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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-69989(P2018-69989A)
(43)【公開日】2018年5月10日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/06 20060101AFI20180406BHJP
   B60C 13/00 20060101ALI20180406BHJP
【FI】
   B60C15/06 N
   B60C15/06 Q
   B60C15/06 C
   B60C13/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-213455(P2016-213455)
(22)【出願日】2016年10月31日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】木下 光太郎
(57)【要約】
【課題】重量の増大を抑制しつつビード部を効果的に補強することによって、ビード部周囲におけるセパレーション故障を抑制するのみならず、リム擦れ故障を抑制できる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】空気入りタイヤは、一対のビードコア7と、一対のビードフィラー8と、一対のビードコア7の間に掛け渡されたカーカスプライ4と、ビードコア7の周囲において、カーカスプライ4のタイヤ内面側からタイヤ外面側に巻き上げられた補強層10を備えたビード部3を有し、補強層10は、カーカスプライ4に隣接して配置され内側スチールコード11aが配設された内側スチールチェーファー層11と、内側スチールチェーファー層11に隣接して配置され外側スチールコード12aが配設された外側スチールチェーファー層12を有し、内側スチールコード11aは、外側スチールコード12aよりエンド数が大きい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビードコアと、
前記一対のビードコアそれぞれに連設されてタイヤ径方向の外径側に延びる一対のビードフィラーと、
前記一対のビードコアの間に掛け渡されたカーカスプライと、
前記ビードコアの周囲において、前記カーカスプライのタイヤ内面側からタイヤ外面側に巻き上げられた複数の補強層と、を備えたビード部を有する空気入りタイヤであって、
前記複数の補強層は、
前記カーカスプライに隣接して配置されており、内側スチールコードが配設された、内側スチールチェーファー層と、
前記内側スチールチェーファー層に隣接して配置されており、外側スチールコードが配設された、外側スチールチェーファー層と、を有し、
前記内側スチールチェーファー層における前記内側スチールコードのエンド数は、前記外側スチールチェーファー層における前記外側スチールコードのエンド数より大きい、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記内側スチールコードのエンド数は、前記外側スチールコードのエンド数の1.5倍以上1.75倍以下である、
請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記複数の補強層は、前記外側スチールチェーファー層の反ビードコア側に配置された、ナイロンチェーファー層を更に有している、
請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
タイヤ径方向において、前記内側スチールチェーファー層のタイヤ外面側に位置する巻き上げ端部は、前記カーカスプライのタイヤ外面側に位置する巻き上げ端部よりも内径側に位置している、
請求項1〜3のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ビード部は、タイヤ外面側において、前記内側スチールチェーファー層と前記カーカスプライとの間に配置されたパッドゴムを更に備えている、
請求項1〜4のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
子午線断面において、前記ビードコアのタイヤ径方向内径側に位置する内径側端面を通る直線をビードコアボトムラインとしたときに、
タイヤ径方向において、前記外側スチールチェーファー層のタイヤ外面側に位置する巻き上げ端部は、前記内側スチールチェーファー層のタイヤ外面側に位置する巻き上げ端部よりも内径側に位置し、前記ビードコアボトムラインよりも外径側に位置している、
