【解決手段】金属銅を含むコア層と該コア層の表面に配置されている窒化銅を含むシェル層とを備えることを特徴とするコアシェル粒子、及び、このコアシェル粒子を含有する接合材料。
金属銅を含むコア層と該コア層の表面に配置されている銅酸化生成物を含むシェル層とを備えている表面酸化金属銅粒子に窒化処理を施して、前記銅酸化生成物を窒化銅に変換せしめ、請求項1に記載のコアシェル粒子を得ることを特徴とするコアシェル粒子の製造方法。
前記表面酸化金属銅粒子に窒素化合物の存在下で加熱処理を施すことによって、前記銅酸化生成物を窒化銅に変換せしめることを特徴とする請求項4に記載のコアシェル粒子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
<コアシェル粒子>
先ず、本発明のコアシェル粒子について説明する。本発明のコアシェル粒子は、金属銅を含むコア層と、このコア層の表面に配置されている窒化銅を含むシェル層とを備えるものである。すなわち、本発明のコアシェル粒子は、金属銅を含むコア層と、その表面に配置された窒化銅を含むシェル層との2層構造を有する粒子である。このような2層構造は、例えば、コアシェル粒子をエポキシ樹脂液に分散した分散液を硬化させ、得られた硬化物をクロスセクションポリッシャー(CP)によりカッティングし、得られた切片についてエネルギー分散型X線分光法による結晶解析を行い、コア層部分に金属銅(Cu)由来のピークが検出され、シェル層部分に窒化銅(Cu
3N)由来のピークが検出されることによって確認することができる。
【0019】
本発明のコアシェル粒子において、前記コア層の平均直径としては特に制限はないが、50nm〜200μmが好ましく、70nm〜100μmがより好ましい。前記コア層の平均直径が前記下限未満になると、所望のコアシェル粒子を製造することが困難になる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、接合材料としての取扱い性や性能(例えば、接合強度)が低下する傾向にある。なお、このようなコア層の平均直径は、例えば、コアシェル粒子をエポキシ樹脂液に分散した分散液を硬化させ、得られた硬化物をクロスセクションポリッシャー(CP)によりカッティングし、得られた切片について電界放出形走査型電子顕微鏡(FE−SEM)等を用いて観察し、得られたSEM像において、50個以上のコアシェル粒子を無作為に抽出し、各粒子のコア層の直径を測定して、それらを算術平均することによって求めることができる。コア層の断面の形状が真円状でない場合には、その断面の外接円の直径をそのコア層の直径とする。
【0020】
また、本発明のコアシェル粒子においては、前記コア層が金属銅のみからなるものであることが特に好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲において、前記コア層には金属銅以外の成分が含まれていてもよい。このようなコア層における金属銅以外の成分の含有量としては、コアシェル粒子100質量%に対して、40質量%未満が好ましく、20質量%未満がより好ましい。コア層における金属銅以外の成分の含有量が多くなると、シェル層における窒化銅の含有量が少なくなり、接合材料としての性能(例えば、接合強度)が低下する傾向にある。
【0021】
本発明のコアシェル粒子において、前記シェル層の平均厚みとしては特に制限はないが、5nm〜1μmが好ましく、10nm〜700nmがより好ましい。前記シェル層の平均厚みが前記下限未満になると、コア層の金属銅が酸化され、接合材料としての性能(例えば、接合強度)が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、分解速度が低下する傾向にある。なお、このようなシェル層の平均厚みは、例えば、コアシェル粒子をエポキシ樹脂液に分散した分散液を硬化させ、得られた硬化物をクロスセクションポリッシャー(CP)によりカッティングし、得られた切片について電界放出形走査型電子顕微鏡(FE−SEM)等を用いて観察し、得られたSEM像において、50個以上のコアシェル粒子を無作為に抽出し、各粒子においてシェル層の厚みを無作為に4点測定し、それらの算術平均値をその粒子のシェル層の厚みとし、さらに、前記50個以上のコアシェル粒子のシェル層の厚みを算術平均することによって求めることができる。
【0022】
このようなシェル層に含まれる窒化銅の形状は特に制限はなく、例えば、バルク状、球状、針状、立方体状、不定形状等の形状が挙げられる。これらの形状の中でも、粒径が小さくなって比表面積が増加し、単位体積当たりの表面自由エネルギーが増加することによって、窒化銅の表面の活性が高くなり、コアシェル粒子の分解温度が低くなり、焼結温度が低くなるという観点から、球状、針状、立方体状、不定形状が好ましい。
【0023】
また、本発明のコアシェル粒子においては、前記シェル層が窒化銅のみからなるものであることが特に好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲において、前記シェル層には窒化銅以外の成分が含まれていてもよい。このようなシェル層における窒化銅以外の成分の含有量としては、コアシェル粒子100質量%に対して、50質量%未満が好ましく、40質量%未満がより好ましい。シェル層における窒化銅以外の成分の含有量が多くなると、接合材料としての性能(例えば、接合強度)が低下する傾向にある。
【0024】
本発明のコアシェル粒子の一次粒子の平均粒径としては、60nm〜202μmが好ましく、70nm〜150μmがより好ましい。平均粒径が前記範囲内にあるコアシェル粒子の一次粒子は、比表面積が大きく、単位体積当たりの表面自由エネルギーが大きくなり、一次粒子表面の活性が高くなるため、コアシェル粒子の分解温度が低くなり、焼結温度が低くなる傾向にある。特に、一次粒子の平均粒径が前記範囲内にあるコアシェル粒子であって、シェル層に含まれる窒化銅の形状が球状、針状、立方体状、不定形状のものは、シェル層に含まれる窒化銅がより低い温度で銅と窒素に分解され、その結果、より低い温度でも焼結が可能となり、接合材料として使用した場合に、電子部品等の被接合部材が熱による損傷(溶融、変形等)を受けにくくなる傾向にある。また、一般に、一次粒子の平均粒径が前記範囲内にある金属粒子は、比表面積が大きく、容易に酸化されるため、例えば、一次粒子の平均粒径が前記範囲内にある金属銅粒子は容易に酸化されて酸化銅粒子となる。このため、一次粒子の平均粒径が前記範囲内にある金属銅粒子は、水素等の還元雰囲気下で取扱う必要がある。一方、本発明のコアシェル粒子においては、コア層の表面に耐酸化性に優れた窒化銅が配置されているため、一次粒子の平均粒径が前記範囲内であっても、酸化されにくく、水素等の還元雰囲気下で取扱う必要がない。なお、このようなコアシェル粒子の一次粒子の平均粒径は、例えば、コアシェル粒子を電界放出形走査型電子顕微鏡(FE−SEM)等を用いて観察し、得られたSEM像において、50個以上のコアシェル粒子を無作為に抽出し、各粒子の粒径を測定して、それらを算術平均することによって求めることができる。コアシェル粒子の投影像が真円状でない場合には、その投影像の外接円の直径をそのコアシェル粒子の粒径とする。
