(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-71305(P2018-71305A)
(43)【公開日】2018年5月10日
(54)【発明の名称】コンクリート製柱と鉄骨梁との接合方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/30 20060101AFI20180406BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20180406BHJP
【FI】
E04B1/30 K
E04B1/58 505P
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-216206(P2016-216206)
(22)【出願日】2016年11月4日
(11)【特許番号】特許第6171070号(P6171070)
(45)【特許公報発行日】2017年7月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000170772
【氏名又は名称】黒沢建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】特許業務法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒沢 亮平
(72)【発明者】
【氏名】百武 茂
(72)【発明者】
【氏名】高木 仁之
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA04
2E125AA14
2E125AB01
2E125AB12
2E125AC01
2E125AC15
2E125AG43
2E125CA04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】大地震時(極稀に起きる地震)でも、前記鉄骨梁母材部が降伏しないようにし、柱梁接合部と共に全体をほぼ無損傷状態に保つことを可能にする柱と梁の接合方法を提供する。
【解決手段】コンクリート製柱1と鉄骨梁とからなる建物構造において、梁端部に定着プレート12と定着具10とが設けられ、または梁端部にエンドプレート18と梁端部から所要の間隔をおいて定着プレート12と定着具10とが設けられ、もしくは梁端部にエンドプレート18と所要厚みの硬化した充填材19と定着具とが設けられた鉄骨梁の端部は、柱梁接合部との間に構造目地部が設けられると共に、柱に設けたアゴに載せてあり、柱梁接合部に水平に貫通した複数段のPC鋼材が配置され、PC鋼材に緊張導入力を与えて定着プレートに緊張定着することによって、柱と梁とが一体的に接合されると共に、鉄骨梁の上端に所定厚さのコンクリート製スラブが設けられる柱と梁の接合方法。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製柱と鉄骨梁とからなる建物構造において、柱梁接合部は予め前記柱に一体的に形成され、梁端部に定着プレートと定着具とが設けられ、または梁端部にエンドプレートと梁端部から所要の間隔をおいて定着プレートと定着具とが設けられ、もしくは梁端部にエンドプレートと所要厚みの硬化した充填材と定着具とが設けられた鉄骨梁の端部は、前記柱梁接合部との間に構造目地部が設けられると共に、前記柱に設けたアゴに載せてあり、前記柱梁接合部に水平に貫通した複数段のPC鋼材が配置され、該PC鋼材に緊張導入力を与えて前記定着具を緊張定着することによって、前記柱と梁とが一体的に接合されると共に、鉄骨梁の上端に所定厚さのコンクリート製スラブが設けられる柱と梁の接合方法であって、
前記構造目地部において、中地震時(稀に起きる地震)までは目地離間を許容しないとし、大地震時(極稀に起きる地震)では、目地離間を許容して前記鉄骨梁が降伏しないように設定した目地離間制御条件を満たすことを特徴とする柱と梁の接合方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記梁をH形鋼とし、H形鋼の幅、フランジ板厚、降伏強度及び該梁の下端から前記スラブの天端までの距離をそれぞれB、t、σy及びdsとし、
