特開2018-76005(P2018-76005A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-76005(P2018-76005A)
(43)【公開日】2018年5月17日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/06 20060101AFI20180417BHJP
【FI】
   B60C9/06 E
   B60C9/06 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-219921(P2016-219921)
(22)【出願日】2016年11月10日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076314
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 正人
(74)【代理人】
【識別番号】100112612
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲士
(74)【代理人】
【識別番号】100112623
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 克幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163393
【弁理士】
【氏名又は名称】有近 康臣
(74)【代理人】
【識別番号】100189393
【弁理士】
【氏名又は名称】前澤 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100203091
【弁理士】
【氏名又は名称】水鳥 正裕
(74)【代理人】
【識別番号】100059225
【弁理士】
【氏名又は名称】蔦田 璋子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 達也
(57)【要約】
【課題】操縦安定性と耐久性との両立を図る。
【解決手段】空気入りタイヤ10は、第1本体部24Aと第1折返し部24Bとからなる第1カーカスプライ24と、第2本体部26Aと第2折返し部26Bとからなる第2カーカスプライ26とを含むカーカス層22を備える。カーカス層22は、タイヤ内面側から順に、第1本体部24A、第2本体部26A、第2折返し部26B及び第1折返し部24Bが配置された四層部40をサイドウォール部14に有する。四層部40において、各層の構成コードはタイヤ周方向に対して傾斜しかつ傾斜の向きが互い違いになるように配置されるとともに、第1本体部24Aでの傾斜角度θ1、第2本体部26Aでの傾斜角度θ2、第2折返し部26Bでの傾斜角度θ3、及び第1折返し部24Bでの傾斜角度θ4が、θ1≧θ2≧θ3≧θ4かつθ1>θ4を満足する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至る第1本体部と、前記第1本体部から延び前記ビードコアの周りにタイヤ幅方向内側から外側に向かって折り返された第1折返し部と、からなる第1カーカスプライと、
トレッド部において前記第1本体部のタイヤ径方向外側に配置されかつトレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至る第2本体部と、前記第2本体部から延び前記ビードコアの周りにタイヤ幅方向内側から外側に向かって折り返された第2折返し部と、からなる第2カーカスプライと、を含むカーカス層を備え、
前記カーカス層は、タイヤ内面側から順に、前記第1本体部、前記第2本体部、前記第2折返し部及び前記第1折返し部が配置された四層部をサイドウォール部に有し、前記四層部において、前記第1本体部、前記第2本体部、前記第2折返し部及び前記第1折返し部の各構成コードは、タイヤ周方向に対して傾斜しかつ傾斜の向きが互い違いになるように配置されるとともに、前記四層部における前記第1本体部、前記第2本体部、前記第2折返し部及び前記第1折返し部の各構成コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度をそれぞれθ1、θ2、θ3及びθ4として、θ1≧θ2≧θ3≧θ4かつθ1>θ4を満足する、
ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1折返し部と前記第2折返し部の少なくとも一方は、折返し端がベルト層のタイヤ幅方向外端よりもタイヤ幅方向内側に位置する、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記第1折返し部の折返し端が、ベルト層のタイヤ幅方向外端よりもタイヤ幅方向内側に位置し、前記第2折返し部の折返し端が、前記ビードコアのタイヤ径方向外側に設けられたビードフィラーの先端と前記ベルト層のタイヤ幅方向外端との間に位置し、
