、脂肪酸金属塩とワックスの炭素数の差Δは小さいものであったが、石油由来ワックスではなく動物系ワックスであったため、白色化抑制効果は不十分であり、また耐オゾン性にも劣っていた。比較例7では、老化防止剤を減量したことにより、赤茶けの点で外観性が改善されたものの、耐オゾン性に劣っていた。比較例8、9では、比較例7に比べて、化合物(I)を配合したことにより、耐オゾン性は改善されたものの、白色化抑制効果は不十分であった。
【0067】
これに対し、石油由来ワックスとともに脂肪酸金属塩を配合し、かつ両者の炭素数の差Δを規定範囲内とした上で、化合物(I)を配合し、老化防止剤を減量した実施例1〜7であると、耐オゾン性を維持しつつ、白色化と赤茶色化を抑制して外観性を向上することができた。
【0068】
また、表1のSBR/BR系と同様、表2のNR/BR系においても、石油由来ワックスと脂肪酸金属塩を配合し、かつ両者の炭素数の差Δを規定範囲内とした上で、化合物(I)を配合し、フェニレンジアミン系老化防止剤を減量することにより、耐オゾン性を維持しつつ、白色化と赤茶色化を抑制して外観性を向上することができた。
【0069】
なお、表1はトレッド用配合であり、表2はサイドウォール用配合である。リムストリップ用配合は、サイドウォール用配合に対して、ベースとなるゴム成分の組成等が共通しているため、リムストリップ用配合でも同様の効果が得られることは当業者であれば容易に理解できるであろう。