特開2018-70914(P2018-70914A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2018-70914積層造形物の製造方法および積層造形物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-70914(P2018-70914A)
(43)【公開日】2018年5月10日
(54)【発明の名称】積層造形物の製造方法および積層造形物
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/16 20060101AFI20180406BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20180406BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20180406BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20180406BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20180406BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20180406BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20180406BHJP
【FI】
   B22F3/16
   B22F3/105
   B22F3/24 C
   C22C9/00
   H01B1/02 A
   B33Y10/00
   B33Y80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-208893(P2016-208893)
(22)【出願日】2016年10月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坪田 龍介
(72)【発明者】
【氏名】岡 陽平
(72)【発明者】
【氏名】岡本 啓
(72)【発明者】
【氏名】中本 貴之
(72)【発明者】
【氏名】菅原 貴広
(72)【発明者】
【氏名】四宮 徳章
(72)【発明者】
【氏名】武村 守
(72)【発明者】
【氏名】内田 壮平
【テーマコード(参考)】
4K018
5G301
【Fターム(参考)】
4K018AA03
4K018BA02
4K018BB04
4K018CA44
4K018EA51
4K018EA60
4K018FA08
4K018KA33
4K018KA63
5G301AA07
5G301AA08
(57)【要約】
【課題】銅合金により構成されている積層造形物を提供すること。
【解決手段】積層造形物の製造方法は、銅合金粉末を準備する第1工程(S100)、銅合金粉末により積層造形物を製造する第2工程(S200)、および積層造形物を300℃以上の温度で熱処理する第3工程(S300)を含む。銅合金粉末は、0.10質量%以上1.00質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する。積層造形物は、銅合金粉末を含む粉末層を形成すること(S202)、および粉末層において所定位置の銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成すること(S203)が順次繰り返され、造形層が積層されることにより製造される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅合金粉末を準備する第1工程、
前記銅合金粉末により積層造形物を製造する第2工程、および
前記積層造形物を300℃以上の温度で熱処理する第3工程
を含み、
前記銅合金粉末は、
0.10質量%以上1.00質量%以下のクロム、および
残部の銅
を含有し、
前記積層造形物は、
前記銅合金粉末を含む粉末層を形成すること、および
前記粉末層において所定位置の前記銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成すること
が順次繰り返され、前記造形層が積層されることにより製造される、
積層造形物の製造方法。
【請求項2】
前記第3工程では、前記積層造形物が400℃以上の温度で熱処理される、
