【解決手段】SiCからなる半導体層6の表面に接しているショットキー電極20と、半導体層の表面を形成する第1導電型の低抵抗ドリフト層9および表面ドリフト層10と、ドリフト層の表層部に形成された高抵抗層17とを含む。ショットキー電極は、第1ショットキー障壁を形成する第1電極22と、第1ショットキー障壁に対して相対的に低い第2ショットキー障壁を形成する第2電極23とを含む。逆方向電圧が印加されたときの半導体層の表面での電界強度が弱いので、半導体層の表面に接するショットキー電極と半導体層との間のバリアハイトを低くしても、逆方向リーク電流を低減することができる。
前記ドリフト層の前記第2部分は、前記ドリフト層の前記表層部における前記電界緩和層の周縁部に形成され、前記ドリフト層の前記第1部分は、前記ドリフト層の前記表層部において前記周縁部と隣り合う部分に形成されている、請求項1に記載の半導体装置。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記背景の下でなされた半導体装置は、ワイドバンドギャップ半導体からなる半導体層と、前記半導体層の表面に接しているショットキー電極とを含み、前記半導体層は、前記半導体層の前記表面を形成するドリフト層と、前記ドリフト層の表層部に形成され、前記ドリフト層よりも高い抵抗を有する高抵抗層とを含み、前記高抵抗層は、前記半導体層の前記表面から不純物イオンを注入した後、1500℃未満のアニール処理をすることによって形成されてもよい。
【0005】
ワイドバンドギャップ半導体は、シリコンに比べて非常に高い降伏電圧を有している。この性能により、ワイドバンドギャップ半導体を用いた半導体装置は、高い耐圧性能を発揮することができる。これは、ワイドバンドギャップ半導体が、シリコンに比べて絶縁破壊電界強度が非常に高いことに由来する。そのため、ショットキーバリアダイオード構造を用いることによって、比較的高い逆方向電圧のデバイスの設計が可能である。
【0006】
しかしながら、ショットキーバリアダイオードに高い逆方向電圧が印加されると、ダイオードがブレークダウンしなくても、ワイドバンドギャップ半導体には高い電界がかかることとなる。そのため、ショットキーバリアダイオードの順方向電圧を低減する目的で、ショットキー電極とワイドバンドギャップ半導体との間のショットキー障壁の高さ(バリアハイト)を低くすると、ワイドバンドギャップ半導体内の強い電界強度に起因して、逆方向電圧印加時に当該ショットキー障壁を越えて流れるリーク電流(逆方向リーク電流)が増加する。
【0007】
逆方向リーク電流の増加を防止する観点から、ワイドバンドギャップ半導体を用いたショットキーバリアダイオードでは、高い逆方向電圧が印加されないようにし、さらにバリアハイトをある程度高くする必要がある。その結果、高い逆方向電圧に対してもブレークダウンを防止できるという、ワイドバンドギャップ半導体の耐圧性能を活かしきれないという不具合がある。
【0008】
ここで、本発明者らは、逆方向電圧が印加されたときの電界強度の分布を検討した。まず、高抵抗層が形成されていないワイドバンドギャップ半導体からなる半導体層に逆方向電圧が印加されると、通常、半導体層の裏面から表面に向かうにしたがって電界強度が強くなる。その電界強度は、半導体層の表面で最大となる。
したがって、このような構造の半導体層の表面にショットキー電極をショットキー接合させ、当該ショットキー電極と半導体層との間のショットキー障壁の高さ(バリアハイト)を低くしたショットキーバリアダイオードでは、半導体層の表面での電界強度が強い。そのため、降伏電圧に近い逆方向電圧が印加されたときに、当該ショットキー障壁を越えて流れる逆方向リーク電流を低減することは困難である。
【0009】
そこで、前記半導体装置によれば、半導体層(ドリフト層)の表層部に高抵抗層を形成している。これにより、半導体層の表面における電界強度を弱めることができる。逆方向電圧が印加されたときの半導体層の表面での電界強度が弱いので、半導体層の表面に接するショットキー電極と半導体層との間のバリアハイトを低くしても、逆方向リーク電流を低減することができる。すなわち、降伏電圧に近い逆方向電圧を印加しても逆方向リーク電流を確実に低減できるので、ワイドバンドギャップ半導体の耐圧性能を十分に活かすことができる。また、バリアハイトを低くできるので、順方向電圧を低減することもできる。
【0010】
さらに、高抵抗層が、半導体層の表面から不純物イオンを注入した後、1500℃未満のアニール処理をすることによって形成されるので、アニール処理の際のワイドバンドギャップ半導体の昇華量を低減することができる。その結果、半導体層の表面におけるステップバンチングの発生を抑制できるので、半導体層の表面の平坦性を良好に維持することができる。
【0011】
なお、この1500℃未満のアニール処理とは、注入された不純物イオンの衝突によりワイドバンドギャップ半導体の結晶構造に生じた欠陥を回復させるが(結晶性回復)、注入された不純物イオンを活性化させない程度のアニール処理のことを意味している。
また、前記ショットキー電極とは、半導体層との間にショットキー障壁を形成する金属電極、半導体層のバンドギャップとは異なるバンドギャップを有する異種半導体からなり、半導体層に対してヘテロ接合(バンドギャップ差を利用して半導体層との間に電位障壁を形成する接合)する半導体電極のいずれをも含む概念である。以下、この項においては、ショットキー接合およびヘテロ接合を総称して「ショットキー接合」とし、ショットキー障壁およびヘテロ接合により形成される電位障壁(ヘテロ障壁)を総称して「ショットキー障壁」とし、金属電極および半導体電極を総称して「ショットキー電極」とする。
【0012】
また、前記半導体装置は、前記高抵抗層のアニール処理後、前記半導体層と前記ショットキー電極との間に逆方向の降伏電圧以上の電圧を印加することにより得られることが好ましい。
これにより、逆方向リーク電流を一層低減することができる。
また、前記半導体装置では、前記半導体層は、SiCからなり、Si面からなる前記表面を有しており、前記半導体層のSi面からなる前記表面には、転位欠陥に整合するピットが形成されていないことが好ましい。
【0013】
また、前記半導体装置では、前記半導体層の前記表面における前記ショットキー電極との接合界面の表面粗さRmsが、1nm以下であることが好ましい。
また、前記半導体装置では、前記半導体層のオフ角が、4°以下であることが好ましい。
また、前記半導体装置では、高抵抗層の不純物の活性化率は、5%未満であることが好ましく、高抵抗層のシート抵抗は、1MΩ/□以上であることが好ましい。
【0014】