前記第1折返し部は、前記第2折返し部の折返し端よりもタイヤ径方向外側に突き出す突き出し部と、前記第2折返し部の折返し端と前記ビードフィラーの先端との間で前記第2折返し部と重なり合う重なり部とを含み、前記突き出し部の構成コードが前記重なり部の構成コードよりもタイヤ周方向に対してより大きく傾斜して配置された、
請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記四層部においてタイヤ厚み方向で互いに隣り合う層間の構成コードの傾斜角度の差が10°以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの操縦安定性を向上させるためにはタイヤの剛性を高めることが有効であり、そのための手段として、カーカスプライの構成コードをタイヤ径方向に対して傾斜させることが知られている。
【0003】
例えば、カーカスプライの構成コードを傾斜させた構造をもつタイヤとして、レーシングタイヤ等の競技用タイヤにおいては、タイヤ周方向に対して傾斜して延びるコードを有しかつそのコードが互いに逆向きとなるように積層された2枚のカーカスプライを含む、セミラジアルタイヤが知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−063172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カーカスプライの構成コードを傾斜させると、操縦安定性が向上する反面、耐久性が損なわれるという問題があり、操縦安定性と耐久性を両立させることは容易ではない。
【0006】
本発明の実施形態は、操縦安定性と耐久性との両立を図ることができる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態に係る空気入りタイヤは、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至る第1本体部と、前記第1本体部から延び前記ビードコアの周りにタイヤ幅方向内側から外側に向かって折り返された第1折返し部と、からなる第1カーカスプライと、トレッド部において前記第1本体部のタイヤ径方向外側に配置されかつトレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至る第2本体部と、前記第2本体部から延び前記ビードコアの周りにタイヤ幅方向内側から外側に向かって折り返された第2折返し部と、からなる第2カーカスプライと、を含むカーカス層を備える。前記カーカス層は、タイヤ内面側から順に、前記第1本体部、前記第2本体部、前記第2折返し部及び前記第1折返し部が配置された四層部をサイドウォール部に有する。前記四層部において、前記第1本体部、前記第2本体部、前記第2折返し部及び前記第1折返し部の各構成コードは、タイヤ周方向に対して傾斜しかつ傾斜の向きが互い違いになるように配置されるとともに、前記四層部における前記第1本体部、前記第2本体部、前記第2折返し部及び前記第1折返し部の各構成コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度をそれぞれθ1、θ2、θ3及びθ4として、θ1≧θ2≧θ3≧θ4かつθ1>θ4を満足する。
【0008】
一実施形態において、前記第1折返し部と前記第2折返し部の少なくとも一方は、折返し端がベルト層のタイヤ幅方向外端よりもタイヤ幅方向内側に位置してもよい。また、前記第1折返し部の折返し端が、ベルト層のタイヤ幅方向外端よりもタイヤ幅方向内側に位置し、前記第2折返し部の折返し端が、前記ビードコアのタイヤ径方向外側に設けられたビードフィラーの先端と前記ベルト層のタイヤ幅方向外端との間に位置し、前記第1折返し部は、前記第2折返し部の折返し端よりもタイヤ径方向外側に突き出す突き出し部と、前記第2折返し部の折返し端と前記ビードフィラーの先端との間で前記第2折返し部と重なり合う重なり部とを含み、前記突き出し部の構成コードが前記重なり部の構成コードよりもタイヤ周方向に対してより大きく傾斜して配置されてもよい。また、前記四層部においてタイヤ厚み方向で互いに隣り合う層間の構成コードの傾斜角度の差が10°以下でもよい。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態によれば、カーカス層の第1本体部、第2本体部、第2折返し部及び第1折返し部が配置された四層部において、タイヤ周方向に対する構成コードの傾斜角度がタイヤ内面側から外面側に向かって小さくなるように設定したことにより、操縦安定性と耐久性との両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る空気入りタイヤの半断面図
