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特開2018-76490連鎖移動剤としてのメチルメルカプト−エステルの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-76490(P2018-76490A)
(43)【公開日】2018年5月17日
(54)【発明の名称】連鎖移動剤としてのメチルメルカプト−エステルの使用
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/38 20060101AFI20180417BHJP
   C08F 2/22 20060101ALI20180417BHJP
   C07C 323/52 20060101ALI20180417BHJP
   C07C 323/54 20060101ALI20180417BHJP
   C08F 20/00 20060101ALN20180417BHJP
【FI】
   C08F2/38
   C08F2/22
   C07C323/52
   C07C323/54
   C08F20/00 510
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-207294(P2017-207294)
(22)【出願日】2017年10月26日
(62)【分割の表示】特願2015-554235(P2015-554235)の分割
【原出願日】2014年2月14日
(31)【優先権主張番号】1351312
(32)【優先日】2013年2月15日
(33)【優先権主張国】FR
(31)【優先権主張番号】61/765,058
(32)【優先日】2013年2月15日
(33)【優先権主張国】US
(71)【出願人】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−ブノワ・カゾー
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・サン・ルイ・オーギュスタン
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジュ・フレミ
【テーマコード(参考)】
4H006
4J011
【Fターム(参考)】
4H006AA03
4H006AB48
4H006TA04
4H006TB52
4J011AA05
4J011BA06
4J011KA01
4J011KA29
4J011KB07
4J011KB29
4J011NA25
4J011NB04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】連鎖移動剤としてのカルボン酸のメルカプト−チルエステル、およびその使用の提供。
【解決手段】ラジカル乳化重合方法における連鎖移動剤としての式(1)で表されるメチルメルカプトエステル、およびその使用、さらに、少なくとも1つのこのようなメチルメルカプトエステルを含むラジカル乳化(共)重合方法。但し、メルカプトウンデカン酸メチル及びメルカプトデカン酸メチルが前記メチルメルカプトエステルから除く、ラジカル乳化(共)重合方法。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】
〔式中、
−RおよびRは、同じであっても、または異なっていてもよく、互いに独立して、水素原子、および1個から20個の炭素原子を含み、カルボキシ、アルキルカルボニルおよびアルコキシカルボニル(アルキルおよびアルコキシは、1個から10個の炭素原子を含む。)から選択される1つ以上の基で場合により置換された、直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の基から選択され;
−Aは、境界値を含めて2個から30個の炭素原子を含み、酸素、硫黄および窒素から選択される1個以上のヘテロ原子で場合により中断された、直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の二価の鎖を表す。〕
の、少なくとも1つのカルボン酸のメルカプト−メチルエステルの、遊離ラジカル乳化重合方法における連鎖移動剤としての、使用。
【請求項2】
およびRが、それぞれ水素原子を表す化合物の、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
Aが、−(CH−鎖、または−(CHn1−C=C−(CHn2−鎖であり、nは、境界値を含めて2個から30個の炭素原子、好ましくは、3個から30個の炭素原子、さらに好ましくは、4個から30個の炭素原子、典型的には、5個から30個の炭素原子の整数を表し、n+nは、n−2に等しい化合物の、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
式(1)の化合物が、メルカプトウンデカン酸メチルまたはメルカプトデカン酸メチル、好ましくは、メルカプトデカン酸メチルである、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
式(1’):
【化2】
〔式中、
−R’は、1個から20個の炭素原子を含み、1つ以上のアルコキシカルボニル基で置換された、直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の基を表し、アルコキシは、1個から10個の炭素原子を含み;
−R’は、水素原子、および1個から20個の炭素原子を含み、1つ以上のアルコキシカルボニル基で置換された、直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の基から選択され、アルコキシは、1個から10個の炭素原子を含み;
−Aは、境界値を含めて2個から30個の炭素原子を含み、酸素、硫黄および窒素から選択される1個以上のヘテロ原子で場合により中断された、直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の二価の鎖を表す。〕
