【課題】水系塗料やコーティング剤の被膜形成用樹脂として使用できる、ヒドロキシポリウレタン樹脂を利用した場合の従来技術の課題を克服した、実用化が可能な良好な安定性を有する水分散体の提供、及び、該水分散体を使用したガスバリア性に優れたフィルムの提供。
【解決手段】水中に、ポリヒドロキシウレタン樹脂が0.001μm〜10μmの粒子径にて分散してなる水分散体で、前記ポリヒドロキシウレタン樹脂が、一般式(1)で示される繰り返し単位を基本構造とし、且つ、該構造中に一般式(6)で示されるカルボキシル基を有する化学構造部位を有するポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体、該水分散体の製造方法及び該水分散体を用いてなるガスバリア性樹脂フィルム。
前記ポリヒドロキシウレタン樹脂は、その重量平均分子量が10000〜100000の範囲であり、且つ、その酸価が15mgKOH/g〜50mgKOH/gの範囲であり、且つ、その水酸基価が150mgKOH/g〜250mgKOH/gの範囲である請求項1に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体。
前記ポリヒドロキシウレタン樹脂の前記一般式(1)で示される基本構造部分が、少なくともその一部に二酸化炭素を原料として用いて合成された五員環環状カーボネート構造を、少なくとも2つ有する化合物と、少なくとも2つの1級アミノ基を有する化合物との重付加反応物からなり、前記ポリヒドロキシウレタン樹脂の全質量のうちの1〜30質量%を、前記二酸化炭素由来の−O−CO−結合が占める請求項1又は2に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体。
前記重合工程で、前記1級アミノ基を有する化合物に対して、前記エポキシ基を有する化合物を、アミノ基とエポキシ基の当量比が1級アミノ基/エポキシ基=4/1以上の1級アミノ基が過剰量となる条件下で反応させて、1級アミノ基が未反応で残るようにし、その後、前記五員環環状カーボネート構造を有する化合物を、残った1級アミノ基に対して重付加反応させる請求項4に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体の製造方法。
基材と、該基材の少なくとも一方に、ポリヒドロキシウレタン樹脂からなる被膜層を有してなり、該ポリヒドロキシウレタン樹脂が、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体を構成する樹脂であり、前記被膜層の厚みが0.1〜100μmであり、且つ、その酸素透過率が、23℃、65%の湿度下において50mL/m2・day・atm以下であることを特徴とするガスバリア性樹脂フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明は、水中に、ポリヒドロキシウレタン樹脂が0.001μm〜10μmの粒子径にて分散した水分散体に関し、該ポリヒドロキシウレタン樹脂が、下記一般式(1)で示される繰り返し単位を基本構造とし、且つ、該構造中に下記一般式(6)で示されるカルボキシル基を有する化学構造部位を有することを特徴とする。このように、本発明は、ポリヒドロキシウレタン樹脂の基本構造中に、一般式(6)で示されるカルボキシル基を有する化学構造部位を有するものとしたことで、水を加えて転相乳化することを可能にし、その結果、水中にポリヒドロキシウレタン樹脂を、0.001μm〜10μmという小さい粒子径にて安定に分散することを可能にしている。なお、本発明で規定する、0.001μm〜10μmの粒子径は、水分散体中に分散している粒子の粒度分布の範囲を意味している。
【0018】
[一般式(1)中、−X−は、直接結合か、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基、炭素数4〜40の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜40の芳香族炭化水素基であり、これらの基の構造中には、エーテル結合、アミノ結合、スルホニル結合及びエステル結合のいずれか、或いは、置換基として、水酸基、ハロゲン原子及び繰り返し単位1〜30の炭素数2〜6からなるポリアルキレングリコール鎖のいずれかを含んでもよい。Y−は、炭素数1〜15の脂肪族炭化水素基、炭素数4〜15の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜15芳香族炭化水素基であり、これらの基の構造中には、エーテル結合又はスルホニル結合、或いは、置換基として水酸基及びハロゲン原子のいずれかを含んでもよい。−Z
1−、−Z
2−は、それぞれ独立に、下記式(2)、式(3)、一般式(4)及び一般式(5)からなる群から選ばれる少なくともいずれかの構造を示し、繰り返し単位内及び繰り返し単位間のいずれにおいても、これらの式(2)〜(5)から選ばれる2種以上の構造が混在してもよい。また、これらの式(2)〜(5)のいずれの式を選択した場合も、右側の結合手は酸素原子と結合し、且つ、左側の結合手はXと結合し、Xが直接結合の場合は、他方のZの左側の結合手と結合する。]
【0019】
[一般式(4)又は(5)中、Rは、水素原子又はメチル基を示す。]
【0020】
[一般式(6)中、−W−は、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基、炭素数4〜40の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜40の芳香族炭化水素基であり、これらの基の構造中には、エーテル結合、アミノ結合、スルホニル結合及びエステル結合のいずれか、或いは、置換基として、水酸基、ハロゲン原子及び繰り返し単位1〜30の炭素数2〜6からなるポリアルキレングリコール鎖のいずれかを含んでもよい。Y−は、一般式(1)の結合手のあるウレタン構造と結合する部分であって、前記一般式(1)中のY−として選択できるものを選択し得る。−V−は、炭素数1〜10の炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基であり、これらの基の構造中には、酸素原子又は窒素原子を含んでもよい。]
【0021】
本発明を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂は、その基本構造中に有する、繰り返し単位である上記一般式(1)で示される構造は、そのすべての繰り返し単位が同一の構造であってもよいが、これに限定されず、上記で規定される範囲の構造であれば、異なる構造のものが複数種混在するものであってもよい。例えば、一般式(1)中のZ
1とZ
2のいずれもが、式(2)の化学構造のもののみで構成されていてもよいし、例えば、Z
1が一般式(4)の化学構造のもの、Z
2が一般式(5)の化学構造のもの、Z
1とZ
2のいずれもが式(3)の化学構造のもの、が混在するものであってもよい。また、その基本構造中に有する一般式(6)で示される構造も同様に、樹脂中におけるすべての繰り返し単位が同一の構造であってもよいが、異なる構造が混在するものであってもよい。さらに、基本構造を構成している、一般式(1)中のYと、一般式(6)中のYとは、同じ構造であってもよいが、本発明で規定する、取り得る−Yの範囲内であれば、互いに異なる構造であってもよい。また、繰り返し単位ごとにYが異なる構成であってもよい。すなわち、本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂の基本構造中には、複数の異なる構造のYが混在していてもよい。
【0022】
