【課題】 磁性材料粉末の圧粉処理により生成した磁性コア内に、コイル部品を埋め込んでなる磁性素子を、高温環境下に配設した場合にも、この磁性素子にクラックが発生したりインダクタンスの変化率が所定値より大きく変動するような状態となることを防止する。
【解決手段】 磁性材料粉末とバインダー樹脂を含むパテ材と、溶剤とを混合してなる磁性混合物であって、磁性材料粉末が、パテ材の全重量に対し89.2重量%以上かつ96.1重量%以下の割合で含まれるとともに、バインダー樹脂が、パテ材の全重量に対し2.9重量%
前記溶剤が、前記パテ材の全重量に対し、1.5重量%以上かつ3.0重量%以下の割合で含まれるように構成されてなる、ことを特徴とする請求項1記載の磁性混合物。
前記混合工程において混合される前記磁性材料粉末、前記バインダー樹脂および前記溶剤の重量比は、該磁性材料粉末が、該パテ材の全重量に対し91.5重量%以上かつ95.0重量%以下の割合であり、前記バインダー樹脂が、該パテ材の全重量に対し3.5重量%以上か
つ5.5重量%以下の割合であり、前記溶剤が、前記パテ材の全重量に対し、1.5重量%以上かつ3.0重量%以下の割合である、ことを特徴とする請求項4記載の磁性素子。
前記埋設工程は、型体内にコイル部品を投入した後に、該型体内に磁性混合物を投入して該磁性混合物を押圧し、該磁性混合物内に該コイル部品を埋設することを特徴とする請求項6記載の磁性素子の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記コアを構成する圧粉磁心は、前述したように緊密な状態に保持されているため、気化した水分を閉じ込めてしまうことから、MSL試験において、磁性素子が高温状態に設定された際には、コイル部品内の融着層等に含まれた水分が蒸発してコア内に大きな内部圧力が発生し、コアが膨張したり、クラックが発生したりする虞が高くなる。
したがって、磁性素子に不都合がないかを判定するMSL試験によって、磁性素子の内部に入り込んだ水分による影響はより甚大となる虞がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、磁性材料粉末の圧縮成形により生成した磁性コア内に、コイル部品を埋め込んでなる磁性素子を、高温環境下に配設した場合にも、この磁性素子にクラックが発生したりインダクタンスの変化率が所定値より大きく変動するような状態となることを防止し得る、磁性混合物、磁性素子の中間体、磁性素子および磁性素子の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の磁性混合物は、
磁性材料粉末とバインダー樹脂を含むパテ材と、溶剤とを混合してなり、
該磁性材料粉末が、該パテ材の全重量に対し89.2重量%以上かつ96.1重量%以下の割合で含まれるとともに、前記バインダー樹脂が、該パテ材の全重量に対し2.9重量%以上か
つ6.9重量%以下の割合で含まれ、
前記溶剤は沸点が200℃以上かつ300℃以下とされるとともに、前記パテ材の全重量に対し、1.0重量%以上かつ3.9重量%以下の割合で含まれるように構成されてなる、ことを特徴とするものである。
【0010】
前記溶剤が、前記パテ材の全重量に対し、1.5重量%以上かつ3.0重量%以下の割合で含まれるように構成されてなる、ことが好ましい。
【0011】
また、本発明の磁性素子の中間体は、コイル部品と、このコイル部品が埋め込まれてなる上述したいずれかの磁性混合物と、を備えてなることが好ましい。
【0012】
また、本発明の磁性素子は、
コイル部品と、このコイル部品が埋め込まれた、磁性材料粉末とバインダー樹脂を含むパテ材を硬化させた磁性コアとを備えた磁性素子において、
該磁性材料粉末が、該パテ材の全重量に対し89.2重量%以上かつ96.1重量%以下の割合で含まれるとともに、前記バインダー樹脂が、該パテ材の全重量に対し2.9重量%以上か
つ6.9重量%以下の割合で含まれ、かつ、沸点が200℃以上かつ300℃以下とされる溶剤を
前記パテ材の全重量に対し、1.0重量%以上かつ3.9重量%以下の割合で含まれるように、これら磁性材料粉末、バインダー樹脂および溶剤を混合して磁性混合物を生成する混合工程と、
該混合工程が終了した後に、前記磁性混合物内に前記コイル部品を埋め込む埋設工程と、
該埋設工程が終了した後に、前記溶剤を、その溶剤の沸点以下の温度で加熱して蒸発させ、前記磁性混合物を硬化させる硬化工程と、を含む磁性素子の製造方法により製造することを特徴とするものである。
【0013】
