請求項1または2に記載の防水樹脂シートが、10%水酸化ナトリウム水溶液に25℃で浸漬する耐アルカリ性試験において、28日間後の荷重保持率が50%以上であることを特徴とする防水樹脂シート。
請求項1から3のいずれかに記載の防水樹脂シートを鋼鈑の接合部分に貼り合すことで、前記鋼鈑の接合部分に対して接着層と熱可塑性樹脂が順に積層された目止めとした状態で、前記鋼鈑の上にコンクリートを流し込んだことを特徴とするデッキプレート。
【背景技術】
【0002】
従来から、コンクリートによる建造物の建築に際しては、デッキプレートをコンクリートの型枠として利用するとともに構造部材として用いるデッキプレート工法が採用されている。
【0003】
ここで、本発明において、デッキプレートとは、デッキプレートと、上述したように、それに打設したコンクリートとが結合された合成スラブ構造も含むものとする。
【0004】
デッキプレート・合成スラブ構造の施工は、現代の建築物の床や屋根などの構造部材として幅広く使用されている。プレートに使用される鋼鈑は、JIS G3352 4.(非特許文献1)でも記載があるように、腐食防止のために亜鉛メッキをした鋼鈑が使用される。
【0005】
デッキプレート・合成スラブ構造では、施工面積に対して亜鉛鋼鈑を重ねて敷き詰め、コンクリートを打設する。亜鉛鋼鈑とコンクリートを一体化させるため、シヤコネクタ(ずれ止め)またはアンカー(はく離止め)が設けられる(非特許文献2)。
【0006】
コンクリートには、一般的には水/セメント比が50%前後が使用されており、セメントが水と接触するとCaが溶け出す。Caイオンにより水酸化カルシウムCa(OH)
2が析出され水溶液として強いアルカリ性を示す。
デッキプレートとなる亜鉛鋼鈑は、何枚かを重ねて敷き詰めているため、コンクリート打設時およびその後の経時変化により、そのつなぎ目から水酸化カルシウム水溶液が漏れ出す。漏れ出したアルカリ液は、作業員に対しての危険性を有するだけでなく、鋼鈑の腐食をもたらす原因となる。打設時およびその後の経時変化によるコンクリート漏れは見栄的にも悪くなるとともに、錆の発生に対して、つなぎ目への漏れ対策が必要となる。
【0007】
そのため、このデッキプレート建築物の現場では、従来から、このような問題点を未然に防止するために、デッキプレート工法において、デッキプレートの隙間を養生テープで埋めることで防水を行う防水工法が採用されている。例えば簡易的な施工現場では、布テープ(ガムテープ)等による目止めが行われている。
【0008】
また、デッキプレートのつなぎ部分に対して防水材の塗布を行い漏れ防止を行う施工も実施されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、布テープ(ガムテープ)による目止めをおこなった場合には、例えばデッキプレートの汚れや作業員が接触することによりテープが容易に剥離する場合があり、あるいは作業員が接触することにより破損してしまい、デッキプレートのつなぎ目部分との密着性が低下し、防水性を維持できないという問題があった。
また、このようなテープではアルカリ性に対しての耐性も無いため、アルカリ液の漏れ防止としては不十分である。
【0012】
さらに、施工現場や施工時期にもよるが、直射日光に曝されるなどデッキプレートの温度が上昇する可能性があり、その場合、このようなテープではテープが容易に剥離してしまうため、デッキプレートのつなぎ目部分との密着性が低下し、防水性を維持できなくなるという問題もあった。
【0013】
また、デッキプレートのつなぎ部分に対してシールを行い漏れ防止を行う施工では、作業工程が増加し、施工時間も長くなるため、作業効率が悪く、材料コストや施工コストがかかってしまうという問題がある。また、従来の防水シートでは、コストがかかる上、施工するコンクリートとの接着性が無く、結果的にデッキプレートとコンクリートが一体化しないために構造的に問題が発生するという欠点も考えられた。
【0014】
