【課題】鍛造成型において上型と素材上端部の間の過剰な荷重の低減を図りつつ、鍛造方法を簡略化して装置の小型化やコストの低減を図り、従来と同等以上の精度で製造加工を行うことが可能な閉塞鍛造方法を提供する。
【解決手段】上型3と上パンチ1と下型4を上下方向から近づけて密接させることにより閉塞されたキャビティを形成する第一ステップと、前記上型3と上パンチ1と下型4に任意の圧力をかけて鉛直下向き移動させ、キャビティの形状を維持したまま、固定された下パンチ2により素材Wを押圧し、前記キャビティに配置された素材Wの下端部を下型4で成形し、かつ上型3によって上端部Mを成形する第二ステップと、前記上端部Mにかかる圧力が最大となる下死点近傍で上パンチ用油圧シリンダ7によって前記上パンチ1の圧力が除荷されて前記素材Wの成型品Gを得る第三ステップとを順次行なうことで成型品Gを製造する。
上型と上パンチと下型を上下方向から近づけて密接させることにより閉塞されたキャビティを形成する第一ステップと、前記上型と上パンチと下型に任意の圧力をかけて鉛直下向き移動させ、キャビティの形状を維持したまま、固定された下パンチにより素材を押圧し、前記キャビティに配置された素材の下端部を下型で成形し、かつ前記上型によって前記上端部を成形する第二ステップと、前記上端部にかかる圧力が最大となる下死点近傍で上パンチ用油圧シリンダによって前記上パンチの圧力が除荷されて前記素材の成型品を得る第三ステップとを順次行なうことで成型品を製造することを特徴とする閉塞鍛造方法。
前記第三ステップでは、前記下死点近傍で、前記鉛直下向き移動に追従して前記上パンチ用油圧シリンダによって前記上パンチが鉛直上向き移動することで前記上パンチの圧力が除荷されることを特徴とする請求項1記載の閉塞鍛造方法。
前記上型の中央部に配置された前記上パンチと、前記上型に対向配置された前記下型と、前記上パンチに対向配置された下パンチを備え、前記第二ステップでは、前記下型での前記下端部の成型完了前、かつ前記上型での前記上端部の成型完了前に第三ステップに移行することを特徴とする請求項1記載の閉塞鍛造方法。
前記上型の位置を制御するスライドと、前記下型の圧力を制御する下型用油圧シリンダを備え、前記第三ステップでは、前記下死点直前であって前記上端部と下端部の成形完了前に、前記鉛直下向き移動に追従して前記上パンチ用油圧シリンダによって前記上パンチが鉛直上向き移動することで前記上パンチの圧力が除荷されることを特徴とする請求項3記載の閉塞鍛造方法。
【背景技術】
【0002】
自動車、航空機、産業機械等に用いられる機械部品の製造方法として鍛造が知られている。鍛造は鍛流線が連続することで組織が緻密になるため、鋳造に比べて空洞が生じにくく強靭な機械部品をつくることができる。鍛造には大きく分けて型鍛造と自由鍛造と回転鍛造の加工方法があり、型鍛造は、対をなす鍛造用金型である上型及び下型の間に素材を入れて圧縮成形する方法で、部品の大量生産に向く。型鍛造において、金型はダイセットを介してプレス機に取り付けられ、金型には素材がセットされる。鍛造用金型装置に備えられたスライドやパンチを上下動させることで金型を介して素材を押圧し、塑性流動させて成形する。
【0003】
型鍛造の方法としては、閉塞鍛造と据込み鍛造とが一般に知られている。本明細書では、上型と下型とが合わさったキャビティ(型空所)内に素材を完全に密閉した状態で素材を押圧する方法を閉塞鍛造と定義し、また、上型と下型とに隙間があって素材を完全に密閉しない状態で素材の一部を押圧する方法を据込み鍛造と定義して、両者を区別している。閉塞鍛造は、トリポード又はベベルギアのように、軸部から半径方向へ向けて突出した部分を持つ部品の成型で良く行われる。閉塞鍛造における押圧では側方押出し変形によって材料流動が生じるため、加工荷重が比較的低いことが特徴である。
【0004】