また、前記半導体装置では、前記ドリフト層が、逆方向電圧印加時に第1電界がかかる第1導電型の第1部分および当該第1電界に対して相対的に低い第2電界がかかる第1導電型の第2部分を有している場合、前記ショットキー電極は、前記第1部分との間に第1ショットキー障壁を形成する第1電極と、前記第2部分との間に前記第1ショットキー障壁に対して相対的に低い第2ショットキー障壁を形成する第2電極とを含むことが好ましい。
【0015】
前記半導体装置では、半導体層における電界集中を高抵抗層により抑制することができるが、ドリフト層には第1部分と第2部分との関係のように、相対的に電界強度が高い部分と低い部分とが存在する場合がある。
そこで上記のように、逆方向電圧印加時における半導体層の電界分布に応じてショットキー電極を適正に選択しておけば、逆方向電圧印加時に相対的に高い第1電界がかかる第1部分では、比較的高い第1ショットキー障壁により逆方向リーク電流が当該障壁を越えて流れることを抑制することができる。一方、相対的に低い第2電界がかかる第2部分では、ショットキー障壁の高さを低くしても逆方向リーク電流が当該ショットキー障壁を越えるおそれが少ない。そのため、比較的低い第2ショットキー障壁とすることにより、順方向電圧印加時に低い電圧で優先的に電流を流すことができる。よって、この構成により、逆方向リーク電流および順方向電圧の低減を効率よく行うことができる。
【0016】
そして、前記ドリフト層の前記第2部分は、たとえば、前記ドリフト層の前記表層部における前記高抵抗層の周縁部に形成され、前記ドリフト層の前記第1部分は、たとえば、前記ドリフト層の前記表層部において前記周縁部と隣り合う部分に形成されていることが好ましい。
また、前記半導体装置では、前記ドリフト層が、第1不純物濃度を有するベースドリフト層と、前記ベースドリフト層上に形成され、前記第1不純物濃度に対して相対的に高い第2不純物濃度を有する低抵抗ドリフト層とを含む場合、前記高抵抗層は、その最深部が前記低抵抗ドリフト層の途中に位置するように形成され、前記半導体層の一部を単位セルとして区画していることが好ましい。
【0017】
高抵抗層で区画された単位セルでは、電流を流すことができる領域(電流経路)が制約される。そのため、半導体層における単位セルを形成する部分の不純物濃度が低いと、単位セルの抵抗値が高くなるおそれがある。そこで上記のように、最深部が低抵抗ドリフト層の途中に位置するように高抵抗層を形成することにより、単位セルの全部もしくは一部を低抵抗ドリフト層で形成することができる。そのため、当該低抵抗ドリフト層が形成された部分では、電流経路がたとえ狭められても、比較的高い第2不純物濃度を有する低抵抗ドリフト層により抵抗値の上昇を抑制することができる。その結果、単位セルの低抵抗化を図ることができる。
【0018】
また、前記ベースドリフト層の前記第1不純物濃度は、前記半導体層の裏面から前記表面へ向かうにしたがって減少していてもよい。また、前記低抵抗ドリフト層の前記第2不純物濃度は、前記半導体層の裏面から前記表面へ向かうにしたがって一定であってもよいし、前記半導体層の裏面から前記表面へ向かうにしたがって減少していてもよい。
また、前記ドリフト層は、前記低抵抗ドリフト層上に形成され、前記第2不純物濃度に対して相対的に低い第3不純物濃度を有する表面ドリフト層をさらに含むことが好ましい。
【0019】
この構成により、半導体層の表層部の不純物濃度を小さくすることができるので、逆方向電圧印加時に半導体層の表層部にかかる電界強度を低減することができる。その結果、逆方向リーク電流を一層低減することができる。
また、前記半導体層は、SiC基板と、前記SiC基板上に形成され、前記第1不純物濃度に対して相対的に高い第4不純物濃度を有するバッファ層とをさらに含んでいてもよい。
【0020】
また、前記高抵抗層は、ストライプ状に形成されたストライプ層を含んでいてもよく、格子状に形成された格子層を含んでいてもよい。
また、ドリフト層および高抵抗層は、互いに異なる導電型を示していてもよく、互いに同一の導電型を示していてもよい。具体的な組み合わせとしては、(ドリフト層:n型、高抵抗層:p型)、(ドリフト層:p型、高抵抗層:n型)、(ドリフト層および高抵抗層のいずれもn型)および(ドリフト層および高抵抗層のいずれもp型)のいずれかであってよい。
【0021】
また、高抵抗層を形成するために半導体層に注入される不純物イオンは、ホウ素イオンを含むことが好ましい。
ホウ素イオンは比較的軽いイオンであるため、半導体層の表面から深い位置にまで簡単に注入することができる。そのため、高抵抗層の深さを、半導体層の表面に対して浅い位置から深い位置までの幅広い範囲で簡単に制御することができる。
【0022】
また、ワイドバンドギャップ半導体(バンドギャップが2eV以上)は、たとえば絶縁破壊電界が1MV/cmよりも大きい半導体であって、具体的には、SiC(たとえば、4H−SiC 絶縁破壊電界が約2.8MV/cmであり、バンドギャップの幅が約3.26eV)、GaN(絶縁破壊電界が約3MV/cmであり、バンドギャップの幅が約3.42eV)、ダイヤモンド(絶縁破壊電界が約8MV/cmであり、バンドギャップの幅が約5.47eV)などである。
【0023】
また、前記半導体装置の製造方法は、ワイドバンドギャップ半導体からなり、その表面を形成するドリフト層を含む半導体層を形成する工程と、前記半導体層の前記表面から前記ドリフト層に不純物イオンを選択的に注入することにより、前記ドリフト層の表層部に高濃度不純物層を形成する工程と、前記半導体層を1500℃未満でアニール処理することにより、前記高濃度不純物層を、前記ドリフト層よりも高い抵抗を有する高抵抗層に変質させる工程と、前記半導体層の前記表面に接するようにショットキー電極を形成する工程とを含む。
【0024】
この方法により、前記半導体装置を製造することができる。すなわち、この方法により製造された半導体装置によれば、逆方向リーク電流を低減できながら、バリアハイトを低くして順方向電圧を低減することができる。また、半導体層の表面の平坦性を良好に維持することもできる。
また、前記半導体装置の製造方法では、前記半導体層と前記ショットキー電極との間に逆方向の降伏電圧以上の電圧を印加する工程をさらに含むことが好ましい。
【0025】
また、前記半導体層を形成する工程が、SiCからなり、Si面からなる前記表面を有する半導体層を形成する工程である場合、前記半導体装置の製造方法は、は、前記半導体層の前記表面をO
2プラズマに曝すことにより、前記高濃度不純物層が形成された前記表面を第1清浄処理する工程をさらに含むことが好ましい。
