【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0013】
本実施形態に係るベーストレッドゴム部材は、ジエン系ゴム100質量部に対して、窒素吸着比表面積が20〜80m
2/gのカーボンブラックを10〜70質量部、窒素吸着比表面積が80〜200m
2/gのシリカを1〜10質量部、一般式(I)で表される化合物を0.1〜10質量部含有するゴム組成物からなるものとする。
【0014】
本実施形態に係るゴム組成物において、ゴム成分として用いられるジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン−イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン−イソプレン共重合体ゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられる。これらジエン系ゴムは、いずれか1種単独で、又は2種以上ブレンドして用いることができる。上記ゴム成分は、好ましくは、天然ゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、又はこれらの2種以上のブレンドである。
【0015】
ジエン系ゴムとして、天然ゴムと他のジエン系ゴムとのブレンドゴムを用いることが好ましく、特に好ましくは、天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)とのブレンドゴムを用いることである。
【0016】
ジエン系ゴム中の天然ゴムの含有割合は、特に限定されないが、30〜100質量%であることが好ましく、50〜90質量%であることがより好ましい。
【0017】
ジエン系ゴムが天然ゴム(NR)とブタジエンゴム(BR)とのブレンドゴムの場合、両者の比率は、特に限定しないが、NR/BRの比率が、質量比で30/70〜100/0であることが好ましく、50/50〜90/10であることがより好ましい。
【0018】
ブタジエンゴム(即ち、ポリブタジエンゴム)としては、特に限定されず、例えば、(A1)ハイシスブタジエンゴム、(A2)シンジオタクチック結晶含有ブタジエンゴム、及び、(A3)変性ブタジエンゴムなどが挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0019】
(A1)のハイシスBRとしては、シス含量(即ち、シス−1,4結合含有量)が90質量%以上(好ましくは95質量%以上)のブタジエンゴムが挙げられ、例えば、コバルト系触媒を用いて重合されたコバルト系ブタジエンゴム、ニッケル系触媒を用いて重合されたニッケル系ブタジエンゴム、希土類元素系触媒を用いて重合された希土類系ブタジエンゴムが挙げられる。希土類系ブタジエンゴムとしては、ネオジウム系触媒を用いて重合されたネオジウム系ブタジエンゴムが好ましく、シス含量が96質量%以上であり、かつ、ビニル含量(即ち、1,2−ビニル結合含有量)が1.0質量%未満(好ましくは0.8質量%以下)のものが好ましく用いられる。希土類系ブタジエンゴムの使用は、低発熱性の向上に有利である。なお、シス含量及びビニル含量は、
1HNMRスペクトルの積分比により算出される値である。コバルト系BRの具体例としては、宇部興産(株)製の「UBEPOL BR」等が挙げられる。ネオジウム系BRの具体例としては、ランクセス社製の「ブナCA22」、「ブナCA25」等が挙げられる。
【0020】
(A2)のシンジオタクチック結晶含有ブタジエンゴム(SPB含有BR)としては、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン結晶(SPB)が、マトリックスとしてのハイシスブタジエンゴム中に分散したゴム樹脂複合体であるブタジエンゴムが用いられる。SPB含有BRの使用は、硬度の向上に有利である。SPB含有BR中におけるSPBの含有率は特に限定されず、例えば、2.5〜30質量%でもよく、10〜20質量%でもよい。なお、SPB含有BR中におけるSPBの含有率は、沸騰n−ヘキサン不溶解分を測定することで求められる。SPB含有BRの具体例としては、宇部興産(株)製の「UBEPOL VCR」が挙げられる。
【0021】
(A3)の変性BRとしては、例えば、アミン変性BR、スズ変性BRなどが挙げられる。変性BRの使用は、低発熱性の向上に有利である。変性BRは、BRの分子鎖の少なくとも一方の末端に官能基が導入された末端変性BRでもよく、主鎖中に官能基が導入された主鎖変性BRでもよく、主鎖及び末端に官能基が導入された主鎖末端変性BRでもよい。変性BRの具体例としては、日本ゼオン(株)製の「BR1250H」(アミン末端変性BR)が挙げられる。