の化合物。
【請求項6】
R’は、1個から20個の炭素原子を含み、メトキシカルボニル基で置換された、直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の基を表し、R’は、水素原子を表し、ならびにAは、請求項5に定義される通りである、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
9−メルカプトオクタデシル−1,18−二酸ジメチルである、請求項5または請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
乳化(共)重合方法であって、少なくとも以下の工程:
(a)水性媒体中、ビニル不飽和部を含む少なくとも1つのモノマーのエマルションを作成する工程、
(b)前記エマルションに、請求項5から7のいずれか一項に記載の式(1)の少なくとも1つの連鎖移動剤を加える工程、
(c)場合により(共)重合開始剤存在下、(共)重合反応を行う工程、
(d)場合により、望ましい(コ)ポリマーを精製し、回収する工程
を含む、方法。
【請求項9】
式(1)の連鎖移動剤の量は、エマルションの合計重量に対し、0.01重量%から5重量%、好ましくは、0.03重量%から3重量%である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ビニル不飽和部を含むモノマーは、ビニルモノマー、共役ジエンモノマー、アクリルモノマー、メタクリルモノマーおよびこれら2つ以上の任意の比率の混合物である、請求項8または請求項9に記載の方法。
【請求項11】
反応媒体は、少なくとも1つの界面活性剤および/または少なくとも1つの重合開始剤および/または少なくとも1つの連鎖停止剤も含む、請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、カルボン酸のメルカプト−メチルエステル、およびこれを調製するための方法である。本発明は、さらに、遊離ラジカル乳化(共)重合反応における連鎖移動剤としての前記メルカプト−エステル誘導体の使用、および連鎖移動剤として前記カルボン酸のメルカプト−メチルエステルを用いる遊離ラジカル乳化(共)重合方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー固有の特徴、例えば、この鎖の平均サイズおよびこの分布は、得られる材料の巨視的な特性に大きな影響を与える。実際に、特に、溶液または溶融状態でのポリマーの特性(例えば、粘度)は、このモル質量および多分散指数に大きく依存する。概して、ポリマーのモル質量が小さく、この分布が狭いほど、ポリマーの粘度は小さくなる。一般的に、例えば、ポリマーの射出成型または押出成型による塗布を作成するときに、低い粘度が求められる。
【0003】
例えば、コーティング用途および接着剤用途においてエマルション、ラテックスなどの形態の場合には、狭いモル質量分布を有するポリマーが好ましい。狭いモル質量分布を有するこのようなポリマーは、一般的に、連鎖移動剤(もっと単純にいうと「移動剤」または「CTA」)存在下で調製される。
【0004】
移動剤の使用は、移動剤を用いずに調製したポリマーと比較して、より均一なポリマー粒径、さらに、高められた安定性を得ることを可能にする。この高められた安定性は、種々の貯蔵、圧送、輸送操作中のよりよい耐性を可能にし、さらに、配合方法の間に、例えば、塗料組成物の一部である構成要素とポリマーエマルションとの相溶性も高める。
【0005】
メルカプタン型の分子は、遊離ラジカル重合中の連鎖移動剤として、ポリマー産業で数十年にわたって広く使用されてきた。遊離ラジカル重合においてメルカプタン型移動剤を使用すると、ポリマー鎖の平均サイズを小さくすることができ、さらに、特定の場合には、この多分散指数を小さくすることができる。これらの移動剤を均一または分散した溶媒系媒体中、塊状重合に使用することができる。
【0006】
しかし、メルカプタンは、硫黄を含有する分子であり、臭気があるという欠点を有する場合があり、特定の場合には、毒性があるという欠点を有する場合がある。従って、この取扱いおよび使用は困難となり、これらの硫黄を含有する化合物を用いるヒトおよび装置を保護するための特定の測定を必要とし、言うまでもなく、常に、ヒトおよび環境に毒性があり、有害である分子の使用を禁じる多くの法律および規制が増えつつある。
【0007】
メルカプタン基を含む多くの分子は、文献に広く記載されている。例えば、特許US2281613は、1,3−ブタジエンおよび1,3−ブタジエン誘導体の乳化(共)重合における移動剤としてのイソヘキシルメルカプタン、オクタデシルメルカプタンおよびドデシルメルカプタンの使用を開示する。
【0008】
US2497107文書は、α−メチルスチレン、スチレンおよびアクリロニトリル存在下、イソプレンまたはブタジエンの乳化共重合におけるカルボン酸のメルカプト−エチルエステルの使用を開示する。
【0009】
特許US4593081は、アクリルモノマーの乳化重合における3−メルカプトプロピオン酸アルキルの使用を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第2281613号明細書
【特許文献2】米国特許第2497107号明細書
【特許文献3】米国特許第4593081号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、これらの既知の連鎖移動剤は、すべて、重合の品質および収率という観点で、この主なもののみを挙げると、例えば、毒性、有害性、望ましくない臭気、有効性の欠如といった1つ以上の欠点を有する。
【0012】
従って、上述の欠点を有さない連鎖移動剤の必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