前記半導体装置の製造方法により得られた半導体装置では、半導体層の表面は、高抵抗層を形成するために不純物イオンを注入したときにダメージを受ける。そのため、イオン注入後、ダメージを受けた表面を滑らかになるように改善する清浄処理を行う必要がある。清浄処理は、一般には、半導体層の表面を熱酸化して犠牲酸化膜を形成し、その犠牲酸化膜を剥離することにより行われる。
【0026】
しかしながら、ショットキー電極が接合されるデバイス面がSi面である場合には、半導体層において、半導体層を厚さ方向に伝播した貫通転位(転位欠陥)に整合する位置からまず酸化し始め、さらに当該部分の熱酸化レートが他の部分よりも速いという酸化レートの異方性が存在する。その結果、犠牲酸化膜を剥離した後の半導体層の表面(Si面)において、転位欠陥に整合する位置にピット(小さな窪み)が形成されるので、半導体層の表面を平坦にできないという問題がある。また、不純物イオンが注入された領域(高抵抗層が形成される領域)と、当該領域以外の領域との不純物濃度の差に起因して、これらの領域間でも酸化レートが異なるので、熱酸化後に、これらの領域間で段差を生じる問題もある。
【0027】
そこで、前記半導体装置の一実施形態の方法によれば、不純物イオン注入後の第1清浄処理を、O
2プラズマの照射によって行う。そのため、第1清浄処理後の半導体層の表面において、転位欠陥に整合するピットが発生することを防止することができる。また、ドリフト層と高抵抗層との間において、半導体層の表面に段差が発生することも防止することができる。その結果、半導体層の表面の平坦性を良好に維持することができるので、半導体層とショットキー電極との接合性を向上させることができる。
【0028】
また、前記半導体装置の製造方法は、前記半導体層の前記表面にフィールド絶縁膜を形成する工程と、エッチングにより、前記半導体層の前記表面を露出させるコンタクトホールを、前記フィールド絶縁膜に形成する工程と、前記半導体層の前記表面をO
2プラズマに曝すことにより、前記コンタクトホールに露出する前記半導体層の前記表面を第2清浄処理する工程とをさらに含み、前記ショットキー電極を形成する工程は、前記コンタクトホールに露出し、前記第2清浄処理された後の前記半導体層の前記表面に接するように前記ショットキー電極を形成する工程を含むことが好ましい。
【0029】
この方法によれば、エッチングによりダメージを受けた半導体層の表面を、O
2プラズマの照射によって第2清浄処理するので、第2清浄処理後の半導体層の表面において、転位欠陥に整合するピットが発生することを防止することができる。また、ドリフト層と高抵抗層との間において、半導体層の表面に段差が発生することも防止することができる。
また、前記半導体装置の製造方法では、前記高濃度不純物層を形成する工程は、前記ドリフト層に、前記不純物イオンを1×10
14cm
−2以上のドーズ量で注入する工程を含むことが好ましい。
【0030】
この方法により、半導体装置の耐圧を一層向上させることができる。
また、前記高濃度不純物層を形成する工程は、注入エネルギを変化させることにより、前記半導体層の前記表面から所定の深さまで前記不純物イオンを複数段にわたって注入する多段注入工程を含んでいてもよく、前記半導体層の前記表面から所定の深さの位置に前記不純物イオンを注入する1段注入工程を含んでいてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下では、本発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
<ショットキーバリアダイオードの全体構成>
図1は、本発明の一実施形態に係るショットキーバリアダイオードの平面図である。
図2は、
図1の切断面線A−Aから見た断面図である。
半導体装置としてのショットキーバリアダイオード1は、4H−SiCが採用されたショットキーバリアダイオードである。4H−SiCは、絶縁破壊電界が約2.8MV/cmであり、バンドギャップの幅が約3.26eVのワイドバンドギャップ半導体である。ショットキーバリアダイオード1は、たとえば平面視正方形のチップ状であり、
図1の紙面における上下左右方向の長さがそれぞれ数mm程度である。
【0033】
ショットキーバリアダイオード1は、半導体層の一例としてのn
+型のSiCからなる基板2(SiC基板)を備えている。基板2の厚さは、たとえば、50μm〜600μmである。また、基板2のオフ角は、4°以下であることが好ましい。なお、n型不純物としては、たとえば、N(窒素)、P(リン)、As(ひ素)などを使用できる。
基板2の裏面3((000−1)C面)には、その全域を覆うようにオーミック電極としてのカソード電極4が形成されている。カソード電極4は、n型のSiCとオーミック接触する金属(たとえば、Ti/Ni/Ag、Ti/Ni/Au/Ag)からなる。
【0034】
基板2の表面5((0001)Si面)には、半導体層の一例としてのn型SiCからなるエピタキシャル層6が形成されている。なお、基板2の表面5は、Si面((0001)面)以外の面方位であってもよい。
エピタキシャル層6は、バッファ層7と、3層構造のドリフト層とが基板2の表面5からこの順に積層されて形成された構造を有している。3層構造のドリフト層は、ベースドリフト層8、低抵抗ドリフト層9および表面ドリフト層10を含む。バッファ層7は、エピタキシャル層6の裏面11((000−1)C面)を形成しており、基板2の表面5に接している。一方、表面ドリフト層10は、エピタキシャル層6の表面12((0001)Si面)を形成している。
【0035】
エピタキシャル層6の総厚さTは、たとえば、3μm〜100μmである。また、バッファ層7の厚さt
1は、たとえば、0.1μm〜1μmである。ベースドリフト層8の厚さt
2は、たとえば、2μm〜100μmである。低抵抗ドリフト層9の厚さt
3は、たとえば、1μm〜3μmである。表面ドリフト層10の厚さt
4は、たとえば、0.2μm〜0.5μmである。
【0036】
エピタキシャル層6の表面12は、たとえば、表面粗さRmsが1nm以下、好ましくは、0.1nm〜0.5nmの平坦面である。表面粗さRms(Root mean square:二乗平均平方根)は、たとえば、エピタキシャル層6の表面12をAFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)で撮影した実測値に基づいて算出することができる。すなわち、エピタキシャル層6の表面12は、上記範囲の表面粗さRmsを有する平坦性に優れた面であり、エピタキシャル層6の転位欠陥に整合するピットが形成されていない。
【0037】
図3および