図2】同空気入りタイヤの内部構造を示す模式的な断面図
図3】同空気入りタイヤのカーカス層の構成を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態について図面を参照して説明する。
【0012】
図1,2に示す一実施形態に係る空気入りタイヤ10は、左右一対のビード部12と、ビード部12からタイヤ径方向外方に延びる左右一対のサイドウォール部14と、サイドウォール部14のタイヤ径方向外端同士を繋いで接地面を構成するトレッド部16とを備える。一対のビード部12には、それぞれリング状のビードコア18が埋設されている。ビードコア18のタイヤ径方向外側には、タイヤ径方向外側に向かって先細り状をなす硬質ゴム製のビードフィラー20が設けられている。
【0013】
なお、この例では、空気入りタイヤ10は左右対称であり、左側半分は図示を省略している。また、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に垂直な方向であり、図1において符号RDで示す。タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸に平行な方向であり、図1において符号WDで示す。タイヤ周方向とは、タイヤ回転軸を中心とした円周上の方向であり、図3において矢印CDで示す。
【0014】
空気入りタイヤ10は、一対のビード部12間にトロイダル状に架け渡して設けられたカーカス層22を備える。カーカス層22は、タイヤ周方向に対して傾斜して延びる構成コードを有しかつその構成コードが互いに逆向きとなるように積層された2枚のカーカスプライ、即ち第1カーカスプライ24と第2カーカスプライ26からなる。カーカスプライ24,26は、平行に引き揃えた複数本のコードをゴム被覆してなるシート状物であり、その構成コードとしては、例えば、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維等の有機繊維コード、又はスチールコードなどが挙げられる。
【0015】
第1カーカスプライ24は、トレッド部16からサイドウォール部14を経てビード部12のビードコア18に至る第1本体部24Aと、該第1本体部24Aから延びビードコア18の周りにタイヤ幅方向内側から外側に向かって折り返された第1折返し部24Bとからなる。第1本体部24Aは、ビードフィラー20のタイヤ幅方向内側を通って、ビードコア18のタイヤ径方向内側に達している。第1折返し部24Bは、ビードコア18のタイヤ径方向内側から、ビードフィラー20のタイヤ幅方向外側を通って、タイヤ径方向外側に巻上げられている。
【0016】
第2カーカスプライ26は、トレッド部16からサイドウォール部14を経てビード部12のビードコア18に至る第2本体部26Aと、該第2本体部26Aから延びビードコア18の周りにタイヤ幅方向内側から外側に向かって折り返された第2折返し部26Bとからなる。第2本体部26Aは、トレッド部16において第1本体部24Aのタイヤ径方向外側に配置されており、第1本体部24Aの外側面に沿ってビード部12に向かって延び、第1本体部24Aとビードフィラー20との間を通って、ビードコア18のタイヤ径方向内側に達している。第2折返し部26Bは、ビードコア18のタイヤ径方向内側から、ビードフィラー20と第1折返し部24Bとの間を通って、タイヤ径方向外側に巻上げられている。
【0017】
トレッド部16におけるカーカス層22の外周側には、カーカス層22とトレッドゴム28との間にベルト層30が設けられている。ベルト層30は、ベルトコードをタイヤ周方向に対して10°〜35°の傾斜角度で配列した、少なくとも2枚の交差ベルトプライからなり、この例では、タイヤ径方向内側に配された第1ベルトプライ32と、その外周側に配された第2ベルトプライ34との2層構造である。このうち第1ベルトプライ32が最も幅の広い最大幅ベルトであり、そのタイヤ幅方向外端がベルト層30のタイヤ幅方向外端30Aに相当する。なお、ベルトコードとしては、スチールコードや高張力を有する有機繊維コードが用いられる。
【0018】
この例では、ベルト層30のタイヤ径方向外側、即ちベルト層30とトレッドゴム28との間にベルト補強層36が設けられている。ベルト補強層36は、タイヤ周方向に対して実質的に平行に延びるコードを有するキャッププライにより構成されている。
【0019】
第1カーカスプライ24は、その第1折返し部24Bが、ベルト層30の外端30Aよりもタイヤ幅方向内側に延びて終端するハイターンアッププライである。すなわち、第1折返し部24Bの先端である折返し端24BEは、ベルト層30の外端30Aよりもタイヤ幅方向内側に位置しており、第2カーカスプライ26の第2本体部26Aとベルト層30との間に挟まれている。このようにハイターンアッププライ構造とすることで、タイヤの剛性を高めて操縦安定性を向上することができる。