特に、店舗や駐車場あるいは物流センタ等の大規模建築における屋根や上層階の床となる天井部分では、デッキプレートが露出しており、見栄えが悪くなるため、デッキプレート鋼板のつなぎ目における漏れ防止を確実におこないたいという要求があった。
【0015】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、簡易な施工作業により、デッキプレート・合成スラブ構造の鋼板つなぎ目部分における密閉性を向上させ、アルカリ液の漏れを防止可能とする施工方法を提供するとともに、このデッキプレートのつなぎ目部分に対する目止め材として最適な防水樹脂シートを提供するという目的を達成しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の防水樹脂シートは、コンクリートを打設する鋼鈑の接合部分を防水するために貼着する熱可塑性樹脂シートであって、
シート厚みが0.2mm以上2.0mm以下であり、引張弾性率が1050N/mm
2以下であることにより上記課題を解決した。
上記の防水樹脂シートに使用される熱可塑性樹脂の融点が60℃以上であることが好ましい。
本発明の防水樹脂シートが、10%水酸化ナトリウム水溶液に25℃で浸漬する耐アルカリ性試験において、28日間後の荷重保持率が50%以上であることができる。
本発明のデッキプレートの施工方法は、上記のいずれかに記載の防水樹脂シートを鋼鈑の接合部分に貼り合せて、前記鋼鈑の接合部分に対する目止めとする工程と、
前記鋼鈑の上にコンクリートを流し込む工程と、を有することができる。
本発明のデッキプレートの施工方法は、上記の施工方法において、
前記鋼鈑の接合部分に対して接着剤を塗布して、前記鋼鈑の接合部分に対して前記接着層を形成する工程を有することができる。
【0017】
本発明の防水樹脂シートは、コンクリートを打設する鋼鈑の接合部分を防水するために貼着する熱可塑性樹脂シートであって、
シート厚みが0.2mm以上2.0mm以下であり、引張弾性率が1050N/mm
2以下であることにより、デッキプレートの施工時に鋼鈑の接合部分に対して貼着した防水樹脂シートが上述した特性を有する熱可塑性樹脂からなることで、接合部分に貼着した防水樹脂シートに対して、貼着工程における作業性を向上するとともに、作業員が当接するなどの外力が作用してもシートが破損することを防止でき、同時に、シート上にコンクリートを打設した場合にも、シートが接合部分から剥離してしまうことやシートが破損してしまうことを防止でき、これにより、デッキプレート施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。
【0018】
特に、鋼鈑にバリなどの凹凸があった場合にも、防水樹脂シートのシート厚みを上記の範囲とすることにより、この鋼鈑のバリによる防水樹脂シート(目止めシート)の破断・貫通を防止することが可能となるとともに、防水樹脂シートを貼着する際にヨレなどの発生を防止でき、鋼鈑との間で隙間なく貼着施工を実施することが可能となる。また、デッキプレートの凹部等に防水樹脂シートを貼着する場合に、シート厚みを上記の範囲とすることにより、防水樹脂シートのハンドリング性を向上し、シートが鋼板表面から浮いた部分が発生する、あるいは、接着不良の部分が発生することを防止して、鋼鈑との隙間なく貼着施工を実施することが可能となる。
【0019】
上記の防水樹脂シートに使用される熱可塑性樹脂の融点が60℃以上であることにより、デッキプレートの施工時に、この施工部分である鋼鈑の接合部分が日照その他によって温度上昇した場合でも、シートが接合部分から剥離してしまうことやシートが破損してしまうことを防止でき、これにより、高温状態の施工現場においても、デッキプレート施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。
【0020】