図4を用いて、エピタキシャル層6の転位欠陥およびピットについて説明する。
図3に示すように、エピタキシャル層6には、基板2とバッファ層7との格子不整合や熱膨張係数の差などに起因して、その裏面11(基板2の表面5)から表面12へ向かって厚さ方向に伝播した貫通転位D(転位欠陥)が分布している。貫通転位Dの密度は、たとえば、1×10
2〜5×10
4cm
-2である。
【0038】
本実施形態のように、エピタキシャル層6の表面12が(0001)Si面である場合、
図4に示すように、表面12を熱酸化して酸化膜を形成すると、表面12における貫通転位Dに整合する位置からまず酸化し始め、さらに当該部分の酸化が他の部分よりも速く進む。つまり、酸化レートの異方性が存在する。その結果、この酸化膜を剥離した後のエピタキシャル層6の表面12において、貫通転位Dに整合する位置が局所的に窪んでピットが形成される。
【0039】
本実施形態では、後述するように、
図4に示すような表面12を熱酸化するというプロセスを経ないでショットキーバリアダイオード1を作製する。そのため、得られたショットキーバリアダイオード1のエピタキシャル層6の表面12には、転位欠陥に整合するピットが存在しないこととなる。
また、エピタキシャル層6の表面12には、エピタキシャル層6の一部を活性領域13として露出させるコンタクトホール14を有し、当該活性領域13を取り囲むフィールド領域15を覆うフィールド絶縁膜16が形成されている。フィールド絶縁膜16は、たとえば、SiO
2(酸化シリコン)からなる。また、フィールド絶縁膜16の厚さは、たとえば、0.5μm〜3μmである。
【0040】
活性領域13においてエピタキシャル層6の表面12側には、当該表面12から表面ドリフト層10を貫通して、最深部が低抵抗ドリフト層9の途中に位置する高抵抗層17が形成されている。高抵抗層17は、たとえばストライプ状である。ストライプ状の高抵抗層17は、ショットキーバリアダイオード1の一組の対辺の対向方向に沿って直線状に延びる複数の高抵抗層17が、互いに間隔を空けて平行に配列されることによって形成されている。互いに隣り合う高抵抗層17の中央間の距離(単位セル18のピッチP)は、たとえば、2μm〜20μmである。また、各高抵抗層17の深さD
1(エピタキシャル層6の表面12から高抵抗層17の最深部までの距離)は、たとえば、1000Å〜10000Åである。また、各高抵抗層17の長手方向に直交する幅W
1は、0.1μm〜10μmである。なお、高抵抗層17を形成するための不純物としては、たとえば、B(ホウ素)、Al(アルミニウム)、Ar(アルゴン)などを使用できる。
【0041】
これにより、エピタキシャル層6には、互いに隣り合う高抵抗層17で挟まれることによって区画された単位セル18(ラインセル)がストライプ状に形成されている。各単位セル18は、その大半の領域を占めるベース部が低抵抗ドリフト層9により形成され、ベース部に対して表面12側の表層部が表面ドリフト層10により形成されている。
単位セル18を区画する高抵抗層17は、各ドリフト層8〜10よりも高い抵抗を有する層である。たとえば、高抵抗層17のシート抵抗は、1MΩ/□以上である。
【0042】
本実施形態では、たとえば、1×10
17cm
-3〜5×10
20cm
-3の濃度で含有されている高抵抗層17の不純物の活性化率を5%未満、好ましくは、0%〜0.1%にすることにより、上記した範囲のシート抵抗は達成されている。なお、不純物の活性化率とは、ショットキーバリアダイオード1の製造工程においてエピタキシャル層6に注入した不純物イオンの全数に対して、活性化した不純物イオンの個数の割合を示している。
【0043】
フィールド絶縁膜16上には、アノード電極19が形成されている。アノード電極19は、ショットキー電極の一例としてのショットキーメタル20と、コンタクトメタル21との2層構造を有している。ショットキーメタル20は、フィールド絶縁膜16のコンタクトホール14内でエピタキシャル層6に接合されている。コンタクトメタル21は、ショットキーメタル20に積層されている。
【0044】
ショットキーメタル20は、第1電極の一例としての第1メタル22と、第2電極の一例としての第2メタル23とを含む。第1メタル22は、各単位セル18の表面に形成されている。第2メタル23は、互いに隣り合う高抵抗層17の間に跨り、それらの高抵抗層17で挟まれる単位セル18の表面の第1メタル22を覆っている。
第1メタル22は、各単位セル18の表面における、互いに隣り合う高抵抗層17の周縁部24で挟まれた中央部25において、高抵抗層17の長手方向に沿って直線状に形成されている。
【0045】
第2メタル23は、活性領域13全体を覆うように形成され、フィールド絶縁膜16のコンタクトホール14に埋め込まれている。第2メタル23は、各単位セル18の表面における周縁部24に接している。また、第2メタル23は、フィールド絶縁膜16におけるコンタクトホール14の周縁部を上から覆うように、当該コンタクトホール14の外方へフランジ状に張り出している。すなわち、フィールド絶縁膜16の周縁部は、エピタキシャル層6(表面ドリフト層10)および第2メタル23により、全周にわたってその上下両側から挟まれている。したがって、エピタキシャル層6におけるショットキー接合の外周領域(すなわち、フィールド領域15の内縁部)は、SiCからなるフィールド絶縁膜16の周縁部により覆われることとなる。
【0046】
コンタクトメタル21は、アノード電極19において、ショットキーバリアダイオード1の最表面に露出して、ボンディングワイヤなどが接合される部分である。コンタクトメタル21は、たとえば、Al(アルミニウム)からなる。また、コンタクトメタル21は、ショットキーメタル20(第2メタル23)と同様に、フィールド絶縁膜16におけるコンタクトホール14の周縁部を上から覆うように、当該コンタクトホール14の外方へフランジ状に張り出している。
【0047】
フィールド領域15においてエピタキシャル層6の表面12側には、ガードリング26が形成されている。ガードリング26は、エピタキシャル層6の表面12から表面ドリフト層10を貫通して、最深部が低抵抗ドリフト層9の途中に位置している。ガードリング26は、平面視において、フィールド絶縁膜16のコンタクトホール14の内外に跨るように(活性領域13およびフィールド領域15に跨るように)、当該コンタクトホール14の輪郭に沿って形成されている。したがって、ガードリング26は、コンタクトホール14の内方へ張り出す内側部分28と、コンタクトホール14の外方へ張り出す外側部分29とを含む。内側部分28は、コンタクトホール14内のアノード電極19(第2メタル23)の終端部としての外縁部27に接している。外側部分29は、フィールド絶縁膜16の周縁部を挟んでアノード電極19(第2メタル23)に対向している。