請求項1に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項3】
前記第3工程では、前記積層造形物が700℃以下の温度で熱処理される、
請求項1または請求項2に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項4】
前記第3工程では、前記積層造形物が600℃以下の温度で熱処理される、
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項5】
銅合金により構成されている積層造形物であって、
0.10質量%以上1.00質量%以下のクロム、および残部の銅を含有し、
前記銅合金の理論密度に対して97%以上100%以下の相対密度を有し、かつ
50%IACS以上の導電率を有する、
積層造形物。
【請求項6】
70%IACS以上の導電率を有する、
請求項5に記載の積層造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層造形物の製造方法および積層造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2011−21218号公報(特許文献1)は、金属粉末を対象とするレーザ積層造形装置(「3Dプリンタ」とも称される)を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−21218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属製品の加工技術として、金属粉末を対象とする積層造形法が注目されている。積層造形法によれば、切削加工では不可能であった複雑形状の創製が可能である。これまでに、鉄合金粉末、アルミニウム合金粉末、チタン合金粉末等による積層造形物の製造例が報告されている。すなわち、鉄合金、アルミニウム合金またはチタン合金等により構成されている積層造形物が報告されている。しかしながら、銅合金により構成されている積層造形物の報告はない。
【0005】
本開示の目的は、銅合金により構成されている積層造形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔1〕積層造形物の製造方法は、以下の第1工程、第2工程および第3工程を含む。
第1工程;銅合金粉末を準備する。
第2工程;銅合金粉末により積層造形物を製造する。
第3工程;積層造形物を300℃以上の温度で熱処理する。
銅合金粉末は、0.10質量%以上1.00質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する。
積層造形物は、(i)銅合金粉末を含む粉末層を形成すること、および(ii)粉末層において所定位置の銅合金粉末を固化させることにより、造形層を形成することが順次繰り返され、造形層が積層されることにより製造される。
【0007】
〔2〕第3工程では、積層造形物が400℃以上の温度で熱処理されてもよい。
〔3〕第3工程では、積層造形物が700℃以下の温度で熱処理されてもよい。
〔4〕第3工程では、積層造形物が600℃以下の温度で熱処理されてもよい。
【0008】
〔5〕積層造形物は、銅合金により構成されている積層造形物である。積層造形物は、0.10質量%以上1.00質量%以下のクロム、および残部の銅を含有する。積層造形物は、銅合金の理論密度に対して97%以上100%以下の相対密度を有し、かつ50%IACS以上の導電率を有する。
〔6〕積層造形物は、70%IACS以上の導電率を有してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、銅合金により構成されている積層造形物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の実施形態に係る積層造形物の製造方法の概略を示すフローチャートである。
図2図2は、STLデータの一例である。
図3図3は、スライスデータの一例である。
図4図4は、積層造形物の製造過程を図解する第1概略図である。
図5図5は、積層造形物の製造過程を図解する第2概略図である。
図6図6は、積層造形物の製造過程を図解する第3概略図である。
図7図7は、積層造形物の製造過程を図解する第4概略図である。
