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特開2018-72044架橋ゴムの分子モデルにおける力学的等方性を向上させる分子モデル作成方法、及び同方法を実行する装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-72044(P2018-72044A)
(43)【公開日】2018年5月10日
(54)【発明の名称】架橋ゴムの分子モデルにおける力学的等方性を向上させる分子モデル作成方法、及び同方法を実行する装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/44 20060101AFI20180406BHJP
【FI】
   G01N33/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-208949(P2016-208949)
(22)【出願日】2016年10月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100125874
【弁理士】
【氏名又は名称】川端 純市
(74)【代理人】
【識別番号】100189544
【弁理士】
【氏名又は名称】柏原 啓伸
(72)【発明者】
【氏名】日野 理
(57)【要約】
【課題】所定の手順で作成される架橋ゴムの分子モデルにおいて、力学特性の異方性の発生を抑える。
【解決手段】方法は、所定の座標にて架橋剤粒子を発生させるステップと、前記発生させた架橋剤粒子の所定のペアの間に高分子粒子を発生するステップと、架橋剤粒子および高分子粒子とそれらの各々から所定の結合距離範囲にある高分子粒子との間に所定の化学結合を生成するステップと、及び前記化学結合を生成するステップにて得られる構造モデルにて、所定の圧力及び温度下で平衡化して分子モデルを作成するステップと含む。前記架橋剤粒子を発生させるステップが、空間的に直交三軸方向に偏り無く架橋剤粒子を配置するステップを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータにより実行される、架橋ゴムの分子モデルを作成する方法において、
所定の座標にて、架橋剤粒子を発生させるステップと、
前記発生させた架橋剤粒子の所定のペアの間に、高分子粒子を発生するステップと、
架橋剤粒子および高分子粒子と、それらの各々から所定の結合距離範囲にある高分子粒子との間に、所定の化学結合を生成するステップと、及び、
前記化学結合を生成するステップにて得られる構造モデルにおいて、所定の圧力及び温度下で平衡化して分子モデルを作成するステップと
を含み、
前記架橋剤粒子を発生させるステップが、空間的に直交三軸方向に偏り無く架橋剤粒子を配置するステップを含む、
分子モデル作成方法。
【請求項2】
最初の架橋剤粒子の配置の仕方が、ダイヤモンド格子に基づくものであり、
前記平衡化して分子モデルを作成するステップにおいて作成される分子モデルが、4配位の架橋ゴムの分子モデルである、
請求項1に記載の分子モデル作成方法。
【請求項3】
請求項1に記載の分子モデル作成方法により作成された前記分子モデルについての力学特性を計算処理するステップを含む、
シミュレーション方法。
【請求項4】
架橋ゴムの分子モデルを作成する、コンピュータにより構成される装置において、
所定の座標にて、架橋剤粒子を発生させる架橋剤粒子発生部と、
前記発生させた架橋剤粒子の所定のペアの間に、高分子粒子を発生する高分子粒子発生部と、
架橋剤粒子および高分子粒子と、それらの各々から所定の結合距離範囲にある高分子粒子との間に、所定の化学結合を生成する化学結合生成部と、及び、
前記化学結合生成部により得られる構造モデルにおいて、所定の圧力及び温度下で平衡化して分子モデルを作成する平衡化部と
を含み、
前記架橋剤粒子発生部が、空間的に直交三軸方向に偏り無く架橋剤粒子を配置する、
分子モデル作成装置。
【請求項5】
最初の架橋剤粒子の配置の仕方が、ダイヤモンド格子に基づくものであり、
前記平衡化部により作成される分子モデルが、4配位の架橋ゴムの分子モデルである、
請求項4に記載の分子モデル作成装置。
【請求項6】