【0022】
一実施形態において、(A1)のハイシスBRと(A2)のSPB含有BRを併用する場合、ジエン系ゴム100質量部は、40〜70質量部のNR及び/又はIRと、20〜40質量部のハイシスBRと、10〜30質量部のSPB含有BRとを含むものでもよい。また、(A1)のハイシスBRと(A3)の変性BRを併用する場合、ジエン系ゴム100質量部は、40〜70質量部のNR及び/又はIRと、20〜40質量部のハイシスBRと、10〜30質量部の変性BRとを含むものでもよい。また、(A1)のハイシスBRとしてコバルト系BRとネオジウム系BRを併用する場合、ジエン系ゴム100質量部は、40〜70質量部のNR及び/又はIRと、20〜40質量部のコバルト系BRと、10〜30質量部のネオジウム系BRとを含むものでもよい。
【0023】
本実施形態に係るゴム組成物には、補強性充填剤として、カーボンブラック及びシリカを用いる。
【0024】
上記カーボンブラックとしては、JIS K6217−2に準じて測定した窒素吸着比表面積(N
2SA)が20〜80m
2/gのものであれば特に限定されず、好ましくは窒素吸着比表面積が25〜70m
2/gのものであり、より好ましくは25〜60m
2/gのものであり、特に好ましくは35〜50m
2/gのものである。具体的にはGPF級、FEF級のカーボンブラックが例示される。窒素吸着比表面積が20m
2/g以上であることにより、補強性に優れる。なお、窒素吸着比表面積が80m
2/gより大きいものを用いた場合には、式(I)で表される化合物との併用による耐引き裂き性の大きな悪化は認められない。
【0025】
カーボンブラックの含有量としては、ジエン系ゴム100質量部に対して10〜70質量部であり、低発熱性と耐引き裂き性の両立の観点から、好ましくは10〜50質量部であり、より好ましくは20〜50質量部である。カーボンブラックの含有量が、10質量部以上であることにより補強性に優れ、70質量部以下であることにより、低発熱性に優れる。
【0026】
シリカとしては、JIS K6430に記載のBET法に準じて測定した窒素吸着比表面積(BET)が80〜200m
2/gのものであれば特に限定されず、好ましくは窒素吸着比表面積が100〜200m
2/gのものであり、より好ましくは110〜190m
2/gのものであり、特に好ましくは130〜190m
2/gのものである。また、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカが好ましく用いられる。窒素吸着比表面積が200m
2/g以下であることにより、式(I)で表される化合物と併用した場合の耐引き裂き性の向上効果に優れる。
【0027】
シリカの含有量としては、ジエン系ゴム100質量部に対して1〜10質量部であり、低発熱性と耐引き裂き性の両立の観点から、3〜10質量部であることが好ましい。
【0028】
補強性充填剤の含有量(カーボンブラックとシリカとの合計量)は、特に限定されず、ジエン系ゴム100質量部に対して10〜80質量部であることが好ましく、より好ましくは20〜50質量部であり、さらに好ましくは30〜50質量部である。
【0029】
シリカを含有する場合、スルフィドシラン、メルカプトシランなどのシランカップリング剤をさらに含有してもよいが、シランカップリング剤を含有しないほうが好ましい。シランカップリング剤を含有する場合、その含有量はシリカ含有量に対して2〜20質量%であることが好ましい。
【0030】
本実施形態に係るゴム組成物には、下記一般式(I)で表される化合物を用いる。
【0032】
式(I)中、R
1及びR
2は、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルケニル基又は炭素数1〜20のアルキニル基を示し、R
1及びR
2は同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
R
1及びR
2のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などを挙げることができる。R
1及びR
2のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、1−メチルエテニル基などを挙げることができる。R
1及びR
2のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロパルギル基などを挙げることができる。これらのアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基の炭素数としては、1〜10であることが好ましく、より好ましくは1〜5である。R
1及びR