【0025】
このような本発明のコアシェル粒子の分解温度としては、150〜420℃が好ましく、150〜400℃がより好ましく、150〜350℃が更に好ましく、150〜300℃が特に好ましく、150〜280℃が最も好ましい。コアシェル粒子の分解温度が前記下限未満になると、所望のコアシェル粒子を製造することが困難になる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、より低温(例えば、420℃以下)での溶融、焼結が困難となり、接合材料としてより低温(例えば、420℃以下)での接合が困難となる傾向にある。なお、コアシェル粒子の分解温度は、示差熱天秤分析(常圧)において、質量減少の変曲点の温度を測定することによって求めることができる。
【0026】
このような本発明のコアシェル粒子は、例えば、表面に酸化銅を備えている金属銅粒子に窒化処理を施して前記酸化銅を窒化銅に変換せしめることにより製造することができる。また、アンモニアガス雰囲気下で金属銅粒子を高温処理する方法(ガス窒化法)、シアン酸塩(シアン酸ナトリウムやシアン酸カリウム等)の塩浴中で金属銅粒子を高温処理する方法(塩浴窒化法)、シアン酸塩(シアン酸ナトリウムやシアン酸カリウム等)や炭酸カリウム等の塩浴中で空気を吹き込みながら金属銅粒子を高温処理する方法(塩浴軟窒化法)、アンモニアガスと浸炭性ガスとの混合ガス雰囲気下で金属銅粒子を高温処理する方法(ガス軟窒化法)、アンモニアガス雰囲気下又は水素ガスと窒素ガスとの混合ガス雰囲気下で金属銅粒子にプラズマ処理を施す方法(プラズマ窒化)等によって製造することもできる。
【0027】
<コアシェル粒子の製造方法>
次に、本発明のコアシェル粒子の製造方法について説明する。本発明のコアシェル粒子の製造方法は、金属銅を含むコア層と該コア層の表面に配置されている銅酸化生成物を含むシェル層とを備えている表面酸化金属銅粒子に窒化処理を施して、前記銅酸化生成物を窒化銅に変換せしめることにより、金属銅を含むコア層と該コア層の表面に配置されている窒化銅を含むシェル層とを備えるコアシェル粒子を得る方法である。本発明のコアシェル粒子の製造方法においては、前記表面酸化金属銅粒子に窒素化合物の存在下で加熱処理を施すことによって、前記銅酸化生成物を窒化銅に変換せしめることが好ましい。
【0028】
本発明のコアシェル粒子の製造方法に用いられる前記表面酸化金属銅粒子としては、表面に銅酸化生成物を備えている金属銅粒子であれば特に制限はなく、例えば、金属銅を含むコア層と、このコア層の表面に配置されている銅酸化生成物を含むシェル層とを備えている金属銅粒子(表面が部分的に酸化されているものを含む。)が挙げられる。このような表面酸化金属銅粒子としては、金属銅粒子表面が自然酸化されたものをそのまま使用してもよいし、表面が酸化されていない金属銅粒子や表面が自然酸化された金属銅粒子に表面酸化処理を施したものを使用してもよい。なお、金属銅粒子表面の自然酸化が不十分な場合(酸化銅の量が少ない場合)には、表面酸化処理を施すことが好ましい。表面酸化金属銅粒子の表面の銅酸化生成物の量が少なすぎると、窒化処理により生成する窒化銅の量が少なくなり、低温での焼結が可能なコアシェル粒子が得られない傾向にある。このような表面酸化金属銅粒子の表面における銅の酸化数としては特に制限はなく、1価又は2価のいずれであってもよい。なお、表面酸化金属銅粒子の表面に存在する銅酸化生成物は、例えば、金属銅粒子のX線回折パターンにおいて銅酸化生成物由来のピークが検出されることによって確認することができる。
【0029】
このような表面酸化金属銅粒子において、前記コア層の平均直径としては特に制限はないが、50nm〜200μmが好ましく、70nm〜100μmがより好ましい。コア層の平均直径が前記範囲内にある表面酸化金属銅粒子を用いることによって、コア層の平均直径が前記範囲内にある所望のコアシェル粒子を得ることができる。なお、このようなコア層の平均直径は、例えば、表面酸化金属銅粒子をエポキシ樹脂液に分散した分散液を硬化させ、得られた硬化物をクロスセクションポリッシャー(CP)によりカッティングし、得られた切片について電界放出形走査型電子顕微鏡(FE−SEM)等を用いて観察し、得られたSEM像において、50個以上の前記表面酸化金属銅粒子を無作為に抽出し、各粒子のコア層の直径を測定して、それらを算術平均することによって求めることができる。コア層の断面の形状が真円状でない場合には、その断面の外接円の直径をそのコア層の直径とする。
【0030】
また、前記表面酸化金属銅粒子においては、前記コア層が金属銅のみからなるものであることが特に好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲において、前記コア層には金属銅以外の成分が含まれていてもよい。このようなコア層における金属銅以外の成分の含有量としては、前記表面酸化金属銅粒子100質量%に対して、40質量%未満が好ましく、20質量%未満がより好ましい。コア層における金属銅以外の成分の含有量が前記範囲内にある表面酸化金属銅粒子を用いることによって、コア層における金属銅以外の成分の含有量が前記範囲内にある所望のコアシェル粒子を得ることができる。
【0031】
本発明のコアシェル粒子の製造方法に用いられる前記表面酸化金属銅粒子において、前記シェル層の平均厚みとしては特に制限はないが、5nm〜1μmが好ましく、10nm〜700nmがより好ましい。シェル層の平均厚みが前記範囲内にある表面酸化金属銅粒子を用いることによって、シェル層の平均厚みが前記範囲内にある所望のコアシェル粒子を得ることができる。なお、このようなシェル層の平均厚みは、例えば、表面酸化金属銅粒子をエポキシ樹脂液に分散した分散液を硬化させ、得られた硬化物をクロスセクションポリッシャー(CP)によりカッティングし、得られた切片について電界放出形走査型電子顕微鏡(FE−SEM)等を用いて観察し、得られたSEM像において、50個以上の前記表面酸化金属銅粒子を無作為に抽出し、各粒子においてシェル層の厚みを無作為に4点測定し、それらの算術平均値をその粒子のシェル層の厚みとし、さらに、前記50個以上の金属銅粒子のシェル層の厚みを算術平均することによって求めることができる。
【0032】