請求項4に記載の分子モデル作成装置により作成された前記分子モデルについての力学特性を計算処理する特性計算部を含む、
シミュレーション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ゴムの分子モデル作成方法、及び分子モデル作成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンピュータ上にて、複数の粒子(高分子粒子)が連続して結合する高分子鎖モデルと、架橋剤粒子のモデルとを、モデル上にて化学結合させることにより架橋ゴムの分子モデルを作成することが行われている。
【0003】
作成された分子モデルを用いた分子動力学シミュレーションにより、力学特性、例えばSS(応力−歪み)特性の計算が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−187189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、所定の手順で作成される架橋ゴムの分子モデルにおいて、力学特性の異方性の発生を抑える架橋ゴムの分子モデル作成方法、及び分子モデル作成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、コンピュータにより実行される、架橋ゴムの分子モデルを作成する方法は、
所定の座標にて、架橋剤粒子を発生させるステップと、
前記発生させた架橋剤粒子の所定のペアの間に、高分子粒子を発生するステップと、
架橋剤粒子および高分子粒子と、それらの各々から所定の結合距離範囲にある高分子粒子との間に、所定の化学結合を生成するステップと、及び、
前記化学結合を生成するステップにて得られる構造モデルにおいて、所定の圧力及び温度下で平衡化して分子モデルを作成するステップと
を含み、
前記架橋剤粒子を発生させるステップが、空間的に直交三軸方向に偏り無く架橋剤粒子を配置するステップを含む。
【0007】
本発明に係る、架橋ゴムの分子モデルを作成する、コンピュータにより構成される装置は、
所定の座標にて、架橋剤粒子を発生させる架橋剤粒子発生部と、
前記発生させた架橋剤粒子の所定のペアの間に、高分子粒子を発生する高分子粒子生成部と、
架橋剤粒子および高分子粒子と、それらの各々から所定の結合距離範囲にある高分子粒子との間に、所定の化学結合を生成する化学結合生成部と、及び、
前記化学結合生成部により得られる構造モデルにおいて、所定の圧力及び温度下で平衡化して分子モデルを作成する平衡化部と
を含み、
前記架橋剤粒子発生部が、空間的に直交三軸方向に偏り無く架橋剤粒子を配置する。
【発明の効果】
【0008】
本発明を用いることにより、作成された架橋ゴムの分子モデルにおける力学特性の等方性が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(1)は、実施の形態1に係る架橋ゴムのシミュレーション装置の構成を示すブロック図である。図1(2)は、実施の形態1に係る架橋ゴムのシミュレーション装置における分子モデル作成部の構成を示すブロック図である。
図2図2は、実施の形態1に係る架橋ゴムの分子モデルの作成処理を示すフローチャートである。
図3図3は、架橋剤粒子および高分子粒子間に化学結合が生成される順序を模式的に示した図である。
図4図4は、化学結合部により得られた構造モデルを、所定の圧力及び温度下で平衡化して分子モデルを作成する過程の一つの例を示す図である。
図5図5は、作成された架橋ゴムの分子モデルの力学特性の計算処理を示すフローチャートである。
図6図6は、従来の、架橋ゴムの分子モデル作成装置により作成される架橋ゴムの分子モデル(例)の、力学特性の例を示すグラフである。
図7図7は、実施の形態1に係る架橋ゴムのシミュレーション装置の分子モデル作成部により作成される架橋ゴムの分子モデル(例)の、力学特性の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示に至る経緯)
