【解決手段】ジエン系ゴムと、カーボンブラックを75質量%以上含む補強性充填剤と、加工助剤と、式(I)で表される化合物と、を含むゴム組成物からなり、加工助剤としては、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド及び脂肪酸エステルから選択される一種以上からなり、示差走査熱量計で測定された吸熱ピークの開始点(Tm1)と終了点(Tm3)の差(Tm3−Tm1)が50℃以上であるものを用いるタイヤサイドウォールゴム部材。
前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記補強性充填剤20〜100質量部と、前記式(I)で表される化合物0.1〜10質量部と、を含む、請求項1に記載のタイヤサイドウォールゴム部材。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0013】
本実施形態に係るタイヤサイドウォールゴム部材は、(A)ジエン系ゴム、(B)カーボンブラックを含む補強性充填剤、(C)特定の融点を持つ脂肪酸系加工助剤、及び(D)式(I)で表される化合物を配合したゴム組成物からなるものである。式(I)で表される化合物は、末端のアミノ基がカーボンブラック表面の官能基と反応し、また炭素−炭素二重結合部分がジエン系ゴムと結合することにより、カーボンブラックの分散性を向上することができ、低発熱性を改善することができる。一方で、該化合物を配合することにより、耐引き裂き性が悪化する傾向があるが、特定の融点を持つ脂肪酸系加工助剤を配合することにより、低発熱性と硬度を維持しつつ耐引き裂き性を向上することができる。
【0014】
(A)ジエン系ゴム
ゴム成分としてのジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレンゴム、ブタジエン−イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン−イソプレンゴム、及び、ニトリルゴム(NBR)などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で、または2種以上混合して用いることができる。より好ましくは、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムよりなる群から選択される少なくとも一種である。
【0015】
一実施形態において、ジエン系ゴム100質量部は、天然ゴム及び/又はイソプレンゴム30〜80質量部と、ブタジエンゴム70〜20質量部を含むことが好ましく、より好ましくは、天然ゴム及び/又はイソプレンゴム40〜70質量部と、ブタジエンゴム60〜30質量部とを含むことである。
【0016】
ブタジエンゴム(即ち、ポリブタジエンゴム)としては、特に限定されず、例えば、(A1)ハイシスブタジエンゴム、(A2)シンジオタクチック結晶含有ブタジエンゴム、及び、(A3)変性ブタジエンゴムなどが挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0017】
(A1)のハイシスBRとしては、シス含量(即ち、シス−1,4結合含有量)が90質量%以上(好ましくは95質量%以上)のブタジエンゴムが挙げられ、例えば、コバルト系触媒を用いて重合されたコバルト系ブタジエンゴム、ニッケル系触媒を用いて重合されたニッケル系ブタジエンゴム、希土類元素系触媒を用いて重合された希土類系ブタジエンゴムが挙げられる。希土類系ブタジエンゴムとしては、ネオジウム系触媒を用いて重合されたネオジウム系ブタジエンゴムが好ましく、シス含量が96質量%以上であり、かつ、ビニル含量(即ち、1,2−ビニル結合含有量)が1.0質量%未満(好ましくは0.8質量%以下)のものが好ましく用いられる。希土類系ブタジエンゴムの使用は、低発熱性の向上に有利である。なお、シス含量及びビニル含量は、
1HNMRスペクトルの積分比により算出される値である。コバルト系BRの具体例としては、宇部興産(株)製の「UBEPOL BR」等が挙げられる。ネオジウム系BRの具体例としては、ランクセス社製の「ブナCB22」、「ブナCB25」等が挙げられる。
【0018】
(A2)のシンジオタクチック結晶含有ブタジエンゴム(SPB含有BR)としては、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン結晶(SPB)が、マトリックスとしてのハイシスブタジエンゴム中に分散したゴム樹脂複合体であるブタジエンゴムが用いられる。SPB含有BRの使用は、硬度の向上に有利である。SPB含有BR中におけるSPBの含有率は特に限定されず、例えば、2.5〜30質量%でもよく、10〜20質量%でもよい。なお、SPB含有BR中におけるSPBの含有率は、沸騰n−ヘキサン不溶解分を測定することで求められる。SPB含有BRの具体例としては、宇部興産(株)製の「UBEPOL VCR」が挙げられる。
【0019】