請求項1〜5のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
子午線断面において、前記ビードコアのタイヤ径方向内径側に位置する内径側端面を通る直線をビードコアボトムラインとしたときに、
タイヤ径方向において、
前記外側スチールチェーファー層のタイヤ内面側に位置する巻き込み端部は、前記カーカスプライのタイヤ外面側に位置する巻き上げ端部よりも内径側に位置し、前記ビードコアボトムラインよりも外径側に位置しており、
前記内側スチールチェーファー層のタイヤ内面側に位置する巻き込み端部は、前記カーカスプライのタイヤ外面側に位置する巻き上げ端部よりも外径側に位置している、
請求項1〜6のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ビード部の剛性を向上させるために、ビードコアの周囲に複数のスチールチェーファー層を含む補強層を備えた空気入りタイヤが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ビード部におけるカーカス層のトレッド幅方向内側に配置される3つのスチールチェーファー層を備えた空気入りタイヤが開示されている。本空気入りタイヤによれば、3つのスチールチェーファー層を備えることによって、リムフランジに接触するビード部の変形が抑制され、カーカス層に沿って発生するセパレーション故障(セパレーション)が抑制されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−195339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ビード部においては、上記セパレーション故障の他、ホイールに装着された状態で、リムフランジとの接触部においてリム擦れ故障(損耗)が生じる場合がある。特に、重荷重用空気入りタイヤにおいては、タイヤ変形(タイヤサイド部の拡幅変形等)によりビード部のタイヤ幅方向外側への過度の倒れ込み変形が生じる場合がある。この場合、ビード部は、リムフランジに対する相対変位が増大するため、リムフランジへの当接部にリム擦れが生じ、該リム擦れが過大になるとリム擦れ故障に至る。
【0006】
特許文献1の空気入りタイヤでは、セパレーション故障の防止を目的としおり、リム擦れ故障を防止するものではない。また、特許文献1の空気入りタイヤでは、3つのスチールチェーファー層を備えるため、重量が増大してしまう。したがって、重量増大を抑制しつつ、ビード部を効果的に補強する観点で、更に工夫する余地がある。
【0007】
本発明は、重量の増大を抑制しつつビード部を効果的に補強することによって、ビード部周囲におけるセパレーション故障を抑制するのみならず、リム擦れ故障を抑制できる空気入りタイヤを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一対のビードコアと、前記一対のビードコアそれぞれに連設されてタイヤ径方向の外径側に延びる一対のビードフィラーと、前記一対のビードコアの間に掛け渡されたカーカスプライと、前記ビードコアの周囲において、前記カーカスプライのタイヤ内面側からタイヤ外面側に巻き上げられた複数の補強層と、を備えたビード部を有する空気入りタイヤであって、前記複数の補強層は、前記カーカスプライに隣接して配置されており、内側スチールコードが配設された、内側スチールチェーファー層と、前記内側スチールチェーファー層に隣接して配置されており、外側スチールコードが配設された、外側スチールチェーファー層と、を有し、前記内側スチールチェーファー層における前記内側スチールコードのエンド数は、前記外側スチールチェーファー層における前記外側スチールコードのエンド数より大きい、空気入りタイヤを提供する。
【0009】
本発明によれば、ビードコアの周囲に配設された複数の補強層のうち、ビードコア側に2層のスチールチェーファー層が配設されており、更にビードコア側に位置する内側スチールコードのエンド数が外側スチールコードのエンド数よりも大きい。つまり、複数の補強層におけるスチールコードの配設量(密度)を、ビードコアにより近接した位置において増大させることによって、ビードコアを効果的に補強できる。また、ビードコアの周囲に少なくとも2層のスチールチェーファー層が配置されているので、ビードコアをタイヤ幅方向内側に予め位置させることができる。
【0010】