前記梁端部の断面において、PC鋼材の緊張導入力の合力をPとし、該合力の作用する位置から前記スラブの天端までの距離dpcとし、鉄骨梁の引張側のフランジの引張降伏荷重をTsとした場合に、
前記の設定した目地離間制御条件としては、前記合力Pとの関係は、
Ts=B×t×σy
上記算式を満たすようにしてあることを特徴とする柱と梁の接合方法。
【請求項3】
請求項1または2において、PC鋼材はアンボンド方式で形成されることを特徴とする柱と梁の接合方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかにおいて、前記複数段のPC鋼材の緊張導入力は、それぞれ異なるものとすることを特徴とする柱と梁の接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製柱と鉄骨造梁(鉄骨梁)とからなる建物構造において、コンクリート製柱と鉄骨梁の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種のコンクリート製柱と鉄骨梁の接合方法については、本発明者が提案したものは公知技術として開示されている。
その公知に係る従来技術としては、建物構造におけるPC柱と鉄骨梁とを接合する方法であって、柱梁接合部は現場打ちコンクリートまたはPC柱と一体的に形成され、端部に定着プレートが設けられ、または端部にエンドプレートと端部から所要の間隔をおいて定着プレートが設けられた鉄骨梁の端部はPC柱に設けたアゴに載せてセットし、前記柱梁接合部に水平に貫通したPC鋼材で前記定着プレートを緊張定着して鉄骨梁を取り付け、前記PC柱内に配設されたPC鋼材は前記柱梁接合部に上下に貫通したPC鋼材で上下層のPC柱のPC鋼材を連結して緊張定着し、これらのPC柱と鉄骨梁とが前記柱梁接合部に貫通させた前記PC鋼材により一体接合する柱と梁の接合方法である(特許文献1)。
【0003】
この柱と梁の接合方法によれば、梁を鉄骨梁として軽量化し、PC柱にアゴを一体的に設けたことにより、大スパン(柱間隔)の広々とした空間が得られると共に、高層又は超高層建物にも適用できる合理的な構造にし、柱梁接合部をPC柱と一体的に形成し、アゴ付のPC柱と鉄骨梁とからなる構造としPC鋼材で緊張定着して接合したので、巨大地震時でも、鉄骨梁がPC柱から外れて落下することなく安定して接合状態を維持するのである。さらに、大スパンであっても施工性良く且つ合理的で安全な接合構造が得られるばかりでなく、その施工においてもアゴに鉄骨梁の端部を載置するだけで、支保工などを使用せずに自立状態で鉄骨梁を架設でき、施工の手間とコストを大幅に削減することができる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5521105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、PC柱内のPC鋼材と鉄骨梁を取り付けるためのPC鋼材に付与される緊張導入力は、それぞれPC鋼材の降伏荷重の40〜60%とし、これらのPC鋼材の伸びに適切な余裕を持たせてあることにより、巨大地震による繰り返しの揺れを受けても、PC鋼材が降伏せずに弾性領域で変形し、PC柱や鉄骨梁の端部が損傷しないので、地震後、PC鋼材の弾性復元力により、柱梁等構造物全体が元の位置に戻され、使用上有害な残留変形が残らないのである、と記載している。
【0006】
しかしながら、現行の設計法としては、大地震時(極稀に起きる地震)では、フレーム構造の各階の梁端部に降伏ヒンジを形成するメカニズムを基本として、いわゆる梁降伏先行型として設計することになっているため、上記の特許文献1で本発明者が提案している柱や鉄骨梁の端部が損傷しないように構成することはできなくなるという問題が生じる。
【0007】