また、前記表面酸化金属銅粒子においては、前記シェル層が銅酸化生成物のみからなるものであることが特に好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲において、前記シェル層には銅酸化生成物以外の成分が含まれていてもよい。このようなシェル層における銅酸化生成物以外の成分の含有量としては、金属銅粒子100質量%に対して、50質量%未満が好ましく、40質量%未満がより好ましい。シェル層における銅酸化生成物以外の成分の含有量が前記範囲内にある表面酸化金属銅粒子を用いることによって、シェル層における窒化銅以外の成分の含有量が前記範囲内にある所望のコアシェル粒子を得ることができる。
【0033】
本発明のコアシェル粒子の製造方法に用いられる前記表面酸化金属銅粒子の一次粒子の平均粒径としては、60nm〜202μmが好ましく、70nm〜150μmがより好ましい。一次粒子の平均粒径が前記範囲内にある表面酸化金属銅粒子を用いることによって、一次粒子の平均粒径が前記範囲内にある所望のコアシェル粒子を得ることができる。なお、このような表面酸化金属銅粒子の一次粒子の平均粒径は、例えば、表面酸化金属銅粒子を電界放出形走査型電子顕微鏡(FE−SEM)等を用いて観察し、得られたSEM像において、50個以上の表面酸化金属銅粒子を無作為に抽出し、各粒子の粒径を測定して、それらを算術平均することによって求めることができる。表面酸化金属銅粒子の投影像が真円状でない場合には、その投影像の外接円の直径をその表面酸化金属銅粒子の粒径とする。
【0034】
このような表面酸化金属銅粒子を得るための表面酸化処理方法としては特に制限はないが、酸素存在下での熱処理、高湿度処理、酸化剤による処理等が挙げられる。前記熱処理における加熱温度としては、100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。また、前記高湿度処理における湿度としては、20%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。
【0035】
また、酸化剤による処理方法としては、通常、分散媒中で、金属銅粒子と酸化剤とを接触させる方法が挙げられ、撹拌及び/又は加熱することにより金属銅粒子の酸化を促進することができる。ここで用いられる分散媒としては、酸化促進の観点から、沸点が100℃以上の分散媒であれば特に制限はなく、例えば、アルコール化合物、エーテル化合物、炭化水素化合物等が挙げられる。これらの分散媒は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0036】
前記アルコール化合物としては、例えば、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、クロチルアルコール、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、6−ヘプテン−1−オール、7−オクテン−1−オール、8−ノネン−1−オール、シクロヘキサノール、シクロヘキシルメタノール、4−メチルシクロヘキサノール、フェノール、クレゾール、4−エチルフェノール等の炭素数5〜20の直鎖状、分岐状又は環状の、飽和又は不飽和の炭化水素鎖にヒドロキシル基が1つ結合したモノアルコール;エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−プロパン、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール等の炭素数2〜10の直鎖、分岐状又は環状の、飽和又は不飽和の炭化水素鎖にヒドロキシル基が2つ以上結合した多価アルコール化合物が挙げられる。
【0037】
前記エーテル化合物としては、例えば、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等の炭素数2〜10の直鎖、分岐状又は環状の、飽和又は不飽和の炭化水素鎖同士が1つ以上の酸素元素により1つ以上架橋されているエーテル化合物が挙げられる。また、エーテル化合物は沸点が低いため、酸化に必要な沸点を得ることを目的として、前記炭化水素鎖には1つ以上のヒドロキシル基が結合していてもよい。これらのエーテル化合物の中でも、沸点が120℃以上のヒドロキシル基を有するエーテル化合物が好ましく、沸点が150℃以上のヒドロキシル基を有するエーテル化合物より好ましい。
【0038】
また、酸化剤としては、金属銅粒子の表面を酸化できるものであれば特に制限はなく、例えば、カルボキシル基を有する有機酸;ヒドロキシ基とカルボキシル基とを有する有機酸;塩酸、硫酸等の無機酸が挙げられる。
【0039】
前記カルボキシル基を有する有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロパン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、エチルアセト酢酸、トリフルオロアセチルアセトナト、アクリル酸、プロピオール酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、オレイン酸、リシノレン酸、安息香酸、トルイル酸、ナフトエ酸、桂皮酸等の炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)1〜20の直鎖状、分岐状又は環状の、飽和又は不飽和の炭化水素鎖に1つのカルボキシル基が結合しているモノカルボン酸;フマル酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、蓚酸、マロン酸、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)2〜20の直鎖状、分岐状又は環状の、飽和又は不飽和の炭化水素鎖に2つ以上のカルボキシル基が結合している多価カルボン酸が挙げられる。
【0040】
前記ヒドロキシ基とカルボキシル基とを有する有機酸としては、例えば、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、γ−ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、グルコン酸等の炭素数(ヒドロキシカルボキシル基の炭素を含む)1〜20の直鎖状、分岐状又は環状の、飽和又は不飽和の炭化水素鎖に1つ以上のカルボキシル基と1つ以上のヒドロキシ基とが結合しているヒドロキシカルボン酸が挙げられる。
【0041】