【0020】
第2カーカスプライ26は、その第2折返し部26Bが、ビードフィラー20の先端(即ち、タイヤ径方向外端)20Aよりもタイヤ径方向外側に延び、かつベルト層30の外端30Aよりも手前で終端している。そのため、第2折返し部26Bの先端である折返し端26BEは、ビードフィラー20の先端20Aとベルト層30の外端30Aとの間に位置しており、第2カーカスプライ26の第2本体部26Aと第1カーカスプライ24の第1折返し部24Bとの間に挟まれている。
【0021】
なお、図1において符号38は、ビードフィラー20と第2折返し部26Bとの間に設けられたサイド補強層であり、例えばスチールコード等のコードをゴム被覆したシート状物で構成されている。
【0022】
カーカス層22は、タイヤ内面側から順に、第1本体部24A、第2本体部26A、第2折返し部26B及び第1折返し部24Bが配置された四層構造からなる四層部40をサイドウォール部14に有する。四層部40において、第1本体部24A、第2本体部26A、第2折返し部26B及び第1折返し部24Bは、タイヤ厚み方向からみてこれら4層が重なっていればよく、例えば、互いに隣り合う層が接するように重なり合ってもよく、あるいはまた、ビードフィラー20やサイド補強層38が介在した状態で重なってもよい。好ましくは、四層部40はビードフィラー20の先端20Aよりもタイヤ径方向外側に位置する部分である。すなわち、カーカス層22は、タイヤ内面側から順に、第1本体部24A、第2本体部26A、第2折返し部26B及び第1折返し部24Bが重なる四層部40を、ビードフィラー20の先端20Aよりもタイヤ径方向外側に有することが好ましい。
【0023】
本実施形態では、かかる四層部40において、タイヤ周方向に対する構成コードの傾斜角度がタイヤ内面側から外面側に向かって小さくなるように設定されている。詳細には、図3に模式的に示すように各構成コードの傾斜角度が設定されている。ここで、図3では第1折返し部24Bを一部切り欠いて示している。
【0024】
四層部40において、第1本体部24A、第2本体部26A、第2折返し部26B及び第1折返し部24Bの各構成コードは、タイヤ周方向CDに対して傾斜しかつ傾斜の向きが互い違いになるように配置されている。すなわち、第1本体部24Aの構成コード24A1は、タイヤ周方向CDに対してθ1の角度で傾斜し、第2本体部26Aの構成コード26A1は、第1本体部24Aでの傾斜の向きとは逆側に、タイヤ周方向CDに対してθ2の角度で傾斜し、第2折返し部26Bの構成コード26B1は、第2本体部26Aでの傾斜の向きとは逆側に、タイヤ周方向CDに対してθ3の角度で傾斜し、第1折返し部24Bの構成コード24B1は、第2折返し部26Bでの傾斜の向きとは逆側に、タイヤ周方向CDに対してθ4の角度で傾斜している。
【0025】
なお、これらの傾斜角度θ1,θ2,θ3,θ4の値は、傾斜の向きを考えない傾斜角度の絶対値である。また、構成コードの傾斜角度は、空気入りタイヤをリムに組み付ける前のフリー状態で測定される値である。
【0026】
四層部40における各層の構成コード24A1,26A1,26B1,24B1は、θ1≧θ2≧θ3≧θ4であり、かつθ1>θ4を満足するように設定されている。すなわち、第2本体部26Aでの傾斜角度θ2は、その内側の第1本体部24Aでの傾斜角度θ1と同じか又はそれよりも小さく、第2折返し部26Bでの傾斜角度θ3は、その内側の第2本体部26Aでの傾斜角度θ2と同じか又はそれよりも小さく、第1折返し部24Aでの傾斜角度θ4は、その内側の第2折返し部26Bでの傾斜角度θ3と同じか又はそれよりも小さい。但し、全てが同一ということはなく、よって、タイヤ内面側の第1本体部24Aでの傾斜角度θ1は、タイヤ外面側の第1折返し部24Bでの傾斜角度θ4よりも大きい。
【0027】
好ましくは、四層部40において、タイヤ周方向に対する構成コードの傾斜角度を少なくとも3段に設定することであり、すなわち、θ1≧θ2>θ3>θ4、θ1>θ2≧θ3>θ4、又はθ1>θ2>θ3≧θ4であることが好ましい。更に好ましくは、タイヤ周方向に対する構成コードの傾斜角度をタイヤ内面側から外面側に向かって次第に小さく設定することであり、すなわち、θ1>θ2>θ3>θ4であることが好ましい。
【0028】
各構成コードの傾斜角度は、特に限定するものではないが、例えば、75°≦θ1<90°、65°≦θ2≦85°、55°≦θ3≦75°、45°≦θ4≦65°であることが好ましく、より好ましくは、80°≦θ1<90°、70°≦θ2≦80°、60°≦θ3≦70°、50°≦θ4≦60°である。