図8図8は、引張試験に使用される試験片の平面図である。
図9図9は、第3工程の熱処理温度と導電率との関係を示すグラフである。
図10図10は、第3工程の熱処理温度と引張強さとの関係を示すグラフである。
図11図11は、第3工程の熱処理温度とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記される)が説明される。ただし、以下の説明は、本開示の発明の範囲を限定するものではない。
【0012】
はじめに本実施形態が見出された経緯が説明される。
機械的強度および高い導電率が必要とされる機械部品には、銅が多用されている。銅により構成される機械部品としては、たとえば、溶接トーチ、配電設備の部品等が挙げられる。
【0013】
まず、純銅粉末により積層造形物を製造することが検討された。しかしながら、純銅粉末によっては、所望の積層造形物が得られなかった。具体的には、純銅粉末により製造された積層造形物は、多数の空隙を有しており、緻密な溶製材に対して密度が大幅に低下していた。密度の低下は、機械的強度(たとえば引張強さ等)の低下を意味する。さらに導電率も緻密な溶製材に対して大幅に低下していた。密度および導電率を改善するため、各種の製造条件が検討された。しかしながら、いずれの製造条件においても、仕上がり物性が安定せず、密度および導電率の改善は困難であった。
【0014】
そこで銅合金粉末が検討された。その結果、特定組成の銅合金粉末が使用されることにより、実用的な密度および導電率を有する積層造形物が製造され得ること、さらに積層造形物が特定温度以上で熱処理されることにより、積層造形物の機械的強度および導電率が顕著に向上し得ることが見出された。以下、本実施形態が詳しく説明される。
【0015】
<積層造形物の製造方法>
図1は、本実施形態の積層造形物の製造方法の概略を示すフローチャートである。本実施形態の製造方法は、第1工程(S100)、第2工程(S200)および第3工程(S300)を含む。以下、各工程が順を追って説明される。
【0016】
《第1工程(S100)》
第1工程(S100)では、銅合金粉末が準備される。
本実施形態の銅合金粉末は、2次元プリンタのトナーまたはインクに相当する。本実施形態では、後述の特定組成の銅合金粉末が準備される限り、その製造方法は特に限定されるべきではない。
【0017】
銅合金粉末は、たとえば、ガスアトマイズ法または水アトマイズ法によって製造され得る。たとえば、まず銅合金の溶湯が調製される。溶湯がタンディッシュに入れられる。タンディッシュから溶湯が滴下される。滴下中の溶湯が、高圧ガスまたは高圧水に接触させられる。これにより、溶湯が急冷、凝固し、銅合金粉末が生成される。この他、プラズマアトマイズ法、遠心力アトマイズ法等によっても、銅合金粉末が製造され得る。
【0018】
本実施形態では、特定組成の銅合金粉末が使用される。すなわち銅合金粉末は、0.10質量%以上1.00質量%以下のクロム(Cr)、および残部の銅(Cu)を含有する銅合金の粉末である。残部には、Cuの他、不純物元素が含有されていてもよい。
不純物元素は、たとえば、銅合金粉末の製造時に意図的に添加された元素(以下「添加元素」と記される)であってもよい。すなわち、残部はCuおよび添加元素を含んでもよい。添加元素としては、たとえば、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、銀(Ag)、ベリリウム(Be)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、テルル(Te)等が挙げられる。不純物元素は、たとえば、銅合金粉末の製造時に不可避的に混入した元素(以下「不可避不純物元素」と記される)であってもよい。すなわち、残部はCuおよび不可避不純物元素を含んでもよい。不可避不純物元素としては、たとえば、酸素(O)、リン(P)、鉄(Fe)等が挙げられる。残部は、Cu、添加元素および不可避不純物元素を含んでもよい。銅合金粉末は、たとえば、合計で0.30質量%未満の添加元素および不可避不純物元素を含有してもよい。たとえば、銅合金粉末の酸素含有量は「JIS H 1067:銅中の酸素定量方法」に準拠した方法により測定され得る。
【0019】