したがって、ビードコアを、効果的に補強しつつ、タイヤ幅方向内側へ予め位置させることよって、タイヤ変形時(タイヤサイド部の拡幅変形等)におけるビードコアのタイヤ幅方向内側への変位量を低減させることができる。この結果、リムフランジに対するビード部の擦れが低減されると共に、ビードフィラーに作用する曲げモーメントが低減されるので、カーカスプライのタイヤ外面側に位置する巻き上げ端部におけるせん断ひずみが低減される。よって、リム擦れ故障を抑制できると共に、ビードコア周囲におけるカーカスプライのセパレーション故障を抑制できる。
【0011】
前記内側スチールコードのエンド数は、前記外側スチールコードのエンド数の1.5倍以上1.75倍以下であることが好ましい。
【0012】
本構成によれば、内側スチールコード及び外側スチールコードそれぞれのエンド数を適正に設定することによって、ビードコアの剛性をより効率的に向上させることができる。すなわち、内側スチールコードのエンド数を外側スチールコードのエンド数の1.5倍以上に設定することにより、ビードコアの補強効果が効果的に得られやすい。一方、内側スチールコードのエンド数が外側スチールコードのエンド数の1.75倍より大きくなると、ビード部表面側の面剛性が過度に低下しやすく、耐リム擦れ性が低下する。
【0013】
前記複数の補強層は、前記外側スチールチェーファー層の反ビードコア側に配置された、ナイロンチェーファー層を更に有していることが好ましい。
【0014】
本構成によれば、ビードコアの剛性を更に向上できると共に、ビードコアを更にタイヤ幅方向内側へ予め配置できる。これによって、タイヤサイド部の拡幅変形時におけるビードコアの変位量が更に低減されるので、リム擦れ故障及びビード部周りにおけるカーカスプライのセパレーション故障をより一層抑制できる。
【0015】
タイヤ径方向において、前記内側スチールチェーファー層のタイヤ外面側に位置する巻き上げ端部は、前記カーカスプライのタイヤ外面側に位置する巻き上げ端部よりも内径側に位置していることが好ましい。
【0016】
本構成によれば、内側スチールチェーファー層及びカーカスプライそれぞれの巻き上げ端部がタイヤ径方向に一致することを防止できる。これによって、それぞれの巻き上げ端部においてタイヤ変形により生じ得る応力集中及び空気入りタイヤの成形時に生じ得るエア入りを、タイヤ径方向に分散させることができる。したがって、巻き上げ端部における過大な応力集中及びエア入りを防止して、ビード部の故障を抑制できる。
【0017】
前記ビード部は、タイヤ外面側において、前記内側スチールチェーファー層と前記カーカスプライとの間に配置されたパッドゴムを更に備えていることが好ましい。
【0018】
本構成によれば、パッドゴムが緩衝材として作用するので、カーカスプライと内側スチールチェーファー層との間にそれぞれのコード角度の相違により生じ得るせん断歪みが低減される。
【0019】
子午線断面において、前記ビードコアのタイヤ径方向内径側に位置する内径側端面を通る直線をビードコアボトムラインとしたときに、タイヤ径方向において、前記外側スチールチェーファー層のタイヤ外面側に位置する巻き上げ端部は、前記内側スチールチェーファー層のタイヤ外面側に位置する巻き上げ端部よりも内径側に位置し、前記ビードコアボトムラインよりも外径側に位置していることが好ましい。
【0020】
本構成によれば、外側スチールチェーファー層及び内側スチールチェーファー層を、ビードコアのヒール側(タイヤ幅方向外側)にわたって配設することができる。これによって、カーカスプライのリム側の厚みを増大し、ビード部表面側の面剛性を向上させることができるので、耐リム擦れ性を向上できる。
【0021】
また、外側スチールチェーファー層及び内側スチールチェーファー層それぞれの巻き上げ端部がタイヤ径方向において一致することを防止できる。これによって、それぞれの巻き上げ端部においてタイヤ変形により生じ得る応力集中及び空気入りタイヤの成形時に生じ得るエア入りを、タイヤ径方向に分散させることができる。したがって、巻き上げ端部における過大な応力集中及びエア入りを防止して、ビード部の故障を抑制できる。
【0022】
子午線断面において、前記ビードコアのタイヤ径方向内径側に位置する内径側端面を通る直線をビードコアボトムラインとしたときに、タイヤ径方向において、前記外側スチールチェーファー層のタイヤ内面側に位置する巻き込み端部は、前記カーカスプライのタイヤ外面側に位置する巻き上げ端部よりも内径側に位置し、前記ビードコアボトムラインよりも外径側に位置しており、前記内側スチールチェーファー層のタイヤ内面側に位置する巻き込み端部は、前記カーカスプライのタイヤ外面側に位置する巻き上げ端部よりも外径側に位置していることが好ましい。
【0023】