(A3)の変性BRとしては、例えば、アミン変性BR、スズ変性BRなどが挙げられる。変性BRの使用は、低発熱性の向上に有利である。変性BRは、BRの分子鎖の少なくとも一方の末端に官能基が導入された末端変性BRでもよく、主鎖中に官能基が導入された主鎖変性BRでもよく、主鎖及び末端に官能基が導入された主鎖末端変性BRでもよい。変性BRの具体例としては、日本ゼオン(株)製の「BR1250H」(アミン末端変性BR)が挙げられる。
【0020】
一実施形態において、(A1)のハイシスBRと(A2)のSPB含有BRを併用する場合、ジエン系ゴム100質量部は、40〜70質量部のNR及び/又はIRと、20〜40質量部のハイシスBRと、10〜30質量部のSPB含有BRとを含むものでもよい。また、(A1)のハイシスBRと(A3)の変性BRを併用する場合、ジエン系ゴム100質量部は、40〜70質量部のNR及び/又はIRと、20〜40質量部のハイシスBRと、10〜30質量部の変性BRとを含むものでもよい。また、(A1)のハイシスBRとしてコバルト系BRとネオジウム系BRを併用する場合、ジエン系ゴム100質量部は、40〜70質量部のNR及び/又はIRと、20〜40質量部のコバルト系BRと、10〜30質量部のネオジウム系BRとを含むものでもよい。
【0021】
(B)補強性充填剤
補強性充填剤としては、カーボンブラックを主成分として用いる。すなわち、補強性充填剤は、その総量に対して75質量%以上のカーボンブラックを含む。カーボンブラックを主たる補強性充填剤とするカーボンブラック配合のサイドウォール用ゴム組成物において、低発熱性と硬度を維持しつつ耐引き裂き性を向上するためである。そのため、補強性充填剤は、カーボンブラック単独でもよく、また、カーボンブラック75質量%以上とともに、少量(即ち、25質量%以下)のシリカを含んでもよい。より好ましくは、カーボンブラックの含有量は、補強性充填剤の総量の80質量%以上である。
【0022】
カーボンブラックとしては、特に限定されず、例えば、窒素吸着比表面積(N
2SA)(JIS K6217−2)が30〜120m
2/gであるものが好ましく用いられ、具体的には、ISAF級(N200番台)、HAF級(N300番台)、FEF級(N500番台)、GPF級(N100番台)(ともにASTMグレード)が挙げられる。より好ましくはN
2SAが40〜100m
2/g、更に好ましくは50〜90m
2/gである。
【0023】
補強性充填剤の配合量は、特に限定されないが、サイドウォール部に要求される補強性の観点から、ジエン系ゴム100質量部に対して、20〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜80質量部であり、40〜60質量部でもよい。カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、20〜80質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜60質量部であり、40〜60質量部でもよい。なお、シリカの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、より好ましくは10質量部以下である。
【0024】
(C)脂肪酸系加工助剤
加工助剤としては、特定の融点を持つ脂肪酸系加工助剤が用いられる。すなわち、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド及び脂肪酸エステルよりなる群から選択される少なくとも一種からなり、示差走査熱量計で測定された吸熱ピークの開始点(Tm1)と終了点(Tm3)の差が50℃以上(即ち、Tm3−Tm1≧50℃)である加工助剤が用いられる。このような吸熱ピークの開始点と終了点の差(Tm3−Tm1)が大きい、即ちブロードな分布を持つ脂肪酸系加工助剤であると、分子量に分布を持つポリマーであるジエン系ゴムポリマーとなじみやすく、即ちジエン系ゴムとの相溶性がよい。また、式(I)の化合物を添加することで、カーボンブラックとジエン系ゴムとの相互作用が大きくなっていることから、結果的に引き裂き力が大きく改善されると考えられる。
【0025】
加工助剤の吸熱ピークの差(Tm3−Tm1)は55℃以上であることが好ましく、より好ましくは60℃以上である。この差(Tm3−Tm1)の上限は、特に限定されず、例えば100℃以下でもよく、80℃以下でもよく、70℃以下でもよい。加工助剤の吸熱ピークのピークトップ温度(Tm2)は、特に限定されないが、好ましくは60〜130℃であり、より好ましくは80〜120℃である。
【0026】
ここで、吸熱ピークの開始点(Tm1)とは、DSCで測定された示差熱量曲線において、融解に由来する吸熱ピークの吸熱開始点(融解が開始する温度)であり、オンセット(onset)温度とも称される。詳細には、開始点(Tm1)は、
図1に示すように、示差熱量曲線において、吸熱開始から吸熱側に落ち込んだ部分での曲線の接線と、低温側のベースライン(吸熱開始前における融解の影響のない実質的にフラットな部分)を延長した直線との交点での温度である。
【0027】
吸熱ピークの終了点(Tm3)とは、上記吸熱ピークの吸熱終了点(融解が終了する温度)であり、エンドセット(endset)温度とも称される。詳細には、終了点(Tm3)は、
