(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-69818(P2018-69818A)
(43)【公開日】2018年5月10日
(54)【発明の名称】スタッドピン及びスタッドピンを備えた空気入りタイヤ。
(51)【国際特許分類】
B60C 11/16 20060101AFI20180406BHJP
【FI】
B60C11/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-209193(P2016-209193)
(22)【出願日】2016年10月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】大宮 将敏
(57)【要約】
【課題】タイヤのピン穴からの耐抜け性に優れ、路面に対して十分なエッジ効果を発揮できるスタッドピン及びこのスタッドピンを備えた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】スタッドピンは、円柱状のボディ2と、ボディ2の軸心方向の一端部から突出するシャフト5と、ボディ2の軸心方向の他端部に設けられ、平面視で、ボディ2の軸心Lに直交する横軸を中心として、軸心Lおよび横軸に直交する縦軸方向に非対称に形成され、縦軸方向の一端部側に軸心Lを中心とする円弧状部12を備える台座部4とを備えている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円柱状のボディと、
前記ボディの軸心方向の一端部から突出するシャフトと、
前記ボディの軸心方向の他端部に設けられ、平面視で、前記軸心に直交する横軸を中心として、前記軸心および前記横軸に直交する縦軸方向に非対称に形成され、前記縦軸方向の一端部側に前記軸心を中心とする円弧状部を備える台座部と
を備えている、スタッドピン。
【請求項2】
前記台座部は、平面視で、前記縦軸方向の長さが、前記横軸方向の長さに比べて長い、
請求項1に記載のスタッドピン。
【請求項3】
前記台座部は、平面視で、前記縦軸を挟んで両側において、前記軸心から前記縦軸方向の他端部側へ進むにつれて前記縦軸に向かって傾斜する、一対の傾斜部を有する、
請求項1又は2に記載のスタッドピン。
【請求項4】
前記傾斜部は、前記横軸に対して前記縦軸方向の前記他端部側に位置している、
請求項3に記載のスタッドピン。
【請求項5】
前記台座部は、平面視で、前記ボディから全周ではみ出すように形成されている、
請求項1〜4のいずれか1つに記載のスタッドピン。
【請求項6】
前記ボディは、上端外縁部にテーパ面を有する、
請求項1〜5のいずれか1つに記載のスタッドピン。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つのスタッドピンと、
トレッド部に形成され、前記スタッドピンが装着されるピン穴と
を備えている、空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッドピン及びスタッドピンを備えた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スタッドピンとして、平面視台形状のボディと、その上面から突出する片側が山型形状のピンとを備えた構成のものが公知である(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/122570号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来のスタッドピンでは、ボディおよびベースが平面視台形状であり、スタッドピンを装着するタイヤのピン穴との密着度にばらつきが生じる。このため、スタッドピンをタイヤのピン穴に装着した状態で路面からスタッドピンに力が作用すると、スタッドピンがタイヤのピン穴から脱落しやすい。
【0005】
本発明は、タイヤのピン穴からの耐抜け性に優れ、路面に対して十分なエッジ効果を発揮できるスタッドピン及びこのスタッドピンを備えた空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、円柱状のボディと、前記ボディの軸心方向の一端部から突出するシャフトと、前記ボディの軸心方向の他端部に設けられ、平面視で、前記軸心に直交する横軸を中心として、前記軸心および前記横軸に直交する縦軸方向に非対称に形成され、前記縦軸方向の一端部側に前記軸心を中心とする円弧状部を備える台座部とを備えている、スタッドピンを提供する。
【0007】
本発明によれば、スタッドピンは、タイヤのピン穴に装着された状態では、ボディの円筒面と台座部の円弧状部とが、ピン穴の内面に沿い易い。しかも、台座部の円弧状部は、ボディの軸心と同心に形成されているので、ボディが円筒面においてピン穴より受ける保持力と、台座部が円弧状部においてピン穴による受ける保持力とが、スタッドピンの軸心をピン穴の軸心に一致させるように共に作用する。したがって、ピン穴による高い保持性が発揮される。