閉塞鍛造で成形されるベベルギアは、交わる2軸間に運動を伝達する円錐形状をした傘歯車であり、自動車や二輪車等の部品となる。また等速ジョイントのベアリング等に使用されるインナーレースも閉塞鍛造により成形される。トリポードはボス部の周囲に3本の軸部を放射状に有する部品であり、自動車等の部品として使用されている。これらの機械部品を製造するに際して、生産コストの低減や付加価値向上を考慮した方法が多数検討されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、既知の型鍛造方法には依然として問題がある。特許文献1の方法では、第1金型2と第2金型4とを相対接近駆動して、両金型2,4間に装填した素材をスパイラルベベルギアに冷間鍛造成型する際、第1金型2と素材のギア歯部1との間に過剰な荷重がかかる。また、特許文献2又は3の方法では、上型と下型によって閉塞させてキャビティを形成させる際には、予備成型品(一次成型品)の上部が上型に形成された歯型から離間しているため、上型の歯型の損傷が抑制されるが、キャビティ形成後に下ポンチまたは上ポンチの一方をキャビティに進入させて予備成型品を押圧する際に、上型の歯型と予備成型品(一次成型品)の上部との間で過剰な荷重がかかる。したがって特許文献1から3の方法では、金型や素材に破損が生じることや、金型の寿命が低下することがある。
特許文献4の場合では、上型1、下型2、上カウンタパンチ8、下カウンタパンチ22の各々を油圧制御するため、制御方法も複雑化し、かつ高価で大型な装置が必要となる。また、スライド6は上下動することがなく、かつ、上型1や下型2を何らかの油圧制御手段により同調(シンクロ)させてワーク7を上下方向から均等に押圧して成型する構成ともなっておらず、上型1と下型2の圧力制御を毎回同様に行うには困難性を伴う。その結果製品形状が不安定になりやすく、品質にばらつきが生じやすい。また上カウンタパンチと下カウンタパンチを共に除圧するため、素材上端部や上型にかかる最大荷重を厳密に制御することは難しい。
【0011】
このような実情に鑑みて、本発明の目的は、鍛造成型において上型と素材上端部の間の過剰な荷重の低減を図りつつ、鍛造方法を簡略化して装置の小型化やコストの低減を図り、従来と同等以上の精度で製造加工を行うことが可能な閉塞鍛造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の閉塞鍛造方法は、上型と上パンチと下型を上下方向から近づけて密接させることにより閉塞されたキャビティを形成する第一ステップと、前記上型と上パンチと下型に任意の圧力をかけて鉛直下向き移動させ、キャビティの形状を維持したまま、固定された下パンチにより素材を押圧し、前記キャビティに配置された素材の下端部を下型で成形し、かつ前記上型によって前記上端部を成形する第二ステップと、前記上端部にかかる圧力が最大となる下死点近傍で上パンチ用油圧シリンダによって前記上パンチの圧力が除荷されて前記素材の成型品を得る第三ステップとを順次行なうことで成型品を製造することを特徴とする。
また本発明の閉塞鍛造方法は、前記第三ステップでは、前記下死点近傍で、前記鉛直下向き移動に追従して前記上パンチ用油圧シリンダによって前記上パンチが鉛直上向き移動することで前記上パンチの圧力が除荷されることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、素材上端部の成形において素材上端部における圧力が最大となる下死点近傍で下型の鉛直下向き移動に追従して上パンチ用油圧シリンダによって上パンチの圧力が除荷されることで、鍛造成形において上型と素材上端部の間の過剰な荷重の低減を図ることができる。
【0014】
本発明の閉塞鍛造方法は、前記上型の中央部に配置された前記上パンチと、前記上型に対向配置された前記下型と、前記上パンチに対向配置された下パンチとを備え、前記第二ステップでは、前記下型での前記下端部の成形完了前、かつ前記上型での前記上端部の成型完了前に第三ステップに移行することを特徴とする。