そこで、本発明は、大地震時(極稀に起きる地震)でも、前記鉄骨梁母材部が降伏しないようにし、柱梁接合部と共に全体をほぼ無損傷状態に保つことを可能にする柱と梁の接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための具体的手段として、本発明に係る柱と梁の接合方法は、コンクリート製柱と鉄骨梁とからなる建物構造において、柱梁接合部は予め前記柱に一体的に形成され、梁端部に定着プレートと定着具とが設けられ、または梁端部にエンドプレートと梁端部から所要の間隔をおいて定着プレートと定着具とが設けられ、もしくは梁端部にエンドプレートと所要厚みの硬化した充填材と定着具とが設けられた鉄骨梁の端部は、前記柱梁接合部との間に構造目地部が設けられると共に、前記柱に設けたアゴに載せてあり、前記柱梁接合部に水平に貫通した複数段のPC鋼材が配置され、該PC鋼材に緊張導入力を与えて前記定着具を緊張定着することによって、前記柱と梁とが一体的に接合されると共に、鉄骨梁の上端に所定厚さのコンクリート製スラブが設けられる柱と梁の接合方法であって、前記構造目地部において、中地震時(稀に起きる地震)までは目地離間を許容しないとし、大地震時(極稀に起きる地震)では、目地離間を許容して前記鉄骨梁が降伏しないように設定した目地離間制御条件を満たすことを特徴とする柱と梁の接合方法を提供するものである。
【0009】
この発明において、前記梁をH形鋼とし、H形鋼の幅、フランジ板厚、降伏強度及び該梁の下端から前記スラブの天端までの距離をそれぞれB、t、σy及びdsとし、前記梁端部の断面において、PC鋼材の緊張導入力の合力をPとし、該合力の作用する位置から前記スラブの天端までの距離dpcとし、鉄骨梁の引張側のフランジの引張降伏荷重をTsとした場合に、前記の設定した目地離間制御条件としては、前記合力Pとの関係は、
Ts=B×t×σy
上記算式を満たすようにしてあること;PC鋼材はアンボンド方式で形成されること;及び前記複数段のPC鋼材の緊張導入力は、それぞれ異なるものとすること、を付加的な要件として含むものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る接合方法によれば、以下に示す通りの効果を奏する。
梁端部の構造目地部において、中地震時(稀に起きる地震)までは目地離間することなく、柱と梁が剛接合状態になり柱梁とも弾性範囲内にあって耐震性能を発揮する。大地震時(極稀に起きる地震)では、目地が弾性状態で離間し梁部材が回転変形することによって鉄骨梁の応力負担を軽減し、梁が降伏せず無損傷状態に保つことが可能となる。それによって地震後、PC鋼材の弾性復元力により、離間した目地が閉じ、柱梁等構造物全体が元の位置に戻され、残留変形が残らないのである。
要するに、本発明の接合方法によって、構造目地部(柱梁PC圧着接合部)の弾性離間による柱梁無損傷型構造物を提供することが実現できたのである。
【0011】
また、本発明の接合方法による柱梁接合構造の最大耐力は、現行の終局強度設計法による設計値より大きく上回ることが実験で確認されたのである。そして、本発明の接合方法を採用して構築された構造物については、耐力も変形対応能力も十分に発揮させることができ、震度7程度の巨大地震にも十分対応可能になるのである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る接合方法による柱梁接合構造を示した要部の横断平面図である。
【
図2】同実施の形態に係る接合方法による柱梁接合構造を示した要部の縦断側面図である。
【
図3】本発明の第2の実施の形態に係る接合方法による柱梁接合構造を示した要部の横断平面図である。
【
図4】同実施の形態に係る接合方法による柱梁接合構造を示した要部の縦断側面図である。
【
図5】本発明の第3の実施の形態に係る接合方法による柱梁接合構造を示した要部の横断平面図である。
【
図6】同実施の形態に係る接合方法による柱梁接合構造を示した要部の縦断側面図である。
【
図7】本発明の第4の実施の形態に係る接合方法による柱梁接合構造を示した要部の縦断側面図である。
【
図8】本発明の複数の実施の形態を代表して前記第3の実施の形態に係る接合方法による柱梁接合構造において、目地離間制御条件を説明するための説明図であって、(a)は側面から見た図、(b)は90度回転して異なる方向から見た図である。
【
図9】同実施の形態に係る接合方法による柱梁接合構造において、(a)は目地離間する場合と、(b)目地離間しない場合との鉄骨梁の曲げ変形のイメージを示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の柱梁の接合方法について図示の複数の実施の形態に基づいて詳しく説明する。
まず、
図1、
