(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-71208(P2018-71208A)
(43)【公開日】2018年5月10日
(54)【発明の名称】耐震用スリット材および耐震用スリット材の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04G 9/10 20060101AFI20180406BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20180406BHJP
E04B 2/86 20060101ALI20180406BHJP
【FI】
E04G9/10 104D
E04H9/02 321H
E04B2/86 611S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-212866(P2016-212866)
(22)【出願日】2016年10月31日
(71)【出願人】
【識別番号】591182961
【氏名又は名称】日本仮設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000446
【氏名又は名称】岡部株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598069766
【氏名又は名称】那覇鋼材株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500063907
【氏名又は名称】松本鋼機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100095957
【弁理士】
【氏名又は名称】亀谷 美明
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(72)【発明者】
【氏名】菊原 歩
(72)【発明者】
【氏名】上原 進
(72)【発明者】
【氏名】藤尾 昌義
【テーマコード(参考)】
2E139
2E150
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139BD22
2E150AA00
2E150HF07
2E150LA24
(57)【要約】
【課題】コンクリートの打設中に生じた耐震用スリット材の施工不良を、その施工不良が発生した時点で認識できるようにする。
【解決手段】板状のスリット材本体2と、底板部3aの両側に溝部4,5が延在した支持部材3とから成り、スリット材本体2の両端部のうちの少なくとも一端部に、支持部材3の一方側の溝部4を嵌着させた耐震用スリット材1において、スリット材本体2または支持部材3に一部が固定されていると共に、該スリット材本体2または該支持部材3に固定されていない部分が、壁型枠間に該耐震用スリット材1が設置された際に壁型枠30を貫通して該壁型枠30の外方に突出する紐状体10が設けられている
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状のスリット材本体と、底板部の両側に溝部が延在した支持部材とから成り、
前記スリット材本体の両端部のうちの少なくとも一端部に、前記支持部材の一方側の溝部を嵌着させた耐震用スリット材であって、
前記スリット材本体または前記支持部材に一部が固定されていると共に、該スリット材本体または該支持部材に固定されていない部分が、壁型枠間に該耐震用スリット材が設置された際に前記壁型枠を貫通して該壁型枠の外方に突出する紐状体が設けられている、耐震用スリット材。
【請求項2】
前記紐状体は、コンクリートの打設後に前記スリット材本体または前記支持部材から取り外し可能に設けられている、請求項1に記載の耐震用スリット材。
【請求項3】
前記紐状体の、前記壁型枠の外方に突出する部分に、コンクリート打設中の前記耐震用スリット材の状態を判別可能な目印が付けられている、請求項1又は2に記載の耐震用スリット材。
【請求項4】
板状のスリット材本体の両端部のうちの少なくとも一端部に、底板部の両側に溝部が延在した支持部材の一方側の溝部を嵌着させると共に、該支持部材の他方側の溝部と壁型枠の内面に固定された目地材とを嵌合させた状態で、壁型枠間にコンクリートを打設することにより柱部と壁部との境界部に埋設される耐震用スリット材の施工方法であって、
前記スリット材本体または前記支持部材に紐状体の一部を固定し、
前記紐状体の前記スリット材本体または前記支持部材に固定されていない部分を、前記壁型枠に設けた貫通孔を介して該壁型枠の外方に突出させた状態でコンクリートを打設する、耐震用スリット材の施工方法。
【請求項5】
コンクリートの打設後に前記紐状体を前記スリット材本体または前記支持部材から取り外し可能となるように、前記紐状体を前記スリット材本体または前記支持部材に固定する、請求項4に記載の耐震用スリット材の施工方法。
【請求項6】