銅合金粉末のCr含有量は「JIS H 1071:銅および銅合金中のクロム定量方法」に準拠したICP発光分析法により測定される。Cr含有量は、少なくとも3回測定される。少なくとも3回の平均値がCr含有量として採用される。Cr含有量は、0.15質量%以上であってもよいし、0.20質量%以上であってもよいし、0.22質量%以上であってもよいし、0.51質量%以上であってもよい。Cr含有量は、0.94質量%以下であってもよい。
【0020】
銅合金粉末のCu含有量は「JIS H 1051:銅および銅合金中の銅定量方法」に準拠した方法により測定され得る。Cu含有量は、少なくとも3回測定される。少なくとも3回の平均値がCu含有量として採用される。Cu含有量は、たとえば、98.9質量%より高く99.9質量%以下であってもよい。
【0021】
銅合金粉末は、たとえば、1〜200μmの平均粒径を有するように準備されてもよい。「平均粒径」は、レーザ回折散乱法によって測定される体積基準の粒度分布において微粒側から累積50%の粒径を示す。以下、平均粒径は「d50」とも記される。d50は、たとえば、ガスアトマイズ時のガス圧、分級等により調整され得る。d50は、積層造形物の積層ピッチに応じて調整されてもよい。d50は、たとえば、5〜50μmであってもよいし、50〜100μmであってもよいし、100〜200μmであってもよい。粒子形状は特に限定されるべきではない。粒子は略球状であってもよいし、不規則形状であってもよい。
【0022】
《第2工程(S200)》
第2工程(S200)では、銅合金粉末により積層造形物が製造される。
ここでは、粉末床溶融結合法が説明される。ただし粉末床溶融結合法以外の付加製造法が使用されてもよい。たとえば、指向性エネルギ堆積法等が使用されてもよい。造形中に切削加工が実施されてもよい。
【0023】
ここでは、レーザにより銅合金粉末を固化させる態様が説明される。ただしレーザはあくまで一例であり、銅合金粉末が固化する限りは、固化手段はレーザに限定されるべきではない。たとえば、電子ビーム、プラズマ等が使用されてもよい。
【0024】
(データ処理(S201))
まず3D−CAD等により3次元形状データが作成される。
3次元形状データは、たとえばSTLデータに変換される。図2は、STLデータの一例である。STLデータでは、たとえば、有限要素法による要素分割(いわゆる「メッシュ化」)が実施され得る。
【0025】
STLデータからスライスデータが作成される。図3は、スライスデータの一例である。STLデータはn個の層に分割される。すなわちSTLデータは、第1造形層p1、第2造形層p2、・・・、第n造形層pnに分割される。各層の厚さ(スライス厚さd)は、たとえば、10〜150μmでよい。
【0026】
(粉末層の形成(S202))
銅合金粉末を含む粉末層が形成される。
図4は、積層造形物の製造過程を図解する第1概略図である。レーザ積層造形装置100は、ピストン101、テーブル102、およびレーザ出力部103を備える。テーブル102は、ピストン101に支持されている。ピストン101は、テーブル102を昇降できるように構成されている。テーブル102上において、積層造形物が造形される。
【0027】
粉末層の形成(S202)および後述の造形層の形成(S203)は、たとえば、不活性ガス雰囲気中で実施されてもよい。積層造形物の酸化を抑制するためである。不活性ガスは、たとえば、アルゴン(Ar)、窒素(N2)、ヘリウム(He)等であってもよい。不活性ガス雰囲気に代えて、還元性ガス雰囲気とされてもよい。還元性ガスは、たとえば、水素(H2)等である。さらに不活性ガス雰囲気に代えて、減圧雰囲気とされてもよい。
【0028】
スライスデータに基づいて、ピストン101は、テーブル102を1層分だけ降下させる。テーブル102上に、1層分の銅合金粉末が敷き詰められる。これにより、銅合金粉末を含む第1粉末層1が形成される。たとえば、スキージングブレード(図示されず)等により、第1粉末層1の表面が平滑化されてもよい。第1粉末層1は、実質的に銅合金粉末のみから形成されてもよい。第1粉末層1は、銅合金粉末の他、レーザ吸収材(たとえば樹脂粉末等)を含んでもよい。
【0029】
(造形層の形成(S203))
続いて造形層が形成される。
造形層は積層造形物の一部を構成することになる。図5は、積層造形物の製造過程を図解する第2概略図である。レーザ出力部103は、スライスデータに基づいて、第1粉末層1の所定位置にレーザ光を照射する。レーザ光の照射の前に、予め第1粉末層1が加熱されていてもよい。レーザ光の照射を受けた銅合金粉末は、溶融および焼結を経て固化する。これにより第1造形層p1が形成される。すなわち、粉末層において所定位置の銅合金粉末が固化することにより、造形層が形成される。