図2に示した第1の実施の形態について説明する。
図1、
図2において、建造物の柱をプレキャストコンクリート製柱1(以下PC柱という)とし、該PC柱1の内部には複数のPC鋼材2をシース3aを介して上下方向に配設し、鉄骨梁4を取付ける側に柱面からアゴ5を突出させた状態で一体的に形成すると共に、該アゴ5から上方位置部分を柱梁接合部(パネルゾーン)Aとして予め柱と一体的に形成する。該柱梁接合部Aには前記鉄骨梁4を連結するために複数段のシース3bを水平方向に設けてある。なお、前記上下方向に設けたシース3aは、PC柱1の下端部から柱梁接合部Aの上端部まで貫通して設けられる。また、鉄骨梁4の上端には、コンクリート製スラブ7と接合するために、予めスッタトボルト8と共に鉄筋継手9を設けて置く。
【0014】
図示は省略するが、PC柱1は、建物構造の基礎上にPC鋼材2の下端部を連結して所要間隔をもって1層(1つの階)1節として建てられ、PC鋼材2とする各PC鋼棒2aは各節目毎にPC柱1の上部で支圧板とナットなどからなる定着具10で締め付けることによって緊張定着され、順次節目の上部で連結されたPC柱1が立設状態に安定して維持される。
【0015】
この場合のPC柱1の連結については、1節目の柱に上に2節目の柱が建てられ、1節目の柱内に配設されて1節目の上部で定着具10によって緊張定着されたPC鋼棒2aの上端部と2節目のPC鋼棒2aの下端部とをカプラー11で連結して、1節目と同じように2節目柱の上部で定着具10で締め付けることによって立設状態に緊張定着される。以後、同じ手順で繰り返して最上階までPC柱1を建て込んでいく。なお、PC鋼棒2aを緊張定着した後に、PC鋼棒2aとシース3aとの間にグラウトを充填して防錆処理を兼ねたボンドタイプとする。
【0016】
鉄骨梁4は、その端部には定着プレート12を、例えば、溶接手段により一体的に接合させて設け、該定着プレート12を鉄骨梁4とさらに強固に接合させて一体化するために、補強材13を定着プレート12と鉄骨梁4との間に溶接手段により連結させて設けることが望ましい。この鉄骨梁4も、1層毎に建て込まれたPC柱1の上部に架設される。
【0017】
前記したように建てたPC柱1のアゴ5に鉄骨梁4の端部を緩衝材14を介して載せ、柱梁接合部Aとの間における所要の隙間の構造目地部15を設け、各水平シース3bにそれぞれにPC鋼材2、例えば、PC鋼棒2bを挿通してセットする。前記構造目地部15には、例えば、目地モルタルを充填し、該目地モルタルが硬化した後に、PC鋼棒2bを前記と同様の支圧板とナットなどからなる定着具10で締め付けることによって緊張定着し、定着プレート12と柱梁接合部Aとの間に構造目地部15を挟んでPC柱1と鉄骨梁4とを一体化する。なお、緩衝材14とアゴ5との間に滑り材16を設けることが望ましい。さらに、PC鋼棒2bを緊張定着した後に、PC鋼棒2bとシース3bとの間にグラウトを充填してボンドタイプにすると共に、防錆処理も兼ねるのである。
【0018】
その後に、予めスラブ位置に設けられた鉄筋継手9にトップ筋17を繋ぎ、鉄骨梁4の上端に所要厚さで形成されるコンクリート製スラブ7は、現場打ちコンクリートを打設して形成し、スタットボルト8とトップ筋17とによって鉄骨梁4及びPC柱1と一体化される。
【0019】
次に、
図3と
図4に示した本発明に係る第2の実施の形態について説明する。なお、前記第1の実施の形態と実質的に同一部分には同一符号を付して、詳しい説明は重複するので省略する。
この実施の形態においては、鉄骨梁4の端部に溶接手段によりエンドプレート18を一体的に設けると共に、鉄骨梁4の端部から内側に所要の間隔をおいて定着プレート12が設けられ、該定着プレート12と前記エンドプレート18との間に補強材13を配設し、該補強材13は、エンドプレート18と定着プレート12と鉄骨梁4との間で溶接手段により一体的に取り付けられたものである。なお、その他の構成部分については、前記第1の実施の形態と実質的に同じである。
【0020】