本発明の防水樹脂シートが、10%水酸化ナトリウム水溶液に25℃で浸漬する耐アルカリ性試験において、28日間後の荷重保持率が50%以上であることにより、デッキプレートの施工において、コンクリート打設時およびそのコンクリート打設後において、このコンクリートに起因するアルカリに暴露された場合でも、防水樹脂シートにおける防水性を維持して、デッキプレート施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。なお、この耐アルカリ性試験条件は、JIS A 1193に準拠するものとする。
【0021】
本発明の防水樹脂シートにおいて、その片面側に、耐アルカリ性試験において28日間浸漬後に、シート/接着剤(もしくは粘着剤)、鋼板/接着剤(もしくは粘着剤)界面での剥離を生じ無い強度を持つ接着剤もしくは粘着剤が塗工されてなることにより、防水樹脂シートと鋼鈑接合部分との隙間を埋め、コンクリートを打設し乾燥させる期間で浮きや剥離を生じさせることがないように設定することができ、これにより、防水樹脂シートと鋼鈑接合部分との剥離を防止して、デッキプレート施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。
【0022】
本発明のデッキプレートの施工方法は、上記のいずれかに記載の防水樹脂シートを鋼鈑の接合部分に貼り合せて、前記鋼鈑の接合部分に対する目止めとする工程と、
前記鋼鈑の上にコンクリートを流し込む工程と、を有することにより、シートを貼着する工程において、作業性を向上するとともに、作業員が当接するなどの外力が作用してもシートが破損することを防止して、シート上にコンクリートを打設した場合にも、シートが接合部分から剥離してしまうことやシートが破損してしまうことを防止することができる。これにより、作業工程数を削減し、作業時間を短縮した状態で、デッキプレート施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。
【0023】
本発明のデッキプレートの施工方法は、上記の施工方法において、
前記鋼鈑の接合部分に対して接着剤を塗布して、前記鋼鈑の接合部分に対して前記接着層を形成する工程を有することにより、塗布、貼着、コンクリート打設の工程のみで、デッキプレートを施工することが可能となる。これにより、作業工程数を削減し、作業時間を短縮することができる。
【0024】
本発明のデッキプレートは、上記のいずれかに記載の防水樹脂シートを鋼鈑の接合部分に貼り合せることで、前記鋼鈑の接合部分に対して接着層と熱可塑性樹脂が順に積層された目止めとした状態で、前記鋼鈑の上にコンクリートを流し込んだことにより、製造コストを低減して、デッキプレート施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、デッキプレート・合成スラブ構造の施工に関する工法において、鋼板の接合部分に用いられる防水用の目止め工法として使用されることで、目止め用として使用される熱可塑性樹脂からなる防水樹脂シートの厚みが0.7mm以上であり、熱可塑性樹脂の融点が60℃以上で、耐アルカリ性をもつものとし、この防水樹脂シートを鋼鈑の接合部分に貼り付ける施工を施すことで、安価でかつ容易な施工方法により、コンクリートが硬化する際に発生する水酸化カルシウム水溶液の漏れを確実に防止することが可能となるという効果を奏することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る防水シート、デッキプレート、デッキプレートの施工方法の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるデッキプレートを示す断面図であり、
図2は、本実施形態におけるデッキプレートにおける鋼板の重ね合わせ部分を示す斜視図であり、
図3は、本実施形態におけるデッキプレートの施工方法における接着層形成工程を示す斜視図であり、
図4は、本実施形態におけるデッキプレートの施工方法におけるシート貼着工程を示す断面図であり、
図5は、本実施形態におけるデッキプレートの施工方法における工程を示すフローチャートであり、図において、符号10は、デッキプレートである。
【0028】