ここで、一般的なポリマーエマルジョンの製造方法として、界面活性剤を乳化剤として使用する強制乳化法と、ポリマー鎖中に親水性基を導入しポリマー鎖自らに乳化粒子を形成させる自己乳化法がある。本発明の水分散体は、上記した自己乳化型に属するものである。すなわち、本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂は、前記一般式(6)の構造に示されているように、樹脂の構造中に、乳化に必要な親水性基としてアニオン性基であるカルボキシル基を導入したことで、自己乳化を可能にしている。
【0023】
前記一般式(1)で示される繰り返し単位を基本構造とするポリヒドロキシウレタン樹脂は、以下の工程により、基本構造の部分を製造することができる。1分子中に少なくとも2つの五員環環状カーボネートを有する化合物(以下、単に環状カーボネート化合物と呼ぶ場合がある)と、1分子中に少なくとも2つの1級アミノ基を有する化合物(以下、単にアミン化合物と呼ぶ場合がある)の重付加反応より得られる。
【0024】
ポリヒドロキシウレタン樹脂の高分子鎖を形成する、環状カーボネートとアミンとの反応においては、環状カーボネートの開裂は2種類であり、以下のモデル反応が示す2種類の構造が発生することが知られている。
【0026】
従って、重付加反応により得られるポリヒドロキシウレタン樹脂を表す前記一般式(1)の−Z
1−、−Z
2−の構造は、前記した式(2)か式(3)のいずれかの構造となり、その存在はランダムである。
【0027】
本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂の製造に使用する環状カーボネート化合物としては、その環状カーボネート構造が、下記のように、エポキシ化合物と二酸化炭素との反応によって得られたものであることが好ましい。具体的には、例えば、原材料であるエポキシ化合物を、触媒の存在下で、0℃〜160℃の温度にて、大気圧〜1MPa程度に加圧した二酸化炭素雰囲気下で4〜24時間反応させることで、二酸化炭素を、エステル部位に固定化した環状カーボネート化合物を得ることができる。
【0029】
上記のようにして二酸化炭素を原料として合成された環状カーボネート化合物を、重付加反応に使用することで得られるポリヒドロキシウレタン樹脂は、その構造中に二酸化炭素が固定化された−O−CO−結合を有したものとなる。二酸化炭素由来の−O−CO−結合(二酸化炭素の固定化量)のポリヒドロキシウレタン樹脂中における含有量は、二酸化炭素を原材料として有効利用する立場からはできるだけ多くなる方がよいが、例えば、上記した合成方法によって得られるポリヒドロキシウレタン樹脂は、その構造中に二酸化炭素を1〜30質量%の範囲で含有させることができる。
【0030】
上記したエポキシ化合物と二酸化炭素との反応に使用される触媒としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウムなどの塩類や、4級アンモニウム塩が好適なものとして挙げられる。その使用量は、エポキシ化合物100質量部当たり1〜50質量部、好ましくは1〜20質量部である。また、これら触媒となる塩類の溶解性を向上させるためにトリフェニルホスフィンなどを併用してもよい。
【0031】
上記したエポキシ化合物と二酸化炭素との反応は、有機溶剤の存在下で行うこともできる。有機溶剤としては、前述の触媒を溶解するものであればいずれのものも使用可能である。具体的には、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤、が好ましいものとして挙げられる。
【0032】
本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂の製造に使用可能な環状カーボネート化合物の構造には特に制限がなく、一分子中に2つ以上の環状カーボネート構造を有するものであれば使用可能である。例えば、ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つものや、脂肪族系や脂環式系のいずれの環状カーボネート化合物も使用可能である。以下に使用可能な化合物について、構造式を挙げて例示する。なお、以下に列挙した構造式中にあるRは、水素原子、CH
3のいずれかである。
【0033】
ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つ環状カーボネート化合物としては、以下が例示される。
【0034】
脂肪族系や脂環式系の環状カーボネート化合物として、以下が例示される。
【0035】
本発明の水分散体を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂は、上記に列挙したような、その一部に二酸化炭素を原料として用いて合成されてなる五員環環状カーボネート構造を2以上有する化合物と、1級アミノ基を2以上有する化合物との重付加反応により製造されたものであることが好ましい。
【0036】
1級アミノ基を少なくとも2つ有する化合物としては、従来公知のものが使用できる。好ましいものとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノへキサン(別名:ヘキサメチレンジアミン)、1,8−ジアミノオクタン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカンなどの鎖状脂肪族ポリアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、1,6−シクロヘキサンジアミン、ピペラジン、2,5−ジアミノピリジンなどの環状脂肪族ポリアミン、キシリレンジアミン(別名:メタキシレンジアミン)などの芳香環を持つ脂肪族ポリアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタンなどの芳香族ポリアミンが挙げられる。
【0037】
本発明の水分散体を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂は、上記のようにして製造できる一般式(1)の繰り返し単位を基本構造として有するとともに、その構造中に下記一般式(6)で示されるカルボキシル基を有する化学構造部位が導入されてなることを特徴とする。
【0038】
[一般式(6)中、−W−は、炭素数1〜30の脂肪族炭化水素基、炭素数4〜40の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜40の芳香族炭化水素基であり、これらの基の構造中には、エーテル結合、アミノ結合、スルホニル結合及びエステル結合のいずれか、或いは、置換基として、水酸基、ハロゲン原子及び繰り返し単位1〜30の炭素数2〜6からなるポリアルキレングリコール鎖のいずれかを含んでもよい。Y−は、一般式(1)の結合手のあるウレタン構造と結合する部分であって、前記一般式(1)中のY−として選択できるものを選択し得る。−V−は、炭素数1〜10の炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基であり、これらの基の構造中には、酸素原子又は窒素原子を含んでもよい。]
【0039】