分子動力学法やモンテカルロ法などに使用する従来の架橋ゴムの分子モデル作成法では、高分子粒子と架橋剤粒子の間の化学結合を、乱数を用いて生成するため、高分子粒子の個数及び架橋剤粒子の数を一定とし、高分子鎖の長さを所定のものとしつつ、所定の手順により架橋ゴムの分子モデルを作成したとしても、本来等方的であるべき架橋ゴムの分子モデルにおける力学特性に異方性が生じることがある。作成される架橋ゴムの分子モデルの力学特性の異方性の発生は、高分子鎖や架橋剤粒子の初期配置及び乱数の種などに起因するものであると言われている。
【0011】
以上のような状況に鑑みて、本発明は考案されたものである。即ち、本開示では、架橋剤粒子と高分子粒子および高分子粒子同士の化学結合の仕方全体(これを分子シミュレーションではトポロジーという)上、直交三軸方向に沿った架橋剤粒子点間の高分子粒子の数の分布をできるだけ一致させることにより、所定の手順で作成された架橋ゴムの分子モデルにおいて、力学特性の異方性の発生を抑える、架橋ゴムの分子モデル作成方法、及び分子モデル作成装置が提供される。
【0012】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0013】
なお、発明者(ら)は、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0014】
(実施の形態1)
[1]シミュレーション装置の構成
実施の形態1に係る装置は、作成する架橋ゴムの分子モデルにおける力学特性の等方性を高めるシミュレーション装置である。シミュレーション装置は、ワークステーションやパーソナルコンピュータなどのコンピュータにより構成される。
【0015】
図1(1)に示すように、シミュレーション装置2は、処理実行部8と、設定部10と、表示部16と、メモリ18と、を有する。これら各部8、10、16、18は、キーボードやマウスを含む)入力デバイス、CPU、記憶部、各種インターフェイス、出力デバイス等を備えたパソコン等の情報処理装置において予め記憶されている図2及び図5に示す分子モデルの作成処理及び分子モデルの力学特性の計算処理をCPUが実行することによりソフトウェア及びハードウェア資源が協働して実現される。
【0016】
図1(1)に示す設定部10は、キーボードやマウス等の既知の操作部を介してユーザからの操作を受け付け、各種の条件やパラメータの設定を実行してメモリ18に記憶する。各種の条件やパラメータには、後でも説明するように、所定の座標への架橋剤粒子の設定、高分子粒子および高分子鎖の設定、架橋剤粒子および高分子粒子間の化学結合の設定、温度や圧力の条件の設定などが含まれる。各種の条件やパラメータには更に、力学特性計算における歪みの決定(設定)、力学特性計算における温度、圧力及び時間等の条件の設定なども含まれる。
【0017】
図1(1)に示す処理実行部8は、分子モデル作成部12と、特性計算部14と、を有する。分子モデル作成部12は、架橋ゴムの分子モデルの作成処理を実行する(図2参照)。特性計算部14は、分子モデル作成部12により作成された架橋ゴムの分子モデルについての力学特性を分子動力学シミュレーションにより計算する計算処理を実行する(図5参照)。特性計算部14により算出される力学特性値は、表示部16にて出力・表示される。
【0018】
表示部16は、ディスプレイ装置で構成されており、作成される架橋ゴムの分子モデルや特性計算部14により算出される力学特性値を表示する。
【0019】
[2]シミュレーション装置の動作
実施の形態1に係るシミュレーション装置2(の分子モデル作成部12)は、トポロジー上、直交三軸(x軸、y軸、z軸)方向に沿った架橋剤粒子間の高分子粒子の数(即ち、部分鎖の長さ)の分布ができるだけ一致するようにして、分子モデルを作成する。トポロジーは、二粒子間の結合だけでなく、三粒子間の結合角、四粒子間の二面角などにより、一般には表現される。
【0020】
実施の形態1に係るシミュレーション装置2(の分子モデル作成部12)では、トポロジー上、直交三軸(x軸、y軸、z軸)方向に沿った架橋粒子間の高分子粒子の数(即ち、部分鎖の長さ)の分布をできるだけ一致させるために、最初に、空間的にx軸方向、y軸方向、及びz軸方向に偏り無く架橋剤粒子を配置して、それら架橋剤粒子の間を高分子の部分鎖で繋いでいる。
【0021】
[2−1]分子モデル作成部の動作