驚くべきことに、本願発明者らは、種々の実験および操作の後、特定の具体的なカルボン酸のメルカプト−メチルエステルを遊離ラジカル乳化重合方法において連鎖移動剤として使用すると、特に、同じカルボン酸のメルカプト−エチルエステルを用いて得られたポリマーよりも低いモル質量および狭い分布といった優れた特性を有するポリマーおよびコポリマーを調製することができることを発見した。
【0014】
本発明のカルボン酸のメルカプト−メチルエステルの使用に関連する別の利点は、これらのメルカプト−エステルが、再生可能な原材料から、特に、植物由来の原材料から得ることができるという事実にある。
【0015】
これに加え、後に定義するこれらのメルカプト−エステルは、臭気がないか、または臭気が弱く、この使用中に特定の注意を必要としないという利点もある。
【0016】
従って、第1の態様によれば、本発明は、以下の式(1)
【0017】
【化1】
〔式中、
−RおよびRは、同じであっても、または異なっていてもよく、互いに独立して、水素原子および直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の基から選択され、該炭化水素系の基は1個から20個の炭素原子を含み、かつカルボキシ、アルキルカルボニルおよびアルコキシカルボニル(アルキルおよびアルコキシは、1個から10個の炭素原子を含む。)から選択される1つ以上の基で任意選択的に置換されており;
−Aは、境界値を含めて2個から30個の炭素原子を含み、酸素、硫黄および窒素から選択される1個以上のヘテロ原子によって任意選択的に割り込まれている、直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の二価の鎖を表す。〕
によって表される、少なくとも1つのカルボン酸のメルカプト−メチルエステルの、遊離ラジカル乳化重合方法における連鎖移動剤としての使用に関する。
【0018】
本発明の第1の実施形態によれば、RとRが同じであり、それぞれ水素原子である式(1)の化合物(一級メルカプタン)が好ましい。
【0019】
別の実施形態によれば、本発明の使用は、Rが水素原子を表し、Rが、1個から20個の炭素原子を含み、すでに定義したように場合により置換された、直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の基である式(1)の少なくとも1つの化合物(二級メルカプタン)を使用する。
【0020】
さらに別の実施形態によれば、式(1)の化合物において、RおよびRは、同じであっても、または異なっていてもよく、それぞれ、1個から20個の炭素原子を含み、すでに定義したように場合により置換された、直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の基(三級メルカプタン)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の観点で、好ましいものとして与えられるのは、一級メルカプタン鎖を含むカルボン酸のメルカプト−メチルエステル、次いで、二級メルカプタン鎖を含むカルボン酸のメルカプト−メチルエステル、最後に、三級メルカプタン鎖を含むカルボン酸のメルカプト−メチルエステルである。
【0022】
二級または三級のメルカプタン鎖を含む式(1)の化合物の場合には、好ましいものとして与えられるのは、炭化水素系の基(それぞれ、RまたはRおよびRを形成する。)が、1個から20個の炭素原子、好ましくは、1個から10個の炭素原子、さらに好ましくは、1個から6個の炭素原子を含む炭化水素系の基であるものである。炭化水素系の基は、直鎖、分枝鎖または環状、好ましくは、直鎖で飽和または不飽和、好ましくは、飽和の基から選択される。
【0023】
これらの炭化水素系の基の好ましい置換基の中で、アルコキシが、1個から10個の炭素原子、好ましくは、1個から6個の炭素原子、さらに好ましくは、1個から4個の炭素原子を含み、例えば、アルコキシが、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチルまたはt−ブチルを表すアルコキシカルボニル型の置換基から作られるものを挙げることができる。R基またはR基の少なくとも1つがメトキシカルボニル基で置換されている式(1)の化合物が特に好ましい。
【0024】
別の好ましい実施形態によれば、二価の鎖Aは、境界値を含めて3個から30個の炭素原子、さらに好ましくは、4個から30個の炭素原子、さらに特定的には、5個から30個の炭素原子を含む。式(1)の化合物の二価の鎖Aは、飽和、または完全に不飽和または部分的に不飽和、直鎖、分枝鎖または環状であってもよく、O、SおよびNから選択される1個以上のヘテロ原子によって割り込まれていてもよく、または、自体が飽和または完全に不飽和または部分的に不飽和である、1つ以上の環またはヘテロ環で中断されていてもよい。ヘテロ原子を含まない二価の鎖A(即ち、二重結合および/または三重結合の形態で1つ以上の不飽和部を場合により含む、炭化水素系の二価の基である二価の鎖A)が好ましい。
【0025】
言及し得る二価の鎖Aの非限定的な例としては、−(CH−鎖または−(CHn1−C=C−(CHn2−鎖が挙げられ、nは、境界値を含めて2個から30個の炭素原子、好ましくは、3個から30個の炭素原子、さらに好ましくは、4個から30個の炭素原子、典型的には、5個から30個の炭素原子の整数を表し、n+nは、n−2に等しい。
【0026】
式(1)の化合物の中で、RおよびRが同じであるか、または異なっており、それぞれ、水素原子または炭化水素系の基を表し、Aがすでに定義した通りである化合物が好ましい。
【0027】
特に好ましいある実施形態によれば、式(1)の化合物は、Aが、3個から18個の炭素原子、さらに好ましくは、境界値を含めて4個から18個の炭素原子、さらに優先的には、6個から18個の炭素原子を含む直鎖炭化水素系の二価の基を表す化合物である。従って、特に好ましい代表例は、メルカプトウンデカン酸メチル、メルカプトデカン酸メチルおよび9−メルカプトオクタデシル−1,18−二酸ジメチル、好ましくは、メルカプトウンデカン酸メチルおよびメルカプトデカン酸メチル、さらに好ましくは、メルカプトデカン酸メチルである。