このように鉄骨梁4の端部に二重プレート(12,18)を設けた構造とすることによって、前記第1の実施の形態で示した一重のプレート(定着プレート)構造より鉄骨梁端部の曲げ剛性を大幅に向上させると共に、梁から柱への曲げ応力を円滑に伝達させることが確保でき、スパンが長いものや積載荷重が大きな場合には好適である。つまり、第2の実施の形態においては、両側の鉄骨梁4の各エンドプレート18と柱梁接合部Aとの間に構造目地部15を挟んで、両側の定着プレート12間でPC鋼棒2bの端部を緊張定着することにより、PC柱1と鉄骨梁4とを一体化するので、鉄骨梁4の端部はそれぞれエンドプレート18と定着プレート12と補強材13とで補強されており、しかも、PC鋼棒2bの長さが少し長くなって伸び代が増えるので、構造目地部15の開き(緩衝力)が増えることになり、鉄骨梁4の端部が損傷せずに建造物全体として靭性に富んだ構造となるのである。
【0021】
さらに、
図5と
図6に示した本発明に係る第3の実施の形態について説明する。この第3の実施の形態に係る発明は、前記第1及び第2の実施の形態に係る基本的な構成部分は実質的に採用しており、同一部分には同一符号を付して、詳しい説明は重複するので省略する。
【0022】
この実施の形態においては、前記第2の実施形態に係る二重プレート(12,18)の間に、適宜の充填材19、例えば、コンクリートやモルタルなどを充填して、鉄骨梁端部の曲げ剛性を更に向上させると共に、鉄骨梁4からPC柱1への曲げ応力を円滑に伝達させることが確保でき、スパンが長いものや積載荷重が大きな建造物の場合に靭性能力を発揮する。なお、その他の構成部分は実質的に前記第2の実施の形態と同じである。
【0023】
鉄骨梁4の端部に設けたエンドプレート18と定着プレート12との間に充填材19を充填する際には、二重プレート(12,18)の間に側板20を設けて、例えば、上面だけを開口して周囲を取り囲み、取り囲んだ二重プレートの内側に所要の鉄筋21を配筋すると共に、該鉄筋21の一部を上方位置(スラブ7の形成位置まで)に取り出し、トップ筋17と結束させて、スラブ7のコンクリートと一緒に打設しても良いのである。
【0024】
このように二重プレート(12,18)の間に充填材19を充填することによって、定着プレート12にかかる応力が大幅に軽減され、エンドプレート18と定着プレート12を比較的薄くすることができ、そして、これらプレート及び溶接部の応力も緩和され、溶接部の破損等を防ぐことができる。
【0025】
さらにまた、
図7に示した第4の実施の形態について説明する。
この第4の実施の形態に係る柱梁の接合方法は、前記第3の実施の形態を簡素化した改良型である。即ち、鉄骨梁4の端部にエンドプレート18は設けるが、定着プレートは省略して簡素化したものである。その他の構造部分については、前記第3の実施の形態と同一であるので、同一符号を付して詳細な説明は重複するので省略する。要するに、硬化した充填材19のブロックに配設してある複数の水平シース3bにそれぞれにPC鋼材2bを挿通し、該PC鋼材2bの端部は、充填材19のブロック面の外側において定着具10を締め付けて緊張定着するのである。
このように、前記第3の実施の形態とは異なる構成にしても、柱梁の接合強度には大差はないのであり、特に、エンドプレート18との間に充填材19のブロックを形成するためには、木製の板材で箱形状に囲って形成し、複数の水平シース3bを配設するだけであるから作業性も良好であり、しかも、定着プレートを使用しないので安価になるのである。面において定着具10で締め付けて緊張定着するのであるい例えば、PC鋼棒2bを挿通してセットする。
【0026】
以上は、本発明の基本構成とする好ましい実施例を示したが、本発明の基本構成と関連しない部分の配筋状況、例えば、柱内やスラブの配筋状況等については図示していない。
また、柱については、プレキャストコンクリート製柱をPC圧着して構築したものとし、いわゆるプレキャストプレストレストコンクリート造とすることが好ましいが、これに限定されることなく、場所打ちプレストレストコンクリート造としてもよい。また、プレキャスト鉄筋コンクリート造若しくは現場打ち鉄筋コンクリート造としてもよい。要するに、鉄骨梁を架設する前にアゴ5付きで柱梁接合部Aを有するコンクリート製柱を形成しておけばよいのである。
【0027】