【0008】
また、台座部は、横軸を中心として縦軸方向に非対称に形成されているので、ピン穴への装着方向によって、特定の方向への耐抜け性を向上できる。特に、台座部は縦軸方向の一端部に円弧状部を備え、即ち軸心方向から見て(以下、平面視という場合がある)、縦軸方向に膨出しているため、縦軸方向への傾斜を抑制し易く、縦軸方向の耐抜け性を向上できる。
【0009】
このように、スタッドピンは、保持性を適切に有するように構成されているので、ボディは、一端部側において、外周縁部によるエッジ効果を十分に発揮できる。
【0010】
前記台座部は、平面視で、前記縦軸方向の長さが、前記横軸方向の長さに比べて長くてもよい。
【0011】
本構成によれば、スタッドピンをタイヤのピン穴に装着した状態では、台座部は、ピン穴の内面から、縦軸方向へのより強い保持力を受ける。したがって、スタッドピンの縦軸方向に作用する力に対して良好な耐抜け性を確保できる。
【0012】
前記台座部は、平面視で、前記縦軸を挟んだ両側において、前記縦軸方向において、他端部側に向かって前記縦軸側へ傾斜して延びる、一対の傾斜部を有していてもよい。
【0013】
本構成によれば、スタッドピンをタイヤのピン穴に装着した状態では、一対の傾斜部がピン穴の内面に強く食い込み、その反力でスタッドピンが強く保持される。また、一対の傾斜部それぞれの縦軸方向の端部に角部が形成され、該角部によって、スタッドピンの軸心周りの回転が抑制される。したがって、例えば旋回時等、スタッドピンに作用する軸心周りの回転に好適に抗するので、スタッドピンの軸心周りの回転方向における位置が維持され、装着方向により特定の方向において向上した耐抜け性を持続させることができる。
【0014】
前記傾斜部は、前記横軸に対して前記縦軸方向の前記他端部側に位置していてもよい。
【0015】
本構成によれば、台座部の円弧状部を大きく構成できるので、スタッドピンをタイヤのピン穴に装着した状態では、円弧状部とピン穴の内面との密着面を広く確保し易く、ピン穴による保持性を向上できる。
【0016】
前記台座部は、平面視で、前記ボディから全周ではみ出すように形成されていてもよい。
【0017】
本構成によれば、スタッドピンをタイヤのピン穴に装着した状態では、全周方向において、台座部による引っ掛かり作用が発揮されるので、台座部による耐抜け性を向上できる。
【0018】
前記ボディは、上端外縁部にテーパ面を有していてもよい。
【0019】
本構成によれば、ドライ路面を走行する際に、ボディのテーパ面を路面に面当りさせ易い。これによって、スタッドピンの、路面への接地時における衝撃を、緩和させることができる。したがって、路面割れ等の発生を抑制することが可能となる。
【0020】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、前記いずれか1つに記載のスタッドピンと、トレッド部に形成され、前記スタッドピンが装着されるピン穴とを備えている、空気入りタイヤを提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、スタッドピン及びそれを備えた空気入りタイヤにおいて、スタッドピン及びボディを円柱状とすると共に、台座部は円弧状部を有しているので、スタッドピンとピン穴の内面との密着度がよく、スタッドピンの保持性を向上できる。また、台座部を、縦軸方向に非対称な形状としたので、ピン穴への装着方向の違いに応じて種々の方向に対する保持性を高めることができる。この結果、ボディは、一端部側において、上端外周縁部によるエッジ効果を十分に発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態に係るスタッドピンの斜視図である。
【
図4】
図1に示すスタッドピンを装着するタイヤのトレッド部の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、「側」、「端」を含む用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が限定されるものではない。また、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。さらに、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは相違している。
【0024】
図1及び
図2は、本実施形態に係るスタッドピン1を示す。スタッドピン1は、アルミニウム、アルミニウム合金等を成形加工等により形成したもので、ボディ2と、このボディ2の下方側に続くシャンク3と、さらにその下方側に続く台座部4と、ボディ2の上面中央部に設けられるシャフト5とで構成されている。
【0025】