上記一般式(6)で示されるカルボキシル基を有する化学構造部位を基本構造に導入することは、例えば、下記の本発明の製造方法によって安定して行うことができ、この化学構造部位が導入されることで、本発明の水分散体を容易に得ることができる。本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体の製造方法は、親水性溶剤中で、少なくとも2つの1級アミノ基を有する化合物に対して、少なくとも2つのエポキシ基を有する化合物と、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物とを重付加反応させて、その構造中に2級アミノ基を含むポリヒドロキシウレタン樹脂を得る重合工程と、さらに、前記2級アミノ基に環状酸無水物を反応させて、その構造中にイオン性基となるカルボキシル基を有するポリヒドロキシウレタン樹脂を得るイオン性基の導入工程と、得られたヒドロキシポリウレタン樹脂中の前記カルボキシル基を中和し、その後に水を加えて転相乳化する工程と、を有することを特徴とする。以下、上記製造方法について説明する。
【0040】
本発明の製造方法では、より好適には、アミノ基とエポキシ基の当量比が1級アミノ基/エポキシ基=4/1以上の1級アミノ基が過剰量となる条件下で反応させて、1級アミノ基が未反応で残るように構成し、その後、例えば、二酸化炭素を原料にして得た、先述したような環状カーボネート化合物を、残った1級アミノ基に対して重付加反応させることで、一般式(6)の化学構造部位が前記した基本構造に導入された構造のポリヒドロキシウレタン樹脂を得ており、その後に上記した転相乳化を行うことで、水中に、0.001μm〜10μmの粒子径にて分散してなるポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体を安定して得ている。
【0041】
以下に、上記のように構成することで、本発明で規定する構造のポリヒドロキシウレタン樹脂を安定して得ることが可能になるメカニズムについて説明する。まず、1級アミノ基を2つ有する化合物と、エポキシ基を2つ有する化合物とを、活性水素当量比が1.0(1級アミノ基/エポキシ基のモル比率では1/2)となる比率にて反応させた場合、3次元化の反応が起こり、樹脂硬化物が得られる。しかし、化学構造が3次元化した樹脂硬化物は、溶剤に溶解しないことから、本発明が目的とする水分散体を製造することはできない。これに対し、本発明らは、安定した水分散体を得るべく鋭意検討した結果、1級アミノ基とエポキシ基の当量比が1級アミノ基/エポキシ基=4/1以上となる、1級アミノ基の過剰量条件下で反応させることが有効であることを見出した。すなわち、1級アミノ基を2以上有する化合物と、2以上のエポキシ基を有する化合物とを、1級アミノ基が過剰量となる条件下、より好ましくは、1級アミノ基/エポキシ基=4/1以上の1級アミノ基が過剰量となる条件下で反応させたことで、両末端に1級アミノ基を有し、且つ、構造の内部に2級アミノ基を有する化合物が中間体として得られ、該中間体を利用することで、前記した一般式(1)で示される繰り返し単位を基本構造とするポリヒドロキシウレタン樹脂に、その化学構造部位として一般式(6)の構造を安定して導入することが達成される。
【0042】
以下に、1級アミノ基/エポキシ基=4/1の場合の反応式を示した。このようなアミノ基の過剰量条件下で反応を行うことで、以下の構造を有する中間体となる化合物(A)と、未反応で残った1級アミノ基を有する化合物との混合物を得ることができる。
【0043】
上記のようにして得られた混合物中の化合物(A)は、両末端に1級アミノ基を有しており、前記した、上記反応に用いた1分子中に2つの1級アミノ基を有する化合物と同様に、先に説明した環状カーボネート化合物と重付加反応することができる。
【0044】
ここで、上記化合物(A)は、両末端に1級アミノ基を有しているが、その構造中に2級アミノ基も有する。この場合に、構造中の2級アミノ基は、環状カーボネートとの反応が起こらないことが既に報告されている。例えば、1級アミノ基と2級アミノ基を含む化合物と、環状カーボネート化合物の重付加反応により、2級アミノ基を主鎖に含んだポリヒドロキシウレタンの合成が「J.Polym.Sci.,Part A:Polym.Chem.2005,43,5899−5905」に報告されている。本発明の製造方法においても、反応形態は、上記文献に記載されている通りであるので、上記したようにして得られる、両末端に1級アミノ基を有し、内部に2級アミノ基を有する化合物(A)と同様の構造の化合物を経由することで、2級アミノ基を基本構造中に含むポリヒドロキシウレタン樹脂が得られる。本発明の製造方法では、重合工程で導入された一般式(6)の化学構造部位によってヒドロキシウレタン中に残存することになる2級アミノ基を、次のイオン性基の導入工程で、環状酸無水物と反応させることで、その構造中にカルボキシル基を導入する。その結果、本発明の水分散体を構成できる、上記一般式(1)で示される繰り返し単位を基本構造とし、該構造中に、上記一般式(6)で示されるカルボキシル基を有する化学構造部位を有するヒドロキシポリウレタン樹脂が得られ、次の、水を加えて転相乳化する工程で、水中に、ポリヒドロキシウレタン樹脂が0.001μm〜10μmの粒子径にて分散してなる本発明の水分散体が得られる。
【0045】
上記したように、本発明のポリヒドロキシウレタン樹脂の水分散体を構成するポリヒドロキシウレタン樹脂は、基本的には、以下の三段階の工程から形成できる。
(1)少なくとも2つの1級アミノ基を有する化合物に対して、まず、少なくとも2つのエポキシ基を有する化合物を1級アミノ基の過剰量条件下で反応させ、1級アミノ基が残るようにして中間体となる、両末端に1級アミノ基を有し、内部に2級アミノ基を有する化合物(A)を生成する工程。
(2)1級アミノ基が残った状態の、工程(1)の上記生成物である化合物(A)に対して、少なくとも2つの五員環環状カーボネート構造を有する化合物を重付加反応させ、2級アミノ基を有するポリヒドロキシウレタン樹脂を得る重合工程。
(3)工程(2)で得た2級アミノ基を有するポリヒドロキシウレタン樹脂に対して、環状酸無水物を付加反応させるイオン性基の導入工程。
【0046】
ここで、上記工程(1)を省略し、上記環状カーボネート化合物とエポキシ化合物、アミノ基を有する化合物の3成分を一度に反応させ、2級アミノ基を有するヒドロキシポリウレタンを得ることも可能である。しかし、本発明者らの検討によれば、この場合に、エポキシ化合物の使用量を増やすと、すなわち、より多くの2級アミノ基を主鎖中に導入しようとした場合、エポキシ化合物が、生成した化合物(A)中の2級アミノ基と反応する確率が高くなり、工程(1)のステップを経る場合と比較して3次元化によるゲル化が起こりやすく、工業的製法としては適さず、好適なものとは言い難い。
【0047】
上記工程(1)に使用可能な、少なくとも2つの1級アミノ基を有する化合物としては、従来公知のものを使用することができる。具体的には、先に説明した一般式(1)の繰り返し単位を基本構造とするポリヒドロキシウレタン樹脂の合成に使用可能なアミン化合物と同様のものを用いることができる。このため、説明を省略する。
【0048】
工程(1)で使用可能なエポキシ基を有する化合物についても、少なくとも2官能である以外は特に制限はない。例えば、前記した環状カーボネート化合物を得るための原材料に使用したエポキシ化合物が好適である。具体的には、先に例示した環状カーボネート化合物では、その末端の五員環環状カーボネート基の部分のいずれもがエポキシ基である化合物を原材料として使用しており、これらのエポキシ基を有する化合物をいずれも使用できる。
【0049】
工程(1)及び工程(2)で行われる2種類の化合物の重付加反応、すなわち、環状カーボネート化合物とアミン化合物との重付加反応、エポキシ化合物とアミン化合物との重付加反応に必要な条件は、いずれも同じであり、例えば、両者を混合し、40〜200℃の温度で4〜24時間反応させればよい。
【0050】