また、実施例では四面に柱梁接合部Aのある中柱を図示して説明し、建物構造の外周柱(三面に柱梁接合部Aのある柱)やコーナー柱(二面に柱梁接合部Aのある柱)についての図示は省略したが、略同様な構成要領で形成すればよい。要するに、鉄骨梁が柱の片側だけにあって、対向する反対側の側面にはPC鋼材の端部を定着する構成が示されていない点で、実施例と異なるが、そのPC鋼材の端部は、適宜の定着具10等により定着させればよいし、他の構成は実施例と同様とすればよいのである。
【0028】
次に、
図8(a)(b)を用いて、本発明の接合方法の詳細について具体的に示す。
なお、分かり易くするために、基本構成と関連しない部分、例えば、トップ筋やスッタトボルト等の図示は省略した。
鉄骨梁4はH形鋼とし、H形鋼の幅をBとし、フランジ板厚をtとし、高さをHとし、降伏強度をσyとし、鉄骨梁4の上端に現場打ちコンクリート製スラブ7を設けて鉄骨梁4と一体化して合成梁とする。スラブの厚さをaとし、鉄骨梁4の下端からスラブの天端までの距離をdsとする。
【0029】
鉄骨梁4の端部に二重プレート(12,18)構造を形成し、該二重プレートの間にコンクリート等の充填材19を充填し、柱梁接合部Aを貫通して両側の鉄骨梁4を接合するPC鋼材を4段とし、各段毎にPC鋼棒2aを2本とする。各段のPC鋼棒2aの緊張導入力は、それぞれP1、P2、P3、P4とする。それらの合力をPとし、P=ΣPi、i=4とする。
梁端部の断面において、PC鋼材の合力が作用する位置からスラブの天端までの距離をdpcとする。
【0030】
一般に、地震時に柱左右の梁端に向きが逆で大きさが同じである曲げモーメントが作用される。図示では、地震力による曲げモーメントを、左側にM(−)、右側にM(+)として示し、並びにそれぞれの曲げモーメントによる梁端の断面応力度分布図を示している。
図(a)に示したように、M(−)による断面応力度分布図から分かるように、合成梁(鉄骨梁とコンクリート製スラブと合成した梁)の断面応力度は、上端に引張、下端が圧縮になり、引張側の縁応力度(最も大きな応力度)がコンクリートスラブの有効幅側に発生し、鉄骨梁のフランジ天端がスラブの天端より中立軸に近いので、フランジの天端に発生する引張応力度が幾分小さくなる。それに比べ、図(b)に示したように、同じ大きさの曲げモーメントM(+)が右側の梁端に作用すると、梁端の下端(H形鋼の下フランジ板)に引張縁応力度が生じるため、右側の鉄骨梁端が先に降伏することになる。
【0031】
それで、本発明では、右側の鉄骨梁を降伏させないことを解決する課題とし、目地離間制御条件を定めて目地離間を制御することとする。
ds=H+a
Ts=B×t×σy(鉄骨梁の引張側のフランジの引張降伏荷重)
P=ΣPi (i=1、・・・n) (図示ではi=4)
dpc:梁端断面では、PC鋼材の合力の作用する位置からスラブの天端までの距離
目地離間制御条件としては、Pとこれらの関係は、
上記算式を満たすこととする。
【0032】
次に、
図9(a)(b)に示したイメージ図に基づいて、構造目地離間制御することによる作用・効果について説明する。
大地震時(極稀に起きる地震)では、図(a)に示すように現行の設計法による目地離間しない場合は、曲げモーメントを受けると、鉄骨梁4の下フランジ板に大きな引張応力度が発生し、曲げ変形して降伏することになる。
それに比べ、大地震時でも、図(b)に示すように本発明の接合方法により、構造目地離間を制御することで鉄骨梁4の下フランジ板が殆んど曲げ変形せずに、鉄骨梁4の応力負担を大幅に軽減できる。
なお、実際の目地離間は、僅かに口開く程度で十分に効果があるが、図示はあくまでもイメージを表すものである。
【0033】
また、柱梁接合部に貫通して柱と梁を接合するPC鋼材2は、アンボンド形式で緊張定着させることとした場合は、大地震時に、アンボンド形式で緊張定着されたPC鋼材2は伸び易いため、及び滑り材16の存在によっても目地離間がし易くなり、より効果的である。
アンボンドを形成する方法としては、たとえば、メッキやエポキシ樹脂塗装されたPC鋼棒を用いて、PC鋼棒とシースとの間にグラウトを充填しないようにすることができる。また、通常のPE被覆されたアンボンドPC鋼より線を用いてもよい。この場合には、グラウトを充填してもしなくてもよい。
【0034】
また、複数段のPC鋼材の緊張導入力をそれぞれ異なるものとし、例えば、PC鋼材2の合力として各段の緊張導入力が同じとする場合と変わらないとし、引張側に最も近いPC鋼材の緊張導入力を最も小さくし、圧縮側に近づくにつれて順次に大きくすることによって、目地離間がし易くなり、しかも、PC鋼材の全体の合力が変化していないので、設計上のプレストレス力は従来通りに導入することができる。