前記紐状体の、前記壁型枠の外方に突出する部分に、コンクリート打設中の前記耐震用スリット材の状態が判別可能となる目印を付ける、請求項4又は5に記載の耐震用スリット材の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート造の建造物に用いられる耐震用スリット材に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造の建造物には構造部材の耐震性能を確保することを目的として、柱や梁等の構造部材と、これに連設される腰壁や垂れ壁、袖壁等の非構造壁との境界部分に、層間変位に対する力学的な不連続部となる構造スリットが形成されている。通常、柱部と非構造壁部との境界部分に形成される構造スリットは“垂直スリット”と呼ばれる。
【0003】
垂直スリットを形成する際には、コンクリートに緩衝材を埋設して、その緩衝材の変形機能によって構造部材と非構造壁との間の力の伝達を遮断する技術が多く採用される。緩衝材は、適度な弾力性を有しており、入力荷重に対して変形する一方で、除荷時には元の形状に復元するような材料で形成されている。本明細書では、このような緩衝材やその緩衝材を支持する支持部材等から構成された、垂直スリット部材を“耐震用スリット材”と称する。
【0004】
特許文献1〜3では、緩衝材から成るスリット材本体と、そのスリット材本体の両端部に嵌着すると共に一対の壁型枠にそれぞれ固定された目地材と嵌合する支持部材とから構成された耐震用スリット材が開示されている。壁型枠間の領域は、耐震用スリット材により2つの領域に分割され、それら2つの領域に複数回交互にコンクリートが打設されることで柱部や壁部といった構造躯体が形成される。
【0005】
図1に示すように、耐震用スリット材51はコンクリートの打設時にコンクリートからの側圧を受ける。特に、コンクリートの1回あたりの打設高さが大きいと、耐震用スリット材51に大きな側圧が作用する。上述したように、耐震用スリット材51は、スリット材本体2、支持部材53および目地材20が互いに嵌合しているだけの構成であることから、耐震用スリット材51に大きな側圧が作用すると、打設中にスリット材本体2が支持部材53から外れたり、支持部材53が目地材20から外れたり、
図2のようにスリット材本体2が曲げ破断するといった施工不良が発生し得る。また目地材20が壁型枠30に固定した位置からずれるといった施工不良も発生し得る。
【0006】
このような施工不良の発生を回避するため、特許文献1〜3では、耐震用スリット材と、それに隣り合うセパレータとの間に、高さ方向に沿って所定の間隔で補強金具を架設することで耐震用スリット材の位置ずれを防止することが開示されている。しかし、補強金具を設けてもコンクリートの打設高さの許容値が大きくなるだけであって、その許容値以上の高さでコンクリートを打設すれば、依然として上述の施工不良は発生し得る。また、特許文献2では、スリット材本体の曲げ破断を防止するために、スリット材本体の表面にアルミ箔やポリエチレン等のフィルムを貼付する技術が開示されている。しかし、この場合であっても、コンクリートの打設高さが高くなり、耐震用スリット材が大きな側圧を受けると、依然としてスリット材本体の曲げ破断が発生し得る。即ち、耐震用スリット材を補強したとしても適切な施工を行わなければ、位置ずれ等の施工不良が発生し得る状況は変わらない。
【0007】
コンクリートの打設中に耐震用スリット材の位置が適正位置からずれた場合には、構造部材の耐震性能が設計通りに発揮されない。このため、コンクリートの打設中または打設後においては、耐震用スリット材の埋設位置を確認し、上述のような施工不良が発生している場合には適切な措置を施す必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−214611号公報
【特許文献2】特開2002−13311号公報
【特許文献3】特開2003−239565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の施工不良のうち、目地材や支持部材の位置ずれといった施工不良に関しては、コンクリートの打設後に壁型枠を脱型した際に確認することができる。通常は、壁型枠を脱型するとそれに固定されている目地材も一緒に取り外される。その際、構造躯体に形成された目地材の跡穴から本来目視できるはずの支持部材が目視できなければ、支持部材および支持部材に嵌合するスリット材本体も同様に適正位置からずれていることになるため、施工不良の発生を認識することができる。また、仮に、壁型枠を脱型したときに目地材が一緒に取り外されなかったとしても、構造躯体の表面上に本来目視できるはずの目地材が確認できなかったり、あるいは目地材を確認できたとしても、その目地材が適正位置からずれたりしているような場合は、目地材に嵌合する支持部材および支持部材に嵌合するスリット材本体も同様に適正位置からずれていることになるため、施工不良の発生を認識することができる。
【0010】