これらの酸化剤の中でも、前記カルボキシル基を有する有機酸及び前記ヒドロキシ基とカルボキシル基とを有する有機酸が好ましく、炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)1〜20の直鎖状、分岐状又は環状の、飽和又は不飽和の炭化水素鎖に1つのカルボキシル基が結合しているモノカルボン酸がより好ましく、炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)1〜12の直鎖状、分岐状又は環状の、飽和又は不飽和の炭化水素鎖に1つのカルボキシル基が結合しているモノカルボン酸が更に好ましく、炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)1〜6の直鎖状、分岐状又は環状の、飽和又は不飽和の炭化水素鎖に1つのカルボキシル基が結合しているモノカルボン酸が特に好ましい。また、これらの酸化剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0042】
本発明のコアシェル粒子の製造方法において、前記表面酸化金属銅粒子の窒化処理方法としては、前記表面酸化金属銅粒子に窒素化合物の存在下で加熱処理を施す方法が好ましい。これにより、表面酸化金属銅粒子表面の銅酸化生成物が窒化銅に変換され、金属銅を含むコア層と、このコア層の表面に配置されている窒化銅を含むシェル層とを備える本発明のコアシェル粒子を得ることができる。
【0043】
前記窒化処理に用いられる窒素化合物としては、尿素、アンモニアガス、アンモニウム塩化合物、尿素誘導体化合物、硝酸塩化合物、アミン化合物、アジ化化合物等が挙げられる。これらの窒素化合物は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0044】
前記アンモニウム塩化合物としては、例えば、アジ化アンモニウム、安息香酸アンモニウム、塩化アンモニウム、塩化アンモン石、塩素酸アンモニウム、過塩素酸アンモニウム、過マンガン酸アンモニウム、クロム酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、水酸化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、チオグリコール酸アンモニウム、チオシアン酸アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、チオグリコール酸アンモニウム、チオシアン酸アンモニウム、フッ化水素アンモニウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ素酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウムが挙げられる。
【0045】
前記尿素誘導体化合物としては、例えば、ベンジル尿素、N−エチル−N’−フェニル尿素、O−エトキシフェニル尿素、m−エトキシフェニル尿素、p−エトキシフェニル尿素、N,N’−ジフェニル尿素、N,N’−ジフェニル尿素、テトラフェニル尿素、N−ベンゾイル尿素等の尿素の1つ以上のアミノ基が炭素数1〜20の直鎖状、分岐状又は環状の、飽和又は不飽和の炭化水素鎖或いは芳香環と結合しているものが挙げられる。
【0046】
前記アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デカニルアミン、シクロヘキシルアミン、2−メチルシクロヘキシルアミン、アリルアミン、オレイルアミン、アニリン、トルイジン、エチルアニリン等の炭素数1〜20の直鎖状、分岐状又は環状の、飽和又は不飽和の炭化水素鎖に1級〜4級のいずれかのアミノ基が結合しているアミン化合物;ジアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、m−キシリジンジアミン、p−フェニレンジアミン、トルイレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,6’−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(m−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、4,4’−ビス(p−アミノフェノキシ)ベンゾフェノフェン、4,4’−ビス(m−アミノフェノキシ)ベンゾフェノフェン、4,4’−ビス(p−アミノフェニルメルカプト)ベンゾフェノン、4,4’−ビス(p−アミノフェニルメルカプト)ジフェニルスルホン、4,4’,4”−トリアミノトリフェニルメタン、トリアムテレン等の分子内に2以上の1級〜4級のいずれかのアミノ基を有する多価アミン化合物が挙げられる。
【0047】
前記アジ化化合物としては、例えば、アジ化水素、アジ化ナトリウムが挙げられる。
【0048】
これらの窒素化合物の中でも、窒化処理の際に250℃以下の温度で分解または蒸散する窒素含有化合物が好ましく、例えば、尿素、アンモニアガス、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、酢酸アンモニウム、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デカニルアミンが好ましく、尿素、アンモニアガス、塩化アンモニウム、臭化アンモニウム、酢酸アンモニウムがより好ましい。これらの窒素化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
また、本発明のコアシェル粒子の製造方法においては、通常、分散媒中で前記窒化処理を実施することが好ましい。このとき使用される分散媒としては、収率の観点から、沸点が100℃以上の分散媒であれば特に制限はなく、例えば、アルコール化合物、エーテル化合物、炭化水素化合物等が挙げられる。これらの分散媒は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0050】
前記アルコール化合物としては、例えば、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、クロチルアルコール、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、6−ヘプテン−1−オール、7−オクテン−1−オール、8−ノネン−1−オール、シクロヘキサノール、シクロヘキシルメタノール、4−メチルシクロヘキサノール、フェノール、クレゾール、4−エチルフェノール等の炭素数5〜20の直鎖状、分岐状又は環状の、飽和又は不飽和の炭化水素鎖にヒドロキシル基が1つ結合したモノアルコール;エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−プロパン、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−ブテン−1,4−ジオール等の炭素数2〜10の直鎖、分岐状又は環状の、飽和又は不飽和の炭化水素鎖にヒドロキシル基が2つ以上結合した多価アルコール化合物が挙げられる。