【0029】
四層部40においてタイヤ厚み方向で互いに隣り合う層間の構成コードの傾斜角度の差は20°以下であることが好ましく、より好ましくは10°以下である。ここで、該傾斜角度の差は、上記と同様、傾斜の向きを考えない傾斜角度の絶対値の差である。従って、互いに隣り合う層間の傾斜角度の差であるθ1とθ2の差、θ2とθ3の差、及びθ3とθ4の差が、いずれも好ましくは20°以下、より好ましくは10°以下に設定される。このように、隣り合う層間の傾斜角度差を小さくすることで、耐久性を向上することができる。
【0030】
第1カーカスプライ24の第1折返し部24Bは、第2折返し部26Bの折返し端26BEよりもタイヤ径方向外側に突き出す突き出し部24BPと、第2折返し部26Bの折返し端26BEとビードフィラー20の先端20Aとの間で第2折返し部26Bと重なり合う重なり部24BQとを含む。
【0031】
そして、突き出し部24BPの構成コード24BP1が、重なり部24BQの構成コード24B1よりもタイヤ周方向CDに対してより大きく傾斜して配置されている。重なり部24BQは上記四層部40を構成する部分であり、従って、重なり部24BQの構成コードの傾斜角度は、四層部40での構成コード24B1の傾斜角度θ4に等しい。そのため、突き出し部24BPでの構成コード24BP1のタイヤ周方向CDに対する傾斜角度θ5は、傾斜角度θ4よりも大きく設定されている(θ5>θ4)。突き出し部24BPの構成コード24BP1と重なり部24BQの構成コード24B1は、傾斜の向きが同じである。なお、突き出し部24BPでの傾斜角度θ5は、特に限定されないが、例えば、65°≦θ5≦85°でもよく、70°≦θ5≦80°でもよい。
【0032】
この実施形態では、第1本体部24Aの構成コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は、第1本体部24Aの全体で上記傾斜角度θ1に設定している。また、第2本体部26Aの構成コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度も、第2本体部26Aの全体で上記傾斜角度θ2に設定し、更に、第2折返し部26Bの構成コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度も、第2折返し部26Bの全体で上記傾斜角度θ3に設定している。第1折返し部24Bの構成コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度については、突き出し部24BPでは上記傾斜角度θ5とし、その他の部位では上記傾斜角度θ4に設定している。
【0033】
なお、本実施形態のように、カーカスプライ24,26の本体部24A,26Aと折返し部24B,26Bとで構成コードの傾斜角度が異なるタイヤは、グリーンタイヤの成形時、カーカスプライをビードコアの周りで巻上げる際に、角度を変えて巻上げればよい。
【0034】
ビードフィラー20の高さは、特に限定されないが、ビードヒールBEからビードフィラー20の先端20Aまでの垂直高さH1が、タイヤ断面高さH0の30〜60%であることが好ましい。H1がH0の30%以上であることにより、剛性の低下を抑えて操縦安定性の向上効果を高めることができ、またH1がH0の60%以下であることにより、ビードフィラー20よりもタイヤ径方向外側部分での撓み性を確保して耐久性を向上することができる。
【0035】
ここで、タイヤ断面高さH0は、ビードヒールBEからタイヤ赤道上でのトレッド踏面までの垂直高さであり、タイヤ外径とリム径との差の1/2である。なお、これらの高さは、タイヤを適用リムに装着し、所定内圧を適用した無負荷状態において定められる。適用リムは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMA、TRA、ETRTOなどで規定されたリムを指す。また、所定内圧は、該規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧である。但し、レーシングタイヤのように規格のないタイヤについては、これらの規格に準じて実際の使用状況に応じたリムと内圧を選択すればよい。
【0036】
以上よりなる本実施形態であると、第1本体部24A、第2本体部26A、第2折返し部26A及び第1折返し部24Aが配置されたカーカス層22の四層部40において、タイヤ周方向に対する構成コード24A1,26A1,26B1,24B1の傾斜角度θ1,θ2,θ3,θ4をタイヤ内面側から外面側に向かって小さくなるように設定したことにより、耐久性の低下を抑えつつ操縦安定性を向上することができ、操縦安定性と耐久性との両立を図ることができる。
【0037】