本構成によれば、外側スチールチェーファー層及び内側スチールチェーファー層を、ビードコアのトウ側(タイヤ幅方向内側)にわたって配設することができる。これによって、カーカスプライのリム側の厚みを増大し、ビード部表面側の面剛性を向上させることができるので、耐リム擦れ性を向上できる。
【0024】
また、外側スチールチェーファー層及び内側スチールチェーファー層それぞれの巻き込み端部がタイヤ径方向において一致することを防止できる。これによって、それぞれの巻き上げ端部においてタイヤ変形により生じ得る応力集中及び空気入りタイヤの成形時に生じ得るエア入りを、タイヤ径方向に分散させることができる。したがって、巻き上げ端部における過大な応力集中及びエア入りを防止して、ビード部の故障を抑制できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る空気入りタイヤによれば、重量の増大を抑制しつつビード部を効果的に補強することによって、ビード部周囲におけるセパレーション故障を抑制するのみならず、リム擦れ故障を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本実施形態に係る空気入りタイヤの子午線半断面図である。
図2図1のビード部の拡大図である。
図3図2の補強層の各ワイヤの傾斜方向を示す平面図である。
図4A】実施例に係る空気入りタイヤのビード部の変形状態を示す図である。
図4B】比較例に係る空気入りタイヤのビード部の変形状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。また、図面は模式的なものであり、各距離の比率等は現実のものとは相違している。
【0028】
図1は、本実施形態に係る空気入りタイヤの子午線半断面図である。この空気入りタイヤは、トレッド部1と、トレッド部1のタイヤ幅方向端部からタイヤ径方向内側に延びる一対のタイヤサイド部2と、一対のタイヤサイド部2それぞれのタイヤ径方向の内径側の端部に位置する一対のビード部3とを備える。ビード部3の間にはカーカスプライ4が掛け渡されている。カーカスプライ4のタイヤ内径側はインナーライナー5で構成されている。
【0029】
またトレッド部1では、カーカスプライ4のタイヤ外径側に、タイヤ周方向に向かって複数層にベルト6が巻き付けられている。カーカスプライ4にはタイヤ径方向に延びるカーカスコード4a(図3参照)が配設されており、本実施形態に係る空気入りタイヤはラジアルタイヤである。以下、本発明の特徴部分であるビード部3について詳述する。
【0030】
図2に示すように、ビード部3は、ビードコア7と、これに連設されてタイヤ径方向の外径側に延びるビードフィラー8とを備える。ビードコア7は、複数本のビードワイヤを束ねて断面六角形とし、環状に連接したものである。ビードコア7は、タイヤ径方向の内径側に位置する内径側端面7aがタイヤ幅方向内側に向かって下方に傾斜して直線状に延びている。ビードフィラー8は、ゴム材料を、断面三角形状で、ビードコア7の環状上面に沿って環状となるように形成したもので、ビードコア7を補強する。なお、図2において、空気入りタイヤがホイールに装着された際に、ビード部3が接触するリムフランジ20が併せて示されている。
【0031】
ここで、以下の説明において、ビードコア7のタイヤ径方向内径側に位置する部分のうち、タイヤ幅方向の内側に位置する部分をトウ7bと称し、タイヤ幅方向の外側に位置する部分をヒール7cと称する。また、子午線断面において、ビードコア7の内径側端面7aを通り、タイヤ幅方向又はタイヤ径方向に直線状に延長した直線をビードコアボトムラインLと称する。
【0032】
カーカスプライ4のタイヤ内面側には、これに隣接して複数の補強層10が配置されている。カーカスプライ4は、複数の補強層10と共にビードコア7の周囲において折り返されて、ビードフィラー8のタイヤ幅方向外側部分に巻き上げられている。カーカスプライ4のタイヤ外面側に位置する巻き上げ端部4bは、タイヤ径方向においてビードフィラー8の約半分の高さに位置している。
【0033】
複数の補強層10には、内側スチールチェーファー層11と、外側スチールチェーファー層12と、ナイロンチェーファー層13とが含まれている。また、ビード部3は、タイヤ外面側において、カーカスプライ4と内側スチールチェーファー層11との間に配置されたパッドゴム9を更に備えている。
【0034】
内側スチールチェーファー層11は、カーカスプライ4の反ビードコア7側に隣接して配置されている。外側スチールチェーファー層12は、内側スチールチェーファー層11の反ビードコア7側に隣接して配置されている。ナイロンチェーファー層13は、外側スチールチェーファー層12の反ビードコア側に隣接して配置されている。