2としては、好ましくは、水素原子、又は、炭素数1〜5のアルキル基であり、より好ましくは、水素原子、又は、メチル基であり、更に好ましくは、水素原子である。一実施形態において、式(I)中の−NR
1R
2は、−NH
2、−NHCH
3、又は、−N(CH
3)
2であることが好ましく、より好ましくは−NH
2である。
【0034】
式(I)中のM
+は、ナトリウムイオン、カリウムイオン又はリチウムイオンを示し、好ましくはナトリウムイオンである。
【0035】
上記式(I)で表される化合物の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、低発熱性の観点から、好ましくは0.5〜8質量部であり、より好ましくは1〜5質量部である。0.1質量部以上であることにより、低発熱性の向上効果に優れ、10質量部以下であることにより、耐引き裂き性の悪化を抑えることができる。
【0036】
上記式(I)で表される化合物を含有することにより、低発熱性の向上効果が認められる。そのメカニズムは定かではないが、次のように考えられる。
【0037】
すなわち、式(I)の化合物の末端のアミンとカーボンブラック表面の官能基が反応し、また式(I)の化合物のアミド基とカルボン酸塩との間に位置する炭素−炭素二重結合部分がポリマーと結合することにより、カーボンブラックの分散性を向上することができ、低発熱性に寄与したものと推測する。
【0038】
一方、大粒径のカーボンブラックと式(I)の化合物を併用した場合、式(I)の化合物と一部のカーボンブラックとの反応が促進され、耐引き裂き性が悪化する場合があった。これに対し、窒素吸着比表面積が所定の範囲内であるシリカをさらに含有することにより、耐引き裂き性を維持しつつ低発熱性を向上することができた。そのメカニズムも定かではないが、シリカが式(I)の化合物を吸着することで、カーボンブラックと式(I)の化合物との反応が適度に緩和され、シリカ自体も耐引き裂き性の向上に寄与するため、結果として耐引き裂き性を維持しつつ低発熱性を向上することができたものと推測する。
【0039】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記した各成分に加え、通常のゴム工業で使用されているプロセスオイル、亜鉛華、ステアリン酸、軟化剤、可塑剤、ワックス、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤などの配合薬品類を通常の範囲内で適宜配合することができる。
【0040】
上記加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄成分が挙げられ、特に限定するものではないが、その含有量はジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。また、加硫促進剤の含有量としては、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
【0041】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。すなわち、第一混合段階で、ゴム成分に対し、補強性充填剤、及び式(I)の化合物とともに、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
【0042】
このようにして得られるゴム組成物は、タイヤの接地面を構成するトレッドゴムに用いられるゴム部材とすることができ、特にキャップゴムとベーストレッドゴムとの2層構造からなるトレッドゴムのベーストレッドゴム部材として用いられる。例えば、上記ゴム組成物をベーストレッド部に対応した所定の断面形状に押出成形したり、あるいはまた、上記ゴム組成物からなるリボン状のゴムストリップをドラム上で螺旋状に巻回してベーストレッド部に対応した断面形状に形成したりすることで、未加硫のベーストレッドゴム部材が得られる。かかるベーストレッドゴム部材は、インナーライナー、カーカス、ベルト、ビードコア、ビードフィラー及びサイドウォールなどのタイヤを構成する他のタイヤ部材とともに、常法に従って、タイヤ形状に組み立てられてグリーンタイヤ(未加硫タイヤ)が得られる。そして、得られたグリーンタイヤを、常法に従い、例えば140〜180℃で加硫成型することにより、上記ベーストレッドゴム部材からなるベーストレッド部を備えた空気入りタイヤが得られる。
【0043】