【0048】
ガードリング26の内側部分28の幅W
2は、20μm〜80μmであり、ガードリング26の外側部分29の幅W
3は、2μm〜20μmである。また、ガードリング26のエピタキシャル層6の表面12からの深さD
2は、たとえば、高抵抗層17と同じ深さ(たとえば、1000Å〜10000Å)である。
また、ガードリング26は、高抵抗層17と同様に、各ドリフト層8〜10よりも高い抵抗を有する層である。すなわち、ガードリング26は、シート抵抗が1MΩ/□以上であり、不純物の活性化率が5%未満(好ましくは、0%〜0.1%)である。
【0049】
ショットキーバリアダイオード1の最表面には、たとえば窒化シリコン(SiN)からなる表面保護膜30が形成されている。表面保護膜30の中央部には、アノード電極19(コンタクトメタル21)を露出させる開口31が形成されている。ボンディングワイヤなどは、この開口31を介してコンタクトメタル21に接合される。
このショットキーバリアダイオード1では、アノード電極19に正電圧、カソード電極4に負電圧を印加して順方向バイアス状態にすることにより、カソード電極4からアノード電極19へと、エピタキシャル層6の活性領域13を介して電子(キャリア)を移動させて電流を流すことができる。
<高抵抗層の導入効果>
図5〜
図10を参照して、エピタキシャル層6に高抵抗層17を形成することによる逆方向リーク電流および順方向電圧を低減効果について説明する。
(1)電界強度の分布の解析
まず、エピタキシャル層に逆方向電圧を印加したときの電界強度の分布をシミュレーションにより解析した。結果を
図5および
図6に示す。
図5および
図6において、
図2に示す各部に相当する部分には、それらの各部に付した参照符号と同一の参照符号を付している。
【0050】
図5および
図6の構造を、以下のように設計した。
・n
+型基板2:濃度=1×10
19cm
-3 厚さ=1μm
・n
-型エピタキシャル層6:濃度=1×10
16cm
-3 厚さT=5μm
・高抵抗層17:ピーク濃度=1×10
20cm
-3、活性化率1%、深さD
1=3000Å 幅W
1=1μm
そして、
図5および
図6それぞれの構造を有するショットキーバリアダイオード1のアノード−カソード間に逆方向電圧(600V)を印加したときの、エピタキシャル層6内の電界強度分布をシミュレーションした。シミュレータとして、Synopsys社製のTCAD(製品名)を使用した。
【0051】
図5に示すように、高抵抗層17が形成されていないショットキーバリアダイオードでは、エピタキシャル層6の裏面11から表面12へ向かうにしたがって電界強度が強くなり、エピタキシャル層6の表面12で最大(1.5×10
6V/cm程度)となることが確認できた。
これに対して、
図6に示すように、高抵抗層17が形成されているショットキーバリアダイオードでは、高抵抗層17構造の形成により、互いに隣り合う高抵抗層17で挟まれる部分(単位セル18)の周縁部24での電界強度が弱められていることが確認できた。具体的には、単位セル18の周縁部24の電界強度が0.5×10
6V/cm〜0.7×10
6V/cm程度であり、単位セル18の中央部25の電界強度が1.5×10
6V/cm程度であった。すなわち、
図6のショットキーバリアダイオードでは、エピタキシャル層6の表面12(単位セル18の表面)に接するアノード電極19(ショットキーメタル20)とエピタキシャル層6との間のバリアハイトを低くしても、降伏電圧に近い逆方向電圧が印加されたときの単位セル18の周縁部24での電界強度が弱い。そのため、少なくとも周縁部24では、バリアハイトを越える逆方向リーク電流を低減することができるので、その結果、逆方向リーク電流の絶対量を低減できることが確認できた。
【0052】
以上より、
図1および
図2のショットキーバリアダイオード1は、逆方向リーク電流を低減できながら、バリアハイトを低くして順方向電圧を低減できることが確認できた。
(2)逆方向リーク電流の解析
次に、実際にショットキーバリアダイオードの試作品を作製し、当該試作品を用いて逆方向リーク電流を測定することにより、逆方向リーク電流の低減量を解析した。試作品の構造を
図7および
図8に示し、リーク電流の実測値を
図9および
図10に示す。
図7および
図8において、
図2に示す各部に相当する部分には、それらの各部に付した参照符号と同一の参照符号を付している。
【0053】
図7および
図8の試作品を、以下のように作製した。
n
+型基板2(濃度=1×10
19cm
-3 厚さ=250μm チップサイズ=1.44mm角)上に、n
-型エピタキシャル層6(濃度=1×10
16cm
-3 厚さT=3.5μm)を成長させた。次に、所定の形状にパターニングされたハードマスク(SiO
2)を介して、エピタキシャル層6の表面12から内部へ向かってホウ素(B)イオンを、注入エネルギ=180keV、ドーズ量=1×10
15cm
-2で注入した。その後、エピタキシャル層6を1150℃で30分間、熱処理(アニール処理)した。これにより、エピタキシャル層6の表層部に高抵抗層17(深さD
1=4500Å 幅W
1=1μm 単位セルのピッチP=4μm
図8のみ)およびガードリング26を同時に形成した。そして、エピタキシャル層6の表面12にフィールド絶縁膜16(SiO
2 厚さ=15000Å)を形成し、1.2mm角の活性領域13が露出するようにパターニングした。次に、アノード電極19を形成した。アノード電極19は、エピタキシャル層6の表面12から順にTi/TiN/Alの積層構造とした。アノード電極19の形成後、基板2の裏面3に、当該裏面3から順にTi/Ni/Au/Agの順で積層したカソード電極4を形成した。
【0054】
そして、
図7および
図8それぞれのショットキーバリアダイオードのアノード−カソード間に、0V〜600Vの逆方向電圧V
rを印加したときに流れるリーク電流を測定した。結果を
図9に示す。
次に、
図7および
図8それぞれのショットキーバリアダイオードのアノード−カソード間に、逆方向の降伏電圧(980V)を10msec.、印加した。その後、上記と同様に、
図7および
図8それぞれのショットキーバリアダイオードのアノード−カソード間に、0V〜600Vの逆方向電圧V
rを印加したときに流れるリーク電流を測定した。結果を
図10に示す。
【0055】
図9に示すように、高抵抗層17が形成されていないショットキーバリアダイオードでは、400Vから600Vへと電圧を上げるにしたがってリーク電流が増加して、600Vで1×10