【0051】
前記エーテル化合物としては、例えば、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル等の炭素数2〜10の直鎖、分岐状又は環状の、飽和又は不飽和の炭化水素鎖同士が1つ以上の酸素元素により1つ以上架橋されているエーテル化合物が挙げられる。また、エーテル化合物は沸点が低いため、合成に必要な沸点を得ることを目的として、前記炭化水素鎖には1つ以上のヒドロキシル基が結合していてもよい。これらのエーテル化合物の中でも、沸点が120℃以上のヒドロキシル基を有するエーテル化合物が好ましく、沸点が150℃以上のヒドロキシル基を有するエーテル化合物より好ましい。
【0052】
このような窒化処理において、前記表面酸化金属銅粒子と前記窒素化合物とを前記分散媒に分散して加熱処理を施すことによって、前記表面酸化金属銅粒子のシェル層の銅酸化生成物が窒化銅に変換され、本発明のコアシェル粒子が得られる。加熱温度としては、収率及び窒化銅の分解温度の観点から、100〜250℃が好ましく、150〜250℃がより好ましい。また、加熱処理時の圧力条件は特に制限はなく、減圧下、常圧下、加圧下のいずれの条件でもよく、適宜選択することができるが、装置やプロセスの簡略化の観点から、常圧下が好ましい。加熱方法についても特に制限はなく、温風、熱媒、マイクロ波等の電磁波、熱線等が挙げられ、分散液内部の温度分布が均一になるという観点から、マイクロ波等による電磁波加熱が好ましい。
【0053】
<接合材料>
次に、本発明の接合材料について説明する。本発明の接合材料は、前記本発明のコアシェル粒子を含有するものである。このような本発明の接合材料は、金属部材と被接合部材との接合に好適に用いることができる。また、本発明の接合材料においては、取扱い性の観点から、前記本発明のコアシェル粒子が液状又はペースト状の分散媒中に分散していることが好ましく、また、コアシェル粒子の含有量としては、接合材料100質量%に対して60〜95質量%が好ましく、65〜95質量%がより好ましい。
【0054】
このような接合材料に用いられる分散媒は、コアシェル粒子が十分に分散し、焼結時に残留しないものであれば特に制限はなく、液状のものであってもペースト状のものであってもよい。このような分散媒としては、例えば、水、ケトン類、エステル類、アルコール類、グリコールエーテル類、カルボン酸類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、石油系炭化水素類、ワックス類等の炭化水素系化合物が挙げられる。
【0055】
水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水等が挙げられる。ケトン類としては、例えば、イソホロン、ジイソブチルケトン等の炭素数3〜20のケトン類が挙げられる。エステル類としては、例えば、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸プロピル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等の炭素数3〜20のエステル類が挙げられる。アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、セカンダリーブチルアルコール、オクタノール、ノナノール、デカノール、フェノール、テルピネオール等の炭素数1〜22の直鎖状又は分岐状の飽和アルコール類、炭素数3〜22の直鎖状又は分岐状の不飽和アルコール類、炭素数6〜22の環状アルコール類が挙げられる。グリコールエーテル類としては、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等の炭素数3〜20のグリコールエーテル類が挙げられる。カルボン酸類としては、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸等の炭素数(カルボキシル基の炭素を含む)1〜10のカルボン酸類が挙げられる。芳香族炭化水素類としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン等の炭素数6〜20の芳香族炭化水素類が挙げられる。脂肪族炭化水素類としては、例えば、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン等の炭素数3〜18の飽和、不飽和の脂肪族炭化水素類が挙げられる。石油系炭化水素類としては、例えば、ミネラルスピリット、ガソリン、コールタールナフサ、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、テレピン油等が挙げられる。ワックス類としては、例えば、植物系ワックス(ハゼ蝋、ウルシ蝋等)、動物系ワックス(ミツ蝋、鯨蝋等)、鉱物系ワックス(モンタンワックス等)、石油系ワックス(パラフィンワックス等)、合成ワックス等が挙げられる。これらの分散媒の中でも、コアシェル粒子の分散性の観点から、エステル類、アルコール類、グリコールエーテル類、カルボン酸類、芳香族炭化水素類が好ましい。また、これらの分散媒は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0056】
本発明の接合材料における分散媒の含有量としては特に制限はないが、接合材料の取扱い性の観点から、接合材料100質量%に対して5〜40質量%が好ましく、5〜35質量%がより好ましい。
【0057】
また、本発明の接合材料においては、コアシェル粒子の分散性を向上させるために、分散剤を配合することができる。このような分散剤としては、焼結接合時に残留が少なく、接合材料の性能(例えば、接合強度)に影響を及ぼしにくいものが好ましく、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、キレート剤、水溶性高分子等が好ましい。
【0058】