【0030】
レーザ出力部103は、汎用のレーザ装置であり得る。レーザ光の光源は、たとえば、ファイバレーザ、YAGレーザ、CO2レーザ、半導体レーザ、グリーンレーザ等であり得る。レーザ光の出力は、たとえば、20〜1000Wであってもよいし、200〜500Wであってもよい。レーザ光の走査速度は、たとえば、50〜2000mm/sの範囲内で調整され得る。
【0031】
レーザ光のエネルギ密度は、10〜2000J/mm3の範囲内で調整され得る。エネルギ密度は下記式(I):
E=P÷(v×s×d)・・・(I)
によって算出される。式(I)中、「E」はレーザ光のエネルギ密度[単位:J/mm3]を示す。「P」はレーザの出力[単位:W]を示す。「v」は走査速度[単位:mm/s]を示す。「s」は走査幅[単位:mm]を示す。「d」はスライス厚さ[単位:mm]を示す。
【0032】
図6は、積層造形物の製造過程を図解する第3概略図である。第1造形層p1が形成された後、ピストン101は、テーブル102を1層分だけ降下させる。上記と同じ手順により、第2粉末層2が形成され、続いて第2造形層p2が形成される。その後、粉末層の形成(202)および造形層の形成(203)が順次繰り返され、造形層が積層されることにより、積層造形物が製造される。
【0033】
図7は、積層造形物の製造過程を図解する第4概略図である。最終的に、第n造形層pnが積層されることにより、積層造形物10が完成する。本実施形態では、特定組成の銅合金粉末が使用されているため、積層造形物10は高い相対密度を有することができる。
【0034】
《第3工程(S300)》
第3工程(S300)では、積層造形物が300℃以上の温度で熱処理される。これにより、積層造形物の機械的強度(たとえば引張強さ、ビッカース硬さ等)、ならびに積層造形物の導電率が飛躍的に向上することが期待される。
【0035】
本実施形態では、一般的な熱処理炉が使用され得る。熱処理温度は、熱処理炉に付帯する温度センサにより測定される。たとえば、熱処理炉の設定温度が300℃であれば、積層造形物が300℃で熱処理されたとみなされる。
【0036】
積層造形物は、たとえば、1分以上10時間以下熱処理されてもよいし、10分以上5時間以下熱処理されてもよいし、30分以上3時間以下熱処理されてもよいし、1時間以上2時間以下熱処理されてもよい。熱処理の雰囲気は、たとえば、大気、窒素、アルゴン、水素、真空等であり得る。
【0037】
第3工程では、積層造形物が400℃以上の温度で熱処理されてもよいし、450℃以上の温度で熱処理されてもよい。これにより機械的強度および導電率のいっそうの向上が期待される。
【0038】
第3工程では、積層造形物が700℃以下の温度で熱処理されてもよいし、600℃以下の温度で熱処理されてもよいし、550℃以下の温度で熱処理されてもよい。これにより、たとえば、機械的強度と導電率とのバランスが向上することが期待される。積層造形物は、700℃を超える温度で熱処理されてもよい。ただし、700℃を超える温度では、機械的強度および導電率の向上効果が小さくなる可能性もある。
【0039】
<積層造形物>
本実施形態の積層造形物は、典型的には上記の製造方法により製造される。
本実施形態の積層造形物は、切削加工では実現できない複雑形状を有し得る。さらに本実施形態の積層造形物は、機械的強度および導電率の両方に優れることができる。本実施形態の積層造形物は、一例としてプラズマトーチになり得る。
【0040】
(組成)
積層造形物は、銅合金により構成されている。積層造形物は、0.10質量%以上1.00質量%以下のCr、および残部のCuを含有する。前述の銅合金粉末と同様に、残部は、添加元素および不可避不純物元素の少なくとも一方を含んでいてもよい。積層造形物のCr含有量は、銅合金粉末のCr含有量の測定方法と同様の測定方法により測定される。Cr含有量は、0.15質量%以上であってもよいし、0.20質量%以上であってもよいし、0.22質量%以上であってもよいし、0.51質量%以上であってもよい。Cr含有量は、0.94質量%以下であってもよい。
【0041】
積層造形物のCu含有量も、銅合金粉末のCu含有量の測定方法と同様の測定方法により測定される。Cu含有量は、たとえば、98.9質量%より高く99.9質量%以下であってもよい。