また本発明の閉塞鍛造方法は、前記上型の位置を制御するスライドと、前記下型の圧力を制御する下型用油圧シリンダとを備え、前記第三ステップでは、前記下死点直前であって前記上端部と下端部の成型完了前に、前記鉛直下向き移動に追従して前記上パンチ用油圧シリンダによって前記上パンチが鉛直上向き移動することで前記上パンチの圧力が除荷されることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、成形時に上型と素材上端部の間に生じる過剰な荷重の低減を図ることができる。すなわち下パンチは固定されており移動しないため、下パンチが油圧制御される装置又は方法と比較して小型化し装置コストも抑えられる。また上パンチのみで除荷を行うので、素材上端部や上型にかかる最大荷重の制御が容易になる。
【0016】
本発明の閉塞鍛造方法は、前記成型品はべべルギア、インナーレース、又は、トリポードであることを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、鍛造成形時に素材上端部や上型にかかる圧力を厳密に制限できる。そのため、べべルギアのように素材上端部がギア形状となった成型品や、インナーレースのような凹凸形状を持つ成型品であっても、鍛造成形時の異常な高圧を抑制することができる。従って高圧負荷に弱い金型を使用する場合には金型の長寿命化が可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、鍛造成型において素材上端部に接触した上型にかかる最大荷重を制御して押圧することが可能であるため、上型と素材上端部との間に生じる過剰な荷重の低減を図ることができ、上型が長寿命化する。また鍛造方法が簡略化されるため装置の小型化やコストの低減を図ることができ、従来と同等以上の精度で製造加工を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態の閉塞鍛造装置を側面側から示す構造図であり、素材をセットした状態の図である。
【
図2】上記構造図において、第一ステップを行った状態を示す図である。
【
図3】上記構造図において、第二ステップを行った状態を示す図である。
【
図4】上記構造図において、第三ステップを行った状態を示す図である。
【
図5】上記実施形態において、第一ステップを行った状態の閉塞鍛造装置の要部拡大図である。
【
図6】上記実施形態において、第二ステップを行った状態の閉塞鍛造装置の要部拡大図である。
【
図7】上記実施形態において、第三ステップを行った状態の閉塞鍛造装置の要部拡大図である。
【
図8】本発明を適用した鍛造用金型装置における工程手順を示す工程フロー図である。
【
図9】鍛造加工を行う素材と、鍛造加工後の素材の成型品を例示する斜視図である。
【
図10】上記実施形態において、シミュレーション解析によって素材表面にかかる圧力を示した側面図と斜視図であり、従来法と比較した図である。
【
図11】上記実施形態のシミュレーション解析によって、第一ステップにおいて素材にかかる圧力を示した側面図と斜視図であり、従来法と比較した図である。
【
図12】上記実施形態のシミュレーション解析によって、第二ステップにおいて素材にかかる圧力を示した側面図と斜視図であり、従来法と比較した図である。
【
図13】上記実施形態のシミュレーション解析によって、第二ステップにおいて素材にかかる圧力を示した側面図と斜視図であり、従来法と比較した図である。
【
図14】上記実施形態のシミュレーション解析によって、第二ステップにおいて素材にかかる圧力を示した側面図と斜視図であり、従来法と比較した図である。
【
図15】上記実施形態のシミュレーション解析によって、第二ステップにおいて素材にかかる圧力を示した側面図と斜視図であり、従来法と比較した図である。
【
図16】上記実施形態のシミュレーション解析によって、第三ステップにおいて素材にかかる圧力を示した側面図と斜視図であり、従来法と比較した図である。
【
図17】上記実施形態のシミュレーション解析によって、第三ステップにおいて素材にかかる圧力を示した側面図と斜視図であり、従来法と比較した図である。
【
図18】上記実施形態のシミュレーション解析によって、第三ステップにおいて素材にかかる圧力を示した側面図と斜視図であり、従来法と比較した図である。