アニオン界面活性剤としては、石鹸、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、α−スルホ脂肪酸エステル、α−オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸エステル塩等が挙げられる。カチオン界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等が挙げられる。ノニオン界面活性剤としては、高級アルコールアルキレンオキサイド付加物、アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アルキレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンアルキレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドアルキレンオキサイド付加物、ポリオキシプロピレンのアルキレンオキサイド付加物等のポリアルキレングリコール型ノニオン界面活性剤;グリセロール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等の多価アルコール型ノニオン界面活性剤が挙げられる。なお、前記高級アルコールは、通常、炭素数8〜22の直鎖状又は分岐状の、飽和又は不飽和の高級アルコールであり、アルキルフェノールは、通常、炭素数6〜22の直鎖状又は分岐状の、飽和又は不飽和のアルキルフェノールであり、脂肪酸は、通常、炭素数10〜22の飽和又は不飽和の脂肪酸であり、多価アルコールは、通常、炭素数3〜12の多価アルコールであり、高級アルキルアミンは、通常、炭素数8〜22の直鎖状又は分岐状の、飽和又は不飽和の高級アルキルアミンである。キレート剤としては、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸等が挙げられる。水溶性高分子としては、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0059】
このような分散剤の配合量としては、コアシェル粒子の分散性、分散剤の残留性の観点から、コアシェル粒子100質量部に対して60質量部以下が好ましい。
【0060】
さらに、本発明の接合材料においては、本発明の効果を損なわない範囲において、樹脂、金属フィラー、フラックス等を配合することができる。前記フラックスとしては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、安息香酸、アビエチン酸等のモノカルボン酸;コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸等のジカルボン酸等が挙げられる。
【0061】
このような本発明の接合材料は、例えば、前記本発明のコアシェル粒子と前記分散媒と、必要に応じて分散剤等を撹拌混合することによって製造することができる。このような撹拌混合に用いられる混合機としては特に制限はなく、例えば、ホモミキサー、アジテイター、ディスパー、プラネタリーミキサー、アジホモミキサー、ユニバーサルミキサー、アトライター等の混合機を適宜選択して使用することができる。これらの混合機は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0062】
<接合方法>
次に、本発明の接合方法について説明する。本発明の接合方法は、金属部材の被接合面と被接合部材の被接合面との間に、前記本発明の接合材料を用いて接合材料層を形成する工程と、前記接合材料層を加熱して前記接合材料を焼結せしめて接合層を形成し、該接合層を介して前記金属部材と前記被接合部材とを接合せしめる工程と、を含む方法である。
【0063】
前記金属部材としては導電性を有する金属部材であれば特に制限はなく、例えば、半導体装置等の電子部品の電極や配線等の回路層が挙げられる。また、前記金属部材を構成する金属の種類としては特に制限はなく、金、銀、銅等が挙げられる。さらに、前記被接合部材としては電子部材であれば特に制限はなく、例えば、半導体素子等が挙げられる。
【0064】
このような本発明の接合方法において、金属部材の被接合面と被接合部材の被接合面との間に形成された接合材料層の配置状態としては、例えば、
(1)金属部材の被接合面と被接合部材の被接合面との間のみに接合材料層が配置されている状態、
(2)金属部材の被接合面と被接合部材の被接合面の両被接合面の外縁部のみに接合材料層が配置されている状態、
(3)金属部材の被接合面と被接合部材の被接合面との間及びの両被接合面の外縁部に接合材料層が配置されている状態、
等が挙げられる。
【0065】
本発明の接合方法において、前記接合材料層を形成する方法としては、例えば、金属部材(例えば、基板上の電極)及び/又は被接合部材(例えば、電子部品の接続部)の必要部分(前記接合材料層を形成する領域)に、インクジェット法により微細なノズルからペースト状の前記接合材料を噴出させて前記接合材料を塗布、付着、注入、コーティング又は充填等する方法;開口したメタルマスクやメッシュ状マスクを用いて前記接合材料を塗布、付着、注入、コーティング又は充填等する方法;ディスペンサを用いて前記接合材料を塗布、付着、注入、コーティング又は充填等する方法等が挙げられる。これらの方法は、接合する金属部材(例えば、基板上の電極)及び被接合部材(例えば、電子部品の接続部)の面積、形状等に応じて適宜選択する又は組み合わせることが可能である。
【0066】
本発明の接合方法における前記接合材料の配置量(前記接合材料層の大きさ等)は、接合する金属部材(例えば、基板上の電極)及び被接合部材(例えば、電子部品の接続部)の面積、接合強度等に応じて適宜設定することができ、特に制限されない。
【0067】
また、本発明の接合方法において、前記接合材料を焼結せしめる際の加熱温度としては前記接合材料が溶融、焼結する温度であれば特に制限はないが、前記コアシェル粒子の分解温度以上500℃以下であることが好ましく、前記コアシェル粒子の分解温度以上450℃以下であることがより好ましい。前記加熱温度が前記下限未満になると、コアシェル粒子が分解しにくく、接合材料の溶融、焼結が十分に進行せず、接合強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、電子部品等の被接合部材が熱により損傷(例えば、溶融、変形等)を受けやすくなる傾向にある。また、本発明の接合方法においては、前記コアシェル粒子の分解温度が低いことから、より低い温度(例えば、420℃以下の温度、好ましくは400℃以下の温度、より好ましくは350℃以下の温度、更に好ましくは300℃以下の温度、特に好ましくは280℃以下の温度)でも前記接合材料を加熱により溶融、焼結させることが可能である。
【0068】
さらに、本発明の接合方法において、接合材料層を形成したり、加熱したりする際の雰囲気としては特に制限はなく、例えば、空気雰囲気又は不活性ガス雰囲気等のいずれの雰囲気でもよいが、回路層等の酸化を防止するという観点から、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガス雰囲気が好ましい。
