特開2018-71260(P2018-71260A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-71260(P2018-71260A)
(43)【公開日】2018年5月10日
(54)【発明の名称】自閉式引き戸の閉動作抑制構造
(51)【国際特許分類】
   E05F 5/00 20170101AFI20180406BHJP
   E05F 1/16 20060101ALI20180406BHJP
【FI】
   E05F5/00 D
   E05F1/16 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-214720(P2016-214720)
(22)【出願日】2016年11月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000119449
【氏名又は名称】磯川産業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000169329
【氏名又は名称】アトムリビンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002125
【氏名又は名称】特許業務法人アイザック国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大出 育生
(72)【発明者】
【氏名】飯島 弘久
(72)【発明者】
【氏名】岡本 光司
(72)【発明者】
【氏名】小西 一平
(57)【要約】      (修正有)
【課題】任意の開放位置で引き戸を一時停止させた後に自動閉鎖する機能を解除する自閉式引き戸の閉動作抑制機構を提供する。
【解決手段】第二の付勢手段は、リンク部材24の揺動軸24cをギヤ部材23の回転軸に向かって付勢し、引き戸の開方向への付勢が解除されるとき、ギヤ部材23が第一の付勢手段により閉方向に回転し、これに伴ってリンク部材24が、第二の付勢手段の付勢力に抗して一時停止または低速で揺動し、さらにリンク部材24が揺動して、リンクギヤ24bの揺動軸24cがリンク部材24の揺動軸24cと反対側に移動して、リンクギヤ24bが歯部24hから解放されて、自由に回転可能となり、さらに、第二の付勢手段のリンク部材24の揺動軸24cへの付勢力を抑制する抑制手段26を備えるように、自閉式引き戸の閉動作抑制構造を構成する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
戸枠または戸板の一方の上縁または下縁に設けられたガイドレールに沿ってガイド部材により長手方向に摺動可能に支持された引き戸の前記戸枠または戸板の他方の上端または下端に固定されるユニット部材と、前記ガイドレールに並行して設けられたラック部材と、を有し、
前記ユニット部材は、
ケース部材と、
前記ケース部材に回転可能に支持され、前記ラック部材に噛合するギヤ部材と、
前記ケース部材を閉方向に付勢する第一の付勢手段と、
前記ケース部材内で前記ギヤ部材と係合するリンク部材と、を有しており、
前記リンク部材は、前記ケース部材の壁面において前記ギヤ部材の回転軸に対して半径方向に延びる第一スロット内にその揺動軸が摺動可能に枢支されていると共に、前記ギヤ部材と噛合するリンクギヤと、前記リンク部材の揺動軸を前記ギヤ部材の回転軸に向かって付勢する第二の付勢手段と、を備え、
前記リンクギヤは、前記リンク部材内で前記揺動軸から前記ギヤ部材に向かって延びる第二スロット内に枢支されていて、前記リンク部材の揺動軸側に移動したとき、前記リンク部材に設けられた歯部に噛合し、前記リンク部材の揺動軸と反対側に移動したとき、前記歯部から解放され、
引き戸が開方向に付勢されるとき、前記ギヤ部材が前記ラック部材により開方向に回転することにより、前記リンクギヤが回転し、前記リンク部材がリンクギヤの回転方向に揺動し、
引き戸の開方向への付勢が解除されるとき、前記ギヤ部材が前記第一の付勢手段の付勢力に基づいて閉方向に回転して、これに伴って前記リンク部材が、前記第二の付勢手段により発生する付勢力に抗して一時停止または低速で揺動し、
前記リンクギヤは、引き戸の閉方向側への移動に伴ってさらに前記リンク部材が揺動すると、前記第二スロット内を前記リンク部材の揺動軸と反対側に移動することにより前記歯部から解放されて、自由に回転可能となり、
さらに、前記第二の付勢手段の前記リンク部材の揺動軸への付勢力を抑制する抑制手段を備えている、
ことを特徴とする自閉式引き戸の閉動作抑制構造。
【請求項2】
前記第二の付勢手段が、前記第一スロットに交わる方向に設けられ一端が前記リンクギアに当接し、揺動軸を軸として揺動可能な揺動部材と、前記揺動部材の他端に当接し、弾性部材により前記揺動部材を介して前記リンクギアを押圧する方向に付勢される押動部材と、を備え、
前記揺動部材が前記押動部材により押動されることで、前記揺動部材が前記リンク部材の揺動軸を前記ギヤ部材に向かって押圧し、
前記抑制手段は、前記押動部材を、前記揺動部材を押動しない退避位置で係止する、請求項1に記載の自閉式引き戸の閉動作抑制構造。
【請求項3】
前記押動部材が、前記ケースに固定された中空スリーブ内で軸方向に摺動可能に且つ軸の周りに回動可能に支持されていて、
前記抑制手段が、前記押動部材の軸方向から垂直に突出する係合ピンと、前記中空スリーブの側面に設けられた軸方向に延び且つ前記ガイドレール側の前記退避位置付近で側方に屈曲する係合溝部を有する係合スロットと、から構成されており、
前記押動部材が、前記退避位置で軸の周りに回動されることにより、前記押動部材の係合ピンが前記係合溝部に係合して、前記退避位置に係止されて、前記押動部材の前記揺動部材への付勢力が抑止される、請求項2に記載の自閉式引き戸の閉動作抑制構造。
【請求項4】
前記押動部材が、少なくともその前記ガイドレール側で軸方向に垂直な断面で異形に形成されており、
前記中空スリーブの前記ガイドレール側の端部に、前記押動部材の異形断面部に嵌合する解除レバーが被嵌されていて、
前記押動部材が軸方向に移動するときには、前記押動部材の異形断面部が、前記解除レバー内を軸方向に摺動すると共に、前記押動部材が前記退避位置に在るとき、前記解除レバーが回動されることにより、前記押動部材が軸の周りに回動されて、その係合ピンが前記係合スロットから前記係合溝部内に係合して、前記押動部材の前記ガイドレールから離反する方向への移動が抑止されることを特徴とする、請求項3に記載の自閉式引き戸の閉動作抑制構造。
【請求項5】