【0042】
(相対密度)
積層造形物は、銅合金の理論密度に対して97%以上100%以下の相対密度を有する。「相対密度」は、積層造形物の実測密度が理論密度により除されることにより算出される。理論密度は、積層造形物と同じ組成を有する溶製材の密度を示す。実測密度は「JIS Z 2501:焼結金属材料−密度、含油率および開放気孔率試験方法」に準拠した方法により測定される。液体には水が使用される。相対密度は少なくとも3回測定される。少なくとも3回の平均値が相対密度として採用される。
【0043】
相対密度が高い積層造形物は、高い気密性を必要とする部品に好適である。また相対密度が高い程、機械的強度も期待できる。相対密度は、97.6%以上であってもよいし、98%以上であってもよいし、99%以上であってもよいし、99.2%以上であってもよいし、99.4%以上であってもよい。
【0044】
(機械的強度)
積層造形物は、優れた機械的強度を有し得る。たとえば、積層造形物は、250MPa以上の引張強さを有し得る。すなわち本実施形態の積層造形物は、無酸素銅(UNS番号C10200)と同等以上の引張強さを有し得る。
【0045】
「引張強さ」は、以下の手順により測定される。
測定には「JIS B 7721:引張試験機・圧縮試験機−力計測系の校正方法および検証方法」に規定される等級1級以上の引張試験装置が使用される。図8は、引張試験に使用される試験片の平面図である。図8に示されるダンベル状試験片20が準備される。ダンベル状試験片20が引張試験装置のつかみ具に装着される。つかみ具には、ダンベル状試験片20の形状に適した物が使用される。ダンベル状試験片20は、その軸方向に引張応力が加わるように装着される。
2mm/minの速度で、ダンベル状試験片20が引っ張られる。引張りは、ダンベル状試験片20が破断するまで継続される。ダンベル状試験片20が破断するまでに現れる最大引張応力が測定される。
最大引張応力が平行部21の断面積で除されることにより、引張強さが算出される。平行部21の断面積は、9.616mm2(=π×3.5mm×3.5mm÷4)である。引張強さは少なくとも3回測定される。少なくとも3回の平均値が引張強さとして採用される。なおダンベル状試験片20の各部の寸法は次のとおりとされる。
【0046】
ダンベル状試験片20の全長(L0):36mm
平行部21の長さ(L1) :18±0.5mm
平行部21の直径(D1) :3.5±0.05mm
肩部23の半径(R) :10mm
つかみ部22の長さ(L2):4.0mm
つかみ部22の直径(D2):6.0mm
【0047】
引張強さは、第3工程の熱処理温度により調整され得る。引張強さは、たとえば、300MPa以上であってもよいし、350MPa以上であってもよいし、400MPa以上であってもよいし、450MPa以上であってもよいし、500MPa以上であってもよいし、550MPa以上であってもよいし、600MPa以上であってもよい。引張強さは、たとえば、700MPa以下であってもよいし、650MPa以下であってもよい。
【0048】
積層造形物は、70HV以上のビッカース硬さを有し得る。「ビッカース硬さ」は「JIS Z 2244:ビッカース硬さ試験−試験方法」に準拠した方法により測定される。ビッカース硬さも第3工程の熱処理温度により調整され得る。ビッカース硬さは、たとえば、80HV以上であってもよいし、90HV以上であってもよいし、100HV以上であってもよいし、120HV以上であってもよいし、140HV以上であってもよいし、160HV以上であってもよいし、190HV以上であってもよい。ビッカース硬さは、たとえば、250HV以下であってもよいし、200HV以下であってもよい。
【0049】
(導電率)
積層造形物は、50%IACS以上の導電率を有する。すなわち本実施形態の積層造形物は、黄銅(UNS番号C26000)の導電率を超える導電率を有し得る。「導電率」は、市販の渦流式導電率計によって測定される。導電率は、焼鈍標準軟銅(International Annealed Copper Standard,IACS)の導電率を基準として評価される。すなわち積層造形物の導電率は、IACSの導電率に対する百分率として表される。たとえば、積層造形物の導電率が50%IACSであることは、積層造形物の導電率がIACSの導電率の半分であることを意味する。導電率は少なくとも3回測定される。少なくとも3回の平均値が導電率として採用される。