【0035】
図3は、図2のA矢視であって、補強層10及びカーカスプライ4を示しており、パッドゴム9を省略している。図3に示すように、内側スチールチェーファー層11は、金属製の複数本の内側スチールコード11aをエンド数N(1インチ当たりのコード打ち込み本数)で並設し、ゴムにより被覆したものである。内側スチールチェーファー層11は、ビードコア7の周囲に巻き上げられた状態で、内側スチールコード11aが、タイヤ径方向に対して、タイヤ周方向の一方側(図3において右側)に傾斜するように、帯状に形成されている。
【0036】
外側スチールチェーファー層12は、金属製の複数本の外側スチールコード12aをのエンド数Nで並設し、ゴムにより被覆したものである。外側スチールチェーファー層12は、ビードコア7の周囲において巻き上げられた状態で、外側スチールコード12aが、タイヤ径方向に対して、内側スチールコード11aの傾斜方向とは反対方向(図3において左側)に傾斜するように、帯状に形成されている。
【0037】
ナイロンチェーファー層13は、有機繊維製の複数本のナイロンコード13aを所定のエンド数で並設し、ゴムにより被覆したものである。ナイロンチェーファー層13は、ビードコア7の周囲において巻き上げられた状態で、ナイロンコード13aがタイヤ径方向に対して内側スチールコード11aの傾斜方向と同じ方向に傾斜するように、帯状に形成されている。すなわち、ナイロンコード13aは、タイヤ径方向に対して、外側スチールコード12aとは反対側に傾斜している。
【0038】
ここで、内側スチールチェーファー層11における内側スチールコード11aのエンド数Nは、外側スチールチェーファー層12における外側スチールコード12aのエンド数Nよりも大きく構成されている。好ましくは、内側スチールコード11aのエンド数Nは、外側スチールコード12aのエンド数Nの1.5倍以上1.75倍以下に設定されている。換言すれば、外側スチールコード12aのエンド数Nは、内側スチールコード11aのエンド数Nよりも小さく構成されている。また、内側スチールコード11aの線径Dは、外側スチールコード12aの線径Dと等しく設定されている。
【0039】
図2に戻って、ビード部3を構成する各部材のタイヤ径方向における位置関係について、説明する。以下の説明では、各部材のタイヤ径方向における端部のうち、タイヤ外面側に位置する端部を巻き上げ端部と称し、タイヤ内面側に位置する端部を巻き込み端部と称する。
【0040】
内側スチールチェーファー層11は、巻き上げ端部11b及び巻き込み端部11cがそれぞれビードコアボトムラインLよりもタイヤ径方向の外径側に位置している。また、内側スチールチェーファー層11は、巻き上げ端部11bが、カーカスプライ4の巻き上げ端部4bよりもタイヤ径方向の内径側に位置しており、巻き込み端部11cがカーカスプライ4の巻き上げ端部4bよりもタイヤ径方向の外径側に位置している。
【0041】
外側スチールチェーファー層12は、巻き上げ端部12b及び巻き込み端部12cがそれぞれビードコアボトムラインLよりもタイヤ径方向の外径側に位置している。また、外側スチールチェーファー層12は、巻き上げ端部12bが、内側スチールチェーファー層11の巻き上げ端部11bよりもタイヤ径方向の内径側に位置しており、巻き込み端部12cがカーカスプライ4の巻き上げ端部4bよりもタイヤ径方向の内径側に位置している。
【0042】
ナイロンチェーファー層13は、外側スチールチェーファー層12と概ね同じ大きさに形成されている。すなわち、タイヤ径方向において、ナイロンチェーファー層13の巻き上げ端部13b及び巻き込み端部13cはそれぞれ、外側スチールチェーファー層12の巻き上げ端部12b及び巻き込み端部12cに一致している。
【0043】
図4A及び図4Bには、タイヤサイド部2が拡幅変形したときのビード部の変形状態が概略的に示されている。図4Aには本実施形態に係るビード部3の変形状態が示されており、図4Bには比較例に係るビード部30の変形状態が示されており、それぞれ変形前の状態が実線で示されており、変形状態が破線で示されている。図4Bに示されるビード部30は、本実施形態に係るビード部3に対して内側スチールコード31aのエンド数のみ相違しており他は同一である。具体的には、ビード部30の内側スチールコード31aは、外側スチールコード32aと同じエンド数、すなわち本実施形態に係る外側スチールコード12aと同じエンド数Nに構成されている。
【0044】
図4A及び図4Bを比較して、本実施形態に係るビード部3は、比較例に係るビード部30に対して、内側スチールコード11aのエンド数Nが大きいのでビードコア7がより効果的に補強されており、タイヤ幅方向への変位量が低減している。