【実施例】
【0069】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、コアシェル粒子の平均粒径、コア層の平均直径、シェル層の平均厚みは以下の方法により測定した。
【0070】
(コアシェル粒子の一次粒子の平均粒径)
得られたコアシェル粒子について電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM、Carl Zeiss社製「FE−SEM ULTRA plus」)を用いてSEM観察を行い、得られたSEM像において、50個のコアシェル粒子を無作為に抽出し、各一次粒子の粒径を測定し、その算術平均値をコアシェル粒子の一次粒子の平均粒径とした。なお、コアシェル粒子の投影像が真円状でない場合には、その投影像の外接円の直径をそのコアシェル粒子の粒径とした。
【0071】
(コア層の平均直径及びシェル層の平均厚み)
得られたコアシェル粒子をエポキシ樹脂液に分散した分散液を硬化させ、得られた硬化物をクロスセクションポリッシャー(CP)によりカッティングした。得られた切片について電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM、Carl Zeiss社製「FE−SEM ULTRA plus」)を用いてSEM観察を行い、得られたSEM像において、50個のコアシェル粒子を無作為に抽出し、各粒子のコア層の直径を測定し、その算術平均値をコア層の平均直径とした。また、各粒子においてシェル層の厚みを無作為に4点測定し、それらの算術平均値をその粒子のシェル層の厚みとし、前記50個のコアシェル粒子のシェル層の厚みの算術平均値をシェル層の平均厚みとした。
【0072】
(調製例1)
先ず、金属銅(Cu)粉末(株式会社高純度化学研究所製「CUE08PB」、一次粒子の平均粒径1μm)を、X線回折装置(BRUKER社製「D8 ADVANCE&LEPTOS」を用いて分析した。その結果、前記金属銅粉末のX線回折パターンに酸化銅に起因するピークが観測され、前記金属銅粉末は表面が酸化されている(すなわち、表面が酸化銅で被覆された金属銅粉末(以下、「表面酸化金属銅粉末1」という。)である。)ことが確認された。
【0073】
この金属銅粉末(表面酸化金属銅粉末1)3g及び尿素2gをノナノール100mlに添加した後、100rpmで攪拌しながら昇温し、190℃で1時間加熱した。加熱後の分散液を30℃まで冷却した後、超遠心分離機(日立工機株式会社製「himac−CS100FNX」)を用いて遠心分離(50000rpm)を行い、沈殿物を固形分として回収した。得られた沈殿物をエタノールで十分に洗浄した後、分散液に前記超遠心分離機を用いて遠心分離(50000rpm)を施して沈殿物を固形分として回収した。この一連の操作(洗浄及び遠心分離)を5回繰り返して、コアシェル粒子1を得た。
【0074】
得られたコアシェル粒子1を、電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM、Carl Zeiss社製「FE−SEM ULTRA plus」)を用いて分析したところ、コア層は金属銅により形成され、シェル層は立方体状の窒化銅の凝集物により形成されていることが確認された。また、得られたコアシェル粒子1の一次粒子の平均粒径は1μm、コア層の平均直径は900nm、シェル層の平均厚みは50nmであった。
【0075】
(調製例2)
金属銅(Cu)粉末(株式会社高純度化学研究所製「CUE08PB」、すなわち、調製例1で使用した表面酸化金属銅粉末1)10gを恒温器(熱処理器)(タバイエスペック株式会社製、「HIGH−TEMP OVEN PHH−200」)に入れて昇温し、150℃で1時間加熱した。その後、25℃まで冷却して前記表面酸化金属銅粉末1の表面に酸化処理を施した。これにより、調製例1で使用した前記表面酸化金属銅粉末1に比べて酸化銅の被覆量が増加した金属銅粉末(以下、「表面酸化金属銅粉末2」という。)を得た。
【0076】
前記表面酸化金属銅粉末1の代わりに、酸化処理を施した前記金属銅粉末(表面酸化金属銅粉末2)3gを用い、尿素の量を2.5gに変更し、加熱温度を200℃に変更した以外は、調製例1と同様にしてコアシェル粒子2を得た。
【0077】
得られたコアシェル粒子2を調製例1と同様にして分析したところ、コア層は金属銅により形成され、シェル層は立方体状の窒化銅の凝集物により形成されていることが確認された。また、得られたコアシェル粒子2の一次粒子の平均粒径は1μm、コア層の平均直径は800nm、シェル層の平均厚みは100nmであった。
【0078】
(調製例3)
先ず、金属銅(Cu)粉末(シグマアルドリッチ社製「POWDER(SPHEROIDAL)」、銅純度99%、一次粒子の平均粒径20μm)を、X線回折装置(BRUKER社製「D8 ADVANCE&LEPTOS」を用いて分析した。その結果、前記金属銅粉末のX線回折パターンに酸化銅に起因するピークが観測され、前記金属銅粉末は表面が酸化されている(すなわち、表面が酸化銅で被覆された金属銅粉末(以下、「表面酸化金属銅粉末3」という。)である。)ことが確認された。
【0079】
前記表面酸化金属銅粉末1の代わりに、この金属銅粉末(表面酸化金属銅粉末3)3gを用い、尿素の量を1.5gに変更し、加熱温度を200℃に変更した以外は、調製例1と同様にしてコアシェル粒子3を得た。
【0080】
得られたコアシェル粒子3を調製例1と同様にして分析したところ、コア層は金属銅により形成され、シェル層は立方体状の窒化銅の凝集物により形成されていることが確認された。また、得られたコアシェル粒子3の一次粒子の平均粒径は20μm、コア層の平均直径は19.8μm、シェル層の平均厚みは100nmであった。
【0081】
(調製例4)
先ず、金属銅(Cu)粉末(福田金属箔粉工業株式会社製「Cu−C−40」、銅純度99%、一次粒子の平均粒径200nm)を、X線回折装置(BRUKER社製「D8 ADVANCE&LEPTOS」を用いて分析した。その結果、前記金属銅粉末のX線回折パターンに酸化銅に起因するピークが観測され、前記金属銅粉末は表面が酸化されている(すなわち、表面が酸化銅で被覆された金属銅粉末(以下、「表面酸化金属銅粉末4」という。)である。)ことが確認された。
【0082】
前記表面酸化金属銅粉末1の代わりに、この金属銅粉末(表面酸化金属銅粉末4)3gを用い、尿素の量を3に変更し、加熱温度を200℃に変更した以外は、調製例1と同様にしてコアシェル粒子4を得た。
【0083】
得られたコアシェル粒子4を調製例1と同様にして分析したところ、コア層は金属銅により形成され、シェル層は立方体状の窒化銅の凝集物により形成されていることが確認された。また、得られたコアシェル粒子4の一次粒子の平均粒径は200nm、コア層の平均直径は150nm、シェル層の平均厚みは25nmであった。