【0028】
上述の式(1)の化合物は、当業者が知っている技術に従ってスルフヒドロ化に用いられる対応する不飽和前駆体メチルエステルから簡単に調製することができる。「スルフヒドロ化反応」という用語は、以下のスキームに従って、C=C二重結合へのH−S−Hの遊離ラジカル付加のMarkovnikov反応を意味することを意図している。
【0029】
【化2】
【0030】
「不飽和前駆体メチルエステル」という用語は、硫化水素の作用(例えば、FR2424907に記載されるような)または硫化水素前駆体、例えば、チオ酢酸(例えば、US4701492に記載されるような)、三級メルカプタン、例えば、tert−ブチルメルカプタン(例えば、FR2603889に記載されるような)の作用を経て、または触媒量の硫化水素の添加(例えば、US4102931に記載されるような)を得て、従来の遊離ラジカル付加反応の1つまたは2つの工程においてスルフヒドロ化させることが可能な少なくとも1つの二重結合を含むメチルエステルを意味することを意図している。
【0031】
従って、式(1)の化合物を与えるための不飽和メチルエステルのスルフヒドロ化に使用されるスルフヒドロ化剤は、当業者が知っている任意の種類であってもよく、例えば、硫化水素、チオ酢酸(TAA)、および当業者が知っており、有機化合物のスルフヒドロ化に通常用いられる他の化合物から選択されてもよい。
【0032】
このスルフヒドロ化反応は、有利には、均一または不均一の酸触媒存在下、および/または紫外線(UV)照射下(180nmから300nmの波長での直接的な光分解によって、または光開始剤存在下)で行われる。ある好ましい実施形態によれば、スルフヒドロ化反応は、触媒が存在しない状態で、UV照射下で行われる。
【0033】
このスルフヒドロ化反応は、溶媒存在下または溶媒非存在下、好ましくは、有利には使用する波長のUV光に対して透過性であり、反応媒体から分離するのが容易な点について選択することができる1つ以上の溶媒存在下で行うことができる。このような溶媒は、例えば、軽質のアルカン(1個から6個の炭素原子)、エチレングリコールエーテル、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素など、さらに、これら2つ以上の任意の比率の混合物から選択されてもよい。
【0034】
変形例として、スルフヒドロ化反応は、遊離ラジカルを生成することができる1つ以上、好ましくは、1つの化合物の存在下で行うことができる。このような化合物は、当業者に知られており、例えば、過酸化物から選択することができ、非限定的な表示として、過酸化水素、過酸化ナトリウムまたは過酸化カリウム、tert−アルキル(例えば、tert−ブチル)ヒドロペルオキシド、tert−アルキルペルオキシド、tert−アルキル過酸エステル、クメンヒドロペルオキシド、アゾビスイソブチロニトリルなど、およびこれら2つ以上の任意の比率の混合物から選択することができる。
【0035】
上述のスルフヒドロ化が、遊離ラジカル開始剤存在下、および/またはUV光照射によって、チオ酢酸の作用を経て行われる場合、すでに記載したように、この反応の後に、酸媒体中でのメタノリシスによって、式(1)の望ましいメルカプタンを遊離させることができる。このメタノリシス反応は、よく知られており、任意の従来技術によって行うことができる。
【0036】
スルフヒドロ化工程終了時に、メルカプト−エステルは、異性体混合物(一級、二級および/または三級のメルカプタン)の形態で得ることができ、その後、分離し、場合により、従来の分離技術および/または精製技術に従って、例えば、回収される目的のメルカプタンの性質に依存して、大気圧または減圧下での蒸留によって精製することができる。
【0037】
スルフヒドロ化試薬を用いてスルフヒドロ化することが可能な少なくとも1つの二重結合を含む前駆体メチルエステルは、知られており、市販されているか、または、当業者に知られており、特許文献、科学文献またはChemical Abstracts、またはインターネットで入手可能な任意の方法および手順に従って調製することができる。
【0038】
一実施形態によれば、スルフヒドロ化することが可能な少なくとも1つの二重結合を含む前駆体メチルエステルは、当業者に知られている従来の方法に従って、例えば、EP−B−0658183に記載される方法に従って、グリセリド(モノグリセリド、ジグリセリドまたはトリグリセリド、好ましくは、トリグリセリド)とメタノールのエステル交換によって得ることができる。使用可能な不飽和グリセリドは、動物または植物に本質的に由来し、好ましくは、植物、油または脂肪に由来し、この中で、非限定的な表示として、大豆油、ヒマワリ油、亜麻仁油、菜種油、ヒマシ油、ヤシ油、パーム核油、ココナツ油、ジャトロファ油、綿実油、ピーナッツ油、オリーブ油、Vernonia油、Cuphea油、Hevea油、Honesty油、紅花油、アマナズナ油、Calophyllum inophyllum油、Pongamia pinnata油、獣脂、料理用油または脂肪から作られるものが述べられるが、油圧作動油または潤滑油であってもよい。
【0039】
別の実施形態によれば、式(1)の化合物の前駆体メチルエステルは、例えば、すでに定義したように、他のメチルエステルから、またはグリセリドから(後者は、その後、メタノールを用いたエステル交換工程を行う)のクロスメタセシスによって得ることもできる。このメタセシス反応は、当業者によく知られており、例えば、国際出願WO2009/047444に記載されているように、それぞれ少なくとも1つの二重結合を有する2つの化合物間の分子間反応に最も共通的に必要とされる。
【0040】