前記解除レバーが、前記ケースの表面から前記ガイドレール側に露出するように配置されていることを特徴とする、請求項4に記載の自閉式引き戸の閉動作抑制構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開口部に開閉可能に支持された引き戸を閉鎖位置に付勢する自閉式引き戸に関し、特に任意の開放位置での引き戸の一時停止または低速閉鎖動作の機能を備えた自閉式引き戸の閉動作抑制構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、住宅の各室間の出入り口等の開口部を開閉するために引き戸が使用されることがある。
このような引き戸は、例えば開口部の上縁に沿って設けられたガイドレールに沿って走行するガイド部材を含む閉動作抑制構造により支持される。
引き戸は、ガイドレールに沿ってガイド部材が走行して開口部の一側または両側に向かって移動することにより、開口部を開放し、または閉鎖する。
そして、引き戸の開閉時に、操作性を向上させるために、開放された引き戸を自動的に閉鎖位置まで移動させる自閉手段を備えた自閉式引き戸が知られている。
このような自閉式引き戸は、例えばゼンマイを利用したり、あるいはガイドレールを閉鎖位置側で低くなるように傾斜して設置したりすることにより、外部からエネルギーを供給することなく、引き戸の自閉を実現することができる。
【0003】
ところで、このような自閉式引き戸においては、引き戸を開放したとき、即座に引き戸が自閉手段により閉鎖方向に移動することになるため、例えば人が引き戸を開けて開口部を通過しようとするとき、開口部を完全に通過するまでの間、引き戸を手で抑えておく必要があり、特に例えば車椅子等を使用している場合には、操作性の点で問題があった。
【0004】
これに対して、引き戸を全開位置で停止させるようにした引き戸も既に知られている。
このような一時停止機能を備えた引き戸によれば、引き戸を全開することにより、引き戸が全開位置にロックされるので、人が開口部を通過する際に、引き戸を抑えておく必要がなく、安心してゆっくりと開口部を通過することが可能になる。
しかしながら、引き戸は全開位置でのみロックされるので、開放時に引き戸をロックさせたい場合には、常に引き戸を全開位置まで開放しなければならず、操作が煩雑になると共に、閉鎖時には、引き戸を一旦閉鎖方向に操作しなければ、自閉手段による引き戸の閉鎖が開始されない、という問題があった。
【0005】
また、特許文献1には、戸板の上端に固定されるユニット部材が、ケース部材と、ケース部材に回転可能に支持され、戸枠の上端に配置されるラック部材に噛合するギヤ部材と、ケース部材を閉方向に付勢する第一の付勢手段と、ケース部材内で第二の付勢手段によって前記ギヤ部材と係合するリンク部材と、を有し、リンク部材が、その揺動軸がギヤ部材の回転軸に対して半径方向に摺動可能に枢支され、ギヤ部材と噛合するリンクギヤを備え、リンクギヤは、リンク部材内で半径方向に延びるスロット内に枢支され、リンク部材の揺動軸側でリンク部材に設けられた歯部に噛合し、リンク部材の揺動軸と反対側で歯部から解放され、第二の付勢手段が、リンク部材の揺動軸をギヤ部材の回転軸側に付勢し、引き戸の開方向への付勢が解除されるとき、ギヤ部材が第一の付勢手段により閉方向に回転し、これに伴ってリンク部材が、第二の付勢手段の付勢力に抗して一時停止または低速で揺動し、さらにリンク部材が揺動して、リンクギヤの揺動軸がリンク部材の揺動軸と反対側に移動してリンクギヤが歯部から解放されて、リンクギヤが自由に回転するように構成された自閉式引き戸の閉動作抑制構造が開示されている。
このような構成の自閉式引き戸の閉動作抑制構造によれば、任意の開放位置で所定時間の間だけ引き戸を一時停止させ、所定時間経過後に自動的に引き戸を閉鎖することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016ー070026号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、自閉式引き戸の閉動作抑制構造においては、引き戸を開放する際に、途中停止または全開した引き戸は、必ずその停止位置が所定時間の間だけ維持されることになる。従って、例えば任意の開放位置での引き戸の一時停止が不要な場合、あるいは開放後に即座に閉鎖したい場合であっても、引き戸が一時停止することになってしまい、この機能を解除することが困難であった。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、簡単な構成により、任意の開放位置で所定時間の間だけ引き戸を一時停止させ、また引き戸を自動的に閉鎖する機能を解除することができるようにした自閉式引き戸の閉動作抑制機構を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、本発明の構成によれば、戸枠または戸板の一方の上縁または下縁に設けられたガイドレールに沿ってガイド部材により長手方向に摺動可能に支持された引き戸の戸枠または戸板の他方の上端または下端に固定されるユニット部材と、ガイドレールに並行して設けられたラック部材と、を有し、ユニット部材は、ケース部材と、ケース部材に回転可能に支持され、ラック部材に噛合するギヤ部材と、ケース部材を閉方向に付勢する第一の付勢手段と、ケース部材内でギヤ部材と係合するリンク部材と、を有しており、リンク部材は、ケース部材の壁面においてギヤ部材の回転軸に対して半径方向に延びる第一スロット内にその揺動軸が摺動可能に枢支されていると共に、その先端にギヤ部材と噛合するリンクギヤと、リンク部材の揺動軸をギヤ部材の回転軸に向かって付勢する第二の付勢手段と、を備え、リンクギヤは、リンク部材内で揺動軸からギヤ部材に向かって延びる第二スロット内に枢支されていて、リンク部材の揺動軸側に移動したとき、リンク部材に設けられた歯部に噛合し、リンク部材の揺動軸と反対側に移動したとき、歯部から解放され、 引き戸が開方向に付勢されるとき、ギヤ部材がラック部材により開方向に回転することにより、リンクギヤが回転し、リンク部材がリンクギヤの回転方向に揺動し、引き戸の開方向への付勢が解除されるとき、ギヤ部材が第一の付勢手段の付勢力に基づいて閉方向に回転して、これに伴ってリンク部材が、第二の付勢手段により発生する付勢力に抗して一時停止または低速で揺動し、リンクギヤは、引き戸の閉方向側への移動に伴ってさらにリンク部材が揺動すると、第二スロット内をリンク部材の揺動軸と反対側に移動することにより歯部から解放されて、自由に回転可能となり、さらに、第二の付勢手段のリンク部材の揺動軸への付勢力を抑制する抑制手段を備えていることを特徴とする自閉式引き戸の閉動作抑制構造により、達成される。
【0010】