-6A程度のリーク電流が流れることが確認できた。このリーク電流の量は、ショットキーバリアダイオードに降伏電圧を印加しても、
図10に示すように、ほとんど低減されなかった。
【0056】
これに対して、高抵抗層17が形成されているショットキーバリアダイオードでは、
図9に示すように、400V付近でのリーク電流は、前者(「高抵抗層17なし」)の場合とほぼ同じ大きさ(1×10
-8A程度)であった。しかしながら、400Vから600Vへと電圧を上げる過程での増加率が前者の場合よりも低いことが確認できた。その結果、600Vでのリーク電流を、1×10
-7A程度にまで低減することができた。しかも、このショットキーバリアダイオオードでは、アノード−カソード間に降伏電圧を印加することにより、リーク電流を大幅に低減することができた。たとえば、
図10に示すように、600Vでのリーク電流を、0.5×10
-7A程度にまで低減することが確認できた。
<表面平坦性、および表面平坦性とリーク電流との関係の確認>
次に、
図11〜
図13を参照して、アニール処理の温度によってエピタキシャル層6の表面12の平坦性がどのように変化するかを説明する。
【0057】
まず、n
+型基板2(濃度=1×10
19cm
-3 厚さ=250μm)上に、n
-型エピタキシャル層6(濃度=1×10
16cm
-3 厚さT=3.5μm)を成長させた。この状態からアニール処理をしないで、エピタキシャル層6の表面12の凹凸状態を、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)で計測した。得られたAFM画像の一部を断面解析したグラフを
図11に示す。同様に、エピタキシャル層6の成長後、1450℃で3分間アニール処理したときの表面12の凹凸状態、および1600℃で3分間アニールしたときの表面12の凹凸状態も調べた。結果を
図12および
図13にそれぞれ示す。
【0058】
図11および
図12に示すように、エピタキシャル層6にアニール処理を施さないか、施しても処理温度が1450℃(<1500℃)であれば、表面12の平坦性が維持されることが確認できた(凹凸の振れ幅が±1.0nm以下=表面粗さRmsが1nm以下)。
一方、
図13に示すように、1600℃(≧1500℃)でアニール処理したエピタキシャル層6では、表面12にステップバンチングが発生して、平坦性が悪化していることが確認できた(凹凸の振れ幅が±3.0nm以上=表面粗さRmsが3nm以上)。
【0059】
次に、1450℃で3分間アニール処理したものを試作品として2つ使用し、それぞれのエピタキシャル層6の表面12に対して清浄処理を行った。一方のエピタキシャル層6の表面12には、O
2プラズマ処理を施し、他方のエピタキシャル層6の表面12には、熱酸化により犠牲酸化膜を形成し、その後、その犠牲酸化膜を剥離する処理を施した。そして、それぞれのエピタキシャル層6の表面12にTiをショットキー接合させることにより(ショットキー障壁φBN=1.14eV)、ショットキーバリアダイオードを作製した。
【0060】
次に、それぞれのショットキーバリアダイオードのアノード−カソード間に、0V〜600Vの順方向電圧V
fおよび逆方向電圧V
rを印加したときに流れる順方向電流I
fおよび逆方向リーク電流I
rをそれぞれ測定した。結果を
図14および
図15に示す。
図14に示すように、エピタキシャル層6の表面12の清浄処理として、O
2プラズマ処理および犠牲酸化膜による処理のいずれを施した場合であっても、順方向特性にほとんど差はないことが確認できた。
【0061】
一方、
図15に示すように、犠牲酸化膜による処理を施したショットキーバリアダイオードでは、100V付近からリーク電流が増加して、600Vで1×10
-3A程度のリーク電流が流れることが確認できた。このリーク電流は、犠牲酸化膜による処理の際、エピタキシャル層6の表面12に貫通転位に整合するピットが形成され、表面の平坦性が悪くなったためであると考えられる。
【0062】
これに対して、O
2プラズマ処理を施したショットキーバリアダイオードでは、400V付近からリーク電流が増加するものの、600Vで1.0×10
-6A程度という非常に低い値であることが確認できた。
この
図15の結果と、前述の
図9および
図10の結果により、高抵抗層17の導入に加え、当該高抵抗層17を形成する際のイオン注入によりエピタキシャル層6の表面12が受けたダメージを、O
2プラズマ処理により改善して表面平坦性を良好に維持すれば、リーク電流を一層低減できることが確認できた。
<2つのショットキー電極(第1メタルおよび第2メタル)>
次に、
図16および
図17を参照して、2つのショットキー電極(第1メタル22および第2メタル23)を設けたことによる逆方向リーク電流および順方向電圧の低減の効率化について説明する。
【0063】
図16は、
図6に示す電界強度の分布図を拡大した図であって、ショットキーバリアダイオードの高抵抗層付近を拡大して示している。
図17は、
図16の単位セルの表面における各位置と電界強度との関係を示すグラフである。
前述したように、本実施形態のショットキーバリアダイオード1では、高抵抗層17を形成することにより、単位セル18の周縁部24の電界強度を弱めることができる。したがって、単位セル18の表面12に分布する電界強度は、絶対値としては逆方向リーク電流の増加を招くものではないが、単位セル18の中央部25と周縁部24との関係のように、相対的に電界強度が高い部分と低い部分とが存在する場合がある。
【0064】
具体的には、
図16および
図17に示すように、半導体層の第2部分の一例としての単位セル18の周縁部24には、0.5×10
6V/cm〜0.7×10
6V/cmの電界強度が分布している。一方、半導体層の第1部分の一例としての単位セル18の中央部25には、1.5×10
6V/cm程度の電界強度が分布している。逆方向電圧印加時の電界強度分布は、単位セル18の中央部25の電界強度(第2電界)が、単位セル18の周縁部24の電界強度(第1電界)に比べて高くなっている。
【0065】
そこで、相対的に高い電界がかかる単位セル18の中央部25には、比較的高い電位障壁(たとえば、1.4eV)を形成するNiなどを第1メタル22としてショットキー接合させる。なお、電極がポリシリコンのような半導体電極の場合には、ショットキー接合に代えて、互いにバンドギャップの異なる半導体同士のヘテロ接合ということがある。
一方、相対的に低い電界がかかる単位セル18の周縁部24には、比較的低い電位障壁(たとえば0.7eV)を形成するアルミニウム(Al)などを第2メタル23としてショットキー接合させる。