【0045】
このように、本実施形態によれば、ビードコア7の周囲に配設された複数の補強層10のうち、ビードコア7側に内側スチールチェーファー層11及び外側スチールチェーファー層12が配設されており、更にビードコア7側に位置する内側スチールコード11aのエンド数Nが外側スチールコード12aのエンド数Nよりも太く構成されている。つまり、複数の補強層10におけるスチールコード11aの配設量(密度)を、ビードコア7により近接した位置において増大させることによって、ビードコア7を効果的に補強できる。
【0046】
また、ビードコア7の周囲に少なくとも2層のスチールチェーファー層11、12が配設されているので、ビードコア7をタイヤ幅方向内側へ予め位置させることができる。
【0047】
したがって、ビードコア7を、効果的に補強しつつ、タイヤ幅方向内側へ予め位置させることによって、タイヤ変形時(タイヤサイド部2の拡幅変形等)におけるビードコア7のタイヤ幅方向内側への変位量を低減させることができる。この結果、リムフランジ20に対するビード部3の擦れが低減されると共に、ビードフィラー8に作用する曲げモーメントが低減されるので、カーカスプライ4の巻き上げ端部4bにおけるせん断歪みが低減される。リム擦れ故障を抑制できると共に、ビードコアの周囲におけるカーカスプライのセパレーション故障を抑制できる。
【0048】
また、ビードコア7に近接した内側スチールコード11aのエンド数Nを外側スチールコード12aのエンド数Nよりも増大させることによって、これら両方のエンド数を増大させる場合に比して重量の増大が抑制される。
【0049】
例えば、内側スチールチェーファー層11における内側スチールコード11aのエンド数Nを増大させる一方で、外側スチールチェーファー層12における外側スチールコードのエンド数Nを減少させた場合には、補強層10全体としての重量増大を抑制しつつ、ビード部3の剛性を効果的に高めることができる。
【0050】
また、内側スチールコード11a及び外側スチールコード12aそれぞれのエンド数N、Nを適正に設定することによって、ビードコア7をより効率的に補強できる。すなわち、内側スチールコード11aのエンド数Nを外側スチールコード12aのエンド数Nの1.5倍以上に設定することにより、ビードコア7の補強効果が効果的に得られやすい。一方、内側スチールコード11aのエンド数Nを外側スチールコード12aのエンド数Nの1.75倍より大きくすると、ビード部3の表面側の面剛性が過度に低下しやすく、耐リム擦れ性が低下してしまう。
【0051】
また、ナイロンチェーファー層13を配置することによって、ビードコア7を更に補強できると共に、ビードコア7を更にタイヤ幅方向内側へ予め配置できる。これによって、タイヤサイド部2の拡幅変形時におけるビードコア7の変位量が更に低減されるので、リム擦れ故障及びビード部3の周囲におけるカーカスプライ4のセパレーション故障をより一層抑制しやすい。
【0052】
また、内側スチールチェーファー層11及び外側スチールチェーファー層12がビードコア7のトウ7b側からヒール側7c側にわたって配設されている。これによって、ビード部3のうちリムフランジ20に当接される部分の厚みが増大して面剛性が向上するので、耐リム擦れ性を向上できる。
【0053】
また、カーカスプライ4、内側スチールチェーファー層11、及び外側スチールチェーファー層12のそれぞれの、巻き上げ端部4b、11b、12bがタイヤ径方向において一致することがなく、同様に、巻き込み端部11c、12cがタイヤ径方向に一致することがない。これによって、それぞれの巻き上げ端部及び巻き込み端部において生じ得る応力集中及び空気入りタイヤの成形時に生じ得るエア入りを、タイヤ径方向に分散させることができる。
【0054】
また、パッドゴム9が緩衝材として作用するので、カーカスプライ4と内側スチールチェーファー層11との間にそれぞれのコード角度の相違により生じ得るせん断歪みが低減される。
【実施例】
【0055】
比較例1及び実施例1〜6の空気入りタイヤについて、ビード部3、30の耐久性の評価試験を行った。
【0056】
比較例1では、図4Bに示されるように、ビード部30に、内側スチールチェーファー層31と、外側スチールチェーファー層32と、ナイロンチェーファー層33とを備え、内側スチールコード及び外側スチールコードのエンド数N、Nを共に10.0に設定した。なお、比較例1及び実施例1〜6において、内側スチールコード及び外側スチールコードの線径D、Dは等しく設定されている。
【0057】