本実施形態に係るデッキプレートの施工方法は、デッキプレートとそれに打設したコンクリートとが適切に結合されることにより、両者が一体となって曲げに抵抗する合成スラブ構造(以下合成スラブという)を対象とする。ここで、合成スラプは,主として床または屋根構造に使用する。なお、本実施形態では、これらを含めてデッキプレートと称するが、構造物の工法や形状などは特に限定されるものではない。
【0029】
本実施形態に係るデッキプレート10は、
図1に示すように、断面において台形が凹凸を上下に反転させながら連続することで複数の突条が平行に形成された波板形状の鋼板(亜鉛メッキ鋼板)11をその端部位置で重ねるものとされる。本実施形態においては、鋼板11の重ね合わせ部分12は突条の上側位置とされている。
プレートに使用される鋼鈑は、JIS G3352 4.に記載があるように、腐食防止のために亜鉛メッキをした鋼鈑が使用されるが、これに限定されるものではなく、溶融亜鉛メッキ鋼板、溶融アルミニウムメッキ鋼板、ステンレス鋼板、ガルバリウム鋼板(新日鐵住金株式会社 登録商標)、溶融亜鉛−アルミ系合金メッキ鋼板、溶融亜鉛−アルミ−マグネシウム系合金メッキ鋼板、あるいはフッ素樹脂や塩化ビニル樹脂を被覆した表面処理鋼板等を適用することもできる。
【0030】
本実施形態に係るデッキプレート10は、
図1〜
図3に示すように、重ね合わせられた鋼板11の接合部分に接着層13が塗布され、その上に防水樹脂シート14が貼り付けられ、これら全体にコンクリート15が打設されている。
【0031】
防水樹脂シート14は、亜鉛メッキ鋼鈑11の接合部分を防水するために使用する接着剤もしくは粘着剤との接着力にすぐれたものが望ましく、さらにはアルカリに対しての耐性が強い熱可塑性樹脂シートとされる。
防水樹脂シート14は、シート厚みが0.2mm以上2.0mm以下、好ましくは、0.5mm以上1.0mm以下であり、引張弾性率が1050N/mm
2以下、より好ましくは400N/mm
2以下、さらに好ましくは、100N/mm
2以下とされる。
防水樹脂シート14は、シート幅寸法が30mm以上200mm以下、より好ましくは、50mm以上100mm以下とすることができる。なお、シート長さ寸法は、鋼板11の接合部分長さ寸法以上であればよく、その端部からのはみ出し寸法が、30mm以上200mm以下、より好ましくは、50mm以上100mm以下とすることができる。
【0032】
同時に、防水樹脂シート14は、融点が60℃以上である熱可塑性樹脂からなる。また、防水樹脂シート14は、10%水酸化ナトリウム水溶液に25℃で浸漬する耐アルカリ性試験において、28日間後の荷重保持率が50%以上である。ここで、耐アルカリ性試験条件は、JIS A 1193に準拠するものとする。
【0033】
熱可塑性樹脂としては、典型的にはポリスチレン系樹脂を挙げることができるが、耐アルカリ性に耐性がある樹脂であればポリプロピレン、ポリウレタン、変成アクリル、ポリ塩化ビニル、フッ素系樹脂なども使用可能であり、具体的には、EVA樹脂(エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂)、高密度ポリエチレン(HDPE;High Density Polyethylene)、低密度ポリエチレン(LDPE;Low Density Polyethylene)とされることができる。
【0034】
接着層13は、鋼板11に塗布形成されるもの、あるいは、防水樹脂シート14に塗布形成されるもの、または、防水樹脂シート14に貼り付けられる粘着シート状のものとされることができる。接着層13は、耐アルカリ性を有し、接着性を喪失する限界温度が60以上、あるいは、可使時間が23℃で30分以上となる耐温度性能を有し、さらには、23℃での粘度が5000mPas以上であることが好ましい。
接着層13としては、具体的に、エポキシ系、ウレタン系、アクリル系、ゴム系の接着剤および粘着剤とされることができる。
また、接着層13の形成厚さとしては、0.1mm〜8.0mm程度、より好ましくは0.5mm〜5.0mm程度とされることができる。
【0035】
本実施形態におけるデッキプレートの施工方法は、