しかしながら、スリット材本体の曲げ破断やスリット材本体が支持部材から外れるといった施工不良に関しては、施工不良が発生しても壁型枠の脱型時に目地材や支持部材が適正位置に存在しているため、施工者がコンクリートの内部でスリット材本体がどのような状態で存在しているか確認することは困難である。例えば施工者がコンクリートの打設中に上から壁型枠間を覗き込んでも、耐震用スリット材の下部は既に打設されたコンクリートに隠れた状態にあり、その部分でスリット材本体の位置ずれが起きていても、施工者がその位置ずれを認識することは困難である。
【0011】
また、仮に壁型枠の脱型時にスリット材本体の施工不良が判明しても、既にコンクリートは硬化している状態にあることから、補修作業を行うためにはコンクリート躯体を斫ったり、カッターで切断したりする必要があり、その作業は大掛かりなものとなる。このため、補修作業に伴う工期の遅延も相伴って費用が大幅に嵩むといった問題が生じることになる。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、コンクリートの打設中に生じた耐震用スリット材の施工不良を、その施工不良が発生した時点で認識できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明は、板状のスリット材本体と、底板部の両側に溝部が延在した支持部材とから成り、前記スリット材本体の両端部のうちの少なくとも一端部に、前記支持部材の一方側の溝部を嵌着させた耐震用スリット材であって、前記スリット材本体または前記支持部材に一部が固定されていると共に、該スリット材本体または該支持部材に固定されていない部分が、壁型枠間に該耐震用スリット材が設置された際に前記壁型枠を貫通して該壁型枠の外方に突出する紐状体が設けられていることを特徴としている。
【0014】
また、別の観点による本発明は、板状のスリット材本体の両端部のうちの少なくとも一端部に、底板部の両側に溝部が延在した支持部材の一方側の溝部を嵌着させると共に、該支持部材の他方側の溝部と壁型枠の内面に固定された目地材とを嵌合させた状態で、壁型枠間にコンクリートを打設することにより柱部と壁部との境界部に埋設される耐震用スリット材の施工方法であって、前記スリット材本体または前記支持部材に紐状体の一部を固定し、前記紐状体の前記スリット材本体または前記支持部材に固定されていない部分を、前記壁型枠に設けた貫通孔を介して該壁型枠の外方に突出させた状態でコンクリートを打設することを特徴としている。
【0015】
なお、紐状体には、繊維を束ねて作られた紐の他、例えば紙紐、ゴム紐、ビニール紐等が含まれるが、本発明に係る“紐状体”は、これらの紐に限定されることはなく、耐震用スリット材の施工不良発生時において、スリット材本体の変形や位置ずれに追従するようなものであれば良い。例えば細長いワイヤーであっても良い。
【発明の効果】
【0016】
コンクリートの打設中に生じた耐震用スリット材の施工不良を、その施工不良が発生した時点で認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】コンクリート打設時の耐震用スリット材の状態を示す平面図である。
【
図2】コンクリート打設時に曲げ破断した耐震用スリット材を示す平面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る、壁型枠に固定された状態の耐震用スリット材を示す平面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るスリット材本体の概略形状を示す斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る紐状体が固定されたスリット材本体を示す平面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る耐震用スリット材を示す平面図である。
【
図7】施工不良発生時における本発明の実施形態に係る耐震用スリット材の状態を示す平面図である。
【
図8】施工不良発生時における本発明の実施形態に係る耐震用スリット材の状態を示す平面図である。
【
図9】本発明の別の実施形態に係る壁型枠に設置された耐震用スリット材を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0019】
図3に示すように本実施形態に係る耐震用スリット材1は、緩衝材から成る板状のスリット材本体2と、スリット材本体2に嵌合する2つの支持部材3と、スリット材本体2に固定された紐状体10を備えている。
【0020】
2つの支持部材3はそれぞれ同一の形状であって、
図4に示すように支持部材3は、一方向(耐震用スリット材1が