図2は、実施の形態1に係る架橋ゴムの分子モデルの作成処理を示すフローチャートである。図1(2)は、実施の形態1に係る架橋ゴムのシミュレーション装置2における分子モデル作成部12の構成を示すブロック図である。図2及び図1を用いて、シミュレーション装置2の分子モデル作成部12の動作について説明する。
【0022】
まず、図2に示すステップST02において、図1(2)に示す架橋剤粒子発生部20は、空間的に等方的にx軸方向、y軸方向、及びz軸方向に偏り無く、モデル上の所定の座標において架橋剤粒子を発生させる。ここで、最初の架橋剤粒子の配置の仕方は、例えば、ダイヤモンド格子(図4・40a参照)に基づくものである。最初の架橋剤粒子の配置の仕方は、単純立方格子などに基づくものであってもよい。
【0023】
次に、図2に示すステップST04にて、図1(2)に示す高分子粒子発生部22は、所定の座標に発生させた架橋剤粒子の所定のペア間にて、所定の間隔で、所定数の高分子粒子を発生する。ここで架橋剤粒子のペア、間隔値は、設定部10を介して設定されることとなる。例えば、高分子粒子間の距離はその間に作用する結合相互作用ポテンシャル関数の平衡値等を用いる。こうすると平衡化処理(ステップS12参照)が安定しやすい。
【0024】
次に、図2に示すステップST08にて、図1(2)に示す化学結合生成部26は、所定の間隔にある架橋剤粒子と高分子粒子、および二個の高分子粒子の間に化学結合を生成する。この手順により、ST04における所定の架橋剤粒子のペアの間に、化学結合で繋がれた複数の高分子粒子が生成される。これを部分鎖という。
【0025】
以上のステップST02〜ステップST08を経由することにより、架橋剤粒子の最初の座標が決定され(図3(1)参照)、それら架橋剤粒子のうちどの架橋剤粒子が(高分子粒子の)部分鎖で繋がれるかが決定され(図3(2)参照)、更に、モデル上、高分子粒子の発生、及び化学結合の生成が為される(図3(3)参照)。以上の全ての化学結合に関する情報は、以下の表1のようにデータファイルで表され得る。なお、左端のカラムは、データファイルにおける化学結合の通し番号(の例)である。
【0026】
【表1】
上記表1は、粒子(架橋剤粒子)1と粒子(高分子粒子)Aが化学結合していること、粒子(高分子粒子)Aと粒子(高分子粒子)Bが化学結合していること、粒子(高分子粒子)Yと粒子(高分子粒子)Zが化学結合していること、及び、粒子(高分子粒子)Zと粒子(架橋剤粒子)2が化学結合していることを、表している。この表は、分子モデルのトポロジーを数値的に表現したものに他ならない。
【0027】
実施の形態1に係る架橋ゴムの分子モデルの作成処理では、トポロジー上、直交三軸(x軸、y軸、z軸)方向に沿った架橋剤粒子間の高分子粒子の数(部分鎖の長さ)の分布ができるだけ一致するように、分子モデルが作成される。即ち、最初に、空間的にx軸方向、y軸方向、及びz軸方向に偏り無く架橋剤粒子を配置して、それら架橋剤粒子の間を高分子の部分鎖で繋ぐこととなる。
【0028】
図2に示す実施の形態1に係る架橋ゴムの分子モデルの作成処理に係るフローチャートに戻る。ステップST12にて、図1(2)に示す平衡化部30は、ステップST08までで得られた分子モデル(構造モデル)を所定の温度及び圧力の下で平衡化させて、最終的な架橋ゴムの分子モデルを得る。ここでの所定の温度及び圧力の具体的な値は、設定部10を介して設けられる。
【0029】
以上で、架橋ゴムの分子モデルの作成処理は終了する。
【0030】
図4は、実施の形態1に係るシミュレーション装置2の分子モデル作成部12により作成される架橋ゴムの分子モデルの一つの例である。左上の分子モデル40aは、図2に示す実施の形態1に係る架橋ゴムの分子モデルの作成処理のうち、ステップST02からステップST08までを経由した後の分子モデルである。左上の分子モデル40aでは、架橋剤粒子42がダイヤモンド格子状に配置され、更に、架橋剤粒子ペアは高分子粒子から成る部分鎖44によって繋がれる。この分子モデルは、各架橋剤粒子に4本の部分鎖が繋がる、いわゆる4配位の架橋ゴム分子モデルとなる。
【0031】
図4の右上の分子モデル40b、右下の分子モデル40c、及び、左下の分子モデル40dは、図2に示す架橋ゴムの分子モデルの作成処理のステップST12における、所定の温度及び圧力の下での平衡化の進行の様子を示すものである。最終的には左下の分子モデル40dが得られる。