特に、R、またはRおよびRが、アルコキシカルボニル基で置換された炭化水素系の基を表す式(1)の化合物(それぞれ、ジエステルおよびトリエステル)は、有利には、当業者に知られているメタセシス技術に従って、不飽和モノエステルからのメタセシスによって得ることができる。ジエステルおよびトリエステルを製造するためにメタセシス反応で使用可能な不飽和メチルエステルの例としては、単独で、または2つ以上の任意の比率の混合物としてのオレイン酸メチル、パルミトオレイン酸メチルおよびアラキドン酸メチルを挙げられる。この実施形態によれば、9−オクタデセン−1,18−二酸ジメチルは、例えば、オレイン酸メチルおよび/またはパルミトオレイン酸メチルのメタセシスによって簡単に得ることができる。
【0041】
従って、式(1)のメチルエステル源は、非常に多く、多様であり、スルフヒドロ化することが可能な不飽和部を有するメチルエステルの非限定的なものとしてあげられる例としては、例示的および非限定的な様式で、ヘキセン酸メチル、デセン酸メチル、ウンデセン酸メチル、ドデセン酸メチル、オレイン酸メチル、リノール酸メチル、ミリストオレイン酸メチル、パルミトオレイン酸メチル、リノール酸メチル、リノレン酸メチル、アラキドン酸メチル、リシノール酸メチルおよび9−オクタデセン−1,18−二酸ジメチル、さらに、これら2つ以上の任意の比率の混合物が挙げられる。
【0042】
好ましくは、不飽和メチルエステルは、デセン酸メチルおよびウンデセン酸メチルから、さらに好ましくは、デセン−9−酸メチルおよびウンデセン−10−酸メチルから選択される。
【0043】
変形例として、式(1)の化合物の前駆体メチルエステルは、対応する酸から得ることもでき、当業者によく知られている従来のエステル化技術に従って、メタノールを用いたエステル化反応を行う。
【0044】
メチルエステル前駆体酸の例として、非限定的な表示としては、非限定的な様式で、ヘキセン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、オレイン酸、リノール酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、上述のようにメタセシスによる従来の合成方法に従うクロスメタセシスによって得ることができる二酸および三酸、例えば、9−オクタデセン−1,18−二酸が挙げられる。好ましくは、前記酸は、デセン酸およびウンデセン酸、およびこれら2つ以上の任意の比率の混合物から、さらに好ましくは、デセン−9−酸およびウンデセン−10−酸から選択される。
【0045】
式(1)の化合物の中で、Rが、1個から20個の炭素原子を含み、1つ以上のアルコキシカルボニル基で置換された、直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の基を表し、アルコキシが、1個から10個の炭素原子を含み、Rが水素を表すもの、および一方、RおよびRが、同じであっても、または異なっていてもよく、それぞれ、1個から20個の炭素原子を含み、1つ以上のアルコキシカルボニル基で置換された、直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の基を表し、アルコキシが1個から10個の炭素原子を含むものが、好ましい。
【0046】
従って、別の態様によれば、本発明は、以下の式(1’)の化合物に関し、
【0047】
【化3】
式中、
−R’は、直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の基を表し、該炭化水素系の基は1個から20個の炭素原子を含み、かつ1つ以上のアルコキシカルボニル基で置換されており、アルコキシは、1個から10個の炭素原子を含み;
−R’は、水素原子および直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の基から選択され、該炭化水素系基は1個から20個の炭素原子を含み、かつ1つ以上のアルコキシカルボニル基で置換されており、アルコキシは、1個から10個の炭素原子を含み;
−Aは、境界値を含めて2個から30個の炭素原子を含み、かつ酸素、硫黄および窒素から選択される1個以上のヘテロ原子によって任意選択的に割り込まれている、直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の二価の鎖を表す。
【0048】
式(1’)の化合物は、式(1)の化合物の部分集合を形成し、式(1’)の化合物はすべて一般式(1)に含まれる。R’が、直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の基を表し、該炭化水素系の基が1個から20個の炭素原子を含み、かつメトキシカルボニル基で置換された基を表し、R’が水素原子を表し、Aがすでに定義した通りである式(1’)の化合物が好ましい。
【0049】
式(1’)の不飽和メルカプトジエステルの一例は、9−メルカプトオクタデシル−1,18−二酸ジメチルによって表される。
【0050】
本発明によれば、式(1)のメルカプト−エステルは、ポリマー合成の分野において、連鎖移動剤として完全に有益な用途を有する。
【0051】
従って、本発明は、式(1)の少なくとも1つのメルカプト−エステルを連鎖移動剤として用いる少なくとも1つのモノマーの水中エマルションの作成を含む乳化(共)重合方法にも関する。
【0052】
さらに具体的には、本発明は、少なくとも以下の工程:
(a)水性媒体中、ビニル不飽和部を含む少なくとも1つのモノマーのエマルションを作成する工程、
(b)前記エマルションに、すでに上に定義した式(1)の少なくとも1つの連鎖移動剤を加える工程、
(c)場合により(共)重合開始剤存在下、(共)重合反応を行う工程、
(d)場合により、望ましい(コ)ポリマーを精製し、回収する工程
を含む、乳化(共)重合方法に関する。
【0053】
本発明の(共)重合方法において、式(1)の連鎖移動剤の量は、エマルションの合計重量に対し、一般的に、0.01重量%から5重量%、好ましくは、0.03重量%から3重量%である。
【0054】
モノマーの量に関し、最も一般的には、エマルションの合計重量に対し、10重量%から60重量%、好ましくは、20重量%から50重量%である。
【0055】