また、この場合において、前記混合工程において混合される前記磁性材料粉末、前記バインダー樹脂および前記溶剤の重量比は、該磁性材料粉末が、該パテ材の全重量に対し91.5重量%以上かつ95.0重量%以下の割合であり、前記バインダー樹脂が、該パテ材の全重量に対し3.5重量%以上かつ5.5重量%以下の割合であり、前記溶剤が、前記パテ材の全重量に対し、1.5重量%以上かつ3.0重量%以下の割合である、ことが好ましい。
【0014】
また、本発明の磁性素子の製造方法は、
コイル部品と、このコイル部品が埋め込まれた、磁性材料粉末とバインダー樹脂を含むパテ材を硬化させた磁性コアとを備えた磁性素子の製造方法において、
該磁性材料粉末が、該パテ材の全重量に対し89.2重量%以上かつ96.1重量%以下の割合で含まれるとともに、前記バインダー樹脂が、該パテ材の全重量に対し2.9重量%以上か
つ6.9重量%以下の割合で含まれ、かつ、沸点が200℃以上かつ300℃以下とされる溶剤を
前記パテ材の全重量に対し、1.0重量%以上かつ3.9重量%以下の割合で含まれるように、これら磁性材料粉末、バインダー樹脂および溶剤を混合して磁性混合物を生成する混合工程と、
該混合工程が終了した後に、前記磁性混合物内に前記コイル部品を埋め込む埋設工程と、
該埋設工程が終了した後に、前記溶剤を、その溶剤の沸点以下の温度で加熱して蒸発させ、前記磁性混合物を硬化させる硬化工程と、
を含むことを特徴とするものである。
【0015】
また、前記埋設工程は、型体内にコイル部品を投入した後に、該型体内に磁性混合物を投入して該磁性混合物を押圧し、該磁性混合物内に該コイル部品を埋設する工程とすることが可能である。
【0016】
ところで、本願発明は、上述したように、コイル部品を磁性混合物内に埋め込んでなる磁性素子において、磁性混合物を、磁性材料粉末、樹脂材料、および沸点が200〜300℃の溶剤を所定の重量比で混合し、磁性混合物を熱硬化して磁性コアを作成しており、その熱硬化時に溶剤を蒸発させることができるので、これにより磁性混合物が硬化した磁性コア内に多数の細孔状の通気孔(以下、単に細孔と称する)を生成し、磁性素子のガス透過率を所定値以上とすることができると考えられる。これにより、コアを磁性材料粉末の圧粉処理により生成した磁性素子を、MSL試験等の高温環境下に位置させた場合にも、内部圧力が極端に増大することがなく、この磁性素子にクラックが発生したりインダクタンスの変化率が所定値より大きく変動するような状態となることを阻止することができる(本願明細書の段落0021等を参照)。
【0017】
従来の磁性素子は、MSL試験等における吸湿後の高温環境下に位置させた場合には、内部圧力が極端に増大し、この磁性素子にクラックが発生したりインダクタンスの変化率が所定値より大きく変動するような状態となっていた。
これでは、磁性素子の磁気特性を良好な状態に維持することは難しい。(本願明細書段落0007参照)。
【0018】
このような、本願発明と従来技術の差は、磁性材料粉末、樹脂材料、および沸点が200
〜300℃の溶剤を所定の重量比で混合したか否か、より端的に言えば、沸点が200〜300℃
の溶剤を所定の割合で含み、それが熱硬化時に蒸発することで、磁性コア内に所定の細孔を生成することができたか否か、ということによるものの影響が大きいと考えられ、この細孔の数、径の大きさや形状によって、そのガス透過率も大幅に変化するものであるから、その違いに係る構造または特性を文言により一概に特定することは不可能である。
【0019】
一方、本願発明と従来技術に係る細孔の数、径の大きさや形状の違いについては、電子顕微鏡や細孔分布測定装置等を用いて測定することが原理的には可能であり、実際に、1、2点であればこれを測定することは可能であるが、本願発明と従来技術の磁性素子をそれぞれ統計上有意となる数だけ製造あるいは購入し、電子顕微鏡や細孔分布測定装置により数値的特徴を測定し、その統計的処理をした上で、本願発明と従来技術を区別する有意な指標とその値を見いださなければならず、膨大な時間とコストがかかるものである。しかも、従来技術については膨大な可能性があるため、統計上有意となる数を一義的に決めることもできない。
【0020】
上記のような指標とその値を見いだし、これによって本願発明の特徴を物の構造又は特性により直接特定することは、およそ実際的ではない。
そこで、本願出願人においては、請求項4、5に係る磁性素子について、やむを得ず、物の製造方法の発明に係る請求項の記載スタイルで表現するようにしている。
【発明の効果】
【0021】
本発明の磁性素子および磁性素子の製造方法によれば、上述した各構成とし、磁性混合物の熱硬化時に沸点が200〜300℃の溶剤を蒸発させているので、これにより磁性混合物が硬化した磁性コア内に多数の細孔を生成することができると考えられ、これにより磁性素子のガス透過率を所定値以上とすることができる。これにより、コアを磁性材料粉末の圧粉処理により生成した磁性素子を、MSL試験等の高温環境下に位置させた場合にも、内