本実施形態に係る空気入りタイヤの種類としては、特に限定されず、乗用車用タイヤ、トラックやバスなどに用いられる重荷重用タイヤなどの各種のタイヤが挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階(ノンプロ練り工程)で、加硫促進剤、及び硫黄を除く成分を添加混合し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混合物に、最終混合段階(プロ練り工程)で、加硫促進剤及び硫黄を添加混合して(排出温度=90℃)、ベーストレッドゴム部材として用いられるゴム組成物を調製した。
【0046】
表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
・NR:RSS#3
・BR:宇部興産(株)製「BR150」
・カーボンブラック1:FEF級、東海カーボン(株)製「シーストSO」(N
2SA=42m
2/g)
・カーボンブラック2:GPF級、東海カーボン(株)製「シーストV」(N
2SA=27m
2/g)
・カーボンブラック3:HAF級、東海カーボン(株)製「シーストKH」(N
2SA=90m
2/g)
・シリカ1:エボニック社製「9100GR」(BET=235m
2/g)
・シリカ2:エボニック社製「VN3」(BET=180m
2/g)
・シリカ3:Rhodia社製「1115MP」(BET=115m
2/g)
・化合物(I):住友化学(株)製の(2Z)−4−[(4−アミノフェニル)アミノ]−4−オキソ−2−ブテン酸ナトリウム(下記式(I’)で表される化合物)
【化3】
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「1号亜鉛華」
・ワックス:日本精蝋(株)製「OZOACE0355」
・ステアリン酸:花王(株)製「工業用ステアリン酸」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「5%油処理粉末硫黄」
・加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「ノクセラ−NS−P」
【0047】
得られた各ゴム組成物について、耐引き裂き性、及び低発熱性を評価した。評価方法は次の通りである。
【0048】
・耐引き裂き性:JIS K6252に準拠して測定した。すなわち、規定のクレセント形で打ち抜き、くぼみ中央に0.50±0.08mmの切れ込みを入れたサンプルを用い、(株)島津製作所製の引張試験機によって500mm/minの引張り速度で試験を行い、試験片が切断に至るまでの引き裂く力の最大値を読み取り、比較例1の結果を100として、実施例1〜4、及び比較例2〜5の結果を指数で表示し、比較例1−2の結果を100として、実施例1−2の結果を指数で表示し、比較例1−3の結果を100として、実施例1−3の結果を指数で表示し、参考例1の結果を100として、参考例2の結果を指数で表示した。値が90以上であれば、耐引き裂き性が優れることを示す。
【0049】
・低発熱性:JIS K6394に準拠して測定した。すなわち、150℃で30分間加硫した試験片について、東洋精機(株)製の粘弾性試験機によって、温度60℃、静歪み10%、動歪み1%、周波数10Hzの条件で損失係数tanδを測定し、比較例1の結果を100として、実施例1〜4、及び比較例2〜5の結果を指数で表示し、比較例1−2の結果を100として、実施例1−2の結果を指数で表示し、比較例1−3の結果を100として、実施例1−3の結果を指数で表示し、参考例1の結果を100として、参考例2の結果を指数で表示した。指数が98以下であればtanδが小さく、低発熱性に優れることを示す。
【0050】
【表1】
【0051】
結果は、表1に示す通りであり、実施例1〜4、実施例1−2、実施例1−3は、いずれにおいても、耐引き裂き性を維持乃至向上しつつ、低発熱性が向上したことが認められた。
【0052】
また、比較例1と比較例2との対比から、化合物(I)の添加により、低発熱性の向上効果が認められるものの、耐引き裂き性が100から77に悪化することが認められた。
【0053】
比較例2に対して、さらに所定のシリカを添加した実施例2は、耐引き裂き性が77から102に向上することが認められた。この向上効果は、比較例1と比較例3との対比より、ゴム組成物に対して、所定のシリカを添加した場合に認められる耐引き裂き性の向上効果と比較して顕著な効果であった。
【0054】
また、所定のシリカの含有量が、ジエン系ゴム100質量部に対して10質量部より多い比較例4は、低発熱性の悪化が認められた。
【0055】
また、窒素吸着比表面積が80〜200m
2/gではないシリカを添加した比較例5では、化合物(I)の添加による耐引き裂き性の悪化を補うことができなかった。
【0056】
なお、参考例1と参考例2との対比より、ゴム組成物に対して、窒素吸着比表面積が90m
2/gのカーボンブラックと化合物(I)を添加した場合、耐引き裂き性の大きな悪化は認められなかった。