図5に示すように、鋼板配置工程S1と、前処理工程S2と、接着層形成工程S3と、シート貼着工程S4と、コンクリート打設工程S5と、を有するものとされる。
【0036】
本実施形態におけるデッキプレートの施工方法は、まず、
図5に示す鋼板配置工程S1として、
図2に示すように、デッキプレートとなる鋼板11の端部を重ね合わせて、接合部分12を形成する位置に配置する。
【0037】
次いで、
図5に示す前処理工程S2として、鋼板11表面の接合部分12近傍を洗浄する。ここで、この洗浄とは、接着層13が後工程で剥離しない程度でよく、アルコール等で鋼板表面の油膜を除去したり、あるいは、鋼板11表面を拭って砂、ほこり等の異物を除去する程度でよい。
【0038】
次いで、
図5に示す接着層形成工程S3として、
図3に示すように、鋼板11表面の接合部分12に接着剤を塗布して接着層13を形成する。
【0039】
なお、この接着層形成工程S3としては、防水樹脂シート14に接着剤を塗布する、あるいは、防水樹脂シート14にシート状の粘着剤を貼着することで形成してもよい。
【0040】
次いで、
図5に示すシート貼着工程S4として、所定の寸法に切断された防水樹脂シート14を接合部分12に貼着して、
図4に示すように、接合部分12として重ね合わせされた両側の鋼板11と、それぞれの表面に位置する防水樹脂シート14とを密着させる。この防水樹脂シート14を接合部分12に貼着後に、養生工程として、時間を経過させることもできる。
【0041】
最後に、
図5に示すコンクリート打設工程S5として、鋼板11上に所定の厚さのコンクリート15を打設して、
図1に示すように、鋼板11、接着層13、防止樹脂シート14とが積層された接合部分12を形成して、デッキプレート10とする。
【0042】
本実施形態のデッキプレートの施工方法においては、コンクリート打設前に、亜鉛メッキ鋼鈑11の接合部分12に対して貼着した防水樹脂シート14が上述した特性を有する熱可塑性樹脂からなることで、接合部分12に貼着した防水樹脂シート14に対して、シート貼着工程S4における作業性を向上するとともに、作業員が当接するなどの外力が作用してもシートが破損することを防止でき、同時に、防水樹脂シート14上にコンクリートを打設した場合にも、防水樹脂シート14が接合部分12から剥離してしまうことや、鋼板11に形成されたバリ等によって防水樹脂シート14が破損してしまうことを防止できる。これにより、デッキプレート施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。
【0043】
本実施形態のデッキプレートの施工方法においては、また、鋼鈑11にバリなどの凹凸があった場合にも、防水樹脂シート14のシート厚みを上記の範囲とすることにより、この鋼鈑11のバリによる防水樹脂シート14の破断・貫通を防止することが可能となるとともに、防水樹脂シート14を貼着する際にヨレなどの発生を防止でき、鋼鈑11との間で隙間なく貼着施工を実施することが可能となる。
【0044】
本実施形態の防水樹脂シート14に使用される熱可塑性樹脂の融点が60℃以上であることにより、デッキプレート10の施工時に、この施工部分である亜鉛メッキ鋼鈑11の接合部分12が日照その他によって温度上昇した場合でも、防水樹脂シート14が接合部分12において剥離してしまうことや防水樹脂シート14が破損してしまうことを防止でき、これにより、高温状態の施工現場においても、デッキプレート10の施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。
【0045】
本実施形態の防水樹脂シート14および接着層13が、上述した耐アルカリ性を有することにより、デッキプレート10の施工において、コンクリート打設時およびそのコンクリート打設後において、このコンクリートに起因するアルカリに暴露された場合でも、防水樹脂シート14および接着層13における防水性を維持して、デッキプレート施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。