図3のように壁型枠30に固定された状態では高さ方向)に延在する底板部3aを有している。底板部3aの幅方向Wの両端部においては、それぞれの端部から底板部3aに対して略垂直に突出する第1の突出部3bが形成されている。この第1の突出部3bと底板部3aとにより、スリット材本体2の端部と支持部材3とを嵌着するための略コ字状に延在する第1の溝部4が形成される。また、底板部3aの幅方向Wの両端部においては、第1の突出部3bとは逆方向に突出する第2の突出部3cも形成されている。この第2の突出部3cと底板部3aとにより、目地材20と嵌合させるための略コ字状に延在する第2の溝部5が形成される。なお、本実施形態では各溝部の形状を略コ字状としたが、各溝部の形状はスリット材本体2や目地材20の形状に応じて適宜変更される。
【0021】
図4に示すように支持部材3の底板部3aには、第1の溝部4から第2の溝部5にかけて貫通する貫通孔6が形成されている。貫通孔6は、底板部3aの長手方向Lに沿って間隔をおいて3つ形成されている。
【0022】
紐状体10の一部は、
図5のようにスリット材本体2の外形に沿うようにしてスリット材本体2の表面に這わせられた状態で、接着剤などで固定されている。そして、紐状体10のスリット材本体2に固定されていない部分は、支持部材3の貫通孔6に通され、
図6のように紐状体10の端部が支持部材3の外方に突出した状態となる。また、紐状体10は、耐震用スリット材1が壁型枠間に設置された際に壁型枠30の外方に突出するだけの十分な長さl
0を有している。紐状体10は、3箇所の貫通孔形成部において同様の状態で取り付けられている。なお、スリット材本体2の材料は、入力荷重に対して変形し、かつ、除荷時に元の形状に復元するような適度な弾力性を有していれば特に限定されることはないが、例えば発泡ポリエチレン板やフェノール樹脂系の発泡板などが用いられる。
【0023】
本実施形態に係る耐震用スリット材1は以上のように構成されている。次に、耐震用スリット材1の施工方法について説明する。
【0024】
まず、
図3に示すように耐震用スリット材1を、壁型枠30に固定された目地材20と嵌合するようにして壁型枠間に設置する。このとき、一対の目地材20および一対の壁型枠30それぞれに形成された貫通孔(不図示)に紐状体10を通しながら耐震用スリット材1と目地材20とを嵌合させる。これにより、紐状体10の端部が壁型枠30の外方に突出した状態で耐震用スリット材1が設置される。
【0025】
続いて、耐震用スリット材1によって仕切られた壁型枠間の2つの領域に複数回交互にコンクリートを打設していく。このとき、耐震用スリット材1が受けるコンクリートからの側圧によって
図7のようにスリット材本体2が変形した場合には、スリット材本体2に固定された紐状体10がスリット材本体2の変形に追従し、紐状体10の壁型枠30の外方に突出している部分が壁型枠30の内方に引っ張られることになる。即ち、紐状体10の壁型枠30の外方に突出している部分の長さl
1は、コンクリートの打設前の長さl
0よりも短くなる。施工者は、このような紐状体10の長さの変化によって耐震用スリット材1の施工不良が発生した時点で、その施工不良を認識することができる。この段階ではコンクリートはまだ硬化していないことから、直ぐにコンクリートの打設作業を中断して施工不良に対する補修作業を開始すれば、打設後に補修作業を行う場合に比べ、補修作業の負荷が軽減することになる。これにより、補修作業に費やされる時間を短縮することができる。
【0026】
紐状体10の壁型枠30の外方に突出する部分の長さが短くなることなく、最後までコンクリートを打設することができれば、耐震用スリット材1が適正位置に埋設された状態で柱部や壁部といった構造躯体を形成することができる。
【0027】
以上のように、本実施形態に係る耐震用スリット材1を用い、紐状体10のスリット材本体2に固定されていない部分を壁型枠30の外方に突出させた状態でコンクリートを打設することによって、耐震用スリット材1の施工不良が発生した際に、その施工不良を直ぐに認識することができる。
【0028】
なお、スリット材本体2に固定された紐状体10は、コンクリートの打設後にそのまま残置させておくと、耐震用スリット材1としての耐火性能や防水性能が低下するおそれがある。このため、紐状体10は、コンクリートの打設後にスリット材本体2から取り外し可能に設けられていることが好ましい。例えば壁型枠30を脱型して目地材20が取り外される際に、紐状体10も目地材20に追従して外れるように構成されていても良い。
【0029】
また、
図8のように耐震用スリット材1の施工不良の程度が大きく、紐状体全体が壁型枠30の内方に引っ張られるような場合は、壁型枠30の外側から紐状体10の存在を目視できないために施工不良の発生を認識しやすいが、耐震用スリット材1の施工不良の程度が小さく、壁型枠30の外方に突出する紐状体10の長さが当初の長さに対してあまり変化していない場合には、施工者が紐状体10の長さの変化を見落とし、施工不良の発生を認識するタイミングが遅れることも懸念される。このため、紐状体10の壁型枠30の外方に突出する部分に、紐状体10の長さの変化がより認識しやすくなる色や模様などを付け、コンクリート打設中のスリット材本体2の状態を判別可能にすることが好ましい。例えば次のように目印を付けても良い。