ボディ2は、軸心Lに沿って延びる円柱状に形成されている。ここで、軸心Lは、ボディ2が平面視で真円であると仮定した場合の中心を意味する。ボディ2を円柱状に形成することにより、後述するように空気入りタイヤのピン穴26(
図4,5参照)に装着した際、ボディ2の外周面(円筒面)をピン穴26の内周面に密着させることができ、取付状態を安定させて耐抜け性を向上させることが可能となる。
【0026】
また、「円柱状」には、平面視で真円のものに限らず、多少変形した楕円等のほか、平面視で複数の線分で繋がった多角形状も含まれる。多角形状とする場合、線分の長さを十分に短くして、ピン穴26の内面にほぼ均一に密着するような円形に近いものとする必要がある。このように、用語「円柱状」は、平面視真円、楕円等の曲線で囲まれた図形、及び、短い線分で囲まれた多角形を含む図形の全般を意味し、要するにピン穴26を構成する内面との密着性が全面に亘って高められる形状であればよい。
【0027】
また、ボディ2の上面外縁部はテーパ面7で構成されている。テーパ面7は、スタッドピン1を空気入りタイヤ(スタッドタイヤ)に装着し、路面を走行した際、路面に接触する最初の領域となる。テーパ面7を形成することにより、接地時に面当りさせて路面に対して集中荷重を発生させ難くして、路面割れ等の不具合の発生を防止できる。
【0028】
図3に示すように、台座部4は、平面視で、縦軸(図において上下方向に延びる一点鎖線)方向の最大長さaと横軸(図において左右方向に延びる一点鎖線)方向の最大長さbがa>bを満足する縦長形状に形成されている。換言すれば、台座部4の平面視における長さが最も長くなる方向を縦軸方向と称する。以下では、縦軸方向のことを縦方向、横軸方向のことを横方向という場合がある。台座部4の縦方向の一端側には、軸心Lを中心とする円弧状部12が形成されている。また、台座部4には、縦方向の他端側に2つの傾斜部10によって三角形状に突出する突出部11が形成されている。ここでは、突出部11は縦軸を挟んで左右対称である。そして、傾斜部10が縦軸となす角度が、90°未満となるように設定され、特に好ましい角度は45°である。即ち、平面視において、台座部4は、円弧状部12と、傾斜部10と、突出部11とによって構成されている。また、台座部4は、平面視において横軸によって縦軸方向に二分割される、第1領域S1と第2領域S2とを有する。傾斜部10および突出部11は、第1領域S1に形成されており、第2領域S2には形成されていない。一方、円弧状部12は、傾斜部10に接続されるように形成されており、第2領域S2の全域から第1領域S1の一部にわたって形成されている。換言すれば、傾斜部10は、第1領域S1と第2領域S2とにまたがって形成されているわけではない。また、台座部4は、平面視でボディ2から全周でこの外側へはみ出すように形成されている。また、台座部4の外縁部下面にはテーパ面13が形成されている(
図2参照)。
【0029】
突出部11の縦方向の他端部には、横軸に平行に延びる直線部30が形成されている。傾斜部10と直線部30との間には、第1角部31が形成されており、傾斜部10と円弧状部12との間には、第2角部32が形成されている。第1角部31及び第2角部32によれば、スタッドピン1の軸心L周りの回転に対して、ピン穴26の内面に引っ掛かって踏ん張ることにより好適に抗する、回転抑制効果を発揮できる。直線部30の横軸方向の長さcは、台座部4の横軸方向の最大長さbの10%以上75%以下に設定されており、より好ましくは20%以上50%以下に設定されている。このように直線部30を設定することにより、第1角部31及び第2角部32を所定の角度を有するように構成でき、スタッドピン1の上記回転抑制効果を効果的に発揮させることができる。
【0030】
シャフト5は、平面視奇数角形(ここでは、五角形)をした第1突部14を備えている。第1突部14の1つの辺(エッジ)を含む第1エッジ部15は、縦軸方向の一端部側に位置しており、横軸に平行に延びている。また、第1エッジ部15に隣接する両側の第2エッジ部16及び第3エッジ部17は、台座部4の円弧状部12に対向している。さらに、第2エッジ部16に隣接する第4エッジ部18と、第3エッジ部17に隣接する第5エッジ部19は、台座部4の各傾斜部10に対向している。
【0031】
第1突部14の上面には第2突部20が形成されている。第2突部20は平面視矩形状で、その長辺の一方が第1突部14の第1エッジ部15と平行な第6エッジ部21となっている。但し、第2突部20の他のエッジ部(第7エッジ部22、第8エッジ部23及び第9エッジ部24)は第1突部14の他のエッジ部とは延びる方向が相違している。
【0032】