【
図19】上記実施形態のシミュレーション解析によって、第三ステップにおいて素材にかかる圧力を示した側面図と斜視図であり、従来法と比較した図である。
【
図20】上記実施形態のシミュレーション解析によって、素材にかかる圧力を示した斜視図であり、従来法と比較した図である。
【
図21】上記実施形態のシミュレーション解析によって、金型にかかる圧力を示した斜視図であり、従来法と比較した図である。
【
図22】鍛造加工後の素材の成型品を例示する斜視図である。
【
図23】上記実施形態のシミュレーション解析によって、素材にかかる荷重を示したグラフであり、従来法と比較したグラフである。
【
図24】上記実施形態のシミュレーション解析の、要部を拡大した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態を以下に説明する。
【0021】
本発明を適用した鍛造用金型装置(閉塞鍛造装置)100を側面側から示す構造図を
図1から
図4に示す。
図5は上記実施形態における第一ステップを行った状態の閉塞鍛造装置100の要部拡大図であり、同様に
図6は第二ステップ、
図7は第三ステップを行った状態の閉塞鍛造装置100の要部拡大図である。本実施形態の鍛造用金型装置100は、上型3の中央部に配置された上パンチ1と、上型3に対向配置された下型4と、上パンチ1に対向配置された下パンチ2と、上パンチ1の圧力を制御する上パンチ用油圧シリンダ7と、前記下型4の圧力を制御する下型用油圧シリンダ8とを備え、上型ホルダ51と下型ホルダ52と下型用油圧シリンダ8とがダイセット80に内蔵された構成であり、スライド201とボルスタ202からなるプレス機200に取り付けて使用される。本実施形態では、ダイセット80の下側62がボルスタ202に取り付けられ、ダイセット80の上側61がスライド201に取り付けられている。本実施形態の鍛造用金型装置100は、円柱形状の金属素材Wを押圧して加工を施す(
図1)。
【0022】
金属素材Wを鍛造成型した後の成型品Gとしては、ベベルギアG又はインナーレースG又はトリポードG等の凹凸形状をなした部品が考えられる(
図9、
図22)。その他成型品Gとしては、閉塞鍛造成形を行う際に素材Wや金型にかかる最大荷重が大きく、素材Wの一端が欠けやすい部品や金型の寿命が短い部品等が考えられるが、これらに限定はされない。
【0023】
前記上型ホルダ51には、素材Wの上部又は上端部を押圧して加工を施すための上型3が下向きに配され、上型ホルダ51の上方には上パンチ用油圧シリンダ7がダイセット80の上側61に内蔵されている(
図1)。上型3の中心部には上パンチ1が上下摺動自在に内嵌され、上パンチ1は素材Wの上部を押圧する。上パンチ1の先端部1aは穴加工の為の突起であり、下向きに縮径したテーパ形状をなす(
図5)。
【0024】
前記下型ホルダ52には、素材Wの下部の押圧加工を施すための下型4が上向きに配されており、下型ホルダ52の下方には油圧シリンダ8がダイセット80の下側62に内蔵されている(
図1)。下型4の中心部には下パンチ2が上下摺動自在に内嵌され、下パンチ2は素材Wの下部を押圧する。下パンチ2の先端部2aは穴加工の為の突起であり、上向きに縮径したテーパ形状をなす(
図5)。下パンチ2の下方には成型品Gを突き上げるためのノックアウトピン204が配されている。
【0025】
上パンチ用油圧シリンダ7は、上パンチ1を上下摺動自在に運動制御するために使用され、油室の油圧を調節することで上パンチ1の圧力が調節される。(
図1)。下型用油圧シリンダ8は、油圧エネルギをシリンダ力に変換して下型を上下摺動自在に運動制御するために使用される。下型用油圧シリンダ8は、上下方向に直線運動する構成であり、リング形状のシリンダ本体にピンが所定間隔で立設して下型4を持ち上げている(
図1)。上パンチ用油圧シリンダ7、下型用油圧シリンダ8がダイセット80に内蔵されていることによって油圧の伝達ロスが抑えられる。
【0026】