本発明の(共)重合方法で使用可能なモノマーは、遊離ラジカル乳化重合反応に一般的に通常用いられるモノマーであり、有利には、ビニル不飽和部を有するものとして言及されるモノマー、さらに具体的には、最も一般的なもののみを挙げると、ビニルモノマー、共役ジエンモノマー、アクリルモノマー、メタクリルモノマー、さらに、これら2つ以上の任意の比率の混合物である。
【0056】
本発明の方法の一実施形態において、モノマーの非限定的な例は、アクリル酸、アクリル酸アルキル、メタクリル酸、メタクリル酸アルキル、共役ジエン、スチレンおよびスチレン誘導体、アクリルアミド、アクリロニトリル、およびこれら2つ以上の任意の比率の混合物である。
【0057】
ある好ましい実施形態によれば、モノマーは、以下のものから選択される。
【0058】
・アクリル酸、
・アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸iso−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸iso−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸n−ペンチル、アクリル酸neo−ペンチル、アクリル酸iso−アミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸iso−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸iso−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸iso−デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリルおよびアクリル酸iso−ボルニルおよびこれらの混合物、
・メタクリル酸、
・メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸iso−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸iso−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸n−ペンチル、メタクリル酸neo−ペンチル、メタクリル酸iso−アミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸iso−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸iso−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸iso−デシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸アセトキシエチル、メタクリル酸アセトキシプロピル、メタクリル酸tert−ブチルアミノエチル、メタクリル酸2−(3−オキサゾリジニル)エチル、メタクリル酸iso−ボルニルなど、およびこれらの混合物、
・アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリルアミドおよびメタクリルアミドおよびこれらの混合物、
・アセト酢酸アリル、エチレン、プロピレン、スチレンおよび置換スチレン、ブタジエン、酢酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ブタン酸ビニルおよび他のビニルエステル、ハロゲン化ビニルモノマー、例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデンなど、およびこれらの混合物。
【0059】
上に列挙したモノマー化合物は、もちろん、単独で、または混合物として使用することができ、例えば、これら2つ以上の任意の比率の混合物として使用することができる。2つ以上のモノマーを本発明の方法に使用する場合、これによりコポリマーが得られ、単一のモノマーを本発明の方法に使用する場合、これによりホモポリマーが得られる。コポリマーおよびホモポリマーは、本発明の記載において、(コ)ポリマーという包括的な用語に一緒にまとめられる。
【0060】
コポリマーは、条件が当業者によく知られている共重合方法の操作条件に依存して、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーまたは交互コポリマーの形態で得ることができる。
【0061】
(共)重合反応媒体は、少なくとも1つの界面活性剤および/または少なくとも1つの重合開始剤および/または少なくとも1つの連鎖停止剤も含んでいてもよい。
【0062】
本発明の一実施形態において、使用される界面活性剤は、アニオン系界面活性剤および/または非イオン系界面活性剤、例えば、アルキル、アリールまたはアルキルアリールのアルカリ金属のサルフェート、スルホネートまたはホスフェート、または対応するアンモニウム塩から選択されてもよい。界面活性剤、例えば、アルキルスルホン酸、スルホコハク酸塩、脂肪酸塩、エトキシル化アルコール、両親媒性コポリマー、さらに、これら2つ以上の任意の比率の混合物も使用することができる。
【0063】
概して、界面活性剤の量は、エマルション中のモノマー濃度、モノマーの性質に依存して変わり、最も一般的には、エマルションの合計重量に対し、0.05重量%から10重量%である。
【0064】
本発明のモノマーの乳化(共)重合は、当業者に知られている任意の種類(一般的に酸化型)の遊離ラジカル開始剤、例えば、非限定的な様式で、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、tert−ブチルヒドロペルオキシドおよびtert−アルキルヒドロペルオキシド、一般的に、tert−アルキルペルオキシド、tert−アルキル過酸エステル、クメンヒドロペルオキシド、アンモニウムまたはアルカリ金属の過硫酸塩、アルカリ金属の過ホウ酸塩(例えば、過ホウ酸ナトリウム)、過リン酸およびこの関連する塩、過マンガン酸カリウム、ペルオキシ二流酸のアンモニウム塩またはアルカリ金属塩、さらに、これら2以上の混合物によって開始させることができる。