【0032】
[2−2]特性計算部の動作
図5は、実施の形態1に係るシミュレーション装置2の分子モデル作成部12により作成された架橋ゴムの分子モデルについての、力学特性(SS特性)の分子動力学シミュレーションによる計算処理を示すフローチャートである。この計算処理は、図1(1)に示すシミュレーション装置2の特性計算部14が実行する。
【0033】
なお、図5に示す架橋ゴムの分子モデルの力学特性の計算処理は一般的なものであり、従来の分子モデル作成装置により作成される架橋ゴムの分子モデルの力学特性計算にも、勿論適用し得るものである。
【0034】
まず、ステップST22にて、張力を計算する歪みを決定(設定)する。通常、歪みは複数点、決定(設定)される。
【0035】
次に、ステップST24にて、分子動力学計算を実行しながら、ステップST22にて決定した歪みの、一つに対応するように分子モデルを変形する。ここでの分子モデルは、図2に示す実施の形態1に係る架橋ゴムの分子モデルの作成処理により得られる架橋ゴムの分子モデルであり、図4の左下に一つの例(分子モデル40d)が示されている。
【0036】
次に、ステップST26にて、変形した分子モデルを、所定の温度及び圧力の下で平衡化させる。
【0037】
次に、ステップST28にて、所定の時間分子動力学計算を実行して、各応力成分の平均値を算出する。
【0038】
次に、ステップST30にて、与えた歪みと、ステップST28で算出した応力成分値(平均値)より、張力を算出する。これにより、歪みと張力との関係が決定される。
【0039】
次に、ステップST32にて、ステップST22にて決定された(複数の)歪みの全てについて、張力算出を行ったかどうか判断し、残りの歪みがあれば、残りの歪みについてステップST24〜ステップST30が実行される。残りの歪みが無ければ、計算処理は終了する(ステップST34)。
【0040】
[2−3]特性計算の等方性に関する計算例
実施の形態1に係るシミュレーション装置2の分子モデル作成部12による分子モデルにおける力学特性の等方性を確認する計算を次のように行った。
【0041】
まず、従来の分子モデル作成装置による分子モデルの作成を行い、作成された分子モデルの直交三軸(x軸、y軸、z軸)伸長(方向)での力学特性(特に、SS特性)の計算を行った(従来例1)。なお、従来例1では、粒子総数として2万(20,000)粒子系を扱っている。SS特性として、複数の歪みの各々に対する張力を計算している。
【0042】
更に、実施の形態1に係るシミュレーション装置2の分子モデル作成部12による分子モデルの作成を行い、作成された分子モデルの直交三軸(x軸、y軸、z軸)伸長(方向)での(特性計算部14による)力学特性(特に、SS特性)の計算を行った(実施例1)。なお実施例1では、分子モデル作成部12における架橋剤粒子発生部20は、4配位のダイヤモンド格子状に架橋剤粒子を発生させている。また特に、実施例1では、従来例1と比較して粒子総数を少なくしている。即ち、実施例1では、9千(9,000)粒子系を扱っている。SS特性として、複数の歪みの各々に対する張力を計算している。
【0043】
従来例1のグラフ
図6(1)〜(4)は全体として、従来例1におけるSS特性をプロットしたグラフである。横軸には、図5のステップST22にて複数設定される歪みが取られている。縦軸には、横軸にて取られた歪みに対応する張力が取られている。なお、図6(1)〜(4)における歪み及び張力のいずれの値も無次元化されている。後で説明する図7(1)〜(4)のグラフにおいても同様である。
【0044】
図6(2)の◆(菱形)のプロットは、作成された分子モデルのx軸伸長(方向)でのSS特性(歪みに対する張力)を示している。図6(3)の■(矩形)のプロットは、作成された分子モデルのy軸伸長(方向)でのSS特性(歪みに対する張力)を示している。図6(4)の▲(三角形)のプロットは、作成された分子モデルのz軸伸長(方向)でのSS特性(歪みに対する張力)を示している。そして、図6(1)及び図6(2)〜(4)における×のプロットは、作成された分子モデルのx、y及びz軸伸長(方向)でのSS特性(歪みに対する張力)の平均を示している。