【0066】
これにより、逆方向電圧印加時に相対的に高い電界がかかる単位セル18の中央部25では、第1メタル22(Ni)とエピタキシャル層6との間の高いショットキー障壁(第2ショットキー障壁)により逆方向リーク電流を抑制することができる。
一方、相対的に低い電界がかかる単位セル18の周縁部24では、第2メタル23(アルミニウム)とエピタキシャル層6との間のショットキー障壁の高さを低くしても逆方向リーク電流が当該ショットキー障壁を越えるおそれが少ない。したがって、低いショットキー障壁(第1ショットキー障壁)とすることにより、順方向電圧印加時に低い電圧で優先的に電流を流すことができる。また、この第2メタル23は、コンタクトメタル21を省略することにより、コンタクトメタルを兼ねることができる。
【0067】
このように、逆方向電圧印加時における単位セル18の電界強度の分布に応じてアノード電極19(ショットキー電極)を適正に選択することにより、逆方向リーク電流および順方向電圧の低減を効率よく行うことができることが確認された。
<エピタキシャル層の不純物濃度>
次に、
図18を参照して、基板2およびエピタキシャル層6の不純物濃度の大きさについて説明する。
【0068】
図18は、前記基板および前記エピタキシャル層の不純物濃度を説明するための図である。
図18に示すように、基板2およびエピタキシャル層6は、いずれもn型不純物を含有するn型SiCからなる。それらの不純物濃度の大小関係は、基板2>バッファ層7>ドリフト層8〜10である。
【0069】
基板2の濃度は、たとえば、その厚さ方向に沿って5×10
18〜5×10
19cm
-3で一定である。バッファ層7の濃度は、たとえば、その厚さ方向に沿って、1×10
17〜5×10
18cm
-3で一定または表面に沿って濃度が薄い。
ドリフト層8〜10の濃度は、ベースドリフト層8、低抵抗ドリフト層9および表面ドリフト層10それぞれの界面を境に段階的に変化している。つまり、各界面に対して表面12側の層と裏面11側の層との間に濃度差がある。
【0070】
ベースドリフト層8の濃度は、たとえば、その厚さ方向に沿って、5×10
14〜5×10
16cm
-3で一定である。なお、ベースドリフト層8の濃度は、
図18の破線で示すように、エピタキシャル層6の裏面11から表面へ向かうにしたがって、約3×10
16cm
-3から約5×10
15cm
-3まで連続的に減少していてもよい。
低抵抗ドリフト層9の濃度は、ベースドリフト層8の濃度よりも高く、たとえば、その厚さ方向に沿って、5×10
15〜5×10
17cm
-3で一定である。なお、低抵抗ドリフト層9の濃度は、
図18の破線で示すように、エピタキシャル層6の裏面11から表面へ向かうにしたがって、約3×10
17cm
-3から約1×10
16cm
-3まで連続的に減少していてもよい。
【0071】
表面ドリフト層10の濃度は、ベースドリフト層8および低抵抗ドリフト層9の濃度よりも低く、たとえば、その厚さ方向に沿って、5×10
14〜1×10
16cm
-3で一定である。
図1および
図2に示すように、ストライプ高抵抗層17で区画された単位セル18(ラインセル)では、電流を流すことができる領域(電流経路)が、高抵抗層17のピッチPの幅に制約される。そのため、エピタキシャル層6における単位セル18を形成する部分の不純物濃度が低いと、単位セル18の抵抗値が高くなるおそれがある。
【0072】
そこで、本実施形態では、
図18に示すように、単位セル18のベース部を形成する低抵抗ドリフト層9の濃度をベースドリフト層8よりも高くする。これにより、電流経路が高抵抗層17のピッチ幅に制約されていても、比較的高い濃度を有する低抵抗ドリフト層9により単位セル18の抵抗値の上昇を抑制することができる。その結果、単位セル18の低抵抗化を図ることができる。
【0073】
一方、ショットキーメタル20に接する単位セル18の表層部には、比較的低い濃度を有する表面ドリフト層10を設ける。これにより、逆方向電圧印加時にエピタキシャル層6の表面12にかかる電界強度を低減することができる。その結果、逆方向リーク電流を一層低減することができる。
<高抵抗層とSiC結晶構造との関係>
次に、
図19を参照して、高抵抗層とSiC結晶構造との関係について説明する。
【0074】
図19は、4H−SiCの結晶構造のユニットセルを表した模式図である。
本実施形態のショットキーバリアダイオード1に使用されるSiCには、結晶構造の違いにより、3C−SiC、4H−SiC、6H−SiCなどの種類がある。
これらのうち、4H−SiCの結晶構造は、六方晶系で近似することができ、1つのシリコン原子に対して4つの炭素原子が結合している。4つの炭素原子は、シリコン原子を中央に配置した正四面体の4つの頂点に位置している。これらの4つの炭素原子は、1つのシリコン原子が炭素原子に対して[0001]軸方向に位置し、他の3つの炭素原子がシリコン原子族原子に対して[000−1]軸側に位置している。
【0075】
[0001]軸および[000−1]軸は六角柱の軸方向に沿い、この[0001]軸を法線とする面(六角柱の頂面)が(0001)面(Si面)である。一方、[000−1]軸を法線とする面(六角柱の下面)が(000−1)面(C面)である。
[1−100]軸を法線とする六角柱の側面がそれぞれ(1−100)面であり、隣り合わない一対の稜線を通り、[11−20]軸を法線とする面が(11−20)面である。これらは、(0001)面および(000−1)面に対して直角な結晶面である。
【0076】
そして、本実施形態では、(0001)面を主面とする基板2を用い、その上に(0001)面が主面となるようにエピタキシャル層6を成長させている。また、高抵抗層17は、その(0001)面の表層部に形成されている。
<ショットキーバリアダイオードの製造方法>
次に、
図20A〜
図20Hを参照して、
図2のショットキーバリアダイオードの製造方法について説明する。
【0077】
まず、
図20Aに示すように、基板2の上に、バッファ層7、ベースドリフト層8、低抵抗ドリフト層9および表面ドリフト層10をこの順にエピタキシャル成長させる。
次に、
図20Bに示すように、たとえばCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長)法により、エピタキシャル層6の表面12((0001)Si面)にSiO