【0046】
本実施形態のデッキプレートの施工方法は、鋼板配置工程S1と、前処理工程S2と、接着層形成工程S3と、シート貼着工程S4と、コンクリート打設工程S5と、の工程のみで、デッキプレートを施工することが可能となる。これにより、作業工程数を削減し、作業時間を短縮することができる。本施工方法では、接着剤や粘着材からなる世着層13により熱可塑性樹脂からなる防止樹脂シート14を接合部分12に貼り合せるだけの簡易作業で、高い目止め効果を発揮し、材料面でも従来の施工方法に比べ安価な施工を提供可能とすることができる。
【0047】
なお、本実施形態においては、シート貼着工程S4の前に、接着剤を塗布することにより接着層13を形成したが、接着層13として、防水樹脂シート14と一体の粘着剤として形成しておくことにより、さらに工程数を削減して、防水樹脂シート14のハンドリング性を向上することが可能となる。
【0048】
以下、本発明に係る防水シート、デッキプレート、デッキプレートの施工方法の第2実施形態を、図面に基づいて説明する。
図6は、本実施形態におけるデッキプレートの接合部分を示す模式断面図である。
本実施形態において上述した第1実施形態と異なるのは接合部分に関する点であり、これ以外の対応する構成要素に関しては、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0049】
本実施形態においては、
図6に示すように、接合部分12Aが、波板状の鋼板11の凹部に形成されている。
【0050】
本実施形態における防水樹脂シート14は、第1実施形態における熱可塑性樹脂と同等の樹脂からなるが、シート厚みが0.2mm以上1.0mm以下とされている。これは、鋼板11の凹部において、鋼板11との密着性を向上し、かつ、防水樹脂シート14のハンドリング性を向上するためである。これにより、接合部分12Aにおいて、防水樹脂シート14が鋼板11表面から浮いた部分が発生する、あるいは、接着不良の部分が発生することを防止して、鋼鈑11との隙間なく防水樹脂シート14を貼着することが可能となる。
【0051】
本実施形態においては、第1実施形態と同等の効果を奏することができるとともに、さらに、防水樹脂シート14のハンドリング性を向上し、鋼板11凹部の接続部分12Aにおいても、防水樹脂シート14および接着層13における防水性を維持して、デッキプレート施工時に対する防水性を担保するとともに、その後の経時変化に対する防水性を維持することが可能となる。
【0052】
また、鋼板11凹部に接続部分12Aが設けられることにより、防水樹脂シート14の破損発生を低減することが可能となる。
なお、波板状の鋼板11における傾斜した側面に接続部分を設けることにより、さらに、防水樹脂シート14の破損発生を低減することが可能となる。
【0053】
以下、本発明に係る防水シート、デッキプレート、デッキプレートの施工方法の第3実施形態を、図面に基づいて説明する。
図7は、本実施形態におけるデッキプレートの接合部分を示す模式断面図である。
本実施形態において上述した第1および第2実施形態と異なるのは鋼板の形状に関する点であり、これ以外の対応する構成要素に関しては、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0054】
本実施形態においては、鋼板11Bが、
図7に示すように、平板形状とされて、接合部分12Bでその端部どうしが突き合わされて、表面が面一となっている。なお、平板形状となっているのは、接合部分12B付近のみであり、これ以外の範囲における鋼板11Bの形状は、上述した波板形状、あるいは、他の形状であっても構わない。
【0055】