上記構成によれば、引き戸の戸板は、戸枠に対して、その上部または下部において、ガイド部材がガイドレールに係合することにより、開閉可能に設けられており、引き戸は、第一の付勢手段により、ユニット部材が閉方向に付勢されることによって、自動的に閉鎖位置に移動して停止し、開口部が自動的に閉鎖される。
ここで、引き戸を開放しようと、人が引き戸を開方向に付勢すると、ギヤ部材がガイドレールに並行して設けられたラック部材により開方向に回転する。ギヤ部材の回転により、リンクギヤがギヤ部材と噛合状態を維持しながら、リンク部材が揺動軸の周りに揺動する。そして、リンク部材が所定角度以上揺動すると、リンクギヤがリンク部材のスロットを先端側に移動し歯部から外れて自由に回転し得ることになり、引き戸が第一の付勢手段の付勢力に抗して、開方向に移動する。
【0011】
その後、任意の開放位置で、引き戸の開方向への付勢が解除されると、ギヤ部材が第一の付勢手段の付勢力に基づいて閉方向に回転する。これにより、ギヤ部材が開放時とは逆方向に回転し、これに伴って、リンク部材が揺動して、リンクギヤがリンク部材の歯部と噛合する。このとき、リンクギヤは、第二の付勢手段によってギヤ部材に対して押圧されることになり、この押圧力によって、リンクギヤ及びギヤ部材の回転が抑制されるので、引き戸が閉方向に低速移動する。このときの引き戸の移動速度は非常に小さく設定されることにより、見かけ上、引き戸が一時停止しているように視認され得る。
そして、リンク部材が揺動して、反対側に所定角度以上揺動すると、リンクギヤの揺動軸がリンク部材のスロットを先端側に移動し、リンクギヤが歯部から外れて自由に回転し得ることになる。従って、上述した押圧力が消滅することによって、引き戸が閉方向に高速で移動する。
【0012】
このようにして、引き戸が開放されるとき、引き戸が任意の開放位置で、開放側への付勢を解除されると、引き戸は、第一の付勢手段による付勢力が、リンク部材を介してギヤ部材に付与される第二の付勢手段による押圧力によって抑制されることになり、引き戸の閉方向への移動速度が低速となり、見かけ上一時停止しているように視認される。
その後、リンク部材が所定角度以上に揺動して、リンクギヤが歯部から外れることにより、リンクギヤが自由に回転し得ることになるので、上述した抵抗力が消滅し、引き戸は第一の付勢手段の付勢力によって閉方向に高速で移動する。
これにより、人が引き戸を開けて開口部を通過する際に、引き戸を全開せずに任意の開放位置まで引き戸を開けると、引き戸はその任意の開放位置で実質的に一時停止し、その後第一の付勢手段により自動的に閉鎖する。従って、引き戸を任意の開放位置まで開放した後、実質的に所定時間の間だけ引き戸が任意の開放位置で一時停止しているので、引き戸を任意の開放位置に手で抑えておく必要がなく、容易に開口部を通過することができると共に、その後引き戸が自動的に閉鎖位置まで移動するので、引き戸の開閉操作が容易に行なわれ得ることとなる。
【0013】
ここで、抑制手段が作動すると、第二の付勢手段のリンク部材の揺動軸への付勢力が抑制され、引き戸が任意の開放位置まで開放されたとき、第一の付勢手段による付勢力が、リンク部材を介してギヤ部材に付与される第二の付勢手段による押圧力によって抑制されなくなる。これにより、任意の開放位置における見かけ上の一時停止がなくなり、引き戸は任意の開放位置まで開放されたとき、即時に第一の付勢力によって閉鎖位置まで自動閉鎖することになる。
【0014】
本発明による自閉式引き戸の閉動作抑制構造は、好ましくは、第二の付勢手段が、第一スロットに交わる方向に設けられ一端がリンクギアに当接し、揺動軸を軸として揺動可能な揺動部材と、揺動部材の他端に当接し、弾性部材により揺動部材を介してリンクギアを押圧する方向に付勢される押動部材と、を備え、揺動部材が押動部材により押動されることで、揺動部材がリンク部材の揺動軸をギヤ部材に向かって押圧し、抑制手段は、押動部材を、揺動部材を押動しない退避位置で係止することを特徴とする。
本発明による自閉式引き戸の閉動作抑制構造は、好ましくは、押動部材が、ケースに固定された中空スリーブ内で軸方向に摺動可能に且つ軸の周りに回動可能に支持されていて、抑制手段が、押動部材の軸方向から垂直に突出する係合ピンと、中空スリーブの側面に設けられた軸方向に延び且つガイドレール側の退避位置付近で側方に屈曲する係合溝部を有する係合スロットと、から構成されており、押動部材が、退避位置で軸の周りに回動されることにより、押動部材の係合ピンが係合溝部に係合して、退避位置に係止されて、押動部材の揺動部材への付勢力が抑止されることを特徴とする。
この構成によれば、押動部材が揺動部材を介してリンク部材の揺動軸をギヤ部材の回転軸に向かって付勢すると共に、押動部材に設けられた係合ピンがケース側の係合スロット内を摺動することにより、押動部材がケース内で軸方向に摺動可能であり、押動部材が退避位置で軸の周りに回動されることにより、係合ピンが係合溝部内に進入して、係合スロットの退避位置付近に係止され、押動部材の揺動部材への付勢力が抑止され、引き戸の任意の開放位置での一時停止機能が解除される。
【0015】
本発明による自閉式引き戸の閉動作抑制構造は、好ましくは、押動部材が、少なくともそのガイドレール側で軸方向に垂直な断面で異形に形成されており、中空スリーブのガイドレール側の端部に、押動部材の異形断面部に嵌合する解除レバーが被嵌されていて、押動部材が軸方向に移動するときには、押動部材の異形断面部が、解除レバー内を軸方向に摺動すると共に、押動部材が退避位置に在るとき、解除レバーが回動されることにより、押動部材が軸の周りに回動されて、その係合ピンが係合スロットから係合溝部内に係合して、押動部材のガイドレールから離反する方向への移動が抑止されることを特徴とする。
本発明による自閉式引き戸の閉動作抑制構造は、好ましくは、解除レバーがケースの表面からガイドレール側に露出するように配置されていることを特徴とする。
この構成によれば、解除レバーに対して押動部材が軸方向に摺動可能に且つ回転しないように係合するので、ケースの表面から露出している解除レバーは、押動部材と共に軸方向に移動せずに、その軸方向位置が保持される。従って、常にケースの表面から露出している解除レバーを操作することにより、容易に押動部材を軸の周りに回動させることが可能である。
【0016】
このようにして、本発明によれば、簡単な構成により、任意の開放位置で所定時間の間だけ引き戸を一時停止させ、その後に引き戸を自動的に閉鎖する機能を解除することができるようにした自閉式引き戸の閉動作抑制機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明による自閉式引き戸の閉動作抑制構造の一実施形態を組み込んだ自閉式引き戸の全体構成を示す概略正面図である。