図8は、本発明を適用した鍛造用金型装置100における鍛造加工の工程手順を示す工程フロー図である。本実施形態の鍛造加工の工程手順は、素材Wをセットする工程(符号S1)と、上パンチ用油圧シリンダ7、そして下型用油圧シリンダ8の油圧を制御してキャビティを形成する第一ステップ(符号S2)と、上パンチ用油圧シリンダ7、そして下型用油圧シリンダ8の油圧を上げた状態で素材Wの下端部と上端部Mを形成する第二ステップ(符号S3)と、上パンチ用油圧シリンダ7の油圧を下げた状態として上パンチ1の除圧を行う第三ステップ(符号S4)とからなる。本実施形態の鍛造加工の工程手順の詳細を
図8に示す工程フロー図に沿って、以下に説明する。
【0027】
素材Wをセットする工程(
図8の符号S1)では、
図9(a)に示す円柱形状の金属素材Wを鍛造用金型装置100の下パンチ2上に載置する(
図1)。
【0028】
図2は、第一ステップとしてキャビティを形成させた状態の鍛造用金型装置100を示した構成図であり、
図5はその要部を側面からみた拡大図である。素材Wをセットすると、第一ステップ(
図8の符号S2)として、上パンチ1と上型3と下型4を上下方向から近づけて密接させることにより閉塞されたキャビティ(型空所)を形成させる。すなわち、まず上パンチ1は上パンチ用油圧シリンダ7によって油圧をかけた状態としておき、下型4も下型用油圧シリンダ8によって油圧をかけた状態としておく。そしてスライド201を下方へ移動させることにより、上型3と上パンチ1を全体的に下方へ押し下げることで、上パンチ1と上型3と下型4を密接させて、キャビティを形成させる。なお下パンチ2はクッションが無く、成形中は固定されており移動せず、ノックアウト時にはプレスのボトムノックアウトを使いノックアウトピン204で上昇させる。
第一ステップでは、下型用油圧シリンダ8の油圧は低圧で下型4を押し上げて保持している(
図2,5)。下型4の中心部分に位置する下パンチ2は上下移動しないが、下型4が油圧シリンダ8によって上方に押し上げられているため、下パンチ2は下型4に対して相対的にみて下方に位置している(
図2,5)。
【0029】
素材Wは第一ステップを行うと、第二ステップ(
図8の符号S3)として、下型用油圧シリンダ8の油を徐々に排出させて油量を下げることで、上パンチ1、上型3、そして下型4を同調させながらキャビティの形状を維持したまま下方へ移動させる。下パンチ2は固定されており、上下移動しないため、上パンチ1、上型3、そして下型4が下方へ移動することで、素材Wが上下方向から押圧される。なお上型3と下型4とを密接させてキャビティを形成させた状態で、上パンチ1と上型3と下型4を下方へ移動させて、固定された下パンチ2で素材Wを押圧するが、その際に、上型3と下型4の当接面(密接ライン)が開かないようにする為に、上型3と下型4には任意の圧力をかけている(
図3,6)。したがって、素材Wがキャビティ内で側方押出し変形されて素材Wの材料流動が生じる。このようにして素材Wは、キャビティ内で横方向にも広がることにより、上パンチ1、下パンチ2、上型3、そして下型4によって形成されたキャビティの凹凸形状部に押し込まれる(
図6)。下型4で前記キャビティに配置された素材Wの下端部を成形し、かつ前記上型3によって前記素材Wの上端部Mを成形する。この時、油圧シリンダ8により下型4の油圧制御を行って、過剰な負荷をかけずに成形を行う。また第二ステップでは、下型4での素材下端部の完全な成形が完了する前、かつ上型3での上端部Mの完全な成型が完了する前に、第三ステップに移行することで、金型において圧力負荷に脆弱な稜線部分や頂点部分に、過剰な負荷をかけずに成形を行う。なお、キャビティの凹凸形状部には、素材Wの上端部Mを成形するための上型3の素材上端成形部9や、素材Wの下端部を成形するための下型4の素材下端成形部10や、上パンチ1の先端部1aと上型3の素材上端成型部9によって形成された空間である、上部空所11や、下パンチ2の先端部2aと下型4によって形成された空間である下部空所12がある(
図5)。
【0030】