図1に示すように、示差熱量曲線において、吸熱終了から吸熱側に落ち込んだ部分での曲線の接線と、高温側のベースライン(吸熱終了後における実質的にフラットな部分)を延長した直線との交点での温度である。
【0028】
ピークトップ温度(Tm2)とは、上記吸熱ピークの最大吸熱温度であり、
図1に示すように、最大吸熱点に至る両側の曲線の接線の交点での温度である。
【0029】
吸熱ピークの差(Tm3−Tm1)が50℃以上である加工助剤の調製方法は、特に限定されず、例えば、構成する脂肪酸の炭素数分布を広くしたり、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドと脂肪酸エステルの中から2種以上を組み合わせたりする手法が挙げられる。
【0030】
加工助剤として用いる脂肪酸金属塩の脂肪酸としては、特に限定されず、例えば、炭素数が5〜36である飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸が挙げられ、より好ましくは炭素数が8〜24である飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸である。脂肪酸の具体例としては、オクタン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられる。金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩、亜鉛塩、コバルト塩、銅塩などの遷移金属塩などが挙げられる。これらの中でも、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩が好ましく、より好ましくはカリウム塩及び/又はカルシウム塩である。
【0031】
脂肪酸アミドの脂肪酸としても、特に限定されず、脂肪酸金属塩と同様、炭素数が5〜36である飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸が挙げられ、より好ましくは炭素数が8〜24である飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸である。脂肪酸アミドとしては、ステアリン酸アミドのような1級アミドでもよく、脂肪酸化合物と、モノエタノールアミンやジエタノールアミンなどの1級アミン又は2級アミンとを反応させてなる2級アミド又は3級アミドでもよい。また、脂肪酸残基を2つ持つ、アルキレンビス脂肪酸アミドでもよく、アルキレンビス脂肪酸アミドの場合、上記脂肪酸の炭素数はアミド基1つ当たりの炭素数である。ここで、アルキレンとしてはメチレン又はエチレンが好適である。好ましくは、脂肪酸アルカノールアミド(即ち、脂肪酸アルカノールアミン塩)であり、より好ましくは脂肪酸エタノールアミドである。
【0032】
脂肪酸エステルの脂肪酸としても、特に限定されず、脂肪酸金属塩と同様、炭素数5〜36の飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸が挙げられ、より好ましくは炭素数8〜24の飽和脂肪酸及び/又は不飽和脂肪酸である。脂肪酸エステルのアルコールとしては、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの1価アルコールだけでなく、グリコール、グリセリン、エリスリトール、ソルビトールなどの2価以上のアルコールでもよい。
【0033】
加工助剤としては、(C1)脂肪酸金属塩と、(C2)脂肪酸アミド及び/又は脂肪酸エステル(以下、脂肪酸アミドと脂肪酸エステルをまとめて脂肪酸誘導体という。)との混合物を用いることが好ましい。(C2)脂肪酸誘導体としては、脂肪酸アミドを用いることがより好ましい。(C1)脂肪酸金属塩と(C2)脂肪酸誘導体との比率は、特に限定されないが、質量比で、C1/C2=2/8〜8/2であることが好ましい。
【0034】
加工助剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.5〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜8質量部であり、2〜5質量部でもよい。加工助剤の配合量が0.5質量部以上であることにより、耐引き裂き性を改善することができ、また10質量部以下であることにより、他物性への影響なく、耐引き裂き性を改善することができる。
【0035】
(D)式(I)で表される化合物
本実施形態に係るゴム組成物には、下記式(I)で表される化合物が配合される。
【0036】
【化2】
式(I)中、R
1及びR
2は、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基又は炭素数1〜20のアルキニル基を示し、R
1及びR
2は同一であっても異なっていてもよい。
【0037】
R
1及びR
2のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などを挙げることができる。R
1及びR
2のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、1−メチルエテニル基などを挙げることができる。R
1及びR
2のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロパルギル基などを挙げることができる。これらのアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基の炭素数としては、1〜10であることが好ましく、より好ましくは1〜5である。R
1及びR
2としては、好ましくは、水素原子、又は、炭素数1〜5のアルキル基であり、より好ましくは、水素原子、又は、メチル基であり、更に好ましくは、水素原子である。一実施形態において、式(I)中の−NR
1R
2は、−NH
2、−NHCH
3、又は、−N(CH
3)
2であることが好ましく、より好ましくは−NH
2である。
【0038】
式(I)中のM
+は、ナトリウムイオン、カリウムイオン又はリチウムイオンを示し、好ましくはナトリウムイオンである。
【0039】
式(I)で表される化合物の配合量は、特に限定されないが、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜8質量部であり、1〜5質量部でもよい。該化合物の配合量が0.1質量部以上であることにより、低発熱性の改善効果を高めることができ、また10質量部以下であることにより、耐引き裂き性の悪化を抑えることができる。
【0040】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記成分の他に、亜鉛華、ワックス、ステアリン酸、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤など、タイヤのサイドウォールゴム部材のためのゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。上記加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量はジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0041】
該ゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。例えば、第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し、補強性充填剤、加工助剤、及び式(I)の化合物とともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合することによりゴム組成物を調製することができる。
【0042】
本実施形態に係るサイドウォールゴム部材は、該ゴム組成物を用いて作製されるものであり、該ゴム組成物をサイドウォール部に対応した所定の断面形状に押出成形したり、あるいはまた、該ゴム組成物からなるリボン状のゴムストリップをドラム上で螺旋状に巻回してサイドウォール部に対応した断面形状に形成したりすることで、未加硫のサイドウォールゴム部材が得られる。かかるサイドウォールゴム部材は、インナーライナー、カーカス、ベルト、ビードコア、ビードフィラーおよびトレッドゴムなどのタイヤを構成する他のタイヤ部材とともに、常法に従って、タイヤ形状に組み立てられてグリーンタイヤ(未加硫タイヤ)が得られる。そして、得られたグリーンタイヤを、常法に従い、例えば140〜180℃で加硫成型することにより、上記サイドウォールゴム部材からなるサイドウォール部を備えた空気入りタイヤが得られる。
【0043】
本実施形態に係る空気入りタイヤの種類としては、特に限定されず、乗用車用タイヤ、トラックやバスなどに用いられる重荷重用タイヤなどの各種のタイヤが挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従って、まず、第一混合段階で、ジエン系ゴムに対し硫黄及び加硫促進剤を除く他の配合剤を添加し混練し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混練物に、最終混合段階で、硫黄と加硫促進剤を添加し混練して(排出温度=90℃)、サイドウォールゴム部材として用いられるゴム組成物を調製した。表1中の各成分の詳細は、以下の通りである。
【0046】
・天然ゴム:RSS#3
・BR1:コバルト系BR、宇部興産(株)製「UBEPOL BR150」(シス含量=98質量%)
・BR2:SPB含有BR、宇部興産株(株)製「UBEPOL VCR617」(マトリックスであるハイシスBRのシス含量=98質量%、SPB含有BR中のSPBの含有率=17質量%)
・カーボンブラック:HAF、東海カーボン(株)製「シースト3」(N
2SA=79m
2/g)
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「1号亜鉛華」
・ワックス:日本精鑞(株)製「OZOACE0355」