上記反応は、いずれも無溶剤で行うことも可能であるが、本発明においては次工程の反応及び乳化工程を考慮して、親水性溶剤中で行うことが好ましい。この際に使用し得る親水性溶剤の好ましいものを例示すると、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。上記に列挙した溶剤の中でも、特に好ましい溶剤としては、転相乳化後の蒸発留去が容易な沸点を有するテトラヒドロフランが挙げられる。
【0051】
本発明を特徴づけるポリヒドロキシウレタン樹脂の製造は、上記したように、特に触媒を使用せずに製造を行うことができるが、反応を促進させるためには、下記に挙げるような触媒の存在下で行うことも可能である。例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、トリエチレンジアミン(DABCO)、ピリジン及びヒドロキシピリジンなどの塩基性触媒、テトラブチル錫、ジブチル錫ジラウリレートなどのルイス酸触媒などが使用できる。これらの触媒の好ましい使用量としては、反応に使用するカーボネート化合物とアミン化合物の総量(100質量部)に対して、0.01〜10質量部の範囲内で使用する。
【0052】
次に、工程(3)のイオン性基の導入工程である、ヒドロキシポリウレタン樹脂へのカルボキシル基導入反応について説明する。工程(3)では、上記工程(2)で得られたポリヒドロキシウレタンの有する2級アミノ基に対して、環状酸無水物を反応させることによって、ヒドロキシポリウレタン樹脂にカルボキシル基を導入する。
【0053】
上記の反応に使用可能な環状酸無水物は、特に限定されるものではない。複数のカルボキシル基を有する化合物のカルボキシル基が分子内で脱水縮合したものであれば好適に使用することができる。具体的には、例えば、コハク酸無水物、イタコン酸無水物、マレイン酸無水物、カロン酸無水物、シトラコン酸無水物、グルタル酸無水物、ジグリコール酸無水物1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物などの脂肪族酸無水物や、その誘導体、フタル酸、トリメリット酸無水物、1,2−ナフタル酸無水物、ピロメリット酸無水物などの芳香族酸無水物、1,1−シクロヘキサン二酢酸無水物、1−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、1,1−シクロペンタン二酢酸無水物、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物、などの脂環族酸無水物などがいずれも使用可能である。これらの中でも特に好ましい化合物としては、分子量の低い化合物が、少量の使用で乳化安定性を示すことから、例えば、コハク酸無水物やマレイン酸無水物などが挙げられる。
【0054】
本発明者らの検討によれば、上記した工程(1)で使用するエポキシ化合物の使用量と工程(2)で使用する環状カーボネート化合物の使用比率により、上記式中の化合物(A)である、中間体のポリヒドロキシウレタン樹脂中の2級アミノ基の量を制御することができ、これにより、工程(3)での環状酸無水物との反応後に得られるポリヒドロキシウレタン樹脂中のカルボキシル基量を制御することもできる。
【0055】
また、本発明者らの検討によれば、ポリヒドロキシウレタン樹脂中に導入したカルボキシル基量と、その後に樹脂に水を加えて転相乳化する工程で形成される乳化粒子径はほぼ比例関係にあり、カルボキシル基量が多くなるほど乳化粒子径は小さくなる。逆に、カルボキシル基が少なくなると乳化粒子径が大きくなり、ある程度の大きさからは乳化状態が不安定となる。このような理由から、本発明の水分散体を構成する水中に分散したポリヒドロキシウレタン樹脂の乳化粒子径は、0.001μm〜10μmの範囲内のものになる。その用途にもよるが、0.001μm〜2μmの範囲内のものになるように調整したものがより好ましい。
【0056】
また、ポリヒドロキシウレタン樹脂中へのカルボキシル基の導入量は、少なすぎると転相乳化ができず、多すぎると被膜の耐水性に悪影響を及ぼすため、酸価が15mgKOH/g〜50mgKOH/gとなるように配合比を調整するのが好ましい。また、乳化粒子の安定度は、樹脂の分子量によっても影響を受けるため、樹脂の重量平均分子量が10000〜100000の範囲内にあることが好ましい。
【0057】
上記したようにして製造される本発明の水分散体を利用することで、被膜層やフィルムを形成することができる。本発明は、これらの被膜層やフィルムが、ガスバリア性を有するものとなることも、本発明の特徴の一つである。ガスバリア性は、樹脂の構造中の水酸基の存在により発揮されるものであり、形成したフィルムのガスバリア性の程度は、使用する被膜形成樹脂の構造中の水酸基量に依存する。水酸基が少ない場合はガスバリア性が劣り、逆に多すぎる場合は特にバリア性に対して問題を生じないが樹脂が固くなり密着性が悪くなるため、本発明者らの検討によれば、このような目的を達成するために必要となる樹脂の構造中における水酸基量の好ましい範囲は、水酸基価が150mgKOH/g〜250mgKOH/gの範囲である。
【0058】
本発明の水分散体を構成する樹脂の構造中に存在しているカルボキシル基は、水を加えて転相乳化して水分散体とする際に、そのままの状態であってもよいが、水中でのイオン化を促進するために、カルボキシル基の一部、好ましくは全部を中和して、中和塩としておくことが好ましい。カルボキシル基を架橋や修飾反応に使用するために中和せずに残すことも可能であるが、乳化のためのイオン性基としてのみ利用する場合は、中和剤をカルボキシル基の当モル量か1〜10%程度の過剰量使用することで、全てを中和塩とすることが好ましい。
【0059】
上記において、中和に使用する塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、2−アミノ−2−エチル−1−プロパノール、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン、リチウム、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの無機塩基などが挙げられ、これらは併用できる。これら塩基性化合物の中でも特に好ましい化合物は、塗膜形成時に揮発可能なものであり、例えば、トリエチルアミンを用いることが好ましい。トリエチルアミンなどを用いて中和塩とした場合は、塗膜形成時に塩基性化合物が揮発するので、塗膜(被覆膜)の耐水性が向上する。
【0060】
前記で説明した方法によって得られた、一般式(1)で示される繰り返し単位を基本構造とし、且つ、一般式(6)で示されるカルボキシル基を有する化学構造部位を含むヒドロキシポリウレタン樹脂は、水中でイオン性基となるカルボキシル基又はその塩を含有するため、その溶剤溶液に水を徐々に添加することで転相(転相乳化)させることで、水中油型(O/W型)のエマルジョンが得られる。
【0061】
転相させる際に添加する水の使用量は、ポリヒドロキシウレタンの樹脂の化学構造、樹脂の合成の際に使用した溶剤の種類、樹脂濃度、粘度、といったファクターに依存するが、概ね50部〜200部程度である。転相を行う際に使用する装置は、合成反応に使用する装置と同様の装置でよいが、連続式の乳化機や分散機を使用することもできる。通常、転相工程は、特に加熱する必要はなく、転相前の樹脂溶液に対する水の溶解性を低くするために、10℃〜30℃程度の温度で行うことが効率的であり、好ましい。
【0062】