素材Wに第二ステップを行うと、第三ステップ(
図8のS4)として、素材上端部Mにかかる圧力が最大となる下死点近傍で上パンチ用油圧シリンダ7によって上パンチ1の圧力が除荷(除圧)されて素材Wの成型品Gを得る(
図4、
図7)。すなわち、第二ステップにおける、上パンチ用油圧シリンダ7、そして下型用油圧シリンダ8の鉛直下向き移動に追従して、下死点近傍で上パンチ用油圧シリンダ7によって上パンチ1が鉛直上向き移動することで上パンチ1の圧力が除荷されながら、素材Wの成型品Gを得る。このことにより素材Wの素材上端部Mへの最大負荷を制限する。なお、第三ステップは上パンチ用油圧シリンダ7の油圧は下げ、下型用油圧シリンダ8は任意の設定圧とした状態で行うことが望ましい。なお、第三ステップでは、下死点直前、すなわち素材上端部Mや素材下端部の成形完了前に、該鉛直下向き移動に追従して上パンチ用油圧シリンダ7によって上パンチ1が鉛直上向き移動することで上パンチ1の圧力が除荷されるため、圧力負荷に脆弱な金型の稜線部分や頂点部分に、過剰な負荷をかけずに成形を行うことが可能となる。
以上のようにして第三ステップが完了すると、スライド201が上型3とともに上昇を開始し、スライドノックアウトによりノックピンが押し下げられて、上型3に付着した成型品Gがノックアウトされる。その後さらにスライド201が上昇するのに伴い、プレスのボトムノックアウトにより、ノックアウトピン204が押し上げられて下型4より成型品Gがノックアウトされた後、ワーク搬送装置により成型品Gが搬出される。
【0031】
図10から
図19までの各図(b)は本実施形態に関し、シミュレーション解析によって、閉塞鍛造方法の第一ステップにおける素材Wにかかる負荷を継時的に示した側面図と斜視図である。
図10から
図19までの各図(a)は、第三ステップにおいて上パンチ用油圧シリンダ7により上パンチ1の除圧を行わなかった場合の閉塞鍛造方法であって、素材Wにかかる負荷を継時的に示した側面図と斜視図である。各図において、素材W、上パンチ1、下パンチ2、上型3、そして下型4は一部だけが示されており、
図24はその様子を立体的に示した斜視図である。
図11は第一ステップ、
図12から
図15までは第二ステップ、
図16から
図19までは第三ステップの状態をシミュレーションしており、スライド201のストローク(mm)が各々異なる。
図20は、本実施形態のシュミレーション解析によって、素材WをベベルギアGに成型する際に素材表面にかかる圧力を示した斜視図である。
図20(a)は本発明の閉塞鍛造方法を用いた場合である。
図20(b)は従来の方法を用いた場合として、第三ステップにおいて上パンチ1の除圧を行わなかった場合を示している。
【0032】
上パンチ1の除圧を下死点近傍で行う本発明の閉塞鍛造方法を適用した結果、第三ステップにおいて上パンチ用油圧シリンダ7により上パンチ1の除圧を行わなかった従来の閉塞鍛造方法と比較して、第二ステップまでは素材Wにかかる荷重に優位な差は無いが(
図11−
図15)、第三ステップにおいて上パンチ用油圧シリンダ7により上パンチ1の除圧を行うため(
図16(b)、
図17(b))、除圧を行わなかった閉塞鍛造方法と比較して(
図16(a)、
図17(a))、素材上端部Mや、金型の素材上端成形部9にかかる最大荷重が減弱する(
図16−
図19)。特に、本実施形態のベベルギアGの成型において、素材上端部Mは凹凸形状のギア部gを備え、ギア部gの凸部は、凸部上端位置g1、凸部中間位置g2、凸部下端位置g3からなる(
図19)。本実施形態では、凸部中間位置g2の最大荷重を顕著に減弱させることが可能であり、素材Wの中心部w1にかかる荷重も一部減弱可能である。また、荷重が減弱するとともに素材中心部w1の側部w2にエネルギが一部分散され、側部w2にはより均一に荷重が分散される(
図19(a),(b))。
また素材内部で均一な荷重分散効果を得られる他、素材表面部でも均一に荷重が分散される(
図20)。すなわち、上パンチ1の除圧を行った場合(
図20(a))、行わなかった閉塞鍛造方法と比較して(