実施例1〜5では、比較例1に対して内側スチールコード11aのエンド数Nを増大させる一方で、外側スチールコード12aのエンド数Nを減少させた。具体的には、実施例1では、内側スチールコード11aのエンド数Nを11.3に設定し、外側スチールコード12aのエンド数Nを8.7に設定した。この場合、内側スチールコード11aのエンド数Nは、外側スチールコード12aのエンド数Nの1.3倍に設定されることになる。
【0058】
以下同様に、実施例2〜5では、内側スチールコード11aのエンド数Nを外側スチールコード12aのエンド数Nの、1.5倍、1.625倍、1.75倍、1.95倍にそれぞれ設定した。また、実施例6は、実施例3に対してナイロンチェーファー層13を除いたものである。
【0059】
なお、実施例1〜6では、比較例1に対して、内側スチールコード11aのエンド数Nを増大させた分だけ、外側スチールコード12aのエンド数Nを減少させている。したがって、実施例1〜6それぞれにおける内側スチールコード11a及び外側スチールコード12aを平均したエンド数は比較例1と等しく構成されており、比較例1と実施例1〜6の空気入りタイヤの重量は略同等に構成されている。
【0060】
比較例1及び実施例1〜6の空気入りタイヤを、空気圧725kPa、荷重26.7kN、速度50km/hの条件下において、直径1700mmのドラム上で走行させて、ビード部3、30が故障したときの走行距離を測定することによってビード耐久性を評価した。表1に比較例1の走行距離を100として、実施例1〜6の走行距離を指数で示している。
【0061】
また、比較例1及び実施例1〜6の空気入りタイヤを、空気圧850kPa、荷重29.4kNの条件において、5万km走行した時点でのリム擦れ量(ビード部3、30の摩耗量)を測定することによって、耐リム擦れ性を評価した。走行開始時のビード部3、30の厚みを4mmとして走行後の厚みを表1に示している。
【0062】
【表1】
【0063】
表1から明らかなように、内側スチールコード11aのエンド数Nを外側スチールコード12aのエンド数Nよりも増大させた実施例1〜6に係る空気入りタイヤは、比較例1に比して、ビード耐久性及び耐リム擦れ性ともに向上している。
【0064】
特に、内側スチールチェーファー層11のエンド数Nの外側スチールチェーファー層12のエンド数Nに対する比であるN1/が、1.5以上1.75以下である実施例2〜4においては、ビード耐久性が130〜135と特に優れており、耐リム擦れ性も3.8mm〜3.9mmとほとんど摩耗が進行しておらず特に優れている。一方、N1/が1.3であり1.5を下回る実施例1及びN1/が1.95であり1.75を上回る実施例5では、ビード耐久性及び耐リム擦れ性が、比較例1よりは優れているものの実施例2〜4よりも劣る結果となった。
【0065】
また、ナイロンチェーファー層13を有していない実施例6においては、ビード耐久性及び耐リム擦れ性が、比較例1よりは優れているものの、ナイロンチェーファー層を有している実施例3よりも劣る結果となった。
【0066】
すなわち、内側スチールコード11aのエンド数Nを外側スチールコード12aのエンド数Nよりも増大させることで、重量増大を抑制しつつビード部3を効果的に補強することができ、ビード耐久性及び耐リム擦れ性を改善できる。
【0067】
なお、本発明は、前期実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
上記実施形態では、内側スチールチェーファー層11と外側スチールチェーファー層12とで、線径を等しく設定したが、変更してもよい。例えば、内側スチールチェーファー層11の線径Dを、外側スチールチェーファー層12の線径Dよりも増大させてもよい。これによって、ビードコア7側に近接した部分においてスチールコード11aの配設量(密度)を高めることができるので、ビードコア7をより一層効果的に補強できる。
【符号の説明】
【0068】
1 トレッド部
2 タイヤサイド部
3 ビード部
4 カーカスプライ
4a カーカスコード
4b 巻き上げ端部
7 ビードコア
8 ビードフィラー
9 パッドゴム
10 補強層
11 内側スチールチェーファー層
11a 内側スチールコード
11b 巻き上げ端部
11c 巻き込み端部
12 外側スチールチェーファー層
12a 外側スチールコード
12b 巻き上げ端部
12c 巻き込み端部
13 ナイロンチェーファー層
13a ナイロンコード
13b 巻き上げ端部
13c 巻き込み端部
20 リムフランジ
L ビードコアボトムライン
内側スチールコードの線径
外側スチールコードの線径
内側スチールコードのエンド数
外側スチールコードのエンド数
図1
図2
図3
図4A
図4B