更に、上記で得られたO/W型のエマルジョンを減圧条件下で加熱することで、ポリヒドロキシウレタン樹脂の製造に使用した溶剤を揮発させることで、樹脂分のみが水中に分散してなる本発明の水分散体を得ることができる。この際の加熱条件及び減圧条件は、揮発させる溶剤の沸点により異なるが、水が先に蒸発しないことが好ましい条件であり、概ね、300Torr〜50Torr、20℃〜70℃の範囲で調整するとよい。なお、本発明の水分散体は、水中にポリヒドロキシウレタン樹脂を微分散させてなるものであるが、最終的な溶媒が必ずしも水単独である必要はなく、転相させる前の溶剤が残存していても使用可能であり、用途に合わせて調節すればよい。
【0063】
本発明の水分散体は、例えば、上記したようにして得られる、水中に、上記した特有の構造を有するポリヒドロキシウレタン樹脂が0.001μm〜10μmの粒子径にて分散した水分散体である。なお、本発明の水分散体の平均粒子径(d50)は、0.005μm〜0.5μmである。水中における該ポリヒドロキシウレタン樹脂の含有量は、用途によっても異なり特に限定されない。例えば、水分散体中の固形分で、10〜50%程度であることが好ましい。
【0064】
本発明の水分散体は、加工時(使用時)の必要特性に合わせて各種レオロジー調整剤を添加して使用することができる。また、本発明の水分散体は、必要に応じて各種添加剤を加えてもよく、例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤などを添加することができる。
【0065】
また、本発明の水分散体は、水に溶解・分散可能な硬化剤を配合して使用することで、架橋塗膜を作成できるものになる。この際に使用できる硬化剤としては、特に制限はないが、例えば、水酸基と反応可能な水分散性成分、ポリイソシアネート類、ブロックイソシアネート類、エポキシ化合物、アルミニウムやチタニウムなどの金属キレート化合物、メラミン樹脂、アルデヒド化合物、などが挙げられる。また、カルボキシル基と反応可能な架橋剤も使用可能であり、前記化合物に加えて水分散性カルボジイミドなども使用可能である。
【0066】
本発明の水分散体を使用して塗膜(被覆膜)を得る方法としては、本発明の水分散体を基材となるフィルムに、例えば、グラビアコーター、ナイフコーター、リバースコーター、バーコーター、スプレーコーター、スリットコーターなどによって塗布し、水及び残存している溶剤を揮発させることが挙げられる。このようにすることで、基材と、該基材の少なくとも一方に、本発明の水分散体によって形成したポリヒドロキシウレタン被膜層とを有してなる本発明のフィルムを得ることができる。
【0067】
上記で基材として使用するフィルム材料は、特に限定されるものではなく、従来から包装材料として使用される高分子材料は全て使用可能である。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル系樹脂、ナイロン6やナイロン66などのポリアミド系樹脂、その他ポリイミド等とこれらの樹脂の共重合体等が挙げられる。また、これらの高分子材料には、必要に応じて、例えば、公知の帯電防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、着色剤等の添加剤を適宜に含ませることができる。
【実施例】
【0068】
次に、具体的な製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における「部」及び「%」は特に断りのない限り質量基準である。
【0069】
[製造例1:環状カーボネート含有化合物(I−A)の合成]
エポキシ当量192のビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名:jER828、ジャパンエポキシレジン社製)100部と、ヨウ化ナトリウム(和光純薬社製)20部と、N−メチル−2−ピロリドン100部とを、撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に仕込んだ。次いで、撹拌しながら二酸化炭素を連続して吹き込み、100℃にて10時間反応を行った。そして、反応終了後の溶液にイソプロパノール1400部を加え、反応物を白色の沈殿として析出させ、濾別した。得られた沈殿物をトルエンにて再結晶を行い、白色の粉末52部を得た(収率42%)。
【0070】
上記で得られた粉末を、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)であるFT−720(商品名、堀場製作所社製、以下の製造例でも同様の装置で測定)にて分析したところ、910cm
-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1800cm
-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル基由来の吸収が確認された。また、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)であるLC−2000(商品名、日本分光社製、カラム FinepakSIL C18−T5;移動相 アセトニトリル+水)による分析の結果、原材料のピークは消失し、高極性側に新たなピークが出現し、その純度は98%であった。また、DSC測定(示差走査熱量測定)の結果、融点は178℃であり、融点範囲は±5℃であった。
【0071】
以上のことから、この粉末は、エポキシ基と二酸化炭素の反応により環状カーボネート基が導入された下記式で表わされる構造の化合物であると確認された。これをI−Aと略称した。I−Aの化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、20.5%であった(計算値)。
【0072】
【0073】
[製造例2:環状カーボネート含有化合物(I−B)の合成]
エポキシ化合物として、エポキシ当量115のハイドロキノンジグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX203、ナガセケムテックス社製)を用いた以外は、前記した製造例1と同様の方法で、下記式(I−B)で表わされる構造の環状カーボネート化合物を合成した(収率55%)。得られたI−Bは、白色の結晶であり、融点は141℃であった。FT−IR分析の結果は、I−Aと同様に910cm
-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収は消失しており、1800cm
-1付近に原材料には存在しないカーボネート基のカルボニル基由来の吸収が確認された。HPLC分析による純度は97%であった。I−Bの化学構造中に二酸化炭素由来の成分が占める割合は、28.0%であった(計算値)。
【0074】
【0075】
<水中に分散させる前のカルボキシル基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂の製造>
[実施例用の樹脂合成例1]
撹拌装置及び大気開放口のある還流器を備えた反応容器内に、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(商品名:jER828、ジャパンエポキシレジン社製)を10部と、ヘキサメチレンジアミン(東京化成工業社製)を30.1部、さらに反応溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)99部を加え、60℃の温度で撹拌しながら12時間の反応を行った。次に、製造例1で得た環状カーボネート含有化合物I−Aを100部投入し、60℃の温度で撹拌しながら24時間の反応を行った。反応後の樹脂溶液をFT−IRにて分析したところ、1800cm
-1付近に観察されていた環状カーボネートのカルボニル基由来の吸収が完全に消失しており、新たに1760cm