本実施形態における防水樹脂シート14は、第1実施形態における熱可塑性樹脂と同等の樹脂からなるが、シート厚さ0.2mm以上2.0mm以下、より好ましくは、0.5mm以上1.5mm以下、(平板突き合わせの場合)とされている。これは、鋼板11Bの突き合わせ状態となった接合部分12Bにおいて、鋼板11Bどうしの引張力が作用した場合でも、防水樹脂シート14の密着性を維持し、鋼板11Bから剥離してしまうことを防止するためである。これにより、接合部分12Bにおいて、防水樹脂シート14が鋼板11B表面から剥離した部分が発生する、あるいは、接着不良の部分が発生することを防止して、鋼鈑11Bとの隙間なく防水樹脂シート14を貼着することが可能となる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明にかかる実験例を説明する。
【0057】
<実験例1>
デッキプレートの鋼板11においては、プレス抜き加工において切断面にバリが発生する可能性がある。バリレス加工や後処理でのバリ取りが行われるが、バリが存在した場合でも安全な厚みについて、実験例1として検証を実施した。
【0058】
デッキプレート・合成スラブで使用される亜鉛メッキ鋼鈑は1mm程度の厚さのものから6mm程度の厚さのものが存在している。プレス抜きにおいて加工する材質にもよるが板の10%程度のクリアランスを設けて抜きが実施されるため、バリも厚みに対して10%程度の高さにまでなる。
【0059】
本実験例においては、その検証として、2.3mm厚および6.0mm厚の亜鉛メッキ鋼鈑をそれぞれ2枚準備し、防止樹脂シート14として、熱可塑性樹脂シート0.5mm厚および0.7mm厚、1.0mm厚の3種類においてバリの影響を確認した。防止樹脂シート14の熱可塑性樹脂としてはEVA樹脂を用いて、押出し製膜によりEVAシートを成形した。シートは、幅100mm長さ1000mmにカットした。
【0060】
亜鉛メッキ鋼鈑2枚を
図6のようにつきあわせて並べ、接触部分12Bの上部位置にEVAからなる防止樹脂シート14を重ね合わせた。このEVAシートの上から足で30回踏みつけたのち、鋼鈑の水平方向に勢いよく引き剥がした。引き剥がしたのち、EVAシートの状態を目視にて確認を行った。その結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
上記の検証の結果、表1に示すように、EVAシートに対してアルカリ水の漏れにつながる貫通性の外観不良の発生は確認できなかった。
しかし、EVAシートの表面には鋼鈑のバリが刺さり込んでいる部分が確認された。亜鉛メッキ鋼鈑の厚みとバリ高さ10%を想定すると、0.6mmのバリが刺さり込むと予想される。
【0063】
また、検証で100mm幅×1000mm長さのシートを鋼鈑上に重ね合わせる際に、0.5mm厚のシートでは一部分にヨレによる設置部の浮きが発生した。接着剤や粘着材で貼り合せる際に鋼鈑との間に隙間が発生すると、アルカリ液の漏れの原因となるため、0.5mm厚のシートは簡易施工には適さないことがわかった。
以上より、シート厚みは0.7mm以上が望ましいことがわかる。
【0064】
<実験例2>
目止め用の防水樹脂シート14として使用される熱可塑性樹脂は、コンクリートと直接接触し、発生する水酸化カルシウム水溶液の影響を受ける。このため、実験例2として、目止めシートとして必要な耐アルカリ性能について検証を実施した。
【0065】
耐アルカリ性試験として、JIS A 1193の規格に従い、10%水酸化ナトリウム水溶液に各種熱可塑性樹脂シートを28日間浸漬させた。ただし、試験温度は25℃として実施した。浸漬前後の評価は、ASTM D638に沿って、引っ張り強さの測定を実施し、荷重保持率を算出した。
また、アルカリ液浸漬における外観への影響を観察した。
防水樹脂シート14としては、HDPE、LDPE、EVA、PCの4種類の熱可塑性樹脂からシートを作製し、これらのシートにおいて比較を実施した。それぞれのシートの厚みは1.0mmのものを使用した。
【0066】
また、以下のように、試験条件、引っ張り強さ、荷重保持率を定義した。
・引っ張り強さ試験条件
引張速度:10mm/min
標線間距離:25mm
【0067】
・引っ張り強さ(MPa)
引っ張り強さ = 最大荷重(N)/ (試験サンプルの厚さ(mm)×試験サンプルの幅(mm))
【0068】