【0065】
酸化−還元による反応を開始させるために、上に列挙したものから選択される少なくとも1つの酸化剤を、還元剤、例えば、アスコルビン酸、iso−アスコルビン酸、ホルムアルデヒドスルホン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、硫化ナトリウム、硫化水素ナトリウムまたはジチオ硫酸ナトリウム、ホルマジジンスルホン酸、ヒドロキシメタンスルホン酸、ナトリウム 2−ヒドロキシ−2−スルフィナトアセテート、アセトン−重亜硫酸ナトリウム、エタノールアミン、グリコール酸、乳酸、グリセリン酸、リンゴ酸および酒石酸、さらに、これら2つ以上の混合物と組み合わせて使用してもよい。
【0066】
酸化−還元反応自体が、金属塩、例えば、鉄、銅、マンガン、銀、白金、バナジウム、ニッケル、クロム、パラジウムまたはコバルトの塩によって触媒されてもよい。これらの触媒を、エマルションの合計重量に対し、重量で0.01ppmから25ppmの含有量になるように加えてもよい。
【0067】
(共)重合開始剤の量は、一般的に、エマルションの合計重量に対し、0.001重量%から1重量%である。
【0068】
乳化相は、一般的に、水または水/有機溶媒混合物であり、この量は、エマルションの合計重量に対し、100重量%に達するのに十分な(qs)量である。
【0069】
この方法の一実施形態において、モノマーのエマルションは、エマルションの合計重量に対し、0.1重量%から1重量%の式(1)の少なくとも1つの化合物と、20重量%から60重量%のすでに定義した少なくとも1つのビニル不飽和部を含むモノマーと、0.1重量%から5重量%の少なくとも1つの界面活性剤と、0.005重量%から1重量%の少なくとも1つの重合開始剤と、100重量%に達するのに十分な量の水とを含む。
【0070】
本発明の方法の一実施形態によれば、式(1)の化合物は、反応開始時に、またはこの方法中に数回に分けて、連続的に、またはバッチ式で、あるいはこの方法全体で連続的に、またはこの方法の一部で連続的に、加えてもよい。
【0071】
本願発明者らは、驚くべきことに、遊離ラジカル(共)重合反応が、式(1)の少なくとも1つの移動剤、即ち、少なくとも1つのメルカプト−メチルエステル存在下で行われる場合、モル質量および多分散性という観点でもっとよく制御されることを見い出し、ここでメルカプタン置換基は、三級、二級または一級、好ましくは、二級または一級、さらに好ましくは、一級である。
【0072】
本発明のエマルションは、モノマーエマルション分野の当業者によく知られている通常の技術に従って調製することができる。本発明の乳化方法は、エマルション分野で一般的に使用される技術に従って、バッチ式で、または連続的に、反応開始時にモノマーを1回添加、または時間をかけてモノマーを1回以上連続的またはバッチ式で添加して行うことができる。
【0073】
同様に、重合開始剤をこの方法の開始時に一度にまとめて、この方法中に数回に分けて、またはこの方法全体で連続的に加えてもよい。
【0074】
遊離ラジカル(共)重合反応の開始段階は、熱的、光化学的、電気化学的に、または酸化−還元反応によって、またはこの種の反応に特定的な当業者に知られている任意の方法によって行うことができる。
【0075】
重合を熱的に開始する反応は、優先的には、50℃から100℃の温度で行われる。
【0076】
本発明の(共)重合反応は、エマルション中に存在するモノマーの性質および量/濃度に従って当業者が調節可能な任意の温度および任意の圧力で行われてもよい。有利には、本発明の(共)重合方法は、大気圧、0℃から100℃、好ましくは、10℃から90℃の温度で行われる。
【0077】
以下の非限定的な例によって、本発明を説明し、もっと明確に理解することができる。
【実施例】
【0078】
[実施例1]:10−メルカプトデカン酸メチルの調製
9−デセン酸(100g;0.588mol)を、237g(300ml;7.406mol)のメタノールに加え、10gの濡れたAmberlyst(R)15カチオン交換樹脂存在下、攪拌しつつ、混合物を環流させる。この装置は、モレキュラーシーブ(30g)を入れたSoxhlet装置を通過させることによって、メタノールを連続的に乾燥させる。24時間環流し、減圧下で溶媒を除去した後、酸からエステルへの転化度は、99%に近い。
【0079】
得られる9−デセン酸メチル(156g)を、100gのペンタンおよび60モル当量の液化硫化水素(圧力17.5bar、20℃で凝集させた1806g)が入った反応ループを備える光化学反応器に入れる。
【0080】
混合物を反応ループ内で再循環させ(60l/h)、この中で、温度38℃、圧力23barで3時間UV照射する(波長:254nm、出力:12ワット)。
【0081】
次いで、媒体の減圧によって過剰な硫化水素を熱酸化器に流し、次いで、窒素を用いてストリッピングする。次いで、溶媒および生成したスルフィドを除去するために、混合物を蒸留する(T:130℃、圧力:5mbar)。
【0082】
得られるメルカプタンは、98.5%より大きな純度を有する(クロマトグラフィーによって測定)。得られる一級メルカプタンの量は、97.7%であり、得られる二級メルカプタンの量は、2.3%であり、これらの割合は、得られるメルカプタンの合計重量に対する、重量基準である。
【0083】
[実施例2]:11−メルカプトウンデカン酸メチルの調製
11−メルカプトウンデカン酸メチルは、上の実施例1に記載したのと同様の手順に従って、10−ウンデセン酸メチルを用いて調製される。
【0084】
[実施例3から8]:乳化重合
40gのアクリル酸ブチル(Aldrich)、40gのメタクリル酸メチル(Arkema)、0.04gの過硫酸カリウム(Aldrich)、2.4gのDowfax2A1界面活性剤(Dow)、0.04gの炭酸水素ナトリウム(バッファー、Aldrich)、332gの脱塩水および0.4gの本発明の連鎖移動剤を、攪拌モータおよび環流コンデンサを取り付けた、冷凍ジャケット付き反応器に加える。