【0050】
導電率は、第3工程の熱処理温度により調整され得る。積層造形物は、70%IACS以上の導電率を有してもよいし、80%IACS以上の導電率を有してもよいし、90%IACS以上の導電率を有してもよい。積層造形物は、たとえば、100%IACS以下の導電率を有してもよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例が説明される。ただし以下の例は、本開示の発明の範囲を限定するものではない。
【0052】
図1に示されるフローチャートに沿って、積層造形物が製造された。
まず、下記表1に示される化学成分を含有する銅合金粉末A1〜A5が準備された(S100)。これらの銅合金粉末は所定のアトマイズ法により製造された。比較として純銅粉末Xおよび銅合金粉末Yも準備された。純銅粉末Xは、市販純銅を原料とする粉末である。銅合金粉末Yは、市販銅合金(製品名「AMPCO940」)を原料とする粉末である。以下、これらの粉末が「金属粉末」と総称される場合がある。
【0053】
【表1】
【0054】
以下の仕様のレーザ積層造形装置が準備された。
レーザ :ファイバレーザ、最大出力400W
スポット径:0.05〜0.20mm
走査速度 :〜7000mm/s
積層ピッチ:0.02〜0.08mm
造形サイズ:250mm×250mm×280mm
【0055】
1.純銅粉末X
3次元形状データが作成された(S201)。(i)金属粉末を含む粉末層を形成すること(S202)、および(ii)粉末層において所定位置の金属粉末を固化させることにより、造形層を形成すること(S203)が順次繰り返され、造形層が積層された。こうして純銅粉末Xにより、No.X−1〜X−40に係る積層造形物が製造された(S200)。積層造形物は、直径14mm×高さ15mmの円柱である(特に断りのない限り、以下の積層造形物も同様である)。積層造形物の製造条件は、下記表2および3に示されている。前述の方法に従って、積層造形物の相対密度および導電率が測定された。結果は下記表2および3に示されている。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
上記表2および3に示されるように、純銅粉末Xにより製造された積層造形物では、製造条件が固定されていても、仕上がり物性が安定せず、大きくばらついている。表2および3の「相対密度」の欄において「測定不可」は、積層造形物が多くの空隙を含むために、信頼性の高い密度が測定できなかったことを示している。純銅は、100%IACSの導電率を有すると考えてよい。純銅粉末Xにより製造された積層造形物は、純銅に比し、導電率が大幅に低下している。純銅粉末Xによっては、実用的な機械部品を製造することが困難であると考えられる。
【0059】
2.銅合金粉末Y(市販銅合金の粉末)
下記表4に示される製造条件により、上記と同様にしてNo.Y−1〜Y−7に係る積層造形物が製造された。積層造形物は、窒素雰囲気中、下記表4の「熱処理温度」の欄に示される温度で3時間熱処理された(S300)。「熱処理温度」の欄に「なし」と記された積層造形物は熱処理されていない。前述の方法に従って、積層造形物の相対密度および導電率が測定された。結果は下記表4に示されている。
【0060】
【表4】
【0061】
上記表4に示されるように、銅合金粉末Y(市販銅合金の粉末)により製造された積層造形物の導電率は、市販銅合金の導電率(45.5%IACS程度)に比して大幅に低下していた。
【0062】
3.銅合金粉末A1(Cr含有量:0.22質量%)
下記表5に示される製造条件により、上記と同様にしてNo.A1−1〜A1−14に係る積層造形物が製造された。積層造形物は、窒素雰囲気中、下記表5の「熱処理温度」の欄に示される温度で3時間熱処理された。前述の方法に従って、相対密度、導電率および引張強さが測定された。引張強さは、別途製造されたダンベル状試験片20(図8を参照)において測定された(以下同様である)。結果は下記表5に示されている。
【0063】
【表5】
【0064】
上記表5に示されるように、銅合金粉末A1により製造された積層造形物では、仕上がり物性のばらつきが抑制されていた。これらの積層造形物は、機械部品として使用できる機械的強度および導電率を有すると考えられる。