・荷重保持率(%)
荷重保持率=(浸漬しないサンプルの引っ張り強さ/浸漬したサンプルの引っ張り強さ)×100
【0069】
耐アルカリ性試験の結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2に示すように、PCシートは、耐アルカリ性が弱く、浸漬後にクラックが発生しており、また、破断強度も低下しており、目止めシートとしてのアルカリ性水溶液の漏れ防止機能を充分に呈していないことがわかる。PCシートは、シートが破断しやすくなり、クラックにより亀裂が発生し漏れの原因となる。防水樹脂シート14の耐アルカリ性としては、荷重保持率が50%以上が望ましく、さらには70%以上のアルカリ性に耐性がある樹脂を使用することが好ましいことがわかる。
【0072】
<実験例3>
合成スラブ構造の施工において実際に目止めシートとして施工を実施し、アルカリ溶液の漏れ防止の確認を、実験例3として実施した。
【0073】
図2のように山形の鋼板からなる接合部に、エポキシ系の接着剤を塗布し、その上に、防水樹脂シート14として、厚さ1.0mm、幅65mmのEVAシートを貼り合わせた。比較対象として、布テープを用いた目止めを実施した。
目止め施工実施後コンクリートを打設し、硬化する際に発生するアルカリ液の漏れの有無を確認した。
【0074】
以下に諸元を示す。
・デッキプレート鋼板:山形デッキプレート
亜鉛メッキ、 板厚 1.6mm、 高さ 50mm
・目止め方法
A:EVAシート(1.0mm厚、65mm幅)+エポキシ系接着剤(2液硬化タイプ)
B:(比較例) 布テープ(0.3mm厚、50mm幅)
【0075】
アルカリ溶液の漏れ防止試験の結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
布テープの目止め方法Bにおいては、コンクリート打設前に作業員に踏まれた際に破れが生じる部分が確認されたが、目止め方法AのEVAシートをエポキシ接着剤で貼り付けた部分では、破れ等の発生は見られなかった。
布テープの目止め方法Bでは、コンクリート打設後に、デッキプレートの接合部より観察された。布テープはデッキプレートとの接着性が悪く、粘着材もアルカリに対して耐性が無いためにコンクリート硬化時に発生するアルカリ液の目止めとしては不十分であることがわかった。
【0078】
これに対して、接合部をEVAシートをエポキシ接着剤で貼り合わせた目止め方法Aでは、アルカリ液の漏れは一切確認されず、デッキプレート工法で十分な目止め効果を発揮していることがわかる。
【0079】
この実験例3としての検証では、エポキシ系の接着剤を使用したが、ウレタン系の接着剤においても同様の目止め効果が得られることが確認できた。
【0080】
<実験例4>
合成スラブ構造の施工において使用されるデッキプレートの形状は多岐にわたる。 デッキプレートにおける鋼板の形状により、対応可能な熱可塑性樹脂シートの材料および厚みを、実験例4として検証した。
鋼板形状として、山形(波形)形状として、検証したシート材質、厚みの結果を表4に示す。また、平形(平板)形状として、検証したシート材質、厚みの結果を表5に示す。
【0081】
【表4】
【表5】
【0082】
山形デッキは(鋼板)、表4に示すように、亜鉛鋼板の形状に凹凸が多く、目止め部においても熱可塑性樹脂の柔らかさが必要となるため、比較的薄いシートが好ましいことがわかる。
特に、山形デッキ(鋼板)の凹凸が多い部位では作業員に踏まれる恐れが少ないため、弾性率が低い樹脂を選定し、厚みを薄くすることで、デッキ(鋼板)の凹凸に追従できる施工が可能となり、十分な目止めが可能となることがわかった。
【0083】
これに対し、平形デッキ(鋼板)では、表5に示すように、目止め箇所がほぼフラットな形状であるため、樹脂の弾性率は高くても使用が可能である。その一方、作業員により踏まれる危険性が増加するため、破損を防止するために、熱可塑性樹脂に厚みが必要となる。ただし、弾性率が高い樹脂は、厚みが増すと施工時の取り扱いが悪くなるので、適正な厚み設定が必要であることがわかる。