詳細には、空気入りタイヤ10のサイドウォール部14が撓み変形する際、タイヤ内面側は圧縮され、タイヤ外面側は引っ張られるため、タイヤ内面側の方が耐久性の寄与が大きい。そのため、構成コードの傾斜角度をタイヤ内面側で高角度とし、タイヤ外面側ほど低角度にすることにより、タイヤ内面側で耐久性を維持しつつ、タイヤ外面側で剛性を高めて操縦安定性を向上することができる。
【0038】
また、第1カーカスプライ24をハイターンアッププライ構造とした上で、第1折返し部24Bの突き出し部24BPでのコード傾斜角度θ5をそのタイヤ径方向内側の重なり部24BQにおけるコード傾斜角度θ4よりも大きくしたことにより、次の作用効果が奏される。すなわち、ベルト層30の外端30Aのタイヤ径方向内側において当該外端30Aに近接する領域であるバットレス部では、その内径側の領域に比べて操縦安定性への寄与が小さい。すなわち、バットレス部に位置する突き出し部24BPは操縦安定性への寄与が上記重なり部24BQよりも小さい。そのため、突き出し部24BPでのコード傾斜角度を高角度とすることで、操縦安定性の低下を抑えつつ、耐久性を向上することができる。
【0039】
なお、上記実施形態では、第1カーカスプライ24の第1折返し部24Bをベルト層30の外端30Aよりもタイヤ幅方向内側に延在させたが、第2カーカスプライ26の第2折返し部26Bをベルト層30の外端30Aよりもタイヤ幅方向内側まで延在させてもよい。
【0040】
本実施形態に係る空気入りタイヤの用途は特に限定されないが、レーシングタイヤ等の競技用車両に装着される競技用空気入りタイヤとして好適に用いられる。
【実施例】
【0041】
本実施形態の効果を示すために、実施例1〜7及び比較例1〜4のレース用の空気入りタイヤ(サイズ:285/650R18、トレッドパターン:スリック)を試作した。実施例1〜6は、上記実施形態に係るタイヤであり、各プライの構成コードの傾斜角度を表1の通りに設定した。実施例7では、第1カーカスプライ24の突き出し部24BPでのコード傾斜角度θ5をその内径側の四層部40(重なり部24BQ)でのコード傾斜角度θ4と同じ値に設定した。比較例1,2については、各プライの構成コードの傾斜角度を表1の通りに設定した以外は、実施例と同様にしてタイヤを作製した。なお、ビードフィラーの高さH1はタイヤ断面高さH0の45%に設定した。表1中の傾斜角度について、RとLは構成コードの傾斜の向きを示し、RとLとでは傾斜の向きが逆方向である。
【0042】
これらの各タイヤ(内圧:220kPa)について、操縦安定性と耐久性を評価した。各評価方法は以下の通りである。
【0043】
・操縦安定性:サーキット走行に適した競技用車両(車両重量:1300kg、平均速度:150km/h)に装着し、1周3.7kmのサーキットを5周連続走行した際の平均周回タイムについて、比較例1の値の逆数を100とした指数で示した。指数が大きいほど、平均周回タイムが小さく、操縦安定性に優れることを意味する。
【0044】
・耐久性:ドラム試験機にタイヤを装着し、実走行に相当する荷重570kg、速度240km/hを加えて走行させ、故障が発生するまでの走行距離について、比較例1の値を100とした指数で示した。指数が大きいほど、故障までの走行距離が長く、耐久性に優れることを意味する。
【0045】
【表1】
【0046】
結果は、表1に示す通りである。コントロールである比較例1に対し、そのコード角度を小さくした比較例2では、操縦安定性は向上したものの、耐久性が低下した。これに対し、サイドウォール部14の四層部40において、タイヤ内面側から外面側に向かってコード傾斜角度を小さく設定した実施例1〜7では、コード傾斜角度が一定の比較例1に対して、耐久性の低下を抑えながら、操縦安定性を向上することができた。特に、タイヤ内面側から外面側に向けてコード傾斜角度を各層ごとに次第に小さく設定した実施例1,2では、操縦安定性と耐久性との両立効果に優れていた。また、実施例1,2と実施例7との対比により、第1折返し部24Bの突き出し部24BPでの傾斜角度をその内径側の四層部40での傾斜角度よりも大きく設定することにより、操縦安定性の低下を抑えつつ、耐久性を向上することができることが分かる。
【0047】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0048】
10…空気入りタイヤ、12…ビード部、14…サイドウォール部、16…トレッド部、18…ビードコア、20…ビードフィラー、22…カーカス層、24…第1カーカスプライ、24A…第1本体部、24B…第1折返し部、24BE…折返し端、24BP…突き出し部、24BQ…重なり部、26…第2カーカスプライ、26A…第2本体部、26B…第2折返し部、26BE…折返し端、30…ベルト層、30A…ベルト層のタイヤ幅方向外端、40…四層部
図1
図2
図3