従って、本発明では、鉄骨梁4の下端に最も近い段のPC鋼材2の緊張導入力は、該PC鋼材2の降伏荷重の30%以下とし、スラブ側に最も近い段のPC鋼材2の緊張導入力は、該PC鋼材2の降伏荷重の60%とし、中間の段のPC鋼材2の緊張導入力は、該PC鋼材2の降伏荷重の40〜50%とすることが好ましい。
以上説明した実施の形態は、本発明の構成要件(主旨)を限定するものではなく、本発明の主旨に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明に係る柱と梁の接合方法は、コンクリート製柱と鉄骨梁とからなる建物構造において、柱梁接合部Aは予め前記柱に一体的に形成され、梁端部に定着プレート12と定着具10とが設けられ、または梁端部にエンドプレート18と梁端部から所要の間隔をおいて定着プレート12と定着具10とが設けられ、もしくは梁端部にエンドプレート18と所要厚みの硬化した充填材19と定着具10とが設けられた鉄骨梁4の端部は、前記柱梁接合部Aとの間に構造目地部15が設けられると共に、前記柱に設けたアゴ5に載せてあり、前記柱梁接合部Aに水平に貫通した複数段のPC鋼材2が配置され、該PC鋼材2に緊張導入力を与えて前記定着具10を緊張定着することによって、前記柱と梁とが一体的に接合されると共に、鉄骨梁4の上端に所定厚さのコンクリート製スラブ7が設けられる柱と梁の接合方法であって、前記構造目地部15において、中地震時(稀に起きる地震)までは目地離間を許容しないとし、大地震時(極稀に起きる地震)では、目地離間を許容して前記鉄骨梁4が降伏しないように設定した目地離間制御条件を満たすようにしたものであり、梁端部の構造目地部において、中地震時(稀に起きる地震)までは目地離間することなく、柱と梁が剛接合状態になり柱梁とも弾性範囲内にあって耐震性能を発揮する。大地震時(極稀に起きる地震)では、目地が弾性状態で離間し梁部材が回転変形することによって鉄骨梁の応力負担を軽減し、梁が降伏せず無損傷状態に保つことが可能となる。それによって地震後、PC鋼材の弾性復元力により、離間した目地が閉じ、柱梁等構造物全体が元の位置に戻され、残留変形が残らないので、この種の建造物において広く適用または利用できるのである。
【符号の説明】
【0036】
1 PC柱
2 PC鋼材
2a、2b PC鋼棒
3a、3b シース
4 鉄骨梁
5 アゴ
7 コンクリート製スラブ
8 スッタトボルト
9 鉄筋継手
10 定着具
11 カプラー
12 定着プレート
13 補強材
14 緩衝材
15 構造目地部
16 滑り材
17 トップ筋
18 エンドプレート
19 充填材
20 側板
21 鉄筋
A 柱梁接合部
【手続補正書】
【提出日】2017年4月13日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
上記目的を達成するための具体的手段として、本発明に係る第1の発明として、コンクリート製柱と鉄骨梁とからなる建物構造において、柱梁接合部は予め前記柱に一体的に形成され、梁端部に定着プレートと定着具とが設けられ、または梁端部にエンドプレートと梁端部から所要の間隔をおいて定着プレートと定着具とが設けられ、もしくは梁端部にエンドプレートと所要厚みの硬化した充填材と定着具とが設けられた鉄骨梁の端部は、前記柱梁接合部との間に構造目地部が設けられると共に、前記柱に設けたアゴに載せてあり、前記柱梁接合部に水平に貫通した複数段のPC鋼材が配置され、該PC鋼材に緊張導入力を与えて前記定着具を緊張定着することによって、前記柱と梁とが一体的に接合されると共に、鉄骨梁の上端に所定厚さのコンクリート製スラブが設けられる柱と梁の接合方法であって、前記構造目地部において、中地震時(稀に起きる地震)までは目地離間を許容しないとし、大地震時(極稀に起きる地震)では、目地離間を許容して前記鉄骨梁が降伏しないように設定した目地離間制御条件を満たすようにし、前記鉄骨梁をH形鋼とし、H形鋼の幅、フランジ板厚、降伏強度及び該梁の下端から前記スラブの天端までの距離をそれぞれB、t、σy及びdsとし、前記梁端部の断面において、PC鋼材の緊張導入力の合力をPとし、該合力の作用する位置から前記スラブの天端までの距離をdpcとし、鉄骨梁の引張側のフランジの引張降伏荷重をTsとした場合に、