・ステアリン酸:花王(株)製「工業用ステアリン酸」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「5%油処理粉末硫黄」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーNS−P」。
【0047】
・加工助剤1:ラインケミー社製「アフラックス16」(脂肪酸カルシウム塩50%と脂肪酸エタノールアミド50%の混合物、Tm1=53℃、Tm2=113℃、Tm3=120℃、Tm3−Tm1=67℃)
・加工助剤2:PERFORMANCEADDITIVE製「ULTRA FLOW160」(脂肪酸カルシウム塩と脂肪酸アミドの混合物、Tm1=61℃、Tm2=99℃、Tm3=113℃、Tm3−Tm1=52℃)
・加工助剤3:PERFORMANCEADDITIVE製「ULTRA FLOW500」(脂肪酸亜鉛塩、Tm1=81℃、Tm2=108℃、Tm3=114℃、Tm3−Tm1=33℃)。
【0048】
・加工助剤4:日本化成(株)製「ダイヤミッドBH」(脂肪酸アミド、Tm1=111℃、Tm2=113℃、Tm3=118℃、Tm3−Tm1=7℃)
・化合物(I):住友化学(株)製の(2Z)−4−[(4−アミノフェニル)アミノ]−4−オキソ−2−ブテン酸ナトリウム(下記式(I’)で表される化合物)
【0049】
【化3】
加工助剤のTm1、Tm2及びTm3の測定は、METTLER TOLEDO社製「DSC8220」を用いた。10K/分の昇温速度で、空気中、25℃から250℃まで昇温して、示差熱量曲線を得て、該曲線から以下のTm1、Tm2及びTm3を算出した。
・Tm1:低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、融解ピーク(吸熱ピーク)の低温側の曲線に勾配が最大になる点で引いた接線との交点の温度とした。
・Tm2:融解ピークの低温側の曲線に勾配が最大になる点で引いた接線と、融解ピークの高温側の曲線に勾配が最大になる点で引いた接線との交点の温度とした。
・Tm3:高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、融解ピークの高温側の曲線に勾配が最大になる点で引いた接線との交点の温度とした。
但し、
図1のように融解ピークの曲線に階段状変化部分(
図1の例では低温側のベースラインから始めに吸熱側に落ち込んだ部分)がある場合、Tm1及びTm3の算出に際しては、当該階段状変化部分における曲線の勾配が最大になるような点で引いた接線とベースラインとの交点とした。
【0050】
各ゴム組成物について、150℃で30分間加硫した所定形状の試験片を用いて、硬度、耐引き裂き性及び低発熱性を測定・評価した。各測定・評価方法は以下の通りである。
【0051】
・JIS K6253に準拠したタイプAデュロメータを使用し、23℃で硬度を測定し、比較例1の値を100とした指数で示した。指数が大きいほど、硬度が高い。
【0052】
・耐引き裂き性:JIS K6252に規定のクレセント形で打ち抜き、くぼみ中央に0.50±0.08mmの切れ込みを入れたサンプルを、(株)島津製作所の引張り試験機によって500mm/分の引張り速度で試験を行って引き裂き強さを測定し、比較例1の値を100として指数で示した。指数が大きいほど、引き裂き強さが大きく、耐引き裂き性に優れる。指数の差が5以上であれば、耐引き裂き性の改善効果があると考える。
【0053】
・低発熱性:東洋精機(株)製の粘弾性試験機を使用し、周波数10Hz、静歪10%、動歪±1%、温度60℃で損失係数tanδを測定し、tanδの逆数について比較例1の値を100とした指数で示した。指数が大きいほどtanδが小さく、低発熱性に優れ、そのため、タイヤとしての転がり抵抗が小さく、低燃費性に優れることを示す。指数が101以上であれば、低発熱性の改善効果があると考える。
【0054】
【表1】
【0055】
結果は、表1に示す通りである。コントロールである比較例1に対し、比較例2では、カーボンブラックを減量することで、耐引き裂き性を改善しつつ低発熱性が改善されたが、硬度が低下した。比較例3では、化合物(I)を配合することにより、低発熱性は改善されたが、耐引き裂き性が大幅に悪化した。比較例4,5では、化合物(I)とともに脂肪酸系加工助剤を配合したが、吸熱ピークの差(Tm3−Tm1)が小さい加工助剤であったため、比較例3に対して耐引き裂き性の改善効果は得られなかった。一方、比較例6,7では、吸熱ピークの差(Tm3−Tm1)が大きい加工助剤を用いたが、化合物(I)を配合していないため、比較例1に対して、低発熱性の改善効果は得られず、耐引き裂き性の向上効果もみられなかった。
【0056】
これに対し、化合物(I)とともに吸熱ピークの差(Tm3−Tm1)が大きい脂肪酸系加工助剤を配合した実施例1〜5であると、硬度を維持しつつ、また低発熱性を維持ないし改善しながら、耐引き裂き性が大きく改善された。カーボンブラックを主たる補強性充填剤とするカーボンブラック配合においては一般に配合されていない加工助剤を、カーボンブラック配合に敢えて配合することにより、化合物(I)による耐引き裂き性の悪化を補うばかりでなく改善することができた。