2からなるハードマスク32を形成する。ハードマスク32の厚さは、好ましくは、1.5μm〜3μmである。続いて、公知のフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術により、ハードマスク32をパターニングする。次に、当該ハードマスク32を介して、エピタキシャル層6の表面12へ向かって、30keV〜800keVの範囲の注入エネルギで、表面12から1.1μmの深さD
1の位置に不純物(ホウ素イオン)を選択的に注入(1段注入)する。不純物のドーズ量は、1×10
14cm
-2以上である。これにより、エピタキシャル層6の表層部に、ホウ素イオンが高濃度に選択的に注入された高濃度不純物層35が形成される。なお、イオン注入の際に表面12を覆うマスクとしては、ハードマスク32に代えてフォトレジストを用いてもよい。
【0078】
次に、
図20Cに示すように、ハードマスク32を剥離し、エピタキシャル層6をO
2プラズマに曝すことにより、表面12をO
2プラズマ処理する。これにより、高濃度不純物層35を形成するためのイオン注入の際にダメージを受けた表面12が、清浄処理(第1清浄処理)される。
次に、
図20Dに示すように、1500℃未満の温度、好ましくは、1100℃〜1400℃の温度でエピタキシャル層6をアニール処理する。これにより、高濃度不純物層35を高抵抗層17に変質させて、ストライプ状の高抵抗層17を形成する。このようなホウ素イオンのイオン注入法では、ホウ素イオンが比較的軽いイオンであるため、表面12から深い位置にまで簡単に注入することができる。そのため、高抵抗層17の深さD
1を、エピタキシャル層6の表面12に対して浅い位置から深い位置までの幅広い範囲で簡単に制御することができる。
【0079】
次に、
図20Eに示すように、たとえば、CVD法により、エピタキシャル層6の表面12にSiO
2からなるフィールド絶縁膜16を形成する。そして、フィールド絶縁膜16を選択的にドライエッチングすることにより、エピタキシャル層6の表面12を選択的に露出させるコンタクトホール14が形成される。
次に、
図20Fに示すように、エピタキシャル層6をO
2プラズマに曝すことにより、コンタクトホール14に露出する表面12をO
2プラズマ処理する。これにより、コンタクトホール14を形成するためのドライエッチングの際にダメージを受けた表面12が、清浄処理(第2清浄処理)される。
【0080】
その後、
図20Gに示すように、清浄処理された表面12に接するようにアノード電極19を形成し、表面保護膜30およびカソード電極4等を形成した後、
図20Hに示すように、アノード電極19とカソード電極4との間に、逆方向の降伏電圧を10msec.印加する。
以上の工程を経て、
図2のショットキーバリアダイオード1が得られる。
【0081】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、他の形態で実施することもできる。
たとえば、前述のショットキーバリアダイオード1の各半導体部分の導電型を反転した成が採用されてもよい。たとえば、ショットキーバリアダイオード1において、p型の部分がn型であり、n型の部分がp型であってもよい。
また、エピタキシャル層6および高抵抗層17は、互いに異なる導電型を示していてもよく、互いに同一の導電型を示していてもよい。具体的な組み合わせとしては、(エピタキシャル層6:n型、高抵抗層17:p型)、(エピタキシャル層6:p型、高抵抗層17:n型)、(エピタキシャル層6および高抵抗層17のいずれもn型)および(エピタキシャル層6および高抵抗層17のいずれもp型)のいずれかであってよい。
【0082】
また、高抵抗層17は、エピタキシャル層6の表面12へ向かって、30keV〜1000keVの範囲で注入エネルギを変化させることにより、表面12から0.1μm〜1.2μmの深さD
1まで不純物(ホウ素イオン)を複数段にわたって注入(多段注入)することによって形成してもよい。
また、前述の製造方法において、
図20Cおよび
図20Fに示したエピタキシャル層6をO
2プラズマに曝す工程の両方もしくは一方は、省略してもよい。
【0083】
また、エピタキシャル層6は、SiCからなる層に限らず、SiC以外のワイドバンドギャップ半導体、たとえば絶縁破壊電界が1MV/cmよりも大きい半導体であって、具体的には、GaN(絶縁破壊電界が約3MV/cmであり、バンドギャップの幅が約3.42eV)、ダイヤモンド(絶縁破壊電界が約8MV/cmであり、バンドギャップの幅が約5.47eV)などであってもよい。
【0084】
また、高抵抗層の平面形状は、ストライプ状である必要はなく、たとえば、
図21に示すような格子状の高抵抗層33であってよく、ストライプ状の高抵抗層17と併用されていてもよい。高抵抗層33が形成される場合、単位セル34は、格子状の高抵抗層33の各窓部分に直方体形状に形成されることとなる。
また、ショットキーメタルとしては、たとえば、前述のチタン(Ti)、Ni(ニッケル)、アルミニウムの他、たとえば、ポリシリコン、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)などを使用することにより、エピタキシャル層6に対してショットキー接合(ヘテロ接合)させることができる。たとえば、
図14および
図15に示す測定用のショットキーバリアダイオードのショットキーメタルとして、Tiに代えてポリシリコンを使用することができる。また、
図16および
図17に示す測定用のショットキーバリアダイオードの第1メタル22として、Niに代えてp型ポリシリコンを使用することができる。
【0085】
本発明の半導体装置(半導体パワーデバイス)は、たとえば、電気自動車(ハイブリッド車を含む)、電車、産業用ロボットなどの動力源として利用される電動モータを駆動するための駆動回路を構成するインバータ回路に用いられるパワーモジュールに組み込むことができる。また、太陽電池、風力発電機その他の発電装置(とくに自家発電装置)が発生する電力を商用電源の電力と整合するように変換するインバータ回路に用いられるパワーモジュールにも組み込むことができる。
【0086】
本発明の実施形態は、本発明の技術的内容を明らかにするために用いられた具体例に過ぎず、本発明はこれらの具体例に限定して解釈されるべきではなく、本発明の精神および範囲は添付の請求の範囲によってのみ限定される。
また、本発明の各実施形態において表した構成要素は、本発明の範囲で組み合わせることができる。
【0087】
本出願は、2011年5月18日に日本国特許庁に提出された特願2011−111129号および2011年6月22日に日本国特許庁に提出された特願2011−138400号に対応しており、これらの出願の全開示はここに引用により組み込まれるものとする。