図2図1の自閉式引き戸に組み込まれた自閉式引き戸の閉動作抑制構造の構成を示す部分拡大正面図である。
図3図2の自閉式引き戸の閉動作抑制構造の平面図である。
図4図2の自閉式引き戸の閉動作抑制構造を示す左側面図である。
図5図2の自閉式引き戸の閉動作抑制構造を示す斜視図である。
図6図2の自閉式引き戸の閉動作抑制構造を示す断面図である。
図7図2の自閉式引き戸の閉動作抑制構造における内部構成を示す分解斜視図である。
図8図2の自閉式引き戸の閉動作抑制構造におけるギヤ部材を拡大して示す分解斜視図である。
図9図2の自閉式引き戸の閉動作抑制構造における付勢機構の付勢部の構成を拡大して示す分解斜視図である。
図10図2の自閉式引き戸の閉動作抑制構造における付勢機構の揺動部材の分解斜視図である。
図11図2の自閉式引き戸の閉動作抑制構造における引き戸開放時の(A)断面図及び(B)ケース部材を省略した正面図である。
図12図2の自閉式引き戸の閉動作抑制構造における引き戸閉鎖途中の(A)断面図及び(B)ケース部材を省略した正面図である。
図13図2の自閉式引き戸の閉動作抑制構造における引き戸閉鎖時の(A)断面図及び(B)ケース部材を省略した正面図である。
図14図2の自閉式引き戸の閉動作抑制構造における引き戸の自動閉鎖機能を解除した状態の(A)断面図及び(B)ケース部材を省略した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明による自閉式引き戸の閉動作抑制構造の一実施形態を自閉式引き戸に組み込んだ状態を示している。
図1において、自閉式引き戸の閉動作抑制構造10は、建物等に設けられた開口部の戸枠11の上縁に設けられたガイドレール12に沿って長手方向(X方向)に移動可能に支持された引き戸(戸板)13の上縁に取り付けられたユニット部材20により、構成されている。
ここで、引き戸13は、その上縁両端付近に取り付けられたガイドローラ等のガイド部材14,14がガイドレール12に沿って走行することにより、ガイドレール12に沿って長手方向に移動する。
【0019】
ガイドレール12は、図2及び図4に示すように、断面が中空の四角形として例えば長尺のアルミニウム材から構成されており、Z方向下方が開放していると共に、図4に示すように、長手方向に垂直な横方向(Y方向)の両側の下縁が内側に折り返されることにより、その先端が上方を向いたレール部12aを形成している。
さらに、ガイドレール12は、図4に示すように、前側(図3にて右側)のレール部12aの下面に沿って長手方向に延びるラック部材15を備えている。
【0020】
ラック部材15は、図1に示すガイドレール12のほぼ全長に亘って配置されており、その下縁には所定ピッチのラック歯(図示せず)が形成されている。
【0021】
ガイド部材14は、公知の構成であって、引き戸13の上縁両端付近に固定される本体と、本体上端から上方に延びる支持部に回転可能に取り付けられる一対の車輪と、から構成されている。
各対の車輪の回転軸は、ガイドレール12の両側に延びるように配置されていて、各車輪は、それぞれガイドレール12内で対応するレール部12aに乗ることにより、レール部12a上を転動する。
【0022】
ユニット部材20は、図1図3及び図4に示すように、引き戸13の上縁に設けられた凹陥部13a内に取り付けられている。
ユニット部材20は、図2図5に示すように、取付部材21,ケース部材22,ギヤ部材23,リンク部材24,第二の付勢手段としての付勢機構25及び抑制手段26を有している。
【0023】
取付部材21は、引き戸13の上端に設けられた凹陥部13aの一側(図2にて左側)に配置されており、図5図7に示すように、ブラケットとして構成されている。
取付部材21は、上端から一側(図2及び図3にて左側)に突出した張出部21aが、取付ネジ21bにより引き戸13に対して固定される。
ここで、張出部21aは、引き戸13の凹陥部13aの一側に設けられた段部13b内に収容される。
【0024】
また、取付部材21は、その他側に突出した支持部21cを備えており、この支持部21cには、Y方向に貫通した軸孔21dが形成されている。
さらに、ブラケット21aは、その他側の端面の下方領域にて上下に並んで他側の方向(引き戸開方向X2)に向かって開放した円筒状の嵌合孔21e,21fを備えている。
【0025】
ケース部材22は、図5図7に示すように、底部及び長手方向両側に位置する両側壁を有すると共に、図6に示すように、引き戸開方向X2の端部が、端壁部材22aにより閉じられており、両側壁により挟まれる空間内に、ギヤ部材23及びリンク部材24を受容する。
ここで、ケース部材22は、その引き戸閉方向X1の端部上方に設けられたY方向に延びる回転軸22bが取付部材21に設けられた軸孔21dに挿通されることにより、取付部材21に対して回転軸22bの周りに揺動可能に支持されている。
そして、ケース部材22は、その引き戸閉方向X1の端部に取り付けられた付勢機構25(後述)のマガジン25aと取付部材21との間に介装された圧縮バネ27と、取付部材21の嵌合孔21e,21fに嵌挿された二つのダンパー28,29により、引き戸開方向X2に向かって付勢されている。これにより、ケース部材22が回転軸22bの周りに揺動して、ケース部材22全体がZ方向上方に向かって付勢される。
【0026】
ここで、付勢機構25のマガジン25aは、図6に詳細に示すように、引き戸閉方向X1側に開口した中空部25bを有している。
また、圧縮バネ27は、ダンパー29に被嵌されると共に、その一端(図6にて左端)が取付部材21の端面(図6にて右側面)に当接し、その他端(図6にて右端)が中空部25bの引き戸開方向X2の端壁に当接している。
ダンパー28,29は、公知の構成であって、一端(図6にて左端)がそれぞれ取付部材21の嵌合孔21e,21f内に挿入されると共に、他端(図6にて右端)がそれぞれ付勢機構25のマガジン25aの中空部25bの内面に設けられた凸部25c,25dに当接している。
なお、付勢機構25のマガジン25aは、ケース部材22の引き戸閉方向X1側の所定箇所に配置された状態で、Y方向に延びる三本のマガジン軸25e,25f,25gが挿通されることにより、ケース部材22に対して固定されている。
【0027】
ギヤ部材23は、図6及び図7に示すように、ケース部材22の長手方向中央付近の上部において、Y方向に延びる軸体23aの周りに回転可能に支持されており、Y方向一側(図7にて手前側)に第一の歯部23bを、また第一の歯部23bに隣接して第二の歯部23cを有している。ここで、第二の歯部23cは、第一の歯部23bより小径に且つ固定ネジ23nにより第一の歯部23bに一体化されて構成されている。