部圧力が極端に増大することがなく、この磁性素子にクラックが発生したりインダクタンスの変化率が所定値より大きく変動するような状態となることを防止することができる。
また、本発明の磁性混合物、および磁性素子の中間体によれば、磁性混合物を、磁性材料粉末、樹脂材料、および沸点が200〜300℃の溶剤を所定の重量比で混合し、磁性混合物の熱硬化時にこの溶剤を蒸発させているので、これにより磁性混合物が硬化した磁性コア内に多数の細孔を生成することができると考えられ、これにより磁性素子のガス透過率を所定値以上とすることができる。
このことから、本発明の磁性混合物、磁性素子の中間体、磁性素子および磁性素子の製造方法によれば、磁性素子の特性の劣化を防止することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る磁性素子の基本構成について、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る磁性素子100の構成を示す斜視図である。
図2は、本実施形態の磁性素子100の内部構成を示す、
図1におけるA−A線断面図である。
【0024】
図1に示す磁性素子100は、見易さの便宜上、磁性コア20を破線で示し、磁性コア20に覆われているコイル部品10を実線で示している。
図2では、磁性コア20の断面は梨地で示し、コイル部品10は白抜き状態としている。また、コイル部品10は説明の便宜上、簡単な形状で表されているが、コイル部品自体の形状安定性を得るために、磁性体からなるベース部材や支持部材を用いることが可能である。
【0025】
本実施形態におけるコイル部品10は、図示されない基板から面実装用の端子部16を通じて給電されることにより、インダクタンスがコイル15において発生する電子部品であり、具体的にはインダクタ、トランスあるいはチョークコイル等である。本実施形態のコイル部品10では、説明の簡単化のため、一本の巻線を有するインダクタを代表例として例示する。
【0026】
磁性素子100は、磁性コア20内に、コイル15からなるコイル部品10を埋設してなる。磁性コア20は、磁性材料粉末および熱硬化性樹脂(バインダー樹脂)を混合し、熱硬化してなり、コイル15は、巻回部18および非巻回部19からなる。また、非巻回部19には、基板等に面実装するための端子部16、およびコイル15を磁性コア20に保持させるために折り曲げられた最終端部17が設けられている。
【0027】
磁性材料粉末は、具体的には軟磁性金属粉末であり、たとえば磁気特性や入手し易さ等の観点からFe系金属粉末が好ましいが、その中でも、Fe−Si−Al系粉末(センダスト)、Fe−Ni系粉末(パーマロイ)、Fe−Co系粉末(パーメンジュール)、Fe−Si−Cr系粉末、Fe−Si系のケイ素鋼やFe系アモルファスの粉末等が特に好ましい。また、これらの磁性材料粉末を2種類以上混合してなる混合物を用いることも可能である。
【0028】
これらの中でも、より良好な磁気特性を得るためには、Fe−Si−Cr系粉末を用い
ることが好ましい。なお、磁性材料粉末の粒径は、例えば5μm〜30μmとする。また、磁性材料粉末の粒子形状は特に限定されるものではなく、略球状や平板形状など、使用目的に応じて適宜、選択することが可能である。
【0029】
また、バインダー樹脂としては、例えば、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、PES(ポリエーテルサルフォン)樹脂、PAI(ポリアミドイミド)樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、フェノール樹脂等が挙げられるが、これら以外の樹脂をバインダー樹脂として用いることが可能である。入手のし易さや耐熱性等の観点からは、シリコン樹脂やエポキシ樹脂が、特に好適である。
【0030】
また、上述したようにして磁性コア20を磁性材料粉末とバインダー樹脂からなるパテ材により形成した場合、パテ材(磁性コア20)全体に占める磁性材料粉末の重量割合が89.2重量%以上かつ96.1重量%以下となるように、該パテ材(磁性コア20)全体に占めるバインダー樹脂の重量割合が2.9重量%以上かつ6.9重量%以下となるように、構成されている。なお、パテ材とは、一定の粘度及び硬度を有する成形材のことで、十分な流動性をもたないが、低い成形力で変形できる性質をもつ材料である。