【0085】
モノマーエマルションを70℃から75℃の温度で5時間加熱する。
【0086】
固体含有量が20重量%に達したら重合反応を止める。固体含有量は、Mettler熱天秤を用い、105℃の温度で測定される。
【0087】
サイズ排除クロマトグラフィーによるポリマーの分析は、屈折率検出器を用い、MIXED Aゲル透過カラム(Plgel)(30cm)の設定で、テトラヒドロフラン(THF)中、40℃、流速1ml/分で0.3g/lを用いて行われる。このカラムは、ポリ(メタクリル酸メチル)標準を用いて較正される。
【0088】
サイズ排除クロマトグラフィーによるこの分析によって、重量平均分子量(Mw)、さらに数平均分子量(Mn)を決定することができる。多分散指数は、Mw/Mn比を計算することによって得られる。結果を以下の表1に与える。
【0089】
【表1】
上の実施例3から8は、使用する移動剤を除き、同じ操作条件を用いたアクリル酸ブチル/メタクリル酸メチルコポリマーの調製例である。
【0090】
実施例3および4の共重合は、本発明の連鎖移動剤を用いて行われる。実施例5および6(比較例)において、連鎖移動剤は、それぞれ、直鎖および分枝鎖のメルカプタンであり、Arkemaから入手可能である。実施例7(比較例)において、連鎖移動剤は、エタノールを用いたエステル化反応を受ける10−デカン酸から本発明の連鎖移動剤を調製するために使用されるのと同様の手順に従って調製された。最後に、実施例8(比較例)において、使用される移動剤は、Aldrichから入手可能なメルカプト酸である。
【0091】
上の表1の結果は、本発明の連鎖移動剤が、(コ)ポリマーのエマルション調製に特に適していることを示す。実際に、得られた(コ)ポリマーは、従来技術で従来から用いられる連鎖移動剤を用いて得られるコポリマーと完全に同じ大きさ(Mw)またはこれより小さな粒径を有するだけではなく、特に、メルカプト−エチルエステル型の連鎖移動剤を用いて得られるものより非常に小さく、顕著に小さい多分散指数を有し、そうでなければ、構造的に近い。
【0092】
従って、本発明の連鎖移動剤の使用によって、分子量および多分散性の観点で、従来技術の観点からまったく予想されない特性を有する(コ)ポリマーを調製することができる。これにより、多分散指数が小さなポリマーを必要とする特定の用途において、例えば、一般的に、塗料およびコーティングの分野、接着剤、紙コーティング、潤滑添加剤などの分野において、これらの(コ)ポリマーの使用を想定することができる。
【手続補正書】
【提出日】2017年11月24日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊離ラジカル乳化重合方法における連鎖移動剤としての、式(1)
【化1】
〔式中、
−RおよびRは、同じであっても、または異なっていてもよく、互いに独立して、水素原子および直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の基から選択され、該炭化水素系の基は1個から20個の炭素原子を含み、かつカルボキシ、アルキルカルボニルおよびアルコキシカルボニル(アルキルおよびアルコキシは、1個から10個の炭素原子を含む。)から選択される1つ以上の基で任意選択的に置換されており;
−Aは、境界値を含めて2個から30個の炭素原子を含み、酸素、硫黄および窒素から選択される1個以上のヘテロ原子によって任意選択的に割り込まれている、直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の二価の鎖を表す。〕
の、少なくとも1つのカルボン酸のメルカプト−メチルエステルの使用、ただし、メルカプトウンデカン酸メチルおよびメルカプトデカン酸メチルは、前記式(1)のメルカプト−メチルエステルから除く
【請求項2】
およびRが、それぞれ水素原子を表す請求項1に記載の、化合物の使用。
【請求項3】
Aが、−(CH−鎖、または−(CHn1−C=C−(CHn2−鎖であり、nは、境界値を含めて2個から30個の炭素原子の整数を表し、n+nは、n−2に等しい、請求項1または請求項2に記載の、化合物の使用。
【請求項4】
Aが、6個から18個の炭素原子を含む直鎖炭化水素系の二価の基である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
式(1’):
【化2】
〔式中、
−R’は、直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の基であって、該炭化水素系の基は1個から20個の炭素原子を含み、かつ1つ以上のアルコキシカルボニル基で置換されており、アルコキシは1個から10個の炭素原子を含み;
−R’は、水素原子および直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の基から選択され、該炭化水素系基は1個から20個の炭素原子を含み、かつ1つ以上のアルコキシカルボニル基で置換されており、アルコキシは1個から10個の炭素原子を含み;
−Aは、境界値を含めて2個から30個の炭素原子を含み、かつ酸素、硫黄および窒素から選択される1個以上のヘテロ原子によって任意選択的に割り込まれている、直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の二価の鎖を表す。〕
の化合物。
【請求項6】
R’、直鎖、分枝鎖または環状の飽和または不飽和の炭化水素系の基であって、該炭化水素系の基は1個から20個の炭素原子を含み、かつメトキシカルボニル基で置換された基を表し、R’は水素原子を表し、ならびにAは請求項5に定義される通りである請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
9−メルカプトオクタデシル−1,18−二酸ジメチルである請求項5または請求項6に記載の化合物。
【外国語明細書】
2018076490000001.pdf