そして、第一の歯部23bは、図4に示すように、ガイドレール12に取り付けられたラック部材15のラック歯15aと噛合しており、ユニット部材20の長手方向Xの移動に伴って、ギヤ部材23が回転する。
【0028】
ギヤ部材23は、ケース部材22が圧縮バネ27の作用によってZ方向上方に付勢されていることにより、ガイドレール12のラック部材15に対して押圧される。
これにより、ギヤ部材23の第一の歯部23bは、ラック部材15に歪みや組み付け誤差等による位置ずれがあったとしても、常に確実にラック部材15のラック歯15aと噛合することになる。
なお、ギヤ部材23に対して下方への負荷が加わると、ギヤ部材23及びケース部材22がZ方向下方に向かって押動され、圧縮バネ27の張力に抗してケース部材22が回転軸22bの周りに揺動するが、その際、ダンパー28,29の作用により、ケース部材22の揺動が減速され、ケース部材22の急激な揺動が抑制されるようになっている。
【0029】
さらに、ギヤ部材23には、一体にゼンマイケース23dが取り付けられている。ゼンマイケース23d内には、ゼンマイ23eが内蔵されており、引き戸が開方向X2(図2参照)に移動されて、ラック部材15に沿ってギヤ部材23が回転移動することにより、ギヤ部材23の回転によりゼンマイ23eが巻き上げられ、このゼンマイ23eの復元力によってギヤ部材23が逆回転されることにより、引き戸13がガイドレール12に沿って自動的に引き戸閉方向X1(図2参照)に移動する。すなわち、このゼンマイ23eが第一の付勢手段に相当する。
ここで、ゼンマイケース23dは、外形が軸体23aを中心とする偏平な中空円筒状に形成されている。
【0030】
なお、ギヤ部材23の軸体23aは、ギヤ部材23の中心に保持され、Y方向両側からフランジ付きナット23fの軸部23pが嵌挿されることにより固定されていると共に、ケース部材22の両側壁に対して、それぞれ軸受部材23gを介して軸受されている。
ここで、フランジ付きナット23fは、その軸部23pが、正六角形の断面形状を有しており、軸体23aの中心の対応する正六角形の軸孔23hに挿通されることにより、回転方向に関して固定されている。
さらに、フランジ付きナット23fの一方(図7にて奥側)は、環状の係止部材23iを備えており、その周面に沿って等角度間隔に複数個、図示の場合六個の切欠き23jが形成されている。
これに対して、付勢機構25のマガジン25aに設けられたY方向に延びるマガジン軸25gの周りに揺動可能に、ラッチ部材30が枢支されており、このラッチ部材30の先端に設けられた係合部30aが、切欠き23jに係合する。
さらに、ラッチ部材30は、その揺動軸25gの上側に設けられた凸部30bが、マガジン25aに設けられたラッチバネ30cにより引き戸開方向(X2方向)に付勢されるバネトップ30dを介して、時計回りに付勢されているので、ラッチ部材30の係合部30aは、切欠き23jに確実に係合する。
ここで、各切欠き23jは、それぞれ図7に示すように、一側が鋭角に形成されると共に、他側が鈍角に形成されている。これにより、ギヤ部材23の軸体23aは、係合レバー30の係合時には、時計周りには回転し得るが、反時計周りには回転し得ない。
【0031】
また、ギヤ部材23は、その第一の歯部23bと反対側に、全周に亘ってフランジ部23kを備えている。
フランジ部23kは、第二の歯部23cより大径の円板状に形成されており、第一の歯部23bのラック歯15aからの脱落、そして後述するリンク部材24のリンクギヤの第二の歯部23cからの脱落を防止する。
【0032】
さらに、ギヤ部材23は、ロータリーダンパー23mを備えている。
ロータリーダンパー23mは、ケース部材22に螺着されると共に、同軸に且つ一体化されたギヤ部23nを備えている。
このギヤ部23nは、第一の歯部23bと噛合しており、ギヤ部材23が回転する際に、その回転がロータリーダンパー23mにより制動される。
【0033】
リンク部材24は、リンク本体24a及びリンクギヤ24bから構成されている。
リンク本体24aは、その両面からY方向に突出した揺動軸24cが、ギヤ部材23の下方においてケース部材22の両側壁に設けられたスロット22c内で摺動可能に支持されていると共に、揺動軸24cから上側に延びており、その長手方向の先端にリンクギヤ24bを備えている。
ここで、揺動軸24cは、その一端(図7にて手前側の端部)が拡大されていると共に、他端付近の周囲に溝24dを備えている。これにより、この溝24dにEリング24eが被嵌されることにより、揺動軸24cは、ケース部材22のスロット22cに対して脱落しないように保持されている。
さらに、揺動軸24cには、ローラ24fが被嵌されており、揺動軸24cの周面は、このローラ24fを介して後述する付勢手段25の揺動部材31に接触している。これにより、付勢手段の揺動部材31により押圧されながら、揺動軸24cが円滑にスロット22c内を摺動し得るようになっている。
また、スロット22cは、ギヤ部材23の軸体23aの回転中心に向かって半径方向に延びている。
【0034】
リンクギヤ24bは、その回転軸24gが、リンク本体24aの先端領域に設けられた扇形のスロット24m内に支持されている。またリンクギヤ24bは、リンク本体24aの揺動軸24cの周りに一体的に形成された歯部24hと噛合可能である。
スロット24mは、リンク本体24aの先端に向かって広がるようにテーパ状に形成されている。
これにより、リンク部材24の揺動に伴って、リンクギヤ24bの回転軸24gがリンク部材24の回転中心(24c)とギヤ部材23の回転中心(23a)を結ぶ線上の位置(中間位置)からずれると、リンク部材24の揺動によるリンクギヤ24bの回転中心の軌跡がギヤ部材23の第二の歯部23cの歯先円から徐々に離れることになり、これに伴って、リンクギヤ24bは、ギヤ部材23の第二の歯部23cと噛合しながら、その回転軸23gがリンク本体24aのスロット23m内を先端側に移動して、リンク本体24aの歯部24hから外れることになる。その際、回転軸23gは、リンクギヤ34bの回転方向に従って、スロット23mの何れかの側面に沿って移動することになる。
【0035】
さらに、リンク部材24は、そのリンク本体24aから両側に張り出した突起部24i及び24jを有すると共に、一側(図6にて左側)の突起部24jの外側面24kが回転軸24cを中心とする円筒状面として形成されると共に、その下縁付近が徐々に小径となるように形成されている。
リンク部材24が揺動軸24cの周りに揺動する際に、これらの突起部24iまたは24jがケース部材22の底面に当接することにより、リンク部材24の揺動が両回転方向に関して規制される。