このように構成することにより、パテ材としての特性を得ることができ、かつ製品特性を満足する所望のインダクタンス値を得ることができる、との優れた効果を得ることができる。
【0031】
パテ材(磁性コア20)全体に占める磁性材料粉末の重量割合が89.2重量%より小さくなると、インダクタンス値が低下してしまい、製品特性を満足することが困難になる。
一方、パテ材(磁性コア20)全体に占める磁性材料粉末の重量割合が96.1重量%より大きくなると、パテ材としての特性を得ることが困難となる。
また、パテ材(磁性コア20)全体に占めるバインダー樹脂の重量割合が2.9重量%よ
り小さくなると、パテ材としての特性を得ることが困難となる。
一方、パテ材(磁性コア20)全体に占めるバインダー樹脂の重量割合が6.9重量%よ
り大きくなると、ガス透過率が低くなり過ぎMSL1(モイスチャーレベル1)をクリアすることが困難となる。
【0032】
なお、パテ材(磁性コア20)全体に占める磁性材料粉末の重量割合が、94.0重量%以上かつ95.5重量%以下の範囲内であれば、パテ材としての特性を得ることができ、かつ製品特性を満足する所望のインダクタンス値を得ることができる、との上述した効果をより良好なものとすることができるのでより好ましい。
【0033】
また、パテ材(磁性コア20)全体に占めるバインダー樹脂の重量割合が、3.5重量%
以上かつ5.5重量%以下の範囲内であれば、パテ材としての特性を得ることができ、かつMSL1をクリアし得る所望のガス透過率を得ることができる、との効果をより良好なものと
することができるのでより好ましい。
【0034】
ところで、上述したように、上記磁性素子100は、磁性コア20内に、コイル15からなるコイル部品10を埋設してなる。そして、この磁性コア20は、磁性材料粉末および熱硬化性樹脂(バインダー樹脂)を混合したものにより形成されているが、本発明の特徴としては、磁性コア20の製造時において、磁性材料粉末、バインダー樹脂および溶剤を上述した割合で混合して作成された磁性混合物を、加熱して溶剤を蒸発させるとともに熱硬化させて、磁性コア20を生成する点にある。
【0035】
すなわち、最終的に得られた磁性コア20は、磁性材料粉末およびバインダー樹脂を混合したハンドリング可能な状態とされてなるが、製造の初期段階では、磁性材料粉末およびバインダー樹脂を粘土状に混錬してなるパテ材と溶剤とが混合された磁性混合物の状態
となっており、この後、硬化工程での加熱処理時に溶剤の蒸発が促進され、この溶剤の蒸発によりハンドリング可能な磁性コア20が生成される。このとき磁性コア20中に多数の細孔が形成されるため、ガス透過率は500cm
3・mm / (m
2・sec・atm)以上に増大する。
【0036】
なお、上記溶剤としては、沸点が200〜300℃となるものであることが必要である。これは、沸点が200℃より低い場合には、バインダー樹脂材を硬化させるために、その硬化温
度まで上げた際に、溶剤が一気に沸騰してしまう、という問題が生じるためであり、また、沸点が300℃より高い場合には、熱硬化後に溶剤が残留してしまう、という不都合が生
じるためである。
沸点が200〜300℃である上述した溶剤の具体的な例としては、フタル酸ジエチル、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、メチルトリグリコール、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジメトキシテトラエチレングリコール、1-3.ブタンジオール、1-4.ブタンジオールが挙げられる。
【0037】
上記磁性混合物は、沸点が200〜300℃の溶剤を用いており、上記パテ材に対する、上記溶剤の重量割合が、1.0重量%以上かつ3.9重量%以下となるように、パテ材(粘土様の粘り気のある材料)を構成する磁性材料粉末およびバインダー樹脂、さらに上記溶剤を混合して生成される。
このように構成することにより、パテ材としての特性を得ることができ、MSL1をクリアし得る所望のガス透過率を得ることができる、との優れた効果を得ることができる。
パテ材(磁性コア20)に対する上記溶剤の重量割合が1.0重量%より小さくなると、
パテ材としての特性を得ることができない、またはMSL1をクリアし得る所望のガス透過率を得ることができない、という問題が生じる。
【0038】
一方、パテ材(磁性コア20)に対する上記溶剤の重量割合が3.9重量%より大きくな
ると、パテ材としての特性を得ることができず、ペーストまたはスラリーの状態となってしまう。
【0039】
さらに、パテ材(磁性コア20)に対する上記溶剤の重量割合を、1.5重量%以上かつ3.0重量%以下とすれば、パテ材としての特性を得ることができ、MSL1をクリアし得る所望のガス透過率を得ることができる、との上述した効果をさらにより良好なものとすることができるので、さらに好ましい。