【0045】
実施例1のグラフ
図7(1)〜(4)は全体として、実施例1におけるSS特性をプロットしたグラフである。図6(1)〜(4)と同様に、横軸には歪みが、縦軸には張力が、取られている。
【0046】
図7(1)〜(4)における各種のプロットの意味するところは、図6(1)〜(4)における各種のプロットのものと同様である。即ち、図7(2)の◆(菱形)のプロットは、作成された分子モデルのx軸伸長(方向)でのSS特性(歪みに対する張力)を示している。図7(3)の■(矩形)のプロットは、作成された分子モデルのy軸伸長(方向)でのSS特性(歪みに対する張力)を示している。図7(4)の▲(三角形)のプロットは、作成された分子モデルのz軸伸長(方向)でのSS特性(歪みに対する張力)を示している。そして、図7(1)及び図7(2)〜(4)における×のプロットは、作成された分子モデルのx、y及びz軸伸長(方向)でのSS特性(歪みに対する張力)の平均を示している。
【0047】
従来例1と実施例1とを比較する。まず、従来例1においては、x、y及びz軸の各軸伸長(方向)の歪みに対する張力にて、相当の差異が見られる。例えば、いくつかの歪みの値を取り出してみると、それらに対応する張力の値は、平均値、x軸、y軸、z軸にて以下のようになっている。
【0048】
【表2】
【0049】
これに対して、実施例1においては、x、y及びz軸の各軸伸長(方向)の歪みに対する張力にて、ほとんど差異は見られない。例えば、いくつかの歪みの値を取り出してみると、それらに対応する張力の値は、平均値、x軸、y軸、z軸にて以下のようになっている。
【表3】
【0050】
以上のように、実施例1におけるx、y及びz軸の各軸伸長(方向)の歪みに対する張力の差異は、従来例1におけるx、y及びz軸の各軸伸長(方向)の歪みに対する張力の差異よりも、ずっと小さい、という傾向が示されているため、実施の形態1に係るシミュレーション装置2の分子モデル作成部12による分子モデルの力学特性の等方性は高い。
【0051】
従来の分子モデル作成装置による分子モデルと、実施の形態1に係るシミュレーション装置2の分子モデル作成部12による分子モデルとにおける、力学特性(SS特性)の等方性をより細緻に検討するために、以下の数値Δを計算した。
【数1】
なお、iは各歪みの識別子、λは(各)歪みの値、f(λ)はx軸伸長(方向)での歪みλに対する張力、f(λ)はy軸伸長(方向)での歪みλに対する張力、f(λ)はz軸伸長(方向)での歪みλに対する張力、f平均(λ)は歪みλに対する張力のx、y、z軸伸長(方向)に関する平均、3Nは歪みの総数、である。なお、x、y、z軸方向のいずれに関しても、歪みの数はNである。
【0052】
従来の分子モデル作成装置による分子モデルと、実施の形態1に係るシミュレーション装置2の分子モデル作成部12による分子モデルとにおいて、Δ(Δ従来例1、Δ実施例1)の値は以下のようになった。
【表4】
この表より、SS特性を示す曲線の全体において、実施例1におけるx、y及びz軸の各軸伸長(方向)の三つのものは、従来例1におけるx、y及びz軸の各軸伸長(方向)の三つのものよりも、ずっと相互に近いことが明白である。即ち、実施の形態1に係るシミュレーション装置2の分子モデル作成部12による分子モデルの力学特性は、空間的な等方性が高い。
【0053】
以上のことから、実施の形態1に係るシミュレーション装置2の分子モデル作成部12により作成される分子モデルでは、SS特性の等方性が劇的に改善する。
【0054】
[その他の実施形態]
以上、実施の形態1に係る分子モデル作成装置、及び分子モデル作成方法を記載した。本発明は、上述の実施の形態1に限定されるものではない。
【0055】
例えば、図1(1)に示すシミュレーション装置2における各部8〜14は、所定プログラムをコンピュータのCPUで実行することで実現しているが、各部を専用メモリや専用回路で構成してもよい。
【符号の説明】
【0056】
2・・・シミュレーション装置、8・・・処理実行部、10・・・設定部、12・・・分子モデル作成部、14・・・特性計算部、16・・・表示部、18・・・メモリ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7