即ち、図6において、引き戸開放時のギヤ部材23の反時計回りの回転に伴って、リンク部材24が時計回りに揺動するとき、突起部24iがケース部材22の底面に当接して、リンク部材24の時計回りの揺動が規制される。
また、引き戸閉鎖時のギヤ部材23の時計周りに回転に伴って、リンク部材24が反時計回りに揺動するとき、突起部24jがケース部材22の底面に当接して、リンク部材24の反時計回りの揺動が規制される。
さらに、リンク部材24が反時計周りに揺動すると、スロット22c内で揺動軸24cが下方に変位することにより、揺動軸24cは、第一のアーム部32bの先端32dを押下して、第一のアーム部32bを時計周りに回動させる。これに伴って、揺動部材32の第二のアーム部32cは、第一のアーム部32bと連動して、時計周りに回動する。これにより、第二のアーム部32cの固定軸32eが押動部材31bを押し上げる。
このとき、リンク部材24の外側面24kが第二のアーム部32cの端面32gと当接することにより、第二のアーム部32cの反時計回りの回動を阻止する。従って、第二のアーム部32cは、反時計周りに回動できず、押動部材31bは上方の退避位置に保持され、圧縮バネ31bは圧縮された状態のままとなる。
【0036】
付勢機構25(第二の付勢手段)は、リンク本体24aの揺動軸24cに対して、引き戸閉方向X1側に設けられており、揺動軸24cを上方に向かって付勢する。
付勢機構25は、図6に詳細に示すように、ケース部材22の一側(図6にて左側)に取り付けられたマガジン25a内に一体的に組み込まれた付勢部31と、揺動部材32と、から構成されている。
即ち、付勢部31は、図9に示すように、マガジン25aを上下方向に延びる円筒状の中空スリーブ31a内で、軸方向に摺動可能に且つ回動可能に支持された押動部材31bと、この押動部材31bを下方に付勢する圧縮バネ31cと、から構成されている。
押動部材31bは、図7に示すように、その断面が異形(図9においては、円筒形状から手前側及び奥側を平坦にカットした形状)に形成されており、その中間高さ付近にて手前側に突出する係合ピン31dが植設されている。
これに対して、マガジン25aには、中空スリーブ31aから手前側に貫通すると共に上下に延びる係合スロット31eが設けられており、この係合スロット31eは、その上端から一側(図9にて右側)に屈曲した係合溝部31fを有している。
これにより、押動部材31bが上端の退避位置に在るとき、押動部材31bが軸の周りに回動されると、係合ピン31dが係合スロット31eの上端から係合溝部31f内に進入することにより、押動部材31bの上下動が規制される。
【0037】
さらに、付勢部31においては、マガジン25aの中空スリーブ31aの上端に、解除レバー31gが設けられている。
この解除レバー31gは、中空スリーブ31a内に嵌入する嵌合部31hと、嵌合部31hの上端に取り付けられた操作部31iと、から構成されている。
嵌合部31hは、その外周面が中空スリーブ31a内で回動可能であるように、中空円筒状に形成されていると共に、その中空部が、押動部材31bの異形断面を受容し得るように異形に形成されている。これにより、嵌合部31hに対して、押動部材31bは、軸方向に摺動可能に係合すると共に、軸の周りには一体に回動する。
【0038】
操作部31iは、嵌合部31hの上端面より大径に、そして一側(図6にて左側)に突出して形成されている。
ここで、操作部31iは、図6に示すように、マガジン25a及びケース部材22の上端より上側に突出して配置されている。これにより、外部から操作部31iを操作して、嵌合部31hを軸の周りに回動させることができる。
これらの係合ピン31d,係合スロット31e及び係合溝部31fそして解除レバー31gが、抑制手段26を構成している。
【0039】
揺動部材32は、図7に示すように、ケース部材22の下方で引き戸開閉方向(X方向)に延びるように配置されており、その中間付近で、揺動軸32aの周りに揺動可能に枢支されている。
揺動部材32は、揺動軸32aから引き戸開方向(X2方向)側に位置する第一のアーム部32bと、引き戸閉方向(X1方向)側に位置する第二のアーム部32cと、から構成されている。
【0040】
第一のアーム部32bは、その先端32dがリンク部材24の揺動軸24cの下方にまで延びている。これにより、揺動部材32全体が付勢部31の押動部材31bにより図6にて反時計周りに揺動されることで、第一のアーム部32bの先端32dがリンク部材24の揺動軸24cを上方に向かって付勢する。
また、第二のアーム部32cは、その先端に取り付けられたY方向に延びる固定軸32eが付勢部31の押動部材31bの下方に位置している。これにより、押動部材31bの下方移動によって、第二のアーム部32cの固定軸32eが下方に押動され、揺動部材32全体が反時計周りに揺動される。
【0041】
ここで、第一のアーム部32bと第二のアーム部32cは、図10に示すように、別体に構成されており、揺動軸32aにより互いに揺動可能に支持されている。
そして、第一のアーム部32bと第二のアーム部32cとの間には、リンクバネ32fが介装されており、リンクバネ32fの張力によって、第二のアーム部32cは、第一のアーム部32bを反時計回りに押動する。リンクバネ32fの張力は、圧縮バネ31cに比して非常に小さく設定されている。
また、第二のアーム部32cの引き戸開方向(X2方向)の端面32gは、前述したリンク部材24の外側面24kに対応して凹状に形成されている。
これにより、リンク部材24が反時計回りに回動すると、その外側面24kが第二のアーム部32cの端面32gに当接して、端面32gを引き戸閉方向(X1方向)に押動する。このとき、外側面24kの下縁が下方に向かって徐々に小径となるように形成されていることにより、外側面24kは円滑に端面32gを押動することになる。
従って、第二のアーム部32cは、時計周りに揺動すると共に、その固定軸32eが押動部材31bを圧縮バネ31cの張力に抗して上方に向かって押し上げる。
その際、第一のアーム部32bは、リンクバネ32fの張力により、第二のアーム部32cに対して相対的に反時計周りに揺動して、リンク部材24の揺動軸24cを上方に押動することになる。
【0042】
本発明による自閉式引き戸の閉動作抑制構造10は、以上のように構成されており、以下のように動作する。
【0043】
図11に示すように引き戸13が開放された状態で、操作者が引き戸13の開方向への移動を停止して手を離すと、ゼンマイケース23d内のゼンマイ23eの復元力によって、ギヤ部材23が時計回りに回転する。ギヤ部材23が時計周りに回転し始めると、ギヤ部材23の第二の歯部23cと噛合するリンクギヤ24bが反時計周りに回転する。