前記の設定した目地離間制御条件として、前記合力Pとの関係は、
Ts=B×t×σy
上記算式を満たすようにしてあることを特徴とする柱と梁の接合方法を提供するものである。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
本発明に係る第2の発明として、コンクリート製柱と鉄骨梁とからなる建物構造において、柱梁接合部は予め前記柱に一体的に形成され、梁端部に定着プレートと定着具とが設けられ、または梁端部にエンドプレートと梁端部から所要の間隔をおいて定着プレートと定着具とが設けられ、もしくは梁端部にエンドプレートと所要厚みの硬化した充填材と定着具とが設けられた鉄骨梁の端部は、前記柱梁接合部との間に構造目地部が設けられると共に、前記柱に設けたアゴに載せてあり、前記柱梁接合部に水平に貫通した複数段のPC鋼材が配置され、該PC鋼材に緊張導入力を与えて前記定着具を緊張定着することによって、前記柱と梁とが一体的に接合されると共に、鉄骨梁の上端に所定厚さのコンクリート製スラブが設けられる柱と梁の接合方法であって、前記構造目地部において、中地震時(稀に起きる地震)までは目地離間を許容しないとし、大地震時(極稀に起きる地震)では、目地離間を許容して前記鉄骨梁が降伏しないように、前記複数段のPC鋼材の緊張導入力は、それぞれ異なるものとすることを特徴とする柱と梁の接合方法を提供するものである。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製柱と鉄骨梁とからなる建物構造において、柱梁接合部は予め前記柱に一体的に形成され、梁端部に定着プレートと定着具とが設けられ、または梁端部にエンドプレートと梁端部から所要の間隔をおいて定着プレートと定着具とが設けられ、もしくは梁端部にエンドプレートと所要厚みの硬化した充填材と定着具とが設けられた鉄骨梁の端部は、前記柱梁接合部との間に構造目地部が設けられると共に、前記柱に設けたアゴに載せてあり、前記柱梁接合部に水平に貫通した複数段のPC鋼材が配置され、該PC鋼材に緊張導入力を与えて前記定着具を緊張定着することによって、前記柱と梁とが一体的に接合されると共に、鉄骨梁の上端に所定厚さのコンクリート製スラブが設けられる柱と梁の接合方法であって、
前記構造目地部において、中地震時(稀に起きる地震)までは目地離間を許容しないとし、大地震時(極稀に起きる地震)では、目地離間を許容して前記鉄骨梁が降伏しないように設定した目地離間制御条件を満たすようにし、
前記鉄骨梁をH形鋼とし、H形鋼の幅、フランジ板厚、降伏強度及び該梁の下端から前記スラブの天端までの距離をそれぞれB、t、σy及びdsとし、
前記梁端部の断面において、PC鋼材の緊張導入力の合力をPとし、該合力の作用する位置から前記スラブの天端までの距離をdpcとし、鉄骨梁の引張側のフランジの引張降伏荷重をTsとした場合に、
前記の設定した目地離間制御条件として、前記合力Pとの関係は、
Ts=B×t×σy
上記算式を満たすようにしてあることを特徴とする柱と梁の接合方法。
【請求項2】
コンクリート製柱と鉄骨梁とからなる建物構造において、柱梁接合部は予め前記柱に一体的に形成され、梁端部に定着プレートと定着具とが設けられ、または梁端部にエンドプレートと梁端部から所要の間隔をおいて定着プレートと定着具とが設けられ、もしくは梁端部にエンドプレートと所要厚みの硬化した充填材と定着具とが設けられた鉄骨梁の端部は、前記柱梁接合部との間に構造目地部が設けられると共に、前記柱に設けたアゴに載せてあり、前記柱梁接合部に水平に貫通した複数段のPC鋼材が配置され、該PC鋼材に緊張導入力を与えて前記定着具を緊張定着することによって、前記柱と梁とが一体的に接合されると共に、鉄骨梁の上端に所定厚さのコンクリート製スラブが設けられる柱と梁の接合方法であって、
前記構造目地部において、中地震時(稀に起きる地震)までは目地離間を許容しないとし、大地震時(極稀に起きる地震)では、目地離間を許容して前記鉄骨梁が降伏しないように、前記複数段のPC鋼材の緊張導入力は、それぞれ異なるものとすることを特徴とする柱と梁の接合方法。