【0084】
(実施例1)
調製例1で得られた10gのコアシェル粒子1にアビエチン酸0.1gと酢酸0.2gとノナノール2.5mlとエタノール0.5mlとを添加し、自転・公転方式混合機(株式会社シンキー製「SR−500」)を用いて、2000rpmで100秒間撹拌して接合材料ペーストを調製した。
【0085】
この接合材料ペーストを銅板(縦20mm、横20mm、厚さ3mm)の表面にメタルマスクを使用して縦15mm、横15mmの領域に厚さ0.5mmで塗布した。塗布後、マスクを除去し、ペースト膜の上に銅板(縦20mm、横20mm、厚さ3mm)を配置した後、窒素ガス雰囲気中、400℃の温度条件で、銅板の上部から10MPaの圧力で10分間加圧して2枚の前記銅板を接合し、接合強度測定用試験片を作製した。この試験片は3個作製した。なお、前記銅板としては、予め、アセトンを用いて脱脂及び5%塩酸液を用いて酸洗浄した後、蒸留水で洗浄したものを用いた。
【0086】
(実施例2)
前記コアシェル粒子1の代わりに調製例2で得られたコアシェル粒子2を用いた以外は実施例1と同様にして接合材料ペーストを調製した。さらに、この接合材料ペーストを用いた以外は実施例1と同様にして2枚の銅板を接合して接合強度測定用試験片を作製した。
【0087】
(実施例3)
前記コアシェル粒子1の代わりに調製例3で得られたコアシェル粒子3を用いた以外は実施例1と同様にして接合材料ペーストを調製した。さらに、この接合材料ペーストを用いた以外は実施例1と同様にして2枚の銅板を接合して接合強度測定用試験片を作製した。
【0088】
(実施例4)
前記コアシェル粒子1の代わりに調製例4で得られたコアシェル粒子4を用いた以外は実施例1と同様にして接合材料ペーストを調製した。さらに、この接合材料ペーストを用いた以外は実施例1と同様にして2枚の銅板を接合して接合強度測定用試験片を作製した。
【0089】
(比較例1)
前記コアシェル粒子1の代わりに金属銅(Cu)粉末(株式会社高純度化学研究所製「CUE08PB」、一次粒子の平均粒径1μm、すなわち、調製例1で使用した表面酸化金属銅粉末1)を用いた以外は実施例1と同様にして接合材料ペーストを調製した。さらに、この接合材料ペーストを用い、実施例1と同様にして2枚の銅板の接合を試みたが、400℃では接合材料が溶融せず、焼結による接合は困難であった。
【0090】
(比較例2)
前記コアシェル粒子1の代わりに金属銅(Cu)ナノ粉末(イオリテック社製「NM−0016−HP」、一次粒子の平均粒径25nm)を用いた以外は実施例1と同様にして接合材料ペーストを調製した。さらに、この接合材料ペーストを用い、実施例1と同様にして2枚の銅板の接合を試みたが、400℃では接合材料が溶融せず、焼結による接合は困難であった。
【0091】
(比較例3)
前記コアシェル粒子1の代わりに酸化銅(CuO)粉末(株式会社高純度化学研究所製「CUO12PB」、一次粒子の平均粒径1μm)を用いた以外は実施例1と同様にして接合材料ペーストを調製した。さらに、この接合材料ペーストを用い、実施例1と同様にして2枚の銅板の接合を試みたが、400℃では接合材料が溶融せず、焼結による接合は困難であった。
【0092】
(比較例4)
前記コアシェル粒子1の代わりに酸化銅(CuO)ナノ粉末(シグマアルドリッチ社製「544868−5G」、一次粒子の平均粒径50nm)を用いた以外は実施例1と同様にして接合材料ペーストを調製した。さらに、この接合材料ペーストを用い、実施例1と同様にして2枚の銅板の接合を試みたが、400℃では接合材料が溶融せず、焼結による接合は困難であった。
【0093】
(比較例5)
前記コアシェル粒子1の代わりに窒化銅粉末(粒子)((SantaCruzBiotechnology,Inc.製「SC−268769」、一次粒子の平均粒径1μm)を用いた以外は実施例1と同様にして接合材料ペーストを調製した。さらに、この接合材料ペーストを用い、実施例1と同様にして2枚の銅板の接合を試みたが、400℃では接合材料が溶融せず、焼結による接合は困難であった。
【0094】
<接合強度測定>
実施例で得られた接合強度測定用試験片を用いて、JIS Z3198−5「鉛フリーはんだ試験方法−第5部:はんだ継手の引張及びせん断試験方法」(2003年)に従って接合強度を測定した。すなわち、接合強度測定用試験片の2枚の銅板の間の接合層の剪断方向に、剪断速度1mm/min、温度25℃の条件で荷重を加え、破断時の最大荷重を測定した。この最大荷重を接合面積(縦15mm×横15mm)で除し、接合強度(せん断強度)を求めた。この測定を3個の試験片について行い、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0095】
<分解温度測定>
実施例で使用したコアシェル粒子1〜5及び比較例で使用した金属銅粉末、金属銅ナノ粉末、酸化銅粉末、酸化銅ナノ粉末、窒化銅粉末の分解温度を、示差熱熱重量同時測定装置(株式会社島津製作所製「DTG−50」)を用いて以下の条件で測定した。その結果を表1に示す。
【0096】
〔測定条件〕
雰囲気:窒素ガス(窒素ガス通気量;100ml/min)。
昇温速度:10℃/min。
サンプル量:3mg。
試料容器:白金セル。
【0097】
【表1】
【0098】
表1に示した結果から明らかなように、本発明のコアシェル粒子(実施例1〜4)は、分解温度が269℃と低いものであった。また、このような本発明のコアシェル粒子を含有する接合材料は、銅板同士を400℃で接合することを可能とするものであり、その接合強度は40kPa以上と高く、強固な焼結組織を形成できることがわかった。
【0099】
一方、金属銅粉末(表面酸化金属銅粉末1)(比較例1)、金属銅ナノ粉末(比較例2)、酸化銅粉末(比較例3)、酸化銅ナノ粉末(比較例4)、及び窒化銅粉末(比較例5)は、分解温度が400℃を超えるものであり、400℃では溶融せず、焼結しなかった。このため、これらの粉末を含有する接合材料を用いて銅板同士を400℃で接合することは困難であった。
【0100】
以上の結果から明らかなように、本発明のコアシェル粒子を含有する接合材料は、水素等の還元雰囲気下で処理する必要がなく、また、比較的低い温度(例えば、420℃以下)で焼結することができ、さらに、優れた接合強度を有する接合層を形成できることがわかった。したがって、本発明のコアシェル粒子を含有する接合材料を用いた接合方法を採用することにより、水素等の危険なガス雰囲気下での作業が不要であり、安全な方法での接合が可能となり、また、比較的低い温度であっても、高い接合強度で接合できることが確認された。