このとき、リンクギヤ24bの回転軸24gがスロット24m内を引き戸閉方向(X1方向)かつ揺動軸24cに近づく方向に移動してリンクギヤ24bが歯部24hと噛合し、リンク部材24もリンクギヤ24bの回転に連動して反時計周りに揺動する。
【0044】
これにより、リンク本体24aはリンクギヤ24bと一体的に揺動軸24cの周りに反時計回りに揺動し、揺動軸24cがスロット22cに沿って下方に移動する。従って、揺動軸24cは、揺動部材32の第一のアーム部32bを下方に向かって押圧し、付勢部31の圧縮バネ31cの張力に抗して、揺動部材32を時計周りに揺動させる。これにより、付勢部31の押動部材31bは、圧縮バネ31cの張力に抗して、揺動部材32の第二のアーム部32cにより上方に押し上げられる。ここで、押動部材31bは、その係合ピン31dがマガジン25aの係合スロット31e内を案内されることにより、軸方向上方に円滑に上昇する。
この動作中、揺動軸24cの下方移動は、付勢機構25の圧縮バネ31cの付勢力に抗って行われるため、リンク部材24そしてギヤ部材23の回転が減速される。これにより、引き戸13の閉動作も低速となり、見かけ上、一時停止しているように視認される。
【0045】
上述のように、引き戸13の閉動作中、リンク部材24が図12に示す中間位置(リンクギヤ24bの回転軸24gが揺動軸24cと軸体23aの中心を結ぶ線上に位置する)に達するまでの間は、リンクバネ32fは圧縮バネ31cよりも張力が弱いため、作用しない。そのため、第二のアーム部32cは、第一のアーム部32bと一体的に動作し、付勢機構25の圧縮バネ31cの張力によって、リンク部材24の揺動が抑制され、引き戸13の閉動作が抑制される。
また、上述の中間位置において、リンク本体24aの突起部24jの外側面24kが揺動部材32の第二のアーム部32cの端面32gに当接し始め、第二のアーム部32cの端面32gを引き戸閉方向(X1方向)に押圧する。このとき、押動部材31bは上昇し切って、係合ピン31dがマガジン25aの係合スロット31e内の上端に達する。
【0046】
リンク部材24がさらに反時計回りに揺動して、図12に示す中間位置を越えた状態において、リンク本体24aの突起部24jの外側面24kが揺動部材32の第二のアーム部32cの端面32gに当接し続ける。そして、この外側面24kがカム面として作用することにより、第二のアーム部32cの端面32gを引き戸閉方向(X1方向)に押圧し続けるから、押動部材31bの係合ピン31dはマガジン25aの係合スロット31e内の上端に位置し続ける。
【0047】
一方、リンク本体24aはリンクギヤ24bと一体的に揺動軸24cの周りに反時計回りに揺動する。
このとき、第一のアーム部32bは、リンクバネ32fの張力により第二のアーム部32cに対して相対的に反時計周りに揺動して、第二のアーム部32cから離反する。これにより、第一のアーム部32bの先端32dは、リンク部材24の揺動軸24cに下方から当接し、ギヤ部材23に向かって押動する。
また、リンクギヤ24bの回転軸24gは、スロット24m内を引き戸閉方向(X1方向)に向かって移動する。すると、リンクギヤ24bがリンク部材24の歯部24hから外れて、自由に回転可能となるから、引き戸13はゼンマイ23eの復元力により円滑に閉鎖する。
さらにリンク部材24が反時計回りに揺動すると、図13に示すように、リンク本体24aの突出部24jがケース部材22の底面に当接することにより、その回転が抑止される。
【0048】
図13に示す状態から引き戸13を開放する動作を行うと、リンクギヤ24bが時計回りに回転しつつ、リンクギヤ24bの回転軸24gがスロット24m内を引き戸開方向(X2方向)かつ揺動軸24cに近づく方向に移動してリンクギヤ24bが歯部24hと噛合し、リンク部材24もリンクギヤ24bの回転に連動して時計周りに揺動する。
【0049】
これにより、リンク本体24aはリンクギヤ24bと一体的に揺動軸24cの周りに時計回りに揺動し、揺動軸24cがスロット22cに沿って下方に移動する。このとき、上述の中間位置に至るまでは、外側面24kがカム面として作用することにより、第二のアーム部32cの端面32gを引き戸閉方向(X1方向)に押圧し続けている。そのため、押動部材31bは上昇し切っている状態であるから、揺動軸24cが下方へ移動する際に、揺動軸24cは弱いバネであるリンクバネ32fの張力に抗って第一のアーム部32bを押し下げるのみであり、第二のアーム部32cに対しては応力を及ぼさないから、押動部材31bを上昇させるという動作を伴わない。すなわち、揺動軸24cの下方移動は、付勢機構25の圧縮バネ31cの付勢力に抗わずに行われるため、リンク部材24そしてギヤ部材23の回転を減速させることがない。これにより、引き戸13の開動作はスムーズに行われる。
図12に示す中間位置から引き戸13をさらに開放する場合、ギヤ部材23が反時計回りに回転し、ゼンマイケース23d内のゼンマイ23eが巻き上げられると共に、リンク部材24のリンクギヤ24bが時計回りに回転しつつリンク部材24のリンク本体24aも時計周りに回転する。
これに伴って、リンク本体24aの突起部24jの外側面24kは揺動部材32の第二のアーム部32cの端面32gから外れる。そのため、第二のアーム部32cの反時計回りの揺動が可能となる。ここで、リンクバネ32fの付勢力は圧縮バネ31cの付勢力に比して非常に小さいので、第一のアーム部32bは、第二のアーム部32cと一体的に動作することになる。
【0050】
さらに、ギヤ部材23が反時計回りに回転すると、リンクギヤ24bと一体的にリンク部材24もさらに時計周りに回転する。そこで、リンク部材24の揺動軸24cは、圧縮バネ31cの張力により、揺動部材32を介してスロット22c内でギヤ部材23に向かって上方に押し上げられる。
このとき、図11に示すように、リンク本体24aの突出部24iがケース部材22の底面に当接することにより、リンク本体24aの回転が抑止される。
リンクギヤ24bの回転軸24gはリンク本体24aに設けられたスロット24m内で先端方向かつスロット24mの拡大する側面に沿って引き戸開方向(X2方向)(図11において右側)に移動し、リンクギヤ24bがリンク部材24の歯部24hから外れて、自由に回転可能となる。よって引き戸13はスムーズに開放される。
【0051】
このようにして、引き戸13が開放される際には、ギヤ部材23は付勢機構25の圧縮バネ31cの付勢力によっては減速されず、自由に開放され得る。
そして、引き戸13が開放停止されたとき、即ち引き戸13が任意の開放位置から引き戸閉鎖方向(X1方向)に移動しはじめるとき、リンク部材24の揺動に伴う揺動軸24cの下方移動が、付勢機構25の付勢力によって減速されることにより、リンクギヤ24b及びギヤ部材23も低速で回転するので、引き戸13は、見かけ上、開放停止位置で一時停止しているように観察される。