-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。得られた樹脂溶液を用いて測定したアミン価は、樹脂分100%の換算値として20.1mgKOH/gであった。
【0076】
次いで、この樹脂溶液にテトラヒドロフラン(THF)124部を加え希釈した後に、無水マレイン酸(東京化成工業社製)5.2部を加え室温にて反応を行い、FT−IRにて酸無水物カルボニル基由来の1800cm
-1のピークが消失したことを確認して反応を終了し、水を加えて転相乳化する前の本発明で規定する構造を有するカルボキシル基含有ヒドロキシポリウレタン樹脂の溶液を得た。
【0077】
得られた樹脂の物性を確認するために、上記で得た樹脂溶液を、乾燥時の膜厚が50μmになるように、バーコーターにて離型紙に塗布し、80℃オーブンで溶剤を乾燥させた後、離型紙を剥がして、樹脂合成例1で得た樹脂製の樹脂フィルムを得た。この樹脂フィルムの外観、機械強度、酸素透過率(ガスバリア性)、樹脂の酸価、樹脂の水酸基価、及び分子量(GPC)を測定した。それぞれの測定方法については後述する。その結果を表1に示した。
【0078】
[実施例用の樹脂合成例2]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器を使用し、ビスフェノールAジグリシジルエーテルを22.4部、ヘキサメチレンジアミンを33.9部、テトラヒドロフラン(THF)を114部加え、樹脂合成例1と同様に反応させた。次いで、先に得たI−Aを100部加え、樹脂合成例1と同様に反応を実施した。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた樹脂のアミン価は樹脂分100%の換算値として39.2mgKOH/gであった。次いで、テトラヒドロフラン143部を加えて希釈し、樹脂合成例1と同様に、無水マレイン酸11.4部を加えて反応させてイオン性基を導入し、水を加えて転相乳化する前の樹脂溶液を得た。そして、得られた樹脂の物性を確認するために、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観、機械強度、酸素透過率、樹脂の酸価、樹脂の水酸基価、及び分子量(GPC)を測定した。その結果を表1に示した。
【0079】
[実施例用の樹脂合成例3]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器を使用し、ビスフェノールAジグリシジルエーテル22.4部、メタキシリレンジアミン(三菱ガス化学社製)39.7部、テトラヒドロフラン(THF)118部を加え、樹脂合成例1と同様に反応させた。次いで、先に得たI−Aを100部加え、樹脂合成例1と同様に反応を実施した。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた樹脂のアミン価は樹脂分100%の換算値として38.1mgKOH/gであった。次いで、テトラヒドロフラン148部を加えて希釈し、樹脂合成例1と同様に、無水マレイン酸11.4部を加えて反応し、水を加えて転相乳化する前の樹脂溶液を得た。そして、得られた樹脂の物性を確認するために、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観、機械強度、酸素透過率、樹脂の酸価、樹脂の水酸基価、及び分子量(GPC)を測定した。結果を表1に示した。
【0080】
[実施例用の樹脂合成例4]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器を使用し、ビスフェノールAジグリシジルエーテルを22.4部、メタキシリレンジアミンを39.7部、テトラヒドロフラン(THF)を122部加え、樹脂合成例1と同様に反応させた。次いで、先に得たI−Aを100部加え、樹脂合成例1と同様に反応を実施した。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた樹脂のアミン価は樹脂分100%の換算値として38.1mgKOH/gであった。次いで、テトラヒドロフラン152部を加えて希釈し、樹脂合成例1と同様に、無水フタル酸17.3部を加えて反応させてイオン性基を導入し、水を加えて転相乳化する前の樹脂溶液を得た。そして、得られた樹脂の物性を確認するために、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観、機械強度、酸素透過率、樹脂の酸価、樹脂の水酸基価、及び分子量(GPC)を測定した。その結果を表1に示した。
【0081】
[実施例用の樹脂合成例5]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器を使用し、ハイドロキノンジグリシジルエーテル(商品名:デナコールEX203、ナガセケミテックス社製)8.2部、メタキシリレンジアミン48.8部、テトラヒドロフラン(THF)111部を加え、樹脂合成例1と同様に反応させた。次いで、先に得たI−Bを100部加え、樹脂合成例1と同様に反応を実施した。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた樹脂のアミン価は樹脂分100%の換算値として26.5mgKOH/gであった。次いで、テトラヒドロフラン139部を加えて希釈し、樹脂合成例1と同様に無水マレイン酸7部を加えて反応し、水を加えて転相乳化する前の樹脂溶液を得た。そして、得られた樹脂の物性を確認するために、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観、機械強度、酸素透過率、樹脂の酸価、樹脂の水酸基価、及び分子量(GPC)を測定した。その結果を表1に示した。
【0082】
[比較例用の樹脂合成例a]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器を使用、ビスフェノールAジグリシジルエーテルを4.7部、ヘキサメチレンジアミンを28.6部、テトラヒドロフラン(THF)を93.2部加え、合成例1と同様に反応させた。次いで、先に得たI−Aを100部加え、樹脂合成例1と同様に反応を実施した。反応後の樹脂溶液についてのFT−IRによる反応経過確認の結果は、樹脂合成例1と同様であった。得られた樹脂のアミン価は樹脂分100%の換算値として11.1mgKOH/gであった。次いで、テトラヒドロフラン116部を加えて希釈し、樹脂合成例1と同様に無水マレイン酸2.4部を加えて反応させて、水を加えて転相乳化する前の樹脂溶液を得た。そして、得られた樹脂の物性を確認するために、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観、機械強度、酸素透過率、樹脂の酸価、樹脂の水酸基価、及び分子量(GPC)を測定した。その結果を表1に示した。
【0083】
[比較例用の樹脂合成例b]
樹脂合成例1で用いたのと同様の反応容器を使用、ビスフェノールAジグリシジルエーテル59.8部、ヘキサメチレンジアミン45.2部、テトラヒドロフラン(THF)198部を加え合成例1と同様に反応させた。次いで、先に得たI−Aを100部加え、樹脂合成例1と同様に反応を実施したところ、反応が完結する前に溶液全体が固化(ゲル化)したため、反応を中止した。得られたゲル物はヒドロキシウレタン樹脂の架橋体であり、フィルム作成ができないことから物性評価は実施しなかった。
【0084】
[比較例用の樹脂合成例c]