【0040】
なお、前述したように、パテ材(磁性コア20)全体に占める磁性材料粉末の重量割合は89.2重量%以上かつ96.1重量%以下となるように、また、パテ材(磁性コア20)全体に占めるバインダー樹脂の重量割合は2.9重量%以上かつ6.9重量%以下となるように、構成されている。
【0041】
このように構成された、磁性材料粉末、バインダー樹脂(樹脂材)、および溶剤の重量割合を3元系状態図に記載すると、
図3に示す状態となる。
すなわち、これらの要素の重量割合が、
図3における、A点(磁性材料粉末:92.1%、
樹脂材料:6.9%、溶剤:1.0%)、B点(磁性材料粉末:89.2%、樹脂材料:6.9%、溶剤:3.9%)、C点(磁性材料粉末:93.2%、樹脂材料:2.9%、溶剤:3.9%)、およびD点(磁性材料粉末:96.1%、樹脂材料:2.9%、溶剤:1.0%)を頂点とするハッチングで示した四角
形の領域内に位置するように設定する。
【0042】
このように、ハッチングで示した四角形の領域内に含まれるように上記3要素の割合を設定することで、磁性混合物50が硬化して形成される磁性コア20内にコイル部品10を埋設してなる磁性素子100を、MSL試験槽等のような高温環境下に位置させた場合
にも、この磁性素子100にクラックが発生したりインダクタンスの変化率が所定値より大きく変動するような状態となることを防止することができる。これにより磁性素子100の特性の劣化を防止することが可能である。
【0043】
なお、上記3要素の重量割合を、
図3における、A´点(磁性材料粉末:93.0 %、樹脂材料:5.5 %、溶剤:1.5%)、B´点(磁性材料粉末:91.5 %、樹脂材料:5.5%、溶剤:3.0%)、C´点(磁性材料粉末:93.5%、樹脂材料:3.5%、溶剤:3.0%)、およびD´点(磁性材料粉末: 95.0%、樹脂材料:3.5%、溶剤:1.5%)を頂点とするクロスハッチングで示した四角形の領域内に位置するように設定するようにすれば、上述した磁性素子の特性の劣化を防止する効果をより高めることができる。
【0044】
このようにして構成された磁性混合物50がコイル部品10を包囲して埋設するように、型体60(
図4(A)を参照)内にコイル部品10と磁性混合物50を投入し、この磁性混合物50を、例えば、押圧体30(
図4(A)を参照)によって上方から平面的に押圧して、この磁性混合物50内に、このコイル部品10を埋設し、これによって磁性素子の中間体が生成される。
【0045】
次に、本実施形態に係る磁性素子100の製造方法について説明する。
図4(A)、(B)、(C)を用いて、この製造方法における各工程について説明する。なお、これらの図において、コイル部品10および磁性混合物50(磁性コア20)は断面が表されているが、断面を示すハッチングは図示を省略されている。
【0046】
まず、磁性材料粉末(例えばFe−Si−Cr(センダスト)系粉末)、バインダー樹脂(樹脂材:例えばエポキシ樹脂またはシリコン樹脂)、および溶剤(例えば、フタル酸ジエチル)を、プラネタリーミキサーを用い、前述した、所定の重量割合で均一に分散されるように混合して磁性混合物50を作成し、所定の容器に収容しておく(混合工程)。
【0047】
また、上記磁性混合物50に埋設されるコイル部品10を準備する。このコイル部品10は、磁性混合物50(磁性コア20)に埋設されたときに、
図1、2に示すように、コイル15の非巻回部19が、磁性コア20の底面側に向かうように折り曲げられ、磁性コア20の外部において、磁性素子100の底面に沿うように折り曲げられて面実装用の端子として機能するようになし、最終端部17が、再び磁性コア20内に差し込まれるように折り曲げられる、との形状となるように成型されている。これにより面実装タイプの磁性素子100として形成することができる。
【0048】
次に、型体60および蓋体40を準備する(型体・蓋体準備工程)。蓋体40は、押圧体30が磁性混合物50(磁性コア20)に直接的に付着することを防止し、かつ熱硬化後の磁性コア20から容易に剥離することが可能な離型シートである。
【0049】
離形シートからなる蓋体40は離型性の良い樹脂材料からなることが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂材料を用いることができる。蓋体40の厚みは特に限定されるものではなく、いわゆるシート状のほか、プレート状やブロック状などでもよい。蓋体40は、型体(金型)60の開口部70の断面と略同形状をなし、実質的に同一の寸法を有している。これにより、蓋体40を開口部70の内側に隙間なく配設することができる。