【0030】
まず、壁型枠30の外方に突出する紐状体端部の一定区間を、スリット材本体2の変形に伴う施工不良発生に注意を要する区間として黄色に着色する。そして、その黄色区間よりも更に端部側の一定区間を、スリット材本体2の変形過大あるいは位置ずれにより施工不良が発生している区間として赤色に着色する。このように目印を付けることで、紐状体10が壁型枠30の内方に引っ張られ、紐状体10の黄色区間が壁型枠30に達した際には、その状態の紐状体10を見た施工者が耐震用スリット材1の施工不良が発生しかけていることを認識しやすくなる。また、紐状体10の赤色区間が壁型枠30に達した際には、その状態の紐状体10を見た施工者が耐震用スリット材1の施工不良が発生したことを認識しやすくなる。
【0031】
さらに紐状体10にそのような目印を付けていれば、例えば柱側にコンクリートを打設している場合において、紐状体10の黄色区間が壁型枠30に達した時点でコンクリートの打設を中断し、壁側のコンクリートの打設を開始するような施工を行うことも可能となる。このように壁側のコンクリートの打設を行うことで、耐震用スリット材1は柱側のコンクリートの打設時とは逆の方向から側圧を受けることになり、柱側のコンクリートの打設時に生じていたスリット材本体2の変形の程度を小さくすることが可能となる。その結果、耐震用スリット材1をより確実に適正位置にとどめた状態でコンクリートの打設作業を行うことができる。
【0032】
なお、本実施形態では、紐状体10の一部をスリット材本体2に固定したもので説明したが、紐状体10の一部を支持部材3に固定させても良い。この場合であっても、
図7から判るように、耐震用スリット材1(スリット材本体2)の変形によって壁型枠30の外方に突出する紐状体10の長さが短くなるため、コンクリート打設中における耐震用スリット材1の施工不良を認識することができる。また、本実施形態では、目地材20に形成された貫通孔(不図示)に紐状体10を通すようにしたが、例えば
図9のように紐状体10を目地材20の表面に這わせるようにしても良い。即ち、紐状体10の一部がスリット材本体2に固定されていると共に、スリット材本体2に固定されていない部分が壁型枠30の外方に突出するように構成されていれば、紐状体10の経路は特に限定されない。また、本実施形態では、同一の高さにある一対の壁型枠間においては1本の紐状体10を用いることとしたが、複数本の紐状体10を用いても良い。例えば、2本の紐状体の一端部をそれぞれスリット材本体2に固定し、そのうちの1本の紐状体の他端部を一方の壁型枠30の外方に突出させ、もう1本の紐状体の他端部を他方の壁型枠30の外方に突出させるようにしても良い。この場合であっても、壁型枠30の外方に突出する紐状体の長さの変化から耐震用スリット材1の施工不良を認識することができる。
【0033】
また、本実施形態では、支持部材3の底板部3aの長手方向L(耐震用スリット材1を壁型枠間に設置した状態における高さ方向)に沿って間隔をおいて3本の紐状体10を設けたが、支持部材3の底板部3aの長手方向Lに沿って設ける紐状体10の数はこれに限定されない。ただし、コンクリートの打設後に目地材20や支持部材3に異常がなく、スリット材本体2のみが部分的に曲げ破断したような場合において、紐状体10が曲げ破断部に対応する高さに設けられておらず、かつ、スリット材本体2の曲げ破断部以外の部分が適正位置に存在しているような場合には、壁型枠30の外方に突出する紐状体10の長さが変化しないようなこともあり得る。このため、より確実に施工不良の発生を認識できるようにするためには、支持部材3の底板部3aの長手方向Lに沿って間隔をおいて複数の紐状体10を設けることが好ましい。
【0034】
また、本実施形態では、2つの支持部材3をスリット材本体2の両端部に嵌着させた耐震用スリット材1を用いて壁型枠間に垂直スリットを構成したが、スリット材本体2の両端部のうち、一方の端部にのみ支持部材3を嵌着させた耐震用スリット材1を用いて壁型枠間の一部にのみ垂直スリット(いわゆる部分スリット)を構成しても良い。この場合であっても、壁型枠30の外方に突出する紐状体10の長さの変化から施工不良の発生を認識することができる。
【0035】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、耐震用スリット材の施工に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 耐震用スリット材
2 スリット材本体
3 支持部材
3a 底板部
3b 第1の突出部
3c 第2の突出部
4 第1の溝部
5 第2の溝部
6 貫通孔
10 紐状体
20 目地材
30 壁型枠
51 従来の耐震用スリット材
53 従来の支持部材
L 底板部の長手方向
l
0 壁型枠の外方に突出している紐状体端部の長さ(打設前)
l
1 壁型枠の外方に突出している紐状体端部の長さ(打設後)
W 底板部の幅方向