また、シャフト5は、その軸心がボディ2の軸心と合致するように設けられている。これにより、ボディ2の外縁からシャフト5までに全方位で十分な距離を確保することができる。また、第1突部14に比べて第2突部20のエッジ部の数を少なくしている。具体的に、第1突部14では5箇所、第2突部20では4箇所としている。さらにここでは、シャフト5の高さを0.5mm以上、2.5mm以下としている。0.5mm未満では、シャフト5としての機能を十分に発揮できないからであり、2.5mmを超えると、ボディ2よりも先にシャフト5が接地してしまい損傷しやすいからである。また、第1突部14に対する第2突部20の高さの比率を10%以上、80%以下としている。10%未満では、第2突部20のエッジ効果が不十分であり、80%を超えると、第1突部14のエッジ効果を十分に発揮できなくなる。
【0033】
このようにシャフト5を2段で形成することにより、エッジ長さの総長を大きくすることができ、十分なエッジ効果を発揮させることができる。しかも、路面には第1突部14と第2突部20の種々の方向に延びるエッジが衝突することになり、直進方向のみならず、旋回時等、種々の方向に対してエッジ効果を発揮させることができる。なお、シャフト5を3段以上で構成することも可能である。
【0034】
前記構成のスタッドピン1は、
図4に示すように、スタッドタイヤのトレッド部25に形成したピン穴26に装着して使用する。ピン穴26は、
図5に示すように、同一内径の小径部27と、その先端の拡径部28とで構成されている。ピン穴26へのスタッドピン1の装着作業は、ピン打ち込み装置(図示せず)によって自動的に行う。この場合、台座部4の形状を円形等の点対称な形状ではなく、前述のような縦長の異形状としているため、その方向を容易に把握してピン穴26へと正確に装着することができる。ここでは、シャフト5の第1エッジ部15がタイヤ蹴出側で、タイヤ周方向に直交してタイヤ幅方向に延びるように位置決めする。換言すれば、スタッドピン1は、台座部4の縦軸がタイヤ周方向に一致させるように装着されている。この状態では、トレッド部25の表面からスタッドピン1のボディ2の上端部(テーパ面7)よりも上の部分が露出する。
【0035】
このようにスタッドタイヤに装着されたスタッドピン1によれば、走行する際、まずボディ2の上端外縁部分が路面に衝突する。ボディ2の上端外縁部分にはテーパ面7が形成されている。このため、ボディ2の上端外縁部分が路面に衝突しても、路面への単位面積当たりの衝撃力を抑制することができる。この結果、ドライ路面を走行する場合であっても、路面割れ等の不具合の発生を回避可能となる。また、ボディ2自身は、円柱状に形成されているので、路面への衝突に対して十分な強度を有し、長期に亘って使用しても損傷しにくい(耐久性を有する)。
【0036】
続いて、シャフト5が路面に衝突する。この場合、ボディ2とシャフト5との間には十分な距離が確保されている。このため、路面にボディ2が衝突する前にシャフト5が衝突することが回避される。これにより、路面衝突時のシャフト5の損傷を防止することができる。
【0037】
また、路面に衝突するシャフト5は、2段で構成され、周囲の尖った辺の方向が第1突部14と第2突部20とで1箇所を除いて相違している。したがって、そのエッジ効果を十分に発揮させることができる。すなわち、直進であれば、第1エッジ部15が路面(氷面)に作用する。また、旋回時であれば、第2エッジ部16又は第3エッジ部17が路面に対する横ずれを防止する。さらに、制動時には、第4エッジ部18及び第5エッジ部19が路面に対して制動力を作用させる。
【0038】
このとき、スタッドピン1には、路面から、ボディ2やシャフト5を介して、ピン穴26から脱落させるような力が作用する。スタッドピン1では、ボディ2よりも小径となったシャンク3と、これに続くボディ2よりも大径となった台座部4とを備えており、その脱落が有効に防止される。特に、ボディ2は円柱状に形成されており、ピン穴26を構成する内面と密着するので、耐抜け性が高められる。また、台座部4は、平面視でボディ2の全周から外側に広がるように形成されているので、この点でも耐抜け性が高められる。その上、台座部4は横軸長さに比べて縦軸長さが長く形成されており且つ縦軸がタイヤ周方向に一致するように装着されているので、走行開始時と制動時に路面から作用する力に対して有効に耐抜け性を発揮させることができる。また、台座部4の第1角部31及び第2角部32が旋回時の耐抜け性を高める。
【0039】
ボディ2及び台座部4の平面視形状が円形の比較例、及び、
図1から
図3に示す実施例のスタッドピンを使用して耐抜け性及びエッジ性能について試験を行った。テストタイヤとして、タイヤサイズ:195/65R15、空気圧220kPaを使用した。耐抜け性試験では、ピン穴26に装着したスタッドピン1にワイヤを接続し、前後、斜め及び横方向に一定速度で引っ張った。引っ張り力を徐々に大きくし、スタッドピン1がピン穴26から抜けたときの引っ張り力で評価した。エッジ性能試験では、テストタイヤをテスト車両(1500cc、4WDミドルセダン車)に装着してアイス路面を走行し、エッジ性能(駆動性能、制動性能及び旋回(コーナリング)性能)を評価した。エッジ性能の評価では、比較例の場合を100として実施例を指数評価した。駆動性能については、アイス路面において停止状態から走行距離が30mに到達するまでの経過時間により評価した。制動性能については、速度40km/hでABS(Antilock Brake System)により制動力を作用させたときの制動距離で評価した。旋回性能については、同じく速度40km/hで旋回した際の旋回半径で評価した。