【0050】
次に、型体60内の中空部にコイル部品10を投入して非巻回部19の端子部16を底部64の凹部66に嵌合させる。次に、所定量に計量された、上記混合工程で生成された磁性混合物50を、開口部70の少し下まで投入する。
【0051】
上述したようにして投入された磁性混合物50を必要に応じてへら状のもの(図示せず)等で平坦化したのち、
図4(A)に示すように、磁性混合物50の表面に蓋体40を載置する。続いて、押圧体30を実質的に回転させることなく下降させて蓋体40を下方に押圧する(押圧工程)。磁性混合物50が型体60に十分に押し込まれると、コイル部品10が磁性混合物50内に確実に埋設された状態となる(埋設工程)。この後、押圧体30を回転させずに上昇させる。押圧体30を回転させず上下動させるのは、蓋体40が押圧体30との間の摩擦力によって変形することを防止するためである。
【0052】
次に、型体60内に押し込まれた磁性混合物50をコイル部品10とともに型体60から取り出す。具体的には、
図4(B)に示すように、型体60の上方から突き出し部材34等を用いて磁性混合物50およびコイル部品10を押し下げる。この時、後述の熱硬化工程の直前状態で、未硬化とされている磁性素子100を中間体と呼ぶ。
【0053】
次に、取り出された磁性混合物50を熱硬化させて磁性コア20を成形する(硬化工程)。磁性混合物50を熱硬化させる際には、磁性混合物50およびコイル部品10を、例えば耐熱トレー74に載置して行う。この後、磁性コア20の熱硬化処理が終了すると、必要に応じて除熱した上で、磁性コア20から蓋体40を剥離する。
図4(C)に矢印で示すように蓋体40を磁性コア20から容易に引き剥がすことができるように、矩形状の蓋体40の一辺には剥離用把持部(図示せず)を形成してもよい。剥離用把持部は、蓋体40の一辺を小さく切り欠くか、または折り返すことにより形成することができる。これにより、磁性素子100の製造工程が終了する。
【0054】
次に、本発明の磁性素子に係る実施例について説明する。
(実施例)
本実施例では、磁性材料粉末として、Fe−Si−Cr系粉末を用い、また、バインダー樹脂としてエポキシ樹脂を用い、さらに、溶剤としてフタル酸ジエチルを用い、これらをプラネタリーミキサーによって混合することにより磁性混合物を得た(混合工程)。
【0055】
その後、上述した実施形態の如く型体60を用いて、磁性混合物50内にコイル部品10を埋設し(埋設工程)、磁性混合物を、溶剤の沸点よりも低い温度(180℃)で加熱して硬化させる(硬化工程)ことで、磁性コア20を有する磁性素子100のサンプルを得た。
【0056】
なお、コイル部品10は、絶縁層がポリアミドイミド、融着層が熱可塑性樹脂を材質とする融着銅線を用いており、そのコイルを内径4.5mm、外径8.0mmとなる状態で16.5回巻回して形成した。なお、このときの磁性コア20の外寸は、縦が10mm、横が10mm、厚みが5mmとなっている。
【0057】
このような磁性素子100のサンプルに対し、磁性材料粉末の重量割合と、バインダー樹脂の重量割合と、溶剤の重量割合を、種々変更して、各種の測定を行った。このとき、形成された磁性素子100の磁性コア20のガス透過率について測定した。なお、成形体の磁性コア20の重量、バインダー樹脂の重量、および溶剤の重量は電子天秤を用いて測定している。
【0058】
また、ガス透過率は、本出願人が先に出願した特開2016-171115号公報の明細書および
図面中で開示している、2つの型を突き合わせることで構成した、公知のガス透過率測定器を使用した。
なお、ガス透過率の計測は、室内環境にて行った。ガス透過率は、cm
3・mm / (m
2・sec・atm)で表すようにした。
【0059】
なお、製品インダクタンス(Ls)については、周知の測定方法にて測定を行った。
【0060】
また、磁性素子100に対して行われたMSL試験は、125℃試験槽に24時間保存(水分除去)した後に、85℃‐85%試験槽に168時間保存(吸水)して、最高温度が260度のリフロー炉を通過させる、という条件である。
具体的な項目としては、磁性コア20の外観にクラックが発生した割合(クラック発生率)、およびインダクタンス値(L)の変化率を測定した。
【0061】
この測定結果から、クラック発生率が0の場合には合格(後述する表1では、crack発
生率の判定欄に○印を付す)とし、クラック発生率が0よりも大きい場合(少しでもクラックが発生している場合)には不合格(後述する表1では、crack発生率の判定欄に×印