【0065】
4.銅合金粉末A2(Cr含有量:0.51質量%)
下記表6に示される製造条件により、上記と同様にしてNo.A2−1〜A2−12に係る積層造形物が製造された。積層造形物は、窒素雰囲気中、下記表6の「熱処理温度」の欄に示される温度で3時間熱処理された。前述の方法に従って、相対密度、導電率および引張強さが測定された。結果は下記表6に示されている。
【0066】
【表6】
【0067】
上記表6に示されるように、銅合金粉末A2により製造された積層造形物では、仕上がり物性のばらつきが抑制されていた。これらの積層造形物は、機械部品として使用できる機械的強度および導電率を有すると考えられる。
【0068】
5.銅合金粉末A3(Cr含有量:0.94質量%)
下記表7に示される製造条件により、上記と同様にしてNo.A3−1〜A3−7に係る積層造形物が製造された。積層造形物は、窒素雰囲気中、下記表7の「熱処理温度」の欄に示される温度で3時間熱処理された。前述の方法に従って、相対密度、導電率および引張強さが測定された。結果は下記表7に示されている。
【0069】
【表7】
【0070】
上記表7に示されるように、銅合金粉末A3により製造された積層造形物では、仕上がり物性のばらつきが抑制されていた。これらの積層造形物は、機械部品として使用できる機械的強度および導電率を有すると考えられる。
【0071】
6.熱処理温度の検討
下記表8および9に示される製造条件により、積層造形物が製造された。前述の方法により積層造形物の相対密度が測定された。さらに積層造形物が、窒素雰囲気中、下記表8および9の「熱処理温度」の欄に示される温度で1時間熱処理された。熱処理後、積層造形物の引張強さ、ビッカース硬さおよび導電率が測定された。ビッカース硬さは前述の方法により測定された。結果は下記表8および9に示されている。
【0072】
【表8】
【0073】
【表9】
【0074】
上記表8および9に示されるように、銅合金により構成され、かつCr含有量が0.10質量%以上1.00質量%以下である積層造形物は、安定して97%以上100%以下の相対密度を有していた。さらに積層造形物が300℃以上の温度で熱処理されることにより、機械的強度および導電率が大幅に向上する傾向が認められる。
【0075】
以下、図9〜11により結果が説明される。図9〜11において、たとえば、凡例の「0.2Cr」はCr含有量が0.22質量%であることを示している。便宜上凡例では少数第2位が四捨五入されている。熱処理されていない積層造形物は、25℃で熱処理されたとみなして、グラフが作成されている。
【0076】
図9は、第3工程の熱処理温度と導電率との関係を示すグラフである。熱処理温度が300℃以上の範囲において、積層造形物の導電率が顕著に向上している。熱処理温度が700℃の場合も、導電率の向上効果が認められる。したがって熱処理温度の上限は700℃であってもよい。ただし、熱処理温度が700℃を超える範囲においても、導電率の向上効果は得られると予想される。
【0077】
図10は、第3工程の熱処理温度と引張強さとの関係を示すグラフである。図10に示されるように、熱処理温度が300℃以上の範囲において、積層造形物の引張強さが顕著に向上している。熱処理温度が400℃から450℃に変更された際の引張強さの向上幅は特に顕著である。引張強さは500℃付近でピークとなり、その後なだらかに減少している。
【0078】
図11は、第3工程の熱処理温度とビッカース硬さとの関係を示すグラフである。ビッカース硬さも、引張強さと同様の傾向を示している。
【0079】
図9〜11より、機械的強度と導電率とのバランスの観点から、熱処理温度は300℃以上700℃以下であってもよいし、400℃以上600℃以下であってもよいし、450℃以上550℃以下であってもよいし、450℃以上500℃以下であってもよいと考えられる。
【0080】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0081】
1 第1粉末層、2 第2粉末層、10 積層造形物、20 ダンベル状試験片、21 平行部、22 つかみ部、23 肩部、100 レーザ積層造形装置、101 ピストン、102 テーブル、103 レーザ出力部、p1 第1造形層、p2 第2造形層、pn 第n造形層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11