図20(b))、素材上端部Mの側面g4にも圧力がかかり、エネルギが分散されることで、上端部Mにはより全体に均一に荷重がかかる。素材上端部Mの稜線部分g5や頂点部g6、及びそれらを押圧する上型3の当接部は、過剰な圧力負荷に対して脆弱であり割れや欠けが生じやすいが、上パンチ1の除圧を行うことで上型3の欠陥品が生じにくくなる。
【0033】
図21は本実施形態のシミュレーション解析によって、上型3の凹凸形状部にかかる圧力を示した斜視図であり、
図20で示したベベルギアGに関し、成型時にかかる上型3への応力を示した図である。
図21(a)は、実施形態1に示した上パンチ1の除圧を行う方法を適用した結果を示し、
図21(b)除圧を行わない従来の閉塞鍛造方法である。
図22は鍛造加工後の素材Wの成型品Gを例示する斜視図であって、
図22(a)はトリポードGを示し、
図22(b)はインナレースGを示す。
上パンチ1の除圧を行うことで、上型3の凹凸形状部のうち上型3の凹部であって、素材上端部Mと当接する部位g7にかかる圧力負荷が軽減される。従って、上型3の素材上端部Mと当接する部位g7、例えば素材上端部Mの稜線部分g5や頂点部g6と当接する部位について割れや欠けが生じにくくなり、金型の寿命も長期化する。ベベルギアGを用いて示したが、その他トリポードGやインナレースGの素材上端部Mの稜線部分g5や頂点部g6、或いは稜線部分g5や頂点部g6と当接する上型3の凹形状部(稜線部分当接部、頂点部当接部)の割れや欠けを防止することができる。
【0034】
図23は本実施形態のシミュレーション解析グラフであり、ストローク(mm)をX軸として、素材Wにかかる荷重(Ton)をY軸として示した図である。なおストローク(ストローク長さ)とは、鍛造装置100の1工程におけるスライド201の運動距離であり、言い換えれば、スライド201の上死点の位置から下死点までの距離のことである。
第三ステップにおいて上パンチ用油圧シリンダ7により上パンチ1の除圧を行わなかった場合、ストロークが最大となるスライド201の下死点付近では、素材Wにかかる荷重が異常に高圧になる(
図23(a))。この素材Wの上端部Mへの異常な最大荷重によって金型の欠損が生じる。本発明の閉塞鍛造方法では、第三ステップにおいて上パンチ用油圧シリンダ7により上パンチ1の除圧を行うため、この素材Wへの異常な負荷が抑制され(
図23(b))、金型が長寿命化する。また設備の小型化も可能となる。
【0035】
なお本実施形態では、本発明の閉塞鍛造方法の工程に入る前に、上記のようなシミュレーション解析を行うことで第一ステップの閉塞キャビティを形成する圧力を具体的に決定して圧力制御することができる。実施例1の場合、素材Wの成型品GはベベルギアGであるため、素材上端部Mに最大荷重がかかるが、成型品Gの形状や物性によって最大荷重がかかる部分は異なってくる。例えば、成型品Gの形状によってキャビティの形状が変わる。すなわち素材上端成形部9、素材下端成形部10、上部空所11や下部空所12の凹凸形状は変わるため、下パンチ2による素材Wへの押圧時、キャビティ内での素材Wの側方流動の仕方も変わり、素材Wに対して最大荷重のかかる場所も変化する。シミュレーション解析を行い予め成型品Gの形状や物性に合わせた油圧値の設定を行うことで、本発明の閉塞鍛造方法を、多様な形状および物性の成型品Gに応じて適用することが可能となる。
【0036】
以上、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではない。前記ダイセット80に複数の油圧シリンダを備えて複数の油圧回路を構成することもできる。複数の油圧シリンダを備えることで、素材Wにかかる最大荷重の場所に応じた除圧が可能となる。例えば素材Wの下端部に最大荷重が生じる場合、下パンチ2に油圧シリンダを備えて下パンチ2の除圧を行うことで、同様の効果を得ることができる。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることは言うまでもない。