を付す)とした。また、インダクタンス値(L)の変化率については、±5%以内に収まっている場合(−5%≦Lの変化率≦5%)には合格(後述する表1では、インダクタンス変化率の判定欄に○印を付す)とし、インダクタンス値(L)の変化率が±5%以内に収まっていない場合(−5%>Lの変化率、または5%<Lの変化率)には不合格(後述する表1では、インダクタンス変化率の判定欄に×印を付す)とした。
【0062】
また、磁性素子100の落下試験および形状保持性についても測定した。すなわち、磁性素子100の落下試験は、100cmの高さから磁性素子100を落下させ、破損するか否かを測定した。一方、磁性素子100の形状保持性については、磁性素子100の成形体をハンドリング可能か否かという観点で測定した。即ち、形状保持性とは、前記中間体がサポートされず、ある時間を経っても、変形せず自立できるかどうかに関する指標である。
【0063】
この測定結果から、落下試験については、破損率が0の場合には合格(後述する表1では、落下試験の判定欄に○印を付す)とし、破損率が0よりも大きい場合(少しでも破損した場合)には不合格(後述する表1では、落下試験の判定欄に×印を付す)とした。また、形状保持性については、磁性素子100の成形体をハンドリング可能な場合には合格(後述する表1では、形状保持性の判定欄に○印を付す)とし、磁性コア20をハンドリングするのが難しい場合には不合格(後述する表1では、形状保持性の判定欄に×印を付す)とした。
【0064】
そして、上述の各項目に基づいて、総合判定を行った。総合判定は、全ての測定項目において合格した場合に最終合格品(後述する表1では、総合判定の判定欄に○印を付す)、一つの測定項目でも不合格であった場合には最終不合格品(後述する表1では、総合判定の判定欄に×印を付す)とした。
このような各項目についての結果をまとめて示したものが下記表1である。
【0065】
なお、この表1において、実施例1〜19については、上述したように、(1)パテ材(磁性コア20)全体に占める磁性材料粉末の重量割合が89.2重量%以上かつ96.1重量%以下の範囲となるように、(2)パテ材(磁性コア20)全体に占めるバインダー樹脂の重量割合が2.9重量%以上かつ6.9重量%以下の範囲となるように、さらに(3)パテ材(磁性コア20)に対する、溶剤の重量割合が1.0重量%以上かつ3.9重量%以下の範囲となるように、設定されたものであり、いずれも、
図3に示す3元系状態図のハッチング領域内に含まれる。
これに対し、比較例1〜28については、上述した(1)、(2)、(3)の条件のうち、少なくとも1つの条件は満足されておらず、いずれも、
図3に示す3元系状態図のハッチング領域外に位置する。
【0067】
上記表1から明らかなように、実施例1〜19においては、MSL試験におけるクラック発生率やインダクタンス値(L)の変化率に関する判定だけではなく、落下試験判定や形状保持性判定についても、全てが合格となっており、総合判定が合格(表1では、総合判
定の判定欄に○印を付す)との結果を得た。
【0068】
また、ガス透過率は、磁性混合物50に含まれる溶剤の重量比率と密接に関連しており、実施例1〜19においては、ガス透過率が、少なくても500cm
3・mm / (m
2・sec・atm)
となっている(実施例16)。
これに対し、磁性混合物50に含まれる溶剤の重量比率が1.0重量%よりも小さい0.5重量%の場合には、ガス透過率は最大でも270cm
3・mm / (m
2・sec・atm)となっている(比
較例4の場合)。
【0069】
溶剤の重量比率が1.0重量%以上となると、磁性混合物50を熱硬化させて磁性コア2
0を形成する場合に、この溶剤の蒸発によりこの磁性コア20内にガスを透過させる細孔が生じ、この後、MSL試験を行った場合に、閉じ込められていた水分が水蒸気となって蒸発する際にも、この細孔を通して、水蒸気を磁性コア20の外部に放出することができる。
これにより、特にMSL試験におけるクラックの発生率が良好となったと考えられる。
【0070】
これに対して、溶剤の重量比率が1.0重量%を下回ると、磁性混合物50を熱硬化させ
て磁性コア20を形成する場合に、この溶剤の蒸発量が少ないことから、この磁性コア20内にガスを透過させる細孔があまり形成されない。したがって、この後、MSL試験を行った場合に、閉じ込められていた水分が水蒸気となって蒸発する際にも、この細孔を通して、水蒸気を磁性コア20の外部に放出することが不完全となる。これにより、特にMSL試験におけるクラックの発生率の点において、不良の判定となったと考えられる。
【0071】