樹脂合成例1で使用したと同様の反応容器内に、製造例1で得た環状カーボネート含有化合物I−Aを100部、ヘキサメチレンジアミンを27.1部、テトラヒドロフラン(THF)を198部加え、60℃の温度で撹拌しながら、24時間の反応を行って、比較例用の樹脂溶液を得た。得られた樹脂溶液は、カルボキシル基を含まない通常のポリヒドロキシウレタン樹脂である。次いで、反応液にTHFを117部加えて希釈した後に、無水マレイン酸9.2部、触媒としてトリエチルアミン11.8部を加えて60℃2時間の反応を行うことで無水マレイン酸を反応させ、転相乳化する前の樹脂溶液を得た。この樹脂は本発明で規定するポリヒドロキシウレタン樹脂と異なる、水酸基をハーフエステル化することでカルボキシル基が導入された、従来処方によって得られたポリヒドロキシウレタン樹脂である。得られた樹脂の物性を確認するために、樹脂合成例1と同様にして、樹脂フィルムを作製し、フィルムの外観、機械強度、酸素透過率、樹脂の酸価、樹脂の水酸基価、及び分子量(GPC)を測定した。その結果を表1に示した。
【0085】
(評価)
以上で説明した実施例用の樹脂合成例1〜5及び比較例用の樹脂合成例a〜cでそれぞれ得た各樹脂、及び各樹脂で作製した各フィルムについて、以下の方法及び基準で評価した。各樹脂についての二酸化炭素含有量は、以下のようにして算出した。評価結果を表1にまとめて示した。
【0086】
[二酸化炭素含有量]
二酸化炭素含有量は、各合成例で使用したヒドロキシポリウレタン樹脂の化学構造中における、原料の二酸化炭素由来のセグメントの質量%を算出して求めた。具体的には、ポリウレタン樹脂の合成反応に使用した、化合物I−A、I−Bを合成する際に使用した、モノマーに対して含まれる二酸化炭素の理論量から算出した計算値で示した。例えば、実施例用の樹脂合成例1の場合には、使用した化合物I−Aの二酸化炭素由来の成分量は20.5%、であり、これより実施例用の樹脂合成例1のポリウレタン中の二酸化炭素濃度は(100部×20.5%)/145.3全量=14質量%となる。
【0087】
[分子量]
表1中に、DMFを移動相としたGPC測定により測定した、ポリスチレン換算値として重量平均分子量を示した。GPC測定は、東ソー社製のGPC−8220(商品名)を用い、カラムSuper AW2500+AW3000+AW4000+AW5000で行った。
【0088】
[フィルム外観]
作製したそれぞれの樹脂フィルムについて、全光線透過率及びヘイズを測定し、以下の基準で評価した。全光線透過率及びヘイズは、JIS K−7105に準拠して、いずれもヘイズメーターHZ−1(商品名、スガ試験機社製)により測定した。ヘイズメーターで測定される全ての光量が全光線透過率であり、全光線透過率に対する拡散透過光の割合がヘイズである。
<評価基準>
〇:全光線透過率90%以上 ヘイズ5%以下
×:〇に該当しないもの
【0089】
[酸価、水酸基価]
いずれも各樹脂について、JIS K−1557に準拠した滴定法により測定し、樹脂1gあたりの各官能基の含有量を、KOHのmg当量で表した。なお、単位はmgKOH/gである。
【0090】
[機械強度]
作製した各樹脂フィルムの機械強度として、破断点強度及び破断点伸度を測定した。測定はJIS K−6251に準拠して、オートグラフAGS−J(商品名、島津製作所社製)を使用した測定法によって、室温(25℃)で測定を実施した。
【0091】
[ガスバリア性(酸素透過率)]
作製した各樹脂フィルムについて、JIS K−7126に準拠して酸素の透過率を測定し、これをガスバリア性の評価値とした。すなわち、この値が低いほどガスバリア性に優れると判断できる。具体的には、酸素透過率測定装置であるOX−TRAN 2/21ML(商品名、MOCON社製)を使用して、温度23℃で湿度65%とした恒温恒湿条件下にて、酸素透過率を測定した。なお、使用したフィルムは乾燥後の膜厚が50μmであるため、膜厚20μmに換算した値を表1中に記載した。
【0092】
【0093】
<水分散体の製造>
[実施例1]
撹拌及び減圧蒸留が可能な反応容器内に、実施例用の樹脂合成例1で得た樹脂溶液(THF溶液)100部及びトリエチルアミン1.4部を仕込んだ。そして、室温にて撹拌しながらイオン交換水100部を徐々に添加し、転相乳化を行った。次に、反応容器を50℃に加温、減圧し、THFを留去することにより、本実施例の、水中にポリヒドロキシウレタン樹脂が分散してなる水分散体を得た。得られた水分散体は、固形分が30%となるように調整し、外観上均一な水分散体であった。水分散体中のポリマー分散粒子の粒度分布を、日機装社製のUPA−EX150(商品名)にて測定した結果、d50=0.02μmであった。
図1に、上記で測定した水分散体の粒度分布を示した。また、得られた水分散体の安定性を、50℃の恒温槽中で保存し評価したところ、良好な安定を示した。
【0094】
上記で得られた水分散体に、レオロジー調整剤としてプライマルRM−8W(商品名、ローム&ハースジャパン社製)0.5部を添加し、塗料を作製した。そして、得られた塗料を用い、下記の基材に塗布してガスバリア性フィルムを作製した。具体的には、基材として、厚み40μmの下記の無延伸ポリプロピレンフィルム(CPPフィルム)を用い、そのコロナ処理面上に、乾燥時の膜厚が10μmになるように塗布し、100℃にて乾燥することで、基材上に被膜層を形成して複層フィルムを得た。上記基材に用いたCPPフィルムは、東洋紡製のパイレンP1111(商品名)であり、その酸素透過率は、実測値で、1500mL40μm/m
2・day・atmであった。得られた複層フィルムを用いて、塗膜外観、密着性、耐水性、ガスバリア性を評価した。それぞれの測定方法については後述する。得られた結果を表2に示した。
【0095】
[実施例2]
先に得た実施例用の樹脂合成例2で得た樹脂溶液100部に、トリエチルアミンを2.8部加え、実施例1と同様にして転相乳化を行って、本実施例の水分散体を得た。得られた水分散体は、水を加えて固形分が30%となるように調整し、外観上均一な水分散体であった。そして、得られた水分散体を用い、実施例1と同様に、レオロジー調整剤としてプライマルRM−8Wを加えて塗料を作製し、この塗料を用いて実施例1で使用したと同様の、基材及び条件にて複層フィルムを作製した。上記で得た本実施例の水分散体及びフィルムにて、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。
【0096】
[実施例3]
先に得た実施例用の樹脂合成例3で得た樹脂溶液100部に、トリエチルアミンを2.7部加え、実施例1と同様にして転相乳化を行って、本実施例の水分散体を得た。得られた水分散体は、水を加えて固形分が30%となるように調整し、外観上均一な水分散体であった。そして、得られた水分散体を用い、実施例1と同様に、レオロジー調整剤としてプライマルRM−8Wを加えて塗料を作製し、この塗料を用いて実施例1で使用したと同様の、基材及び条件にて複層フィルムを作製した。上記で得た本実施例の水分散体及びフィルムにて、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。
【0097】
[実施例4]
先に得た実施例用の樹脂合成例4で得た樹脂溶液100部に、トリエチルアミンを2.6部加え、実施例1と同様にして転相乳化を行って、本実施例の水分散体を得た。得られた水分散体は、水を加えて固形分が30%となるように調整し、外観上均一な水分散体であった。そして、得られた水分散体を用い、実施例1と同様に、レオロジー調整剤としてプライマルRM−8Wを加えて塗料を作製し、この塗料を用いて実施例1で使用したと同様の、基材及び条件にて複層フィルムを作製した。上記で得た本実施例の水分散体及びフィルムにて、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。
【0098】
[実施例5]