従って、操作者は、引き戸13を全開せずに、引き戸13を任意の途中開放位置まで開放して、引き戸13から手を離しても、引き戸13は、その途中の開放位置で見かけ上一時停止するので、操作者は、引き戸13を押さえることなく、両手を自由に使用しながら引き戸13が設置された開口部をゆっくりと通過することができる。
【0052】
その後、所定時間が経過して、リンク部材24が時計周りに揺動して中間位置を越えると、リンク部材24の外側面24kが第二のアーム部32cの端面32gから離反して、揺動部材32全体が反時計周りに揺動して、付勢機構25の付勢力が揺動軸24cの上方移動を加速することになる。
そして、リンクギヤ24bが歯部24hから外れると、ギヤ部材23は、ゼンマイ23eの復元力により高速で回転するので、引き戸13は、自動的に即ち操作者が何ら操作をすることなく、ガイドレール12に沿って高速で閉方向に移動する。
【0053】
ここで、戸枠11が設置される開口部の建付精度によっては、引き戸13を戸枠11に取り付けた場合に、引き戸13の上縁と戸枠11の下縁との間の間隙あるいはラック部材15のラック歯15aの取付位置が変動することがある。
前述したように、ユニット部材20を構成するケース部材22が、取付部材21に対して揺動可能に支持されることにより、ケース部材22が上下方向に調整可能である。
これにより、ケース部材22が圧縮バネ27の張力に基づいて上方に付勢されているので、ギヤ部材23の第一の歯部23bが常に確実にラック部材15のラック歯15aと噛合する。
【0054】
次に、抑制手段26の動作について説明する。
図13に示す引き戸閉鎖状態において、押動部材31bは上方の退避位置に位置しており、操作者が、図2に示すように引き戸13の上端面に露出している解除レバー31gの操作部31iを操作して、図3の平面図にて反時計周りに揺動させると、解除レバー31g全体が軸の周りに回動する。これに伴って、解除レバー31gに係合する押動部材31bも軸の周りに回動するので、押動部材31bに植設された係合ピン31dは、係合スロット31eから係合溝部31f内に進入する。
押動部材31bが圧縮バネ31cにより下方に付勢されていることから、係合ピン31dは、係合溝部31f内で、その下縁に当接することにより、下方移動が規制されることになる。
【0055】
ここで、係合ピン31dは、係合溝部31fの下縁に対して下方に向かって付勢されていることから、その摩擦力により、係合溝部31f内から係合スロット31eに抜けてしまうことはなく、係合ピン31dの係合溝部31fに対する係合が保持される。
従って、引き戸13が引き戸開方向(X2方向)に移動しても、圧縮バネ31cの張力によって押動部材31bが下方に移動することがなく、揺動部材32が反時計回りに揺動しないので、ギヤ部材23の回転が付勢機構25により制動されなくなる。よって、引き戸13の任意開放位置での見かけ上の一時停止が解除されることになる。
一方、操作者が、解除レバー31gの操作部31iを操作して、図3の平面図にて時計周りに揺動させると、押動部材31bに植設された係合ピン31dは、係合溝部31f内から係合スロット31eに復帰し、揺動部材32が反時計回りに揺動可能となるので、ギヤ部材23の回転が付勢機構25により制動されなくなる。よって、引き戸13の任意開放位置での見かけ上の一時停止機能が開始されることになる。
【0056】
本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施することができる。
例えば、上述した実施形態においては、付勢機構25は、付勢力を発生させる付勢手段として、圧縮バネ31cを備えているが、これに限らず、圧縮バネ31cの代わりにダンパーを備えていてもよい。
この場合、ダンパーは、リンク部材24の揺動軸24cのスロット22b内での下方移動を抑制し、リンクギヤ24b及びギヤ部材23の回転を抑制する。
【0057】
上述した実施形態においては、ケース部材22は、取付部材21に対して揺動可能に支持されているが、これに限らず、全体が並進可能に支持されていて、上方に向かって付勢されていてもよい。
【0058】
上述した実施形態においては、引き戸13は、ギヤ部材23に組み込まれたゼンマイの復元力によって、閉方向に付勢されているが、これに限らず、引き戸13は、他の付勢手段によって閉方向に付勢されていてもよい。
【0059】
また、上述した実施形態においては、戸枠11の上縁にガイドレール及びラック部材が取り付けられて、引き戸13の上端にガイド部材及びユニット部材が取り付けられているが、これに限らず、戸枠11の下縁にガイドレール及びラック部材が取り付けられて、引き戸13の下端にガイド部材及びユニット部材が取り付けられていてもよい。
【0060】
さらに、上述した実施形態においては、戸枠側にガイドレール及びラック部材が取り付けられ、引き戸側にガイド部材及びユニット部材が取り付けられているが、これに限らず、引き戸側にガイドレール及びラック部材が取り付けられ、戸枠側にガイド部材及びユニット部材が取り付けられていてもよい。
【0061】
以上述べたように、本発明によれば、簡単な構成により、任意の開放位置で所定時間の間だけ引き戸を一時停止させ、その後に引き戸を自動的に閉鎖する機能を解除することができるようにした、極めて優れた自閉式引き戸の閉動作抑制構造が提供される。
【符号の説明】
【0062】
10 自閉式引き戸の閉動作抑制構造
11 戸枠
12 ガイドレール
13 引き戸(戸板)
14 ガイド部材
15 ラック部材
15a ラック歯
20 ユニット部材
21 取付部材
21a 張出部
22 ケース部材
22a 端壁部材
22b 回転軸
23 ギヤ部材
23a 軸体
23b 第一の歯部
23c 第二の歯部
24 リンク部材
24a リンク本体
24b リンクギヤ
24c 揺動軸
24g 回転軸
24h 歯部
24i,24j 突起部
24k 外側面
24m スロット
25 付勢機構
25a ケース
26 抑制手段
27 圧縮バネ
28,29 ダンパー
30 ラッチ部材
31 付勢部
31a 中空スリーブ
31b 押動部材
31c 付勢バネ
31d 係合ピン
31e 係合スロット
31f 係合溝部
31g 解除レバー
32 揺動部材
32a 揺動軸
32b 第一のアーム部
32c 第二のアーム部
32d 先端
32e 固定軸
32f リンクバネ
32g 端面
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