したがって、溶剤の重量比率が1.0重量%であるか、あるいはそれ以下(例えば0.5%)であるかは、ガス透過率に大きな差を生ぜしめ、これによってMSL試験時におけるクラック発生率に大きな差が生じると考えられる。
【0072】
また、パテ材(コア20)に対する、溶剤の重量割合が1.5重量%以上かつ3.0重量%以下の範囲となるように設定することにより、他の項目の判定を良好に維持しつつ、ガス透過率を格段に向上させることができるので、より好ましい。
【0073】
また、パテ材(磁性コア20)に対する、溶剤の重量割合が3.9重量%を超えると、形
状保持性が極端に悪化し、さらに、パテ材(磁性コア20)に対する、溶剤の重量割合が1.0重量%以上かつ3.9重量%以下の範囲であっても、パテ材(磁性コア20)全体に占める磁性材料粉末の重量割合が91.1重量%以下となり、かつパテ材(磁性コア20)全体に占めるバインダー樹脂の重量割合が7.7重量%以上となると、形状保持性が極端に悪化す
る。
このように形状保持性が極端に悪化すると、MSL試験における、クラック発生率判定やインダクタンス変化率判定、さらには落下試験を行うことができない。このため、表1における該当欄には斜線が付されている。
【0074】
さらに、表1に示すように、パテ材(磁性コア20)全体に占めるバインダー樹脂の重量割合が2.0重量%以下となると、磁性コア20が弾性を失い脆い状態となるので製品強
度が不足し、落下試験判定が不合格となっている。このため、総合判定も不合格となっている。
【0075】
以上に説明した磁性素子100によれば、磁性コア20を形成する磁性混合物50が、磁性材料粉末とバインダー樹脂を含むパテ材と、パテ材の全重量に対し、沸点が200℃以
上かつ300℃以下の溶剤を1.0重量%以上かつ3.9重量%以下の割合で含むように混合して
なり、該磁性材料粉末は、該パテ材の全重量に対し89.2重量%以上かつ96.1重量%以下の
割合で含むように構成され、また、バインダー樹脂は、該パテ材の全重量に対し2.9重量
%以上かつ6.9重量%以下の割合で含むように構成され、この磁性コア20には、コイル
15を巻回することにより形成されるコイル部品20が埋設されている。
【0076】
そのため、MSL試験を行う高温環境下でも、コイル15の絶縁層や融着層、さらには磁性コア20の内部、さらにはコイル15自体に含まれていた水分による水蒸気を、磁性コア20に形成された細孔を通して、磁性素子100の外部に容易に放出させることができる。
これにより、MSL試験などの高温環境下において、磁性コア20が膨張したり、磁性コア20にクラックが生じる等の不具合を防止することができる。
【0077】
また、磁性コア20においてクラック等の発生が防止されるので、磁性素子100のインダクタンスが低下する不具合を防止することができる。
【0078】
なお、上述した磁性材料粉末、バインダー樹脂および溶剤としては上記実施例のものに限られるものではなく、上述した実施形態において挙げられた種々の部材等に替えることができる。
例えば、バインダー樹脂として、エポキシ樹脂に替えてシリコン樹脂等の他の樹脂を用いることができる。
【0079】
また、本発明の磁性混合物、、磁性素子の中間体、磁性素子および磁性素子の製造方法としては上記実施形態のものに限られるものではなく、本発明の趣旨を満たす限りにおいて、その他の種々の態様のものに変更が可能である。
【0080】
例えば、上述の実施形態においては、磁性混合物は、磁性材料粉末、バインダー樹脂、および溶剤からなるように示されているが、これら3つの要素以外の要素を有する構成とすることも可能である。
また、上記実施形態においては、埋設工程として、型体に、先にコイル部品を、その後に磁性混合物を入れ、磁性混合物を型体の上方から押圧して、コイル部品を磁性混合物内に埋め込むようにしているが、型体に、先に磁性混合物を、その後にコイル部品を入れ、コイル部品を磁性混合物内に押し込むようにして、コイル部品を磁性混合物内に埋設するようにしてもよい。
【0081】
また、上述の実施形態においては、磁性材料粉末とバインダー樹脂の混合物を圧縮(押圧)成形することによって、所望のガス透過率を備える磁性コア20を形成している。しかしながら、磁性コア20は、圧縮成形以外の製作方法によって形成しても良い。
【0082】
また、上述の実施形態においては、磁性素子として、インダクタを例に挙げて説明しているが、これに替えて、トランス等の他の磁性素子に本発明を適用するようにしても良い。
また、磁性コア20内に埋め込まれるコイル部品10としては、
図1、2に示される形状のものに限られず、例えば、コイル中空部に芯状の磁性材料や、コイル底部に板状の磁性材料を配置したような形状のものであっても良い。