先に得た実施例用の樹脂合成例5で得た樹脂溶液100部に、トリエチルアミンを1.7部加え、実施例1と同様にして転相乳化を行って、本実施例の水分散体を得た。得られた水分散体は、水を加えて固形分が30%となるように調整し、外観上均一な水分散体であった。得られた水分散体を用い、実施例1と同様に、レオロジー調整剤としてプライマルRM−8Wを加えて塗料を作製し、この塗料を用いて実施例1で使用したと同様の、基材及び条件にて複層フィルムを作製した。上記で得た本実施例の水分散体及びフィルムにて、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。
【0099】
[実施例6]
先に得た実施例用の樹脂合成例1で得た樹脂溶液を用い、実施例1と同様にして転相乳化を行って、水分散体を得た。本実施例では、得られた水分散体100部(固形分23%)に、架橋剤として、イソシアネート系架橋剤であるデュラネートWB40−100(商品名、旭化成ケミカルズ社製、NCO%=16.6%)5部を加え、ディスパーで分散し塗料を作製した。この塗料を用いて実施例1で使用したと同様の、基材及び条件にて複層フィルムを作製した。得られたフィルムを40℃で2日間エージング処理した後に、実施例1と同様にして、複層フィルムの塗膜外観、密着性、耐水性、ガスバリア性を評価した。結果を表3に示した。実施例1の複層フィルムの結果も表3に併せて示した。
【0100】
[実施例7]
実施例6で用いた架橋剤を、カルボジイミド系架橋剤であるカルボジライトV−02(商品名、日清紡ケミカル社製、NCN当量590)5部に変更した以外は実施例6と同様にして、塗料を作製した。この塗料を用いて実施例1で使用したと同様の、基材及び条件にて複層フィルムを作製し、得られたフィルムを100℃で30分間エージング処理した後に、実施例1と同様にして、複層フィルムの塗膜外観、密着性、耐水性、ガスバリア性を評価した。結果を表3に示した。
【0101】
[比較例1]
比較例用の樹脂合成例aで得た樹脂溶液を用いて実施例1と同様にして転相乳化の操作を実施した。その結果、転相時の粒子径が大きく、樹脂が沈降し分離状態となり、THFの除去操作を行うと樹脂が塊となり完全に分離した。そのため複層フィルムの作製は実施しなかった。
【0102】
[比較例2]
比較例用の樹脂合成例bを用いて転相乳化を試みた。しかし、合成例bで合成した樹脂溶液はゲル状となっており、水を添加してもゲル状態は解消せず、転相乳化を行うことはできなかった。
【0103】
[比較例3]
比較例用の樹脂合成例cで得た樹脂溶液に、反応時に既に使用しているトリエチルアミンを加えないこと以外は実施例1と同様にして、水分散体を得た。そして、得られた水分散体を用いて実施例1と同様にして、プライマルRM−8Wを加え塗料を作製した。この塗料を用いて実施例1で使用したと同様の、基材及び条件にて複層フィルムを作製した。上記で得た本比較例の水分散体及びフィルムにて、実施例1と同様の評価を行い、結果を表2に示した。
【0104】
(評価)
上記で得た実施例1〜7及び比較例1〜3の各水分散体の特性、及び、それぞれの水分散体を用いて得た塗料で作製した各フィルムの評価は、以下の方法及び基準で行った。結果を表2、3にまとめて示した。
【0105】
[粒子径]
実施例1〜5及び比較例3の各水分散体について、日機装社製の動的光散乱式ナノトラック粒度分析計UPA−EX150(商品名)を使用し、粒度分布を測定した。そして、測定した粒度分布から計算により得られたメジアン径(=d50値)を粒子径として、表2に示した。
【0106】
[安定性]
実施例1〜5及び比較例3の各水分散体を、密閉したポリ容器に入れ、50℃の恒温槽で保存した。そして、それぞれ、一ヶ月、三か月、六か月後の状態を観察し、それぞれ、以下の基準で評価し、結果を表2に示した。
<評価基準>
〇:粒子の沈降は無く、外観上の変化が見られない
△:粒子が沈降しているが撹拌により簡単に再分散する
×:乳化粒子が破壊され樹脂分が沈降。撹拌しても再分散できない
【0107】
[塗膜外観]
実施例1〜7及び比較例3で作製した各複層フィルムについて、塗布面の外観を目視にて観察し、以下の基準で評価した。結果を表2、3に示した。
<評価基準>
〇:透明均一で光沢のある塗膜表面である
△:塗膜表面の光沢が無く濁っている
×:集物による凹凸がある
【0108】
[密着力]
実施例1〜7及び比較例3で作製した各複層フィルムについて、塗膜表面の一部にセロハンテープを圧着し、ゆっくりと手で引きはがし、塗膜の剥がれ具合を観察し、以下の基準で評価した。結果を表2及び表3に示した。
<評価基準>
〇:塗膜の剥がれが無し
△:塗膜の一部が剥離
×:塗膜が完全に剥離
【0109】
[耐水性]
実施例1〜7及び比較例3で作製した各複層フィルムについて、フィルムを水に浸漬し、室温で24時間後の塗膜表面状態を目視で観察し、以下の規準で評価した。結果を表2及び表3に示した。
<評価基準>
〇:変化は見られない
△:塗膜の一部が白化している
×:塗膜が膨潤している
【0110】
[耐溶剤性]
実施例1〜7及び比較例3で作製した各複層フィルムについて、塗膜表面にテトラヒドロフランをスポイトにて数的滴下し、直ぐにウエスにてふき取った。そして、ふき取り後の表面状態を目視で観察し、以下の規準で評価した。結果を表2及び表3に示した。
<評価基準>
〇:変化が見られない
△:塗膜に拭き取り跡が残る
×:塗膜の一部が剥離
【0111】
[ガスバリア性]
実施例1〜7及び比較例3で作製した各フィルムについて、JIS K−7126に準拠して酸素の透過度を測定し、これをガスバリア性の評価値とした。すなわち、この値が低いほどガスバリア性に優れると判断できる。具体的には、酸素透過率測定装置OX−TRAN 2/21ML(商品名、MOCON社製)を使用して、温度23℃で、湿度65%とした恒温恒湿条件下にて、酸素透過度(酸素透過率)を測定した。なお、先に表1中に示した実施例用の樹脂合成例1〜5及び比較例用樹脂a、cで作製したフィルムの酸素透過率は膜厚20μmに換算した値であるのに対し、表2及び表3に示した実施例1〜7、比較例3のフィルムのガスバリア性の測定値は、フィルム構成体としての酸素透過度である。該フィルムにおける実施例或いは比較例の塗料を塗布して得られたコート層の厚みは、精密厚み測定器(尾崎製作所社製)を使用して実測し、10μmであることを確認している。結果を表2及び表3に示した。
【0112】
【0113】
【0114】
表1に示したように、本発明の実施例の水分散体に使用した、水を加えて転相乳化する前のヒドロキシウレタン樹脂はいずれも、比較例用の樹脂合成例cの従来処方で得られた比較例3用のヒドロキシウレタン樹脂と比較し、水酸基量を減少させることなくカルボキシル基が導入されている。その結果、本発明の実施例用の各樹脂では、表2に示したように、水酸基の凝集力により発揮される機械強度の低下を少なくすることができ、高い酸素ガスバリア性を有することが確認された。
【0115】
また、水を加えて転相乳化する前のヒドロキシウレタン樹脂の構造中にカルボキシル基を導入したことにより、表2に示したように、本発明の実施例では、粒子径の小さい安定な水分散体を作製することができる。特に、保存安定性においては、従来の処方で作製された水分散体(比較例3)に比べて、長期間の保存が可能となった。これは、従来の水分散体は、カルボキシル基の導入をハーフエステルにより行っていたために加水分解によりカルボキシル基変性部位が脱離してしまうのに対し、本発明の実施例で用いる、アミド結合を介してカルボキシル基を導入したヒドロキシポリウレタン樹脂は加水分解を起こしにくいことによる。また、表3に示したように、本発明の水分散体は、構成する樹脂によって各種架橋剤を使用した架橋被膜を得ることが可能であり、架橋剤を使用することで、耐溶剤性、密着性が向上すると共に、架橋被膜も高いガスバリア性を有することが確認された。