【0042】
このように、実施例では、縦長の非対称形状をした台座部4により全ての方向に対する耐抜け性を向上させることができた。また、シャフト5では、各辺エッジ部により、エッジ効果の全ての項目で優れた効果を発揮した。このエッジ効果は、2段にすることにより、エッジ部の方向を自由に設定することができたことと、エッジ部を長くすることができたこととがその要因である。
【0043】
本実施形態のスタッドピン1の構成から得られる効果をまとめると以下のようになる。
【0044】
本実施形態によれば、スタッドピン1は、タイヤのピン穴26に装着された状態では、ボディ2の円筒面と台座部4の円弧状部12とが、ピン穴26の内面に沿い易い。しかも、台座部4の円弧状部12は、ボディ2の軸心Lと同心に形成されているので、ボディ2が円筒面においてピン穴26より受ける保持力と、台座部4が円弧状部12においてピン穴26による受ける保持力とが、スタッドピン1の軸心をピン穴26の軸心に一致させるように共に作用する。したがって、ピン穴26による高い保持性が発揮される。
【0045】
また、台座部4は、横軸を中心として縦軸方向に非対称に形成されているので、ピン穴26への装着方向によって、特定の方向への耐抜け性を向上できる。特に、台座部4は縦軸方向の一端部に円弧状部12を備え、即ち軸心方向から見て、縦軸方向に膨出しているため、縦軸方向の耐抜け性を向上できる。
【0046】
このように、スタッドピン1は、保持性を適切に有するように構成されているので、ボディ2は、一端部側において、外周縁部によるエッジ効果を十分に発揮できる。
【0047】
スタッドピン1をタイヤのピン穴26に装着した状態では、台座部4は、ピン穴26の内面から、縦軸方向へのより強い保持力を受ける。したがって、スタッドピン1の縦軸方向に作用する力に対して良好な耐抜け性を確保できる。
【0048】
スタッドピン1をタイヤのピン穴26に装着した状態では、一対の傾斜部10及びこの間に形成された突出部11がピン穴26の内面に強く食い込み、その反力でスタッドピン1が強く保持される。また、第1角部31及び第2角部32によって、スタッドピン1の軸心L周りの回転が抑制される。したがって、例えば旋回時等、スタッドピン1に作用する軸心L周りの回転に好適に抗するので、スタッドピン1の軸心L周りの回転方向における位置が維持され、装着方向により特定の方向において向上した耐抜け性が持続する。
【0049】
円弧状部12を第2領域S2から第1領域S1にかけて形成することにより、スタッドピン1をタイヤのピン穴26装着した状態では、円弧状部12とピン穴26の内面との密着面を広く確保し易く、ピン穴26による保持性を向上できる。
【0050】
スタッドピン1をタイヤのピン穴26に装着した状態では、全周方向において、台座部4による引っ掛かり作用が発揮されるので、台座部4による耐抜け性を向上できる。
【0051】
ドライ路面を走行する際に、ボディ2のテーパ面7を路面に面当りさせ易い。これによって、スタッドピン1の、路面への接地時における衝撃を、緩和させることができる。したがって、路面割れ等の発生を抑制することが可能となる。
【0052】
なお、本発明は、前記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0053】
前記実施形態では、タイヤの蹴出側に、シャフト5の第1突部14の第1エッジ部15を、タイヤ周方向と直交してタイヤ幅方向に延びるように配置したが、タイヤの踏込側に配置するようにしてもよい。これによれば、第1エッジ部15により制動力を作用させやすくなる。
【0054】
また、前記実施形態では、シャフト5を平面視奇数角形としたが、1つの直線部と、それ以外の円弧部とで構成することも可能である。この場合、円弧部は、直線部よりも長さの短い複数の線分で繋がった略円弧状とするようにしてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…スタッドピン
2…ボディ
4…台座部
5…シャフト
7…テーパ面
10…傾斜部
11…突出部
12…円弧状部
13…テーパ面
14…第1突部
15…第1エッジ部
16…第2エッジ部
17…第3エッジ部
18…第4エッジ部
19…第5エッジ部
20…第2突部
21…第6エッジ部
22…第7エッジ部
23…第8エッジ部
24…第9エッジ部
25…トレッド部
26…ピン穴
27…小径部
28…拡径部
30…直線部
31…第1角部
32…第2角部